インフルエンザ(H7N9)の人から人への感染事例について [インフルエンザ(H7N9)]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
中国で今年流行が問題となった、
H7N9というタイプの新型インフルエンザによる、
初めての人から人への感染事例の報告です。
今年の3月の下旬から、
中国本土を中心にして、
おそらくは市場の鳥由来と思われる、
H7N9というタイプのA型の新型インフルエンザの感染が、
世界的なパンデミックに繋がるという危惧もあって、
世界規模の問題になりました。
中国当局の迅速な対応もあって、
これまでのところその被害は最小限に食い止められ、
台湾の事例の報告はありますが、
それ以外は中国大陸での感染に留まり、
終息への傾向を見せてはいますが、
先日も広東省で初めての患者さんが報告されるなど、
また予断を許さない状況であることは間違いがありません。
今年の8月15日の時点で、
報告患者数は134人に上り、
死者も45人となっています。
この新型インフルエンザ(H7N9)については、
これまでにも多くの報告があり、
かなり多くのことが既に明らかになっていますが、
解決されていない問題として、
このウイルスの人から人への感染が、
起こり得るのかどうか、
という点があります。
人から人への感染が、
容易に成立するとすれば、
到底100人規模の感染で治まる筈はありませんから、
仮に人から人への感染が、
起こり得るとしても、
それは非常に限定的で稀なことであるのは、
どうやら間違いはなさそうです。
これまでに何例か、
家族内などでの人から人への感染の、
疑われる事例は報告されていますが、
明確にそれが証明された、
という報告はありませんでした。
今回の文献においては、
今年の3月8日に息切れや発熱で発症した、
60歳の男性患者から、32歳の娘に、
新型インフルエンザが感染した、
という事例が紹介されています。
娘さんはお父さんの看病で病院に通っていて、
3月21日に高熱と咳で発症しています。
父親は家禽との接触がありましたが、
娘さんはそうした接触はありませんでした。
父親と娘さんの両者から検出されたウイルスを分析したところ、
ほぼ同一であることが証明されました。
つまり、
父親から娘への新型インフルエンザの感染が、
成立したことがほぼ実証されたのです。
残念ながら治療の甲斐もなく、
父親も娘さんもその後亡くなっています。
従って、
この新型インフルエンザが、
時には人から人に感染することは間違いがなさそうですが、
その後の接触者の検診においては、
1例も娘さん以外には、
感染の成立はなかったことから、
そうした感染自体が非常に稀なケースであることは、
現時点では間違いがなさそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
中国で今年流行が問題となった、
H7N9というタイプの新型インフルエンザによる、
初めての人から人への感染事例の報告です。
今年の3月の下旬から、
中国本土を中心にして、
おそらくは市場の鳥由来と思われる、
H7N9というタイプのA型の新型インフルエンザの感染が、
世界的なパンデミックに繋がるという危惧もあって、
世界規模の問題になりました。
中国当局の迅速な対応もあって、
これまでのところその被害は最小限に食い止められ、
台湾の事例の報告はありますが、
それ以外は中国大陸での感染に留まり、
終息への傾向を見せてはいますが、
先日も広東省で初めての患者さんが報告されるなど、
また予断を許さない状況であることは間違いがありません。
今年の8月15日の時点で、
報告患者数は134人に上り、
死者も45人となっています。
この新型インフルエンザ(H7N9)については、
これまでにも多くの報告があり、
かなり多くのことが既に明らかになっていますが、
解決されていない問題として、
このウイルスの人から人への感染が、
起こり得るのかどうか、
という点があります。
人から人への感染が、
容易に成立するとすれば、
到底100人規模の感染で治まる筈はありませんから、
仮に人から人への感染が、
起こり得るとしても、
それは非常に限定的で稀なことであるのは、
どうやら間違いはなさそうです。
これまでに何例か、
家族内などでの人から人への感染の、
疑われる事例は報告されていますが、
明確にそれが証明された、
という報告はありませんでした。
今回の文献においては、
今年の3月8日に息切れや発熱で発症した、
60歳の男性患者から、32歳の娘に、
新型インフルエンザが感染した、
という事例が紹介されています。
娘さんはお父さんの看病で病院に通っていて、
3月21日に高熱と咳で発症しています。
父親は家禽との接触がありましたが、
娘さんはそうした接触はありませんでした。
父親と娘さんの両者から検出されたウイルスを分析したところ、
ほぼ同一であることが証明されました。
つまり、
父親から娘への新型インフルエンザの感染が、
成立したことがほぼ実証されたのです。
残念ながら治療の甲斐もなく、
父親も娘さんもその後亡くなっています。
従って、
この新型インフルエンザが、
時には人から人に感染することは間違いがなさそうですが、
その後の接触者の検診においては、
1例も娘さん以外には、
感染の成立はなかったことから、
そうした感染自体が非常に稀なケースであることは、
現時点では間違いがなさそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
インフルエンザ(H7N9)の臨床的特徴と予後に与える因子について [インフルエンザ(H7N9)]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
明日27日は石原が整形外科受診のため、
午後の外来は3時半で終了とさせて頂きます。
受診予定の方はご注意下さい。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のLancet誌に掲載された、
中国でその流行が問題となっている、
新型鳥由来インフルエンザ(H7N9)の、
臨床的な性質についての論文です。
今年の3月の終わりに初めてその存在が確認され、
終息傾向にはあるものの、
未だ患者さんの治療は継続されていて、
終息宣言は出されてはいません。
この新型インフルエンザについては、
その発生以来、
主に中国から山のような論文が発表されていて、
その多くが一流の医学誌の紙面を飾っています。
そのどれもが、
それほど違った内容のものではないので、
やや水増しの気味が最近は感じられます。
特に今回のLancetの論文は、
5月28日までの時点で確認された、
131名の患者さんのうち、
病院で治療を受けた123名の患者さんが解析されていますが、
先日ご紹介したthe New England Journal of Medicine誌の論文では、
5月10日までに確認された131名の患者さんのうち、
111名を解析した内容になっています。
New England...の論文は5月10の時点までの解析で、
5月20日にオンラインで発表されていて、
今回のLancetは5月28日時点までの解析で、
6月24日に発表されています。
これで本当に別個の論文として良いのでしょうか?
どうも疑問ですが、
まあ出した者勝ちということなのでしょう。
簡単に内容をご紹介します。
解析されている病院で治療を受けた123名の患者さんのうち、
5月28日の時点で、
30%に当たる37名が死亡され、
56%に当たる69名が回復し、
残りの17名はまだ治療中となっています。
症状があって病院を受診された患者さんの死亡リスクは、
これより概ね36%と計算されています。
病院を受診された患者さんのうち、
結果として83%の方は、
死亡を含む重症の経過を取っていますから、
重症化に結び付き易い、
ということが分かります。
ただ、
H5N1タイプの鳥インフルエンザでは、
この死亡リスクは概ね60~65%で、
2009年のH1N1タイプの新型インフルエンザの死亡リスクは、
世界全体の統計でも25%未満ですから、
今回の新型インフルエンザ(H7N9)の重症化率は、
概ね季節性インフルエンザや、
2009年の新型インフルエンザよりは高いけれど、
H5N1タイプの鳥インフルエンザよりは低い、
という言い方が可能です。
死亡リスクは矢張り年齢と共に高くなっていて、
60歳以上の年齢層の死亡リスクは、
49%と計算されています。
この患者さんの数というのは、
あくまで症状があって病院を受診した患者さんの数ですから、
実際にはより軽症であったり、
殆ど症状のない感染者も、
より多く存在はしている筈です。
今回周辺のサーベイランスの結果等から、
実際に症状のある患者さん全体の死亡リスクを推測すると、
それは10万人当たり、
160人~2800人の死亡に相当する、
と計算されました。
この程度の内容でLancetの紙面を飾り、
殆ど同じ内容の論文を、
その半月くらい前にはNew England...に掲載しているのですから、
論文というのも一体どういうものなのか、
少し疑問に思うところがありますが、
社会問題となっている事例の、
知見を共有するという意味合いもあるのでしょうから、
通常の科学的な新知見とは、
別個に考えるべきかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
明日27日は石原が整形外科受診のため、
午後の外来は3時半で終了とさせて頂きます。
受診予定の方はご注意下さい。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のLancet誌に掲載された、
中国でその流行が問題となっている、
新型鳥由来インフルエンザ(H7N9)の、
臨床的な性質についての論文です。
今年の3月の終わりに初めてその存在が確認され、
終息傾向にはあるものの、
未だ患者さんの治療は継続されていて、
終息宣言は出されてはいません。
この新型インフルエンザについては、
その発生以来、
主に中国から山のような論文が発表されていて、
その多くが一流の医学誌の紙面を飾っています。
そのどれもが、
それほど違った内容のものではないので、
やや水増しの気味が最近は感じられます。
特に今回のLancetの論文は、
5月28日までの時点で確認された、
131名の患者さんのうち、
病院で治療を受けた123名の患者さんが解析されていますが、
先日ご紹介したthe New England Journal of Medicine誌の論文では、
5月10日までに確認された131名の患者さんのうち、
111名を解析した内容になっています。
New England...の論文は5月10の時点までの解析で、
5月20日にオンラインで発表されていて、
今回のLancetは5月28日時点までの解析で、
6月24日に発表されています。
これで本当に別個の論文として良いのでしょうか?
どうも疑問ですが、
まあ出した者勝ちということなのでしょう。
簡単に内容をご紹介します。
解析されている病院で治療を受けた123名の患者さんのうち、
5月28日の時点で、
30%に当たる37名が死亡され、
56%に当たる69名が回復し、
残りの17名はまだ治療中となっています。
症状があって病院を受診された患者さんの死亡リスクは、
これより概ね36%と計算されています。
病院を受診された患者さんのうち、
結果として83%の方は、
死亡を含む重症の経過を取っていますから、
重症化に結び付き易い、
ということが分かります。
ただ、
H5N1タイプの鳥インフルエンザでは、
この死亡リスクは概ね60~65%で、
2009年のH1N1タイプの新型インフルエンザの死亡リスクは、
世界全体の統計でも25%未満ですから、
今回の新型インフルエンザ(H7N9)の重症化率は、
概ね季節性インフルエンザや、
2009年の新型インフルエンザよりは高いけれど、
H5N1タイプの鳥インフルエンザよりは低い、
という言い方が可能です。
死亡リスクは矢張り年齢と共に高くなっていて、
60歳以上の年齢層の死亡リスクは、
49%と計算されています。
この患者さんの数というのは、
あくまで症状があって病院を受診した患者さんの数ですから、
実際にはより軽症であったり、
殆ど症状のない感染者も、
より多く存在はしている筈です。
今回周辺のサーベイランスの結果等から、
実際に症状のある患者さん全体の死亡リスクを推測すると、
それは10万人当たり、
160人~2800人の死亡に相当する、
と計算されました。
この程度の内容でLancetの紙面を飾り、
殆ど同じ内容の論文を、
その半月くらい前にはNew England...に掲載しているのですから、
論文というのも一体どういうものなのか、
少し疑問に思うところがありますが、
社会問題となっている事例の、
知見を共有するという意味合いもあるのでしょうから、
通常の科学的な新知見とは、
別個に考えるべきかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
新型インフルエンザ(H7N9)111例の臨床経過 [インフルエンザ(H7N9)]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
風疹の単独ワクチンは既に枯渇しましたが、
風疹と麻疹の混合ワクチンのMRワクチンも、
診療所でも毎日10名近い患者さんへの、
接種を継続していますが、
昨日問屋さんからは、
そろそろ供給が厳しい、
というお達しがありました。
つまり、早晩枯渇します。
こうした状況になるのは、
最初から分かっていた筈なのに、
「全国民にMRワクチンを!」
のような扇情的な発言を繰り返す、
自称専門家の方が多いのには、
本当に驚きます。
会社員をターゲットにして、
ワクチンを打ちまくるようなことを、
自らの使命のように主張されている方もいますが、
それでワクチンが枯渇したら、
どうすれば良いのでしょうか?
緊急輸入すれば良いと、
言われる方もいますが、
それはインフルエンザワクチンより、
遥かにハードルが高いように思います。
MMRワクチンの問題も解決していませんし、
ワクチン株も海外とは異なります。
それを強引に輸入するのは、
それこそが安全軽視の最たるものではないでしょうか?
以前は僕も厚労省の悪口を随分書きましたが、
昨今の経過を見ると、
今はむしろお役人様が、
非常にお気の毒に思えます。
今は矢張り、
優先順位を作って、
限りのあるワクチンを有効に使うのが、
最善の策なのではないですか?
でも、それを言うと、
「そんなことで妊娠された方の感染を防げるのか?」
と攻撃するのですから目も当てられません。
あっちからこう言われ、
こっちからはこう言われ、
入口も出口も塞いだ上に両手両足を縛り上げ、
それで出口戦略がないようなことを言われるのですから、
どうすりゃいいんだ、
という感じです。
風疹の流行は、
本当にワクチン接種率の低さだけが原因でしょうか?
何か他にも疫学的に、
検証するべき点があるのではないでしょうか?
急に患者さんが増えたように言われますが、
それは必ずしも事実ではないと思います。
大々的に報道されるまでは、
「風疹疑い」の患者さんの報告を挙げても、
集団感染以外は、
あまり取り合ってはもらえない感じだったからです。
要するにこれまでは、
決して全ての事例が報告されているのではなかったのに、
問題になると今度は挙って報告を挙げるので、
それで急増したように見える、
という側面もあるのではないでしょうか?
すいません。
しかられそうなので、
これくらいで今日の話題です。
今日はこちら。
鳥インフルエンザ由来の、
新型インフルエンザ(H7N9)の人間への感染が、
落ち着きつつはあるものの、
まだ中国で続いています。
今年の3月下旬の発生以降、
中国発の多くの論文が一流誌の紙面を飾り、
その対応の早さや、
遺伝子の解析結果の精度の高さなどで、
世界に中国の科学技術レベルの高さを、
印象付けました。
この辺りはさすがと言うべきか、
非常にしたたかです。
今回の文献は、
今年の5月10日までの時点で、
遺伝子レベルで感染が確認されている、
この新型インフルエンザの患者さん全131名のうち、
84.7%に当たる111名の患者さんの臨床経過を解析したものです。
これまで小出しに発表された、
個別の患者さんの事例は、
基本的には全て含まれています。
内容はこれまでに発表されたものが殆どですが、
それでも、今の時点で、
100例を越える患者さんの経過を、
整理しておくことは意義のあることだと思います。
それでは、
掻い摘んで内容をご説明します。
患者さんの平均年齢は61歳で、
14歳以下は2名のみ、
65歳以上が47名で全体の42.3%です。
性別は女性が35人で31.5%です。
この年齢と性別分布の不均衡については、
まだ明確な結論が出ていません。
上記文献においては、
感染者が高齢者に多い理由として、
仕事を引退後の高齢者は、
鳥や家禽と接触する機会が多い、
ということと、
高齢者は他の疾患の合併が多く、
同じ感染機会があっても、
より重症化し易かったのではないか、
と言う推測が記載されています。
実際患者さんのうちの61.3%は、
高血圧や心臓病などの、
基礎疾患を持っていました。
ただ、
男性に少ない理由については、
特にコメントはありません。
家禽との接触は55.9%に当たる62名の患者さんで確認されていて、
そのから推測される平均の潜伏期間は5日間で、
概ね2~8日の間に分布しています。
初発症状は急な発熱と咳で、
この咳はすぐに痰絡みになり、
数日で重症の肺炎や急性呼吸窮迫症候群、
そしてショック状態に移行します。
医療機関受診時のレントゲン所見において、
97.3%に当たる108名が肺炎を呈していました。
両肺のスリガラス様陰影と、浸潤影が典型的な所見です。
咽喉の痛みや鼻汁、結膜炎は報告されず、
下痢や吐き気も1割程度の患者さんに見られただけです。
5月10日の時点で、
30名の患者さんが死亡し、
49名の患者さんは治癒して退院し、
30名の患者さんはまだ入院中で、
そのうちの24名は集中治療室に入っています。
タミフルなどの抗ウイルス剤は、
97.3%に当たる108名の患者さんで使用されましたが、
平均の使用開始時期は、
症状出現7日後で、
使用開始はかなり遅くなっています。
急性呼吸窮迫症候群に移行するリスクは、
3日以前に抗ウイルス剤を開始した場合と比較して、
3日以降で開始した患者さんでは2.42倍に、
有意差はないものの増加していて、
咽喉からウイルスが検出されなくなるまでの期間は、
症状出現から平均11日でしたが、
抗ウイルス剤の使用後平均6日となっています。
従って、断定的には言えませんが、
ガイドライン通り症状発現より早期に使用すれば、
ある程度の抗ウイルス剤の効果は、
あるように推測はされます。
今回検証された事例は、
あくまで重症感があって、
病院を受診した患者さんのみの検証なので、
実際には軽症であったり、
症状の出ないまま経過した感染者が、
どれだけの数存在しているのかは分かりません。
北京で7歳のお子さんのお母さんが、
このウイルスの不顕性感染であることが、
確認されていますが、
そうした事例がどれだけあるのかは、
現時点ではまだ未知数なのです。
日本においては、
まだ対岸の火事という感じで、
「こんなに風疹が流行って世界に向かって顔向けが出来ない」
といったような、
新種の自虐史観のような議論の方が盛んですが、
このH7N9は終息に向かうとしても、
鳥インフルエンザの新種の流行自体は、
決して遠い世界の話ではなく、
「今ここにある危機」であることは間違いのないことなので、
こうしたデータを整理して、
末端の医者の端くれとして、
出来ることは何かを確認しておくことも、
重要なのではないかと思いまとめてみました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
風疹の単独ワクチンは既に枯渇しましたが、
風疹と麻疹の混合ワクチンのMRワクチンも、
診療所でも毎日10名近い患者さんへの、
接種を継続していますが、
昨日問屋さんからは、
そろそろ供給が厳しい、
というお達しがありました。
つまり、早晩枯渇します。
こうした状況になるのは、
最初から分かっていた筈なのに、
「全国民にMRワクチンを!」
のような扇情的な発言を繰り返す、
自称専門家の方が多いのには、
本当に驚きます。
会社員をターゲットにして、
ワクチンを打ちまくるようなことを、
自らの使命のように主張されている方もいますが、
それでワクチンが枯渇したら、
どうすれば良いのでしょうか?
緊急輸入すれば良いと、
言われる方もいますが、
それはインフルエンザワクチンより、
遥かにハードルが高いように思います。
MMRワクチンの問題も解決していませんし、
ワクチン株も海外とは異なります。
それを強引に輸入するのは、
それこそが安全軽視の最たるものではないでしょうか?
以前は僕も厚労省の悪口を随分書きましたが、
昨今の経過を見ると、
今はむしろお役人様が、
非常にお気の毒に思えます。
今は矢張り、
優先順位を作って、
限りのあるワクチンを有効に使うのが、
最善の策なのではないですか?
でも、それを言うと、
「そんなことで妊娠された方の感染を防げるのか?」
と攻撃するのですから目も当てられません。
あっちからこう言われ、
こっちからはこう言われ、
入口も出口も塞いだ上に両手両足を縛り上げ、
それで出口戦略がないようなことを言われるのですから、
どうすりゃいいんだ、
という感じです。
風疹の流行は、
本当にワクチン接種率の低さだけが原因でしょうか?
何か他にも疫学的に、
検証するべき点があるのではないでしょうか?
急に患者さんが増えたように言われますが、
それは必ずしも事実ではないと思います。
大々的に報道されるまでは、
「風疹疑い」の患者さんの報告を挙げても、
集団感染以外は、
あまり取り合ってはもらえない感じだったからです。
要するにこれまでは、
決して全ての事例が報告されているのではなかったのに、
問題になると今度は挙って報告を挙げるので、
それで急増したように見える、
という側面もあるのではないでしょうか?
すいません。
しかられそうなので、
これくらいで今日の話題です。
今日はこちら。
鳥インフルエンザ由来の、
新型インフルエンザ(H7N9)の人間への感染が、
落ち着きつつはあるものの、
まだ中国で続いています。
今年の3月下旬の発生以降、
中国発の多くの論文が一流誌の紙面を飾り、
その対応の早さや、
遺伝子の解析結果の精度の高さなどで、
世界に中国の科学技術レベルの高さを、
印象付けました。
この辺りはさすがと言うべきか、
非常にしたたかです。
今回の文献は、
今年の5月10日までの時点で、
遺伝子レベルで感染が確認されている、
この新型インフルエンザの患者さん全131名のうち、
84.7%に当たる111名の患者さんの臨床経過を解析したものです。
これまで小出しに発表された、
個別の患者さんの事例は、
基本的には全て含まれています。
内容はこれまでに発表されたものが殆どですが、
それでも、今の時点で、
100例を越える患者さんの経過を、
整理しておくことは意義のあることだと思います。
それでは、
掻い摘んで内容をご説明します。
患者さんの平均年齢は61歳で、
14歳以下は2名のみ、
65歳以上が47名で全体の42.3%です。
性別は女性が35人で31.5%です。
この年齢と性別分布の不均衡については、
まだ明確な結論が出ていません。
上記文献においては、
感染者が高齢者に多い理由として、
仕事を引退後の高齢者は、
鳥や家禽と接触する機会が多い、
ということと、
高齢者は他の疾患の合併が多く、
同じ感染機会があっても、
より重症化し易かったのではないか、
と言う推測が記載されています。
実際患者さんのうちの61.3%は、
高血圧や心臓病などの、
基礎疾患を持っていました。
ただ、
男性に少ない理由については、
特にコメントはありません。
家禽との接触は55.9%に当たる62名の患者さんで確認されていて、
そのから推測される平均の潜伏期間は5日間で、
概ね2~8日の間に分布しています。
初発症状は急な発熱と咳で、
この咳はすぐに痰絡みになり、
数日で重症の肺炎や急性呼吸窮迫症候群、
そしてショック状態に移行します。
医療機関受診時のレントゲン所見において、
97.3%に当たる108名が肺炎を呈していました。
両肺のスリガラス様陰影と、浸潤影が典型的な所見です。
咽喉の痛みや鼻汁、結膜炎は報告されず、
下痢や吐き気も1割程度の患者さんに見られただけです。
5月10日の時点で、
30名の患者さんが死亡し、
49名の患者さんは治癒して退院し、
30名の患者さんはまだ入院中で、
そのうちの24名は集中治療室に入っています。
タミフルなどの抗ウイルス剤は、
97.3%に当たる108名の患者さんで使用されましたが、
平均の使用開始時期は、
症状出現7日後で、
使用開始はかなり遅くなっています。
急性呼吸窮迫症候群に移行するリスクは、
3日以前に抗ウイルス剤を開始した場合と比較して、
3日以降で開始した患者さんでは2.42倍に、
有意差はないものの増加していて、
咽喉からウイルスが検出されなくなるまでの期間は、
症状出現から平均11日でしたが、
抗ウイルス剤の使用後平均6日となっています。
従って、断定的には言えませんが、
ガイドライン通り症状発現より早期に使用すれば、
ある程度の抗ウイルス剤の効果は、
あるように推測はされます。
今回検証された事例は、
あくまで重症感があって、
病院を受診した患者さんのみの検証なので、
実際には軽症であったり、
症状の出ないまま経過した感染者が、
どれだけの数存在しているのかは分かりません。
北京で7歳のお子さんのお母さんが、
このウイルスの不顕性感染であることが、
確認されていますが、
そうした事例がどれだけあるのかは、
現時点ではまだ未知数なのです。
日本においては、
まだ対岸の火事という感じで、
「こんなに風疹が流行って世界に向かって顔向けが出来ない」
といったような、
新種の自虐史観のような議論の方が盛んですが、
このH7N9は終息に向かうとしても、
鳥インフルエンザの新種の流行自体は、
決して遠い世界の話ではなく、
「今ここにある危機」であることは間違いのないことなので、
こうしたデータを整理して、
末端の医者の端くれとして、
出来ることは何かを確認しておくことも、
重要なのではないかと思いまとめてみました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
インフルエンザ(H7N9)のタミフル耐性と臨床的予後との関連性について [インフルエンザ(H7N9)]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のLancet誌に掲載された、
新型インフルエンザ(H7N9)の感染と、
そのウイルスのタミフル耐性の変異についての論文です。
今年の3月の下旬から、
中国本土を中心にして、
おそらくは市場の鳥由来と思われる、
H7N9というタイプのA型の新型インフルエンザの感染が、
世界的なパンデミックに繋がるという危惧もあって、
世界規模の問題になっています。
幸い今のところ、
人から人への感染は極めて稀にしか起こらず、
市場などの衛生管理の対策で、
感染自体も終息に向かっているようですが、
まだ油断は出来ませんし、
別個のパンデミックが、
生じる可能性もあります。
従って、
この新型インフルエンザに関する情報は、
日本においても重要であることは間違いがないのです。
さて、
このインフルエンザ(H7N9)は、
これまでのところ、
鳥などの家禽から人間に感染し、
極めて急激に肺炎などの呼吸器感染を来し、
多臓器不全や呼吸不全で、
3割近い死亡率を持つ重症型のウイルス感染です。
流行の当初はタミフルなどの抗ウイルス剤は、
その発病初期には使用されなかったため、
その効果については色々な見解がありました。
これまでの報告においては、
ウイルス遺伝子の解析により、
タミフルなどのノイラミニダーゼ阻害剤の、
耐性に結び付く変異は、
極めて少数の事例のみで検出されていました。
ただ、
仮にタミフル耐性の遺伝子変異が認められたとしても、
それが実際にその患者さんにおいて、
病状の経過に影響を与えるかどうかは、
何とも言えません。
タミフル耐性ウイルスが、
より重症型であるとは限りませんし、
1つの個体の中でも、
遺伝子変異のあるウイルスとないウイルスとが、
ないまぜになっていることも、
しばしばあるからです。
先日タミフル耐性ウイルスの可能性を示唆する、
症例報告の文献をご紹介しましたが、
これはウイルスの遺伝子は解析されていない、
臨床経過のみの1例報告で、
あまり参考になるようなものではありません。
今回の文献はさすがLancetで、
遺伝子の解析と病状との関連性を、
少ない事例ですが詳細に検討していて、
多くの興味深い知見が開示されています。
この論文では上海市の1施設で治療された、
インフルエンザ(H7N9)の14例の事例を対象としています。
先日ご紹介したNew England…で報告された、
2例の事例は除外されている、
と記載されています。
時期的には4月4日~4月20日の間に患者さんは入院されていて、
全例で時期は違いますが、
タミフルもしくは点滴のラピアクタが、
抗ウイルス剤として使用されています。
この14人の平均年齢は74歳で、
71%に当たる10名が男性です。
この年齢と性差は、
未だ解明されていない謎の1つです。
14人の患者さんのうち、
3名の人工肺(ECMO)を含めて、
7名の患者さんが人工呼吸器を装着し、
このうちECMOを装着した3名のうちの2名が、
亡くなっています。
ECMOを装着したもう1人の患者さんは、
5月18日の時点でまだECMO装着中です。
残りの4名の人工呼吸器を装着した患者さんは、
3人は回復して退院し、
残りの1名は5月18日の時点で、
まだ人工呼吸器を装着して入院中です。
残りの7名の患者さんは全て回復し、
退院しています。
当初の報告より、
適切な治療により、
かなりその予後は改善しているようです。
さて、
上記の患者さんは全て、
抗ウイルス剤を使用されています。
ただ、
その治療開始時期は、
最も早い事例で発病後2日ですが、
それ以外の事例は発病後5日以降となっています。
タミフルのような薬剤は、
病初期の治療ほど効果があり、
概ね発熱後48時間以内に使用を開始すべき、
とされていますから、
その基準よりはかなり遅い投与となっているのです。
ただ、
通常のインフルエンザと比較して、
このH7N9の感染では、
人間の体内でウイルスが増殖している期間が長く、
それが重症化の1つの要因となっているので、
抗ウイルス剤の有効性が期待出来る期間も、
より長くなる、という可能性はある訳です。
使用されている薬剤は経口薬のタミフル(オセルタミビル)と、
注射薬のラピアクタ(ペラミビル)です。
タミフルは通常用量の1日150mgもしくは、
倍量の1日300mgが使用され、
ラピアクタは1日600mgが使用されています。
必ずしも重症の事例で、
その投与量が多くなっている、
ということではないようです。
その患者さんの腎機能等の状態を、
勘案しての判断と思われます。
4例の事例においては、
メチルプレドニゾロンというタイプのステロイドが、
1日40mgから120mgの範囲で使用されています。
今回の事例では、
全員1回以上は咽喉の検体で、
ウイルス量の測定が行なわれ、
多くの事例で複数回の測定により、
ウイルス量の、
治療による減少の有無が検討されています。
更には人工呼吸器やECMOを装着した、
重症の事例においては、
複数回の遺伝子の変異の解析により、
タミフルなどの抗ウイルス剤の耐性に関わるとされる、
Arg292Lysという遺伝子変異の有無を確認しています。
その結果、
抗ウイルス剤の使用により、
ウイルス量は経過の良い事例では、
速やかに減少していて、
それが良い経過に結び付いていることが示唆されます。
一方でECMOを装着したような事例では、
抗ウイルス剤の使用によっても、
ウイルス量が減少しなかったり、
一旦減少したウイルス量が、
再度病状の悪化に伴い増加する、
という事例が認められ、
興味深いことには、
そうした事例において、
1例のみですが、
最初は存在しなかったタミフル耐性の遺伝子変異が、
病状経過の中で出現している、
という結果が確認されました。
つまり、
抗ウイルス剤の使用により、
多くの患者さんでウイルス量は減少するのですが、
その中で短期間にタミフル耐性の遺伝子変異が生じることがあり、
そうしたケースでは抗ウイルス剤の効果が減弱するので、
病状が遷延し悪化し易いのではないか、
という推測です。
タミフル耐性の変異が確認されたのは、
今回報告された事例のうち2例のみですが、
もう1例では治療初期の検体からも変異が検出されていて、
最初からタミフル耐性のウイルスであった可能性もあります。
タミフルの耐性が確認された事例は、
いずれもステロイド治療が行なわれていて、
これまでの報告でもステロイド使用者の予後が、
良くないのではないか、
という推測がされていて、
それを今回の報告も裏打ちした感じです。
断定は出来ませんが、
ステロイドで身体の免疫が抑えられることにより、
ウイルスの増殖が促された可能性や、
ステロイドが何らかの機序で、
ウイルスの遺伝子変異を起こり易くした、
という可能性が示唆されます。
本来はタミフルの効果は、
使用しない場合と比較することが、
実証的な検討には不可欠ですが、
今回のような新型インフルエンザのケースでは、
倫理的にそうした研究は不可能です。
従って、
現状は臨床的な印象に留まるものですが、
タミフルなどの抗ウイルス剤は、
現状ではウイルス量の減少に、
一定の効果が期待され、
発症から2日以上が経過していても、
有効な可能性が高い、ということと、
抗ウイルス剤の使用にも関わらず、
ウイルス量が減少しないケースでは、
タミフル耐性の遺伝子変異の生じた可能性を考えるべきだ、
ということ、
そしてステロイドの安易な使用は、
病状に逆効果の可能性があるので、
慎重に判断するべきではないか、
というような点については、
臨床医が心に刻むべきことのように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のLancet誌に掲載された、
新型インフルエンザ(H7N9)の感染と、
そのウイルスのタミフル耐性の変異についての論文です。
今年の3月の下旬から、
中国本土を中心にして、
おそらくは市場の鳥由来と思われる、
H7N9というタイプのA型の新型インフルエンザの感染が、
世界的なパンデミックに繋がるという危惧もあって、
世界規模の問題になっています。
幸い今のところ、
人から人への感染は極めて稀にしか起こらず、
市場などの衛生管理の対策で、
感染自体も終息に向かっているようですが、
まだ油断は出来ませんし、
別個のパンデミックが、
生じる可能性もあります。
従って、
この新型インフルエンザに関する情報は、
日本においても重要であることは間違いがないのです。
さて、
このインフルエンザ(H7N9)は、
これまでのところ、
鳥などの家禽から人間に感染し、
極めて急激に肺炎などの呼吸器感染を来し、
多臓器不全や呼吸不全で、
3割近い死亡率を持つ重症型のウイルス感染です。
流行の当初はタミフルなどの抗ウイルス剤は、
その発病初期には使用されなかったため、
その効果については色々な見解がありました。
これまでの報告においては、
ウイルス遺伝子の解析により、
タミフルなどのノイラミニダーゼ阻害剤の、
耐性に結び付く変異は、
極めて少数の事例のみで検出されていました。
ただ、
仮にタミフル耐性の遺伝子変異が認められたとしても、
それが実際にその患者さんにおいて、
病状の経過に影響を与えるかどうかは、
何とも言えません。
タミフル耐性ウイルスが、
より重症型であるとは限りませんし、
1つの個体の中でも、
遺伝子変異のあるウイルスとないウイルスとが、
ないまぜになっていることも、
しばしばあるからです。
先日タミフル耐性ウイルスの可能性を示唆する、
症例報告の文献をご紹介しましたが、
これはウイルスの遺伝子は解析されていない、
臨床経過のみの1例報告で、
あまり参考になるようなものではありません。
今回の文献はさすがLancetで、
遺伝子の解析と病状との関連性を、
少ない事例ですが詳細に検討していて、
多くの興味深い知見が開示されています。
この論文では上海市の1施設で治療された、
インフルエンザ(H7N9)の14例の事例を対象としています。
先日ご紹介したNew England…で報告された、
2例の事例は除外されている、
と記載されています。
時期的には4月4日~4月20日の間に患者さんは入院されていて、
全例で時期は違いますが、
タミフルもしくは点滴のラピアクタが、
抗ウイルス剤として使用されています。
この14人の平均年齢は74歳で、
71%に当たる10名が男性です。
この年齢と性差は、
未だ解明されていない謎の1つです。
14人の患者さんのうち、
3名の人工肺(ECMO)を含めて、
7名の患者さんが人工呼吸器を装着し、
このうちECMOを装着した3名のうちの2名が、
亡くなっています。
ECMOを装着したもう1人の患者さんは、
5月18日の時点でまだECMO装着中です。
残りの4名の人工呼吸器を装着した患者さんは、
3人は回復して退院し、
残りの1名は5月18日の時点で、
まだ人工呼吸器を装着して入院中です。
残りの7名の患者さんは全て回復し、
退院しています。
当初の報告より、
適切な治療により、
かなりその予後は改善しているようです。
さて、
上記の患者さんは全て、
抗ウイルス剤を使用されています。
ただ、
その治療開始時期は、
最も早い事例で発病後2日ですが、
それ以外の事例は発病後5日以降となっています。
タミフルのような薬剤は、
病初期の治療ほど効果があり、
概ね発熱後48時間以内に使用を開始すべき、
とされていますから、
その基準よりはかなり遅い投与となっているのです。
ただ、
通常のインフルエンザと比較して、
このH7N9の感染では、
人間の体内でウイルスが増殖している期間が長く、
それが重症化の1つの要因となっているので、
抗ウイルス剤の有効性が期待出来る期間も、
より長くなる、という可能性はある訳です。
使用されている薬剤は経口薬のタミフル(オセルタミビル)と、
注射薬のラピアクタ(ペラミビル)です。
タミフルは通常用量の1日150mgもしくは、
倍量の1日300mgが使用され、
ラピアクタは1日600mgが使用されています。
必ずしも重症の事例で、
その投与量が多くなっている、
ということではないようです。
その患者さんの腎機能等の状態を、
勘案しての判断と思われます。
4例の事例においては、
メチルプレドニゾロンというタイプのステロイドが、
1日40mgから120mgの範囲で使用されています。
今回の事例では、
全員1回以上は咽喉の検体で、
ウイルス量の測定が行なわれ、
多くの事例で複数回の測定により、
ウイルス量の、
治療による減少の有無が検討されています。
更には人工呼吸器やECMOを装着した、
重症の事例においては、
複数回の遺伝子の変異の解析により、
タミフルなどの抗ウイルス剤の耐性に関わるとされる、
Arg292Lysという遺伝子変異の有無を確認しています。
その結果、
抗ウイルス剤の使用により、
ウイルス量は経過の良い事例では、
速やかに減少していて、
それが良い経過に結び付いていることが示唆されます。
一方でECMOを装着したような事例では、
抗ウイルス剤の使用によっても、
ウイルス量が減少しなかったり、
一旦減少したウイルス量が、
再度病状の悪化に伴い増加する、
という事例が認められ、
興味深いことには、
そうした事例において、
1例のみですが、
最初は存在しなかったタミフル耐性の遺伝子変異が、
病状経過の中で出現している、
という結果が確認されました。
つまり、
抗ウイルス剤の使用により、
多くの患者さんでウイルス量は減少するのですが、
その中で短期間にタミフル耐性の遺伝子変異が生じることがあり、
そうしたケースでは抗ウイルス剤の効果が減弱するので、
病状が遷延し悪化し易いのではないか、
という推測です。
タミフル耐性の変異が確認されたのは、
今回報告された事例のうち2例のみですが、
もう1例では治療初期の検体からも変異が検出されていて、
最初からタミフル耐性のウイルスであった可能性もあります。
タミフルの耐性が確認された事例は、
いずれもステロイド治療が行なわれていて、
これまでの報告でもステロイド使用者の予後が、
良くないのではないか、
という推測がされていて、
それを今回の報告も裏打ちした感じです。
断定は出来ませんが、
ステロイドで身体の免疫が抑えられることにより、
ウイルスの増殖が促された可能性や、
ステロイドが何らかの機序で、
ウイルスの遺伝子変異を起こり易くした、
という可能性が示唆されます。
本来はタミフルの効果は、
使用しない場合と比較することが、
実証的な検討には不可欠ですが、
今回のような新型インフルエンザのケースでは、
倫理的にそうした研究は不可能です。
従って、
現状は臨床的な印象に留まるものですが、
タミフルなどの抗ウイルス剤は、
現状ではウイルス量の減少に、
一定の効果が期待され、
発症から2日以上が経過していても、
有効な可能性が高い、ということと、
抗ウイルス剤の使用にも関わらず、
ウイルス量が減少しないケースでは、
タミフル耐性の遺伝子変異の生じた可能性を考えるべきだ、
ということ、
そしてステロイドの安易な使用は、
病状に逆効果の可能性があるので、
慎重に判断するべきではないか、
というような点については、
臨床医が心に刻むべきことのように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
タミフル耐性(?)インフルエンザ(H7N9)の1事例 [インフルエンザ(H7N9)]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のEmerging Microbes and Infections誌に掲載された、
中国で発生しているインフルエンザ(H7N9)の感染事例の、
症例報告の論文です。
ともかく滅多矢鱈と発表されている、
インフルエンザ(H7N9)関連の論文ですが、
玉石混交でこれはどちらかと言うと、
「石」の部類です。
たったお1人の事例の紹介である上に、
ウイルスの遺伝子が解析されているのでもありませんし、
タミフルを常用量で使用したものの、
効果がなかったので、
タミフル耐性の可能性があるかも…
というだけの薄弱な根拠で、
事例の経過を途中で発表しているという、
ある種の節操のなさがあります。
ただ、
幾つか興味深い点もありますので、
その点を主にご紹介したいと思います。
取り上げられている事例は、
56歳の男性で、
明確に書かれていませんが、
上海市の事例のようです。
この男性の妻が、
発熱と肺炎で3月27日に発症し、
A型インフルエンザ(H7N9)ウイルスの感染と診断されて、
4月3日に亡くなっています。
その濃厚な接触者31名のうちの1人であった、
夫であるこの男性は、
4月2日より乾いた咳と38.5度を越える熱の症状を示し、
妻からの感染を疑われて、
同日よりタミフル1日150mgが投与されています。
これは日本での常用量と同じ使用法です。
実際には妻の感染がインフルエンザ(H7N9)
であることが分かったのは、
4月4日のことですから、
この時点では疑いでしかなかったのですが、
初期からのタミフルの使用が行なわれているのです。
しかし、
病状は急速に悪化し、
4月5日には低酸素血症となり、
レントゲンでは両肺に広範な、
スリガラス様の肺炎像が出現増悪し、
CT検査にても浸潤性の陰影と胸水貯留を認め、
人工呼吸器を装着して治療に当たり、
4月25日の時点で、
予断を許さない状況が続いている、
と記載されています。
この男性は、
4月4日と5日の咽喉の検体では、
H7N9の遺伝子検査は陰性でしたが、
4月10日に3回目の検査を行ない、
その際に初めてH7N9の陽性が確認されています。
今回の事例から分かることが幾つかあります。
まず、
遺伝子診断は病初期には、
もう肺炎像が明確に出現している時期であっても、
陰性になるケースが有り得る、
ということです。
従って、
検査が陰性であっても、
病状の経過等からインフルエンザ感染が疑われる場合には、
その可能性を簡単に否定するのは危険だ、
ということになります。
2009年の「新型インフルエンザ(H1N1)」の際には、
日本でも同様に生前の検査では陰性で、
死後に初めて感染が判明した、
というような事例が複数ありました。
今回の事例では、
複数回の検査が行われていますが、
2009年時の保健所等の対応を見る限り、
日本ではもっと杜撰な対応になるのではないかと、
危惧がされるところです。
論文において強調されていることは、
第一にこの事例がタミフル耐性ウイルスの可能性がある、
ということと、
第二にはこの事例が、
家族内の人間から人間への感染の事例の可能性がある、
という点です。
ただ、
第一のタミフル耐性については、
今回の文献においては、
当該のウイルスの解析結果が提示されておらず、
遺伝子的にタミフル耐性の変異があるかどうかが、
不確かであるので、
どちらとも言い切れないと思います。
重症の感染であることを考えると、
経口で150mgという常用量は、
少な過ぎた可能性もあり、
一概にタミフル耐性ウイルスとは言えません。
第二に家族内感染の可能性についてですが、
確かにこの事例では、
最初に感染した妻は、
毎日のように市場で生きた家禽との接触があり、
その一方で夫は明らかな家禽との接触が、
確認されていないので、
その可能性はあるのですが、
これもウイルスの相同性が、
遺伝子レベルで確認されてはいないので、
推測に留まるものです。
ただ、
仮に家族内感染であるとすると、
濃厚接触者31名のうち、
発症したのは1名のみですから、
矢張りこのウイルスは、
人から人への感染自体は起こし得ても、
その確率はかなり低い、
ということは推測されるように思います。
もう日本にも、
既にこのウイルスの感染者は存在する可能性がありますから、
そうした危機感を持って、
末端の医療者の1人として、
日々の診療に当たりたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のEmerging Microbes and Infections誌に掲載された、
中国で発生しているインフルエンザ(H7N9)の感染事例の、
症例報告の論文です。
ともかく滅多矢鱈と発表されている、
インフルエンザ(H7N9)関連の論文ですが、
玉石混交でこれはどちらかと言うと、
「石」の部類です。
たったお1人の事例の紹介である上に、
ウイルスの遺伝子が解析されているのでもありませんし、
タミフルを常用量で使用したものの、
効果がなかったので、
タミフル耐性の可能性があるかも…
というだけの薄弱な根拠で、
事例の経過を途中で発表しているという、
ある種の節操のなさがあります。
ただ、
幾つか興味深い点もありますので、
その点を主にご紹介したいと思います。
取り上げられている事例は、
56歳の男性で、
明確に書かれていませんが、
上海市の事例のようです。
この男性の妻が、
発熱と肺炎で3月27日に発症し、
A型インフルエンザ(H7N9)ウイルスの感染と診断されて、
4月3日に亡くなっています。
その濃厚な接触者31名のうちの1人であった、
夫であるこの男性は、
4月2日より乾いた咳と38.5度を越える熱の症状を示し、
妻からの感染を疑われて、
同日よりタミフル1日150mgが投与されています。
これは日本での常用量と同じ使用法です。
実際には妻の感染がインフルエンザ(H7N9)
であることが分かったのは、
4月4日のことですから、
この時点では疑いでしかなかったのですが、
初期からのタミフルの使用が行なわれているのです。
しかし、
病状は急速に悪化し、
4月5日には低酸素血症となり、
レントゲンでは両肺に広範な、
スリガラス様の肺炎像が出現増悪し、
CT検査にても浸潤性の陰影と胸水貯留を認め、
人工呼吸器を装着して治療に当たり、
4月25日の時点で、
予断を許さない状況が続いている、
と記載されています。
この男性は、
4月4日と5日の咽喉の検体では、
H7N9の遺伝子検査は陰性でしたが、
4月10日に3回目の検査を行ない、
その際に初めてH7N9の陽性が確認されています。
今回の事例から分かることが幾つかあります。
まず、
遺伝子診断は病初期には、
もう肺炎像が明確に出現している時期であっても、
陰性になるケースが有り得る、
ということです。
従って、
検査が陰性であっても、
病状の経過等からインフルエンザ感染が疑われる場合には、
その可能性を簡単に否定するのは危険だ、
ということになります。
2009年の「新型インフルエンザ(H1N1)」の際には、
日本でも同様に生前の検査では陰性で、
死後に初めて感染が判明した、
というような事例が複数ありました。
今回の事例では、
複数回の検査が行われていますが、
2009年時の保健所等の対応を見る限り、
日本ではもっと杜撰な対応になるのではないかと、
危惧がされるところです。
論文において強調されていることは、
第一にこの事例がタミフル耐性ウイルスの可能性がある、
ということと、
第二にはこの事例が、
家族内の人間から人間への感染の事例の可能性がある、
という点です。
ただ、
第一のタミフル耐性については、
今回の文献においては、
当該のウイルスの解析結果が提示されておらず、
遺伝子的にタミフル耐性の変異があるかどうかが、
不確かであるので、
どちらとも言い切れないと思います。
重症の感染であることを考えると、
経口で150mgという常用量は、
少な過ぎた可能性もあり、
一概にタミフル耐性ウイルスとは言えません。
第二に家族内感染の可能性についてですが、
確かにこの事例では、
最初に感染した妻は、
毎日のように市場で生きた家禽との接触があり、
その一方で夫は明らかな家禽との接触が、
確認されていないので、
その可能性はあるのですが、
これもウイルスの相同性が、
遺伝子レベルで確認されてはいないので、
推測に留まるものです。
ただ、
仮に家族内感染であるとすると、
濃厚接触者31名のうち、
発症したのは1名のみですから、
矢張りこのウイルスは、
人から人への感染自体は起こし得ても、
その確率はかなり低い、
ということは推測されるように思います。
もう日本にも、
既にこのウイルスの感染者は存在する可能性がありますから、
そうした危機感を持って、
末端の医療者の1人として、
日々の診療に当たりたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
インフルエンザ(H7N9)の遺伝子解析と臨床との関連について [インフルエンザ(H7N9)]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプトの事務作業の予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のLancet誌に掲載された、
中国で発生している新型インフルエンザの、
初期の4例の事例を解析した文献です。
先日3例の事例を解析した、
New England…の論文をご紹介しましたが、
基本的には別個の事例を扱ってはいても、
似通った内容のものです。
ただ、この論文でより明確化されている情報もあり、
そうした点を中心に、
今日はご紹介したいと思います。
この論文では、
浙江省の患者さんが4名紹介されています。
39歳の男性と68歳の男性、64歳の男性、そして51歳の女性です。
このうち39歳の男性と64歳の男性が亡くなっています。
4例とも明確に家禽との接触があります。
そして、接触後3~8日で発熱などの症状が出現しています。
比較的軽症であった68歳の男性と、
亡くなった64歳の男性では、
血液中のサイトカインと呼ばれる炎症物質が計測されていて、
それによると軽症の事例ではサイトカインの上昇は軽度で、
死亡事例では高度のサイトカインの持続的な上昇が、
認められています。
つまり、
これは多臓器不全などの重症化に、
サイトカインストームと呼ばれるような、
炎症性物質の過剰反応が、
関与している可能性を示唆するものです。
もう1つ興味深いことは、
New England…の論文で取り上げられていた、
27歳と35歳という若年の事例、
そして今回のうちでも39歳の若年の事例では、
全てB型肝炎の感染が基礎疾患として認められている、
ということです。
これは勿論ただの偶然かも知れませんが、
今後より多数例の検証において、
より大きな意味を持つ可能性もあるように思います。
今回の検討においては、
4例前例でウイルスの遺伝子が解析され、
特に亡くなった64歳の男性の事例のウイルス遺伝子と、
鶏から検出されたウイルス遺伝子との相同性が、
99%を越えるレベルで認められています。
つまり、
こうしたデータから、
家禽よりの感染という推測が、
裏打ちされている訳です。
こちらをご覧下さい。
これは4人の患者さんと、
相同性のある鶏から検出されたウイルスの、
人間への病原性に関わる主な変異の有無を確認したものです。
一番左は今回の64歳の男性の事例で、
次が相同性のある鶏から検出したウイルス、
その右の3例は、
以前ご紹介したNew England…で解析されていた、
上海市などの3例の事例です。
4例の感染者のうち3例では、
人間の下気道にも上気道にも、
接着し易いような変異があり、
4例全てが今はあまり使用されない抗ウイルス剤の、
アマンタジンに対する耐性の変異を持っています。
上海市の1例を除き、
タミフルやリレンザへの耐性化の変異は認められていません。
つまり、
今回のウイルスは人間の気道に感染し易い性質を持っているけれど、
現時点ではタミフルなどの抗ウイルス剤は有効である可能性が高い、
ということになります。
より高温でもウイルスが増殖し易く、
より哺乳類に感染し易くなる蛋白の変異が、
今回の事例では検出されませんでしたが、
上海などの他の事例では認められています。
このようにウイルスの性質は、
必ずしも同一ではありませんが、
鳥よりもより哺乳類に感染し易くすることが分かっている、
複数の変異が認められていることより、
今後よりその動向に慎重である必要があるのです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプトの事務作業の予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のLancet誌に掲載された、
中国で発生している新型インフルエンザの、
初期の4例の事例を解析した文献です。
先日3例の事例を解析した、
New England…の論文をご紹介しましたが、
基本的には別個の事例を扱ってはいても、
似通った内容のものです。
ただ、この論文でより明確化されている情報もあり、
そうした点を中心に、
今日はご紹介したいと思います。
この論文では、
浙江省の患者さんが4名紹介されています。
39歳の男性と68歳の男性、64歳の男性、そして51歳の女性です。
このうち39歳の男性と64歳の男性が亡くなっています。
4例とも明確に家禽との接触があります。
そして、接触後3~8日で発熱などの症状が出現しています。
比較的軽症であった68歳の男性と、
亡くなった64歳の男性では、
血液中のサイトカインと呼ばれる炎症物質が計測されていて、
それによると軽症の事例ではサイトカインの上昇は軽度で、
死亡事例では高度のサイトカインの持続的な上昇が、
認められています。
つまり、
これは多臓器不全などの重症化に、
サイトカインストームと呼ばれるような、
炎症性物質の過剰反応が、
関与している可能性を示唆するものです。
もう1つ興味深いことは、
New England…の論文で取り上げられていた、
27歳と35歳という若年の事例、
そして今回のうちでも39歳の若年の事例では、
全てB型肝炎の感染が基礎疾患として認められている、
ということです。
これは勿論ただの偶然かも知れませんが、
今後より多数例の検証において、
より大きな意味を持つ可能性もあるように思います。
今回の検討においては、
4例前例でウイルスの遺伝子が解析され、
特に亡くなった64歳の男性の事例のウイルス遺伝子と、
鶏から検出されたウイルス遺伝子との相同性が、
99%を越えるレベルで認められています。
つまり、
こうしたデータから、
家禽よりの感染という推測が、
裏打ちされている訳です。
こちらをご覧下さい。
これは4人の患者さんと、
相同性のある鶏から検出されたウイルスの、
人間への病原性に関わる主な変異の有無を確認したものです。
一番左は今回の64歳の男性の事例で、
次が相同性のある鶏から検出したウイルス、
その右の3例は、
以前ご紹介したNew England…で解析されていた、
上海市などの3例の事例です。
4例の感染者のうち3例では、
人間の下気道にも上気道にも、
接着し易いような変異があり、
4例全てが今はあまり使用されない抗ウイルス剤の、
アマンタジンに対する耐性の変異を持っています。
上海市の1例を除き、
タミフルやリレンザへの耐性化の変異は認められていません。
つまり、
今回のウイルスは人間の気道に感染し易い性質を持っているけれど、
現時点ではタミフルなどの抗ウイルス剤は有効である可能性が高い、
ということになります。
より高温でもウイルスが増殖し易く、
より哺乳類に感染し易くなる蛋白の変異が、
今回の事例では検出されませんでしたが、
上海などの他の事例では認められています。
このようにウイルスの性質は、
必ずしも同一ではありませんが、
鳥よりもより哺乳類に感染し易くすることが分かっている、
複数の変異が認められていることより、
今後よりその動向に慎重である必要があるのです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
インフルエンザ(H7N9)の臨床的な特徴について [インフルエンザ(H7N9)]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のthe New England Journal of Medicine誌電子版に掲載された、
中国で多数の死者を出している、
鳥インフルエンザ由来と思われる、
H7N9というタイプのインフルエンザについての、
主に疫学的特徴をまとめた論文です。
これ以外にも明日ご紹介するLancetの論文もありますし、
最初の報告が確認されてから、
1ヶ月も経たないうちに論文ラッシュで、
ちょっと複雑な思いにも捉われます。
論文の内容はしっかりしているのですが、
中国の医療レベルの高さや、
対応の迅速さ、
研究機関のレベルの高さなどを、
強くアピールするような内容になっていて、
かなり戦略的なものを感じますし、
先日ご紹介したNew England…には初期の3例の報告があり、
Lancetにはそれとは別個の4例の報告があって、
内容もそう違うものではないので、
ある種有名医学誌に、
同時期に振り分けて論文を出した、
という感じもある訳です。
新型インフルエンザの発生源という立場を、
逆転させて、
科学技術大国としての、
中国の立場をアピールするのですから、
そのしたたかさに舌を巻く思いもし、
その力に圧倒される思いもします。
それはともかく…
上記の文献では今年の4月17日までに判明した、
この新型インフルエンザウイルスの、
82例の患者さんを解析しています。
中国においては、
原因不明の肺炎の事例を報告するシステムがあり、
それにより664例の入院患者さんが、
3月25日から4月17日の間に登録され、
そのうちの12.2%に当たる81名の患者さんの検体から、
今回問題になっているインフルエンザH7N9ウイルスが検出された、
という結果です。
一方でインフルエンザの監視のためのシステムとして、
インフルエンザ様の症状を呈した外来の患者さんのうち、
5551名の同時期の検体のチェックでは、
1名の患者さんからH7N9ウイルスが検出されました。
つまり、
このインフルエンザH7N9の感染は、
その殆どが重症の肺炎を呈していて、
軽症の事例は極めて少ない、
ということが分かります。
感染の確定した患者さんでは、
家族やその患者さんを診察した医療者など、
濃厚な接触の疑われる患者さんの、
接触者検診が行なわれます。
接触者検診を行なった人数は1689名で、
このうち1251名は1週間の経過を観察することが可能で、
その間に呼吸器症状は19名に出現しましたが、
H7N9ウイルスの感染はその19名からは1人も確認されませんでした。
人から人に簡単に感染が起こるものなら、
接触者の中から感染者が少なからず生まれる筈です。
従って、
この結果からは、
このウイルスの人から人への感染は、
極めて起こり難い、
ということが確認されるのです。
一方で感染者同士に関連のあるケースが、
この論文で検証された範囲で2つ存在しています。
こちらをご覧下さい。
図の上の部分は上海市の感染の事例ですが、
同一家族で3名の患者さんが出ています。
下の部分は江蘇省の事例ですが、
2名の患者さんが連続して発症しています。
こうした事例があるので、
人から人への感染が、
現時点では完全に否定は出来ないのです。
ただ、
家族発症ではありますが、
実際には別個に鳥などの動物との接触により、
感染した可能性も否定は出来ないのです。
個人的には、
人間への感染が成立しているのですから、
人から人への感染が、
完全に起こらない、
ということはないと考えます。
一定の条件が整えば、
人から人への感染も起こり得るのだけれど、
現時点ではそれはかなり限定的にしか起こらない、
と考えた方が合理的だと思います。
ただ、勿論上記の事例は家族内感染の証明にはなりません。
接触者検診の結果から見て、
接触者に感染する可能性は、
現状では極めて低い、
と想定して間違いはなさそうです。
次にこちらをご覧下さい。
82例の事例の疫学的な情報のまとめです。
患者さんの平均年齢は63歳で、
そのうちの73%が男性です。
この明瞭な性差と年齢の偏りとが、
現時点での大きな謎の1つです。
5歳未満の患者さんが2名カウントされています。
このお子さんはいずれも軽度の呼吸器症状に留まっている、
と記載されています。
つまり、
小児にはこのウイルスは軽症の症状を出し、
重症化することは極めて少ないのに対して、
成人、特に65歳以上の高齢者では、
重症の肺炎や多臓器不全を来す可能性が、
極めて高い、
ということが想定されます。
軽症の小児の事例が確認されていることは、
実際には症状のない、
不顕性感染の事例が、
多く存在する可能性を疑わせます。
接触者検診においては、
症状の出現したケースのみ、
ウイルスの検出が行なわれていますから、
無症状の事例が引っ掛からなくてもおかしくはないのです。
2009年の新型インフルエンザ騒動の時もそうでしたが、
高齢者に感染者が偏ると、
「抗体依存性免疫増強現象」が疑われ、
若年者に重症の事例が多いと、
過去の免疫の影響や、
サイトカインストームの影響などが指摘されます。
しかし、
実際には2009年の論争でも、
色々な説は出ても明快は結論はありませんでしたから、
こうした偏りのある疫学データに関しては、
単純な結論に飛び付くような愚は、
避けた方が良いように思います。
発病者は現時点では都会に多く、
家禽との接触が、
全体の58%で確認され、
何らかの動物との接触が、
77%では確認されています。
明日ご紹介する論文で書かれているように、
このウイルスと家禽や鳥から検出されたウイルスとの間には、
99%を越える遺伝子の相同性があり、
家禽からの感染が、
少なくともその一部であることは間違いがありません。
しかし、
それではそれだけなのか、
と考えると、
動物との接触の確認されない事例も少なからずあり、
必ずしもある市場や農場の周辺で大量発生、
というような経緯ではないので、
感染源については、
安易に結論を出すのは早計だと思います。
それでは次をご覧下さい。
臨床的な特徴のまとめです。
82例中81例は入院の事例です。
死亡の事例はこの時点で17名で21%です。
症状出現時から平均で1日後には、
医療機関を受診していますから、
初期から重症感が強いということが分かります。
4日後くらいには、
呼吸困難などが出現して、
入院となり、
7日後には集中治療室に入り、
11日後には亡くなるというのが、
重症の事例の平均的な経過です。
タミフルやリレンザなどの抗ウイルス剤の使用は、
現状は症状発症後数日以降に行なわれているので、
その臨床的な効果の有無は、
現時点では不明です。
現状の理解としては、
この感染症は動物を介して人間に感染し、
概ね1週間以内の潜伏期を持って、
成人では初期から高熱や痰絡みの咳で始まり、
肺炎や呼吸困難、
多臓器不全に移行します。
特にご病気を持っているような、
高齢者で重症化する傾向が高く、
より注意が必要と考えられます。
上記論文には記載はありませんが、
現行使用されている、
インフルエンザの迅速診断キットは、
H7タイプの動物インフルエンザ抗原にも、
反応することが添付文書上は記載されていて、
その感度は何とも言えませんが、
日本の現状で考えると、
動物との接触や中国からの帰国や渡航後に、
急性の呼吸器症状が出現した場合には、
速やかに迅速診断は施行することと、
状況により速やかに保健所に相談して対応することを、
末端の診療所の医者としては、
心掛けたいと考えます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のthe New England Journal of Medicine誌電子版に掲載された、
中国で多数の死者を出している、
鳥インフルエンザ由来と思われる、
H7N9というタイプのインフルエンザについての、
主に疫学的特徴をまとめた論文です。
これ以外にも明日ご紹介するLancetの論文もありますし、
最初の報告が確認されてから、
1ヶ月も経たないうちに論文ラッシュで、
ちょっと複雑な思いにも捉われます。
論文の内容はしっかりしているのですが、
中国の医療レベルの高さや、
対応の迅速さ、
研究機関のレベルの高さなどを、
強くアピールするような内容になっていて、
かなり戦略的なものを感じますし、
先日ご紹介したNew England…には初期の3例の報告があり、
Lancetにはそれとは別個の4例の報告があって、
内容もそう違うものではないので、
ある種有名医学誌に、
同時期に振り分けて論文を出した、
という感じもある訳です。
新型インフルエンザの発生源という立場を、
逆転させて、
科学技術大国としての、
中国の立場をアピールするのですから、
そのしたたかさに舌を巻く思いもし、
その力に圧倒される思いもします。
それはともかく…
上記の文献では今年の4月17日までに判明した、
この新型インフルエンザウイルスの、
82例の患者さんを解析しています。
中国においては、
原因不明の肺炎の事例を報告するシステムがあり、
それにより664例の入院患者さんが、
3月25日から4月17日の間に登録され、
そのうちの12.2%に当たる81名の患者さんの検体から、
今回問題になっているインフルエンザH7N9ウイルスが検出された、
という結果です。
一方でインフルエンザの監視のためのシステムとして、
インフルエンザ様の症状を呈した外来の患者さんのうち、
5551名の同時期の検体のチェックでは、
1名の患者さんからH7N9ウイルスが検出されました。
つまり、
このインフルエンザH7N9の感染は、
その殆どが重症の肺炎を呈していて、
軽症の事例は極めて少ない、
ということが分かります。
感染の確定した患者さんでは、
家族やその患者さんを診察した医療者など、
濃厚な接触の疑われる患者さんの、
接触者検診が行なわれます。
接触者検診を行なった人数は1689名で、
このうち1251名は1週間の経過を観察することが可能で、
その間に呼吸器症状は19名に出現しましたが、
H7N9ウイルスの感染はその19名からは1人も確認されませんでした。
人から人に簡単に感染が起こるものなら、
接触者の中から感染者が少なからず生まれる筈です。
従って、
この結果からは、
このウイルスの人から人への感染は、
極めて起こり難い、
ということが確認されるのです。
一方で感染者同士に関連のあるケースが、
この論文で検証された範囲で2つ存在しています。
こちらをご覧下さい。
図の上の部分は上海市の感染の事例ですが、
同一家族で3名の患者さんが出ています。
下の部分は江蘇省の事例ですが、
2名の患者さんが連続して発症しています。
こうした事例があるので、
人から人への感染が、
現時点では完全に否定は出来ないのです。
ただ、
家族発症ではありますが、
実際には別個に鳥などの動物との接触により、
感染した可能性も否定は出来ないのです。
個人的には、
人間への感染が成立しているのですから、
人から人への感染が、
完全に起こらない、
ということはないと考えます。
一定の条件が整えば、
人から人への感染も起こり得るのだけれど、
現時点ではそれはかなり限定的にしか起こらない、
と考えた方が合理的だと思います。
ただ、勿論上記の事例は家族内感染の証明にはなりません。
接触者検診の結果から見て、
接触者に感染する可能性は、
現状では極めて低い、
と想定して間違いはなさそうです。
次にこちらをご覧下さい。
82例の事例の疫学的な情報のまとめです。
患者さんの平均年齢は63歳で、
そのうちの73%が男性です。
この明瞭な性差と年齢の偏りとが、
現時点での大きな謎の1つです。
5歳未満の患者さんが2名カウントされています。
このお子さんはいずれも軽度の呼吸器症状に留まっている、
と記載されています。
つまり、
小児にはこのウイルスは軽症の症状を出し、
重症化することは極めて少ないのに対して、
成人、特に65歳以上の高齢者では、
重症の肺炎や多臓器不全を来す可能性が、
極めて高い、
ということが想定されます。
軽症の小児の事例が確認されていることは、
実際には症状のない、
不顕性感染の事例が、
多く存在する可能性を疑わせます。
接触者検診においては、
症状の出現したケースのみ、
ウイルスの検出が行なわれていますから、
無症状の事例が引っ掛からなくてもおかしくはないのです。
2009年の新型インフルエンザ騒動の時もそうでしたが、
高齢者に感染者が偏ると、
「抗体依存性免疫増強現象」が疑われ、
若年者に重症の事例が多いと、
過去の免疫の影響や、
サイトカインストームの影響などが指摘されます。
しかし、
実際には2009年の論争でも、
色々な説は出ても明快は結論はありませんでしたから、
こうした偏りのある疫学データに関しては、
単純な結論に飛び付くような愚は、
避けた方が良いように思います。
発病者は現時点では都会に多く、
家禽との接触が、
全体の58%で確認され、
何らかの動物との接触が、
77%では確認されています。
明日ご紹介する論文で書かれているように、
このウイルスと家禽や鳥から検出されたウイルスとの間には、
99%を越える遺伝子の相同性があり、
家禽からの感染が、
少なくともその一部であることは間違いがありません。
しかし、
それではそれだけなのか、
と考えると、
動物との接触の確認されない事例も少なからずあり、
必ずしもある市場や農場の周辺で大量発生、
というような経緯ではないので、
感染源については、
安易に結論を出すのは早計だと思います。
それでは次をご覧下さい。
臨床的な特徴のまとめです。
82例中81例は入院の事例です。
死亡の事例はこの時点で17名で21%です。
症状出現時から平均で1日後には、
医療機関を受診していますから、
初期から重症感が強いということが分かります。
4日後くらいには、
呼吸困難などが出現して、
入院となり、
7日後には集中治療室に入り、
11日後には亡くなるというのが、
重症の事例の平均的な経過です。
タミフルやリレンザなどの抗ウイルス剤の使用は、
現状は症状発症後数日以降に行なわれているので、
その臨床的な効果の有無は、
現時点では不明です。
現状の理解としては、
この感染症は動物を介して人間に感染し、
概ね1週間以内の潜伏期を持って、
成人では初期から高熱や痰絡みの咳で始まり、
肺炎や呼吸困難、
多臓器不全に移行します。
特にご病気を持っているような、
高齢者で重症化する傾向が高く、
より注意が必要と考えられます。
上記論文には記載はありませんが、
現行使用されている、
インフルエンザの迅速診断キットは、
H7タイプの動物インフルエンザ抗原にも、
反応することが添付文書上は記載されていて、
その感度は何とも言えませんが、
日本の現状で考えると、
動物との接触や中国からの帰国や渡航後に、
急性の呼吸器症状が出現した場合には、
速やかに迅速診断は施行することと、
状況により速やかに保健所に相談して対応することを、
末端の診療所の医者としては、
心掛けたいと考えます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
インフルエンザ(H7N9)ウイルスの特徴について [インフルエンザ(H7N9)]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日は昨日に引き続いて、
今年の2月下旬より人間への感染の事例が、
中国において確認され、
ウイルスが同定された、
インフルエンザ(H7N9)についての話です。
このインフルエンザウイルスは、
これまでに人間への感染が確認された事例はなく、
他の動物においても、
全く同じウイルスの感染は、
確認されていませんでした。
ただ、
タイプとして同じH7N9のウイルスは、
鳥に感染するインフルエンザとしては確認されていて、
そのために、
おそらくは鳥インフルエンザのウイルスが、
変異したものが今回のH7N9ウイルスではないか、
と考えられているのです。
こちらをご覧下さい。
昨日ご紹介した、
New England…の論文の中にある図です。
今回のH7N9ウイルスの遺伝子は、
既に解析されていますが、
鳥に感染する3種類のウイルスの遺伝子が、
少しずつ組み合わさったような内容になっています。
ウイルスの表面には、
幾つかの種類の蛋白質の突起が出ていて、
そのうち細胞に接着する時に使われる、
Hemagglutininと、
細胞の中で増殖したウイルスが、
細胞の外に出る時に使用される、
Neuraminidaseが、
それぞれHA抗原とNA抗原と呼ばれています。
このHAのタイプが7で、
NAのタイプが9であるというのが、
H7N9という呼称の由来です。
ちなみに2009年に流行した当時の「新型インフルエンザ」は、
H1N1というタイプのものでした。
H7N9というタイプのインフルエンザウイルスで、
これまでに知られていたのは、
図の左下に書かれている、
野生の鳥に感染するタイプのウイルスです。
このウイルスは、
鳥に感染しても、
殆ど症状は出しません。
しかし、
今回見付かったウイルスは、
タイプは同じH7N9ですが、
NA抗原はこのウイルスと同じものである一方、
HA抗原は別箇にアヒルに感染する、
H7N3というウイルスと相同性があります。
そして更にそれ以外の多くの遺伝子は、
H9N2というタイプの、
これも別箇の鳥に感染するウイルスと、
相同性を持っているのです。
今回見付かったウイルスが、
人間以外に検出されているのは、
家禽や野鳥ですが、
以前から鳥に感染していたウイルスであったのかどうかは、
現時点では分かりません。
このウイルスはまた、
構造からは豚への感染も可能ではないか、
という見解もあり、
仮にそうであれば、
現在想定されている感染経路は、
事実とは異なる可能性もあります。
鳥インフルエンザと言うと、
1997年に香港で発生が初めて確認された、
H5N1というタイプのものが有名です。
このウイルスによる感染は、
中国、インドネシア、エジプトなどで、
現在も患者さんが発生しています。
それでは、
この高病原性H5N1タイプの鳥インフルエンザウイルスと、
今回のH7N9タイプの、
おそらくは鳥インフルエンザを元とする、
インフルエンザウイルスとの間には、
どのような違いがあるのでしょうか?
まずこちらをご覧下さい。
これは日本臨床内科医会インフルエンザ研究班編の
「インフルエンザ診療マニュアル(第7版)」
に載せられている図表です。
最近の高病原性H5N1ウイルスによる人間への感染の事例を、
まとめて図表にしたものです。
死亡事例が確定症例の58%に上っていますから、
致死率の高い非常に怖い感染症であることは分かります。
しかし、
例数自体は多くても1か国で50~60人程度です。
これはこのウイルスが、
鳥から人間へは感染しても、
人間から人間への感染は、
非常に起こし難い、
という性質を持っているからです。
濃厚な接触のある家族などにおいて、
限定的には人間から人間への感染の事例はあるのですが、
かなり特殊なケースに限られ、
継続的にそうした感染が起こることはありません。
従って、
大流行する、ということはない訳です。
このウイルスが怖いのは、
早期に下気道に感染して、
重症の肺炎を起こしたり、
敗血症を起こしたりすることがあるからですが、
この下気道へのウイルスの接着メカニズムは、
同時に鳥への感染のし易さとも関連しているので、
怖いけれど人間から人間へは感染はし難いのです。
その一方で今回のH7N9の感染は、
3月31日に報告されて以来、
1か月に満たない間に100例を超える感染の事例が、
比較的狭い地域で報告されています。
重症の事例が多く、
死亡率は2割程度に上っています。
そして、
家族内での感染の事例も、
疑いを含めれば複数報告されていて、
人間から人間への感染が、
それほど起こり易いとは思えませんが、
少なくとも高病原性H5N1と比較すると、
感染の拡大の仕方から見て、
より人間に感染し易いウイルスである、
ということは言えるように思います。
次にこちらをご覧下さい。
これはWHOの報告書から取ったものですが、
高病原性H5N1鳥インフルエンザの患者さんの、
年齢と性別の分布を見たものです。
ご覧頂けるとお分かりのように、
年齢は15歳~39歳の若い層に明瞭に多く、
性差は見られません。
次にこちらをご覧下さい。
同じ報告書にある、
今度は今回のH7N9感染者の4月16日時点での、
年齢と性差の分布を見たものです。
全体の62%は60歳以上で、
性別は7割が男性です。
何故このような差が現れているのかは、
現時点では明確ではありません。
ただ、
H5N1で若年者が多い理由は、
その時点では若年者の方が、
鳥との接触の機会が多いためではないか、
という説明になっていましたから、
今回の結果を見ると、
その説明は考え直す必要がありそうです。
勿論医療機関で補足された、
重症の事例のみが、
現時点では報告の対象になっているので、
そのバイアスは当然掛かってはいるのですが、
それでもこれだけ明確な差がついているという点からは、
同じ鳥由来のインフルエンザではあっても、
両者には明確な差があることは、
間違いがなさそうです。
こうした差は、
両者のウイルスの遺伝子の解析の結果からも、
確認することが出来ます。
HAという抗原の性質を見ると、
H5N1は人間の下気道への接着がし易い性質があるのですが、
今回の変異型のH7N9は、
哺乳類の上気道に、
より接着し易い性質を持っていることが推測されています。
上気道に接着し易いということは、
それだけ容易に感染が成立し易いことを示しています。
また、
これは高病原性のH5N1にも認められている変異ですが、
PB2という蛋白に、
それまでの同種のウイルスより哺乳類に適合し、
飛沫による感染が成立し易くなる変異が認められています。
このように、
今回の変異型H7N9ウイルスは、
これまでの鳥インフルエンザウイルスよりも、
哺乳類に適合してその感染を来し易い性質があり、
その重症化の程度は、
高病原性H5N1と比較すると低いのですが、
それでも所謂季節性インフルエンザや、
2009年のH1N1(新型インフルエンザ)と比較すると、
遥かに致死率も重症化率も高く、
その感染のし易さも、
季節性インフルエンザのようには移りませんが、
H5N1の鳥インフルエンザと比較すれば、
人間から人間への感染も、
より起こり易い可能性が高いのです。
もう1つ重要なことは、
このウイルスは鳥に感染しても、
病気の症状は出さないので、
症状から感染している鳥を見分けることが出来ず、
感染源の管理が非常に難しいという点にあります。
現実にはこのウイルスに感染した鳥が、
もう世界中に広まっている可能性もあるのです。
今後の状況を注意深く見守りたいと思いますし、
中国から日本に来られて1~2週間の間に、
発熱や咳などの症状が出現すれば、
常にその可能性を頭に入れて、
日々の診療に当たりたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日は昨日に引き続いて、
今年の2月下旬より人間への感染の事例が、
中国において確認され、
ウイルスが同定された、
インフルエンザ(H7N9)についての話です。
このインフルエンザウイルスは、
これまでに人間への感染が確認された事例はなく、
他の動物においても、
全く同じウイルスの感染は、
確認されていませんでした。
ただ、
タイプとして同じH7N9のウイルスは、
鳥に感染するインフルエンザとしては確認されていて、
そのために、
おそらくは鳥インフルエンザのウイルスが、
変異したものが今回のH7N9ウイルスではないか、
と考えられているのです。
こちらをご覧下さい。
昨日ご紹介した、
New England…の論文の中にある図です。
今回のH7N9ウイルスの遺伝子は、
既に解析されていますが、
鳥に感染する3種類のウイルスの遺伝子が、
少しずつ組み合わさったような内容になっています。
ウイルスの表面には、
幾つかの種類の蛋白質の突起が出ていて、
そのうち細胞に接着する時に使われる、
Hemagglutininと、
細胞の中で増殖したウイルスが、
細胞の外に出る時に使用される、
Neuraminidaseが、
それぞれHA抗原とNA抗原と呼ばれています。
このHAのタイプが7で、
NAのタイプが9であるというのが、
H7N9という呼称の由来です。
ちなみに2009年に流行した当時の「新型インフルエンザ」は、
H1N1というタイプのものでした。
H7N9というタイプのインフルエンザウイルスで、
これまでに知られていたのは、
図の左下に書かれている、
野生の鳥に感染するタイプのウイルスです。
このウイルスは、
鳥に感染しても、
殆ど症状は出しません。
しかし、
今回見付かったウイルスは、
タイプは同じH7N9ですが、
NA抗原はこのウイルスと同じものである一方、
HA抗原は別箇にアヒルに感染する、
H7N3というウイルスと相同性があります。
そして更にそれ以外の多くの遺伝子は、
H9N2というタイプの、
これも別箇の鳥に感染するウイルスと、
相同性を持っているのです。
今回見付かったウイルスが、
人間以外に検出されているのは、
家禽や野鳥ですが、
以前から鳥に感染していたウイルスであったのかどうかは、
現時点では分かりません。
このウイルスはまた、
構造からは豚への感染も可能ではないか、
という見解もあり、
仮にそうであれば、
現在想定されている感染経路は、
事実とは異なる可能性もあります。
鳥インフルエンザと言うと、
1997年に香港で発生が初めて確認された、
H5N1というタイプのものが有名です。
このウイルスによる感染は、
中国、インドネシア、エジプトなどで、
現在も患者さんが発生しています。
それでは、
この高病原性H5N1タイプの鳥インフルエンザウイルスと、
今回のH7N9タイプの、
おそらくは鳥インフルエンザを元とする、
インフルエンザウイルスとの間には、
どのような違いがあるのでしょうか?
まずこちらをご覧下さい。
これは日本臨床内科医会インフルエンザ研究班編の
「インフルエンザ診療マニュアル(第7版)」
に載せられている図表です。
最近の高病原性H5N1ウイルスによる人間への感染の事例を、
まとめて図表にしたものです。
死亡事例が確定症例の58%に上っていますから、
致死率の高い非常に怖い感染症であることは分かります。
しかし、
例数自体は多くても1か国で50~60人程度です。
これはこのウイルスが、
鳥から人間へは感染しても、
人間から人間への感染は、
非常に起こし難い、
という性質を持っているからです。
濃厚な接触のある家族などにおいて、
限定的には人間から人間への感染の事例はあるのですが、
かなり特殊なケースに限られ、
継続的にそうした感染が起こることはありません。
従って、
大流行する、ということはない訳です。
このウイルスが怖いのは、
早期に下気道に感染して、
重症の肺炎を起こしたり、
敗血症を起こしたりすることがあるからですが、
この下気道へのウイルスの接着メカニズムは、
同時に鳥への感染のし易さとも関連しているので、
怖いけれど人間から人間へは感染はし難いのです。
その一方で今回のH7N9の感染は、
3月31日に報告されて以来、
1か月に満たない間に100例を超える感染の事例が、
比較的狭い地域で報告されています。
重症の事例が多く、
死亡率は2割程度に上っています。
そして、
家族内での感染の事例も、
疑いを含めれば複数報告されていて、
人間から人間への感染が、
それほど起こり易いとは思えませんが、
少なくとも高病原性H5N1と比較すると、
感染の拡大の仕方から見て、
より人間に感染し易いウイルスである、
ということは言えるように思います。
次にこちらをご覧下さい。
これはWHOの報告書から取ったものですが、
高病原性H5N1鳥インフルエンザの患者さんの、
年齢と性別の分布を見たものです。
ご覧頂けるとお分かりのように、
年齢は15歳~39歳の若い層に明瞭に多く、
性差は見られません。
次にこちらをご覧下さい。
同じ報告書にある、
今度は今回のH7N9感染者の4月16日時点での、
年齢と性差の分布を見たものです。
全体の62%は60歳以上で、
性別は7割が男性です。
何故このような差が現れているのかは、
現時点では明確ではありません。
ただ、
H5N1で若年者が多い理由は、
その時点では若年者の方が、
鳥との接触の機会が多いためではないか、
という説明になっていましたから、
今回の結果を見ると、
その説明は考え直す必要がありそうです。
勿論医療機関で補足された、
重症の事例のみが、
現時点では報告の対象になっているので、
そのバイアスは当然掛かってはいるのですが、
それでもこれだけ明確な差がついているという点からは、
同じ鳥由来のインフルエンザではあっても、
両者には明確な差があることは、
間違いがなさそうです。
こうした差は、
両者のウイルスの遺伝子の解析の結果からも、
確認することが出来ます。
HAという抗原の性質を見ると、
H5N1は人間の下気道への接着がし易い性質があるのですが、
今回の変異型のH7N9は、
哺乳類の上気道に、
より接着し易い性質を持っていることが推測されています。
上気道に接着し易いということは、
それだけ容易に感染が成立し易いことを示しています。
また、
これは高病原性のH5N1にも認められている変異ですが、
PB2という蛋白に、
それまでの同種のウイルスより哺乳類に適合し、
飛沫による感染が成立し易くなる変異が認められています。
このように、
今回の変異型H7N9ウイルスは、
これまでの鳥インフルエンザウイルスよりも、
哺乳類に適合してその感染を来し易い性質があり、
その重症化の程度は、
高病原性H5N1と比較すると低いのですが、
それでも所謂季節性インフルエンザや、
2009年のH1N1(新型インフルエンザ)と比較すると、
遥かに致死率も重症化率も高く、
その感染のし易さも、
季節性インフルエンザのようには移りませんが、
H5N1の鳥インフルエンザと比較すれば、
人間から人間への感染も、
より起こり易い可能性が高いのです。
もう1つ重要なことは、
このウイルスは鳥に感染しても、
病気の症状は出さないので、
症状から感染している鳥を見分けることが出来ず、
感染源の管理が非常に難しいという点にあります。
現実にはこのウイルスに感染した鳥が、
もう世界中に広まっている可能性もあるのです。
今後の状況を注意深く見守りたいと思いますし、
中国から日本に来られて1~2週間の間に、
発熱や咳などの症状が出現すれば、
常にその可能性を頭に入れて、
日々の診療に当たりたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
インフルエンザ(H7N9)の中国感染事例を考える [インフルエンザ(H7N9)]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月の31日以降、
中国において鳥インフルエンザ由来と思われる、
H7N9というタイプのA型インフルエンザウイルスが、
人間に感染する事例が相次いで報告され、
確認された事例は4月21日時点で100例を越えています。
実際の感染は今年の2月の下旬から始まっているのです。
そして、
このうち2割近い患者さんが亡くなっています。
上記の文献は、
今月のthe New England Journal of Medicine誌の電子版に掲載された、
その初期の3例の死亡事例の報告と、
そのウイルスの解析を行なったものです。
最初の患者さんが医療機関を受診してから、
概ね1ヶ月後には、
ウイルスの全遺伝子が解析されているのですから、
非常に迅速な対応が取られたことが分かります。
今日はそこから、
3人の感染事例をご紹介します。
こちらをご覧下さい。
字が小さくて読み辛いかと思いますが、
初期に感染した3例の死亡事例を表にしたものが、
こちらになります。
事例1は87歳の男性で、
慢性の肺の病気と高血圧の持病があり、
上海市での感染の事例です。
明確な鳥との接触は明らかではありません。
2月18日頃より咳と痰などの症状が出て、
それから1週間程度して高熱や呼吸困難へと移行しています。
ARDS(急性呼吸促迫症候群)を来たし、
3月4日に亡くなっています。
死因は呼吸不全です。
事例2は27歳の男性でB型肝炎の持病があり、
精肉業で市場において死んだ鳥との接触が、
想定されています。
矢張り上海市の事例です。
高熱と咳症状で発症し、
発症は2月27日で3月4日に入院し、
矢張り重症の呼吸不全を来して3月10日に亡くなっています。
死因は呼吸不全です。
事例3は35歳の女性で専業主婦で、
うつ病とB型肝炎の持病があります。
安き省(Anhui)の住民です。
矢張り高熱と咳で発症し、
発症1週間前に鳥肉を扱う市場を訪れています。
3月19日に入院し、
20日には集中治療室に移り、
敗血症と急性呼吸促迫症候群、
急性腎不全、脳炎、横紋筋融解症、二次性の細菌感染症と、
全身的に重篤な内臓障害を併発し、
4月9日に亡くなっています。
次にこちらをご覧下さい。
今度は3例の事例の臨床データを示したものです。
事例はいずれも、
咳と高熱で発症しています。
重症化するまで、
1週間程度の経過のあるものもありますが、
数日で急激に悪化している事例もあります。
事例1では通常の白い痰絡みの咳が、
1週間程度続いてから呼吸困難に至っていますが、
事例3は最初から高熱で、
5日後には呼吸困難に至り血性の痰が見られています。
鼻水や鼻詰まりの所見はなく、
下痢も見られていません。
季節性インフルエンザでは、
比較的鼻水は多く認められ、
H5N1の鳥インフルエンザでは、
下痢が多く認められるとされています。
つまり、
3例だけで云々は出来ませんが、
ウイルスが初期に増殖する場所が、
どうも他のインフルエンザウイルスとは、
違う可能性がありそうだ、
というところが、
1つのポイントと考えられます。
検査データでは、
白血球はむしろ低下していて、
特にリンパ球が減少傾向にあり、
重症の細菌感染で上昇する、
プロカルシトニンも低値に留まっています。
これは一般的なウイルス感染症の検査値です。
事例2と3では横紋筋融解症を併発していて、
筋肉の破壊を示す数値は上昇していますが、
事例1においてもCPKやLDHといった、
細胞の破壊に伴い上昇する数値は高値を示していて、
これは勿論単純に多臓器の障害を起こしたからとも思えますが、
仮に初期から上昇していたとすれば、
この感染症の特徴の1つである可能性もあります。
肺のレントゲンやCT所見においては、
スリガラス様の陰影のようなウイルス肺炎像から、
肺全体に水が溜まる、
ARDSと呼ばれる病態へと移行しています。
全例でタミフルが使用されていますが、
発症後7~8日目からの使用ですから、
この感染に効果があるかどうかは、
現時点では未知数です。
論文には明記されていませんが、
入院早期からタミフルが使用されている点から考えて、
簡易検査でA型インフルエンザの反応は、
陽性に出た可能性が高いように思います。
それではここまでのまとめです。
中国で感染が拡大している、
これまで人間での感染の確認されていない、
おそらくは鳥インフルエンザ由来と推定される、
H7N9タイプのA型インフルエンザの感染症は、
1週間以内の潜伏期を持って、
比較的急性の痰絡みの咳と発熱を持って始まり、
高熱と共に、
かなり早い経過で、
ウイルス肺炎と敗血症などの合併症を来して、
ARDS(急性呼吸促迫症候群)と呼ばれる病態に移行し、
呼吸困難を来します。
早期から適切な治療が行われないと、
致死的な経過を取る可能性が高いと想定されます。
明日はこの原因ウイルスについて、
現時点で分かっていることを、
整理しておきたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月の31日以降、
中国において鳥インフルエンザ由来と思われる、
H7N9というタイプのA型インフルエンザウイルスが、
人間に感染する事例が相次いで報告され、
確認された事例は4月21日時点で100例を越えています。
実際の感染は今年の2月の下旬から始まっているのです。
そして、
このうち2割近い患者さんが亡くなっています。
上記の文献は、
今月のthe New England Journal of Medicine誌の電子版に掲載された、
その初期の3例の死亡事例の報告と、
そのウイルスの解析を行なったものです。
最初の患者さんが医療機関を受診してから、
概ね1ヶ月後には、
ウイルスの全遺伝子が解析されているのですから、
非常に迅速な対応が取られたことが分かります。
今日はそこから、
3人の感染事例をご紹介します。
こちらをご覧下さい。
字が小さくて読み辛いかと思いますが、
初期に感染した3例の死亡事例を表にしたものが、
こちらになります。
事例1は87歳の男性で、
慢性の肺の病気と高血圧の持病があり、
上海市での感染の事例です。
明確な鳥との接触は明らかではありません。
2月18日頃より咳と痰などの症状が出て、
それから1週間程度して高熱や呼吸困難へと移行しています。
ARDS(急性呼吸促迫症候群)を来たし、
3月4日に亡くなっています。
死因は呼吸不全です。
事例2は27歳の男性でB型肝炎の持病があり、
精肉業で市場において死んだ鳥との接触が、
想定されています。
矢張り上海市の事例です。
高熱と咳症状で発症し、
発症は2月27日で3月4日に入院し、
矢張り重症の呼吸不全を来して3月10日に亡くなっています。
死因は呼吸不全です。
事例3は35歳の女性で専業主婦で、
うつ病とB型肝炎の持病があります。
安き省(Anhui)の住民です。
矢張り高熱と咳で発症し、
発症1週間前に鳥肉を扱う市場を訪れています。
3月19日に入院し、
20日には集中治療室に移り、
敗血症と急性呼吸促迫症候群、
急性腎不全、脳炎、横紋筋融解症、二次性の細菌感染症と、
全身的に重篤な内臓障害を併発し、
4月9日に亡くなっています。
次にこちらをご覧下さい。
今度は3例の事例の臨床データを示したものです。
事例はいずれも、
咳と高熱で発症しています。
重症化するまで、
1週間程度の経過のあるものもありますが、
数日で急激に悪化している事例もあります。
事例1では通常の白い痰絡みの咳が、
1週間程度続いてから呼吸困難に至っていますが、
事例3は最初から高熱で、
5日後には呼吸困難に至り血性の痰が見られています。
鼻水や鼻詰まりの所見はなく、
下痢も見られていません。
季節性インフルエンザでは、
比較的鼻水は多く認められ、
H5N1の鳥インフルエンザでは、
下痢が多く認められるとされています。
つまり、
3例だけで云々は出来ませんが、
ウイルスが初期に増殖する場所が、
どうも他のインフルエンザウイルスとは、
違う可能性がありそうだ、
というところが、
1つのポイントと考えられます。
検査データでは、
白血球はむしろ低下していて、
特にリンパ球が減少傾向にあり、
重症の細菌感染で上昇する、
プロカルシトニンも低値に留まっています。
これは一般的なウイルス感染症の検査値です。
事例2と3では横紋筋融解症を併発していて、
筋肉の破壊を示す数値は上昇していますが、
事例1においてもCPKやLDHといった、
細胞の破壊に伴い上昇する数値は高値を示していて、
これは勿論単純に多臓器の障害を起こしたからとも思えますが、
仮に初期から上昇していたとすれば、
この感染症の特徴の1つである可能性もあります。
肺のレントゲンやCT所見においては、
スリガラス様の陰影のようなウイルス肺炎像から、
肺全体に水が溜まる、
ARDSと呼ばれる病態へと移行しています。
全例でタミフルが使用されていますが、
発症後7~8日目からの使用ですから、
この感染に効果があるかどうかは、
現時点では未知数です。
論文には明記されていませんが、
入院早期からタミフルが使用されている点から考えて、
簡易検査でA型インフルエンザの反応は、
陽性に出た可能性が高いように思います。
それではここまでのまとめです。
中国で感染が拡大している、
これまで人間での感染の確認されていない、
おそらくは鳥インフルエンザ由来と推定される、
H7N9タイプのA型インフルエンザの感染症は、
1週間以内の潜伏期を持って、
比較的急性の痰絡みの咳と発熱を持って始まり、
高熱と共に、
かなり早い経過で、
ウイルス肺炎と敗血症などの合併症を来して、
ARDS(急性呼吸促迫症候群)と呼ばれる病態に移行し、
呼吸困難を来します。
早期から適切な治療が行われないと、
致死的な経過を取る可能性が高いと想定されます。
明日はこの原因ウイルスについて、
現時点で分かっていることを、
整理しておきたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。