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胆石症の手術療法と保存的な治療との比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
胆摘のリスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年12月6日付で掲載された、
有症状の胆石症に対する、
治療法の予後比較についての論文です。

胆石症は有病率が6から25%というデータが、
上記文献に記載されているように、
非常に頻度の高い一般的な病気です。
女性に多く年齢と共に増加するという傾向もあります。

胆汁というのは肝臓によって作られている一種の消化液で、
そのメインの働きは脂肪の消化と吸収を行うことですが、
それ以外に解毒作用や老廃物の排泄などの役割も持っています。

肝臓で産生された胆汁は、
一時的に胆嚢という袋に溜められ、
食事が十二指腸に入って来ると、
胆嚢は収縮して胆汁が十二指腸に分泌されるのです。

胆汁の主成分はコレステロールなどの脂で、
カルシウムなど結晶化し易い成分も含まれているので、
流れが滞ったり、炎症が起こったりすると、
胆汁の成分が結晶化して固まり、
胆嚢の中や胆汁を運ぶ管の中に沈着するようになります。

これが胆石です。

胆石は胆汁の流れを邪魔しない状態であれば無症状ですが、
胆汁の流れが妨害されると、
胆汁を流す管が強く収縮し、
激しい痛みを出します。
これが胆石発作です。

発作を繰り返すような胆石は、
通常手術治療の適応となります。

その多くは腹腔鏡を利用した胆嚢の摘出手術です。

つまり、胆嚢自体を取ってしまうのです。

胆嚢自体を取ってしまうことで、
何か健康上の問題は生じないのでしょうか?

胆嚢はなくても胆管を通して胆汁は流れるので、
大きな問題はないという説明になっています。

ただ、実際には胆嚢の手術後に、
腹痛や下痢、吐き気などの症状が、
しばしば認められることが報告されています。

これを胆嚢摘出後症候群と呼んでいます。

上記文献の記載によると、
イギリスの疫学データにおいて、
手術を受けた患者さんの4割が、
何らかの腹部症状を認めていて、
手術前の腹痛と匹敵する症状が、
術後にも2割の患者では持続。
14%の患者では術後に新たに腹痛が出現した、
と報告されています。

胆石症そのものの予後は悪いものではなく、
急性胆嚢炎や閉塞性黄疸など、
重篤な合併症の起こるリスクは、
症状のある胆石症でも、
年間1から3%程度と報告されています。

それであるなら、
たとえ痛みを伴う胆石症であっても、
特に合併症のリスクが高くない状態であれば、
痛み止めなどで痛みを調整しつつ、
手術はせずに経過を観察することも、
検討されるべきではないでしょうか?

今回の研究はイギリスにおいて、
腹痛の症状があり、胆嚢炎などの合併はない、
トータル434名の胆石症の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は腹腔鏡下胆嚢析出術を施行し、
もう一方は痛み止めの使用や生活改善など、
保存的な治療で経過をみて、
18か月を超える経過観察を施行しています。

その結果、開始後18か月までの時点で、
腹痛などの臨床症状の指標には、
両群で有意な差は認められませんでした。

つまり、胆嚢の摘出手術を行う一番のメリットは、
通常腹痛などの症状の改善と考えられますが、
その点において手術をしてもしなくても、
その結果には大きな差は認められなかったという結果です。
勿論改善が見られた患者さんもいる一方で、
前述のように術後に症状が悪化するような患者さんもいるので、
トータルでは明確な差が付かないのです。
ただ、実際には保存的治療群でも、
18か月の間に25%の患者さんは手術を施行されていて、
保存的な治療と言っても、
合併症の兆候があれば手術適応となるので、
慎重な観察が必要であることは間違いがありません。

今後はこうしたデータも元にして、
どのような事例で手術が適応となるべきなのか、
より科学的な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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