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「恋愛をするとボケない」のエビデンス [ゆるい論文]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
恋愛で神経成長因子が増加する.jpg
2006年のPsychoneuroendocrinology誌に掲載された、
脳神経の再生を促す物質が、
恋愛の初期には沢山分泌されるという、
「ほんまかしら…」という感じの論文です。

内容的には面白いのですが、
なるほど、と思う反面、でもなあ…という側面もあり、
Medline などで検索しても、
その後目立った追試のようなものはないようです。

従って、「ゆるい論文」というカテゴリーにさせて頂きました。

事実としてではなく、
雑談のネタ程度に思って頂ければと思います。

昔は脳神経の細胞は、
再生はしないで減少するだけ、
というように考えられて来ました。

しかし、現在では一定の条件があれば、
脳神経細胞も再生したり、
それまでにない神経ネットワークが作られたりすることが、
大人になってからもあると考えられています。
中でも間違いのないのが、
認知症で減少することが知られている、
海馬の神経細胞の再生です。

こうした一旦障害を受けたり減少した神経細胞が、
再生したり分化する時に必要な物質が、
神経栄養因子(neutrophins)です。

この神経栄養因子のうちの1つが、
神経成長因子(NGF)と呼ばれている蛋白質で、
神経細胞や免疫細胞などで産生分泌され、
神経細胞や神経ネットワークの再生や分化に携わります。

このNGFは情動に関わる神経の興奮にも関連があり、
アルツハイマー型認知症ではその分泌が早期に減少しますし、
うつ病でも減少します。
その一方で強迫性障害や全般性不安障害では、
NGFの濃度は血液中でも増加することが複数報告されています。

それでは、恋愛はNGFにどのような影響を与えるのでしょうか?

それを大真面目に研究したのが上記の論文です。

イタリアにおいて、
情熱的な恋に堕ちたばかり、
という若い男女(平均年齢24.4歳で19から31歳まで)を募集し、
恋に堕ちて半年以内という条件で、
恋愛スケールのようなもので、
その熱愛レベルを数値化します。

それを同年齢で恋などしていない、
という寂しい人達をコントロールにして、
両群で各種の神経栄養因子を血液で計測、
その違いを比較しています。

更には最初の調査から1年から2年後に、
同じ対象群に同様の調査と血液検査を行います。

恋愛群とコントロール群は、
共に58名が登録され、
恋愛群のうちの39例では、
1から2年後の再検査も行われています。

その結果…

神経栄養因子の中でNGFのみが、
恋愛群ではコントロール群より有意に増加していました。
そして、熱愛のスコアの数値と、
NGFの血液濃度も有意な相関を示しました。
つまり、熱愛度が高いほど、
熱烈な恋愛ほどNGFは上昇していた、
という結果です。

更に同じパートナーとその後1年以上過ごしている時点で、
同じ検証を行うと、
当然ですが熱愛のスコアは以前より低下していて、
それに伴ってNGF濃度も、
コントロール群と同じレベルまで低下が認められました。

つまり、
NGFは恋愛の初期の「くるったような」状態では、
明確な増加を示していましたが、
恋愛も安定期に入ると、
その増加は認められなくなったのです。

NGFが強迫性障害の時に増加する、
という現象から考えて、
恋愛もある種の強迫であって、
その時に脳で起こっていることは、
それほど違わない、と考えると、
なるほどと思えなくもない結果です。

ただし…

NGFは精神的に不安定な状態や変動のある状態では、
結構変動することが知られていますから、
単純にそうしたことを示しているだけで、
「恋愛すると認知症が予防出来る」
というのはちょっと飛躍があるようにも思います。
また、これはそもそも持続する反応ではないので、
それが脳に及ぼす影響も、
また一時的なものであるようにも思います。

そもそも恋愛というのはかなり主観的な現象ですから、
この結果をもって恋愛と神経成長因子との関連を論じるのも、
かなり無理があるようにも思い、
そんな訳でこうした研究は、
何処か香ばしく、ゆるいものになっているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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