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メラノーマの増加とその原因 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

11月1日(火)と2日(水)の診療は、
石田医師による代診となりますのでご注意下さい。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メラノーマの増加.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2022年10月3日ウェブ掲載された、
皮膚癌の増加の原因について検証した論文です。

メラノーマ(悪性黒色腫)は悪性度の高い皮膚癌の一種で、
初期には黒子のように見えます。

このメラノーマは非常に稀な癌とされて来ましたが、
近年世界的にその罹患率が増加していることが指摘されています。

その原因には幾つかの可能性が指摘されています。
その1つは紫外線の影響です。
メラノーマは白人種に多いことから、
以前より紫外線が誘因となるのではという指摘があります。
最近皮膚が暴露する紫外線量が増加しているので、
メラノーマが増えているのではないか、
と言うのです。

もう1つはスクリーニングや精密検査の普及です。
特殊な拡大鏡によるメラノーマの診断の進歩や、
日本ではそのリスクからあまり行われていませんが、
海外では積極的に施行されている生検の増加などにより、
メラノーマが初期に診断される事例が増えています。
また、「こうした黒子には気を付けろ」のような、
報道や情報発信も多く行われるようになり、
一般の方でも自分から積極的に、
皮膚科などを受診して診断を希望されることも増えたのです。

スクリーニングが増えると罹患率が増えるというのは、
これまでにマンモグラフィーの導入による、
乳癌の増加や、
PSA検診の導入による前立腺癌の増加、
超音波検診による甲状腺癌の増加などで、
広く知られている現象です。
特に予後の悪くない前立腺癌や甲状腺癌では、
罹患率の増加が予後の改善に結び付かず、
不必要な医療費や患者負担を増やしている、
という側面も指摘されています。

今回の研究では、
近年のメラノーマのアメリカにおける罹患率増加が、
どのような原因で起こっているのかを検証する目的で、
アメリカの地方単位である郡のうち、
727か所の疫学データを抽出し、
その地域特性とメラノーマ罹患率との関連を検証しています。

その結果、
紫外線の曝露量とメラノーマの罹患率との間には、
明確な関連は認められませんでした。
その一方でその地域の皮膚科医が多く、
プライマリケアの医療機関を、
受診しやすい環境が整っている地域では、
紫外線曝露量が少なくても、
メラノーマの罹患率は高くなっていました。
またその家庭の収入が多いほど、
メラノーマの罹患率は高くなっていました。

つまり、
アメリカにおける最近のメラノーマの増加は、
紫外線が原因なのではなく、
メラノーマを疑いスクリーニングが可能な環境が整ったことが、
その原因であることが今回のデータからは示唆されたのです。

ただ、現状その罹患率の増加は、
患者の生命予後の改善と明確な関連は認められませんでした。
これは同じように検証された肺癌の死亡率が、
罹患率の増加に伴って改善していることと、
明瞭な対比を示していました。

今後こうしたデータを基礎として、
どのようなメラノーマのスクリーニングとその後の治療が、
メラノーマの予後改善に結び付くのか、
その検証が重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「アムステルダム」(ネタバレ注意) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アムステルダム.jpg
デビッド・O・ラッセル監督による、
1930年代を舞台にした豪華キャストのアメリカ映画が、
今ロードショー公開されています。

ラッセル監督の映画は、
本国では評価が高いものの、
日本人にはそのウィットに富んでいるのであろう台詞などが、
分かり難いという側面があり、
あまり高い人気とはなっていません。

今回の作品は脇役まで名優や人気者を揃えていて、
すぐに轢かれて死んでしまう軍人の娘に、
テイラー・スウィフトがキャスティングされているのは、
その典型です。
これだけのキャストが集まるというのは、
ラッセル監督の作品の本国での高評価と人気の程を、
示しているように思います。

以下少しネタバレを含む感想です。
ただ、鑑賞後の感想としては、
ネタバレでガッカリする、
というほどの内容ではありません。

今回の作品は、
第一次大戦で負傷した、
クリスチャン・ベール演じるお人好しの医師と、
ジョン・デビット・ワシントン演じる弁護士の卵が、
フランスの病院でマーゴット・ロビー演じる、
富豪の一族の前衛芸術家と出逢い、
オランダのアムステルダムでひと時の「理想の時間」を過ごし、
一旦はアメリカで離ればなれになった3人が、
今度はアメリカで台頭するナチスの陰謀に、
立ち向かうというお話です。

全編ノスタルジックで軽快なタッチで展開し、
ややブラックなユーモアに彩られています。
現実をシュールで夢想的な世界に変換して楽しむというところは、
アーヴィングの「ガープの世界」などと同じ趣向ですよね。
それをオリジナル台本にしたのが「フォレストガンプ」で、
この映画も基本ラインはアーヴィングで、
そこにコーエン兄弟やウディ・アレンのタッチが入っています。

ただ、ナチスが登場すると、
これはもう絶対悪ですから、
相手は必ず負けることも分かっているので、
盛り上がりには欠けるという面があります。
展開も後半は正直もたつく感じがありました。
コーエン兄弟やアレンの良い時の作品と比較すると、
「この映画はここが抜群だよね」というようなところがないので、
矢張り物足りなさは残りました。

そんな訳で今一つではあったのですが、
キャストは皆魅力的で凝った美術と撮影も見ごたえはあるので、
如何にも映画らしい映画として、
まずは楽しむことが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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シベリア少女鉄道「アイ・アム・ア・ストーリー」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
シベリア少女鉄道.jpg
オタク趣味とゲーム嗜好、
寺山修司を彷彿とさせる実験演劇的趣向が、
絶妙にブレンドされた、
演劇玉手箱的な世界が魅力の、
シベリア少女鉄道の新作が、
先日まで恵比寿の小劇場で上演されていました。

この劇団の作品はネタバレ厳禁なので、
上演が終了してからレビューするようにしています。

今回は如何にも小劇場的な、
Drコトー診療所的世界のドラマがあって、
お約束でキャストが少ないので、
1人で2役以上を演じていて、
そこに次第に無理が生じて来ると、
闇落ちした新人役者が、他の役者の役を、
乗っ取るようになって…という、
シベリア少女鉄道ならではの世界が展開されます。

正直これまでにも何度か、
似通った設定の作品が上演されているので、
「お馴染みの…」という感じで新しさは感じませんでした。

最近は「演劇」の世界をテーマにした作品が多く、
その世界を創造しコントロールしているのは誰なのか、
というところまで、以前の作品では切り込んでいたのですが、
作者自身が出て来たり、
全く別個の「演劇の神」的なものが出て来たり、
他のジャンルの創造物とリンクしたり、
昔の演劇仲間が出て来たりと、
色々な趣向を繰り出して、
結局それほど成功はしなかったと思うのですね。

それで今回に関しては設定のみがあって、
それを成立させているものまでは切り込んでいないのですが、
以前からのシベリア少女鉄道のファンのとしては、
その点にやや物足りなさを感じてしまいました。

役者は以前と比べると非常に上手くなっていて、
とても安定感があるのは良いのですが、
1人で何役も演じることの大変さを「演じる」のが、
どうしても「大変そうに見せている」という感じになって、
あまり真剣に追い込まれているように見えない、
という点も物足りなく感じるところです。

多分以前よりアットホームで、
良い雰囲気の現場になっているのだろうなあ、
という想像はされて微笑ましいのですが、
こうした作品はもっと役者が追い込まれているのが見えて、
本気でつらそうに見えないと、
つまり雰囲気が悪そうな現場に見えないと、
その面白さが加速しないと思うのですね。
こうした実験的な作風の、
そこはジレンマであるように感じました。
熟練して「慣れ」が見えると、
却って詰まらないのです。

そんな訳で正直今回は今一つだったのですが、
大好きな小劇場であることは間違いがないので、
これからも期待しつつ劇場に足を運び続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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性的欲求低下障害に対するキスペプチンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
キスペプチンと性欲減退.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年10月26日ウェブ掲載された、
性欲に関連するホルモンを注射することにより、
性欲低下の症状を改善する試みについての論文です。

性的欲求低下障害(Hypoactive Sexual Desire Disorder : HSDD)は、
性的欲求が低下しているために、
人間関係や社会生活において、
悩みを抱えている状態のことですが、
性交の困難や性的対象の個人差による悩み、
性腺機能低下症などの器質的疾患ではないものとされています。

その治療を希望する方には、
現状カウンセリングや精神療法、
抗うつ剤や性ホルモン製剤などが使用されていますが、
その有効性は限定的であるのが実際です。

キスペプチンは、
前腹側室周囲核から内側視床前野の部分と、
視床下部弓状核の部分の2か所の神経細胞から分泌され、
女性ホルモン系の分泌調節に重要な働きをしているホルモンです。
このホルモンはまた大脳辺縁系に働いて、
人間の性衝動や性欲を調節する働きを持っているとされています。

これまでにもキスペプチンの注射により、
性欲が亢進したとする報告があります。
そこで今回の臨床研究では、
32名の性的欲求低下障害と診断された女性に、
75分間キスペプチンを静脈血に持続的に注入し、
生理食塩水を同じように注入した場合と比較して、
性的内容のビデオ鑑賞時の
機能性MRIによる脳の変化を比較検証しています。

その結果キスペプチンの使用により、
ビデオ鑑賞時の性欲に関わる脳神経領域の活動性は高まり、
性的欲求低下障害において活動が亢進している部位については、
それを抑制するような働きを同時に示していました。

この結果はキスペプチンの使用が、
性的欲求低下障害の有効な治療となる可能性を示唆しています。

現状はキスペプチンには、
持続的に静脈投与した短期のデータしかなく、
臨床に使用出来るレベルには達していませんが、
今後このホルモンの作用の解明が、
性的欲求に関わる疾患の治療において、
新たな選択肢となることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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腎機能の予後判定におけるシスタチンCの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
シスタチンCの慢性腎不全予測の有効性.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年10月25日ウェブ掲載された、
最近評価の高い腎機能指標の有効性についての論文です。

近年CKD(慢性腎臓病)という概念があり、
その基本となる、
腎機能の評価の指標として、
eGFR(推算糸球体濾過量)という検査値が、
広く使用されています。

糸球体というのは、
腎臓にあって血液を濾しておしっこの原液にする、
濾紙のような働きをしている所です。
そこを一定時間に通過する血液の量が、
作り出せるおしっこの量を表し、
腎臓の働きが低下すれば、
当然作ることの出来るおしっこの量が減るのですから、
これを腎機能の指標にしているのです。

僕が大学にいた頃には、
腎機能の指標は、
もっぱらクレアチニンクリアランス、
という数値が使用されていました。

これは一定時間に腎臓を通過する、
クレアチニンという物質の量を、
糸球体の濾過量に近似したもので、
クレアチニンという物質は、
筋肉の中にある物質の排泄型ですが、
これは糸球体で濾過されると、
ほぼそのまま100%排泄されるので、
血液のクレアチニンの濃度とおしっこのクレアチニンの濃度、
そして単位時間当たりのおしっこの量が算定されれば、
そこからクレアチニンクリアランスという、
糸球体濾過量に近い数値が、
計算されるのです。

腎機能が一定レベル以上低下すると、
排泄されるクレアチニンの量が減るので、
血液のクレアチニンの濃度は上昇します。

従って、
腎臓の機能の低下の指標としては、
簡便には血液のクレアチニンの数値が使用され、
より正確には、
1日のおしっこの全体量や1時間の尿量を測定して、
クレアチニンクリアランスが測定される、
というのが一般的な考え方でした。

ところが、
クレアチニンは腎機能がある程度以上低下しないと、
血液では上昇はせず、
筋肉由来の成分なので、
身体の筋肉の量に左右される、
という欠点があります。

また、
クレアチニンクリアランスは、
その測定が面倒である上に、
正確な尿量が測られないケースが多く、
次第にその臨床における必要性が、
疑問視されるようになりました。

特にCKDという概念がアメリカで導入されると、
「慢性の腎臓病の早期診断」が重要視され、
かつ簡便にスクリーニング出来ることが、
必須と考えられるようになります。

その目的には血液のクレアチニンも、
クレアチニンクリアランスも、
適切な検査とは言えないのです。

そこで導入されたのが、
被験者の性差と年齢、そして血液のクレアチニン濃度から、
簡易的に糸球体濾過量を算定する、
という方法です。
これをeGFRと呼んでいます。

この指標はCKDの提唱国アメリカで始まったものですが、
クレアチニン濃度と糸球体濾過量との関連には、
人種差が存在するため、
そのまま日本人に適応は出来ません。

日本の腎臓学会が日本人用の算定式を作成し、
2006年頃からは、
保険適応からもクレアチニンクリアランスは姿を消して、
eGFRによる腎機能の推定が、
日本でも行われるようになりました。

これは計算式は結構複雑なので、
早見表があり、
それを見て推定することになっています。

しかし、
先刻も触れましたように、
クレアチニンを使用する推定法には、
幾つかの問題があります。

その第一はこの数値は身体の筋肉量に影響を受けるので、
うんと痩せた患者さんや筋肉量の少ない高齢者などでは、
正確な値が出ない、
という可能性があります。
つまり見掛け上少ない値が出てしまうので、
腎機能の低下していない患者さんを、
CKDと診断してしまう可能性があるのです。

実際この基準が導入されたアメリカでも、
導入以降腎臓内科の専門医に、
紹介される患者さんは急増しましたが、
透析の患者さんや心臓の発作を起こす患者さんは、
その後も一向に減っていない、
という報告が挙がっています。

その一方で、
早期の腎機能低下は、
クレアチニンを使用した測定では、
診断はされ難い、
という報告もあります。

クレアチニンの上昇は、
ある程度以上腎機能が低下しないと起こらないので、
本当の意味での早期診断には不向きなのです。

その欠点を補完するために、
現行のCKDの診断では、
おしっこに出るアルブミンという蛋白の排泄量を、
おしっこのクレアチニンで換算した値を、
もう1つの指標にしています。

アルブミンはその大きさから、
正常な糸球体の「濾紙」は通過しないのですが、
腎臓に炎症が起こったりして、
濾紙の機能に障害が起こると、
漏れてはいけないアルブミンが漏れ出て、
おしっこに検出される、
という原理です。

全ての腎機能の低下で、
その初期からアルブミンがおしっこに検出される、
という訳ではありません。

しかし、
アルブミンが検出されれば、
たとえeGFRの数値は正常であっても、
CKDの初期であると判断されますし、
初期からアルブミンが検出されるケースでは、
そのまま放置すれば、
腎機能の低下のペースは速く、その予後も悪い、
ということが分かっています。

従って、
この2つの指標を組み合わせることにより、
CKDの予後をかなり推測することが可能となるのです。

ただ、
それでも問題は残ります。

たとえば、
おしっこにアルブミンは検出されないのに、
eGFRの数値は低い場合。
おしっこに蛋白の出ないタイプの腎臓病であるのか、
何らかの要因でeGFRの測定自体が不正確になっているのかは、
俄かに判断が付きません。

そこで、
クレアチニン以外に、
もっと糸球体の濾過量の推定に使える検査値はないか、
ということになり、
最近注目されているのが、
シスタチンCという数値です。

シスタチンCというのは、
アルブミンなどより大きさの小さな蛋白質で、
糸球体の「濾紙」を通過する性質を持ち、
その後尿細管という部分で再び血液に戻り分解されます。
このシスタチンCは全ての細胞で産生されるので、
クレアチニンのように筋肉の量で左右されません。
糸球体の濾過量が低下すると、
シスタチンCは排泄が抑えられ、
血液に溜まります。
クレアチニンのように、
おしっこに出るのではないので、
より鋭敏に腎機能を反映し、
ごく初期の腎機能低下でも
血液濃度が増加する、
と考えられています。

このシスタチンCをクレアチニンの代わりに使用しよう、
という考え方があり、
その換算式も考案されています。
ただ、血液のシスタチンC濃度は、
甲状腺機能亢進症で増加したり、
ステロイド使用や喫煙、肥満などでも、
増加するという報告があるなど、
その数値の信頼性には、
まだ不確かな部分を多く残しています。

またクレアチニンによる腎機能の評価と、
シスタチンCによる腎機能の評価とを、
どのように両立させるのか、というような点についても、
明確なコンセンサスが得られていません。

今回の研究はイギリスにおいて、
非常に多方面に使用されている、
大規模な遺伝子情報を含む医療データである、
UKバイオバンクの個人データを活用して、
クレアチニンによる推計糸球体濾過量(eGFR)と、
シスタチンCによる推計糸球体濾過量(eGFR)との、
腎臓の予後判定における有用性を比較検証しているものです。

対象は登録の時点で、
クレアチニンによるeGFRが45mL/min/1.73㎡以上で、
尿中のアルブミンはグラムクレアチニン当たり30㎎未満、
腎不全や腎障害の明確な既往がない一般住民、
トータル428402名で、
年齢の中間値は登録時点で57歳です。
中間値で11.5年の経過観察において、
その予後を2種類の方法によるeGFR値で比較しています。
年齢は65歳未満と65から73歳の高齢者に区分けしています。

その結果、この集団における10年間の腎不全リスクは、
65歳以上の高齢者で0.06%、
65歳未満で0.04%という低率でした。
一方で心血管疾患と総死亡のリスクは、
腎不全のリスクを上回っており、
クレアチニンによるeGFRに関わらず、
シスタチンによるeGFRが60mL/min/1.73㎡以上であると、
その後10年の心血管疾患と死亡のリスクは低く抑えられていたのに対して、
それが60mL/min/1.73㎡を下回っていると、
その後10年の心血管疾患と死亡のリスクは、
65歳以上の高齢者では2倍近くに増加し、
65歳未満では2倍を超えて増加していました。
つまり、クレアチニンによるeGFRより、
シスタチンCによるeGFRの方が、
心血管疾患と死亡のリスクをより明確に予測可能であった、
ということになります。

今回の検証で明らかになったことは、
腎機能が軽度低下している事例においては、
腎不全のリスクより、心血管疾患や総死亡のリスクを、
重く考える必要があり、
そのリスク予測の面では、
クレアチニンよりシスタチンCによるeGFRの計測の方が、
より有用である可能性が高いということです。

今後こうした検証を元に、
シスタチンCによるリスク分析の活用が、
より広く普及されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ビデオゲームと小児の認知機能 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ビデオゲームと脳の発達.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年10月24日ウェブ掲載された、
ビデオゲームが小児の脳に与える影響についての論文です。

コンピューターやスマホなどを使用して行う、
ビデオゲームやコンピューターゲームと言われるものは、
もう大多数の人にとって欠かせない娯楽や暇つぶしや、
余暇の過ごし方となっていて、
一部の人にとっては仕事や生活の糧ともなっています。

ただ、その小児や青少年への影響については、
様々な見解があって未だ一致した結論に至っていません。

かつてテレビが娯楽の新しい道具として登場した時には、
テレビを見ると馬鹿になる(実際はもっと過激な表現)と言われました。

同様にビデオゲームをやり続けていると、
攻撃的で衝動的な人間になる、
というような言われ方をすることがあります。

これは満更根拠のない言説ではなく、
実際にそうしたデータが幾つか論文化されています。
ただ、その一方でそうした傾向は認められなかった、
というような報告もあり、
議論はまだ解決には至っていないのが実際です。

その一方で小さな頃からビデオゲームに慣れ親しんでいると、
脳の刺激に対する反応は速くなり、
認知機能の発達にも良い影響を与えるのではないか、
という考え方もあります。

これは事実でしょうか?

今回の研究はアメリカのバーモント州において、
9歳から10歳の2217名を登録し、
認知機能のテストや機能性MRIによる検査を施行して、
認知機能とビデオゲームの習慣との関連を比較検証しています。

その結果、
殆どビデオゲームをしていない子供と比較して、
1週間に21時間以上ゲームをする習慣のある子供は、
行動のために一時的に情報を記憶して活用する能力である、
ワーキングメモリーと、
目的に合った行動のために他の行動欲求を抑制する、
行動の抑制の機能が、
有意に優れていることが確認されました。
機能性MRIにおいて、
そうした機能が必要なタスクを施行時の、
血流パターンに差のあることも確認されました。

これはゲームの影響の一面を見ているのみであることに、
注意が必要ですが、
成長期におけるビデオゲームの影響は、
決して一面的なものではなく、
小児の成長に良いものも悪いものも含めて、
多岐に渡る影響を与える可能性があることが明らかになったのは、
非常に意義のあることだと思います。

今後こうした研究がより詳細に行われることにより、
ビデオゲームと脳との関連が解明され、
小児のバランスの取れた成長のためには、
どのようにゲームと関わることがベストであるのか、
検証が深められることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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降圧剤の服用タイミングと予後との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療となります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
降圧剤の服用タイミングとその効果.jpg
Lancet誌に2022年10月11日掲載された、
降圧剤の飲む時間と予後との関連についての論文です。

現在多くの高血圧の薬は1日1回の飲み薬です。

添付文書でも1日1回と書かれているだけで、
朝でも昼でも夜でも、
基本的には問題はないということになっています。

製薬会社の説明では、
その半減期は長く効果は安定しているので、
1日のうちどの時間に飲んでも、
同じ時間に継続して服用すれば、
血圧コントロールは安定するとされています。

しかし…

その一方で夜間の血圧をコントロールすることが、
昼間の血圧より重要であるという意見も根強くあります。
そして、そうした意見の専門家は、
1日1回のタイプの降圧剤は、
朝飲むより夜に飲んだ方が、
夜の血圧を低下させるので有効性が高い、
という言い方をされています。

実際にそれを示唆するデータも存在しています。
血圧を上昇される大きな要因の1つである、
レニン・アンジオテンシン系という一連のホルモン系は、
昼より夜寝ている時間帯に、
より活性化しているというデータがあります。
また、一部の降圧剤において、
朝より夜に飲んだ方が、
心血管疾患のリスク低下に結びついた、
というようなデータもあります。

以前ブログでも紹介したことのある、
2019年のEuropean Heart Journal誌に掲載されたスペインの臨床試験の論文では、
降圧剤を夜寝る前に服用することにより、
昼間に服用した場合と比較して、
心血管疾患による死亡などのリスクが、
45%有意に低下していました。

これは非常にインパクトのある結果ですが、
ただ飲む時間を変えるだけで、
ここまでの違いがあることに、
「本当にそんなことがありうるのか」と、
ちょっと奇異な感じを覚えることも事実です。

今回の研究はイギリスで施行された臨床試験で、
18歳以上の高血圧患者トータル21104名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は服用している全ての降圧剤を朝の6時から10時に、
もう一方は寝る前の20時から24時の間に内服して、
中央値で5.2年の経過観察を施行しています。
2019年論文とほぼ同様の内容を、
再検証したと言って良い研究デザインになっています。

その結果、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中を併せたリスクには、
両群で有意な差が認められませんでした。

このように今回の研究では、
2019年論文と同等の規模の同様の検証において、
2019年の臨床データとは異なり、
降圧剤の服用時間による明確な予後の差は認められませんでした。

この問題はまだ結論が出たとは言えないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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COVID-19後遺症の出現比率(2022年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナ後遺症メタ解析.jpg
JAMA誌に2022年10月10日掲載された、
新型コロナ後遺症の発症頻度についてのメタ解析の論文です。

COVID-19後遺症については、
これまでも何度も記事にしています。

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、
体調不良が長期間持続することは以前より指摘されていて、
その呼び名も定義も、
必ずしも統一されていませんが、
概ね感染に罹患後3か月以上持続する症状で、
それにより日常生活や仕事などの社会生活に、
一定の制限が必要となったり困難が生じる場合に、
COVID-19後遺症や新型コロナ後遺症、
COVID-19罹患後症候群やロングCOVID、
などの名称が使用されています。

その症状も数多く報告されていますが、
報告の多いものでは大きく3つに分かれるというのが、
今の一般的な考え方です。
その3つというのは、
①咳や痰がらみ、息切れなどの呼吸器症状
②感情の変化や身体の痛みなどを伴う、全身の倦怠感
③物忘れや集中力低下などの認知機能障害
の3種類です。
他に味覚嗅覚障害がありますが、
これは持続することはあるものの、
他のCOVID-19後遺症とは別に考えることが通常です。

今回の検証では、
2020年から2021年に発症した、
有症状の新型コロナウイルス感染症の、
これまでの臨床データをまとめて解析することで、
世界22か国、トータル120万人以上の事例における、
COVID-19後遺症の頻度とその傾向を検証しています。

その結果、
罹患後3か月以上持続する、
上記3種類のCOVID-19後遺症とされる症状のうち、
少なくとも1種類が見られる人は、
有症状のCOVID-19の罹患者のうち、
6.2%(95%UI:2.4から13.3)に達していました。

その内訳としては、
呼吸器症状が3.7%(95%UI:0.9から9.6)に認められ、
持続する倦怠感が3.2%(95%UI:0.6から10.0)、
認知機能障害が2.2%(95%UI:0.3から7.6)に、
それぞれ認められていました。
(この95%UIというのは、95%CIと同じ意味ですが、
confidence(信頼)という用語は事実と異なり、
むしろ信頼出来ない区間なのでuncertainty (不明瞭)とするべきなのだ、
という最近の考え方によってその用語が使用されています)

年齢性別に分けて検証すると、
20歳未満では性差はなく2.8%(95%UI:0.9から7.0)に何らかの後遺症が、
20歳以上では性差があり、
男性は5.4%(95%UI:2.2から11.7)、
女性は10.6%(95%UI:4.3から22.2)に何らかの後遺症が、
認められていました。

この後遺症の症状は、
入院を要した比較的重症の患者さんでは、
平均で9.0か月(95%UI:7.0から12.0)持続していて、
入院を要しなかった軽症の患者さんでは、
平均で4.0か月(95%UI:5.6から4.6)持続していました。
これは罹患時からの期間になりますから、
軽症の事例では罹患後3か月を超えて症状が持続していても、
概ね1か月くらいで改善することが多い、
ということを意味しています。
一方で後遺症のうち15.1%(95%UI:10.3から21.1)においては、
罹患後12か月を超えて症状が持続していました。

このように、
新型コロナウイルス感染症の罹患後には、
トータルで6.2%の患者さんで、
3か月以上持続する後遺症と言われる症状が認められます。
そのうち最も多いのが呼吸器症状で、
次に多いのが倦怠感、認知機能障害と続いています。
後遺症の症状は20歳以上の女性に多く、
入院を要した重症事例においては、
持続が平均で9か月と長い傾向が認められます。
後遺症が認められた事例のうち15.1%では、
症状は1年を超えて持続していました。

COVID-19後遺症の疫学は、
このようにほぼ明らかとなったと言って良いのですが、
問題は長期継続するような事例における有効な対処や治療法の解明で、
今後そうした点においても、
有用な知見が発表されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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岩松了「クランク・イン!」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
クランクイン .jpg
岩松了さんの新作が今下北沢の本多劇場で上演されています。

これは2020年に女優さん2人の朗読劇として上演された、
「そして春になった」という作品を元にしていると解説されています。

ただ、「そして春になった」は、
ある映画監督の妻と愛人の2人芝居でしたが、
今回の作品では設定はほぼそのままであるものの、
監督の妻はキャストとしては登場せず、
前作で語られた若手女優の水死という事件が、
終わって1年後に映画の製作が再開される、
という時点を舞台としています。

これはなかなか良かったですよ。

何が良かったかと言うと、
最近の岩松さんの作品は変貌をしてきていて、
その意味合いの一端が、
かなりクリアに今回の作品で理解出来たという点。
それから今回の作品に関しては、
吉高由里子さんが抜群に良くて、
おそらくこれまで岩松戯曲に登場した多くの女優さんの中でも、
最も自然にその難解な台詞を立体化出来る、
稀有の才能を持っているということが分かった、
という点にあります。

まず岩松戯曲の変貌ということで言うと、
丁度今月に岩松了戯曲集が刊行されて、
その2000年代の作品集に次のような作者の言葉が添付されています。

人は「過去」を言葉でくくり、 意味に昇華して安心しようとする。   言葉以前の、事象とも呼べないものが 散らばっている「現在」を私は描きたい──

戯曲の言葉というのは、
今のそのままを語る言葉と、
過去のことを語る言葉の両方があって、
通常はその2つがないまぜになっているでしょ。

で、歌舞伎で「物語」というのは、
過去の出来事を身振りを入れながら1人語りすることを言うんですね。

つまり、物語というのは常に過去のもので、
現在この瞬間の生の感情とは別物なんですね。
僕の大学時代に記号論というのが流行っていて、
それ流に言えば、
言葉というものが介在した時点で、
事物に名前を付けた時点で、
その生の事物や感情というものは消えてしまうのです。

その言語化され、過去になる前の感情を、
岩松さんは「自分は描きたい」と言っているんですね。

でも、それは可能でしょうか?

普通に考えれば不可能ですよね。

戯曲はそれ自体が言葉のやり取りのみで成立しているものでしょ。
それを書いているのに言葉を否定したら、
一体何が残るのでしょうか?

ただ、良く考えるとこの宣言は、
言葉自体を否定している訳じゃないんですね。
人間が感情を言語化し理解した気になって安心しようとする、
その仕組み自体を批判し、
そこに切り込むということなのです。

それで今回の作品をその目で見ると、
吉高由里子さん演じるジュンという女性が、
その感情の言語化を否定する役割を果たしているんですね。

この作品において、
吉高さん以外の人物は常に過去を語っていて、
今あったことについても、
「これがあった」ということを言語化して、
それを他人と共有することで安心しようとしているのですが、
その行為の1つ1つを、
吉高さんは否定して新たな問題提起を繰り返し、
相手の安心を不安に変えるのです。

最も明確に対比されているのが、
秋山奈津子さん演じる、
監督の愛人でありかつての大女優で、
彼女は常に過去を言語化して、
それを改変することで安心を得ているのですが、
それをいちいち吉高さんにひっくり返されて、
最後は狂気に陥ってしまうのです。

たとえば、
最初に吉高さんは秋山さんのファンであると言い、
それに呼応して秋山さんは、
「わたしの付き人にならない?」と誘うのですが、
その後の場面では一貫して、
吉高さんの方から「付き人になりたい」と言った、
と主張するのです。
それをその都度吉高さんは、
執拗に修正することを繰り返します。

こうした不毛なやり取りというのは、
一般的な戯曲の文法からは外れたかなり奇異なもので、
通常の台詞のリズムや流れを無視するようなことなのですが、
吉高さんの資質とその台詞が今回、
何か奇跡的に合致しているので、
通常ならとても読むことさえ難しいその言い回しと独特の間合いが、
吉高さんの肉体を通して見事なまでに自然な台詞として、
何かその場に必要不可欠な要素として、
舞台上に立ち上がっているのです。
これまで多くの岩松さんの芝居を観ましたが、
ここまで見事にその台詞を、
これ以上はないという精度で体現した女優さんは、
間違いなく吉高さん以外にはなかったと思います。

ただ、岩松さんの芝居は昔からこのスタイルではなかったのですね。
表面的には日常的な会話のみが交わされていて、
その奥に見えざる別個の感情がふつふつと湧き上がって、
それがラストに暴力的や悲劇的な形で噴出する、
というような作劇が多かったのです。

今回登場する秋山さんの台詞の感触は、
かつての岩松芝居に近いもので、
この芝居において秋山さんは、
監督の妻と共犯者的な感情を共有して、
ボートから共通の敵である若い愛人の女優を突き落として、
殺してしまったのですが、
その苦悩は吉高さんの介入によって改変され、
若い女優の苦悩の叫びは、
ラストには喜びの声に変貌してしまうのです。

言ってみれば過去の岩松戯曲の世界を、
否定して乗り越えるというところに、
今回の作品の1つの裏テーマがある訳です。

これだけなら分かり易いのですが、
今回の作品ではもう1人、
石橋穂乃香さん演じる若い愛人の女優が登場し、
何故か途中でその役柄自体を、
吉高さんが乗っ取ってしまった格好になり、
後半で消えてしまった石橋さんの声が、
吉高さんのみに幻聴として聞こえる、
という場面が用意されています。

ここは良く分からないですね。

多分前作の「青空は後悔の証し」と同じように、
ある種の当て書きで、
石橋さんが演じる、
というところに意味を持たせているんですね。
指輪をその前に唐突に吉高さんが湖に捨てるところから考えて、
石橋さんを秋山さんになり替わって、
吉高さんが殺したのだ、
というようにも思えますが、
そのことを含めて、
この作品の戯曲としての通常の流れを、
否定するために登場したのが吉高さんという怪物、
ということなのかも知れません。

そんな訳で話出すと終わらない、
迷宮のような岩松さんの世界ですが、
今後もその演劇的挑戦からは目が離せそうにありません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「千夜、一夜」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
千やいちあ.jpg
久保田直監督の失踪人をテーマにした、
オリジナルのシリアスドラマで、
30年間失踪した夫を待ち続ける女性を田中裕子さんが、
夫が2年前に失踪した女性を尾野真千子さんが演じ、
その対象的な2人を中心にして、
佐渡を舞台に静謐なドラマが展開されます。

これは吉田恵輔さんの最近の作品にちょっと似た感じで、
やや極端な妄執に囚われた登場人物達が、
各々の人生のゴールを探して彷徨うようなドラマです。

ただ、吉田監督は結構過激な対立構造があって、
それが個人的な妄執とバランスを取っている感じがあるのですが、
この作品では対峙する人物の間に、
それほど強い対立が起こらず、
せいぜいその場の口げんか程度で、
映像的には終わってしまうので、
その点がやや物足りない印象を受けます。

全てが秘められたままで展開する、
表面的には静謐で内面はドロドロ、
というようなタイプの作品もありますが、
この映画の場合主人公はかなり抑制的なのですが、
周辺の人物はそのまま内面を語る、
という感じなので、
主人公を梃子にして物語が展開する、
という感じにはならず、
その点がどうも中途半端で物足りなく感じるのです。

あとクライマックスに、
ちょっと異様な展開があるんですね。
それはないだろう、という感じで、
僕はちょっと引いてしまったのですが、
ここが良い、と感じる人が居るかも知れません。

映像はそれほど個性的という感じではなく、
可もなく不可もなくという感じ。
上映時間の2時間6分はいかにも長いなあ、という印象で、
1つ1つのカットが非常に長く、
「待つ」ということがテーマなので、
こうしたのかも知れませんが、
もう少し切り詰めた方が良かったように感じました。

見どころは矢張り役者の演技にあって、
主人公の田中裕子さんの唯一無二という個性も素晴らしいですし、
対比された尾野真千子さんが、
如何にもという感じの役柄を、
振幅の大きな芝居で鮮やかに見せていました。
後半に重要な役柄を担う安藤政信さんも、
彼が演じたからこその説得力があったと思います。
特筆するべきは、
主人公にストーカー的につきまとう漁師を演じたダンカンさんで、
主人公の秘められた妄執に対比される、
周囲を巻き込む可視的な情念を演じて、
その2つがぶつかり合うラストは見応えがありました。

総じて狙いはとても良かったと思うのですが、
役者の演技に頼りすぎて散漫に流れた感じがあって、
観客をねじ伏せるようなレベルには、
達していなかったのはやや残念に思いました。

たまに見応えのある映画や面白い映画を、
というような鑑賞には不向きの、
映画マニア向きの作品です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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