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ソーシャルメディアの青少年への健康影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ソーシャルメディアの使用と健康リスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年11月29日付で掲載された、
ソーシャルメディアの使用の青少年への健康リスクについての論文です。

ソーシャルメディア、
今回対象とされているのは主にインスタグラムやフェイスブックですが、
こうした双方向の情報交流サービスなしでは、
社会生活は成り立たないと言って良いほど、
その普及は進み、影響力は絶大です。

予防医学のような観点で見ても、
多くの企業が、
ソーシャルメディアを利用した健康増進のソフトを開発し、
その利用を行っています。

食事を画像に撮るだけで、
その内容やカロリーを即座に計算、
健康的な食生活に向けて、
個別な指導を行ったり、
歩行数や運動量などもウェアラブル端末から自動的に記録して、
生活改善のアドバイスも可能です。
脳トレのようなソフトもあれば、
認知行動療法などの手間の掛かる心理療法も、
ネットで簡単にゲーム感覚で行えるソフトもあります。

同じ病気の人同士で情報交換をしたり、
専門家のアドバイスを受けることも、
ネットを通じて簡単に出来るようになりました。

このように良いこと尽くめのようなネット社会ですが、
その反面いい加減な情報や、
意図的に人を騙すための情報、
犯罪に結び付くような情報もネットには蔓延していて、
そうした情報が瞬く間に拡散してしまうのも、
ソーシャルメディアの特徴です。

それは健康情報についても同様で、
非科学的な情報に振り回されて健康を害する結果になったり、
ドラックなど依存性のある習慣に、
関わってしまうというリスクもありそうです。

特に多感な時期である10代の青少年は、
そうした悪影響を受けやすいとされています。

今回の研究は健康への悪影響の懸念される行為として、
アルコール、薬物の使用、喫煙、ギャンブルなどを想定し、
10歳から19歳の青少年における、
そうした悪影響とソーシャルメディアの使用との関連性を、
これまでの主だった臨床研究のデータをまとめて解析する、
メタ解析の手法で検証したものです。

トータルで73本の文献に含まれる、
1431534名のデータを元に解析しています。

その結果、
ソーシャルメディアをあまり使用していない人と比較して、
毎日のように頻繁に使用している人では、
飲酒習慣のリスクが1.48倍(95%CI:1.35から1.62)、
ドラッグ使用のリスクが1.28倍(95%CI:1.05から1.56)、
喫煙のリスクが1.85倍(95%CI:1.49から2.30)、
性的逸脱行動のリスクが1.77倍(95%CI:1.48から2.12)、
暴力などの反社会的行動のリスクが1.73倍(95%CI:1.44から2.06)、
ギャンブル習慣のリスクが2.84倍(95%CI:2.04から3.97)、
それぞれ有意に増加していました。

ただ、実際にソーシャルメディアを利用している時間と、
そのリスクとの間に相関のあったデータは少なく、
飲酒習慣のリスクは、
ソーシャルメディアの1日2時間未満の使用習慣と比較して、
2時間以上の使用で2.12倍(95%CI:1.53から2.95)の増加が認められましたが、
他の健康リスクについては、
そうした関係は明確ではありませんでした。

このように多くの健康リスクに結びつく行為が、
ソーシャルメディアの利用と一定の関連が認められたのですが、
その一方で本当にそれがソーシャルメディアによるものなのか、
それともそれ以外の因子が関連しているものなのかについては、
現時点で飲酒習慣以外は明確ではないようです。

これまでの歴史を紐解いても、
生活に利便性をもたらす新しい機器や習慣が、
健康影響という面では諸刃の剣であったことは間違いがなく、
ソーシャルメディアもそうしたものとして、
その功罪を理解した上で活用する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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外科医の性差が手術の予後に与える影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
性差と手術の予後.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年11月22日付で掲載された、
手術を行う外科医の性差が、
手術の生命予後に与える影響についての論文です。

性別を社会的に区別することが、
色々な意味で問題となる世の中ですが、
医者と患者の関係の中で、
性別や人種などの違いが、
どのような影響を与えるのかという点は、
特に欧米では議論になるところで、
多くの研究結果が報告されています。

たとえば乳癌や子宮癌、大腸癌などの検診では、
患者が女性であれば医師も女性であった方が、
受診率も上がり、検査もスムースに進む、
というデータがあり、
担当医師が女性の女性外来などを設けている医療機関が多いのは、
そうしたデータを元にしているのです。
https://aacrjournals.org/cebp/article/26/12/1804/71200/Impact-of-Patient-Provider-Race-Ethnicity-and

ただ、手術を施行する医師の性別が、
術後の生命予後にどのような影響を与えるのか、
というような事項については、
これまでにあまり明確なデータが存在していません。

そこで今回の研究では、
アメリカの医療保険のデータを活用して、
外科手術を行った医師の性別と患者の性別が、
術後の生命予後に与える影響を比較検証しています。

2902756例の手術事例のうち、
44.4%に当たる1287845例では、
患者と外科医の性別は一致しており、
41.4%に当たる1201712例は男性同士の組み合わせ、
3.0%に当たる86133例は女性同士の組み合わせでした。
患者と外科医の性別が不一致の1614911例の内訳は、
52944例が男性の患者と女性の外科医の組み合わせで、
1561967例は女性の患者と男性の外科医の組み合わせでした。

この4種類の組み合わせと術後の死亡率との比較では、
個別の群で明確な差は認められませんでした。

ここで緊急手術ではない待機的手術で解析すると、
術後30日の死亡率は、
女性の患者では性別が外科医と一致している方が、
一致していないより僅かに低く、
男性の患者では性別が外科医と一致している方が、
一致していないより僅かに高くなっていました。
ただ、この差は臨床的に意味のあるものと言えませんでした。

一方で緊急手術においては、
そうした傾向は認められませんでした。

つまり、トータルには今回の検証では、
外科医の性別と患者の性別とのマッチングは、
術後の患者の生命予後に、
明確な影響を与えていませんでした。

これを時間的な余裕のある待機的手術に限って解析すると、
やや女性の外科医と患者の組み合わせの方が、
死亡リスクが低くなる傾向を示しましたが、
緊急手術ではそうした傾向は見られませんでした。

これは術前の計画の時点での患者と医師とのコミュニケーションが、
女性同士の方がより的確に行われた可能性を、
示しているように思われます。

実際には個別の手術において、
医師の性別を選択するようなことは無理筋だと思いますが、
問題は性別の違いではなく、
患者と主治医が同じ目線で、
コミュニケーションを取ることが可能かどうかが、
重要であるのではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース 「たわごと」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
たわごと.jpg
穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース として、
芸術監督の桑原裕子さんの新作が、
豊橋での公演を終え、
今池袋芸術劇場のシアターイーストで上演されています。

桑原さんのお芝居は、
同じ取り組みの中から生まれた「荒れ野」が大傑作で、
記憶に今も鮮明に残っていますが、
今回の「たわごと」もそれに匹敵する傑作で、
初日に鑑賞してとても感銘を受けました。

今年僕の観た日本の劇作家の新作戯曲の上演の中では、
それほど観ていないので大きなことは言えませんが、
間違いなくベスト1の出来栄えで、
桑原裕子さんの素晴らしい戯曲が、
今脂の乗った役者陣の適材適所の見事な演技で肉付けされて、
演劇の醍醐味を心ゆくまで味わえる作品に仕上がっていました。

これ、舞台は辺鄙な崖の上に建てられた洋館で、
有名作家が死に瀕していて、
家族が集められ、その遺言が波紋を呼び、
というお話なんですね。

ちょっと不安になるような設定ですよね。
ベタで古い翻訳劇みたいでしょ。

これで本当に面白くなるんだろうか、と、
最初はそう思うんですね。

ところが、そのちょっと安っぽい感じの導入部から、
渡辺いっけいさん演じる、
小説家の父を持つ生真面目な兄と、
渋川清彦さん演じる風来坊の弟との、
愛憎入り混じる奥深い対立の物語に入ってゆくと、
設定などの枠組みを大きく乗り越えた、
非常に厳しく、リアルでありながら、
神話的な奥行きのある人間ドラマが立ち上がって行きます。

そこに実際には姿を現さない小説家の父親と、
兄弟両方と関係があり、今は兄の妻になっていながら、
心の中に空白を抱えている田中美里さん演じる女性が絡み、
物語はより精緻で複雑さを増してゆくのです。

良いお芝居にはその作品を代表しているような、
決定的な瞬間のようなものが必ず存在しているものですが、
この作品の場合それは、
兄弟が互いに血を吐くような魂のぶつけ合いを繰り広げている後方、
背後の大きな窓を通して見える崖の上から、
女性が身を投げようとする瞬間で、
4人の人間の思いが複雑に交錯し、
身の毛のよだつような衝撃がありました。

この作品は岩松了戯曲に似た構造があり、
その嘘っぽい設定もそうですし、
クライマックスのガラス戸を通して、
舞台を前方と後方とに分け、
そこで人間心理が幾何学的に交錯して、
衝撃的な出来事が唐突に起こる、
という舞台構造も、
岩松さんが得意とするものです。

しかし、岩松作品の難解さと比べると、
桑原作品は極めて明快で分かり易く、
しかも作品には1人の悪人も登場せず、
ラストも1人の人物も不幸になることはなく、
全ては綺麗におさまるべきところに着地します。

勿論登場人物が不幸になる物語より、
幸福になる物語の方があるべきフィクションの姿ですし、
分かり難い物語より、
分かり易い物語の方がこれもあるべき姿ですが、
そうした物語はどうしても平板で面白みのない、
現実味のないものになりがちです。

それが今回の作品は奇跡的に、
絵空事の設定であるのに人物はとてもリアルで切実で、
悪人もおらず、悲劇的な事件も起こらないのに、
物語は観客を惹き付けて離さないのです。

キャストは全員が素晴らしかったのですが、
特に弟を演じた渋川清彦さんは、
これまでの彼のキャリアの中でも、
代表作と言って過言ではない見事な芝居で、
桑原さんが書き込んだ複雑な性格のアウトローを、
極めて魅力的な実在感を持って立体化させていました。
そして、相対する渡辺いっけいさんも、
対象的な生真面目で内に秘めた役柄を、
切実な芝居で演じてこちらも素晴らしかったと思います。
内面吐露的な芝居が多い中で、
岩松芝居的に内面を語らない役柄を演じた田中美里さんも、
品格のある端正な芝居で見事にその困難な役柄をこなしていました。
小説家の愛人を演じたベテランの松金よね子さんは、
声色1つで見事に雰囲気を変える、
熟練の名人芸で舞台を引き締めていました。

アンコールに登場したキャスト陣が、
皆「どうだ、いい芝居だろう」と言わんばかりに、
目を輝かせ胸を張っているのを見ると、
つくづく良い芝居は関わる皆を幸せにするな、
と実感した素晴らしい観劇体験でした。

いずれにしてもこれだけの芝居はざらにはないので、
演劇がお好きの方であれば、
是非足をお運び頂きたいと思います。
見逃すと絶対後悔しますよ。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コーヒーとアルツハイマー病リスク(2023年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定で。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーと認知症リスク.jpg
Journal of Lifestyle Medicine誌に、
2023年8月31日付で掲載された、
コーヒーと認知症リスクについてのメタ解析の論文です。

コーヒーを1日3から4杯程度までを目安に飲むという習慣が、
糖尿病や肝臓病、心血管疾患などの予防効果があり、
生命予後にも良い影響を与えることは、
そのメカニズムは不明であるものの、
世界規模の多くの疫学データにより、
実証されている事実です。

ただ、病気によってはコーヒーの健康効果に議論のあるものもあり、
その1つが認知症への影響です。

認知症に関しては、
一定の予防効果があったという報告がある一方で、
コーヒーを飲む習慣が認知症のリスクの1つである、
というような疫学データもあって一定していません。

今回の研究は、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析した、
システマティックレビューとメタ解析という手法で、
この問題の現時点でも検証を行っているものです。

これまでの精度の高い11の臨床データをまとめて解析したところ、
コーヒーを1日1から2杯飲む習慣は、
その後のアルツハイマー病のリスクを、
32%(95%CI:0.54から0.83)有意に低下させていました。

コーヒーを1日2から4杯飲む習慣も、
その後のアルツハイマー病のリスクを、
21%(95%CI:0.56から1.02)有意ではないものの、
低下させる傾向を示しました。

一方でコーヒーを1日4杯を超えて飲むという習慣は、
アルツハイマー病のリスクに、
有意な影響を与えていませんでした。
(RR1.04; 95%CI:0.91から1.17)

このように、
1日コーヒーを1から2杯飲む習慣は、
アルツハイマー病のリスクを低下させていましたが、
用量依存的な傾向はなく、
それより多い量のコーヒー飲用習慣は、
明確なアルツハイマー病リスクへの影響を示していませんでした。

現状の認識としては、
アルツハイマー病に対するコーヒーの効果は、
良くも悪くもそれほど明確なものではないと、
そう考えて大きな誤りはないようです。

論文においては、
コーヒーを1日4杯まで飲むことは、
アルツハイマー病のリスクを低下させる可能性があり、
それを超える飲用習慣は、
むしろ増加させる危険がある、
というような結論が記載されていますが、
そこまで言い切る根拠はデータからは乏しいように個人的には思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナ感染に伴う心電図異常 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は訪問診療やレセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オスボーン波のコロナとの関連.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年11月13日付で掲載された、
重症の新型コロナ感染症時に認められた、
心電図異常についての症例報告です。

新型コロナ感染症は一時的より軽症化していますが、
それでも少ないながら重症肺炎を起こして、
命に関わるような事例も存在しています。

そうした重症の事例では、
心筋障害などの心臓の異常を、
併発していることも多く、
それが予後に影響していることが報告されています。

今回の症例報告では、
高血圧と糖尿病の持病のある中年の患者が、
COVID-19に罹患して重症の肺炎を来し、
集中治療室に入室した事例が紹介されています。

病状悪化時に計測された心電図がこちらです。
オスボーン波の心電図.jpg
QRSと呼ばれる大きな波の終わりのところに、
上に尖ったでっぱりのような部分があり、
その後の基線は上昇しています。
ノッチ型のJ波の後にST上昇を伴ったそうした波形を、
Osborn波(オズボーン波)と呼んでいます。

このオズボーン波は、
心室細動という心停止に結び付く重症の不整脈の、
リスクとなることが知られています。
その原因は不明ですが、
低体温症でこの波形が認められやすいと報告されています。

今回のケースは低体温ではなく、
他のオスボーン波の出現が報告されている、
高カルシウム血症、甲状腺機能低下症、心筋症などは否定され、
新型コロナ感染に伴って何等かの機序により発症したものと考えられました。

実際この波形が出現して5日後に、
患者は死亡しています。

このように、通常低体温症などに特徴的な心電図異常が、
新型コロナに伴う肺炎の際に認められることがあり、
重症不整脈を惹起して予後に影響を与える可能性があり、
その後の経過を慎重に観察する必要があると考えられました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺機能亢進症と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
甲状腺機能と認知症リスク.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年10月23日付で掲載された、
甲状腺機能異常と認知症リスクとの関連についての論文です。

甲状腺の機能異常と認知症との関連では、
甲状腺機能低下症における、
認知機能低下が有名です。
この場合見掛け上は普通の認知症のように見えるのですが、
実際には甲状腺の機能低下に伴う一時的な症状で、
甲状腺ホルモン剤を使用して機能低下が改善すると、
認知機能低下も元に戻るのです。

その一方で甲状腺ホルモンの過剰、
これは主に機能低下症に対するホルモン剤の治療が、
甲状腺ホルモンの過多に結びついていることが多いのですが、
その場合に認知症のリスクが高まることが、
複数の疫学データの解析から報告されています。

この場合の甲状腺ホルモンの過剰というのは、
血液の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の低下として診断されます。

現在使用されている甲状腺ホルモン製剤は、
主にT4製剤で、
体内でT3に変換されることによって、
活性のあるホルモンとなります。
そのためある程度過剰に使用されても、
その全てがT3になる訳ではなく、
体はTSHを下げることによってその調整を行っているので、
強い甲状腺機能亢進症となることは、
殆どないのですが、
TSHが通常より低下する程度の、
潜在性の甲状腺機能亢進症においても、
認知症のリスクが高まると言うのです。

それは事実なのでしょうか?

今回の研究では、
プライマリケアの医療データを活用することで、
65歳以上の65931名のデータを解析。
血液のTSH濃度と認知症リスクとの関連を検証しています。

その結果TSHが0.45mIU/L未満であることは、
関連する因子を補正した結果として、
75歳までに認知症を発症するリスクを、
1.39倍(95%CI:1.18から1.64)有意に増加させていました。

TSH低下の原因はその60%がホルモン剤の使用によるもので、
バセドウ病など内因性の亢進症によるものは17%でした。
ホルモン剤の使用によるTSHの低下は重度のものは少なく、
TSHが0.1未満に抑制されていたのは、
全体の31%でした。

ここで原因別に分けて検証すると、
内因性の亢進症では認知症リスクの有意な増加はなく、
ホルモン剤の内服によるTSH低下のみで、
認知症リスクは1.34倍(95%CI:1.10から1.63)有意に増加していました。

今回の結果では、
ホルモン剤を使用して潜在性甲状腺機能亢進症が生じると、
その後の認知症リスクが増加していました。

こうしたデータのみで、
軽度の甲状腺機能亢進でも認知症のリスクになる、
と言い切ることは出来ないと思いますが、
年齢と共に徐々にTSHが上昇すること自体は正常な加齢現象なので、
甲状腺機能低下症をホルモン剤で治療する際には、
投与が過剰にならないように留意することは、
重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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瓦屋禅寺「十一面千手千眼観世音菩薩」(特別大開帳) [仏像]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト作業の予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
瓦屋禅寺の御開帳ちらし.jpg
滋賀県の東近江市にある瓦屋禅寺という歴史のある山寺で、
50年ぶりのご本尊の御開帳が本日まで行われています。
次回の御開帳は33年後ということで、
ほぼほぼ次回は伺うのは無理なので、
気合を入れて出掛けることにしました。

赤神山という神聖なお山があり、
その中腹に阿賀神社という神社があります。
山の中腹に巨大なお社が張り付くようにして建っていて、
これだけでもなかなかの奇観なのですが、
そこから更に山道を1キロほど登ったところに、
瓦屋禅寺はあります。

もともと聖徳太子が四天王寺に使う瓦をそこに求めた、
というところにその名前があり、
太子創建と伝わります。
それはまあ伝説に近いものですが、
かなりの歴史のある古寺であることは間違いがありません。

そのご本尊が本堂の厨子の中に安置されている、
十一面千手千眼観世音菩薩(お寺の記載による)で、
その扉が開くのは少なくとも33年に一度です。
こちらも聖徳太子作とされていますが、
平安時代後期の作と考えられています。

こちらはともかく雰囲気が素晴らしいんですね。
山寺ですが荒れた感じはまるでなくて、
それでいて現代化されているということでもありません。

こちらをご覧ください。
瓦屋禅寺本堂.jpg
ご本尊の厨子が安置されている本堂です。
美しいでしょ。
茅葺屋根がこれ以上ないくらい端正に整えられています。
赤い毛氈も鮮やかで、御開帳の気分を盛り上げてくれます。

地方の御開帳の常で、
地域の方たちが総出で受付やお堂で出迎えてくれます。

仏像も素晴らしかったですね。
山城の寿宝寺の千手観音に近い作例で、
金箔をはらない地方仏の雰囲気が好ましく、
秘仏の霊像としての風格があります。
仏像としての出来栄えは寿宝寺と拮抗する感じですが、
その保存状態と雰囲気はこちらの方が遥かに上です。

多分造られてから、
数年くらいの期間しか、
外の風には触れていないのですね。
そのためにその外観は非常に生々しく、
全体から中世の風と香りが、
漂って来るような思いがします。
彩色は最小限度ですが、
口元の朱も鮮やかに残っています。

周辺の雰囲気はもう最高で、
厨子の載った須弥壇の四方は四天王像に守られ、
堂々たる本堂の外には、
端正に整えられた森が広がっています。

本堂でも地域の人が立ち会っているので、
じっくりと間近に寄って、
ご本尊を鑑賞することが出来るのです。

仏像の素晴らしさと御開帳というものの素晴らしさに、
心を満たされたひと時でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「SHELL」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
SHELL.jpg
KAATの企画公演として、
倉持裕さんが台本を執筆し、
杉原邦生さんが演出した新作舞台が、
先日までKAATで上演されました。

石井杏奈さんが主演で、
幾つかの別の人生を同時に生きる女子高生を演じ、
秋田汐梨さんがそれを見抜く同級生を演じるという、
ちょっと説明の難しい物語を、
背景が緑一色に塗り込められた、
杉原さんの特異な演出で舞台化されています。

これはかなりきつい観劇でした。
一応真面目に観ていたつもりなのですが、
途中からは集中することが困難となり、
最後までしんどいままにどうにか観終えることが出来た、
という感じでした。

設定の理解がまず難しいのですね。
女子高生と娘のいるおじさんと、
目が不自由で大蛇を飼っているおばさんとが、
それぞれ別の役者さんが演じているのですが、
「同じ人物だ」と言うのですね。
別に変装したり変身しているという訳ではなく、
同じ時間軸で並行して別の人生を送っているけれど、
でも同じだ、と言うのです。
同じという意味は、
そのうちの誰かと誰かが出くわすと、
消滅してしまう、
つまりドッペルゲンガーのような感じで、
同時に同じ場所には存在出来ない、
ということのようです。

この3人の物語が並行的に進むのですね。
それがラストになって3人が出会ってしまうと、
見えなかった巨大な蛇が実体化して、
何かが消えてしまうのですが、
それが何であるのかも、ちょっと分かりませんでした。
女子高生の肉体はラストにも存在しているのですが、
中身はもう違っている、
ということのようです。

魂と肉体のアンバランスみたいなものなのかしら。
1つの肉体と魂が本来ペアになっていないといけないのに、
1つの魂が3つの体に同時に入ってしまった、
という空間が歪みながら存在している、
というようなことなのかも知れません。

倉持裕さんは現代を代表する劇作家の1人だと思いますし、
この間の「リムジン」もとても良かったですよね。
なので今回の作品にも、
緻密な論理とテーマが潜んでいるに違いない、
というようには思うのですが、
正直今回それを理解することは出来ませんでした。

僕はどうも杉原さんの演出は苦手なんですね。
正直これまで一度も良かった、と思ったことがありません。
これはもう多分好みの問題ですね。

今回は舞台機構を剥き出しにして、
所謂「素舞台」にしているんですね。
杉原さんはしばしばこうしたことをしていて、
それが有効な場合もあるとは思うのですが、
本来は矢張り舞台裏は見せるものではなくて、
別の空間をそこに作り上げるのが筋だと思います。

背景は全て緑になっているんですね。
巨大な緑の幕の前で芝居をしていて、
別人格が同時に現れると、
衣装も緑になってしまいます。
おそらくクロマキーのグリーンバック、
ということなんですね。
背景は何にでも変わり得るということなのだと思いますが、
舞台上では常に緑の幕があるだけなので、
ビジュアル的には異様な感じがするだけで、
特別効果的とも思えませんし、
むしろ手抜きのように感じてしまいました。

場面転換はキャストが群舞でやるのですが、
それがあるせいで、
やたらと転換に時間が掛かり、
舞台が間延びしてしまっているんですね。
ダンスがそれ自体で自立した感じではなくて、
転換なのか独立した場面なのかが中途半端なので、
その度にイライラしてしまいました。
こういう演出が個人的には嫌いです。

そんな訳でとてもつらい観劇であったのですが、
それはもう個人の主観なので、
面白かった方もいるのだと思います。

個人の感想としてご容赦頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マルチターゲット便中RNA検査による大腸癌検診の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
レセプト作業など事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
マルチターゲット便RNA検査.jpg
JAMA誌に2023年10月23日付で掲載された、
新しい大腸癌検出の検査法の有効性を検証した論文です。

大腸癌はその成り立ちが遺伝子レベルで解明されていて、
早期に発見されれば完治する可能性の高い癌です。
そのため、検診で早期発見することが重要な癌で、
これまでに便潜血検査に大腸内視鏡検査を組み合わせた検診により、
その予後改善の有効性が確認されています。

便潜血検査は、
簡単に出来てコストも安価なので、
非常に利点の多い検査ですが、
便で微量の出血を検出しているだけなので、
痔や粘膜のびらんなど、
癌以外の病気でも陽性になってしまう、
という欠点があります。
また肛門から距離のある部位に発生した大腸癌の場合には、
検出率は低下するという問題もあります。

それでは、
より大腸癌のみで陽性となるような、
精度の高い便検査はないのでしょうか?

そこで注目されているのが、
今回ご紹介するマルチターゲット便中RNA検査です。

大腸癌は複数の遺伝子変異が積み重なることによって、
発症することが分かっています。
そうであるなら、個々の段階で特徴的な遺伝子の変異を、
便で検出することが出来れば、
より精度の高い診断に結び付くことが期待出来ます。

今回使用されているColoSenseというシステムは、
大腸癌に関わる7種類のRNA配列と、
喫煙歴と便潜血検査の結果を、
点数化して陽性と陰性を判定するものです。
要するに便潜血と遺伝子検査を組み合わせた方法です。

今回の研究ではアメリカにおいて、
45歳以上の一般住民8920名に、
大腸内視鏡検査と便中の遺伝子検査、便潜血検査を施行して、
便潜血検査単独の場合と、
そこに遺伝子検査を組み合わせた場合との、
大腸癌の診断能を比較検証しています。

その結果、
対象となった8920名の0.4%に当たる36名に大腸癌が、
6.8%に前癌病変(Advanced Adenoma)が見つかりました。
ここで大腸癌の患者さんのうち、
便潜血検査が陽性であったのは78%であったのに対して、
マルチターゲット便中RNA検査の陽性率は94%で、
遺伝子検査を施行することにより、
検査の感度は上昇していました。

前癌病変の陽性率で見ると、
前癌病変の見つかった患者さんのうち、
便潜血検査が陽性であったのは29%であったのに対して、
マルチターゲット便中RNA検査の陽性率は46%で、
前癌病変を診断することは便の検査だけでは困難なのですが、
それでも検出率は遺伝子検査により上昇していました。

逆に大腸内視鏡検査で異常のなかった対象者のうち、
マルチターゲット便中RNA検査が陰性であったのは88%でした。
つまり、12%は検査の偽陽性が存在していました。

このように、
便潜血検査に組み合わせて施行しているので、
ある意味当然と言えないこともないのですが、
マルチターゲット便中RNA検査を施行することにより、
便潜血のみの検査と比較して、
大腸癌の診断能は上昇することが確認されました。

これはこの検査のライバルとも言える、
血液のマイクロRNA検査とほぼ同等の結果です。

今後こうした検査が広く実用化されることにより、
早期癌の診断は向上すると思われますが、
そのコストはかなり高額となることも予想され、
検査の高額化と精度上昇の狭間で、
今後の癌検診のあり方は、
大きく変わらざるを得ないような気もします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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