原発性アルドステロン症の簡易診断について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
1981年のArch Intern Med誌に掲載された、
原発性アルドステロン症の簡易診断についての論文です。
古い文献ですが、
僕の循環器内科の師匠の手になるもので、
正直医局にいた時に読んだ時には、
何だ、数値の割り算をしただけじゃん、
大したことないな、と失礼ながら思ったのですが、
原発性アルドステロン症のスクリーニング法として、
近年その価値が見直され、
国内外の多くのガイドラインでも引用されています。
こうした簡便なスクリーニング法は、
診療所のような末端の医療機関で診療する者にとっては、
非常に役に立つもので、
一種のコロンブスの卵なのですが、
大学の医局にいた時には、
そうした大局観を持つことは出来なかったのです。
原発性アルドステロン症は、
副腎に小さなしこりが出来て、
そこからアルドステロンというホルモンが、
無秩序に分泌され、
塩分や水分が身体に貯留して、
高血圧の原因となる病気です。
低カリウム血症に伴う筋脱力を来すことがあり、
こうした症状があって、
カリウムの低下が明らかな場合には、
比較的速やかに診断がされますが、
カリウムの低下が軽度であると、
本態性高血圧として治療されることが多く、
高血圧の患者さんの1割がこの病気の可能性がある、
という推測があるほどです。
つまり、この病気の多くは、
実際には見逃されているのです。
この病気においては、
血液のアルドステロン濃度が上昇し、
レニン活性は抑制されます。
通常はレニンはアルドステロンの分泌刺激になるのですが、
この病気ではアルドステロンがしこりから勝手に分泌されるので、
レニンはそれを抑えるために抑制されるのです。
それであれば、レニン活性とアルドステロン濃度を、
一緒に測定すれば簡単に診断出来るのではないか、
と単純にはそう思います。
しかし、レニン活性は低レニン性高血圧と言って、
本態性高血圧であっても、
意外に低い人が多いので、
低めの人が皆原発性アルドステロン症とは言えませんし、
アルドステロン濃度は日内変動があり、
更には日によっての変動も大きいので、
それが高いからと言って、
この病気と決め付けることも出来ないのです。
1つの負荷試験として、
塩分制限や利尿剤を使用して、
身体に疑似脱水状態を起こし、
レニンの反応を見る、という試験が存在します。
脱水や塩分欠乏ではレニン活性が上昇しますが、
原発性アルドステロン症では抑制は解除されないので、
それが鑑別ということになるのですが、
意外にレニンは負荷により上昇したけれど、
実際にはアルドステロン症であった、
というようなケースも複数報告されていて、
あまり当てになる検査とは言えない、
という評価になっています。
それでは、
一般の臨床で簡単に施行可能で、
原発性アルドステロン症の診断に使用可能な指標は、
何かないのでしょうか?
上記文献の著者らは、
アルドステロン濃度をレニン活性で割り算した数値を、
その指標として使用することを試みます。
pg/mLで表記されたアルドステロン濃度を、
ng/mL/hrで表記されたレニン活性で割り算します。
文献においては348名の高血圧の患者さんに対して、
血液のアルドステロン濃度とレニン活性の測定を複数回行ない、
その分布を検証しています。
本態性高血圧においては、
アルドステロン濃度をレニン活性で割った数値は、
323名において200未満になっていますが、
750以上と著明に上昇している患者さんが9名おり、
その全例が精査の結果原発性アルドステロン症と診断されました。
非常に興味深いことは、
単独の患者さんで何度も測定を繰り返すと、
その都度数値は異なるのですが、
アルドステロンとレニンの比率自体は、
200未満であればそのままで一定していて、
300を超えていればそれも一定していました。
塩分制限や利尿剤による負荷を行なって採血しても、
矢張り同一人ではその比率は一定の範囲を維持していました。
ポイントはどの数値を超えると、
原発性アルドステロン症の可能性があると考えるかで、
その点については、
アルドステロン症の事例自体が、
それほど多くはないので、
明確な結論は得られていません。
疾患の否定ということで考えると、
比率が200を切っていれば、
ほぼない可能性が高い、ということは言えそうです。
そして400を超えていれば、
その確率が高そうだ、
ということもまた言えるように思います。
現行の高血圧ガイドラインにおいても、
上記文献をその主な拠り所として、
アルドステロン濃度が120を超えていて、
比率が200を超えている時に、
この病気を疑うと記載がされています。
ただ、典型的な原発性アルドステロン症の事例では、
アルドステロン濃度は200を超え、
比率も750を超えているので、
この指標は病気を見落とさないことに、
その観点があるように思います。
重要なことは経過を見て複数回の測定を繰り返すことで、
複数回比率が高ければ、
かなりこの病気の可能性は高まります。
ただ、上記の文献が発表された時点では、
降圧剤の主体は利尿剤で、
アルドステロンとレニンの比率に影響を与え難かったのですが、
ACE阻害剤やARBの使用時には、
薬剤によるレニンやアルドステロンの変動が大きく、
趣旨から言えば比率には、
それほど大きな影響は与えないように思いますが、
同じ観点での判断は困難になるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
1981年のArch Intern Med誌に掲載された、
原発性アルドステロン症の簡易診断についての論文です。
古い文献ですが、
僕の循環器内科の師匠の手になるもので、
正直医局にいた時に読んだ時には、
何だ、数値の割り算をしただけじゃん、
大したことないな、と失礼ながら思ったのですが、
原発性アルドステロン症のスクリーニング法として、
近年その価値が見直され、
国内外の多くのガイドラインでも引用されています。
こうした簡便なスクリーニング法は、
診療所のような末端の医療機関で診療する者にとっては、
非常に役に立つもので、
一種のコロンブスの卵なのですが、
大学の医局にいた時には、
そうした大局観を持つことは出来なかったのです。
原発性アルドステロン症は、
副腎に小さなしこりが出来て、
そこからアルドステロンというホルモンが、
無秩序に分泌され、
塩分や水分が身体に貯留して、
高血圧の原因となる病気です。
低カリウム血症に伴う筋脱力を来すことがあり、
こうした症状があって、
カリウムの低下が明らかな場合には、
比較的速やかに診断がされますが、
カリウムの低下が軽度であると、
本態性高血圧として治療されることが多く、
高血圧の患者さんの1割がこの病気の可能性がある、
という推測があるほどです。
つまり、この病気の多くは、
実際には見逃されているのです。
この病気においては、
血液のアルドステロン濃度が上昇し、
レニン活性は抑制されます。
通常はレニンはアルドステロンの分泌刺激になるのですが、
この病気ではアルドステロンがしこりから勝手に分泌されるので、
レニンはそれを抑えるために抑制されるのです。
それであれば、レニン活性とアルドステロン濃度を、
一緒に測定すれば簡単に診断出来るのではないか、
と単純にはそう思います。
しかし、レニン活性は低レニン性高血圧と言って、
本態性高血圧であっても、
意外に低い人が多いので、
低めの人が皆原発性アルドステロン症とは言えませんし、
アルドステロン濃度は日内変動があり、
更には日によっての変動も大きいので、
それが高いからと言って、
この病気と決め付けることも出来ないのです。
1つの負荷試験として、
塩分制限や利尿剤を使用して、
身体に疑似脱水状態を起こし、
レニンの反応を見る、という試験が存在します。
脱水や塩分欠乏ではレニン活性が上昇しますが、
原発性アルドステロン症では抑制は解除されないので、
それが鑑別ということになるのですが、
意外にレニンは負荷により上昇したけれど、
実際にはアルドステロン症であった、
というようなケースも複数報告されていて、
あまり当てになる検査とは言えない、
という評価になっています。
それでは、
一般の臨床で簡単に施行可能で、
原発性アルドステロン症の診断に使用可能な指標は、
何かないのでしょうか?
上記文献の著者らは、
アルドステロン濃度をレニン活性で割り算した数値を、
その指標として使用することを試みます。
pg/mLで表記されたアルドステロン濃度を、
ng/mL/hrで表記されたレニン活性で割り算します。
文献においては348名の高血圧の患者さんに対して、
血液のアルドステロン濃度とレニン活性の測定を複数回行ない、
その分布を検証しています。
本態性高血圧においては、
アルドステロン濃度をレニン活性で割った数値は、
323名において200未満になっていますが、
750以上と著明に上昇している患者さんが9名おり、
その全例が精査の結果原発性アルドステロン症と診断されました。
非常に興味深いことは、
単独の患者さんで何度も測定を繰り返すと、
その都度数値は異なるのですが、
アルドステロンとレニンの比率自体は、
200未満であればそのままで一定していて、
300を超えていればそれも一定していました。
塩分制限や利尿剤による負荷を行なって採血しても、
矢張り同一人ではその比率は一定の範囲を維持していました。
ポイントはどの数値を超えると、
原発性アルドステロン症の可能性があると考えるかで、
その点については、
アルドステロン症の事例自体が、
それほど多くはないので、
明確な結論は得られていません。
疾患の否定ということで考えると、
比率が200を切っていれば、
ほぼない可能性が高い、ということは言えそうです。
そして400を超えていれば、
その確率が高そうだ、
ということもまた言えるように思います。
現行の高血圧ガイドラインにおいても、
上記文献をその主な拠り所として、
アルドステロン濃度が120を超えていて、
比率が200を超えている時に、
この病気を疑うと記載がされています。
ただ、典型的な原発性アルドステロン症の事例では、
アルドステロン濃度は200を超え、
比率も750を超えているので、
この指標は病気を見落とさないことに、
その観点があるように思います。
重要なことは経過を見て複数回の測定を繰り返すことで、
複数回比率が高ければ、
かなりこの病気の可能性は高まります。
ただ、上記の文献が発表された時点では、
降圧剤の主体は利尿剤で、
アルドステロンとレニンの比率に影響を与え難かったのですが、
ACE阻害剤やARBの使用時には、
薬剤によるレニンやアルドステロンの変動が大きく、
趣旨から言えば比率には、
それほど大きな影響は与えないように思いますが、
同じ観点での判断は困難になるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
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- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
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2014-07-31 08:13
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コメント(3)
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こんばんは。
アルドステロン、初めて聞きました。
乳がん手術の1年後の血液検査でカリウムの値だけが低く、何故だろうと思っていました。2年後、基準値でしたが、手足の痺れや脱力感と何か関係があったのかもと思いました。これからもカリウム値に気を付けた方がいいのかもしれませんね。
抗がん剤治療から2年以上経つのにまだ痺れています。
主治医に訴えてもリリカを又飲んでみたらというので、もう言わないことにしました。
何か他の治療法がないかと、いろいろ調べています。
興味深い記事を何時も楽しみにしています。
これからも頑張って下さい。
by ジャジャ馬 (2014-07-31 19:05)
ジャジャ馬さんへ
コメントありがとうございます。
カリウム値が痺れや脱力の原因になることはあり、
アルドステロンや甲状腺機能など、
一度ホルモン系のチェックはされた方が良いかも知れません。
by fujiki (2014-08-01 08:14)
はじめまして…
突然のコメント失礼いたします。
廻りにというか…
ネットにも探しても見つからなくて、困っております、、、
原発性アルドステロンの疑いがあり、スクリーン検査等をし、副腎に直接カテーテルを入れたりして検査をした結果、副腎には、出来物なく、両方からホルモンが出ていると言われ薬を飲むことになりました。
サララという薬と投与されました。
しかし、この薬は一生飲み続けることになるのでしょうか!?
この薬を飲んでいたら、副腎は治るのでしょうか!?
アルドステロンは、落ち着くのでしょうか!?
更には原発性なのか、特発性の違いも解らず…
私の病名が特発性だったような気がします…
突然すみません…
ほんとに、解らないことばかりで、どう向き合っていったらいいのか困惑しております。
ちなみに、アルドステロンの値は一般の方でどれくらいの値なんでしょうか!?
by miiyan (2014-08-05 16:10)