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プロトンポンプ阻害剤の認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PPIの認知症リスク.jpg
Neurology誌に2023年8月9日付で掲載された、
胃酸を強力に抑える胃薬の、
認知症リスクについての論文です。

プロトンポンプ阻害剤は、
強力な胃酸分泌の抑制剤で、
従来その目的に使用されていた、
H2ブロッカ-というタイプの薬よりも、
胃酸を抑える力はより強力でかつ安定している、
という特徴があります。

このタイプの薬は、
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療のために短期使用されると共に、
一部の機能性胃腸症や、
難治性の逆流性食道炎、
抗血小板剤や抗凝固剤を使用している患者さんの、
消化管出血の予防などに対しては、
長期の継続的な処方も広く行われています。

商品名ではオメプラゾンやタケプロン、
パリエットやタケキャブなどがそれに当たります。

このプロトンポンプ阻害剤は、
H2ブロッカーと比較しても、
副作用や有害事象の少ない薬と考えられて来ました。

ただ、その使用開始の当初から、
強力に胃酸を抑えるという性質上、
胃の低酸状態から消化管の感染症を増加させたり、
ミネラルなどの吸収を阻害したりする健康上の影響を、
危惧するような意見もありました。

そして、概ね2010年以降のデータの蓄積により、
幾つかの有害事象がプロトンポンプ阻害剤の使用により生じることが、
明らかになって来ました。

現時点でその関連が明確であるものとしては、
プロトンポンプ阻害剤の長期使用により、
急性と慢性を含めた腎機能障害と、
低マグネシウム血症、
クロストリジウム・デフィシル菌による腸炎、
そして骨粗鬆症のリスクの増加が確認されています。

その一方でそのリスクは否定は出来ないものの、
確実とも言い切れない有害事象もあり、
その1つが今回検証されている認知症リスクの増加です。

近年発表された複数のメタ解析の論文では、
プロトンポンプ阻害剤の使用と認知症リスクとの間には、
明確な関連は認められないという結論が得られていますが、
個々のデータのバラツキは大きく、
それだけで両者の関連を否定することは出来ません。

今回の研究はアメリカにおいて、
心臓病を対象とした疫学研究のデータを活用して、
プロトンポンプ阻害剤の長期使用と認知症リスクとの関連を、
比較検証しています。

登録の時点で認知症のない平均年齢75.4歳の5712名を、
中間値で5.5年の経過観察を施行したところ、
トータルでの解析ではプトロンポンプ阻害剤の使用と、
認知症の新規発症との間に、
有意な関連は認められませんでした。
一方でプロトンポンプ阻害剤の累積の使用が、
4.4年を超える長期使用者に限定して解析すると、
プロトンポンプ阻害剤の使用は、
その後の認知症発症リスクを、
1.3倍(95%CI:1.0から1.8)有意に増加させていました。

このように、
今回の単独の調査でも、
プロトンポンプ阻害剤の使用と認知症リスクとの関連は、
あまり明確な結論には到っていません。
ただ、累積で4年を超えるような長期の使用には、
一定のリスクがある可能性は否定出来ず、
その使用は適応を厳密に定めて、
必要最小限で行うことが重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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AF冠者

かかりつけ医が学会出席のため代診で独協大の医師が「ワーファリンを服用して居る人はパリエットを服用しなければいけません」とのことでかれこれ5年はレバミピドと一緒に服用していました。ゆういぎなことをどうもありがとうございました。
by AF冠者 (2023-09-07 09:35) 

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