北品川藤クリニック院長のブログ
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/
北品川藤クリニック院長の石原が、医療問題から趣味のあれこれまで、やや赤裸々に綴ります。
fujiki
2024-03-19T08:49:03+09:00
ja
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ピロリ菌の感染と大腸癌リスクとの関係
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-19-1
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。それでは今日の話題です。今日はこちら。Journal of Clinical Oncology誌に、2024年3月1日付で掲載された、ピロリ菌の感染が大腸癌の発症に及ぼす影響についての論文です。胃粘膜で生育するヘリコバクター・ピロリ菌が、萎縮性胃炎や胃癌のリスクとなり、除菌治療がその予防に繋がることは、専門家のみならず、今では一般にも広く知られている事実です。ピロリ菌の感染は胃癌以外にも、大腸癌の発症リスクを上昇させることを示唆するデータが、幾つか報告されています。例えば2020年に発表されたメタ解析の論文では、ピロリ菌の感染により大腸癌のリスクは1.7倍に上昇したと報告されています。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7489651/ただ、実際には単独の疫学データで、それほど大規模なものはなく、報告によっても結果にはかなりの幅があります。今回の研究はアメリカの退役軍人を対象とした、大規模な疫学データを解析したものです。ピロリ菌の検査を施行した退役軍人、トータル812736名のうち、25.2%に当たる205178名が陽性と診断されました。15年の観察期間において、ピロリ菌の感染者は非感染者と比較して、大腸癌に罹患するリスクが18%(95%CI:1.12から1.24)、大腸癌により死亡するリスクが12%(95%CI:1.03から1.21)、それぞれ有意に増加していました。また、ピロリ菌の感染があって未治療であると、除菌治療を施行した場合と比較して、大腸癌に罹患するリスクが23%(95%CI:1.13から1.34)、大腸癌により死亡するリスクが40%(95%CI:1.24から1.58)、それぞれ有意に増加していました。矢張り、今回の大規模な検証においても、ピロリ菌の感染が持続していると、大腸癌のリスクも増加することは間違いのない事実であるようです。それでは、何故ピロリ菌の感染が大腸癌と関連しているのでしょうか?現時点では不明ですが、ピロリ菌自体が大腸粘膜においても、発癌を誘発する可能性を示唆する、実験的なデータが存在しているようです。そのメカニズムは今後の検証を待つ必要がありますが、ピロリ菌の除菌は胃癌予防のみならず、大腸癌予防に対しても一定の有効性が期待出来るので、その施行は..
医療のトピック
fujiki
2024-03-19T08:49:03+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Journal of Clinical Oncology誌に、
2024年3月1日付で掲載された、
ピロリ菌の感染が大腸癌の発症に及ぼす影響についての論文です。
胃粘膜で生育するヘリコバクター・ピロリ菌が、
萎縮性胃炎や胃癌のリスクとなり、
除菌治療がその予防に繋がることは、
専門家のみならず、
今では一般にも広く知られている事実です。
ピロリ菌の感染は胃癌以外にも、
大腸癌の発症リスクを上昇させることを示唆するデータが、
幾つか報告されています。
例えば2020年に発表されたメタ解析の論文では、
ピロリ菌の感染により大腸癌のリスクは1.7倍に上昇したと報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7489651/
ただ、実際には単独の疫学データで、
それほど大規模なものはなく、
報告によっても結果にはかなりの幅があります。
今回の研究はアメリカの退役軍人を対象とした、
大規模な疫学データを解析したものです。
ピロリ菌の検査を施行した退役軍人、
トータル812736名のうち、
25.2%に当たる205178名が陽性と診断されました。
15年の観察期間において、
ピロリ菌の感染者は非感染者と比較して、
大腸癌に罹患するリスクが18%(95%CI:1.12から1.24)、
大腸癌により死亡するリスクが12%(95%CI:1.03から1.21)、
それぞれ有意に増加していました。
また、ピロリ菌の感染があって未治療であると、
除菌治療を施行した場合と比較して、
大腸癌に罹患するリスクが23%(95%CI:1.13から1.34)、
大腸癌により死亡するリスクが40%(95%CI:1.24から1.58)、
それぞれ有意に増加していました。
矢張り、今回の大規模な検証においても、
ピロリ菌の感染が持続していると、
大腸癌のリスクも増加することは間違いのない事実であるようです。
それでは、何故ピロリ菌の感染が大腸癌と関連しているのでしょうか?
現時点では不明ですが、
ピロリ菌自体が大腸粘膜においても、
発癌を誘発する可能性を示唆する、
実験的なデータが存在しているようです。
そのメカニズムは今後の検証を待つ必要がありますが、
ピロリ菌の除菌は胃癌予防のみならず、
大腸癌予防に対しても一定の有効性が期待出来るので、
その施行はより積極的に行う必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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カルシウムとビタミンDのサプリメントの健康影響(大規模臨床データの解析)
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-18
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。それでは今日の話題です。今日はこちら。Annals of Internal Medicine誌に、2024年3月12日付で掲載された、カルシウムとビタミンDのサプリメントの、閉経後女性への長期の健康影響を解析した論文です。カルシウムとビタミンDは、いずれも骨の健康のためには不可欠の成分で、そのため健康な骨を維持するためには、この2つの栄養素を不足なく摂ることが、必要と考えられています。ただ、実際に骨折のリスクの高い閉経後の女性に、サプリメントとしてカルシウムとビタミンDを投与しても、その骨折予防としての有効性は、多くの臨床研究が施行されたものの、あまり明確な有効性は確認されていません。ただ、ビタミンDには骨に対する作用以外にも、免疫調整作用や抗炎症作用など、多くの健康効果を持つことが報告されていて、トータルにはそのサプリメントの使用が、健康の維持に有効な可能性は否定されていません。今回の研究はアメリカにおいて、36282名の閉経女性を対象とし、くじ引きで2つの群に分けると、一方は1日1000㎎の炭酸カルシウムと、400IUのビタミンD3をサプリメントとして使用し、もう一方は偽薬を使用して、7年間の使用を継続し、その後も含めて中間値で22.3年の健康観察を行って、トータルな予後を比較検証しているものです。その結果、カルシウムとビタミンD使用群では、未使用群と比較して、癌による死亡のリスクが7%(95%CI:0.87から0.99)、有意に低下していた一方で、心血管疾患による死亡のリスクは6%(95%CI:1.01から1.12)、こちらは有意に増加していました。総死亡のリスクについては、両群で有意な差はなく、大腿骨頸部骨折のリスクについても、明確な差は認められませんでした。このように、今回の大規模かつ長期の臨床研究において、閉経後の女性にカルシウムとビタミンDのサプリメントを使用しても、骨折リスクの低下には繋がらず、一部の癌のリスクが低下する可能性がある一方で、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクについては、やや増加する可能性が示唆されました。カルシウムとビタミンDをサプリメントとして使用することの、トータルな健康影響については、まだ明確な結論が得られておらず、その使用には一定のリスクがある可能性もあると、現状はそう考えておいた..
医療のトピック
fujiki
2024-03-18T07:05:40+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Annals of Internal Medicine誌に、
2024年3月12日付で掲載された、
カルシウムとビタミンDのサプリメントの、
閉経後女性への長期の健康影響を解析した論文です。
カルシウムとビタミンDは、
いずれも骨の健康のためには不可欠の成分で、
そのため健康な骨を維持するためには、
この2つの栄養素を不足なく摂ることが、
必要と考えられています。
ただ、実際に骨折のリスクの高い閉経後の女性に、
サプリメントとしてカルシウムとビタミンDを投与しても、
その骨折予防としての有効性は、
多くの臨床研究が施行されたものの、
あまり明確な有効性は確認されていません。
ただ、ビタミンDには骨に対する作用以外にも、
免疫調整作用や抗炎症作用など、
多くの健康効果を持つことが報告されていて、
トータルにはそのサプリメントの使用が、
健康の維持に有効な可能性は否定されていません。
今回の研究はアメリカにおいて、
36282名の閉経女性を対象とし、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は1日1000㎎の炭酸カルシウムと、
400IUのビタミンD3をサプリメントとして使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
7年間の使用を継続し、
その後も含めて中間値で22.3年の健康観察を行って、
トータルな予後を比較検証しているものです。
その結果、
カルシウムとビタミンD使用群では、未使用群と比較して、
癌による死亡のリスクが7%(95%CI:0.87から0.99)、
有意に低下していた一方で、
心血管疾患による死亡のリスクは6%(95%CI:1.01から1.12)、
こちらは有意に増加していました。
総死亡のリスクについては、
両群で有意な差はなく、
大腿骨頸部骨折のリスクについても、
明確な差は認められませんでした。
このように、
今回の大規模かつ長期の臨床研究において、
閉経後の女性にカルシウムとビタミンDのサプリメントを使用しても、
骨折リスクの低下には繋がらず、
一部の癌のリスクが低下する可能性がある一方で、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクについては、
やや増加する可能性が示唆されました。
カルシウムとビタミンDをサプリメントとして使用することの、
トータルな健康影響については、
まだ明確な結論が得られておらず、
その使用には一定のリスクがある可能性もあると、
現状はそう考えておいた方が良さそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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「デューン 砂の惑星 PART2」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-17-2
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は日曜日でクリニックは休診です。休みの日は趣味の話題です。今日はこちら。ドゥニ・ビルヌーブ監督による、スペースオペラの古典「デューン砂の惑星」映画化のパート2が、今ロードショー公開されています。ビルヌーブ監督は「メッセージ」も「ブレードランナー2049」も大好きで、「デューン」の1作目もとても楽しみに鑑賞したのですが、ほぼほぼプロローグだけ、という、「ゴールデンカムイ」状態で、正直かなりガッカリしました。ただ、戦闘シーンなどは、もっと幾らでも盛り上げようはあった筈で、原作からドラマチックな要素を、かなり削ぎ落したような作劇は、ビルヌーブ監督はこういうものは、あまり得意ではないのかしら、という危惧を感じる出来栄えでした。今回の続編は、一応原作の1作目のラストまで描かれているので、前作よりまとまった感じがあって、それなりの満足感はある仕上がりになっていました。ただ、最後怒涛の戦闘シーンを期待したものの、段取りだけで紙芝居的に、「戦いがありまして、こちらが勝ちました」というようにあっさりと終わってしまうので、かなり落胆を感じたことは確かでした。考えてみればビルヌーブ監督の作品で、あまり集団の戦闘場面などは観たことがないので、どうもこうした場面はあまり得意ではないし、それほど興味もないのかしら、というように感じました。これ、欧米とアラブとの対立と和解、みたいなものを描いている作品ですよね。原作自体にもそうした要素はあるのですね。でも、この映画版はよりその要素を拡大して描いていて、キリスト教とイスラム教の対立からキリスト教の没落、みたいなものが描かれ、救世主は誰か、みたいな話もあります。香料というのは、要するに石油のことですよね。今の社会の構図をより明確に取り込んでいて、それが今回の映画化の意図ではあると思うのですが、そのせいでSF的設定やセンスオブワンダーの部分が、何かとても矮小化されてしまった、という感じはあります。パート3もあるかも知れない、というような流れですが、この上「アラビアのロレンス」の後半みたいな展開が、延々と続くことになるのもしんどいなあ、という感じがありますし、個人的にはビルヌーブ監督には、「デューン」はこのくらいで終わりにしてもらって、また新たな異世界を見せて欲しいな、というように思います。映像は確かに凄いですが、「紙芝居」なので、かなり観客を選ぶ映画だと..
映画
fujiki
2024-03-17T12:00:14+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドゥニ・ビルヌーブ監督による、
スペースオペラの古典「デューン砂の惑星」映画化のパート2が、
今ロードショー公開されています。
ビルヌーブ監督は「メッセージ」も「ブレードランナー2049」も大好きで、
「デューン」の1作目もとても楽しみに鑑賞したのですが、
ほぼほぼプロローグだけ、という、
「ゴールデンカムイ」状態で、
正直かなりガッカリしました。
ただ、戦闘シーンなどは、
もっと幾らでも盛り上げようはあった筈で、
原作からドラマチックな要素を、
かなり削ぎ落したような作劇は、
ビルヌーブ監督はこういうものは、
あまり得意ではないのかしら、
という危惧を感じる出来栄えでした。
今回の続編は、一応原作の1作目のラストまで描かれているので、
前作よりまとまった感じがあって、
それなりの満足感はある仕上がりになっていました。
ただ、最後怒涛の戦闘シーンを期待したものの、
段取りだけで紙芝居的に、
「戦いがありまして、こちらが勝ちました」
というようにあっさりと終わってしまうので、
かなり落胆を感じたことは確かでした。
考えてみればビルヌーブ監督の作品で、
あまり集団の戦闘場面などは観たことがないので、
どうもこうした場面はあまり得意ではないし、
それほど興味もないのかしら、
というように感じました。
これ、欧米とアラブとの対立と和解、
みたいなものを描いている作品ですよね。
原作自体にもそうした要素はあるのですね。
でも、この映画版はよりその要素を拡大して描いていて、
キリスト教とイスラム教の対立からキリスト教の没落、
みたいなものが描かれ、
救世主は誰か、みたいな話もあります。
香料というのは、要するに石油のことですよね。
今の社会の構図をより明確に取り込んでいて、
それが今回の映画化の意図ではあると思うのですが、
そのせいでSF的設定やセンスオブワンダーの部分が、
何かとても矮小化されてしまった、
という感じはあります。
パート3もあるかも知れない、
というような流れですが、
この上「アラビアのロレンス」の後半みたいな展開が、
延々と続くことになるのもしんどいなあ、
という感じがありますし、
個人的にはビルヌーブ監督には、
「デューン」はこのくらいで終わりにしてもらって、
また新たな異世界を見せて欲しいな、
というように思います。
映像は確かに凄いですが、
「紙芝居」なので、
かなり観客を選ぶ映画だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
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大腸癌の血液検査によるスクリーニング(Shieldテスト)
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-16
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は土曜日で、午前午後とも石原が外来を担当する予定です。それでは今日の話題です。今日はこちら。the New England Journal of Medicine誌に、2024年3月14日付で掲載された、新しい血液による大腸癌検診の有効性についての論文です。大腸癌の多くは早期に発見されれば、その治療の予後は良く、そのため検診のメリットが大きな癌として知られています。現行の大腸癌検診は、問診と便の潜血反応と呼ばれる検査を基本として、検査で異常が見つかったり、症状から病気を疑った場合には、大腸内視鏡検査(含む直腸からS状結腸内視鏡)によって、その診断を行うという方法が一般的です。この方法は優れた検診法として、その評価は確立していますが、便潜血は痔など他の病気でも陽性になることがあり、癌になる前の癌リスクの高いポリープなどでは、陽性率は高くない、などの欠点があります。また、便を採取することが煩わしいと考える人も多く、検診の受診率が思ったほど上がらない、という問題もあります。そのため、より精度の高い簡便なスクリーニング検査が、求められているのです。その候補として最近登場したのが、便や血液で癌細胞由来の遺伝子を検出し、それを便潜血検査の代わりに使用する、という方法です。今回紹介されているのは、そのうちの1つが癌細胞由来の遺伝子を、血液で検出するという方法です。 細胞の崩壊に伴って、血液中に癌由来の遺伝子の断片が流出します。これをcell free DNA(cfDNA)と呼んでいます。このcfDNAを高感度の測定法によって検出するのです。この検査は、「Shield 大腸がん ctDNA 検査」と呼ばれ、アメリカのガーダントヘルス社の製品で、日本では検査会社のBMLを介して販売されています。基本採血のみの検査ですが、検査は数十万円と高額で、血液も40ミリリットルほど必要であるようです。その精度はどのくらいのものなのでしょうか?今回の研究では、年齢が45から84歳で平均的な大腸癌リスクがあり、大腸内視鏡検査をしたトータル10258名を対象として、血液の癌検査を施行、その結果を比較検証してます。最終的にそのうちの7861名が解析されています。その結果、大腸癌が検出された人のうち83.1%は血液検査が陽性となり、16.9%は陰性の結果でした。つまりこの遺伝子検査の検出感度は、83.1%(..
医療のトピック
fujiki
2024-03-16T08:24:19+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年3月14日付で掲載された、
新しい血液による大腸癌検診の有効性についての論文です。
大腸癌の多くは早期に発見されれば、
その治療の予後は良く、
そのため検診のメリットが大きな癌として知られています。
現行の大腸癌検診は、
問診と便の潜血反応と呼ばれる検査を基本として、
検査で異常が見つかったり、症状から病気を疑った場合には、
大腸内視鏡検査(含む直腸からS状結腸内視鏡)によって、
その診断を行うという方法が一般的です。
この方法は優れた検診法として、
その評価は確立していますが、
便潜血は痔など他の病気でも陽性になることがあり、
癌になる前の癌リスクの高いポリープなどでは、
陽性率は高くない、などの欠点があります。
また、便を採取することが煩わしいと考える人も多く、
検診の受診率が思ったほど上がらない、
という問題もあります。
そのため、より精度の高い簡便なスクリーニング検査が、
求められているのです。
その候補として最近登場したのが、
便や血液で癌細胞由来の遺伝子を検出し、
それを便潜血検査の代わりに使用する、
という方法です。
今回紹介されているのは、
そのうちの1つが癌細胞由来の遺伝子を、
血液で検出するという方法です。
細胞の崩壊に伴って、
血液中に癌由来の遺伝子の断片が流出します。
これをcell free DNA(cfDNA)と呼んでいます。
このcfDNAを高感度の測定法によって検出するのです。
この検査は、
「Shield 大腸がん ctDNA 検査」と呼ばれ、
アメリカのガーダントヘルス社の製品で、
日本では検査会社のBMLを介して販売されています。
基本採血のみの検査ですが、
検査は数十万円と高額で、
血液も40ミリリットルほど必要であるようです。
その精度はどのくらいのものなのでしょうか?
今回の研究では、
年齢が45から84歳で平均的な大腸癌リスクがあり、
大腸内視鏡検査をしたトータル10258名を対象として、
血液の癌検査を施行、
その結果を比較検証してます。
最終的にそのうちの7861名が解析されています。
その結果、
大腸癌が検出された人のうち83.1%は血液検査が陽性となり、
16.9%は陰性の結果でした。
つまりこの遺伝子検査の検出感度は、
83.1%(95%CI:72.2から90.3)でした。
大腸内視鏡検査で大腸癌やその前癌病変が認められなかった人のうち、
血液検査も陰性であったのは89.6%で、
残りの10.4%は血液検査は陽性でした。
この検査の大腸癌と前癌病変についての感度は、
89.6%(95%CI:88.8から90.3)と算出されました。
このように、
便潜血検査と同等以上の有用性が、
血液の癌由来遺伝子検査にあることは間違いがありません。
血液検査である点も利点です。
ただ、偽陰性や偽陽性は一定レベルは認められています。
また現時点では非常に高額な検査なので、
すぐにこの検査を一般の検診に導入する、
ということにはならないと思います。
別個に便の遺伝子検査の研究も進んでいて、
今後どのような検査を組み合わせて実施することが、
コスパや有効性を含めて適切であるのか、
何らかの指針がまとめられることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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大西洋ダイエットの健康効果
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-13-2
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。それでは今日の話題です。今日はこちら。JAMA Network Open誌に、2024年2024年2月7日付で掲載された、スペイン発の大西洋ダイエットの健康効果についての論文です。健康に良い食事の代表として、推奨されることの多い食事習慣の1つが、「地中海ダイエット」と呼ばれるものです。これは地中海に面したギリシャなどの食生活を、1つの典型としているもので、その内容は必ずしも報告や研究で一致している訳ではありませんが、ナッツやオリーブオイルを多く摂り、野菜や果物、魚を多く摂り、赤身肉や加工肉はあまり摂らない、というような特徴は一定しています。今回の研究で対象となっている、「大西洋ダイエット(Atlantic Diet)というのは、スペインやポルトガルの一部の伝統食を元にしたもので、野菜や果物、ナッツやオリーブオイルなどを多く摂る点は、地中海ダイエットと同じですが、それに加えてポテトやパンを多く摂り、ドライフルーツや乳製品も多く摂る、という点に特色があり、地中海ダイエットより肉やワインの摂取も多い、と記載されています。つまり、地中海ダイエットより、動物性脂肪や炭水化物が、やや多いという違いがあるのです。今回の研究はこの大西洋ダイエットを広めたいスペインにおいて、通常の食事と大西洋ダイエットを比較して、その健康面での有効性を検証しているものですが、今時の特徴として、環境への負荷に配慮し、二酸化炭素の排出量(カーボンフットプリント)の、比較も行っている点が特徴です。対象となっているのはスペインの250の家族で、くじ引きで2つの群に分けると、一方はそれまでと同じ食事を継続し、もう一方は専門的な指導の元に、大西洋ダイエットを実践して、その効果を6か月に渡って観察しています。有効性の指標となっているのは、所謂メタボリックシンドロームの比率で、食事の変化により、メタボの改善がどの程度見られたのかを比較しています。この場合のメタボの基準は、血圧などの検査値は日本のものと同等ですが、腹囲については、男性が110センチを超える、女性が88センチを超える、という日本とは異なる基準が採用されています。その結果、通常の食事と比較して、家族に大西洋ダイエットを指導すると、観察期間中のメタボの発症リスクは68%(95%CI..
医療のトピック
fujiki
2024-03-13T17:24:53+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2024年2024年2月7日付で掲載された、
スペイン発の大西洋ダイエットの健康効果についての論文です。
健康に良い食事の代表として、
推奨されることの多い食事習慣の1つが、
「地中海ダイエット」と呼ばれるものです。
これは地中海に面したギリシャなどの食生活を、
1つの典型としているもので、
その内容は必ずしも報告や研究で一致している訳ではありませんが、
ナッツやオリーブオイルを多く摂り、
野菜や果物、魚を多く摂り、
赤身肉や加工肉はあまり摂らない、
というような特徴は一定しています。
今回の研究で対象となっている、
「大西洋ダイエット(Atlantic Diet)というのは、
スペインやポルトガルの一部の伝統食を元にしたもので、
野菜や果物、ナッツやオリーブオイルなどを多く摂る点は、
地中海ダイエットと同じですが、
それに加えてポテトやパンを多く摂り、
ドライフルーツや乳製品も多く摂る、
という点に特色があり、
地中海ダイエットより肉やワインの摂取も多い、
と記載されています。
つまり、地中海ダイエットより、
動物性脂肪や炭水化物が、
やや多いという違いがあるのです。
今回の研究はこの大西洋ダイエットを広めたいスペインにおいて、
通常の食事と大西洋ダイエットを比較して、
その健康面での有効性を検証しているものですが、
今時の特徴として、
環境への負荷に配慮し、
二酸化炭素の排出量(カーボンフットプリント)の、
比較も行っている点が特徴です。
対象となっているのはスペインの250の家族で、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はそれまでと同じ食事を継続し、
もう一方は専門的な指導の元に、
大西洋ダイエットを実践して、
その効果を6か月に渡って観察しています。
有効性の指標となっているのは、
所謂メタボリックシンドロームの比率で、
食事の変化により、
メタボの改善がどの程度見られたのかを比較しています。
この場合のメタボの基準は、
血圧などの検査値は日本のものと同等ですが、
腹囲については、
男性が110センチを超える、女性が88センチを超える、
という日本とは異なる基準が採用されています。
その結果、
通常の食事と比較して、
家族に大西洋ダイエットを指導すると、
観察期間中のメタボの発症リスクは68%(95%CI:0.13から0.79)、
個別のメタボの項目のリスクは42%(95%CI:0.42から0.82)、
それぞれ有意に低下していました。
一方で二酸化炭素の家庭毎の排出量については、
両群で明確な差は見られませんでした。
正直大西洋ダイエットと地中海ダイエットの違いは、
それほど大きなものとは言えないように思いますが、
食事指導を継続的に行うことにより、
半年程度の期間でもメタボの改善には結びつく、
という結果と考えれば、
意義のある研究ではあったように思います。
地中海ダイエットが持ち上げられ過ぎたので、
スペインやポルトガルとしては、
「いやいやうちの食事も大して違いはないぞ」
という意思表示のようにも思われ、
健康のみならず健康負荷まで評価して、
各地域の料理を比較し序列化するようになるのは、
ちょっと行き過ぎのような気がしなくもありませんが、
良くも悪くも食事もその価値を、
多角的に競争する時代になったのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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マイクロプラスチックとナノプラスチックの動脈硬化への影響
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-11
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。それでは今日の話題です。今日はこちら。the New England Journal of Medicine誌に、2024年3月7日付で掲載された、最近問題となっているプラスチックの身体への影響を検証した論文です。近年プラスチックの環境破壊が注目され、プラスチックの使用量を減らし、環境汚染を減らそうとする試みが広く行われています。これは主に環境への影響で、私達の身体への直接の影響ではありません。プラスチックそのものが体内に蓄積することは、通常はないと考えられていたからです。しかし、プラスチックが分解劣化し、非常に微細な細片となると、それが食品に混ざって体内に入ったり、空気中の微粒子となって呼吸で肺に取り込まれたり、皮膚から吸収されるという可能性が否定は出来ません。このプラスチックの細片のうち、大きさが1μmから5mmのものをマイクロプラスチック、より小さくnm(ナノメートル)レベルのものを、ナノプラスチックと呼び、上記論文ではこれを総称して、MNPs(Microplastics and Nanoplastics)と呼んでいいます。最近ではペットボトルの水の中に、一定レベルのナノプラスチックが同定された、という論文が発表されて話題となりました。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38190543/つまり、こうした分解劣化したプラスチックの細片が、私達の身体の中に存在していることは、ほぼ間違いのないことなのです。それでは、その健康影響はどの程度のものなのでしょうか?今回の研究では、頸動脈の動脈硬化病変に対して、血管内治療を行った304名の患者から採取された、動脈硬化巣(プラーク)の組織で、マイクロプラスチックとナノプラスチックの測定を行い、それが健康に与える影響を検証しています。その後の観察期間を完遂して解析対象となっているのは、そのうちの257名です。その結果、全体の58.4%に当たる150名で、プラスチックの成分であるポリエチレンが、頸動脈のプラークから検出され、そのうちの31名では、通常の測定法でポリ塩化ビニールが定量されました。そして平均で33.7か月(±6.9)の経過観察期間中に、心筋梗塞や脳卒中を発症したか、もしくは死亡したのは、プラスチックの細片が検出されなかった事例では7.5%であったの..
医療のトピック
fujiki
2024-03-11T07:41:57+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年3月7日付で掲載された、
最近問題となっているプラスチックの身体への影響を検証した論文です。
近年プラスチックの環境破壊が注目され、
プラスチックの使用量を減らし、
環境汚染を減らそうとする試みが広く行われています。
これは主に環境への影響で、
私達の身体への直接の影響ではありません。
プラスチックそのものが体内に蓄積することは、
通常はないと考えられていたからです。
しかし、プラスチックが分解劣化し、
非常に微細な細片となると、
それが食品に混ざって体内に入ったり、
空気中の微粒子となって呼吸で肺に取り込まれたり、
皮膚から吸収されるという可能性が否定は出来ません。
このプラスチックの細片のうち、
大きさが1μmから5mmのものをマイクロプラスチック、
より小さくnm(ナノメートル)レベルのものを、
ナノプラスチックと呼び、
上記論文ではこれを総称して、
MNPs(Microplastics and Nanoplastics)と呼んでいいます。
最近ではペットボトルの水の中に、
一定レベルのナノプラスチックが同定された、
という論文が発表されて話題となりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38190543/
つまり、こうした分解劣化したプラスチックの細片が、
私達の身体の中に存在していることは、
ほぼ間違いのないことなのです。
それでは、その健康影響はどの程度のものなのでしょうか?
今回の研究では、
頸動脈の動脈硬化病変に対して、
血管内治療を行った304名の患者から採取された、
動脈硬化巣(プラーク)の組織で、
マイクロプラスチックとナノプラスチックの測定を行い、
それが健康に与える影響を検証しています。
その後の観察期間を完遂して解析対象となっているのは、
そのうちの257名です。
その結果、
全体の58.4%に当たる150名で、
プラスチックの成分であるポリエチレンが、
頸動脈のプラークから検出され、
そのうちの31名では、
通常の測定法でポリ塩化ビニールが定量されました。
そして平均で33.7か月(±6.9)の経過観察期間中に、
心筋梗塞や脳卒中を発症したか、もしくは死亡したのは、
プラスチックの細片が検出されなかった事例では7.5%であったのに対して、
検出された事例では20.0%という高率になっていました。
今回の研究はまだ確定的なものではなく、
マイクロプラスチックやナノプラスチックの健康影響は、
仮定の域を出るものではありませんが、
こうしたプラスチックの細片が、
炎症などの病変部位に蓄積すること自体は、
おそらくは事実であると考えられ、
その健康影響を含めて、
今後の研究の蓄積を注視したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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「セッション」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-10-2
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は日曜日でクリニックは休診です。休みの日は趣味の話題です。今日はこちら。デイミアン・チャゼルを有名にした、2014年のアメリカ映画で、再上映が行われていたので、これは映画館で是非と思い足を運びました。師弟の壮絶な対決を描いた音楽映画で、最初から最後までまさに才気迸るという感じです。プロのジャズドラマーを目指す、屈折した家庭環境を持つ青年が、一流の音楽学校で強烈な個性を持つ教師と出会い、そのパワハラとしか思えないような指導を受けるうちに、精神の均衡を崩してゆきます。最初から全く無駄のない作劇で、ぐいぐいと作品世界に引き込まれますし、教師を演じたJ・K・シモンズさんの個性が強烈で、素材がドラム演奏というのが、また非常に映像的で素晴らしいのです。上映時間は107分なのですが、非常に作劇が濃密なので、良い意味でもっと長いような印象があります。前半を観ると「フルメタルジャケット」みたいな感じなんですね。これだと追い詰められた主人公が、最後に狂気に陥って暴力的に反逆して、それで終わりではないか、というように思ってしまうのですが、確かにそうしたパートはありながら、物語はそれで終わらず、その後でもっと良いお話に着地しかけ、それはそれで良いのかしら、と思っていると、更にそれがひっくり返されて、殆どの観客の想像を超えるような、鮮やかなラストに着地します。後半の展開には特にしびれるものがあるのですが、何と言ってもラストが素晴らしいですよね。これ以上はないという鮮やかなタイミングで終わります。最近はいつ終わったのか分からないような、タラタラしたエンディングの作品も多く、それはそれで時代なのかな、とも思うのですが、この映画のようにビシッとラストの決まった作品を観ると、やっぱりこれだよね、という気持ちになります。いずれにしても天才監督の才気が迸る傑作で、かなりインテリ臭が強いので、その辺りの好き嫌いは分かれるところですが、必見であることは間違いがありません。それでは今日はこのくらいで。皆さんも良い休日をお過ごし下さい。石原がお送りしました。
映画
fujiki
2024-03-10T18:48:53+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
デイミアン・チャゼルを有名にした、
2014年のアメリカ映画で、
再上映が行われていたので、
これは映画館で是非と思い足を運びました。
師弟の壮絶な対決を描いた音楽映画で、
最初から最後までまさに才気迸るという感じです。
プロのジャズドラマーを目指す、
屈折した家庭環境を持つ青年が、
一流の音楽学校で強烈な個性を持つ教師と出会い、
そのパワハラとしか思えないような指導を受けるうちに、
精神の均衡を崩してゆきます。
最初から全く無駄のない作劇で、
ぐいぐいと作品世界に引き込まれますし、
教師を演じたJ・K・シモンズさんの個性が強烈で、
素材がドラム演奏というのが、
また非常に映像的で素晴らしいのです。
上映時間は107分なのですが、
非常に作劇が濃密なので、
良い意味でもっと長いような印象があります。
前半を観ると「フルメタルジャケット」みたいな感じなんですね。
これだと追い詰められた主人公が、
最後に狂気に陥って暴力的に反逆して、
それで終わりではないか、
というように思ってしまうのですが、
確かにそうしたパートはありながら、
物語はそれで終わらず、
その後でもっと良いお話に着地しかけ、
それはそれで良いのかしら、
と思っていると、
更にそれがひっくり返されて、
殆どの観客の想像を超えるような、
鮮やかなラストに着地します。
後半の展開には特にしびれるものがあるのですが、
何と言ってもラストが素晴らしいですよね。
これ以上はないという鮮やかなタイミングで終わります。
最近はいつ終わったのか分からないような、
タラタラしたエンディングの作品も多く、
それはそれで時代なのかな、とも思うのですが、
この映画のようにビシッとラストの決まった作品を観ると、
やっぱりこれだよね、という気持ちになります。
いずれにしても天才監督の才気が迸る傑作で、
かなりインテリ臭が強いので、
その辺りの好き嫌いは分かれるところですが、
必見であることは間違いがありません。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
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「落下の解剖学」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-09
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。土曜日は趣味の話題です。今日はこちら。フランスのジュスティーヌ・トリエ監督の新作が、今ロードショー公開されています。2023年のカンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作です。カンヌのパルムドールというのは、かなり異常でヘンテコな作品が多く、アメリカのアカデミー賞の受賞作が、最近は流行に合わせて変なものもありますが、概ね倫理的な「良いお話」が選ばれるのに対して、突飛で通常の倫理観からは逸脱した怪作が選ばれることが多い、という特徴があります。カンヌのパルムドールは芥川賞で、アカデミー賞は直木賞、くらいの違いがあります。カンヌのパルムドールを数年間分一気見すると、頭が正常ではなくなること必定です。その系譜の中では今回の作品は、比較的破綻のなくまとまっている、割合と優等生的な作品で、米アカデミー賞を取ることはないと思いますが、取っても不思議はないくらいの映画にはなっています。フランスの田舎の山荘に、ドイツ人の夫と高名なドイツ出身の作家の妻、そして4歳の時の事故のために高度の弱視となった息子が住んでいます。ある日息子が愛犬と散歩をしていた間に、屋根裏部屋から転落した夫が死亡し、家で寝ていたと主張する作家の妻に、夫殺しの嫌疑が掛かります。舞台は雪の山荘で密室ですから、夫の死は、事故死か自殺か妻による殺人の、3択しかないのですが、妻が殺人容疑で起訴され、彼女と旧知の間柄の弁護士が立つことで、事件は裁判の場に舞台を移してゆきます。どんでん返しのあるミステリーのような出だしですが、勿論そうではなく、裁判自体は決着が付きますが、「真相」は明らかにされることなく終わります。大岡昇平さんの「事件」に近い感じのお話ですね。少年がキーになるところも似ています。ただ、内容は「事件」よりもっとモヤモヤしていて、観客のカタルシスは一切ありません。それでも真相を観客が推測するための情報は、過剰なくらいに与えられているので、実際に起こった事件を、報道からああだこうだと、茶の間で議論しているのと同じような水準と、言えなくもありません。役者の演技は非常に卓越していて、一家の愛犬がまた、人間に匹敵する芝居をしています。1つの家族の悲劇が克明に描かれるのですが、作り手が誰かに肩入れしているという感じではなくて、それこそ解剖するように、人間の心理の綾が切り分けられてゆ..
映画
fujiki
2024-03-09T13:35:10+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
フランスのジュスティーヌ・トリエ監督の新作が、
今ロードショー公開されています。
2023年のカンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作です。
カンヌのパルムドールというのは、
かなり異常でヘンテコな作品が多く、
アメリカのアカデミー賞の受賞作が、
最近は流行に合わせて変なものもありますが、
概ね倫理的な「良いお話」が選ばれるのに対して、
突飛で通常の倫理観からは逸脱した怪作が選ばれることが多い、
という特徴があります。
カンヌのパルムドールは芥川賞で、
アカデミー賞は直木賞、くらいの違いがあります。
カンヌのパルムドールを数年間分一気見すると、
頭が正常ではなくなること必定です。
その系譜の中では今回の作品は、
比較的破綻のなくまとまっている、
割合と優等生的な作品で、
米アカデミー賞を取ることはないと思いますが、
取っても不思議はないくらいの映画にはなっています。
フランスの田舎の山荘に、
ドイツ人の夫と高名なドイツ出身の作家の妻、
そして4歳の時の事故のために高度の弱視となった息子が住んでいます。
ある日息子が愛犬と散歩をしていた間に、
屋根裏部屋から転落した夫が死亡し、
家で寝ていたと主張する作家の妻に、
夫殺しの嫌疑が掛かります。
舞台は雪の山荘で密室ですから、
夫の死は、事故死か自殺か妻による殺人の、
3択しかないのですが、
妻が殺人容疑で起訴され、
彼女と旧知の間柄の弁護士が立つことで、
事件は裁判の場に舞台を移してゆきます。
どんでん返しのあるミステリーのような出だしですが、
勿論そうではなく、
裁判自体は決着が付きますが、
「真相」は明らかにされることなく終わります。
大岡昇平さんの「事件」に近い感じのお話ですね。
少年がキーになるところも似ています。
ただ、内容は「事件」よりもっとモヤモヤしていて、
観客のカタルシスは一切ありません。
それでも真相を観客が推測するための情報は、
過剰なくらいに与えられているので、
実際に起こった事件を、
報道からああだこうだと、
茶の間で議論しているのと同じような水準と、
言えなくもありません。
役者の演技は非常に卓越していて、
一家の愛犬がまた、
人間に匹敵する芝居をしています。
1つの家族の悲劇が克明に描かれるのですが、
作り手が誰かに肩入れしているという感じではなくて、
それこそ解剖するように、
人間の心理の綾が切り分けられてゆくので、
観た側がそれを自分で物語に仕立てて理解する、
という趣向の映画なんですね。
作り手の視点を排除しているので、
居心地の良くない感じはあるのですが、
それはそれと割り切って観ることが出来れば、
なかなかの魅力を感じることが出来る映画だと思います。
勿論これならノンフィクションでいいではないか、
という批判は成立するのですね。
でも、ノンフィクションでは実際の人間に、
迷惑やストレスが掛かる結果になるでしょ。
それがないのがフィクションの魅力だと思いますし、
それを言いたいので、
主人公も現実を元にして創作する作家にして、
そこにテーマを語らせているんですね。
そんな訳でなかなかの骨太な力作で、
個人的には楽しめましたが、
「何が言いたいんだ!」と怒る方もあるかと思います。
観る人を選ぶ映画の1つなので、
くれぐれも真相の明らかになるお話ではない、
自分で自分なりの真相を作る作品なのだ、
ということを理解して鑑賞するのが吉だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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単純ヘルペスウイルス感染症と認知症リスク
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-08
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は金曜日でクリニックは休診ですが、レセプト作業など事務作業の予定です。それでは今日の話題です。今日はこちら。Journal of Alzheimer's Disease誌に2024年2月付で掲載された、非常に一般的なウイルスによる感染と、認知症リスクとの関連についての論文です。認知症のメカニズムには不明の点も多く、ウイルス感染がそのリスクになるという報告も複数あります。その中で報告の多いものの1つが、単純ヘルペスウイルスの感染です。たとえば、2008年の論文では、急性の感染を示す単純ヘルペスウイルスのIgM抗体が陽性であると、アルツハイマー病のリスクが2.55倍増加した、とするデータが報告されています。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18982063/また、2015年の別の論文では、今度はIgG抗体が陽性であると、アルツハイマー病のリスクが1.636倍増加した、とするデータ報告されています。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25304990/ただ、2008年の論文ではIgG抗体との関連はなかった、という結果になっていますから、データが必ずしも一致しているという訳ではありません。今回の研究はスウェーデンにおいて、70歳で認知症の兆候のないトータル1002名の一般住民を、15年間という長期に渡り観察したものですが、単純ヘルペスウイルスとサイトメガロウイルスの血清抗体価と、認知症の発症との関連を検証しているものです。サイトメガロウイルスというのはヘルペスウイルスの一種で、抗体の陽性率も高いため、一緒に検証されています。抗体はIgM抗体とIgG抗体が測定されていますが、感染の急性期のみに上昇するのがIgM抗体で、IgG抗体は感染後しばらくして上昇すると、長期に渡り陽性となるので、その感染の既往を表しています。その結果、累積のアルツハイマー病の罹患率は4%で、全ての認知症の罹患率は7%でした。全体の82%の対象者は単純ヘルペスウイルスのIgG抗体陽性で、この抗体の陽性者は陰性者と比較して、観察期間中に認知症を発症するリスクが、2.26倍(95%CI:1.08から4.72)有意に増加していました。アルツハイマー病単独のリスクも、2.24倍(95%CI:0.79から6.33)増加する傾向は示しましたが、統計的に有意ではあ..
医療のトピック
fujiki
2024-03-08T10:39:03+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
レセプト作業など事務作業の予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Journal of Alzheimer's Disease誌に2024年2月付で掲載された、
非常に一般的なウイルスによる感染と、
認知症リスクとの関連についての論文です。
認知症のメカニズムには不明の点も多く、
ウイルス感染がそのリスクになるという報告も複数あります。
その中で報告の多いものの1つが、
単純ヘルペスウイルスの感染です。
たとえば、2008年の論文では、
急性の感染を示す単純ヘルペスウイルスのIgM抗体が陽性であると、
アルツハイマー病のリスクが2.55倍増加した、
とするデータが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18982063/
また、2015年の別の論文では、
今度はIgG抗体が陽性であると、
アルツハイマー病のリスクが1.636倍増加した、
とするデータ報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25304990/
ただ、2008年の論文ではIgG抗体との関連はなかった、
という結果になっていますから、
データが必ずしも一致しているという訳ではありません。
今回の研究はスウェーデンにおいて、
70歳で認知症の兆候のないトータル1002名の一般住民を、
15年間という長期に渡り観察したものですが、
単純ヘルペスウイルスとサイトメガロウイルスの血清抗体価と、
認知症の発症との関連を検証しているものです。
サイトメガロウイルスというのはヘルペスウイルスの一種で、
抗体の陽性率も高いため、一緒に検証されています。
抗体はIgM抗体とIgG抗体が測定されていますが、
感染の急性期のみに上昇するのがIgM抗体で、
IgG抗体は感染後しばらくして上昇すると、
長期に渡り陽性となるので、
その感染の既往を表しています。
その結果、
累積のアルツハイマー病の罹患率は4%で、
全ての認知症の罹患率は7%でした。
全体の82%の対象者は単純ヘルペスウイルスのIgG抗体陽性で、
この抗体の陽性者は陰性者と比較して、
観察期間中に認知症を発症するリスクが、
2.26倍(95%CI:1.08から4.72)有意に増加していました。
アルツハイマー病単独のリスクも、
2.24倍(95%CI:0.79から6.33)増加する傾向は示しましたが、
統計的に有意ではありませんでした。
一方で単純ヘルペスのIgM抗体とサイトメガロウイルスIgG抗体の陽性率、
単純ヘルペスウイルス感染症の治療の有無、
単純毛ヘルペスとサイトメガロウイルスの抗体価については、
認知症のリスクと明確な関連を示していませんでした。
このように、
今回の検証においては、
トータルな認知症リスクと、
単純ヘルペスの抗体陽性(その既往あり)との間には、
一定の関連が認められた一方で、
アルツハイマー病との間では、
有意な関連は認められませんでした。
この結果はかなり微妙なもので、
データを見るとその信頼区間は非常に大きく、
認知症とアルツハイマー病との間に、
それほどの差はないようにも思えます。
単純ヘルペス感染症の既往と、
その後の認知症の発症との間には、
一定の関連のあること自体は事実と言って良さそうですが、
その解釈やアルツハイマー病との関連などについては、
まだ今後の検証が必要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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うつ病の運動療法(2024年メタ解析)
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-07-1
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。それでは今日の話題です。今日はこちら。British Medical Journal誌に、2024年2月14日付で掲載された、うつ病の有効な運動を検証したメタ解析の論文です。うつ病の現状の治療の柱は、心理療法と薬物療法ですが、それらを補う意味で注目されているのが運動療法です。うつ病においては通常活動性が低下するため、糖尿病や心臓病、肥満などのリスクを高めることも知られています。運動にはリラクゼーションの効果もありますし、緊張で硬直した身体をほぐすことは、脳にも良い影響を与える可能性が想定されます。また、うつ病に併発する生活習慣病などの予防にも繋がるのです。しかし、実際にどのような運動をすることが、うつ病において適していて、治療効果が望めるのか、というような点については、これまであまり明確なことが分かっていませんでした。今回の研究は、これまでの主だったうつ病に対する運動療法の効果を検証した、介入試験のデータをまとめて解析することで、この問題の検証を行っています。これまでの218の臨床研究に含まれる、トータルで14170名のうつ病患者のデータをまとめて解析したところ、ウォーキングやジョギング、ヨガ、筋力トレーニング、の3者が他の運動よりうつ病の改善への有効性があり、運動強度は高いほど有効性も増すことが確認されました。特に患者さんへの受け入れにおいて、ヨガと筋力トレーニングがより優れていました。今後こうしたデータを元にして、うつ病の患者さんにおける運動療法が、より科学的に整備され活用されることを期待したいと思います。それでは今日はこのくらいで。今日が皆さんにとっていい日でありますように。石原がお送りしました。
医療のトピック
fujiki
2024-03-07T07:44:14+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2024年2月14日付で掲載された、
うつ病の有効な運動を検証したメタ解析の論文です。
うつ病の現状の治療の柱は、
心理療法と薬物療法ですが、
それらを補う意味で注目されているのが運動療法です。
うつ病においては通常活動性が低下するため、
糖尿病や心臓病、肥満などのリスクを高めることも知られています。
運動にはリラクゼーションの効果もありますし、
緊張で硬直した身体をほぐすことは、
脳にも良い影響を与える可能性が想定されます。
また、うつ病に併発する生活習慣病などの予防にも繋がるのです。
しかし、実際にどのような運動をすることが、
うつ病において適していて、治療効果が望めるのか、
というような点については、
これまであまり明確なことが分かっていませんでした。
今回の研究は、
これまでの主だったうつ病に対する運動療法の効果を検証した、
介入試験のデータをまとめて解析することで、
この問題の検証を行っています。
これまでの218の臨床研究に含まれる、
トータルで14170名のうつ病患者のデータをまとめて解析したところ、
ウォーキングやジョギング、ヨガ、筋力トレーニング、
の3者が他の運動よりうつ病の改善への有効性があり、
運動強度は高いほど有効性も増すことが確認されました。
特に患者さんへの受け入れにおいて、
ヨガと筋力トレーニングがより優れていました。
今後こうしたデータを元にして、
うつ病の患者さんにおける運動療法が、
より科学的に整備され活用されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症罹患後の認知機能低下(イギリスの疫学データ)
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-06-1
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、午後は終日レセプト作業の予定です。それでは今日の話題です。今日はこちら。the New England Journal of Medicine誌に、2024年2月29日付で掲載された、新型コロナウイルス感染症罹患後の、認知機能低下についての論文です。新型コロナウイルス感染症の罹患後には、様々な「後遺症」と呼ばれるような体調不良が、遷延することが報告されています。そのうちの1つが、「頭がぼんやりして集中出来ない」、「物忘れが強くなった」、などの認知機能の低下です。こうした現象のあること自体は間違いがありませんし、私自身も集中力低下などの症状が持続して、長期仕事を休まざるを得なくなった事例を経験しています。ただ、実際の認知機能低下がどの程度のもので、どのくらい持続しているのか、というような点については、客観的なデータが不足しています。そこで今回の研究はイギリスにおいて、141583名の一般住民にオンラインで認知機能の検査を施行。検査を完遂した112964名の解析を施行しています。その結果を新型コロナウイルス感染症の既往の有無で比較検証したところ、新型コロナウイルス感染症に罹患して回復した人は、感染の既往のない人と比較して、0.2SD程度の軽度の認知機能の低下を認めました。これはIQ検査での3点の低下と同等のものと試算されています。新型コロナ感染の症状が12週を超えて持続していた人では、感染の既往のない人と比較して、より大きく0.4SD程度の低下を示していました。また集中治療室に入室した重症の新型コロナ感染の罹患後では、認知機能低下はより大きく0.63SDに達し、これはIQ検査で9点の低下と同程度と試算されました。このように、程度はそれほど大きなものではありませんが、新型コロナ感染後には認知機能の低下が持続的に認められ、特に他の症状も長期持続していたり、重症化したような事例において、より大きな低下が認められる傾向があるようです。それでは今日はこのくらいで。今日が皆さんにとっていい日でありますように。石原がお送りしました。
医療のトピック
fujiki
2024-03-06T22:36:39+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年2月29日付で掲載された、
新型コロナウイルス感染症罹患後の、
認知機能低下についての論文です。
新型コロナウイルス感染症の罹患後には、
様々な「後遺症」と呼ばれるような体調不良が、
遷延することが報告されています。
そのうちの1つが、
「頭がぼんやりして集中出来ない」、
「物忘れが強くなった」、
などの認知機能の低下です。
こうした現象のあること自体は間違いがありませんし、
私自身も集中力低下などの症状が持続して、
長期仕事を休まざるを得なくなった事例を経験しています。
ただ、実際の認知機能低下がどの程度のもので、
どのくらい持続しているのか、
というような点については、
客観的なデータが不足しています。
そこで今回の研究はイギリスにおいて、
141583名の一般住民にオンラインで認知機能の検査を施行。
検査を完遂した112964名の解析を施行しています。
その結果を新型コロナウイルス感染症の既往の有無で比較検証したところ、
新型コロナウイルス感染症に罹患して回復した人は、
感染の既往のない人と比較して、
0.2SD程度の軽度の認知機能の低下を認めました。
これはIQ検査での3点の低下と同等のものと試算されています。
新型コロナ感染の症状が12週を超えて持続していた人では、
感染の既往のない人と比較して、
より大きく0.4SD程度の低下を示していました。
また集中治療室に入室した重症の新型コロナ感染の罹患後では、
認知機能低下はより大きく0.63SDに達し、
これはIQ検査で9点の低下と同程度と試算されました。
このように、
程度はそれほど大きなものではありませんが、
新型コロナ感染後には認知機能の低下が持続的に認められ、
特に他の症状も長期持続していたり、
重症化したような事例において、
より大きな低下が認められる傾向があるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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卵の脂肪肝に対する有効性(イタリアの疫学データ)
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-04-1
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。それでは今日の話題です。今日はこちら。Nutients誌に2024年1月31日付で掲載された、卵の健康効果についての論文です。卵と健康との関連については、色々な見方があります。卵黄には1個に200ミリグラムを超えるコレステロールが含まれています。血液のコレステロールが高いと、動脈硬化が進行しやすいという知見が得られてから、食事のコレステロールを制限しようという動きが、世界的に高まり、そこで提唱された基準が、食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にする、というものです。これを達成するためには、卵をなるべく食べないことが、必要不可欠ですから、卵の制限が、健康のためには必要であると考えられたのです。ところが2016年に公表されたアメリカのガイドラインにおいては、食事のコレステロールを制限しても、血液のコレステロールを減らせるという根拠は乏しいとして、その目標値は削除されました。これは、「コレステロールの食事制限は不要」として、一般にも報道されました。その報道には誤解を招く点があり、実際には数値目標が外れただけで、コレステロールの制限自体は推奨されていたのですが、コレステロールに制限は要らない、という誤ったメッセージに受け取られたことは、残念でした。その後様々の研究データが発表されましたが、概ね1日1個を超えない卵の摂取については、大きな健康リスクはない、というのがほぼ一致した考え方になっています。以上は主に動脈硬化性疾患の予防に限った、卵の摂取についての話です。肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積して起こる、脂肪肝などの脂肪性肝疾患は、近年生活習慣病の1つとして注目されています。コレステロールを多く含む卵は、脂肪性肝疾患のリスクを高めることが想定される一方で、卵にはコレステロール以外の、多くの健康に必須な栄養素が含まれていて、特に栄養失調となりやすい高齢者においては、卵の摂取は健康に資するという可能性もあります。しかし、これまで脂肪性肝疾患に対する卵の影響を、検証したような研究はあまりありませんでした。今回の研究はイタリアにおいて、胆石症に対する疫学研究のデータを活用し、60歳以上の908名の一般住民を対象として、卵の摂取量と脂肪性肝疾患、そして高血圧のリスクとの関連を比較検証しています。その結果、脂肪性肝疾患と高血圧が共にない群では..
医療のトピック
fujiki
2024-03-04T13:28:16+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Nutients誌に2024年1月31日付で掲載された、
卵の健康効果についての論文です。
卵と健康との関連については、
色々な見方があります。
卵黄には1個に200ミリグラムを超えるコレステロールが含まれています。
血液のコレステロールが高いと、
動脈硬化が進行しやすいという知見が得られてから、
食事のコレステロールを制限しようという動きが、
世界的に高まり、
そこで提唱された基準が、
食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にする、
というものです。
これを達成するためには、
卵をなるべく食べないことが、
必要不可欠ですから、
卵の制限が、
健康のためには必要であると考えられたのです。
ところが
2016年に公表されたアメリカのガイドラインにおいては、
食事のコレステロールを制限しても、
血液のコレステロールを減らせるという根拠は乏しいとして、
その目標値は削除されました。
これは、
「コレステロールの食事制限は不要」として、
一般にも報道されました。
その報道には誤解を招く点があり、
実際には数値目標が外れただけで、
コレステロールの制限自体は推奨されていたのですが、
コレステロールに制限は要らない、
という誤ったメッセージに受け取られたことは、
残念でした。
その後様々の研究データが発表されましたが、
概ね1日1個を超えない卵の摂取については、
大きな健康リスクはない、
というのがほぼ一致した考え方になっています。
以上は主に動脈硬化性疾患の予防に限った、
卵の摂取についての話です。
肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積して起こる、
脂肪肝などの脂肪性肝疾患は、
近年生活習慣病の1つとして注目されています。
コレステロールを多く含む卵は、
脂肪性肝疾患のリスクを高めることが想定される一方で、
卵にはコレステロール以外の、
多くの健康に必須な栄養素が含まれていて、
特に栄養失調となりやすい高齢者においては、
卵の摂取は健康に資するという可能性もあります。
しかし、これまで脂肪性肝疾患に対する卵の影響を、
検証したような研究はあまりありませんでした。
今回の研究はイタリアにおいて、
胆石症に対する疫学研究のデータを活用し、
60歳以上の908名の一般住民を対象として、
卵の摂取量と脂肪性肝疾患、
そして高血圧のリスクとの関連を比較検証しています。
その結果、脂肪性肝疾患と高血圧が共にない群では、
他の群と比較して、
卵の摂取量がより多くなっていました。
また卵を週に2個は食べていない人と比較して、
週に3個より多く食べている人は、
脂肪性肝疾患を合併しない高血圧症になるリスクが79%(95%CI:0.07から0.62)、
脂肪性肝疾患と高血圧症を合併するリスクが66%(95%CI:0.15から0.73)、
それぞれ有意に低下していました。
要するにそれほどクリアな結果とは言えませんが、
卵を週に3個より多く食べる方が、
脂肪性肝疾患や高血圧になり難いのでは、
ということを示唆する結果です。
上記論文の考察では、
卵に多く含まれる、
ビタミンB12や葉酸に脂肪肝炎改善作用があり、
それが影響しているのはないかと記載されています。
その真偽のほどはまだ定かではありませんが、
概ね1日1個を超えない範囲であれば、
卵の摂取には健康上の悪影響はないことは、
これまでのデータからほぼ間違いのないことなので、
特に食が細る高齢者においては、
卵は重要な栄養源として、
扱う必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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KERA CROSS第五弾「骨と軽蔑」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-02-1
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は土曜日で午前中は石田医師が、午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。土曜日は趣味の話題です。今日はこちら。ケラさんの新作がKERACROSSの第五弾として、今シアタークリエで上演されています。20世紀初頭くらいの設定で、ヨーロッパ辺りの架空の内戦中の国が舞台となっています。キャストはいずれも手練れの女性俳優陣7人のみで、休憩を入れて前半と後半に分かれた、3時間くらいのお芝居になっています。ケラさんのお芝居はとても広いジャンルに渡り、その独特の間合いやテンポ感、非常に長い、という共通の特徴はありますが、演劇そのものを俯瞰するかのような、広大な領域で作品を残しています。僕はナイロン100℃の旗揚げから観ていますが、正直こんな風になるとは想像も出来ませんでした。同世代のあこがれであり、演劇界の巨人であることは間違いがありません。今回の作品はケラさんとしては観易い部類で、分かり難いところはあまりありません。設定はベリズモオペラに近い感じで、偽の手紙のやりとりや、舞台には登場しない男性が、敵と味方の国で寝返ることで、女性の運命が一変する辺りなどは、オペラの定番の設定と言って良い感じです。作品の本質はかなり重く、戦争の絶えない現代を意識していますし、ラストはかなり踏み込んだものになっています。伝えたいことをストレートに出した、という感じがケラさんとしては珍しいと思います。戦争に加担しているという側面がありながら、戦争には無関心な主人公達の姿は、「平和ボケ」と揶揄される私達の戯画と思われますが、それを決して完全否定しているのではなく、「平和ボケ」の良さも悪さと同時に描写している辺りに、ケラさんらしさを感じました。ケラさんの舞台に馴染みのない観客も多いことを意識して、犬山イヌコさんに「日比谷の皆さん」と、呼び掛ける場面を用意し、観客の心理を解き解す趣向が巧みで、後は次々と登場する手練れの女優さんの競演を、心ゆくまで楽しむことが出来ました。屋内と屋外を組み合わせた舞台セットや、得意の音響やプロジェクションマッピングを組み合わせた演出など、舞台効果のクオリティも非常に高く、東京で現在望みうる、最高水準の舞台に仕上がっていたと思います。唯一物足りなかったのは小池栄子さんの扱いで、充分主役を張れる大女優に成長しているのに、最近の舞台では、勿体ない役柄に甘んじていることが多く、今回もそう..
演劇
fujiki
2024-03-02T07:55:51+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ケラさんの新作がKERACROSSの第五弾として、
今シアタークリエで上演されています。
20世紀初頭くらいの設定で、
ヨーロッパ辺りの架空の内戦中の国が舞台となっています。
キャストはいずれも手練れの女性俳優陣7人のみで、
休憩を入れて前半と後半に分かれた、
3時間くらいのお芝居になっています。
ケラさんのお芝居はとても広いジャンルに渡り、
その独特の間合いやテンポ感、
非常に長い、という共通の特徴はありますが、
演劇そのものを俯瞰するかのような、
広大な領域で作品を残しています。
僕はナイロン100℃の旗揚げから観ていますが、
正直こんな風になるとは想像も出来ませんでした。
同世代のあこがれであり、
演劇界の巨人であることは間違いがありません。
今回の作品はケラさんとしては観易い部類で、
分かり難いところはあまりありません。
設定はベリズモオペラに近い感じで、
偽の手紙のやりとりや、
舞台には登場しない男性が、
敵と味方の国で寝返ることで、
女性の運命が一変する辺りなどは、
オペラの定番の設定と言って良い感じです。
作品の本質はかなり重く、
戦争の絶えない現代を意識していますし、
ラストはかなり踏み込んだものになっています。
伝えたいことをストレートに出した、
という感じがケラさんとしては珍しいと思います。
戦争に加担しているという側面がありながら、
戦争には無関心な主人公達の姿は、
「平和ボケ」と揶揄される私達の戯画と思われますが、
それを決して完全否定しているのではなく、
「平和ボケ」の良さも悪さと同時に描写している辺りに、
ケラさんらしさを感じました。
ケラさんの舞台に馴染みのない観客も多いことを意識して、
犬山イヌコさんに「日比谷の皆さん」と、
呼び掛ける場面を用意し、
観客の心理を解き解す趣向が巧みで、
後は次々と登場する手練れの女優さんの競演を、
心ゆくまで楽しむことが出来ました。
屋内と屋外を組み合わせた舞台セットや、
得意の音響やプロジェクションマッピングを組み合わせた演出など、
舞台効果のクオリティも非常に高く、
東京で現在望みうる、
最高水準の舞台に仕上がっていたと思います。
唯一物足りなかったのは小池栄子さんの扱いで、
充分主役を張れる大女優に成長しているのに、
最近の舞台では、
勿体ない役柄に甘んじていることが多く、
今回もそうであったことは少し残念でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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雷雨喘息(Thunderstorm Asthma)のメカニズム
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-01-1
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は金曜日でクリニックは休診ですが、老人ホームの診療などには廻る予定です。それでは今日の話題です。今日はこちら。JAMA誌に2024年2月19日付で掲載された解説記事ですが、ゲリラ豪雨などの気象異常に伴って、喘息発作が急激に増加する現象についての内容です。これは最近時々一般の報道でも取り上げられていますね。喘息発作は感染症やストレスなどをきっかけとして起こりますが、特定の気象変化に伴って、喘息発作が急増する現象が以前から報告されています。それが非常に注目されたのは、2016年の11月21日にオーストラリアのメルボルンで、雷雨の後30時間以内に、急性の呼吸困難で3365名の患者が救急受診した、という事例が報告されたからです。これを雷雨喘息(Thunderstorm Asthma)と呼んでいます。これは通常の救急受診率の672%という途方もない増加で、このうちの476名はもともと喘息で治療中の患者の急性増悪で、これも通常の救急受診率の992%という、異常な増加でした。35名の患者が集中治療室管理となり、10名の患者が亡くなっています。それでは、何故雷雨の後に喘息発作が急増したのでしょうか?こうした現象のあること自体はそれ以前から知られていて、それを2001年の段階で検証した論文がこちらです。https://thorax.bmj.com/content/thoraxjnl/56/6/468.full.pdf主にブタクサなどのイネ科の花粉が、飛散し易い状態になっている時期に、ゲリラ豪雨のような雷雨が起こると、その風雨によって飛散した花粉が空気中に巻き上げられ、その急激な濃度上昇が、喘息発作の原因になると想定されています。花粉症がその日の飛散量によって症状が悪化し、飛散量の多いシーズンでは、普段は花粉症にならない人でも、症状の出ることがしばしばありますが、それと同様の現象と考えられるのです。それ以外に雷の電荷の影響により、花粉の粒子が破裂して発作を誘発する、という仮説がそれ以前から提唱されていますが、この2001年の論文ではその可能性には否定的です。2023年には中国で同様の現象の報道があり、日本ではまだ典型的な事例はないと思いますが、天候変化にともなって、喘息などの症状が悪化することは、花粉症の時期には特に起こり易いことは事実と思われ、今後その関連については、臨床医の経験的印象..
科学検証
fujiki
2024-03-01T10:18:31+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA誌に2024年2月19日付で掲載された解説記事ですが、
ゲリラ豪雨などの気象異常に伴って、
喘息発作が急激に増加する現象についての内容です。
これは最近時々一般の報道でも取り上げられていますね。
喘息発作は感染症やストレスなどをきっかけとして起こりますが、
特定の気象変化に伴って、
喘息発作が急増する現象が以前から報告されています。
それが非常に注目されたのは、
2016年の11月21日にオーストラリアのメルボルンで、
雷雨の後30時間以内に、
急性の呼吸困難で3365名の患者が救急受診した、
という事例が報告されたからです。
これを雷雨喘息(Thunderstorm Asthma)と呼んでいます。
これは通常の救急受診率の672%という途方もない増加で、
このうちの476名はもともと喘息で治療中の患者の急性増悪で、
これも通常の救急受診率の992%という、
異常な増加でした。
35名の患者が集中治療室管理となり、
10名の患者が亡くなっています。
それでは、何故雷雨の後に喘息発作が急増したのでしょうか?
こうした現象のあること自体はそれ以前から知られていて、
それを2001年の段階で検証した論文がこちらです。
https://thorax.bmj.com/content/thoraxjnl/56/6/468.full.pdf
主にブタクサなどのイネ科の花粉が、
飛散し易い状態になっている時期に、
ゲリラ豪雨のような雷雨が起こると、
その風雨によって飛散した花粉が空気中に巻き上げられ、
その急激な濃度上昇が、
喘息発作の原因になると想定されています。
花粉症がその日の飛散量によって症状が悪化し、
飛散量の多いシーズンでは、
普段は花粉症にならない人でも、
症状の出ることがしばしばありますが、
それと同様の現象と考えられるのです。
それ以外に雷の電荷の影響により、
花粉の粒子が破裂して発作を誘発する、
という仮説がそれ以前から提唱されていますが、
この2001年の論文ではその可能性には否定的です。
2023年には中国で同様の現象の報道があり、
日本ではまだ典型的な事例はないと思いますが、
天候変化にともなって、
喘息などの症状が悪化することは、
花粉症の時期には特に起こり易いことは事実と思われ、
今後その関連については、
臨床医の経験的印象のようなものではなく、
より科学的な検証が必要なように思います。
メルボルンの事例においては、
救急に多くの患者が押し寄せてパンク状態となり、
その対応が大きな課題として指摘されています。
ゲリラ豪雨のような現象の予測はなかなか困難で、
花粉の潜在的な飛散量との関連も、
現時点では推測の域を出ませんが、
新型コロナの流行期にも問題となったように、
救急患者が急増した時の短期的な対応をどうするべきかは、
より具体的な検証が必要であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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食物アレルギーに対するオマリズマブの有効性
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-02-28
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は水曜日なので、診療は午前中で終わり、午後は産業医面談で都内を廻る予定です。それでは今日の話題です。今日はこちら。the New England Journal of Medicine誌に、2024年2月25日付で掲載された、食物アレルギーに対する生物学的製剤の治療の有効性についての論文です。食物アレルギーは、特定の成分を含む食品を食べた時に、アレルギー反応を起こす病気で、軽ければ口の周りが少し赤くなったり、かゆみが出たりする程度の場合もありますし、アナフィラキシーと言って、血圧低下などを伴う重篤な全身的な症状が出ることもあります。その反応の強さは、摂取する量によって違いがあり、食べる量が多いほど症状も強くなります。そして、重症のアレルギーがあるほど、ごく少量の摂取でも重い症状が出るのです。食物アレルギーの治療は、その成分を除去することが、長くスタンダードな治療として行われて来ました。卵のアレルギーがある場合には、卵を一切食べないという治療です。ただ、患者さんによっては多くの食品に、アレルギー反応を示す場合もあり、全ての食品を除去することは、栄養的にも困難なケースがあります。また、食事は人生の楽しみでもありますから、ある食品を一生食べられないというのは、かなりの犠牲を強いることでもあります。何か良い治療法は他にないのでしょうか?最近施行されている方法の1つが、経口免疫療法と呼ばれる方法です。これは原因となる成分を、極微量から摂取することを開始して、徐々にその量を増やしてゆく、という治療法です。まず、どのくらいの量で症状が出現するのかを、負荷試験によって確認しておいて、それより少ない量から摂取を開始するのです。この方法を持続することによって、徐々にアレルギーに対する耐性が獲得され、少しの量なら食べても問題ない状態に、改善する事例が少なからずあることが、多くの研究によって確認されています。最もその有効性が確認されているのは、ピーナツアレルギーで、それ以外にも牛乳や卵など、多くのアレルゲンで同様の試みが行われ、一定の効果が報告されています。ただ、これで充分かと言うと、そうは言えません。食物アレルギーの原因である食品を、敢えて負荷するのですから、当然体調不良やアナフィラキシーなどのリスクがあります。治療は長期間を要しますし、効果には個人差があって、その食品が食べられるようにな..
医療のトピック
fujiki
2024-02-28T17:35:09+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年2月25日付で掲載された、
食物アレルギーに対する生物学的製剤の治療の有効性についての論文です。
食物アレルギーは、
特定の成分を含む食品を食べた時に、
アレルギー反応を起こす病気で、
軽ければ口の周りが少し赤くなったり、
かゆみが出たりする程度の場合もありますし、
アナフィラキシーと言って、
血圧低下などを伴う重篤な全身的な症状が出ることもあります。
その反応の強さは、
摂取する量によって違いがあり、
食べる量が多いほど症状も強くなります。
そして、重症のアレルギーがあるほど、
ごく少量の摂取でも重い症状が出るのです。
食物アレルギーの治療は、
その成分を除去することが、
長くスタンダードな治療として行われて来ました。
卵のアレルギーがある場合には、
卵を一切食べないという治療です。
ただ、患者さんによっては多くの食品に、
アレルギー反応を示す場合もあり、
全ての食品を除去することは、
栄養的にも困難なケースがあります。
また、食事は人生の楽しみでもありますから、
ある食品を一生食べられないというのは、
かなりの犠牲を強いることでもあります。
何か良い治療法は他にないのでしょうか?
最近施行されている方法の1つが、
経口免疫療法と呼ばれる方法です。
これは原因となる成分を、
極微量から摂取することを開始して、
徐々にその量を増やしてゆく、
という治療法です。
まず、どのくらいの量で症状が出現するのかを、
負荷試験によって確認しておいて、
それより少ない量から摂取を開始するのです。
この方法を持続することによって、
徐々にアレルギーに対する耐性が獲得され、
少しの量なら食べても問題ない状態に、
改善する事例が少なからずあることが、
多くの研究によって確認されています。
最もその有効性が確認されているのは、
ピーナツアレルギーで、
それ以外にも牛乳や卵など、
多くのアレルゲンで同様の試みが行われ、
一定の効果が報告されています。
ただ、これで充分かと言うと、そうは言えません。
食物アレルギーの原因である食品を、
敢えて負荷するのですから、
当然体調不良やアナフィラキシーなどのリスクがあります。
治療は長期間を要しますし、
効果には個人差があって、
その食品が食べられるようになるという保証はありません。
特に複数の成分に対してのアレルギーがあると、
その1つ1つに対して同じことをするのですから、
かなりストレスの掛かる治療でもあります。
それでは、他に何か良い治療はないのでしょうか?
即時型の食物アレルギーでは、
その反応を媒介する物質の主体はIgEという、
免疫グロブリンです。
その成分に対する特定のIgEが増加していて、
それが反応を起こしているのです。
それであるなら、そのIgEを除去してしまえば、
反応は起こらなくなる理屈です。
IgEに結合する抗体を薬にした、
生物学的製剤が既に開発され、
重症の気管支喘息や蕁麻疹、花粉症などの、
アレルギー症状の改善に使用されています。
その代表がオマリズマブ(ゾレア)という注射薬です。
ただ、この薬を食物アレルギーに使用した場合の有効性と安全性とは、
まだ確立されていません。
そこで今回の臨床研究では、
年齢が1から55歳で、
100㎎以下の負荷で症状の出現するピーナツアレルギーを持ち、
それ以外に卵や牛乳など2種類以上のアレルギー(300㎎以下の負荷で症状出現)を、
併発している食物アレルギー患者、
トータル180名をくじ引きで2つの群に分け、
一方は抗IgE抗体であるオマリズマブを、
2から4週毎に皮下注射することを繰り返し、
もう一方は偽の注射を同じように施行して、
16から24週の治療を継続。
その後にもう一度経口負荷試験を施行して、
その結果を治療前と比較しています。
解析は1から17歳の177名が最終的には対象となっています。
その結果、
ピーナツ蛋白に対する経口負荷試験で、
治療後に600㎎を負荷しても無症状であった比率は、
偽薬では59例中7%に当たる4名であったのに対して、
オマリズマブ治療群では118名中67%に当たる79名で、
オマリズマブの治療により、
食物アレルギーへの耐性が一定レベル獲得されているのが分かります。
ピーナツ以外のアレルギーについてみると、
治療後に1000㎎を負荷しても症状が出なくなっていたのは、
カシューナッツが偽薬群3%に対して治療群41%、
牛乳が偽薬群10%に対して治療群66%、
卵が偽薬群0%に対して68%、
となっていました。
つまり、複数の原因による食物アレルギーであっても、
オマリズマブの治療を継続することにより、
原因食品に対する耐性が獲得され、
一定の有効性があることが確認されました。
ただ、より長い治療期間(40から44週)の検討では、
有効性が維持されたり、より改善した事例があった一方で、
全体の21%においては効果が減弱していました。
従って、治療効果は永続的なものではない可能性もあるのです。
現在今回発表された報告と並行して、
経口免疫療法とオマリズマブの治療を併用する試みも行われていて、
それにより経口免疫療法がより安全に、
より効果的に施行可能となる可能性があり、
今後のデータの開示に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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仕事中の座位時間と健康リスク(台湾の疫学データ)
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-02-26-1
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。それでは今日の話題です。今日はこちら。JAMA Network Open誌に、2024年1月19日付で掲載された、仕事中の座位時間と健康リスクについての論文です。1日のうち座っている時間が長いと、動脈硬化関連の病気や糖尿病などのリスクを高め、生命予後にも大きな影響を与えることは、最近健康管理において注目されている知見の1つです。その代表的な初期の知見の1つは、オーストラリアで22万人以上の一般住民を対象としたものですが、1日のうち11時間を超えて座っていると、4時間未満しか座っていない場合と比較して、総死亡のリスクが40%増加した、という結果になっています。このデータのポイントは、1日の運動時間とは無関係にそうした関連が認められた、ということで、座っている時間が長いこと自体が、それ以外の生活パターンとは独立して、健康リスクになっているという点が重要なのです。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22450936/問題は仕事をしている世代では、仕事の内容によって座っている時間がほぼ固定されてしまう、という事実にあります。たとえば、電話対応が主体の仕事では、7時間以上座りっぱなし、というようなケースもあり得ますし、仕事によってはより長い時間、座っていることを強いられる、というような状況もありそうです。私は外来を主体の診療を仕事としているので、結果としてかなりの時間は座ったままで仕事をしています。仮に座っているだけで健康リスクとなるのであれば、そうした仕事に従事していて病気になれば、それは労災ということにもなりかねません。企業の経営者は、労働者を長く座らせない義務がある、ということも言えなくはないと考えると、この問題が社会に与える影響は実は非常に大きい、と考えることが出来ます。ただ、ここで注意が必要なことは、座位時間と健康リスクを検証した多くの研究において、仕事中の座位時間と、仕事以外の座位時間には区別がないということです。そこで今回の研究は台湾において、大規模な疫学調査のデータを活用し、仕事中の座位時間と健康リスクとの関連を解析しています。対象は平均年齢39.3歳の481688名で、平均の観察期間は12.85年です。性別などの因子を補正した結果として、殆どの時間座って仕事をしている人は、殆ど座って仕事をす..
医療のトピック
fujiki
2024-02-26T08:37:46+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2024年1月19日付で掲載された、
仕事中の座位時間と健康リスクについての論文です。
1日のうち座っている時間が長いと、
動脈硬化関連の病気や糖尿病などのリスクを高め、
生命予後にも大きな影響を与えることは、
最近健康管理において注目されている知見の1つです。
その代表的な初期の知見の1つは、
オーストラリアで22万人以上の一般住民を対象としたものですが、
1日のうち11時間を超えて座っていると、
4時間未満しか座っていない場合と比較して、
総死亡のリスクが40%増加した、
という結果になっています。
このデータのポイントは、
1日の運動時間とは無関係にそうした関連が認められた、
ということで、
座っている時間が長いこと自体が、
それ以外の生活パターンとは独立して、
健康リスクになっているという点が重要なのです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22450936/
問題は仕事をしている世代では、
仕事の内容によって座っている時間がほぼ固定されてしまう、
という事実にあります。
たとえば、電話対応が主体の仕事では、
7時間以上座りっぱなし、というようなケースもあり得ますし、
仕事によってはより長い時間、
座っていることを強いられる、
というような状況もありそうです。
私は外来を主体の診療を仕事としているので、
結果としてかなりの時間は座ったままで仕事をしています。
仮に座っているだけで健康リスクとなるのであれば、
そうした仕事に従事していて病気になれば、
それは労災ということにもなりかねません。
企業の経営者は、
労働者を長く座らせない義務がある、
ということも言えなくはないと考えると、
この問題が社会に与える影響は実は非常に大きい、
と考えることが出来ます。
ただ、ここで注意が必要なことは、
座位時間と健康リスクを検証した多くの研究において、
仕事中の座位時間と、
仕事以外の座位時間には区別がないということです。
そこで今回の研究は台湾において、
大規模な疫学調査のデータを活用し、
仕事中の座位時間と健康リスクとの関連を解析しています。
対象は平均年齢39.3歳の481688名で、
平均の観察期間は12.85年です。
性別などの因子を補正した結果として、
殆どの時間座って仕事をしている人は、
殆ど座って仕事をすることがない人と比較して、
総死亡のリスクが1.16倍(95%CI:1.11から1.20)、
心血管疾患による死亡のリスクが1.34倍(95%CI:1.22から1.46)、
それぞれ有意に増加していました。
一方で座る時間とそれ以外の時間を繰り返して仕事をしている人では、
総死亡リスクの有意な増加は認められませんでした。
また仕事中の座位時間が長く、運動習慣もない人が、
1日15から30分の運動習慣を身に着けると、
座位時間は変化していなくても、
総死亡リスクの増加は認められないことも確認されました。
このように、今回のデータからは、
仕事中の座時時間の長さは健康リスクに繋がり、
ずっと座りっぱなしではない仕事環境に移行することにより、
その改善が可能であることが示唆されました。
こうした知見は研究によってかなり差があり、
1つの結果のみで「座りっぱなしの仕事は駄目」、
と決めつけることは危険ですが、
今後座位時間が長いことを強いるような業務が、
制限される可能性もあり、
かなり社会に与えるインパクトの大きな知見であることは間違いがないので、
今後の推移を慎重にフォローしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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横山拓也「う蝕」(瀬戸山美咲演出)
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-02-25
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は日曜日でクリニックは休診です。休みの日は趣味の話題です。今日はこちら。横山拓也さんの書き下ろし戯曲を、瀬戸山美咲さんが演出した舞台が、今三軒茶屋のシアタートラムで上演されています。これは架空の島が「う蝕」という原因不明の災害(?)に見舞われ、多くの島民が犠牲になった後に、遺体の身元を確認するために歯科医師が島を訪れる、という設定で、殆ど生きている者のいない孤島を舞台に展開される物語ですが、如何にも小劇場的な仕掛けによって、災害によって失われた命に対する生者の鎮魂と責任という、「今」を強く感じさせるテーマを掘り下げた力作で、鋭い刃物のような切れ味のある戯曲も素晴らしいですし、瀬戸山さんの小劇場的なコントラストの明確な演出も良く、男性のみのキャストの芝居も、ベテランから若手までバランスの取れた見応えのあるものでした。「不条理劇」という表現が紹介文に使われていますが、前衛演劇ではあっても、不条理演劇ではないと思います。昔の劇団300などで使われていた、小劇場演劇の1つのパターンを使っていて、イキウメの初期の「関数ドミノ」を初演した辺りくらいの、技巧的な作品の肌触りに近い感じもあります。こういう作品が個人的には大好物なので、いいな、いいな、と心の中で反芻しながら、後半はじっくりと観ることが出来ました。これ、3幕劇なのですが、2幕で一旦時制が戻るんですね。3幕劇というより、能の構成に近くて、前場と後場があって、その間に間狂言が挟まれている感じなのです。多分能は意識はされているんですね。何故時制が戻るのかと2幕を観ている時は不思議に感じるのですが、それが3幕で鮮やかに意味を持つことが分かるのです。極めて巧緻な構成だと思います。瀬戸山さんの演出が良いですよね。最初に折り紙のような舞台が開くところ、アングラ的でワクワクしますよね。あんなことやらなくてもいいのですが、敢えてやるところに小劇場の心意気みたいなものを感じます。鈴の音のような音に意味を持たせたり、舞台の凹凸がまた極めて巧みに活かされていました。キャストは皆好演でしたが、特に坂東龍汰さんの熱演が印象的で、正名僕臓さんと相島一之さんのベテランが、要所を綺麗に閉める、とても良い仕事をしていたと思います。総じて如何にも小劇場演劇らしい、仕掛けと企みに満ちながら、深いメッセージ性も秘めた力作で、是非是非劇場で体感して頂きたいと思いま..
演劇
fujiki
2024-02-25T23:13:46+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
横山拓也さんの書き下ろし戯曲を、
瀬戸山美咲さんが演出した舞台が、
今三軒茶屋のシアタートラムで上演されています。
これは架空の島が「う蝕」という原因不明の災害(?)に見舞われ、
多くの島民が犠牲になった後に、
遺体の身元を確認するために歯科医師が島を訪れる、
という設定で、
殆ど生きている者のいない孤島を舞台に展開される物語ですが、
如何にも小劇場的な仕掛けによって、
災害によって失われた命に対する生者の鎮魂と責任という、
「今」を強く感じさせるテーマを掘り下げた力作で、
鋭い刃物のような切れ味のある戯曲も素晴らしいですし、
瀬戸山さんの小劇場的なコントラストの明確な演出も良く、
男性のみのキャストの芝居も、
ベテランから若手までバランスの取れた見応えのあるものでした。
「不条理劇」という表現が紹介文に使われていますが、
前衛演劇ではあっても、不条理演劇ではないと思います。
昔の劇団300などで使われていた、
小劇場演劇の1つのパターンを使っていて、
イキウメの初期の「関数ドミノ」を初演した辺りくらいの、
技巧的な作品の肌触りに近い感じもあります。
こういう作品が個人的には大好物なので、
いいな、いいな、と心の中で反芻しながら、
後半はじっくりと観ることが出来ました。
これ、3幕劇なのですが、
2幕で一旦時制が戻るんですね。
3幕劇というより、能の構成に近くて、
前場と後場があって、
その間に間狂言が挟まれている感じなのです。
多分能は意識はされているんですね。
何故時制が戻るのかと2幕を観ている時は不思議に感じるのですが、
それが3幕で鮮やかに意味を持つことが分かるのです。
極めて巧緻な構成だと思います。
瀬戸山さんの演出が良いですよね。
最初に折り紙のような舞台が開くところ、
アングラ的でワクワクしますよね。
あんなことやらなくてもいいのですが、
敢えてやるところに小劇場の心意気みたいなものを感じます。
鈴の音のような音に意味を持たせたり、
舞台の凹凸がまた極めて巧みに活かされていました。
キャストは皆好演でしたが、
特に坂東龍汰さんの熱演が印象的で、
正名僕臓さんと相島一之さんのベテランが、
要所を綺麗に閉める、
とても良い仕事をしていたと思います。
総じて如何にも小劇場演劇らしい、
仕掛けと企みに満ちながら、
深いメッセージ性も秘めた力作で、
是非是非劇場で体感して頂きたいと思います。
ただ、仕掛けのある作品で、
最初から結構緊張と集中を強いる感じがあるので、
寝不足だと佳境に入る前に寝落ちする可能性もあります。
せっかくの力作がそれではとても残念なので、
是非万全の体調で観劇して頂きたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
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便座の蓋を閉めて水を流すことの感染予防効果
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-02-23-1
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は祝日でクリニックは休診です。それでは今日の話題です。今日はこちら。American Journal of Infection Control誌に、2024年2月付で掲載された、洋式便器の蓋を閉めて水を流すことの、感染予防効果についての論文です。最近不特定多数の方が利用する個室トイレには、「便器の蓋を閉めてから水を流して下さい」というような掲示がしばしば掲げられています。これは特に便中の感染性の病原体が、便器の蓋を開けたままで水を流すことにより、便座やその周辺に飛散して、それがトイレを介した感染リスクに繋がるという指摘があるからです。たとえば、クロストリジウム菌という、院内感染などを引き起こす細菌について検証した研究では、便座の蓋を開いた場合と比較して、蓋を閉じて水を流すことにより、周辺への細菌を含む飛沫の拡散が、ゼロにはならないもののかなり抑制された、という結果が報告されています。https://www.journalofhospitalinfection.com/article/S0195-6701%2811%2900339-2/fulltextただし、これは細菌の場合の話で、よりその大きさが小さく、新型コロナやインフルエンザ、ウイルス性腸炎などの原因となる、ウイルス感染についても成り立つことであるかどうかについては、まだ明確なデータがありませんでした。そこで今回の研究ではアメリカにおいて、実験に使用する無害なウイルスを使用して、それを排便時と同じように便器に巻き、便座の蓋を開けた場合と閉めた場合とで、トイレの水を流して、周囲へのウイルスの飛散の有無を比較検証しています。その結果、周辺でのウイルスの飛散量には、便座の蓋を開けておいても閉めて水を流しても、明確な差は認められませんでした。つまり、トイレの蓋を閉めて水を流すことは、細菌感染の予防には繋がっても、ウイルス感染の予防には繋がらない、という結果です。それでは、どのようにすればウイルス感染の予防が可能なのでしょうか?研究では1つの試みとして、事前に便器を塩化水素系の消毒薬で洗浄を行ったところ、ウイルスの周囲への飛散は90%以上抑制されました。つまり、便器からのウイルス感染の予防には、定期的に便器を除菌することが、蓋の開け閉めよりも重要であるようです。それでは今日はこのくらいで。今日が皆さんにとっていい日でありま..
医療のトピック
fujiki
2024-02-23T13:29:34+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
American Journal of Infection Control誌に、
2024年2月付で掲載された、
洋式便器の蓋を閉めて水を流すことの、
感染予防効果についての論文です。
最近不特定多数の方が利用する個室トイレには、
「便器の蓋を閉めてから水を流して下さい」
というような掲示がしばしば掲げられています。
これは特に便中の感染性の病原体が、
便器の蓋を開けたままで水を流すことにより、
便座やその周辺に飛散して、
それがトイレを介した感染リスクに繋がるという指摘があるからです。
たとえば、クロストリジウム菌という、
院内感染などを引き起こす細菌について検証した研究では、
便座の蓋を開いた場合と比較して、
蓋を閉じて水を流すことにより、
周辺への細菌を含む飛沫の拡散が、
ゼロにはならないもののかなり抑制された、
という結果が報告されています。
https://www.journalofhospitalinfection.com/article/S0195-6701%2811%2900339-2/fulltext
ただし、これは細菌の場合の話で、
よりその大きさが小さく、
新型コロナやインフルエンザ、ウイルス性腸炎などの原因となる、
ウイルス感染についても成り立つことであるかどうかについては、
まだ明確なデータがありませんでした。
そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
実験に使用する無害なウイルスを使用して、
それを排便時と同じように便器に巻き、
便座の蓋を開けた場合と閉めた場合とで、
トイレの水を流して、
周囲へのウイルスの飛散の有無を比較検証しています。
その結果、周辺でのウイルスの飛散量には、
便座の蓋を開けておいても閉めて水を流しても、
明確な差は認められませんでした。
つまり、トイレの蓋を閉めて水を流すことは、
細菌感染の予防には繋がっても、
ウイルス感染の予防には繋がらない、
という結果です。
それでは、どのようにすればウイルス感染の予防が可能なのでしょうか?
研究では1つの試みとして、
事前に便器を塩化水素系の消毒薬で洗浄を行ったところ、
ウイルスの周囲への飛散は90%以上抑制されました。
つまり、便器からのウイルス感染の予防には、
定期的に便器を除菌することが、
蓋の開け閉めよりも重要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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非アルコール性脂肪性肝疾患の生命予後と糖尿病との関連(韓国の疫学データ)
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-02-22
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。それでは今日の話題です。今日はこちら。British Medical Journal誌に、2014年2月13日付で掲載された、非アルコール性脂肪性肝疾患の生命予後についての論文です。肝臓に脂肪(中性脂肪)が過剰に溜まった状態を、脂肪肝と呼んでいます。肝臓は元々、身体の余分な脂肪を、中性脂肪という形にして貯めこむ倉庫のような場所ですが、その倉庫が脂肪で満杯となって膨れ上がったような状態が脂肪肝です。その過剰な脂肪が炎症を起こし、肝臓の細胞を破壊してしまうような事態に陥った状態を、脂肪肝炎と呼んでいます。肝臓の細胞が炎症を起こして破壊されると、細胞の中にあった酵素が血液中に漏れ出て来ます。この酵素の代表がALT(GPT)なので、一般に肝機能の指標とされているALTが上昇することは、肝炎の重要な指標となっているのです。お酒を過剰に飲むことによって起こるアルコール性肝障害では、高率にアルコール性の脂肪肝炎が起こります。しかし、最近殆ど飲酒をしない人でも、脂肪肝や脂肪肝炎になることが注目され、それを非アルコール性脂肪性肝疾患と、非アルコール性脂肪肝炎と呼んでいます。この非アルコール性脂肪性肝疾患は、メタボリックシンドロームと関連が深く、いずれも内臓脂肪の蓄積の1つの現れと、考えることが出来ます。メタボと関連の深い生活習慣病としては、他に2型糖尿病があり、いずれも動脈硬化を進行させ、心臓病や脳卒中などのリスクを高めることが知られています。しかし、2型糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患が合併した場合の、動脈硬化性疾患のリスクや生命予後については、精度の高い疫学データは不足しているのが実際です。そこで今回の研究では韓国において、20歳以上で1日アルコール30グラム以上の飲酒習慣のない、7796793名の一般住民を対象とした健康調査のデータを活用して、脂肪肝の簡易的指標である、脂肪肝指数(Fatty Liver Index)により、非アルコール性脂肪性肝疾患なし(脂肪肝指数30未満)、非アルコール性脂肪性肝疾患の疑い(脂肪肝指数30以上60未満)、非アルコール性脂肪性肝疾患(脂肪肝指数60以上)に分け、動脈硬化性疾患のリスクと生命予後を、2型糖尿病のあるなしで検証しています。観察期間の中間値は8.13年です。その結果、対象者のうちの6.49%が..
医療のトピック
fujiki
2024-02-22T08:37:29+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2014年2月13日付で掲載された、
非アルコール性脂肪性肝疾患の生命予後についての論文です。
肝臓に脂肪(中性脂肪)が過剰に溜まった状態を、
脂肪肝と呼んでいます。
肝臓は元々、身体の余分な脂肪を、
中性脂肪という形にして貯めこむ倉庫のような場所ですが、
その倉庫が脂肪で満杯となって膨れ上がったような状態が脂肪肝です。
その過剰な脂肪が炎症を起こし、
肝臓の細胞を破壊してしまうような事態に陥った状態を、
脂肪肝炎と呼んでいます。
肝臓の細胞が炎症を起こして破壊されると、
細胞の中にあった酵素が血液中に漏れ出て来ます。
この酵素の代表がALT(GPT)なので、
一般に肝機能の指標とされているALTが上昇することは、
肝炎の重要な指標となっているのです。
お酒を過剰に飲むことによって起こるアルコール性肝障害では、
高率にアルコール性の脂肪肝炎が起こります。
しかし、最近殆ど飲酒をしない人でも、
脂肪肝や脂肪肝炎になることが注目され、
それを非アルコール性脂肪性肝疾患と、
非アルコール性脂肪肝炎と呼んでいます。
この非アルコール性脂肪性肝疾患は、
メタボリックシンドロームと関連が深く、
いずれも内臓脂肪の蓄積の1つの現れと、
考えることが出来ます。
メタボと関連の深い生活習慣病としては、
他に2型糖尿病があり、
いずれも動脈硬化を進行させ、
心臓病や脳卒中などのリスクを高めることが知られています。
しかし、
2型糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患が合併した場合の、
動脈硬化性疾患のリスクや生命予後については、
精度の高い疫学データは不足しているのが実際です。
そこで今回の研究では韓国において、
20歳以上で1日アルコール30グラム以上の飲酒習慣のない、
7796793名の一般住民を対象とした健康調査のデータを活用して、
脂肪肝の簡易的指標である、
脂肪肝指数(Fatty Liver Index)により、
非アルコール性脂肪性肝疾患なし(脂肪肝指数30未満)、
非アルコール性脂肪性肝疾患の疑い(脂肪肝指数30以上60未満)、
非アルコール性脂肪性肝疾患(脂肪肝指数60以上)に分け、
動脈硬化性疾患のリスクと生命予後を、
2型糖尿病のあるなしで検証しています。
観察期間の中間値は8.13年です。
その結果、
対象者のうちの6.49%が2型糖尿病と診断され、
糖尿病のない人での非アルコール性脂肪性肝疾患の比率は、
10.02%であったのに対して、
糖尿病の患者さんでは、
その26.73%に非アルコール性脂肪性肝疾患が認められました。
2型糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患のどちらもない人では、
心血管疾患のリスクは年間1000人当たり2.26件でしたが、
非アルコール性脂肪性肝疾患の疑い群では3.83件、
非アルコール性脂肪性肝疾患群では3.77件と、
そのリスクの増加が認められました。
2型糖尿病の患者さんでは、
心血管疾患のリスクは年間1000人当たり8.28件と、
糖尿病のない場合と比較して著明な増加を認めていて、
ここで非アルコール性脂肪性肝疾患の疑い群では9.19件、
非アルコール性脂肪性肝疾患群では8.34件と、
明確な増加とまでは言えない気がしますが、
よりリスクの高まる傾向を認めました。
総死亡のリスクについては、
糖尿病も非アルコール性脂肪性肝疾患のない群では、
年間1000人当たり3.03件でしたが、
非アルコール性脂肪性肝疾患疑い群では3.90件、
非アルコール性脂肪性肝疾患群では3.63件と、
これも微妙な感じはしますが、
リスクが増加する傾向は認めていました。
非アルコール性脂肪性肝疾患群のない2型糖尿病群では、
総死亡のリスクは年間1000人当たり11.64件と、
明確な増加を示していましたが、
そこに非アルコール性脂肪性肝疾患が加わっても、
明確な死亡リスクの増加は認められませんでした。
このように心血管疾患のリスクも総死亡のリスクも、
矢張り2型糖尿病において著明の増加していて、
2型糖尿病が生命予後に大きな影響を与える因子であることは、
間違いがありません。
非アルコール性脂肪性肝疾患は、
単独でも糖尿病ほどではありませんが、
心血管疾患リスクや総死亡のリスクを、
押し上げる因子にはなっていて、
疑いのレベルでも明確なリスク増加が認められる、
という点は重要な知見であると思います。
糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患が併存すると、
そのリスクはより増加する傾向を示していますが、
糖尿病の影響の方がより顕著であるためか、
併存の場合のリスク増加は、
それほど明確なものとまでは言えませんでした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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心房性心臓病患者に対する抗凝固剤の脳卒中予防効果
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-02-20
こんにちは。北品川藤クリニックの石原です。今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。それでは今日の話題です。今日はこちら。JAMA誌に2024年2月4日付で掲載された、心房細動のない心房性心臓病に対する、抗凝固剤使用の有効性についての論文です。心房細動という不整脈は、心臓の心房という部分が不規則に収縮する病気で、通常は一時的に出現してまた元に戻ることを繰り返し、それから不整脈のみが継続する、慢性心房細動と呼ばれる状態に移行します。そしてこの不整脈は、時々発作を起こす状態であっても、心房に血栓が出来て、それが脳の血管に詰まる、脳卒中(脳塞栓症)を起こすリスクが高まることが知られています。たとえば動脈硬化が進行していることの想定される高齢者では、たった一度の発作性心房細動を起こしただけで、その後の脳卒中のリスクが約2倍増加した、という報告もあります。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4766055/そのため、この不整脈が確認された場合には、不整脈自体を治療する試みと共に、抗凝固剤と呼ばれる、血栓が出来難くなる薬剤を、継続的に使用することで、脳卒中のリスクを抑制する治療が行われます。ただ、実際には心房細動が確認されなくても、左心房に負荷が掛かっているだけで、脳卒中のリスクが増加するという報告があります。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4766055/そのため心電図などの所見から、左心房に負荷が掛かっている状態のことを、心房性心臓病(Atrial Caidiopathy)と呼んで、それ自体を治療しようという考え方があります。もしこれが事実であるとすれば、まだ心房細動を発症しない状態であっても、左心房への負荷がある状態であれば、脳卒中の予防のための治療が必要だ、ということになります。しかし、実際には心房細動のない心房性心臓病の患者さんに、抗凝固療法を施行した場合の有効性は、明らかではありません。そこで今回の研究では、アメリカとカナダの複数施設において、年齢は45歳以上で潜在性の虚血性梗塞の既往があり、心房細動は確認されないものの、左心房に負荷の所見のある、トータル1015名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、一方は1日81㎎の低用量アスピリンを使用し、もう一方は抗凝固剤であるアピキサバンを使用して、その後..
医療のトピック
fujiki
2024-02-20T07:51:41+09:00
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA誌に2024年2月4日付で掲載された、
心房細動のない心房性心臓病に対する、
抗凝固剤使用の有効性についての論文です。
心房細動という不整脈は、
心臓の心房という部分が不規則に収縮する病気で、
通常は一時的に出現してまた元に戻ることを繰り返し、
それから不整脈のみが継続する、
慢性心房細動と呼ばれる状態に移行します。
そしてこの不整脈は、
時々発作を起こす状態であっても、
心房に血栓が出来て、
それが脳の血管に詰まる、
脳卒中(脳塞栓症)を起こすリスクが高まることが知られています。
たとえば動脈硬化が進行していることの想定される高齢者では、
たった一度の発作性心房細動を起こしただけで、
その後の脳卒中のリスクが約2倍増加した、
という報告もあります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4766055/
そのため、
この不整脈が確認された場合には、
不整脈自体を治療する試みと共に、
抗凝固剤と呼ばれる、
血栓が出来難くなる薬剤を、
継続的に使用することで、
脳卒中のリスクを抑制する治療が行われます。
ただ、実際には心房細動が確認されなくても、
左心房に負荷が掛かっているだけで、
脳卒中のリスクが増加するという報告があります。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4766055/
そのため心電図などの所見から、
左心房に負荷が掛かっている状態のことを、
心房性心臓病(Atrial Caidiopathy)と呼んで、
それ自体を治療しようという考え方があります。
もしこれが事実であるとすれば、
まだ心房細動を発症しない状態であっても、
左心房への負荷がある状態であれば、
脳卒中の予防のための治療が必要だ、
ということになります。
しかし、実際には心房細動のない心房性心臓病の患者さんに、
抗凝固療法を施行した場合の有効性は、
明らかではありません。
そこで今回の研究では、
アメリカとカナダの複数施設において、
年齢は45歳以上で潜在性の虚血性梗塞の既往があり、
心房細動は確認されないものの、
左心房に負荷の所見のある、
トータル1015名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は1日81㎎の低用量アスピリンを使用し、
もう一方は抗凝固剤であるアピキサバンを使用して、
その後の脳卒中予防効果を、
平均で1.8年の観察期間で検証しています。
左房負荷の指標は、
心電図における左房負荷の指標である、
左房の機能を反映するP波の後半部分の所見
(PTFV1>5000μV)と、
心負荷の所見であるNT-proBNPの軽度上昇(>250pg/mL)、
エコーで計測した心房の大きさ(ADI3.0 cm/㎡以上)との3つの指標から、
少なくとも1つ以上を満たす状態、
として定義されています。
その結果、
アスピリンと比較してアピキサバンの使用は、
明確な脳卒中予防効果を示せませんでした。
また、重篤な出血系の合併症のリスクにおいても、
両群では有意な差はありませんでした。
このように心房細動以外の、
左房負荷に関わる脳卒中リスクの増加を予防する目的で、
アスピリンの代わりにアピキサバンを使用しても、
現状で明確な予防効果を示すことは出来ませんでした。
心房細動に至っていない左房負荷の脳卒中リスクに対して、
どのような対策を高じるべきかについては、
まだ明確な結論は得られていないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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