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メラトニンのCOPD急性増悪予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メラトニンのCOPD悪化予防効果.jpg
Respiratory Research誌に2024年4月27日付で掲載された、
睡眠を調整するホルモンの、
ウイルス感染にともなう呼吸器疾患増悪に対する、
抑制作用についての論文です。

感染症などに罹って身体が弱くなると、
人は自然に眠くなって、
睡眠時間は普段より長くなることが通常です。

風邪になって具合が悪い時には、
一晩眠る毎に体調は少しずつ改善し、
回復を実感することが多いことも、
多くの方が実感されていることだと思います。

逆に具合が悪くて眠れない時には、
病状はより悪いことが多いのです。

それは何故でしょうか?

感染症などを回復させる作用が、
どうやら睡眠自体にありそうなのですが、
それはどのようなメカニズムに依っているのでしょうか?

その全てを説明出来る訳ではありませんが、
その1つの要因となっているのが、
睡眠を誘導するメラトニンというホルモンの働きです。

メラトニンは人間の昼と夜のリズムを作る上で、
重要な働きをしている脳松果体から分泌されるホルモンで、
夕方から上昇して朝には減少します。
実はこのホルモンには、
睡眠の誘導作用と共に、
抗酸化作用と抗炎症作用を併せ持つことが確認されていて、
それが寝ている間に、
感染症が回復に向かう、
1つのメカニズムであると想定されているのです。

ただ、その詳細は必ずしも明確になっているという訳ではありません。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、
タバコのみが原因ではありませんが、
主に喫煙習慣を原因として発症する、
慢性気管支炎や肺気腫などの肺の病気の総称で、
高齢者に多く、痰がらみや咳、息切れなどが、
通常の状態での主な症状です。
インフルエンザや新型コロナなどの感染症に罹患すると、
重症の肺炎を起こしたり、
呼吸困難などを起こして、
急激に状態が悪化することが多く、
それをCOPDの急性増悪と呼んでいます。

この急性増悪には、
身体の免疫系が感染をきっかけとして暴走する、
サイトカインストームと呼ばれる現象が、
関与していると想定されています。

今回の研究はネズミを利用した動物実験ですが、
ネズミに24週間に渡ってタバコの煙を吸わせ、
COPDの状態にすると、
更にインフルエンザA型ウイルスに感染させて、
COPDの急性増悪の状態を作ります。

その結果、
感染により肺機能は低下し、
肺の組織の損傷が悪化したことが確認されました。
そこで注射によるメラトニンの投与を行うと、
免疫細胞による過剰な炎症性サイトカインの産生が抑制され、
細胞死のシグナルも抑制されることが確認されました。

つまり、メラトニンの投与により、
COPDのウイルス感染による急性増悪が、
予防されることを示唆する所見です。

これはまだ動物実験の知見で、
しかも臨床的に有効性が確認されている訳ではない、
という点には注意が必要ですが、
睡眠が安定していることが、
免疫の安定にも繋がっている、
というように考えると非常に興味深く、
今後の人間を含めた研究にも期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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