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食事と睡眠の間隔とダイエットとの関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
食事回数と間隔と体重減少.jpg
Journal f the American Heart Associatin誌に、
2023年1月18日ウェブ掲載された、
食事のタイミングと減量効果についての論文です。

肥満や内臓脂肪の増加が、
糖尿病や心血管疾患など、
多くの病気の原因となり、
適切に体重を管理することにより、
そのリスクの低減に繋がることは、
これまでの多くの臨床データから証明されている事実です。

ただ、それではどのようなダイエット(減量法)が、
科学的に正しいものなのか、
という点については、
あまり明確なことが分かっていないのが実際です。

古典的な栄養指導は、
1日3食に分けて定期的に食事を摂り、
夜の食事は遅くならないようにして、
朝食もしっかり摂る、というものです。

ただ、最近絶食(ファスティング)の有効性が指摘されるようになり、
以前にも何度か紹介していますが、
食事回数を減らして、
1日1から2食として食事間隔を長くした方が、
摂取カロリーが同一であっても、
減量のためには有効ではないかという見解が、
多く発表されています。

しかし、データは個別に見ると、
それほど規模の大きなものではなく、
その信頼性には疑問を呈する意見もあります。

今回の研究はアメリカにおいて、
547人の一般住民を対象とし、
スマートフォンのアプリを活用して、
体重の経過と食事時間、1回の食事量との関連を検証しています。
観察期間の中間値は6.3年です。

その結果、
起きてから最初の食事を摂るまでの時間や、
その日の最後の食事から寝るまでの時間、
睡眠時間のいずれも、
体重の変化との間に明確な関連は認められませんでした。
一方で1回当たりの食事量が500キロカロリー未満と少ない場合には、
その回数が多いほど減量効果が認められましたが、
1回に500キロカロリーを超える食事回数が多いほど、
体重は増加する傾向が認められました。

このように、
今回のデータは食事時間やファスティングのダイエット効果を、
否定するようなものとなっています。

ただ、これでファスティングの有効性が、
否定されたと言えるほどのものではなく、
食事量の影響は矢張り大きい、
ということを再認識させる結果のように思います。

ダイエットの問題は、
なかなか一筋縄ではいかないもののようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高齢者に対する入院中の抗精神病薬使用からの離脱率 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
非定型精神病薬の中断率.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年2月17日ウェブ掲載された、
入院中のせん妄に対する投薬治療とその離脱率を検証した論文です。

ストレスなどによる一時的意識障害をせん妄と言います。
典型的なのは高齢者が急性疾患で入院した場合で、
入院するまでは何ら精神的な問題はなかったのに、
入院すると夜大声を上げて騒いだり、
幻覚を訴えたり、点滴などをむしり取ったりもします。

これは通常は一時的な症状で、
入院の原因となった病状が安定し、
退院すると何事もなかったように、
元の状態に戻ることが多いのです。
ただ、ベースに軽度の認知症があったりすると、
入院中のせん妄をきっかけとして、
退院後に認知症が顕在化するようなことはあります。

こうした入院中のせん妄状態に対して、
使用されることが多いのが、
鎮静作用の強い抗精神病薬です。
抗精神病薬はもともとは統合失調症の治療薬ですが、
せん妄における興奮状態には、
統合失調症の陽性状態に近い部分があることと、
通常の安定剤はせん妄状態には無効のことが多いので、
経験的にせん妄状態には抗精神病薬が使用されているのです。

しかし、特に高齢者においては、
抗精神病薬の使用は死亡リスクの増加や、
重症不整脈、肺炎、立ち眩み、排尿障害など、
多くの有害事象に結び付きやすいという側面があります。

このため現行の多くのガイドラインにおいては、
せん妄状態に対する抗精神病薬の使用は、
慎重に適応を検討して行うと共に、
基礎疾患が改善すれば速やかに中止することが推奨されています。

しかし、実際にそのどの程度の患者さんにおいて、
入院中の抗精神病薬の処方が、
すぐに中止されているかどうかは、
正確なデータが不足しているのが実際です。

今回の研究ではアメリカの医療保険のデータを活用して、
この問題の検証を行っています。

抗精神病薬にはハロペリドールなど、
従来型のタイプのものと、
比較的副作用や有害事象が少ないと考えられている、
非定型抗精神病薬というタイプの薬剤があります。
今回の研究では抗精神病薬をその2種類に分けて検証を行っています。

65歳以上で精神疾患の既往がなく、
感染症により入院して30日以内に抗精神病薬の処方が開始された、
トータル5835名の患者データを解析したところ、
処方開始後30日以内に処方が中止されていたのは、
非定型精神病薬使用群では11.4%(95%CI:10.4から12.3)、
ハロペリドール使用群では52.1%(95%CI:48.2から55.7)でした。
入院が長いことと認知症の合併があると、
抗精神病薬の離脱率は低下していました。

このように、
入院中のせん妄状態の治療に使用された抗精神病薬は、
1か月を超えて使用継続されている事例が多く、
特に非定型精神病薬は継続的に使用されているケースが多い、
という傾向が認められました。
確かに従来型の薬と比較すれば、
副作用は少ない傾向はあるものの、
その基本的性質には大きな違いはないので、
その使用継続には、
より慎重であるべきだと思います。

日本においても、
高齢者が急性疾患で入院中に抗精神病薬を使用され、
退院後も使用が漫然と継続されているケースは、
少なからずあるのが現状だと思います。
末端の医療者の1人としては、
そうしたことが起こらないように、
その処方内容の確認と適応の判断には、
より慎重に対処したいと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「バビロン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
バビロン.jpg
ディミアン・チャゼル監督の新作が今ロードショー公開されています。
3時間を超える大作で、
しかもかなり批評や感想は悪いものが多いので、
どうしようかと迷っていたのですが、
感想としては観て良かったと思いました。

ハリウッドのサイレント映画の最盛期である、
1920年代から物語は始まり、
最後は1952年で終わるのですが、
同じサイレントからトーキーの移行の時代を描いた、
「雨に唄えば」が公開されるのが1952年で、
主人公が映画館でその映画を観ることにより、
「雨に唄えば」と映画のストーリーが融合することで、
ラストが締め括られます。

こうした構成だけを見ると、
如何にも真面目な「映画愛」の映画のように思えてしまいますし、
実際にそうした要素もない訳ではないのですが、
見世物としての映画の側面というのか、
出鱈目で好い加減で下品でエッチで煽情的な映画の部分を、
徹底して追及したような内容になっていて、
全編チープで悪ふざけな展開が連続するという作品です。

この馬鹿馬鹿しさの質は、
石井輝男監督のアクション映画や、
大林宜彦監督の映画、
もっと不真面目だった頃のタランティーノや、
ホドロフスキー監督にも近い味わいのものです。
僕はこの4人の監督は大好物なので、
この映画もそうした気分で鑑賞することが出来ました。

チャゼル監督は、
おそらくこうした世界が嫌いではなくて、
一度はこうした狂騒的な出鱈目映画を、
撮ってみたかったのだと思うのですね。
だから、この映画は監督が行き詰まったのではなくて、
次回作は全然趣向の変わった、
おそらくドシリアスなものになるのではないかと思います。

ただ、その方向性に、
それほど徹底はしていないのですね。
おそらく製作上の縛りもあったのだと推測しますが、
映画で有名になる黒人トランペット奏者のパートなどは、
そのまま「良いお話」に仕上がっています。
オープニングから象の糞便を盛大に浴びるという場面があるので、
これはもう「下品で出鱈目ですよ」という意思表示なのですが、
それでいて結構音楽のセンスも良く、
狂乱のパーティーの描写にも、
一定の品格と美意識があるので、
僕も前半はフェリーニみたいにしたいのかしらと、
ちょっと迷いながら観ていたのですが、
途中で繰り返しのギャグで延々と撮影風景を描く辺りから、
これはもう悪ふざけなのだと理解したので、
例のゲロ噴出シーンも、
「ああ、大人計画の『愛の罰』だよね」
というくらいで観ていました。

こういう映画は99%出鱈目とチープさの中に、
1点の戦慄するような藝術と真実の煌きがある、
というのがその本質で、
今回の映画の場合その真実は、
マーゴット・ロビーの演技にあって、
車を石像に激突させながらの登場から、
ポランスキーの「チャイナタウン」のように、
彼方の闇に消えて行く退場まで、
途中のゲロ攻撃などの大暴れを含めて、
彼女の魅力が全編に爆発し、
全ての女優の存在感を一手に引き受けたような、
その存在感は抜群でした。

これはまあ、
真面目な映画と思って観ると、
お怒りになる方のお気持ちも分かるのですが、
B級カルトに挑戦した愛すべき大作で、
個人的には後半のギャングの魔宮のような地下迷宮を逃げる辺りは、
ここまでやってくれるのかと、
ワクワクする思いで観ていたのです。

こうしたものがお好きな方だけにお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「エンパイア・オブ・ライト」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
エンパイアオブライト.jpg
サム・メンデス監督によるイギリス・アメリカ合作で、
1980年初頭のイギリスを舞台に、
精神を病んだ中年の女主人公と若い黒人男性との、
繊細な感情の結びつきを、
不況で黒人差別が顕在化した当時の世相と、
古い映画館のノスタルジックな風景を背景に描いた作品です。

これは昔からある「老いらくの恋」という、
古典的な恋愛映画のテーマを、
これも定番の「映画への愛」というテーマと合体させ、
そこに人種差別と精神疾患という、
現代映画では欠かせない要素を振りかけた、
という感じの作品で、
ちょっとくっつけ過ぎかな、という感じもするのですが、
格調のある映像の美しさと構図の安定感が素晴らしく、
一貫した少しスローだけれどスロー過ぎない、
という感じの絶妙のテンポとも相俟って、
なかなか魅力的で品格のある作品に仕上がっています。

変にドギつくない、
昔みたいないい映画が観たいな、
という向きには、
今一番のお勧めかも知れません。

何より、主役のオリビア・コールマンが抜群にいいですよね。
ちょっとシモーヌ・シニョレみたいな仕上がりになっていて、
昔のフランス映画を観ているような気分に浸れます。

絶対に結び付くことが出来ない2人の話でしょ。
どうするのかなあ、と思っていると、
幾つかの山と谷を経て、
お互いに肉体的にも精神的にも傷ついて、
映画館で映画を観るように、
人生をちょっと客観視したような終わりになるのも、
なかなかしっとりとして良いな、
と思いました。

途中で「炎のランナー」のプレミア上映が、
舞台となる映画館で行われるというシーンがあるんですね。
でも、明らかに「炎のランナー」を権威主義の象徴のようにディスっていて、
なるほど今はそうした評価なのね、と、
その時代背景とのリンクを感じました。

細部の構造は意外に細かいんですね。
映画館そのものがちょっと迷宮的になっていて、
一番下の階では主人公は映画館のオーナーに凌辱されるのですが、
上の階はもう使われない閉ざされた映画館になっていて、
そこには鳩が舞い、主人公達が密かな逢瀬を重ねます。
これは縦構造で時間の流れを表現していると共に、
主人公の心の構造を示しているんですね。
主人公は招かれていないのに、
ドレスアップして「炎のランナー」のプレミアを訪れるのですが、
後ろを向くとドレスは乱れていてきちんと着られていません。
この辺りもとても細かくてリアルです。

欲を言えば、ちょっとありきたりなディテールが多いんですね。
映画は24コマの光の間の闇が生み出す幻だ、
みたいな講釈、
「それ結構何度もこれまで聞きましたけど…」
と突っ込みたくなるような感じですし、
大晦日に映画館の屋上で花火を見るというのも、
ちょっと他になかったのかな、
という思いはありました。

でも、そうした細部を除けば、
非常に格調高く完成度も高い力作であることは確かで、
映画好きには是非是非映画館に足をお運び頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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妊娠中の感染と小児白血病リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
妊娠中の感染と小児白血病.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年2月20日ウェブ掲載された、
妊娠中の感染症が胎児の健康に与える影響についての論文です。

白血病は小児に最も多い癌です。
その原因は全てが分かっている訳ではありませんが、
胎児期に遺伝子の変異が起こることが、
その要因の1つと考えられています。

妊娠中にウイルスや細菌などの感染症に罹患することは、
非常に一般的なことですが、
そのタイミングや感染症の性質によっては、
その感染が胎児の遺伝子に影響を与え、
それが白血病の原因となることも想定されます。

ただ、それではどのような感染症により、
実際にどの程度の影響が胎児に生じるのかについては、
それほど明確なことが分かっていません。

今回の研究は国民総背番号制が取られているデンマークにおいて、
妊娠中の感染症と、
生まれた子供の小児期の白血病の罹患率との関連を、
大規模な疫学データで検証しているものです。

2222797名の小児を対象として、
平均で12.0年の経過観察を施行したところ、
そのうちの1307名が小児期に白血病に罹患していました。

そして、妊娠中に母体が何等かの感染症に罹患していると、
そうでない場合と比較して、
小児の白血病のリスクが35%(95%CI:1.04から1.77)有意に増加していました。
特にリスクが高かったのは、
外陰部の感染症で2.42倍(95%CI:1.50から3.92)、
次に多かったのは尿路感染症で1.65倍(95%CI:1.15から2.36)でした。

このリスク増加をどう見るかは難しいところですが、
今後こうした感染症の予防や治療の介入により、
小児白血病のリスクの減少に結び付くのかどうか、
慎重な検討が必要となるように思われます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「アントマン&ワスプ クアントマニア」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アントマン&ワスプ.jpg
マーベルのアントマンシリーズの新作が、
今ロードショー公開されています。
アイマックスの3Dで鑑賞しました。

アメリカ映画と言えば、
マーベルとDCコミックしか存在しないような昨今ですが、
その作品のスタイルは多岐に渡っていて、
コメディに振れた軽いタッチのものから、
壮大な世界の終焉を叙事詩的に描くような大作まで、
殆ど全ての物語を内包しようとしているかのようです。

その全てを観ている訳ではありませんが、
アントマンをタイトルロールにしたシリーズは、
前2作とも観ています。

このシリーズは割とコミカルに振っていて、
コンパクトで観やすいのが特徴ですが、
今回は殆どの場面が「量子世界」という極小の異世界で展開され、
異様なビジュアルが次々と登場しますが、
物語自体は比較的単調で、
トータルにも薄味な印象がありました。

何より敵キャラが迫力に乏しくて弱い感じなんですよね。
ラストを観ると、このキャラがこれからもシリーズを引っ張るようですが、
それで大丈夫なのかしら、と心配になってしまいました。

量子世界というのは、
要するにお子様世界なのかな、という感じで、
随所に「スターウォーズ」と「不思議の国のアリス」を意識した世界は、
両方とも好みではあるのですが、
今回に関してはただただ目まぐるしい印象のみがあって、
ぼんやりしている間に終わってしまったな、
という感じでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナワクチンの教訓 [科学検証]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は保育園の検診や産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナワクチンの危険な話.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年2月9日掲載された解説記事ですが、
「2価新型コロナワクチンの教訓」と題されていて、
オミクロン株対応2価ワクチンの有効性についての内容です。

新型コロナウイルス感染症の予防のために、
迅速に開発されたワクチンは、
特にファイザー・ビオンテック社とモデルナ社による、
2種類のmRNAワクチンに関しては、
少なくても短期的には高い有効性が確認されています。
ただ、それはデルタ株の流行までの話で、
オミクロン株の感染に対しては、
感染予防効果はそれ以前の変異株と比較すると低く、
重症化予防効果しか期待出来ないのが実際です。

これはそれまで使用されていたワクチンが、
最初に中国の武漢で同定されたウイルス抗原を元にして作られたもので、
オミクロン株のスパイク蛋白とは、
30を超える変異が見つかっていることが、
その原因と考えられています。

そこで、オミクロン株のBA.1に対するワクチンが作られ、
続いて、BA.4とBA.5に対するワクチンが作られました。

しかし…
2022年11月22日に公表されたCDCによる報告によると、
オミクロン株のBA.4とBA.5を含む新型コロナワクチンを、
通常ワクチン接種後2、3か月で追加接種した時の
2か月以内の有症状感染の上乗せの予防効果は、
28から31%と算出されています。
これが通常ワクチン接種後8か月を超えて接種された場合には、
上乗せの予防効果は43から56%となっていました。
これはオミクロン対応のワクチンではなく、
従来型のワクチンを追加接種した場合と、
あまり差のない結果です。
実際従来型のワクチン接種後に、
オミクロン対応の2価ワクチンを追加接種した場合と、
従来のワクチンを追加接種した場合とで、
オミクロン株に対する中和抗体の上昇には、
有意な差はなかった、
という報告もあるのです。

本来は流行株に一致した抗原を含むワクチンを接種すれば、
抗体上昇は数倍から数十倍以上に達すると想定されていました。
それが、結果としては、
従来型のワクチンを追加接種した場合と比較して、
上昇するにしても軽度に留まり、
しかもその持続は数か月以内と、
非常に短いものでした。

何故こうした現象が起こったのでしょうか?

上記解説記事によると、
一番可能性の高い想定は、
従来型ワクチンを複数回接種することにより、
抗体産生の方向性が従来型抗原を主体としたものに規定され、
オミクロン株の抗原刺激が加わっても、
一部がそれにより変化しただけで、
免疫の主体は従来型に対するものから変わらなかったのではないか、
という推測がされています。
これはimprintingと呼ばれる現象です。
今回使用されたオミクロン対応のワクチンは、
トータルな抗原量は従来型のワクチンと同じで、
オミクロン由来の抗原と従来型の抗原に、
半分ずつ分けていたのですが、
オミクロン株由来の抗原のみのワクチンに、
した方が良かったのではないかとも指摘されています。

抗原変異のスピードは速く、
BA4.もBA5.も流行の主体から退場し、
今ではオミクロン株から派生して、
別の変異株が世界的に感染の主体となっています。

現行日本ではインフルエンザの感染の方が、
「感冒症状」の主体となり、
クリニック周辺では、
新型コロナは時々見かけるくらい、
という現状です。

今後のワクチンの開発や修正の方向性は、
今回の知見を教訓として、
感染症毎に別個の対応がなされる必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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妊娠中の新型コロナワクチン接種の新生児感染予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
妊娠中のコロナワクチンの胎児への効果.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年2月8日ウェブ掲載された、
妊娠中の新型コロナmRNAワクチン接種の、
新生児への効果についての論文です。

新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの有効性は、
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社の、
2種類のmRNAワクチンに関する限り、
その短期的な有効性はほぼ確認されています。
ただ当初の想定よりワクチンによって誘導された抗体が、
感染防御に必要なレベルに維持される期間は短く、
特にオミクロン株の感染に関しては、
オミクロン株にマッチングした抗原を含まないワクチンでは、
その有効性はかなり低くなることも分かっています。

自然感染とワクチンによる免疫の両者において、
臍帯血や母乳、胎児血液に、
新型コロナに対する抗体が検出されることが報告されています。

ただ、それでは妊娠中の母体のワクチン接種により、
どの程度乳児感染が予防されているのかについては、
まだそれほどまとまったデータが報告されていません。

今回の研究はカナダにおいて、
デルタ株とオミクロン株の流行時期に誕生した新生児の、
母親の妊娠中に施行されたmRNAワクチン接種の、
生後6か月までの有効性を検証しているものです。

一定期間に生後6か月以内の時点で、
新型コロナの検査を施行された8809名を、
陽性であった1600件と陰性コントロールの7209件に分け、
母親が妊娠中のワクチン接種と、
感染との関係を検証しています。

その結果、
母親が妊娠中に2回のワクチン接種を施行した場合、
誕生したお子さんの生後6か月以内における、
デルタ株の感染予防効果は、
未接種と比較して95%(95%CI:88から98)、
入院の予防効果は97%(95%CI:73から100)、
と算出されました。

一方で同様の計算をオミクロン株のみで施行すると、
感染予防効果は45%(95%CI:37から53)、
入院の予防効果は53%(95%CI:39から64)と、
デルタ株と比較してかなり有効率は低くなっていました。

ここで母親が妊娠中に3回のワクチン接種を施行すると、
お子さんの生後6か月以内の感染予防効果は、
オミクロン株に対しても73%(95%CI:61から80)、
入院の予防効果も80%(95%CI:64から89)とより高くなっていました。

オミクロン株に対する予防効果は、
2回目のワクチン接種を妊娠後期に施行した方が、
初期や中期に施行するよりも高くなっていました。

以上は出生後6か月以内の感染をまとめて解析したものですが、
母体の妊娠中のワクチン2回接種の、
オミクロン株による感染の予防効果は、
出生後8週間以内では57%(95%CI:44から66)であったものが、
16週以降では40%(95%CI:21から54)と低下していました。

このように、
母親が妊娠中に複数回のmRNAワクチンを接種することにより、
母体のみならず、
出生後6か月以内の乳児感染についても、
一定の予防効果のあることが確認されました。
有効率はデルタ株に対しては非常に高いものの、
オミクロン株については、
専用ワクチンが使用されていないこともあって、
かなり低くなり、
その予防効果の持続期間も短くなっていました。
ワクチン接種のタイミングとしては、
妊娠後期に2回目接種を行うことが、
それ以外時期に行うより効果の高いことが示唆されました。

今後の新型コロナワクチン接種が、
どのように行われることになるのかは、
まだ見通しが立っていませんが、
今回のようなデータの蓄積を元にして、
今後の同様なパンデミックに対する科学的指針が、
より厳密な形で作成されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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認知症の初期症状と経過との関連性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
認知症の初期症状と進行経過.jpg
Alzheimer's & Dementia誌に2022年12月20日ウェブ掲載された、
認知症の初期症状とその後の経過との関連についての論文です。

これは科学系の報道記事で見つけたのですが、
元の論文と称する物を見てみると、
学会のポスター発表の採録でした。
興味深い内容なのでご紹介しますが、
査読のある論文のようなものとは基本的に違いますので、
その点はご理解の上お読みください。

アルツハイマー型認知症の初期症状は、
多くは物忘れから始まります。

ただ、物忘れ自体は認知症ではない、
生理的な老化においても見られる症状です。

たとえば、言葉が出なくなる失語や、
知っている道で迷子になってしまう実行機能障害、
物の真ん中や左右が分からなくなる視空間認知障害、
などの病的な症状とはその質において違いがあります。

それでは、物忘れから始まる認知症と、
他の症状から始まる認知症とでは、
その経過において違いがあるのでしょうか?

今回の研究はアメリカにおいて、
死体の解剖を行って確定診断された、
認知症の事例2422例を対象として、
その初期症状と症状経過との関連を比較検証しています。

認知症は、
アルツハイマー型認知症と、レビー小体型認知症、両者の混合型認知症の、
3種類が診断されています。
物忘れが初期症状であると、
言語機能障害が初期症状であった場合と比較して、
3種類いずれの認知症においても、
有意にその進行速度が遅くなっていました。
また、初期症状が実行機能障害である場合には、
アルツハイマー型認知症と混合型認知症において、
初期症状が視空間認知機能障害である場合には、
混合型認知症において、
初期症状が物忘れである場合より、
その進行が速くなっていました。

つまり、物忘れが初期症状である場合は、
それが生理的なものではなく認知症によるものであっても、
その進行は緩やかである可能性が高く、
その一方で失語など別の症状で始まる認知症は、
より進行が早い可能性が高いという結果です。

このデータは診断が解剖所見である点で信頼性が高く、
今後正式の査読のある論文の形で、
発表されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「THE FIRST SLAM DUNK」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
スラムダンク.jpg
「SLAM DUNK」の映画版が、
作者の井上雄彦さんによる脚本・監督で、
拘りのアニメ映画となり今公開されています。

これは原作者による漫画のアニメ映画化としては、
かなり画期的な1本で、
こうした企画は往々にして、
作者の拘りが強くなり過ぎるあまり、
空中分解してしまったり、
「えっ、拘って追求した筈なのに、なんでこんな映画になってしまうの?」
というような、
自己満足の極致のようなヘンテコ作品になることが多いのですが、
この作品については、
映像技巧的には非常に拘り抜いて、
スポーツの試合のアニメ映像化としては、
おそらく最もレベルの高い映像美に、
仕上がっている一方で、
物語は原作から逸脱することはなく、
ベタな物語と、
原作でも全編のクライマックスと言って良い、
対山王戦の1試合を、
完璧に描くことに力を注いでいます。
しかもそのままに描くのではなく、
脇キャラの別視点から描くという、
原作者ならではの趣向を凝らしているのです。

その辺りの匙加減に非常に感心しましたし、
映像技巧の極致と言って良い、
試合のクライマックスの盛り上がりにも感銘を受けました。
アニメ映画の技術は新しい段階に入っているようです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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