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HDLコレステロールと心血管疾患死亡リスクとの関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
HDLコレステロールと予後.jpg
the American Journal of Cardiology誌に、
2022年1月14日ウェブ掲載された、
血液のHDLコレステロール濃度と、
心血管疾患による死亡リスクとの関連を検証した論文です。

血液のHDLコレステロールは、
組織からコレステロールを引きはがすような役割があり、
血液中のHDLコレステロール濃度が低いことが、
心筋梗塞などの発症リスクを増加させることは、
多くの精度の高い疫学データで確認された事実です。

HDLコレステロールが、
「善玉コレステロール」のような名称で、
呼ばれているのはそのためです。

しかし、HDLコレステロールを増加させるような治療は、
これまでに成功したものはありません。
また、最近の住民データなどの解析では、
高HDL血症が死亡リスクの増加に繋がっている、
ということを示唆する結果が複数報告されています。
HDLコレステロールには性差があり、
女性は女性ホルモンの作用などにより、
男性より高いHDLコレステロール濃度を示す、
というデータがあります。
HDLコレステロールが遺伝的に非常に高値であることが、
「長寿の家系」として報告されていますが、
遺伝子の関与も実際には単一のものではなく、
その心血管疾患予防効果にも差があることも指摘されています。

このように、
HDLコレステロールが低いことが、
心血管疾患のリスクであることは間違いがありませんが、
高いことがそのリスクを常に下げるものであるのかについては、
それほど明確なデータがある、
という訳ではないのです。

そこで今回の研究では、
これまでにも何度もご紹介している、
イギリスのUKバイオバンクという、
遺伝情報と臨床情報を集積した大規模医療データを活用して、
この問題の検証を行なっています。

登録の時点で虚血性心疾患のない、
トータル415416名を中間値で9年間観察したところ、
心血管疾患リスク因子や年齢性別などで補正した結果として、
HDLコレステロール濃度が80mg/dLを超えると、
40から60mg/dLの基準値と比較して、
総死亡のリスクが1.11倍(95%CI:1.03から1.20)、
心血管疾患による死亡リスクが1.24倍(95%CI:1.05から1.46)と、
それぞれ有意に増加していました。

これを男女に分けて検証したところ、
男性では同様の解析において、
HDLコレステロール濃度が80mg/dLを超えると、
総死亡のリスクが1.79倍(95%CI:1.59から2.02)、
心血管疾患による死亡リスクが1.92倍(95%CI:1.52から2.42)、
よりそのリスクは高くなっていましたが、
女性では総死亡のリスクが0.97倍(95%CI:0.88から1.06)、
心血管疾患による死亡リスクが1.04倍(95%CI:0.83から1.31)、
とリスクの有意な増加は認められませんでした。

ちなみに、
HDLコレステロールが30mg/dL以下では、
総死亡のリスクは2.40倍(95%CI:2.15から2.68)、
心血管疾患による死亡リスクが3.09倍(95%CI:2.54から3.75)、
と、明らかに強いリスク増加が認められ、
男女比では女性がより高くなっていました。
HDLコレステロールが低いことが問題であるのは間違いがなく、
議論の対象はHDLコレステロールが高い場合なのです。

今回の検証では、
HDLコレステロールが80mg/dL以上の男性では、
40から60mg/dLと比較して総死亡と心血管疾患による死亡のいずれもが、
リスクの増加を示していました。

どうやらHDLコレステロールの高値は、
それだけで良いというような所見ではなく、
性差や基礎疾患の有無などとも併せて、
トータルに検証するべき所見であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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