SSブログ

今村夏子「ピクニック」 [小説]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
こちらあみこ.jpg
天才今村夏子さんの処女作品集で、
「こちらあみ子」、「ピクニック」の2つの中編が収められていて、
文庫版にはもう1編ショートショートと言っても良いくらいの、
「チズさん」という短編がおまけについています。

今村さんはこの作品集を出して絶賛された後、
しばらく作品を書かず、
その後再び書いた作品ですぐに芥川賞候補になり、
寡作ながら殆ど全ての作品が文学賞を受賞、
という天才としか言いようのない華々しい経歴の作家です。

「こちらあみ子」と「ピクニック」は、
一途な女性を描いたという点では表裏一体という感じがありますが、
そのタッチはかなり異なっていて、
同じテーマのA面とB面のような感じがあり、
好みは結構別れるのではないかと思います。

僕は両方好きですし、
両方とも傑作だと思いますが、
より技巧的でドライな感じが強い「ピクニック」の方が、
初読から強い印象を受けましたし、
偏愛の対象になっています。

「こちらあみ子」は、
ちょっと西加奈子さんの「さくら」辺りに、
似ている感じがありますよね。
アーヴィング系列の途方もない悲劇が、
いつしか神話的色彩を放ち、ユーモアの輝きを持つ、
というようなお話ですが、
トランシーバーで交信する辺りは、
西加奈子さん過ぎるような気もします。

「ピクニック」は素材としてはよりありがちな感じで、
たとえば星新一さんも、
昔同じようなお話を複数残していますよね。
ただ、星さんが書くと、
ラストには必ずオチが付くので、
作品としての印象はかなり変わってしまうんですね。

今村さんのこの作品は、
オチも何もないのに、
最後に「ピクニック」になってしまう、
という意表を付いたラストが絶妙で、
あのピクニックには、
ちょっと別役実さんの「壊れた風景」を思い浮かべました。

これ、語り口が凄いんですね。
主人公は七瀬さんという孤独な女性なのですが、
それを同じ職場の「ルミたち」という、
数人以上の同僚の集団の視点から描いているんですね。

英語圏の技巧的な小説には、
3人称でこうしたパターンのものが結構あるんですね。
「世間の目」からある人物を描写する、というような方式で、
読者は何となく読んでいるうちに、
その主人公の目線で考えるようになるのですが、
そこが作者の付け目で、
主人公の意外な正体が、
最後に露わになったりするのです。

ただ、こういう技巧は日本語にはあまり向かないので、
あまり日本語の小説で、
こうした技巧を使ったものはなかったんですね。
しかもそれをかなり意識的にやっていて、
途中で「新人」という「ルミたち」に批判的な同僚が出て来るのですが、
ラストになると「仲間のひとり」という表現に、
いつの間にか変わっているのです。

今村さんの「星の子」が映画化されて、
酷い出来だったんですね。
それが同じようなスタッフで、
今度は「こちらあみ子」を映画化するという報道がありました。

絶対面白い映画にはならないので、
止めて欲しいな、と思いますね。
アニメなら場合によりありかと思いますが、
実写は駄目ですよね。
他にも幾らでも映画化に向いた作品はあるのに、
よりによって…と少し憂鬱になってしまいました。

「ピクニック」は、
「花束みたいな恋をした」に出て来るんですね。
この小説を読んで何も感じないような人間は自分達と分かり合えない、
というようなニュアンスの台詞を菅田さんが言うのですが、
これもちょっとどうなのかしら、と思いました。

映画はとても良かったんですよ。
良かったんですけど、
菅田将暉さんにそんなことを言われるとちょっと、
という感じがあるのですね。

あの映画は勿論、
菅田さんと有村さんが、
あまり恵まれているとは言えない若者を演じているのですが、
観客としては、
それは分かっていながらも、
やっぱり、売れっ子の2人のスターの映画として、
観ている部分があるでしょ。
それで「ピクニック」の主人公の絶望的な孤独と、
それを取り巻く「世間の目」の残酷な優しさを、
「分かる」と言われるのは、
どうしても違和感があるのですね。
そういう作り手の趣味を出し過ぎているところが、
あの映画のちょっと鼻につくところです。

人生も仕事も微妙なところに来ていて、
もうこれから何が出来るのかしら、
これから何を読んで何を見るのかしら、
とかと思うとしんどい気分になる今日この頃ですが、
なるべく1日1日を大切にしつつ、
後悔なく過ごしたいとは思っています。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごしください。

石原がお送りしました。
nice!(2)  コメント(0) 

極私的新型コロナウイルス感染症の現在(2022年1月8日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

2021年9月下旬以降、
クリニックでのRT-PCR検査で陽性の事例は、
長くありませんでしたが、
2022年1月5日の今年の仕事始め(発熱外来は除く)に1例陽性となり、
1月6日も1例が陽性となって、
濃厚接触者などの検査依頼も急増しています。

まあ本格的な流行に入ったことは間違いがありません。

陽性者の2名は、
いずれも2回ワクチン接種は済ませていて、
2回目接種後3か月程度の時期での、
いわゆるブレイクスルー感染です。
オミクロン株の検査はしていますが、
まだ結果は届いていません。
いずれも年末年始で国内での移動と、
飲み会などでの飲食歴があり、
その経緯の中で感染したことが強く疑われます。
潜伏期は3から5日程度と思われます。
熱はあっても微熱程度。
咽頭痛、咳、鼻水が少しというくらいの症状です。

その一方で高熱で受診された方が、
2日で10人程度いて、
検査はインフルエンザ、COVID-19、
いずれも陰性でした。
インフルエンザは抗原のみですが、
COVID-19は抗原とRT-PCRを適宜組み合わせて実施しています。

つまり、重症感があったり、
以前であれば積極的に新型コロナを疑ったような事例が、
今はそうではないということになっています。

これが変異株の特徴であるのか、
ワクチン接種を2回済ませているための軽症化であるのか、
現時点では判断は難しいと思います。

1月6日の検査で陽性となった事例は、
5日に近隣の呼吸器内科を受診して、
「ただの風邪でコロナではないので検査はしません」
と言われ、メジコンのような咳止めなどが処方されていました。
勿論当院でも見落としはあると思います。
他院を貶めるつもりで書いているのではなく、
そのくらい分からないので決めつけは出来ない、
ということを記録しておきたいのです。
近隣の他の耳鼻科は、
「風邪の人は一切診ません」という方針で、
普段かかっている患者さんでも、
風邪症状が少しでもあれば受け付けず、
耳鼻科の薬を出してください、
というご要望の方も増えています。

現状は「ただの風邪」とこれまで想定されていた患者さんが、
実はコロナで、
高熱などで発症した患者さんの方が、
そうではないことが多いという、
ねじれ現象になっています。

昨年末から経口薬のラゲブリオの処方が可能となり、
クリニックでも処方の登録をしてウェブの説明会も済ませました。
東京都からウェブを活用した経過観察の登録のお願いがあり、
それにも登録を済ませました。
ただ、軽症者を内服にて迅速に処方するという方針になると、
迅速な診断が不可欠になりますが、
RT-PCR検査の結果は大手ほど初動が遅いので、
軽症の事例が多く潜伏期も以前より短いとすると、
現実的に感染拡大を抑止するような対策は、
困難というか何か抜本的に迅速化を図るような方策がないと、
不可能に近いように思われます。

いずれは「普通の風邪」になることが、
見えつつあるような気はするのですが、
現時点でそうした対応は取れないし、
取ることは適切ではないと思うので、
むしろ対応はより厄介になったようにも思います。

そんなこんなで今後はまだバタバタになることが想定されますが、
なるべくアンテナは高く保ちつつ、
日々出来ることを続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

両側卵管卵巣摘出術後の生命予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
両側子宮卵巣摘出術の生命予後.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年12月8日ウェブ掲載された、
以前は良性疾患で施行されることの多かった、
両側の卵巣と卵管を摘出する手術が、
その予後に与える影響についての論文です。

「子宮筋腫で子宮と卵巣を一緒に取りました」
という話は中高年の女性の方からは、
以前は良く聞く話でした。

以前は卵巣がその後癌化するリスクを重視して、
子宮を摘出する際には、
両側の卵巣と卵管を切除することが、
比較的スタンダードな方法であったのです。

ただ、卵巣癌リスクが切除により低下することは事実ですが、
45もしくは50歳未満での両側卵管卵巣切除は、
その後の総死亡のリスクを増加させるという観察研究の知見が、
複数報告されてから、
卵巣は極力保存することが一般的になっていったのです。

今回の研究はカナダのオンタリオ州において、
良性疾患で子宮の切除を行なった、
30から70歳の200549名の女性を中間値で12年観察し、
その手術時の年齢と卵巣卵管切除の有無、
そしてその予後を比較検証しています。

その結果、
子宮摘除術を施行した女性のうち、
手術時45歳未満の19%、45から49歳の41%、
50から54歳の69%、55歳以上の81%が、
両側の卵巣卵管摘出術を施行されていました。
両側の卵巣卵管摘出術は、卵巣を温存した場合と比較して、
45歳未満では総死亡のリスクが1.31倍(95%CI:1.18から1.45)、
45から49歳では1.16倍(95%CI:1.04から1.30)それぞれ有意に増加していました。
一方で50歳以上の年齢層では、
有意なその後の死亡リスクの増加は認められませんでした。
この死亡リスク増加の主体は、
癌以外によるものでした。

このように、
閉経前の年齢における良性疾患の子宮摘出時の、
両側卵巣卵管摘出術は、
その後の総死亡のリスクに繋がる可能性が高く、
卵巣温存を積極的に考えるべきであると考えられました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

オミクロン株流行の臨床的特徴(南アフリカの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オミクロン株の傾向.jpg
JAMA誌に2021年12月30日ウェブ掲載された、
今日本でも急増している、
新型コロナのオミクロン株の臨床的傾向についての、
南アフリカからの報告です。

これはレターなので、
通常の論文より速報性の高いものですが、
それでも手続きや検証を経ての発表なので、
一般の報道と比べるとどうしても後手に廻る感じは否めません。
内容もまっとうなものではあるのですが、
やや今更感のあるのは仕方のないところです。

オミクロン株(B1.1.529)は、
2021年11月24日に南アフリカにおいて同定され、
その第4波と呼ばれる流行は2021年11月中旬から始まって、
12月に入ると新型コロナウイルス感染の95%は、
オミクロン株によるものと推測されています。

今回の検証はそれ以前の1から3波の流行(3波の主体はデルタ株)と、
第4波の流行(解析は2021年11月15日から12月7日)の違いを比較したものです。

第4波の調査期間における入院数は2351名で、
そのうち救急病棟への入室は41.3%でした。
これはそれまでの3つの流行時期には68から69%であったことと比較すると、
明らかに重症の比率は低下しています。
ただ、救急病棟への入院の基準は、
流行の時期によっても違いがあるので、
必ずしもオミクロン株で重症患者が少ないとは、
この数字だけでは言い切れません。

オミクロン株の流行期に入院した患者は、
年齢は中央値で36歳と若く、
女性の比率がそれ以前より高くなっていました。
基礎疾患のある患者の比率は、
第3波までは50%を超えていましたが、
オミクロン株の流行期では23.3%という低率になっていて、
第3波のまでの時期には、
呼吸不全などの急性呼吸器症状を呈して入院する患者が、
70から90%という高率で認められていましたが、
オミクロン株の流行期には、
これも31.6%に留まっていました。
入院患者の死亡率は、
デルタ株流行の第3波では29.1%という高率でしたが、
これもオミクロン株流行期には2.7%に低下していました。

ワクチン接種と入院患者との関連をみると、
オミクロン株流行期の入院患者のうち、
ワクチン未接種者は全体の66.4%を占めていました。

このように、オミクロン株の流行が、
その前のデルタ株の流行と比較して、
遙かに軽症事例が多く基礎疾患のある事例も少ないことは、
間違いのない事実です。
ただ、それがオミクロン株自身の性質によるものなのか、
ワクチン接種やこれまでの複数回の流行によって、
対する人間の側の免疫の状態の変化によるものなのか、
と言う点については、
現状はまだ結論が出ていない事項であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(2)  コメント(0) 

新型コロナワクチン接種と腋窩リンパ節腫脹 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは通常通りの診療に戻ります。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わりますが、
午後は往診したり、新型コロナの経口剤のウェブ説明会を受けたり、
レセプトをやったりのバタバタ状態の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
RNAワクチンとリンパ節腫脹.jpg
JAMA誌に2021年12月23日ウェブ掲載された、
一種の臨床クイズですが、
新型コロナワクチン接種後の、
リンパ節腫脹についての解説です。

臨床に直結した興味深い内容なのでご紹介したいと思います。

まず事例の紹介です。

事例は39歳の女性で、
妊娠38週の時に右の乳房にしこりが見付かり、
出産後の生検を含む諸検査で、
ステージ0の非浸潤性乳管癌(DCIS)と診断されました。

その時点でリンパ節を含む転移の兆候はなく、
触診では右の腋窩のリンパ節も触れませんでした。

治療方針決定のためのMRI検査の前日、
女性はファイザー・ビオンテック社の新型コロナワクチンの、
2回目の接種を右の肩に施行しました。

すると、その翌日のMRI検査において、
右腋窩のリンパ節2カ所に不整な腫脹が認められました。

MRI上は乳癌のリンパ節転移を強く疑わせる所見です。

さて、これをどう判断するべきなのでしょうか?

次に取るべき対応はいずれが正しいのか?
というのが設問で、
その答えの選択肢は、
A: ワクチン接種後4から6週後にMRIを再検する。
B: ワクチン接種後4から6週後に超音波検査で再検する。
C: 乳房の腫瘍切除の際にセンチネルリンパ節の生検を施行する。
D: リンパ節の超音波検査を直ちに施行し、同時に生検を考慮する。
の4つです。

これは診断としては、
最も疑われるのはワクチン接種の副反応としてのリンパ節炎なのですね。

他のウイルスなどに対するワクチンや、
新型コロナワクチンの他の製法によるものと比較して、
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社による、
2種類のmRNAワクチンでは、
接種部位同側の腋窩などのリンパ節炎が、
副反応として非常に多いことが報告されています。

これは他の種類のワクチンと比較して、
周辺リンパ節への抗原刺激が強く、
より迅速かつ強いBリンパ球の増殖が、
リンパ節において認められるためと説明されています。

モデルナ社ワクチンでは、
これまでの報告で1回目接種後で11.6%、
2回目接種後で16%の事例において、
接種部位同側の腋窩リンパ節の腫脹もしくは疼痛が認められ、
症状出現までの期間の中間値は、
1回目接種後1日、2回目接種後2日とされています。

ファイザー・ビオンテック社製ワクチンでは、
同様の症状は接種事例の0.3%に報告されていて、
症状の持続期間の平均は約10日とされています。

しかし、モデルナ社ワクチン接種後に、
PET検査をして腋窩リンパ節のブドウ糖の取り込みを見た、
癌の女性を対象とした研究では、
ワクチン接種後32日経過後にも、
取り込みの増加が認められたと報告されています。

こうした知見からは、
癌の転移診断目的でMRI検査などを施行する時には、
新型コロナmRNAワクチン接種前もしくは、
接種後4から6週後に施行することが推奨されます。

それでは、この設問の答えがAかBであるかと言うと、
非浸潤性乳癌においても転移が生じる可能性は皆無ではなく、
術前の診断がそうであっても、
術後の診断は浸潤癌であったというケースが、
25%未満で報告されていることより、
それだけの期間を待つのは賢明とは言えません。
現時点で臨床診断が非浸潤性乳癌とすれば、
センチネルリンパ節の生検を術中に行なうことが、
腋窩リンパ節の良性悪性の同定に、
必須とも言えません。

つまり、正解はDで、
なるべく速やかに超音波検査を再検して、
必要があれば生検を行なうという判断になります。

この事例の実際の経過では、
MRI検査の8日後に超音波検査を施行し、
リンパ節腫脹は縮小していたことから生検はせず経過観察。
手術所見も非浸潤性乳癌で、
転移の兆候は認められませんでした。

事後的には今回のケースの一番の問題は、
腫瘍と同側にワクチン接種を施行したことで、
癌やそれを疑うような病変がある場合には、
必ず反対側で接種を行ない、
その時期は接種前か接種後4週間から6週間以上経過後を、
可能であれば選択することが良いようです。
ワクチン接種前に超音波だけでも施行しておけば、
リンパ節腫大がワクチン由来かどうかも推測には役立ちます。

皆さんもご注意下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

「ラストナイト・イン・ソーホー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日までクリニックは年末年始の休診です。
明日からはいつも通りの診療になります。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ラストナイトインソーホー.jpg
イギリスの俊英エドガー・ライト監督による新作で、
霊感のある内気な少女が、
デザイナーを志望してロンドンに行き、
そこで60年代のロンドンに実在した、
サンディという少女の魂と交感するところから、
奇怪な事件に巻き込まれるという物語です。

これ、ストーリーとしては、
その昔、マリオ・ヴァ―ヴァやダリオ・アルジェントが得意とした、
イタリアの残酷スリラー、ジャーロ、みたいな感じなんですね。
オープニングに「サスペリア」に良く似た場面がありますし、
マネキンを不気味に使うのも「モデル連続殺人」とか、
定番の趣向ですよね。

でも、それほどドギつくはないんですね。
ティーンエイジ映画と言っても良い、
ウェルメイドな感じです。
それから、実際に主人公が鏡の中に出没するという形で、
60年代のロンドンと現在とを往還するんですね。
60年代の少女を亡霊という形ではなくて、
実際に出現させることで、
ドラマに時間テーマ的な要素を付加して、
動きを持たせているのがクレヴァ―な趣向です。
更にちょっと性の搾取的なテーマも盛り込んで、
物語を現代的にリニューアルしています。
この点やっていることは、
かつてのルシオ・フルチに近いのですが、
あちらの悪趣味上等のドギつい世界と比べれば、
遙かに洗練されてウェルメイドになっています。
勿論完成度も遙かに高くなっています。

基本的にやりたかったのは、
ジャーロの再現と、60年代ロンドンの再現の、
2つであったのだと思うのですが、
内気な主人公の造形も魅力的で、
オープニングから「愛なき世界」の流れる音効も、
抜群に素敵で格好良いのです。
アメリカでもこうした映画はありますが、
映像の雰囲気が如何にもヨーロッパ、というのがいいですね。
イギリス映画である点が肝なのです。
映像も60年代ロンドンの目くるめく感じが最高で、
それに比べると、
死霊の群れなどはちょっとステレオタイプで印象が薄い、
という側面もあります。

オリジナルの台本は抜群の完成度だと思うのですね。
犯人の設定などの骨格も、
如何にもイギリスミステリという感じなのがいいですね。
こういうお話だと、
現実でも殺人事件を起こしたくなるところでしょ。
でもそれを最後のクライマックスまで一切しないんですね。
この我慢の仕方にもセンスを感じます。
ただあまりにお行儀が良すぎるのが個人的にはやや不満で、
これ、ロマン・ポランスキーもデビット・リンチも、
アリ・アスターも好きな世界だと思うのですが、
この3人の変態巨匠(褒めています)でしたら、
スリラーとホラーの部分は、
もっと壮絶な傑作になったと思うのですね。
その点がちょっと不満。
でも、この軽いセンスが、
エドガー・ライト監督の資質だと思うので、
これはこれで良いのだとは思います。

いずれにしても、
僕が最も偏愛する世界が万華鏡のように展開される、
これはもう至福の物語で、
最初から最後まで抜群に楽しい時間を過ごすことが出来ました。
控えめに言って最高です。

皆さんも是非!
必見ですよ。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

「99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はお正月で通常診療は休診ですが、
発熱外来を行う予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
99.9.jpg
TBSで2シーズン放映された人気ドラマの映画版で、
公開前日にテレビでスペシャルドラマが放送され、
そこから直接物語が続く、という構成になっています。

これはちょっと脱力しました。

公開前日に放送されたドラマを観ないと、
物語の前提が分からないという構造になっているからです。
杉咲花さんも西島秀俊さんも、
最初に登場するのはスペシャルドラマの中で、
そこでキャラも説明されているのに、
それをすっ飛ばして映画は始まっていて、
ご丁寧に本編の前にその解説まで付いています。

肝心の中味となる事件自体も、
スペシャルドラマ版の方が凝っていて、
クライマックスも法廷場面なので盛り上がりがありますが、
映画の方は過去の事件の掘り返しで、
それに「説明」を付けているだけなので、
法廷シーンもなく盛り上がるという感じがありません。
小さな村の閉鎖性を扱った事件自体も平凡でした。

おそらく最初からこうするつもりだったのではなく、
何か製作上の都合があったのだと思いますが、
むしろ映画の方がテレビのおまけのような内容で、
やや呆然としてしまいました。

こうしたテレビドラマの映画化は、
フジテレビのものが一番良くて、
歴史もあり手馴れている印象です。
TBSはドラマ自体は悪くないのですが、
その映画版をどう作るのか、と言う点については、
迷走することが多いようです。
今回は松竹とのタッグということで、
よりその欠点が露わになった感じもします。

そんな訳でちょっとガッカリの映画版でしたが、
お正月映画というのは、
昔からこうしたものなのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良いお正月をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

2021年の演劇を振り返る [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

お正月、皆さん如何お過ごしでしょうか?

今日は昨年の演劇を振り返ります。

昨年は以下の公演に足を運びました。

1.マキノノゾミ「原子核クラブ」
2.ラシーヌ「フェードル」(栗山民也演出)
3.福島3部作「1986:メビウスの輪」(KAATでの再演)
4.井上ひさし「藪原検校」(杉原邦生演出版)
5.劇団チョコレートケーキ「帰還不能点」 
6.劇団☆新感線「月影花之丞大逆転」
7. ワーグナー「ワルキューレ」(新国立劇場レパートリー)
8.ストッパード「ほんとうのハウンド警部」(小川絵梨子演出)
9.劇団地蔵中毒「無教訓意味なし演劇vol.14『母さんが夜なべをしてJavaScript組んでくれた』 」
10.赤堀雅秋「白昼夢」
11.「夜鳴きうぐいす」(新国立劇場レパートリー)
12.muro式「がくげいかい」
13.唐組「少女都市からの呼び声」
14.「キス」(飴屋法水×山川冬樹)
15. 「シブヤデアイマショウ」(松尾スズキ演出 大人の歌謡祭)
16.シェイクスピア「終わりよければすべてよし」(彩の国シェイクスピア・シリーズ第37弾)
17.唐組「ビニールの城」
18.シェーファー「ピサロ」(渡辺謙主演再演)
19. 井上ひさし「父と暮らせば」(山崎一版)
20. 北條秀司「王将」(2021年長塚圭史演出版))
21. M&Oplaysプロデュース「DOORS」(倉持裕作・演出)
22. 「フェイクスピア」(NODA・MAP第24回公演)
23. 「外の道」(前川知大新作)
24. タニノクロウ「虹む街」
25. 「首切り王子と愚かな女」(蓬莱竜太新作)
26. 細川徹「3年B組皆川先生~2.5時幻目~」
27. 井上ひさし「母と暮らせば」
28. 三浦大輔「物語なき、この世界。」
29. 三谷幸喜「日本の歴史」(再演)
30. 劇団「地蔵中毒」第13回公演 無教訓意味なし演劇vol.13『宴たけなわ 天高く円越える 孫世代』
31. 「砂の女」(ケラ演出版)
32. ワジディ・ムワワド「森フォレ」(上村聡史演出)
33. 安部公房「友達」(台本演出加藤拓也)
34. 大パルコ人4 マジロックオペラ 「愛が世界を救います(ただし屁が出ます)」
35. 2021年劇団☆新感線41周年興行秋公演 いのうえ歌舞伎「狐晴明九尾狩」
36. 岩松了「いのち知らず」
37. 阿佐ヶ谷スパイダース「老いと建築」
38. ロッシーニ「チェネレントラ」(新国立劇場レパートリー)
39. 藤本有紀「パ・ラパパンパン」(演出松尾スズキ)
40. ナイロン100℃「イモンドの勝負」
41. 城山羊の会「ワクチンの夜」
42. ゴキブリコンビナート第35回公演「肛門からエクトプラズム」

以上の42本です。
今回はオペラも新国立劇場の数本しか聴いていないので、
それも演劇として加えての数字です。
昨年と比較すれば増えているのですが、
年の後半は特に気分が乗らなくて劇場に足を運ぶ回数は減りました。
観落としている作品も多いので、
ベストを選ぶことはせず、
特に素晴らしかった作品を幾つか順不同でご紹介したいと思います。

①ワジディ・ムワワド「森フォレ」(上村聡史演出)
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-07-10-1
レバノン出身の気鋭の劇作家の傑作を、
上村聡史さんと実力派のキャストが、
完成度の高い衝撃的な翻訳劇に仕上げました。
8から9世代に渡る家族の歴史を遡るという、
超絶技巧を駆使しながら、
最後は世代を超えた掛け値なしの感動に着地します。
その中で松尾スズキさんの過去作にあるような、
グロテスクなグランギニョール趣味があるのも面白く、
世界にはこんな戯曲があるのかと、
仰天しつつとてもとても感銘を受けた1本でした。
再演熱望です。

②ピーター・シェーファー「ピサロ」(渡辺謙主演再演)
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-05-22
1964年に初演された古典と言って良い戯曲ですが、
人間を人間たらしめている大切な何かが滅ぶ瞬間を描いた、
悲壮で壮絶な悪魔的傑作です。
その戯曲の素晴らしさと比較すると、
映像に頼る部分の大きな英語圏の演出家による演出には、
首を傾げる部分があるのですが、
渡辺謙さんのさすがの座長芝居を含めて、
その文字通り肺腑を抉るようなラストには、
これまであまり感じたことのないような衝撃を感じました。
こちらは演出を変えての再演熱望です。

③NODA・MAP「フェイクスピア」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-06-05
個人的には野田秀樹さんの久々の傑作で、
「赤鬼」の初演以来と言って良い感銘を受けました。
虚構が必死で現実の悲劇の尻尾に食らいつくという、
悲惨な事件の多い今の時代における、
演劇人の矜持を感じさせる素晴らしい傑作でした。
高橋一生さん、橋爪功さん、白石加代子さんという、
アングラ、新劇、現代の巨人の演技トリオがまた、
最高に贅沢でした。

④唐組「ビニールの城」(再演)
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-05-16-1
第七病棟の初演は、
観ることの出来るタイミングはあったのに、
観のがしてしまったんですよね。
人生における最大の後悔の1つです。
でも唐組版の「ビニールの城」も素晴らしくて、
今回は待望の再演でしたし、
最初から2回予約を取って、
心ゆくまで堪能することが出来ました。
特に1幕が抜群の出来栄えで、
ラス前の2人の対峙する場面の台詞と展開に、
やや唐突な感じがすることを除いては、
完璧なアングラテント芝居でした。

そんな訳で本数は少なかったのですが、
この4本の傑作に出逢えただけで、
昨年は充実した観劇体験になりました。
関係者の皆様本当にありがとうございました。

今年何本くらいの舞台に出逢えるでしょうか?
感染防御には留意しつつ、
一期一会の思いで作品に対したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良いお正月をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(2)  コメント(0) 

2021年の映画を振り返る [映画]

新年おめでとうございます。

北品川藤クリニックの石原です。

今年もよろしくお願いします。

今日は昨年観た映画を振り返ります。
昨年映画館で観た映画がこちらです。

1.ワンダーウーマン 1984
2.約束のネバーランド
3.43年後のアイ・ラヴ・ユー
4.無頼
5.さんかく窓の外側は夜
6.聖なる犯罪者
7.ヤクザと家族
8. スワロウ
9. プラットフォーム
10.素晴らしき世界
11.ファーストラヴ
12.哀愁シンデレラ
13.樹海村
14.マーメイド・イン・パリ
15. 花束みたいな恋をした
16.シン・エヴァンゲリオン劇場版:||
17.ミナリ
18. JUNK HEAD
19.ノマドランド
20.騙し絵の牙
21.パーム・スプリングス
22.るろうに剣心 最終章 The Final
23.るろうに剣心 最終章 The Beginning
24.ファーザー
25.キャラクター
26.Arc アーク
27.ザ・ファブル 殺さない殺し屋
28.ゴジラvsコング
29.竜とそばかすの姫
30.1秒先の彼女
31.プロミシング・ヤング・ウーマン
32.ブラック・ウィドウ
33.オールド
34.孤狼の血 LEVEL2
35.フリー・ガイ
36.サマーフィルムに乗って
37.先生、私の隣に座っていただけませんか?
38.ドライブ・マイ・カー
39.レミニセンス
40.マスカレード・ナイト
41.スパイラル ソウ オールリセット
42.空白
43. プリズナーズ・オブ・ゴーストランド
44.007 ノー・タイム・トゥ・ダイ
45.DUNE デューン 砂の惑星
46.キャンディマン(2021年版)
47. ONODA 一万夜を越えて
48.  燃えよ剣
49. 最後の決闘裁判
50. ハロウィン KILLS
51. マリグナント 狂暴な悪夢
52. アンテベラム
53. 皮膚を売った男
54. エターナルズ
55. ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ
56. あなたの番です 劇場版
57. 彼女が好きなものは
58. マトリックス レザレクションズ
59. 偶然と想像
60. 99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE

以上の60本です。
昨年よりは少し多い本数ですが、
矢張り洋画は公開自体が少なくて、
配信優先の作品も多かったりと、
映画を映画館で観るという文化自体が、
岐路に立っているという感じです。
何かアメリカ映画はマーベルとディズニー以外には、
何もないような印象でした。

良かった5本を洋画と邦画とに分けて、
エントリーしてみます。
2021年に公開された新作に限っています。

それではまず洋画編です。

①ファーザー
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-06-12
今年素直に良い映画だった、と思えた1本です。
原作の戯曲も素晴らしいのですが、
それを視覚的かつ幾何学的に、
精緻な心理劇に構成した映像が画期的でした。
認知症という手垢の付いた素材が、
とても感動的で神秘的なドラマに昇華していました。
アンソニー・ホプキンスを始めとするキャストも、
素晴らしかったと思います。

②ノマドランド
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-04-10-1
フィクションとノンフィクションをないまぜにした、
河瀨直美監督みたいな手法で、
中国系のクロエ・ジャオ監督が、
アメリカを放浪する孤独な老人達の姿を描いた詩情豊かな作品で、
アカデミー賞には相応しい佳作でした。
現代の問題を描いていながら、
それが地平線の彼方でアメリカの原風景である、
西部の荒野に同一視されてゆく、
という辺りが面白いと思います。

③1秒先の彼女
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-08-07
チェン・ユーシュン監督のノスタルジックな台湾映画で、
「鎌倉ものがたり」みたいな感じの、
冥界と現実世界の境界がおぼろになるような世界を描いているのですが、
「鎌倉ものがたり」の映画の100倍くらいは、
素晴らしく幻想的な作品でした。
ちょっと変なギャグパートもあって、
全てが良いとは言えないのですが、
去年観た映画の中では、
最も愛すべき作品でした。

④フリー・ガイ
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-09-05
これはティーンエイジ向けの娯楽映画なのですが、
今年観た娯楽映画の中では最も面白く、
最も現代的で最も完成度の高い1本でした。
ゲームの中のわき役キャラが自我に目覚めて、
そのゲームの世界を変革しようというお話ですが、
そのゲームの開発者の1人である生身の女の子と、
恋に堕ちるという倒錯的な設定が面白く、
ゲームの世界の変革が現実の変革に結び付くという、
その発想も極めて新鮮に感じられました。
昨年は「マトリックス」の新作も公開されましたが、
その新作よりもこの作品の方が、
遥かに深く虚構世界と現実との関わりの問題を、
捉えていたように思います。

⑤エターナルズ
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-11-27-2
本当は「DUNE デューン 砂の惑星」を入れたかったのですが、
あまりにスローテンポで後半は盛り上がりに欠きましたよね。
ヴィルヌーブ監督は大好きなのですが、
パート1のみの映画というのは、
もともとスローテンポの監督が、
よりスローテンポの映画を作ってしまうので、
結果として失敗であったように思います。
(勿論パート2にはとても期待はしています)
クロエ・ジャオを起用したこのマーベルの新シリーズは、
ビジュアルはとても「デューン」に似ていて、
もっと盛り上がりがありました。
不評も多い映画ですが僕は比較的お気に入りです。
さすがクロエ・ジャオ、自分の資質を活かしながら、
上手くまとめたなという印象です。

それでは次は日本映画のベスト5です。
こちらは昨年に続いてなかなか充実していました。

①偶然と想像
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-12-25-1
昨年は間違いなく濱口竜介監督の年でした。
「ドライブ・マイ・カー」も面白い映画でしたが、
何かモヤモヤする感じもあり、
個人的には意味不明な部分もありました。
その点この作品は手作り感やアドリブ感もある短編集で、
濱口監督の魅力の全てが味わえる素晴らしい傑作でした。
3本のオムニバスですが、3本全てが傑作で、
それぞれに個性があり、
監督自身によるオリジナルの台本だという点も素晴らしいのです。

②空白
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-10-02
吉田恵嗣監督の代表作の1つとなるであろう力作で、
少女の不幸な死をきっかけとして、
不寛容で冷酷無比な社会が牙を剥き、
松坂桃李さん演じるコミ障のスーパー店長を、
追い込んで破滅させてゆく経緯を、
社会学の論文のような冷徹かつ正確無比なタッチで描きます。
それだけでは息が詰まってしまうのですが、
少女の父親に古田新太さんを配して、
少女を理解せず迫害していた父親が、
松坂桃李さんを追い詰める中で、
自分の非人間性に気付いて人間性を取り戻す姿を描くことで、
巧みにバランスを取って、
不思議と浄化されるような清冽なラストに着地します。
極めて現代的なキャラを、
感情表現をほぼほぼ殺した彼ならではの技巧で演じきった、
松坂桃李さんの芝居が抜群で、
脇のある意味どうでも良い役柄ながら、
強烈な印象を残した寺島しのぶさんがまた圧倒的でした。
不慮の死を遂げる少女役の伊東蒼さんが、
如何にもそれらしいリアルな質感で、
物語の核になっていました。
この少女は最初から死んだと言って良い状態であったのですが、
その不慮の死が社会化されることで、
初めてその存在が他者に影響を与えるという皮肉が、
現代社会の人間性の「空白」を、
象徴的に表現していて鮮烈でした。
ちょっと後半が北野武映画に似すぎている、
という感じはするのですが、
2021年で一番現代と格闘した力作でした。

③花束みたいな恋をした
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-03-13
趣味が抜群に合う、同じものが好きで、
同じものに心を動かされてきた2人が運命的な恋をして、
やがて現実のために夢を捨てて、
別れるしかなくなるという古典的な青春ラブストーリーを、
2015年から2020年の実際の多くのガジェットを絡めて、
情報量の多い同時代的なドラマに仕上げています。
菅田将暉さんと有村架純さんのほぼほぼ2人だけのドラマで、
全てが美しくノスタルジックで完成度が高く、
青春映画というジャンルを、
現代にアップグレードした感のある秀作でした。

④ONODA 一万夜を越えて
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-10-23
これは邦画と洋画の中間のような多国籍映画で、
どちらに入れようかと迷ったのですが、
内容的には矢張り邦画とするべきと思いこちらに入れました。
素材は小野田さんですから日本のものですが、
そのタッチは極めてヨーロッパ映画的で、
素材としても日本では到底映画化は困難なものでした。
小野田さんの役柄を2人に分ける必然性は、
それほどはなかったように思いますが、
キャストはいずれも代表作と言って良い熱演で、
内容も戦争の不条理を強く感じさせるものでした。
イッセー尾形さん演じるかつての上官と、
対峙する場面は文字通り心が震えました。

⑤シン・エヴァンゲリオン劇場版:||
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-03-20
昨年一番のヒット作で、
内容も従来のアニメ映画の次の段階を開拓しようという意欲を、
強く感じさせる力作でした。
日本的な屈折と敗北感と幼児性の横溢する世界ですが、
それを承知で没入出来れば、
凡百の実写映画を、
遥かに超える興奮と感銘とが待っています。
今年のアニメ映画では「竜とそばかすの姫」も良かったのですが、
ちょっとお行儀の良い感じが強い作品でした。
「ドライブ・マイ・カー」と一緒で、
海外で受けそうな要素を並べた感じに、
ちょっと不純なものを感じるのです。
勿論それが悪いということではなく、
純粋に個人的な趣味の問題です。

これ以外にも邦画は魅力的な作品が昨年は多くありました。
娯楽映画としては、
「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」と「燃えよ剣」の、
岡田准一さん主演の2本がいずれも意欲的な出来栄えでした。
青春映画の「彼女が好きなものは」も良かったですし、
「孤狼の血 LEVEL2」と「ヤクザと家族」という、
2本のヤクザ映画も迫力がありました。
「素晴らしき世界」と「Arc アーク」は大好きな監督の新作なので、
とても期待したのですが、
どうも「今」を掴みかねて四苦八苦しているような感じがありました。

今年も良い作品に出逢えればと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良いお正月をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(2)  コメント(0)