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歯磨きの院内肺炎予防効果(2023年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は大晦日でクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
歯磨きの肺炎予防効果.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年12月18日付で掲載された、
歯磨きの肺炎予防効果についての論文です。

肺炎は高齢者の死因としても、
上位にランクされている感染症です。

院内感染としてもその頻度が高く、
入院の原因となった病気の治療には成功したものの、
入院中に肺炎を合併して、
そのために状態が悪化する、
というような事態も稀ではありません。

院内感染で重要なことは、
何よりその予防です。

ただ、現状明確な院内肺炎の予防策は確立していません。

口腔内の検出菌と肺炎の起因菌とが、
同一であることが多いことが報告されていて、
このことからは、
口腔内を清浄に保つことが、
肺炎予防に重要であることが示唆されます。

そのため、主にクロルヘキシジンという消毒剤を用いた、
口腔ケアが試みられ、
一定の院内肺炎予防効果が報告されていますが、
その一方で生命予後を悪化させたとする報告もあって、
その結果は一致しているとは言えません。

よりシンプルな口腔ケアとして、
歯磨きの活用があります。

ただ、その有効性はまだ院内肺炎予防としては、
確立されたものではありません。

そこで今回の研究では、
これまでの15の臨床研究に含まれる、
トータルで10742名の臨床データをまとめて解析することで、
この問題の検証を行っています。

その結果、
毎日複数回の歯磨きの施行は、
入院中の患者の院内肺炎発症のリスクを、
33%(95%CI:0.56から0.81)有意に低下させ、
集中治療室での死亡リスクも、
19%(95%: 0.69から0.95)有意に低下させていました。

この院内肺炎罹患率の低下は、
人工呼吸器を装着中の患者では、
32%(95%:0.57から0.82)有意に認められたものの、
人工呼吸器を装着していない患者のみの解析では、
有意には認められませんでした。
毎日の歯磨き回数については、
1日2回とそれを超える回数での比較においては、
有意な違いが認められませんでした。

このように、
1日複数回の歯磨きを施行することにより、
院内肺炎の予防に一定の有効性が確認されました。
この予防効果は人工呼吸器を装着している患者において専ら認められ、
1日の歯磨き回数は2回が妥当と考えられました。

歯磨きによる口腔ケアは、
特に肺炎リスクの高い入院中の患者においては、
有効な予防法と考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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安定狭心症におけるカテーテル治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
安定狭心症に対するPCIの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年12月21日付で掲載された、
安定狭心症に対するカテーテル治療の有効性についての論文です。

安定狭心症というのは、
労作性狭心症とほぼ同じ意味の医学用語で、
心臓を栄養する血管に狭い場所があって、
安静にしている時には特に症状は見られないものの、
一定の負荷を超えた運動をすると、
その時だけ胸の痛みが発作として生じる、
という状態を示しています。

症状から安定狭心症が疑われると、
負荷を掛けてその変化をみる運動負荷心電図検査や、
造影剤を入れて心臓を栄養する血管に、
狭い場所がないかどうかを確認する、
心臓CTなどの検査を行い、
その診断を確定します。

その治療方針としては、
亜硝酸製剤や血管拡張剤、
βブロッカーなどの薬物治療を施行して、
まず症状のコントロールを行います。

安定狭心症は心筋梗塞に短期間では移行しない状態、
というように考えられているので、
薬物治療で経過をみることは可能ですが、
心臓を栄養する血管の狭い場所を元に戻す訳ではないので、
徐々に病気が進行する可能性があります。
そのため薬物治療で症状のコントロールが困難であったり、
心筋梗塞などに移行するリスクが高いと考えられる場合には、
カテーテルで血管の狭窄を解消するような治療が検討されます。

しかし、
薬物治療でコントロールが困難な場合にカテーテル治療を行っても、
症状が本当に改善するかどうかは、
それほど実証されている訳ではありません。
2018年にLancet誌に発表された臨床試験の結果では、
安定狭心症に対して薬物治療を施行している患者さんで、
カテーテル治療を施行しても、
症状の明確な改善は認められませんでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29103656/

ただ、この試験では薬物治療に上乗せした、
カテーテル治療の効果を見ているので、
薬物治療を行わなかった場合には、
カテーテル治療のみで症状が改善したという可能性が、
否定はされていません。

そこで今回の臨床研究においては、
安定狭心症の患者さんトータル301例に、
2週間薬物治療を全て中止した上で、
患者本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はカテーテル治療で狭窄した血管の血流を改善し、
もう一方は偽の治療を行って、
その後の症状経過を12週間観察しています。

その結果、カテーテル治療群は偽治療と比較して、
心臓の血流状態は改善し、
狭心症の症状スコアも有意な改善を示しました。

つまり、
安定狭心症におけるカテーテル治療は、
その症状への効果という点では、
コントロールされた薬物治療と同等と考えられ、
今後こうしたデータを元にして、
安定狭心症の患者さんの治療の選択肢が、
より明確となることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ナポレオン」(リドリー・スコット監督) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ナポレオン.jpg
リドリー・スコット監督がアップルなどの資本で、
ナポレオンの生涯を描いた大作映画を作りました。

こうした歴史大作は大好物なのですが、
日本ではあまり人気はないようで、
もう終わりそうであったので、
取り敢えずウィキペディアなどで歴史のおさらいはしつつ、
急いで映画館に出掛けました。

サイレント時代に「ナポレオン」という大作映画があって、
多分それを意識して、
リドリー・スコット監督は自分なりのアレンジで、
その世界を再現したかったのではないか、
というように感じました。

正直内容はあまりないのですね。
ドラマとして辛うじて描かれているのは、
ナポレオンとジョゼフィーヌの愛憎のみで、
それ以外は歴史的な時間をなぞっているだけです。

ただ、そのビジュアルはなかなか美しくて、
豪華な歴史紙芝居として、
かなり完成度の高い世界を楽しむことが出来ます。

格調の高い構図の作り方や壮大な合戦シーンの数々、
その空気感のようなものは、
さすがリドリー・スコット監督、
という感じが間違いなくあります。

確かにもう少しドラマ的なものがないと、
映画としては成立していないのですが、
これは80歳を超えたリドリー・スコット監督の「老人映画」だと思うので、
巨匠の見た夢の映画の世界を、
その夢想を追体験するような気持ちで観るのが吉で、
それ以上をこの映画に求めるのは、
正しい見方ではないように個人的には思いました。

従って、
人間ドラマを観たい、
感動したり泣いたりしたい、という方には、
あまりというか、全く向いていない映画で、
敢くまでリドリー・スコット監督の美的センスで、
ワーテルローの戦いやモスクワ炎上、
アウステルリッツの戦いやエジプト遠征などが、
見事に立体化しているその見事さを大スクリーンで味わうのが、
この映画の見どころであり、
かつその全てであることを理解した上で、
それで満足出来る方のみに、
至福の時間を約束してくれる映画です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
鬼太郎誕生.jpg
ゲゲゲの鬼太郎の出自を描いた、
アニメ映画が今公開されています。

これは鬼太郎のシリーズ物というより、
独立した完成度の高い長編アニメ映画で、
言ってみれば、
テレビシリーズと、
「ルパン三世 カリオストロの城」の関係のような感じです。
鬼太郎のフォーマットを使いつつ、
作り手はシリーズとはテイストの違う、
独立した世界観で物語を紡いでいます。

舞台は昭和35年に設定され、
露骨に映画版の「犬神家の一族」を模倣した枠組みで開始されますが、
そこからは多くの別個の世界観を取り込みつつ、
おそらく作り手が好きな物を全て投げ込んで、
一種の「全体映画」的な、
ロマンチックで奇怪でアニメ的で文学的でもある世界が構築されます。
人間以外の世界の終焉を描くと言う意味では、
「もののけ姫」的な感じも少しありますし、
ラストに登場する悪党には、
「ルパン三世 ルパンVS複製人間」の面影があります。
以上どの映画も大好物なので、
とても楽しく観ることが出来ました。

世界観はちょっと微妙で、
何でもかんでも古い因習のせいにするのもなあ、
という気もします。
ただ、そこは作り手としては、
善悪の境を明確にした作品を作りたかったのだろうなあ、
という気はするので、
キャラクター物である以上、
仕方のないことなのだと思います。

映像は極めて美しく、
手描きとCGのバランスも、
如何にも日本アニメという感じの精緻さです。

確かに凡百の実写映画より数段レベルが高いことは間違いがなく、
今後いよいよ実写映画の肩身は狭い時代になりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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中性脂肪と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や産業医活動などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トリグリセリドと認知症との関連.jpg
Neurology誌に2023年10月25日付で掲載された、
血液中の中性脂肪と認知症との関連についての論文です。

コレステロールや中性脂肪などの血液中の脂質が高いことが、
血管の動脈硬化を進行させる要因となり、
心筋梗塞などの病気の再発リスクが、
コレステロールを低下させる治療により低減することは、
多くの臨床データにより確認された事実です。

認知症の多くも動脈硬化の進行と関連があり、
その意味ではコレステロールや中性脂肪などの脂質が低い方が、
そのリスクの低下にも繋がると想定されます。

ところが…

実際には高齢者のコレステロールのレベルと認知症リスクとは、
明確な関係はないとする報告や、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16217057/
むしろ血液中のコレステロールは高めである方が、
認知症のリスクは低いとする報告などがあります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15673620/

これは中年くらいまでの時期の高コレステロール血症は、
動脈硬化を進行させてその後の認知症のリスクになるものの、
高齢者の高コレステロール血症は、
むしろ認知症に予防的に働く可能性を示唆している、
と考えることが出来ます。

中性脂肪に関しても、
その高値は動脈硬化の進行に繋がる可能性がありますが、
血液中の中性脂肪濃度と認知症リスクとの関連は、
それほど明確なことが分かっていません。

そこで今回の研究では、
アスピリンの有効性を検証した臨床研究より、
登録の時点で65歳以上で、認知症や心血管疾患の既往のない、
18294名の臨床データと、
遺伝情報を含む大規模な医療データを有している、
UKバイオバンクのデータより、
68200名の臨床データを活用することで、
血液中の中性脂肪の濃度と、
その後の認知症のリスクとの関連を比較検証しています。

その結果、
アスピリンの臨床研究のデータ解析では、
血液中の中性脂肪が高いほど、
認知症リスクは低いという相関が認められ、
中性脂肪値が倍になると、
リスクは18%(95%CI:0.72から0.94)有意に低下していました。
そして、UKバイオバンクのデータ解析でも、
矢張り同様の相関が認められました。

つまり、コレステロールと同様に中性脂肪においても、
高齢になった段階では、
その数値が高いほど、
認知症のリスクは低いという結果です。

ただ、今回のデータでは、
中性脂肪の数値はその90%は186mg/dL以下で、
一般に問題となる200を超えるような中性脂肪高値の人は、
全体の極少数に留まっています。

従って、中性脂肪が高ければ高いほど良い、
ということではなく、
正常値かそれより少し高めの方が、
高齢になった時には認知症の予後にも良い、
というくらいで考えるのが妥当だと思います。

コレステロールも中性脂肪も、
脂質のレベルは中年期まではしっかり下げることが、
将来的な病気の予防に繋がるのですが、
65歳くらいの年齢以降においては、
むしろ栄養状態を良く保ち、
脂質も減らし過ぎない方が、
トータルな予後の改善に繋がると、
そう考えるのが良いように思います。

ただ、勿論これは心筋梗塞や脳卒中の既往はない人の話で、
そうした病気の既往のある場合には、
また別個の判断が必要となる点は、
最後に強調しておきたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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胆石症の手術療法と保存的な治療との比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
胆摘のリスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年12月6日付で掲載された、
有症状の胆石症に対する、
治療法の予後比較についての論文です。

胆石症は有病率が6から25%というデータが、
上記文献に記載されているように、
非常に頻度の高い一般的な病気です。
女性に多く年齢と共に増加するという傾向もあります。

胆汁というのは肝臓によって作られている一種の消化液で、
そのメインの働きは脂肪の消化と吸収を行うことですが、
それ以外に解毒作用や老廃物の排泄などの役割も持っています。

肝臓で産生された胆汁は、
一時的に胆嚢という袋に溜められ、
食事が十二指腸に入って来ると、
胆嚢は収縮して胆汁が十二指腸に分泌されるのです。

胆汁の主成分はコレステロールなどの脂で、
カルシウムなど結晶化し易い成分も含まれているので、
流れが滞ったり、炎症が起こったりすると、
胆汁の成分が結晶化して固まり、
胆嚢の中や胆汁を運ぶ管の中に沈着するようになります。

これが胆石です。

胆石は胆汁の流れを邪魔しない状態であれば無症状ですが、
胆汁の流れが妨害されると、
胆汁を流す管が強く収縮し、
激しい痛みを出します。
これが胆石発作です。

発作を繰り返すような胆石は、
通常手術治療の適応となります。

その多くは腹腔鏡を利用した胆嚢の摘出手術です。

つまり、胆嚢自体を取ってしまうのです。

胆嚢自体を取ってしまうことで、
何か健康上の問題は生じないのでしょうか?

胆嚢はなくても胆管を通して胆汁は流れるので、
大きな問題はないという説明になっています。

ただ、実際には胆嚢の手術後に、
腹痛や下痢、吐き気などの症状が、
しばしば認められることが報告されています。

これを胆嚢摘出後症候群と呼んでいます。

上記文献の記載によると、
イギリスの疫学データにおいて、
手術を受けた患者さんの4割が、
何らかの腹部症状を認めていて、
手術前の腹痛と匹敵する症状が、
術後にも2割の患者では持続。
14%の患者では術後に新たに腹痛が出現した、
と報告されています。

胆石症そのものの予後は悪いものではなく、
急性胆嚢炎や閉塞性黄疸など、
重篤な合併症の起こるリスクは、
症状のある胆石症でも、
年間1から3%程度と報告されています。

それであるなら、
たとえ痛みを伴う胆石症であっても、
特に合併症のリスクが高くない状態であれば、
痛み止めなどで痛みを調整しつつ、
手術はせずに経過を観察することも、
検討されるべきではないでしょうか?

今回の研究はイギリスにおいて、
腹痛の症状があり、胆嚢炎などの合併はない、
トータル434名の胆石症の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は腹腔鏡下胆嚢析出術を施行し、
もう一方は痛み止めの使用や生活改善など、
保存的な治療で経過をみて、
18か月を超える経過観察を施行しています。

その結果、開始後18か月までの時点で、
腹痛などの臨床症状の指標には、
両群で有意な差は認められませんでした。

つまり、胆嚢の摘出手術を行う一番のメリットは、
通常腹痛などの症状の改善と考えられますが、
その点において手術をしてもしなくても、
その結果には大きな差は認められなかったという結果です。
勿論改善が見られた患者さんもいる一方で、
前述のように術後に症状が悪化するような患者さんもいるので、
トータルでは明確な差が付かないのです。
ただ、実際には保存的治療群でも、
18か月の間に25%の患者さんは手術を施行されていて、
保存的な治療と言っても、
合併症の兆候があれば手術適応となるので、
慎重な観察が必要であることは間違いがありません。

今後はこうしたデータも元にして、
どのような事例で手術が適応となるべきなのか、
より科学的な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アスピリンの腹部大動脈瘤進行予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アスピリンの腹部大動脈瘤に対する有効性.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年12月12日付で掲載された、
腹部大動脈瘤に対するアスピリンの有効性についての論文です。

腹部大動脈瘤は高齢者に多い大動脈疾患で、
その名の通りお腹の大動脈が、
瘤のように腫れるという病気です。

上記文献の記載によれば、
先進国では65から85歳の年齢の死因の1.3%に関連し、
ガイドラインでは、
概ねその径が5.5センチ以上となった場合や、
年間5ミリ以上と急速な増大傾向のある時には、
破裂のリスクが高いことから、
手術治療の適応とされています。
ただ、この病気は内臓機能の低下した高齢者に多く、
他の病気も併発していることが多いので、
手術のリスクも決して低いものではありません。

従って、その進行のリスクを減らし、
致死的となる可能性が高い動脈瘤の破裂を、
予防するための保存的な治療の必要性が高いのです。

しかし、現時点で血圧のコントロールや禁煙以外に、
有効な進行予防の方法は確立されていません。
これまでに多くの薬剤の、
腹部大動脈瘤進行予防効果が検証されていますが、
殆どの臨床試験においてその有効性は確認されていません。
唯一糖尿病治療薬のメトホルミンに、
一定の有効性が確認されていますが、
まだ確実と言えるものではありません。

血小板の活性化が、
大動脈瘤の増大に影響しているという基礎データがあり、
抗血小板作用のある低用量のアスピリンに、
動物実験のレベルでは、
腹部大動脈瘤の進行予防効果が確認されています。
しかし、実際の臨床において、
アスピリンの使用に、
そうした効果があるかどうかは明確ではありません。

そこで今回の研究では、
アメリカの単独施設において、
超音波検査で3センチ以上の径の腹部大動脈瘤を持つ、
3435名の患者を、
10年間フォローしたデータを活用して、
アスピリンの使用と大動脈瘤の進行との関連を比較検証しています。

その結果、
アスピリン使用群の、
腹部大動脈瘤の平均年間増大径は2.8±3.0mmなのに対して、
アスピリン非使用群では3.8±4.2mmで、
アスピリンの使用は大動脈瘤の増大を、
有意に抑制していました。

また、アスピリンの使用は、
大動脈径が年間5mmを超えて増大することで定義される、
大動脈瘤の急速進行のリスクを、
36%(95%CI:0.49から0.89)有意に低下させていました。

一方で総死亡のリスクや出血のリスクについては、
両群で明確な差は認められませんでした。

このように、今回のデータにおいては、
アスピリンの使用による腹部大動脈瘤進行予防に、
一定の有効性が確認されました。
その一方で生命予後の改善については、
確認することは出来ませんでした。

今後より精度の高い介入試験などによって、
アスピリンの有効性が検証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「海をゆく者」(2023年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
海をゆく者.jpg
2009年と2014年に旧パルコ劇場で上演され、
好評を博した翻訳劇、
「海をゆく者」が今9年ぶりに再演されています。

この作品は初演は観ていないのですが、
2014年の再演は観ていて、非常に感銘を受けました。
その時の感想記事がこちらです。
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2014-12-21

これは中年男5人だけが登場する、
少人数の2幕劇で、
所謂「クリスマスストーリー」です。

初演と2014年の再演ではその5人を、
平田満さん、浅野和之さん、大谷亮介さん、吉田鋼太郎さん、
小日向文世さんという、
小劇場的には豪華絢爛な役者さん達が演じ、
演劇ファンに至福の時間を過ごさせてくれました。

それで今回の上演も非常に楽しみにして出掛けたのですが、
今回前半はまずまず良かったものの、
肝心の後半のポーカーの場面が意外に弾まず、
正直少しモヤモヤした気分で劇場を後にしました。

ちょっと残念です。

何が悪かったのかと色々考えたのですが、
矢張り吉田鋼太郎さんがいないのが大きいのかな、
というように感じました。

吉田鋼太郎さんが演じたのは、
このお芝居の主役である、
人生に深く絶望している平田満さんの兄で、
平田さんがネガティブ思考であるのに対して、
吉田さんの方は対象的にポジティブ思考で、
突然失明してしまったにも関わらず、
「何とかなるさ」と全然意に介する様子がありません。

そして死神に魅入られ、
死の瀬戸際にある弟を、
そのポジティブ思考が生の世界に取り戻す、
というのがこの作品の主筋です。

小日向文世さん演じる悪魔が平田さんを誘惑しますが、
平田さんはアル中でお酒を数日絶っているので、
それが本当に悪魔なのか、
単なるアル中の妄想なのかは、
実際には分からないのです。

キャストは比較的「陰性」の役者さんが多く、
その中で吉田鋼太郎さんの天真爛漫な「陽性」が、
前回までの上演では際立っていました。

正直吉田さんの演技はかなり雑で好い加減なものですが、
意外に真面目に演じる役者さんの多い翻訳劇では、
その存在がスパイスとして効いていて、
吉田さんが登場すると舞台にリズムが生まれて、
やや退屈な翻訳劇も面白く観られることが多いのです。

今回の再演では吉田さんの代わりに高橋克実さんが登場し、
勿論高橋さんも素晴らしい役者さんなのですが、
割合にその資質は平田さんに似ていて、
基調音はちょっと陰性の感じなんですね。
今回は特に吉田さんの後任ということを、
かなり意識して緊張されていた感じがあり、
吉田さんをなぞるようなお芝居に硬さがありました。

また、平田さんのお兄さんが高橋克実さんというのは、
ビジュアル的にもかなり無理のある感じで、
設定自体に違和感があったのも減点ポイントだったと思います。

他のキャストも前回と比べると、
さすがに少し疲れた感じがあって、
舞台の活力が損なわれるきらいがあったのが残念でした。

中では小日向文世さんの「悪魔」は、
以前と変わらず抜群の破壊力の見事な芝居で、
今回もとても感服しました。
この見事な芝居を観るだけで、
チケットの値打ちがあります。
個人的にはこの「海をゆく者」の悪魔と、
三谷幸喜さんの「国民の映画」で演じたゲッペルスが、
小日向さんのこれまでのベストプレイであったように思います。

そんな訳で正直少し残念な今回ですが、
舞台は生ものなのでこれは仕方のないことなのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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城山羊の会 「萎れた花の弁明」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アフタートーク告知-1.jpg
大好きな城山羊の会の新作公演が、
今三鷹市芸術文化センター星のホールで上演されています。

このホールは僕の守備範囲からは足場が悪いので、
あまり好んでは行きたくないのですが、
城山羊の会なので仕方がありません。
昨年はKAATでしたし、
次回は新宿や下北沢でやって欲しいな、
というのが今の希望です。

毎年少しずつ傾向の違う作品となる城山羊の会ですが、
昨年の別役風不条理劇とは打って変わって、
今回は思いつくままに展開される、
自由度の高いエッセイという感じのスタンスでした。

ただ、奇想天外なラストは、
題名にもピッタリとマッチしていて、
ここが発想の原点だったのかなとも思うのですが、
シュールでエロチックで予測不能で、
この数年の作品では、
最も秀逸なラストだったと思います。

パンフレットの山内さんの言葉を読むと、
ナカゴーの鎌田さんの死去について書いていて、
なるほど、今回は鎌田さんへのオマージュなのね、
と得心がゆきました。

神様が登場して、
ぼそぼそとほぼ客席に聞こえない声で駄目出しをするのですが、
あの神様は鎌田さんなんですね。
鎌田さんが天国から駄目出しをすることで、
山内さんが妄想で構築したエロチックで奔放で出鱈目な世界が、
何かもっと変梃りんで異様で、
真面目な人には嫌悪感を抱かせる一方で、
何処か愛おしくもある鎌田ワールドに、
変容してゆくというのが、
今回の作品だったような気がします。

キャストは岡部たかしさんと岩谷健司さんの、
今や一般にも人気者になった2人の円熟した演技が楽しく、
特に岡部さんは最近数作では出番が少なかったり、
とても無理筋な感じのする岩谷さんの父親役を振られたりして、
ファンとしては少しガッカリであったのですが、
今回は如何にもの役柄を絶好調で演じていて、
これだよね、という感じで堪能しました。

初出演の石黒麻衣さんが今回は推しの芝居になっていて、
その独特の個性が作品の説得力を増し、
シュールな作品世界に巧みに観客を誘導していました。

そんな訳でナカゴーの鎌田ワールドを、
山内さんなりに咀嚼した奇怪な世界は、
こうした物がお好きな方には、
恰好の今年の芝居収めになっていたと思います。

お好きな方のみにお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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キャッチアップ睡眠の心血管疾患予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
終日事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
キャッチアップ睡眠の有効性.jpg
Sleep Health誌に2023年11月23日付で掲載された、
キャッチアップ睡眠(寝だめ)の健康効果についての論文です。

睡眠というのは食事や運動と並んで、
健康に欠かせない生活習慣の1つです。

特に睡眠時間が短いことは、
心臓病や脳卒中などの心血管疾患、認知症、
うつ病など多くの病気のリスクになることが分かっていて、
健康寿命にも悪影響を与える因子です。

そのためアメリカの睡眠関連の専門学会では、
健康のために毎日の睡眠時間を、
7時間以上にすることを推奨しています。
https://academic.oup.com/sleep/article/38/6/843/2416939

しかし、実際には多くの日本人が、
もっと短い睡眠時間で生活をしています。

そしてそうした寝不足の日本人が、
睡眠不足の解消のために、
しばしば行っている習慣が、
週末や休日の「寝だめ」です。

「休みの日は昼までゆっくり寝ていた」という、
休みの日にありがちな習慣が「寝だめ」です。
医学用語としては、キャッチアップ睡眠(catch-up sleep)、
という言い方が一般的で、
上記論文ではウィークデイの睡眠時間の平均より、
週末の睡眠時間が1時間以上長いこと、
として定義されています。

「寝だめ」は体感的には、
睡眠不足の軽減に一定の効果があるように思えます。

それでは、
週末に寝だめをすることで、
睡眠不足のもたらす健康への悪影響を、
抑制するような効果があるのでしょうか?

今回の研究はアメリカにおいて、
20歳以上の3400名の一般住民を対象とした、
健康調査のデータを活用することで、
週末のキャッチアップ睡眠が、
その後の心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)
のリスクに与える影響を検証しています。

その結果、
週末に1時間を超えるキャッチアップ睡眠を取ると、
取らない場合と比較して、
その後の心血管疾患のリスクが、
63%(95%CI:0.23から0.58)有意に低下していました。

ただ、高血圧など関連する他の因子を考慮して解析すると、
トータルにはキャッチアップ睡眠の心血管疾患予防効果は、
有意なものではなくなりました。
一方でウィークデイの平均睡眠時間が6時間以下と、
明らかな睡眠不足にある人に限定すると、
関連する因子を考慮して解析しても、
心血管疾患のリスクは66%(95%CI:0.17から0.65)
有意に低下していました。

個々の心血管疾患毎で傾向をみると、
狭心症、脳卒中、虚血性心疾患は、
キャッチアップ睡眠の予防効果が認められた一方で、
心不全と心臓発作については有意な予防効果は認められませんでした。

このように、
特に毎日6時間以下と、
明確な睡眠不足にある人では、
1時間以上の寝だめを休日にすることで、
一定の心血管疾患予防効果が認められました。

これはまだ事実とまでは言えない知見ですが、
日頃睡眠不足の人にとっては、
休日に少なくとも1から2時間程度の寝だめをすることが、
健康上の害になることはなく、
睡眠不足を補う1つの方法として有効であると、
そう考えて大きな間違いはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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