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大腸ポリープ切除の長期予後について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から紹介状など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
大腸腺腫切除後の長期予後.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
大腸ポリープを切除後の、
経過観察の有効性についての文献です。
ノルウェーにおける疫学研究です。

大腸癌の検診として、
便潜血の検査及び大腸の内視鏡検査が、
それを行なうことによって、
大腸癌のその後の発症リスクや死亡リスクを、
減らす効果のあることは、
ほぼ確立された事実です。

ただ、大腸の内視鏡検査の場合、
これは1回きりの検査を行なった場合の効果です。

通常50歳を超える成人に大腸の内視鏡検査を行なうと、
アメリカの統計では4人に1人はポリープ(腺腫)が見付かっています。

この大腸ポリープ(腺腫)を、
通常低リスクのものと高リスクのものに分けて考えます。

アメリカの基準の場合、
大きさが1センチ以上であるか、
ポリープの数が3個以上の場合、
そして絨毛部分を含むか、高度の異形成を示す腺腫が、
高リスク腺腫とされ、
大きさが1センチ未満で、
数は2個以内のものを、
低リスク腺腫として区分しています。

そして、ポリープの切除後、
高リスク腺腫では3年後に再検査を行ない、
低リスクの場合には5から10年後に再検査を行なう、
というのがサーベイランスの方針とされています。

しかし、このサーベイランスにより、
再検査を行なった場合の方が、
行なわない場合よりも、
患者さんの予後が改善するかどうかは、
今のところ明確な根拠が得られていません。

従って、こうした基準は国によっても違い、
国際的な基準が作られている、
というような性質のものではありません。

今回のデータはノルウェーのものですが、
ノルウェーでは大腸内視鏡検査後の再検査は、
殆どの場合に5年以上間を空けて行なわれています。
ガイドラインにおいては、
高リスク腺腫は大きさが1センチ以上であるか、
組織が絨毛成分を含むか、
高度の異形成を示す腺腫と定義され、
その場合には10年後の再検査が推奨され、
ポリープが3個以上ある場合には5年後の再検査が推奨され、
低リスク群では再検査は推奨されません。
やりっぱなしでOKということです。

この文献においては、
大腸内視鏡検査でポリープを認め切除を受けた患者さんの、
適切なサーベイランスのあり方を検証する目的で、
大腸腺腫切除を受けた患者さん40826名を同定し、
低リスクと高リスク腺腫に分類した上で、
平均で7.7年の経過観察を行ない、
大腸癌の死亡リスクを比較検討しています。
ただ、この試験は前向きに登録して経過を追ったという訳ではなく、
後から死因登録と照らし合わせたデータです。

腺腫の数とその大きさを示す情報が乏しかったので、
本来の基準による低リスクと高リスクの分類は困難で、
腺腫が1個のみのものが低リスクで、
腺腫が2個以上あるか、
絨毛成分を含むか、
高度の異形成を認める腺腫を、
高リスクという、
別個の区分により検討はされています。
切除後の最初の再検査は、
5から9年後が44%と、
最も多く施行がされています。

その結果…

大腸内視鏡検査を行なわない場合の、
平均的な大腸癌死亡率との比較において、
低リスクの腺腫を切除してサーベイランスを行なった場合には、
大腸癌死亡リスクは25%低下し、
高リスクの腺腫を切除してサーベイランスを行なった場合には、
大腸癌死亡リスクは16%増加していました。

本来は高リスクの腺腫であっても、
切除を行なったのですから、
検査を行なわない場合よりは、
大腸癌の死亡リスクは減少しても良い筈ですが、
今回のデータではむしろ増加する、
という意外な結果になっています。

この原因は幾つか考えられます。

1つは大腸内視鏡検査に見落としがあり、
最初の検査の時点で既にあった癌が、
その後進行したという可能性です。
もう1つはポリープを切除する際に、
切除部位に取り残しがあり、
そこから癌が進行した、という可能性です。
そして、もう3つ目は、
高リスクの腺腫が見付かるような患者さんでは、
癌の進行自体が早い、という体質がある可能性があり、
そのために別個の癌が進行した、
という可能性です。

概ね日本の専門の先生の見解は、
海外の内視鏡検査の技術水準は、
日本と比較すると低く、
特に茎のあるようなポリープではなく、
窪んだような病変や平坦な病変を多く見落としているので、
こうした結果が起こるのではないか、
というものです。

Japan Polyp Studyと称される、
大腸内視鏡検査と、
その後のサーベイランスのあり方を検証する、
日本としては大規模な臨床試験が、
2000年より行なわれ、
現在ポツポツと結果が出て来ています。
まとまった報告はこれからのようです。
この試験においては、
ポリープ切除後1年後と3年後に再検査を行なった場合と、
3年後に再検査を行なった場合とを比較しています。
アメリカでの同種の試験結果を元に、
前述のように高リスク群では3年後、
という現行のアメリカの方針が定められたのですが、
まだ多くの議論の余地が残っています。

日本発の試験結果を元に、
世界のガイドラインが統一されるような事態になれば、
非常に画期的なことだと思いますが、
そんな出来ごとは、
臨床においては未だかつてあったことがないので、
期待はほどほどにしながら、
その結果を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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コメント 15

モカ

とても興味深い論文のご紹介ありがとうございます。

私も4年前に小さな良性ポリープが大腸内視鏡で見つかり、切除しました。

http://mocamoca.com/harablog/archives/ 2010/10/post_1828.html

そろそろ調べた方がいいかなと思って自主的に来週また大腸内視鏡やります。
この論文を知ってよかったです。
ありがとうございます。
by モカ (2014-09-05 15:40) 

fujiki

モカさんへ
コメントありがとうございます。
そうですね。
そろそろ一回されて悪くないタイミングと思います。
by fujiki (2014-09-05 20:14) 

しんけいつうさん

いつも読ませていただいております。
先日から頭皮をさわると耳に抜けるような痛みがありましたが、三日ほどでだんだんとおさまってきました。

脳神経外科を受診したところ、後頭部神経痛ではないかといわれましたが、念のため安心のためMRIを受けてはどうかと言われました。
MRIは一年半前に受けたことがあるのですが、あまり気持ちの良いものでもなく、念のためといわれると躊躇します。

しかも、先生の記事にもあったと思いますが、MRIのリスクが今のところ未知というところもひっかかります。

現時点でもMRIのリスクはまだ未知なのでしょうか。
私のような場合、安心のためうけたほうがよいのでしょうか。
by しんけいつうさん (2014-09-05 21:41) 

fujiki

しんけいつうさんへ
リスクは勿論未知ですが、
それはどんな検査であれ同じ部分はあると思います。
必要以上にご心配をされる必要はないと思います。
従って、必要性が高い検査であれば、
受けて頂いた方が良いと思います。
ただ、文面から推察しますと、
念のため安心のため、という意味合いのようですから、
脳神経外科の先生にもう一度その必要性について、
確認して頂いて、
それに応じてご判断頂くのが良いと思います。
必要性はそれほどでない検査で、
お気が進まないようであれば、
少し様子を見ても良いのではないでしょうか。
by fujiki (2014-09-05 22:31) 

くうさん

 大腸ポリープを検索していてたどり着きました。
今年、1センチ未満のポリープを2つ切除して、見落としがあるといけないからまた来年受けたら? と言われたのですが、下剤の服用がきつくて、毎年検査とかはつらいです。
 1年くらいで発生または、危険なくらい大きくなるものでしょうか。

by くうさん (2017-06-23 15:26) 

fujiki

くうさんへ
一般論で言えば毎年の検査は必要ないと思います。
ただ、切除したポリープが悪性度の高いものであったり、
便が残っていたり、
空気をあまり入れられずに、
死角が多いと想定される場合などは、
1年後にも検査をされた方が良いかも知れません。
「見落としがあるといけないので」
という意味合いについて、
施行された先生にもう一度聞いて見られるのが、
良いように思います。
by fujiki (2017-06-23 21:50) 

くうさん

 ありがとうございました。
 ポリープは良性でしたが、体が細いので腸がぎゅっと収納?されており、内視鏡入れるのに時間がかかったみたいです。来年問題なければ間隔をあけてとのことなので、その先生の経過の見方はこうなのかなというかんじです。
by くうさん (2017-06-25 13:59) 

くうさん

 こんにちは。
 また、質問させていただきます。
 先日、知人が複数の大腸ポリープ切除をして、一部平坦でそのクリニックでは取れないとの判断で、大きな病院で切除しました。
 その際、大病院の先生に「他のポリープの取り方が粗い」と言われたとのことです。
 ポリープの取り方に「粗い」「丁寧」とかあるのですか?
 私も、その「粗い」と言われたクリニックでポリープを切除したので、後々何か不都合(腸に穴があくとか)が起きるのではと怖くなってしまいました。
by くうさん (2017-07-05 17:00) 

fujiki

くうさんへ
人間のすることですから、
丁寧であったり粗かったりすることは、
当然あるとは思いますが、
そうしたことと健康上の問題とは、
また別であるように思います。
穿孔は稀にある合併症ではありますが、
時間をおいてから生じることはほぼないと思います。
本当に粗かったのかも知れませんが、
それを患者さんに直接的な表現でお話される先生も、
「大病院の先生」とは言え、
如何なものかな、とは思います。
基本的には今の体調が問題なければ、
ご心配は要らないと考えますが、
何分伝聞情報のようなお話なので、
それ以上のことは申し上げられません。
by fujiki (2017-07-06 06:12) 

くうさん

 こんにちは。
 早速のお返事ありがとうございます。
 もう1ヶ月以上経過しているので、大丈夫そうでほっとしました。
 ありがとうございました。
 
 
by くうさん (2017-07-06 12:40) 

すみれ

時々拝読させていただいております。
コメントというより相談なのですが宜しいのでしょうか。

昨年の7月に近所のクリニックで大腸内視鏡検査をしました。
検査時にポリープが5~6個、憩室が2~3個あったと記憶しています。

ポリープについては、「過形成ポリープだろうから心配はいらないと思うが念のため生検にまわしてみます。」とのことで、上行結腸部分のポリープ2個について、生検をしていただきました。

過形成ポリープだろうと思われていたものは管状腺腫でしたが、低異型度Group3のもので経過観察と言われました。
再検査は何年後にすればよいか伺ったところ、「5年、或いは10年は癌にはならない」との返答。
具体的にいつ再検査をすればよいのかわからずにおります。

また、実は生検のための検体採取の際、ポリープを根元から採らずに、クチャっとつぶすように採取されたことが気になっています。
残った部分はどうなってしまうのだろう。。と。

また、上行結腸の2個以外に、S状結腸にも小さいポリープが数個ありましたが、そちらは取らずに放置されたままです。

今から2年ほど前に肺腺癌が見つかり、手術と術後の抗がん剤服用の経緯があります。(副作用が強く抗がん剤は中止中。)

大腸がんの内視鏡再検査についても、神経質になりすぎているのでしょうか。
5年後ぐらいでよいのでしょうか。


by すみれ (2017-09-24 19:59) 

fujiki

すみれさんへ
日本では一度ポリープが見つかって、
生検で腺腫が出た場合には、
翌年にもう1回検査をする方が、
一般的な判断だと思います。
ただ、悪性度の低いポリープであれば、
それはもう見た先生の判断にもよるのですが、
5年後の検査でも問題ない、
という場合もあると思います。
欧米でも何も所見がなければ、
5年以上間を空けて良いことになっていると思いますが、
腺腫性ポリープがあれば、
翌年もう一度検査をすることは、
否定はされていないと思います。
ご心配であれば1年後にもう一度、
検査をされるのが良いように個人的には思います。
by fujiki (2017-09-24 21:43) 

すみれ

お忙しい中のご返信ありがとうございます。
神経質と思われないか。。などと悩んでおりましたが、先生のお言葉で気持ちが軽くなりました。
近いうちに再検査をお願いしてみます。
感謝申し上げます。
by すみれ (2017-09-25 12:36) 

すみれ

お忙しい中ご返信ありがとうございます。
神経質だと思われないか。。と悩んでおりましたが、先生のお言葉で気持ちが楽になりました。
一年以上経ちましたので、近いうちに再検査をお願いしてみます。
感謝申し上げます。
by すみれ (2017-09-25 12:44) 

すみれ

送信後コメントが確認できなかったため、送れなかったものと思い、お礼のメールを二度送ってしまいました。
申し訳ありません。。
by すみれ (2017-09-25 12:49) 

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