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亜鉛の風邪に対する有効性(コクランレビュー2024年版) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コクランの亜鉛の風邪効果.jpg
多くの臨床データの有効性などを解析しているコクランレビューが、
2024年5月9日付で発表した、
亜鉛の感冒に対する有効性についての検証結果です。

亜鉛は身体に必要不可欠な微量元素で、
貝類などに多く含まれ、
その欠乏は湿疹や口内炎、
味覚障害などの原因となります。
そして、体内において酵素活性など多くの代謝経路において、
必要な物質であると考えられています。

この亜鉛が風邪の治療に効果があると考えられたのは、
まず亜鉛の欠乏により感染症が起こりやすくなる、
という知見によっています。

その後1974年に亜鉛が風邪の原因ウイルスの代表である、
ライノウイルスの増殖(複製)を抑制する、
という基礎実験の知見があり、
それから亜鉛が細胞膜の毒素などによる障害を、
予防する働きがあるという、
これも基礎実験のデータが1983年に発表されています。

こうした知見からは、
風邪の治療として亜鉛を用いることにより、
有効性があるのではないか、
という仮説が導かれます。

そして、その効果を検証するために、
介入試験を含む多くの臨床試験が行われました。

当初使用されたのは点鼻のスプレーで、
これは鼻の粘膜に付着したウイルスの、
増殖を抑える効果が期待されました。
ただ、スプレーの効果は不安定で、
明確な治療効果は殆ど確認されませんでした。

そこで次に用量が様々な亜鉛の飲み薬やドロップ剤が、
風邪の治療薬として試みられました。

今回のコクランレビューでは、
これまでに発表された亜鉛の感冒に対する、
予防と治療双方の有効性についての主だった臨床データを、
まとめて解析してその検証を行っています。
使用されているのは、偽薬を使用した、
精度の高い臨床試験データに限られています。
トータルで予防に関して15、治療に関して19の、
臨床試験に含まれる8526例が対象となっています。

解析の結果、
感冒の予防については、
亜鉛製剤の使用はほぼ無効と判断されました。

一方で治療目的の使用については、
偽薬と比較して、2.37日(95%CI:-4.21から-0.53)、
有意に症状の持続期間を短縮していました。
ただ、それほど精度の高い結果ではありません。

この結果は以前から指摘されていたことではありますが、
亜鉛製剤には感冒の回復を、
一定期間短縮させる可能性があり、
短期間の使用であれば重い副作用や有害事象の報告はほぼなく、
総合感冒薬と呼ばれて売られている薬を飲むより、
有効性も安全性も高いと言って、
間違いではないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーのメタボ抑制効果(米国の疫学データ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーとメタボリスク.jpg
European Journal of Nutrition誌に、
2024年5月4日付で掲載された、
コーヒーの健康効果についての論文です。

まあ、コーヒーの健康効果については、
ほぼほぼ主だった論文には全て目を通しているので、
取り立てて目新しさはないものですが、
これまでのデータを更に補強するような性質のものです。

2012年のNew England…論文以降、
コーヒーが健康に良い飲み物であるという見解は、
世界的に確立したという感があります。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1112010

ただ、メタボリックシンドロームとの関連、
という点に限定すると、
その進行を予防したとするデータがある一方で、
無関係であったというデータもあって、
その結論はまだ一致していません。

今回の研究は、
米国国民健康栄養調査のデータを活用して、
メタボリックシンドロームの重症度を示す、
MetS zスコアという指標と、
コーヒーや紅茶の摂取量との関連を検証しています。
対象は14504名の一般住民です。

この場合のメタボリックシンドロームは、
血糖などの検査値は日本とほぼ同じですが、
腹囲は海外基準を使用しているので違いがあります。

解析の結果、
1日に3杯を超えてコーヒーを飲む習慣のある人は、
メタボの重症度指標の低下と有意に関連していました。
つまり、コーヒーを飲んでいる人は、
メタボになり難いことを示唆する結果です。

メタボの病態に関連する個々の指標との関連で検証すると、
毎日コーヒーを飲む習慣は、
BMIや収縮期血圧の低下、
インスリン抵抗性の指標の低下、中性脂肪の低下と、
有意に関連していて、
HDLコレステロールの増加とも有意に関連していました。

紅茶を2から3杯飲む習慣も、
メタボの重症化指標の低下と有意に関連していましたが、
3杯を超える摂取は、
逆に指標の悪化と関連していました。
カフェインレスのコーヒーについては、
メタボの進行予防効果は確認されませんでした。

このように、
メタボの進行予防についても、
コーヒーの一定の有効性が確認されました。

ただ、メタボ自体均一の疾患という性質のものではないので、
その有効性は、
たとえば肝臓病に対しての効果などと比較して、
あまり明瞭なものとは言えません。

カフェインレスのコーヒーや紅茶では、
メタボへの有効性が明確ではなかった、
という結果は興味深いのですが、
その解釈はメタボ自体が複合的で曖昧さのある概念であることを考えると、
「そうしたデータもある」
という程度の理解に留めておくのが良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ミッシング」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ミッシング.jpg
現代を間違いなく代表する映画監督の1人である、
吉田恵輔監督の新作が、
オリジナル台本で石原さとみさんの主演で完成し、
今ロードショー公開されています。

吉田監督は「空白」が、
現代社会を鷲掴みにしたような大傑作で、
非常な感銘を受けました。
それを更に先鋭化させたのが、
次作の「神は見返りを求める」でしたが、
フィクショナルな展開が、
やや暴走気味で収拾がつかなくなった感がありました。

今回の映画はその方向性とは全く別の形、
過激な展開の連鎖や、
キャラの誇張を避け、
リアルでありそうな展開のみを、
物語的にはあまり面白みのない設定と性格のキャラ達に演じさせ、
殆どノンフィクションを指向しながら、
そこにフィクションの意義を見出そうとした、
吉田監督の作家性が、
非常に強く打ち出された力作でした。

これは個人的には大傑作だと思うのですが、
その真価はおそらく今よりも、
5年から10年くらいが経過して、
今の時代の狂気の熱が少し冷めた時に、
明らかになるような気がします。

マスコミの描き方にしても、
SNSの描き方にしても、
今の時代に多くの人が、
何となく正しいと感じていることとは、
実は真逆に近いことを、
作り手は主張しているのですね。
ただ、それをそのまま主張したら、
反発されることが分かっているので、
表面的にはそうでもない風を装いつつ、
その奥に真実を忍ばせるような描き方をしています。

そのため、この作品を観た人は、
何となく居心地の悪さを感じるのです。
それは実は作り手から観客に向けられた、
刃の切っ先なのですが、
それが理解出来ないと、
「もっと別の展開を予想していたので、期待外れだった」とか、
「何が言いたいのか分からず、心に響かなかった」
というような感想になるのではないかと思います。

鑑賞後にすぐ連想したのは、
マクドナーの「スリー・ビルボード」で、
どちらも「母が最愛の娘を失う」という、
1つの事件を主軸に据えながら、
その事件が解決するのではなく、
娘を喪失した母の心情のエネルギーを梃子にして、
その周辺の世界を描いています。
つまり、これは一種の物理実験のようなもので、
得体の知れない世界に、
母の感情をぶつけることにより、
その揺らぎから世界の本質を観測しよう、
という試みなのです。

そして、もう1つのポイントは、
いずれの作品においても、
母の心情はその喪失後にしか基本的には描かれず、
それ以前の母娘がどのような関係であったのかは、
完全なブラックボックスになっている、という点にあります。
「空白」においては、
父と死んだ娘との関係性は、
最後に至ってある程度明らかになり、
そこに1つのカタルシスが生まれるのですが、
この作品では敢えてそれをせず、
事件の真相のみならず、
事件前の親子の関係性すら、
未解決のままにしているのです。

これはどういうことかと言うと、
私達がたとえば女の子が失踪した、
というような事件を報道で見て、
そこから得られる情報と基本的には同じものだけを、
この映画も提示している、
ということなのですね。

それがワイドショーやSNSなどで拡散されると、
私達は何の関係もないその家族について、
実は親子は仲が悪かったのではないかなど、
根拠もない憶測から勝手に自分の物語を作り、
それを共有することによって「娯楽化」するのです。

この映画が本質的に描いているのは、
そうした現実が虚構化され、
物語化されて消費される過程なのです。

しかし、そんなものが果たして面白いでしょうか?

現実の報道は実在の人物を傷つけるけれど、
虚構の報道の利点は誰も傷つけることがない点にあります。

その虚構がそれ自体として面白ければ、
人は現実の詰まらない事件を追い求めて、
そこに娯楽を見出すような必要はなくなります。

今回の映画がやりたかったことは、
自分が創作した物語が、
現実の娯楽化を超えられるのか、
という挑戦であって、
そこにこの映画の本質があるという気がします。

その試みが成功したのか、という点については、
おそらく今はまだ決着が付かないのです。

いずれにしても吉田恵輔監督にして初めてなしえた、
あまり類例のない意欲的な傑作で、
この混乱と狂気の時代に、
確実に観るべき1本だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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エゼチミブの特発性間質性肺炎に対する有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
エゼチミブの間質性肺炎への効果.jpg
European Respiratory Journal誌に、
2024年5月付で掲載された、
コレステロール降下剤の、
肺疾患への有効性を検証した論文です。

新薬の開発に莫大なお金が掛かり、
有効な新薬が開発されても、
その価格は非常に高額になることの多い現在、
これまでにある薬の、
そもそもの目的疾患以外の病気への有効性を検証し、
その活用を図ってゆくことは、
医療費の抑制のためにも重要な研究であるように思います。

今回の研究もそうした検証の一環です。

特発性間質性肺炎(肺線維症)は、
肺の間質と呼ばれる部分が肥厚し、
次第に線維に置き換わって、
肺炎などの急性増悪を繰り返しながら、
悪化してゆく原因不明の病気で、
ある種の体質を持つ人が、
加齢や感染症、喫煙などの誘発因子の影響で、
発症すると考えられていますが、
その原因の詳細はまだ不明です。

ステロイドや免疫抑制剤、抗線維化薬などを含めて、
多くの治療が試みられてはいますが、
その治療成績はまだ満足のゆくものとは言えません。

エゼチミブはコレステロールの吸収を抑制することにより、
血液中のコレステロールを低下させる作用を持つ薬剤で、
日本でも脂質異常症の治療薬として使用されています。

最近このエゼチミブに、
小腸でのコレステロール吸収の抑制だけではなく、
脂肪細胞における脂肪の蓄積を抑制したり、
オートファジーと言って、
細胞が自分の細胞の中の不要な蛋白質を、
除去するような働きがあるのですが、
それを活性化するようなメカニズムを持っていることが、
実験的に確認されています。

つまり、細胞を掃除するような働きです。

特発性間質性肺炎の肺組織においては、
このオートファジーの働きが低下していることが報告されています。
それが線維化の進行の1つのメカニズムではないかと想定されるのです。

それでは、
オートファジーを活性化するエゼチミブを使用することにより、
特発性間質性肺炎の治療に繋がるのでしょうか?

今回の研究では、
主に培養細胞を用いた基礎実験において、
エゼチミブの有効性を検証しています。

その結果、
エゼチミブはオートファジーを活性化することにより、
間質性肺炎の線維化のメカニズムである、
筋線維芽細胞の分化を抑制することが、
培養細胞の実験で確認されました。
また肺線維症の実験動物のネズミを利用した実験においても、
エゼチミブが肺線維症が改善することが確認されました。

特発性肺線維症の患者、
トータル529名を解析した結果では、
未治療と比較して、
抗線維化薬のピルフェニドンが、
総死亡のリスクを37.2%(95%CI:0.441から0.896)低下させたのに対して、
エゼチミブは76.1%(95%CI:0.093から0.614)低下させていました。
ただ、これは介入試験のような精度の高いデータではなく、
脂質異常症でたまたまエゼチミブを飲んでいたかどうかを、
後から解析したのみのもので、
治療群を比較した解析では、
有意な差は認められませんでした。

今回のデータは敢くまで基礎実験が主体で、
臨床的なデータは付加的なものに過ぎません。

今後より厳密な臨床試験などの形で、
エゼチミブの臨床的な有効性が、
評価されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オリーブオイルの認知症死亡抑制効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オリーブオイルの認知症予防効果.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年5月6日付で掲載された、
オリーブオイルの認知症関連死への有効性についての論文です。

ギリシャなどの地中海地方の伝統食が、
心血管疾患のリスクを抑制し、
認知機能にも良い影響を与えることが、
これまでの多くの疫学データにより示されています。

これを地中海ダイエットと呼んでいます。

地中海ダイエットの特徴は、
オリーブオイルとナッツの摂取量が多いことで、
このためオリーブオイルとナッツの健康効果についても、
個別の検討が行われています。

今回の研究は、
非常に多くの臨床研究に活用されている、
アメリカの大規模な医療従事者の疫学データを活用して、
オリーブオイルの摂取量と、
認知症に関連する死亡のリスクとの関連に的を絞って、
検証を行っているものです。

対象は登録時に慢性病や癌のなかった、
トータル92383名の医療従事者で、
4年毎に食事内容を調査し、
28年という長期の経過観察を行っています。

オリーブオイルの摂取量は、
月に1回未満、1日平均で4.5グラム以下、1日平均で4.5グラムは超えて7グラム以下、
1日平均で7グラムを超える、の4群に分けて検証しています。

その結果、
オリーブオイルを1日7グラムを超えて摂っている人は、
殆ど摂っていない人と比較して、
観察期間中に認知症に関係して死亡するリスクが、
28%(95%CI:0.64から0.81)有意に低下していました。

ここで1日5グラムのマーガリンをオリーブオイルに交換すると、
認知症関連死のリスクは8%(95%CI:4 から12)、
1日5グラムのマヨネーズをオリーブオイルに交換すると、
認知症関連死のリスクは14%(95%CI:7から20)、
それぞれ有意に抑制されると推計されました。

このように、
他の動物性脂肪をオリーブオイルにすることにより、
認知症による死亡のリスクが低下するという、
具体的な検証は非常に興味深く、
今後認知症関連死以外の健康リスクについても、
同様の検証が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「アスミク・グレゴリアン ソプラノリサイタル」(2024年) [音楽]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
グレゴリアン.jpg
リトアニア出身のソプラノ、
アスミク・グリゴリアンのリサイタルが行われました。
東京フィルの演奏。
演目を変えての2日の公演で、
2日とも足を運びました・

2022年にシュトラウスの「サロメ」の演奏会形式の公演で来日。
大変評価の高い公演でしたが、行けませんでした。

今回は2日目の公演で、
サロメの最後のモノローグが、
「七つのヴェールの踊り」の演奏に続いて披露され、
これは東京フィルの演奏も良かったですし、
グレゴリアンの歌唱も、
最初に飛ばし過ぎて、ちょっと後半失速した感はありましたが、
さすが「サロメ」で有名になっただけのことはある、
と思える圧巻の歌唱でした。

声質が非常にガッチリとしていて安定感があり、
重厚で体力のある歌唱は、
シュトラウスやワーグナーにもってこい、という感じ。
まだそれほどワーグナーは歌っていないようですが、
これからより円熟した、
彼女のワーグナーを聞きたいと思いました。

1日目はシュトラウスの代わりにプッチーニだったのですが、
ちょっと繊細さやドラマチックな盛り上がりには欠けるという印象でした。
彼女はピアニシモも綺麗なのですが、
プッチーニのピアニシモではない、
という感じでした。

リサイタルの構成として、
1日目はアンコールが「トスカ」のアリアの1曲のみ。
2日目はアンコールはありませんでした。

アンコールがなくて悪いということはないのですが、
それなら、「サロメ」は演奏会形式で、
全曲に近い形で披露しても良かったのではないでしょうか?
ちょっと物足りない感じの残る公演ではありました。

オペラファンは、
最後はシュトラウスに行きつく、
というようなところがありますね。
古典オペラの最後の輝きで、
しかも現代音楽を先取りしているところもあります。
ただ、最初から聴きやすいという感じの音楽ではないので、
その滋味を感じるには、
僕自身は結構長く掛かりました。

「サロメ」も凄いですよね。
今回オケで聴いて、
その音楽自体の只ならぬ緊張と興奮とに、
改めて感銘を受けた思いがありました。
オペラとしての上演では、
色々凝った演出をすることも多いですし、
音楽自体の凄みが、少し後退してしまうところがあるのですね。
「七つのヴェールの踊り」は、
途中のバレエ音楽のように聴いていたのですが、
そんなものではない、
凄味に溢れた音の魔術であることを再認識しました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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睡眠の有害物質除去に与える影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
睡眠中の脳の代謝と有害物質除去.jpg
Nature Neuroscience誌に、
2024年5月13日付で掲載された、
睡眠中の脳の代謝と有害物質の排泄速度を検証した、
動物実験の論文です。

生物は何故眠るのでしょうか?

これは現時点ではまだ、
完全には解明されていない問題です。

睡眠には覚醒状態にはない、多くの利点がある、
という知見はあり、
そのうちの1つは、
睡眠状態は体内の有害物質や老廃物の排泄を促し、
身体をリセットするような効果がある、
というものです。

眠っている間に身体が綺麗になる、
という訳で、
これをグリンパティック仮説(Glymphatic Hypothesis)
と呼んでいます。

脳は身体からは独立しているため、
脳には老廃物を排泄するようなリンパ機能が存在しない、
というように考えられていましたが、
近年の研究により脳脊髄液が脳内を循環して、
脳のグリア細胞と連携して、
脳内の不要な物質や有害物質を、
「洗い流す」ような仕組みがあることが明らかになり、
これをリンパとグリア細胞の名前を繋げた造語として、
グリンパティックシステムと名付けたのです。

このグリンパティックシステムは、
睡眠時、特にノンレム睡眠時に活発になるとされていて、
その代表的な知見の1つであるScience誌の論文では、
睡眠中には60%その排泄効率が高まると報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3880190/

睡眠時間が短いとアルツハイマー型認知症のリスクが高まる、
というデータがあり、
このグリンパティック仮説を適応すると、
脳内の異常蛋白が睡眠時間が短いことで排泄されず、
脳への蓄積を招くのではないか、
という推測が成立するのです。

しかし、まだこれは主に動物実験のデータのみからの知見で、
人間で実証されている、という訳ではありません。

今回の研究はこのグリンパティック仮説を確認する目的で、
ネズミの脳に蛍光色素を注入し、
その排泄速度を覚醒時と睡眠中、麻酔状態で、
比較検証しているものです。

その結果、意外なことに、
覚醒時と比較して睡眠中の色素排出速度は約30%、
麻酔時では約50%も低下していました。

つまり、Science誌論文などとは真逆の結果で、
睡眠中はむしろ毒素の排出は低下するという結果です。

果たしてどちらが正しいのでしょうか?

「睡眠は素晴らしい」というイメージを、
一旦取り除いて考えると、
覚醒時より睡眠時は代謝が大きく低下するのですから、
脳の代謝速度も落ちるのは、
何ら不思議ではありません。
むしろ、代謝は落ちているのに、
有害物質の排泄速度だけ増加するのだ、
という意見の方が不自然に感じられます。

ただ、これも1つの条件での動物実験のデータに過ぎず、
この問題は今後多くの検証の後に、
事実に近いものが見えてくるような気がします。

つまり、
現時点で睡眠に脳のデトックス効果がある、
という良く聞かれる見解は、
まだ仮説の域を出ないものなのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2型糖尿病治療薬の有効性比較(イギリスのプライマリケアデータ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
イギリスの2型糖尿病治療薬比較.jpg
British Medical Journal誌に、
2024年5月8日付で掲載された、
イギリスのプライマリケアにおける、
2型糖尿病治療薬の有効性を比較した論文です。

糖尿病の治療には地域による違いが見られます。

今回の論文に記載されているイギリスのガイドラインでは、
2型糖尿病の第一選択薬はメトホルミンで、
それで充分なコントロールが得られない場合、
DPP-4阻害剤、SU剤、SGLT2阻害剤を併用することが、
第二選択の治療として推奨されています。

最近GLP-1アナログも使用頻度の高い薬剤として知られていますが、
この論文で検証されている2015年から2021年のイギリスにおいては、
その使用頻度は低く、
第二選択の薬剤からは外れているようです。

それでは、この第二選択の薬のうち、
どれを選ぶのが最も有効性が高いのか、
という点については、
これまであまり直接比較したデータがありませんでした。

そこで今回の研究では、
イギリスにおけるプライマリケアと病院の受診歴、
死亡データなどの医療データを解析することで、
第二選択薬3種類の有効性の比較を行っています。

対象はメトホルミンに第二選択の薬3種のうちの1つを、
併用している2型糖尿病患者、トータル75739名で、
内訳は33.9%がSU剤、45.5%がDPP4阻害剤、20.6%がSGLT2阻害剤です。

3剤の比較において、
HbA1cの低下率、BMIの減少率、収縮期血圧の低下率のいずれも、
最も優れていたのはSGLT2阻害剤でした。
またSGLT2阻害剤は心不全による入院のリスク低下において、
DPP-4阻害剤より優れ、
腎機能低下の進行予防効果において、
SU剤より優れていました。

このように、
薬剤選択においては日本と似たところのあるイギリスにおいて、
2型糖尿病治療薬の第二選択薬として、
最も優れていたのはSGLT2阻害剤で、
最近良いデータが蓄積されているこの薬剤の、
ポジティブなデータがまた1つ追加された、
と言って良いかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コレステロール降下剤スタチンの糖尿病リスクについて(2024年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スタチンの糖尿病リスク.jpg
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2024年5月付で掲載された、
脂質異常症治療薬の有害事象についての論文です。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
アトルバスタチンやロスバスタチン、シンバスタチンなどが、
その代表的な薬剤です。

このタイプの薬剤は、
強力なコレステロール降下作用と共に、
抗炎症作用なども併せ持ち、
今では動脈硬化の予防薬的な位置づけとして、
幅広く使用されています。

その有効性は特に狭心症や心筋梗塞などの、
心臓の血管の病気を持っている人の、
再発予防や予後の改善において最も認められています。

このように非常に優秀な薬であるスタチンですが、
幾つかの副作用や有害事象も報告され研究されています。

その中で問題となるものの1つが、
スタチンの使用による糖尿病発症リスクの増加です。

これは薬剤によりデータには差があるのですが、
基本的には全てのスタチンに認められるもので、
そのメカニズムである酵素阻害作用自体が、
リスク増加に関連していると考えられています。

ただ、そのリスク増加は概ね軽度で、
多くの場合生活指導や投薬の調整で対応可能なものなので、
スタチンの有効性を否定するものでない、
という見解が一般的です。

ただ、多くのこれまでの臨床データは、
新規糖尿病の発症リスクを見ているだけのものが多く、
実際に臨床で患者さんを診るに当たって、
どのような点に注意するべきかの、
参考にはあまりなっていない、という欠点がありました。

今回の研究は、
スタチンと偽薬とを比較した、
これまでの精度の高い19の無作為介入試験に含まれる、
トータルで123940名の患者データをまとめて解析する、
メタ解析の手法で、
この問題の検証を行っています。

スタチンはそのコレステロール降下作用の強さによって、
低強度、中強度、高強度に分類され、
たとえば最も一般的なスタチンの1つである、
アトルバスタチンでは、
1日10㎎から20㎎が中強度で、
40㎎から80㎎(日本では未採用)が高強度となっています。

検証の結果、
低強度から中等度スタチンの使用は未使用と比較して、
新規糖尿病の発症リスクが10%(95%CI:1.04から1.16)、
高強度のスタチンの使用では36%(95%CI:1.25から1.48)、
それぞれ有意に増加していました。

登録時に糖尿病のなかった人では、
低強度から中強度のスタチン使用により、
平均血糖は0.7mg/dL程度上昇し、
高強度スタチンでもほど同等の上昇が認められました。
平均のHbA1c値は、
低強度から中等度のスタチン使用により、
0.06%(95%CI:0.02から0.06)、
高強度スタチンの使用により、
0.08%(95%CI:0.07から0.09)、
それぞれ有意に増加していました。

どのような患者さんが糖尿病を発症しやすいのかを解析したところ、
新規糖尿病発症者の62%は、
4分割した血糖値が最も高めの群に属していました。

また登録時に糖尿病のあった患者さんで解析すると、
血糖の悪化が低強度から中強度スタチンの使用では、
10%(95%CI:1.06から1.14)、
高強度スタチンの使用では、
24%(95%CI:1.06から1.44)、
それぞれ有意に増加していました。

今回の結果で見る限り、
スタチンで糖尿病リスクが上昇することは、
間違いがないのですが、
スタチンによる血糖の上昇は比較的軽微なもので、
主に境界型糖尿病や予備群と呼ばれるような、
血糖値がやや高めの患者さんにおいて、
それが糖尿病の基準を満たして発病と判断される、
という事例が多いようです。

従って、たとえば心筋梗塞などの二次予防において、
スタチンが使用されるようなケースでは、
その効果は血糖が軽度上昇するリスクを、
大きく上回ると想定されますから、
スタチンに使用に問題はないと思います。

その一方でコレステロールがやや高いのみで、
動脈硬化性疾患のリスクもあまり高くないようなケースでは、
その使用時の血糖上昇のリスクは、
無視出来ないものとなる可能性もあります。

今回のような知見を基にして、
今後より科学的な、
スタチン使用時の血糖監視の基準が、
定められることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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唐組・第73回公演「泥人魚」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
泥人魚.jpg
唐組の春公演に足を運びました。
2003年に初演され世評の高かった「泥人魚」の再演です。

奇しくも東京公演初日の前日、
寺山修司の逝去と同じ日に、
唐先生は亡くなりました。

この作品は勿論初演も観ているのですが、
それほど強い記憶としては残っていません。
当時はもっとスペクタクルな唐芝居を、
まだ期待する気持ちがあったので、
こじんまりとした印象を持ったのだと思います。

ただ、今回改めて観直してみると、
諫早湾の対立が小さなブリキ店に再現される、
という構成や、泥の海の人魚姫という趣向など、
如何にも唐先生という奇想が密度濃く処理されていて、
即興劇のような闊達さが、
オープニングからラストまで、
緩むことなく展開されるテンポも心地良く、
この時代の唐先生を代表する作品の1本であったことを、
理解することが出来ました。

今回はセットも良く、演出も冴えていましたし、
何より役者の力の漲り方が素晴らしく、
唐先生を送るに相応しい、
熱の籠った舞台になっていたと思います。

是非役者の熱演を観に、
テントに足をお運び頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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