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脳外科医と宇宙工学研究者の認知機能比較(BMJクリスマス論文) [ゆるい論文]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は大晦日でクリニックは休診です。

昨日に引き続いて今日も落ち葉拾い的な、
今年発表された論文紹介をお届けします。

今日はこちら。
脳外科医と宇宙工学研究者の認知機能は?.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年12月13日ウェブ掲載されたクリスマス論文です。
内容は別にインチキではないのですが、
通常の時期にはまあ掲載はされることのない、
ユーモラスなテーマを真面目に取り上げた論文です。

英語の決まった慣用句として、
「ロケット工学じゃあるまいし(It`s not rocket science)」や、
「脳外科手術じゃあるまいし(It's not brain surgery)」、
というものがあります。
これは日本語の「朝飯前」に近い意味の言葉で、
その仕事が簡単であることを示しています。

これは一般の人の考えとして、
ロケットを宇宙に飛ばすための技術を担う科学者や、
脳外科の手術を行う脳外科医のやっていることは、
非常に高度な技術や知能を要するものだ、
という見解があることを意味しているようです。

それでは、
実際に宇宙工学の研究者や脳外科医の知能は、
一般の人より優れているのでしょうか?
またこの2つの分野のエキスパートの脳の働きには、
どのような特徴があるのでしょうか?

別にそんなことを検証することに、
それほどの意味があるとも思えませんが、
今回の論文ではそれを大真面目に分析しています。

欧米の600名の宇宙工学の研究者と、
148名の脳外科医に、
Congnitron's Great British Intelligence Testという、
脳の認知機能をトータルに評価することの出来る、
改良型の知能テストを施行して、
その2つのエキスパートの認知機能を比較すると共に、
それを一般人口の標準的なデータと比較検証しています。

その結果、
脳外科医は宇宙工学研究者と比較して、
情報を集めて問題を解決する能力が優れていました。
その一方で宇宙工学研究者は脳外科医と比較して、
作業における集中力が勝っていました。

一般の標準的結果との比較では、
脳外科医は問題解決の速度において優れ、
記憶の再生速度は劣っていましたが、
それ以外の項目については明確な差はありませんでした。

このように、
確かに脳外科医と宇宙工学研究者には、
それなりの認知機能の特徴的傾向があり、
優れている側面もある一方で、
意外に劣っている部分もあり、
トータルに見ると左程の差があるとは認められませんでした。

上記論文においては、
この結果を見る限り、
「ロケット工学じゃあるまいし」や、
「脳外科手術じゃあるまいし」のような表現は、
簡単な仕事の適切や比喩とは言えず、
むしろ「It's a walk in the park」のような、
より昔からある同様の表現の方が、
妥当であるとの結論を提示しています。

これはまああまり真面目に取るような結論ではないのですが、
認知機能をトータルに見た時には、
職業やキャリアによる違いはそれほど大きなものではない、
という指摘としてはなかなか興味深く、
こうした人間の認知機能の傾向の、
どのような特徴を好むのかについても、
社会や時代により変遷があるもののようにも思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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人差し指薬指比率(2D:4D)と幸運との関係(BMJクリスマス論文) [ゆるい論文]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2と4指の比率.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年12月15日ウェブ掲載された、
肉体的な特徴と幸運との関連を検証した論文です。

これはこの医学誌恒例のクリスマス特集の一環で、
その検証方法は充分科学的なものではあるのですが、
内容的には通常の時期には決して掲載はされないような、
ユーモラスな部分とギャグすれすれの部分を持った内容です。

意外な男女の肉体的な違いとして、
人差し指と薬指の長さというものがあります。

男性は女性より、
短い人差し指と長い薬指を持っている、
と言うのです。

ざっくりで言うと、
女性では人差し指と薬指の長さはほぼ同じなのに対して、
男性では薬指の方が僅かに長いとされています。
これを分かり易く示すための指標が、
人差し指薬指比率(2D:4D)で、
人差し指の長さを薬指の長さで割り算した数値ですが、
これが女性ではほぼ1になり、
男性では1未満になる、
というのがこれまでのデータです。

こんなものが科学なのか、とは素朴に思いますし、
こうした肉体的性差の概念は、
今の世の中では排斥されがちなものですが、
実は2000年代にも結構多くの論文が、
このテーマで研究され発表されていて、
それによると胎児期に体内で分泌された男性ホルモンが、
2D:4Dの低下の原因であるとされています。

概ね2D:4Dが低いほど、
体力がある、幸運な人生を送るなど、
ポジティブな予後と関連がある、
という論文が過去には多く発表されていて、
これは男性優位社会の価値観を、
反映しているもののようにも思われます。
最近では逆にゲーム中毒では2D:4Dが低いなど、
男性ホルモンの高値がむしろ予後の悪さに結び付くという結果も多く、
社会の価値観の変化を感じさせます。

今回のクリスマス論文では、
過去に報告のある、
2D:4Dと人生における「幸運」との関連を検証する目的で、
幸運の指標として、
無作為に5枚のトランプを引いて、
よりポーカーで強い手を引き当てる確率と、
2D:4Dとの関係を検証しています。

その結果、
2D:4Dがより低いほど、
つまり胎児期の男性ホルモン曝露量が多いほど、
トランプで強い手札を引く確率が有意に高いことが、
データとして示されました。

これは「男性はより幸運だ」ということなのでしょうか?

勿論そうではありません。

論文の結論も、
単純に相関関係のみに着目して、
比較するのに適さないものを比較すると、
非現実的な結論に結び付く典型的な事例である、
というような趣旨の内容となっています。

少し前まで性別の優位性について、
至って真面目にこのような議論が、
科学的にもされていたのですが、
今後はこうした研究は、
クリスマスの面白論文程度の意味しか、
持たないものになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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医師の働き方と入院患者の予後 [ゆるい論文]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
パートタイムの医師のリスク.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年9月13日ウェブ公開された、
医師の働き方と患者の予後との関連についての論文です。

こうした論文は欧米では結構あるのですが、
いたって通常通りの分析が行われている一方で、
その題材自体はユーモアを感じるもので、
何処まで真面目なのか分からないような、
「ゆるい」印象もある内容です。

医者の働き方はブラックで、
無給で残業をさせるのも当たり前、
徹夜の当直の次の日も朝から通常に勤務するのが当たり前、
というようなところがありました。

ただ、最近では働き方改革というようなことが、
医療の世界でも言われるようになり、
こうした法律無視のような働き方を改善しよう、
というような動きもあり、
医師の方でも医局や病院に縛られず、
フリーで自由に働きたい、
というような考え方も多くなっているのが現状です。

そうした流れを受けて、
パートタイムの医者が増えており、
上記文献の記載では、
アメリカでも病院の勤務医の4分の1は、
パートタイムの医師で占められているようです。

医師がパートタイムであること自体は、
悪いことではありません。
ただ、たとえば救急患者を受け入れているような病院で、
臨床に携わっている時間の短い医師が、
患者を受け持つことが適切であるのかどうか、
というような点については、
色々な考え方がありそうです。

今回の研究はアメリカの高齢者医療保険のデータを活用して、
救急で病院を受診した患者の生命予後が、
主治医の1年間の臨床受け持ち時間により、
どのような影響を受けるのかを比較検証しているものです。

臨床に従事している時間が短いということは、
その医師が臨床はパートタイムで行なっている、
ということと、ほぼ同義になるという理屈です。

19170人の医師の治療を受けた、
392797件の入院事例を解析したところ、
4群に分けた年間臨床勤務時間が最も少ない、
つまりパートタイムの医師が治療した場合の、
30日の時点の死亡率が10.5%であったのに対して、
最も勤務時間が長い、すなわち臨床を専ら行なっている医師の、
30日の時点の死亡率は9.6%で、
この差は0.9%で統計的に有意なものでした。

この結果だけで、
パートタイムの医師の治療は死亡リスクを上昇させる、
という結論に至るのはかなり乱暴ですが、
実際に救急で治療に当たる医師の技量には差があり、
それを測る1つの物差しが、
その医師の臨床勤務時間だというのは、
1つの妥当な考え方ではあります。

上記文献の考察においても、
殊更そうした医師の働き方を批判するということではなく、
パートタイムの医師が診療に当たる場合には、
他の常勤の医師や看護師などの医療スタッフが、
より緊密な連携を取って、
患者に不利益が生じないようにチーム医療として取り組むべきだ、
というような考え方が述べられていて、
医師の働き方の多様化を受けて、
今後適切な医療レベルを、
どのように保つのかが重要となることは、
間違いのないことのように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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男性ホルモンを使うと嘘を吐かなくなる? [ゆるい論文]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
テストステロンが嘘を予防する..jpg
2012年のPLOS ONE誌に掲載された、
男性ホルモンの使用により嘘を吐かなくなるという、
ちょっと信じがたいような心理研究の論文です。

非常に面白いのですが、
そんなことがある訳がない、
というのが常識的な考えで、
特に追試が行われている、という感じもなく、
掲載されているのが、
速報性重視でネットのみのPLOS ONEですから、
ゆるい論文という扱いが妥当だと思います。

どうか真顔では読まないようにお願いします。

テストステロンは男性ホルモンで、
脳の発達にも大きな影響を及ぼし、
また社会生活における行動の仕方にも、
影響を少なからず及ぼしている、
と言われています。

男性ホルモンは男性の攻撃的な言動と、
関連があるとする報告があります。
こうしたネガティブな面がある一方で、
プライド(自尊心)や向上心にも、
影響を及ぼしているという、
ややポジティブな側面もあります。

誰も見ていない場所で、
目先の損得のために嘘を吐くという行為は、
プライドが低いと発生しやすいという考え方があります。

それが事実であるとすると、
男性ホルモンであるテストステロンの使用により、
男性は嘘を吐かなくなるのではないでしょうか?

この仮説を大真面目に検証しているのが今回の研究です。

対象は平均年齢24歳の健康な男性91名で、
試験の実行者にも本人にも分からないように、
くじ引きで2つのグループに分け、
一方は試験の前日に男性ホルモンのゲルを皮膚に塗り
(テストステロン50㎎相当)、
もう一方は偽薬を同じように塗って、
その翌日に心理テストのような試験を行います。
外用剤の効果は21から24時間は持続すると想定されています。
検査が終了してから血液検査を行い、
テストステロンの外用剤が有効であったかを確認します。

心理テストの項目の中に、
サイコロを振ってその目を申告すると、
その目の数に従って報酬が支払われる、
というものがあります。

これが誰も見ていないので、
実際にはサイコロの目は違っていても、
高い報酬の数字を申告すれば、
要するに嘘を吐けば、
報酬は高く支払われるということになるのです。

その試験の結果を解析すると、
最も報酬の高い目の申告された頻度は、
実際に想定される確率分布より遥かに高かったのですが、
偽薬より男性ホルモン使用群で、
その頻度は有意に低くなっていました。

つまり、嘘を吐いて報酬を高く受け取った人は、
偽薬より男性ホルモン使用者で少なかったということになります。

検査法も厳密で結果も比較的クリアなものなのですが、
健康な若者の男性ホルモンの濃度を、
少し上昇させただけで嘘を吐かなくなる、
というのは如何にも不自然で、
何か別個の要因があったのではないか、
とどうしても考えたくなります。

ただ、はっきり嘘とも断定は出来ません。

これが事実なら男性ホルモンが低下する高齢男性は、
全て嘘吐きということになりますが、
「うーん。ひょっとしたらそうかもね…」
などと思えてしまうところが、
なかなかしたたかな結果だとも思うのです。

今日は男性ホルモンを使用すると、
たちどころに嘘を吐かなくなるという、
ゆるい論文についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「恋愛をするとボケない」のエビデンス [ゆるい論文]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
恋愛で神経成長因子が増加する.jpg
2006年のPsychoneuroendocrinology誌に掲載された、
脳神経の再生を促す物質が、
恋愛の初期には沢山分泌されるという、
「ほんまかしら…」という感じの論文です。

内容的には面白いのですが、
なるほど、と思う反面、でもなあ…という側面もあり、
Medline などで検索しても、
その後目立った追試のようなものはないようです。

従って、「ゆるい論文」というカテゴリーにさせて頂きました。

事実としてではなく、
雑談のネタ程度に思って頂ければと思います。

昔は脳神経の細胞は、
再生はしないで減少するだけ、
というように考えられて来ました。

しかし、現在では一定の条件があれば、
脳神経細胞も再生したり、
それまでにない神経ネットワークが作られたりすることが、
大人になってからもあると考えられています。
中でも間違いのないのが、
認知症で減少することが知られている、
海馬の神経細胞の再生です。

こうした一旦障害を受けたり減少した神経細胞が、
再生したり分化する時に必要な物質が、
神経栄養因子(neutrophins)です。

この神経栄養因子のうちの1つが、
神経成長因子(NGF)と呼ばれている蛋白質で、
神経細胞や免疫細胞などで産生分泌され、
神経細胞や神経ネットワークの再生や分化に携わります。

このNGFは情動に関わる神経の興奮にも関連があり、
アルツハイマー型認知症ではその分泌が早期に減少しますし、
うつ病でも減少します。
その一方で強迫性障害や全般性不安障害では、
NGFの濃度は血液中でも増加することが複数報告されています。

それでは、恋愛はNGFにどのような影響を与えるのでしょうか?

それを大真面目に研究したのが上記の論文です。

イタリアにおいて、
情熱的な恋に堕ちたばかり、
という若い男女(平均年齢24.4歳で19から31歳まで)を募集し、
恋に堕ちて半年以内という条件で、
恋愛スケールのようなもので、
その熱愛レベルを数値化します。

それを同年齢で恋などしていない、
という寂しい人達をコントロールにして、
両群で各種の神経栄養因子を血液で計測、
その違いを比較しています。

更には最初の調査から1年から2年後に、
同じ対象群に同様の調査と血液検査を行います。

恋愛群とコントロール群は、
共に58名が登録され、
恋愛群のうちの39例では、
1から2年後の再検査も行われています。

その結果…

神経栄養因子の中でNGFのみが、
恋愛群ではコントロール群より有意に増加していました。
そして、熱愛のスコアの数値と、
NGFの血液濃度も有意な相関を示しました。
つまり、熱愛度が高いほど、
熱烈な恋愛ほどNGFは上昇していた、
という結果です。

更に同じパートナーとその後1年以上過ごしている時点で、
同じ検証を行うと、
当然ですが熱愛のスコアは以前より低下していて、
それに伴ってNGF濃度も、
コントロール群と同じレベルまで低下が認められました。

つまり、
NGFは恋愛の初期の「くるったような」状態では、
明確な増加を示していましたが、
恋愛も安定期に入ると、
その増加は認められなくなったのです。

NGFが強迫性障害の時に増加する、
という現象から考えて、
恋愛もある種の強迫であって、
その時に脳で起こっていることは、
それほど違わない、と考えると、
なるほどと思えなくもない結果です。

ただし…

NGFは精神的に不安定な状態や変動のある状態では、
結構変動することが知られていますから、
単純にそうしたことを示しているだけで、
「恋愛すると認知症が予防出来る」
というのはちょっと飛躍があるようにも思います。
また、これはそもそも持続する反応ではないので、
それが脳に及ぼす影響も、
また一時的なものであるようにも思います。

そもそも恋愛というのはかなり主観的な現象ですから、
この結果をもって恋愛と神経成長因子との関連を論じるのも、
かなり無理があるようにも思い、
そんな訳でこうした研究は、
何処か香ばしく、ゆるいものになっているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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焼酎は水よりも血糖を下げる!? [ゆるい論文]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前中で診療は終わり、
午後は事務作業や大掃除の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
飲酒後の血糖値.jpg
今年のPeerJ誌に掲載された、
非常に不思議な雰囲気の論文です。

PeerJというのは、
比較的掲載のハードルが低い、
オープンアクセスでウェブのみの医学誌です。

そこに発表された論文の評価は、
発表されたこと自体にあるのではなく、
いわばウェブの読者がその値打ちを決める、
というタイプの雑誌です。
PLOS oneというのも同じタイプの医学メディアです。

今日ご紹介する論文は、
鹿児島大学の研究者によるものです。
鹿児島大学の医学部には心身内科学という講座があり、
二日酔い防止薬の特許を取っていたりする、
ほんのりと香しいにおいがするような教室なのですが、
そこの研究者と、
農学部の焼酎・発酵学教育研究センターの、
共同研究ということのようです。

内容はなかなかに凄いもので、
焼酎が身体に良いことを証明するために、
おそらくスタッフか学生でしょうか、
6人のボランティアに、
別々の日にビール、焼酎、日本酒、水を、
食事と一緒に飲んでもらい、
その後の血糖やインスリンの数値と、
飲酒後の睡眠時の脳波などの解析を行っています。

食事は病院食ということのようで、
お酒の量はアルコールで40グラムというのですから、
なかなかの酒量です。

ビールは1リットル、
焼酎は1.5合、日本酒も1.5合で、
それぞれ水で1リットルに薄め、
そして水も1リットルです。
これを病院食の夕食と一緒に、
午後7時からの30分で飲み干します。

こんなことをして体調を崩さないのかと不安に感じるところですが、
案の定、6人のうち1人の女性は飲み干すことが出来ずに、
リタイアしたと書かれています。
(これはパワハラではないのでしょうか?
非常に気の毒です)

その結果がまた驚くべきもので、
ただの水を飲んでも食後1時間の血糖値は、
140mg/dLに上昇しているのにも関わらず、
焼酎を飲んだ時には100mg/dLくらいしか上がっていません。
一方でビール1リットルを飲んだ後では、
血糖値は180mg/dLくらいまで上昇しています。

つまり、これを見る限り、
焼酎は糖尿病の治療薬としても有効なレベルで、
水を飲むよりも食後血糖を低下させ、
インスリン分泌も抑えています。

本当にこんなことがありうるのでしょうか?

焼酎には糖質が少ないので、
あり得ない結果ではないのですが、
だからどうなんだ、
それでトータルに健康的とか、
糖尿病を予防するとかと言って良いのか、
と突っ込みどころは色々とありそうです。

まずデザイン的に疑問なのは、
短時間で1リットルの水分やアルコール飲料を、
一気飲みするという人工的な条件です。

こうしたことをするのであれば、
まず食事とは別に空腹でアルコールや水を飲み、
その時の血糖値の推移を測定してから、
そこに食事を加えた効果を比較するべきではないでしょうか?

1日アルコール換算で25グラムを超える飲酒を継続することは、
健康に害のある可能性が高い、
というのが現在の基本認識であるかと思いますが、
40グラムという、
それを遥かに超える量のアルコールを一気に飲ませて、
それで食後血糖が低下したから焼酎は健康的だ、
というような結論は、
何処かお花畑のにおいを感じてしまいます。

ただ、読むとケトン体や乳酸なども測定をされていて、
冗談でこんな実験をしたとも考えにくいのです。

睡眠時の脳波も真面目に計測されています。
その結果は水とビールと比較して、
REM睡眠に至るまでの時間が、
日本酒と焼酎ではより短かった、
というものでした。
要するに深酒をすると眠りが浅くなっているという結果で、
こんなことをわざわざ証明するために、
ボランティアに焼酎の水割りを1リットル飲ませたのか、
と思うと、
何か頭がぼんやりとしてしまいます。

結論はなかなかに興味深いのですが、
食事内容も病院食だと言うだけで、
完全に同一とは書いてありませんし、
どのくらいの間隔でこの飲酒実験が繰り返されたのかも分かりません。
人数も5人ではちょっとな、と思います。
飲酒量はせめて健康に害がないとされる、
1日20グラム程度にとどめるのが、
倫理的には適切ではなかったかと思います。

この論文をそのまま真に受けて実行される方も、
いないとは思いますが、
内容的に焼酎の水割りを1リットル食事の度に飲めば、
糖尿病が予防出来ると読めなくもないのですから、
真面目に引用をされている医療者の方もいるのですが、
ちょっとおかしいのではないかと、
個人的には思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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