急性虫垂炎手術後の抗菌剤使用期間 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Lancet誌に2023年1月17日ウェブ掲載された、
複雑性虫垂炎の術後抗菌剤治療の治療期間についての論文です。
俗に「盲腸」と呼ばれている急性虫垂炎は、
非常に一般的な腹部感染症で、
その炎症が虫垂内に留まっている、
単純性虫垂炎の場合には、
抗菌剤のみにて保存的治療をすることも多く、
壊死や穿孔、膿瘍などが疑われる所見が認められる、
複雑性虫垂炎では、
通常抗菌剤治療に続いて虫垂切除術が施行されます。
ここで1つの問題は、
術後の抗菌剤治療をどのくらいの期間行うべきか、
という点にあります。
手術に伴い、感染性の合併症が生じるリスクがあり、
それを低減する目的で、
術後に抗菌剤の投与が行われます。
現状一般診療においては、
3から5日程度の経静脈的治療が行われ、
退院時に経口の抗菌剤がまた数日処方されることが多いのですが、
最近では抗菌剤による副作用や有害事象、
また耐性菌の増加といった問題が重視され、
より短期間に留めるべき、
という意見があります。
そこで今回の研究ではオランダの15か所の病院において、
複雑性虫垂炎で手術を施行する患者、
トータル1066例をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常治療として5日間の抗菌剤の使用を行い、
もう一方はより短期の2日間の抗菌剤治療に留めて、
その後の経過を比較検証しています。
抗菌剤はセフロキシムもしくはセフトリアキソンとメトロニダゾールが、
使用されています。
その結果、
術後90日以内の感染性合併症と死亡を併せたリスクには、
両群で明確な差は認められませんでした。
これは海外のデータで、
日本でそのまま適応されるものではありませんが、
抗菌剤の使用が術後であってもより短期間に制限される流れは、
今後より加速することになりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Lancet誌に2023年1月17日ウェブ掲載された、
複雑性虫垂炎の術後抗菌剤治療の治療期間についての論文です。
俗に「盲腸」と呼ばれている急性虫垂炎は、
非常に一般的な腹部感染症で、
その炎症が虫垂内に留まっている、
単純性虫垂炎の場合には、
抗菌剤のみにて保存的治療をすることも多く、
壊死や穿孔、膿瘍などが疑われる所見が認められる、
複雑性虫垂炎では、
通常抗菌剤治療に続いて虫垂切除術が施行されます。
ここで1つの問題は、
術後の抗菌剤治療をどのくらいの期間行うべきか、
という点にあります。
手術に伴い、感染性の合併症が生じるリスクがあり、
それを低減する目的で、
術後に抗菌剤の投与が行われます。
現状一般診療においては、
3から5日程度の経静脈的治療が行われ、
退院時に経口の抗菌剤がまた数日処方されることが多いのですが、
最近では抗菌剤による副作用や有害事象、
また耐性菌の増加といった問題が重視され、
より短期間に留めるべき、
という意見があります。
そこで今回の研究ではオランダの15か所の病院において、
複雑性虫垂炎で手術を施行する患者、
トータル1066例をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常治療として5日間の抗菌剤の使用を行い、
もう一方はより短期の2日間の抗菌剤治療に留めて、
その後の経過を比較検証しています。
抗菌剤はセフロキシムもしくはセフトリアキソンとメトロニダゾールが、
使用されています。
その結果、
術後90日以内の感染性合併症と死亡を併せたリスクには、
両群で明確な差は認められませんでした。
これは海外のデータで、
日本でそのまま適応されるものではありませんが、
抗菌剤の使用が術後であってもより短期間に制限される流れは、
今後より加速することになりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
高脂肪食による過食誘導のメカニズム [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後とも、いつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the Journal of Physiology誌に2022年掲載された、
過食のメカニズムについての論文です。
脂肪の多い食事を摂ると、
その後に過食が生じやすくなることが知られています。
主に動物実験による知見ですが、
脂肪の多い食事を摂ることにより、
一度の摂取でもその後24から48時間は、
食欲は増進して過食が誘発されます。
しかし、概ね3から5日以内には、
その影響は調整されて消失し、
それ以前の通常のカロリーで、
満腹感が得られるようになります。
しかし、脂肪の多い食事を、
欲望のままに摂り続けていると、
摂取カロリーの調整メカニズムは破綻して、
過食は持続して体重は増加するのです。
これが高脂肪食により肥満が進行するメカニズムの1つです。
摂食中枢は脳の視床下部に存在していますが、
この高脂肪食による過食の誘発は、
むしろ脳幹の延髄にある、
迷走神経背側運動核により、
その調節がなされていると想定されています。
今回の研究では主にネズミの実験により、
この高脂肪食による過食を抑制する働きが、
迷走神経背側運動核周辺の、
星状細胞(アストロサイト)によって調整されていて、
その星状細胞の機能を阻害することにより、
脳幹と胃との副交感神経を介した連携が崩れ、
過食が誘発されることが確認されました。
この現象が人間でも同じように認められるものなのかどうかは、
現時点では実証されていませんが、
高脂肪食による過食と肥満誘発のメカニズムが、
視床下部ではなく脳幹レベルでも調節されている、
という今回の知見は非常に興味深く、
今後の新たな研究成果にも期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後とも、いつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the Journal of Physiology誌に2022年掲載された、
過食のメカニズムについての論文です。
脂肪の多い食事を摂ると、
その後に過食が生じやすくなることが知られています。
主に動物実験による知見ですが、
脂肪の多い食事を摂ることにより、
一度の摂取でもその後24から48時間は、
食欲は増進して過食が誘発されます。
しかし、概ね3から5日以内には、
その影響は調整されて消失し、
それ以前の通常のカロリーで、
満腹感が得られるようになります。
しかし、脂肪の多い食事を、
欲望のままに摂り続けていると、
摂取カロリーの調整メカニズムは破綻して、
過食は持続して体重は増加するのです。
これが高脂肪食により肥満が進行するメカニズムの1つです。
摂食中枢は脳の視床下部に存在していますが、
この高脂肪食による過食の誘発は、
むしろ脳幹の延髄にある、
迷走神経背側運動核により、
その調節がなされていると想定されています。
今回の研究では主にネズミの実験により、
この高脂肪食による過食を抑制する働きが、
迷走神経背側運動核周辺の、
星状細胞(アストロサイト)によって調整されていて、
その星状細胞の機能を阻害することにより、
脳幹と胃との副交感神経を介した連携が崩れ、
過食が誘発されることが確認されました。
この現象が人間でも同じように認められるものなのかどうかは、
現時点では実証されていませんが、
高脂肪食による過食と肥満誘発のメカニズムが、
視床下部ではなく脳幹レベルでも調節されている、
という今回の知見は非常に興味深く、
今後の新たな研究成果にも期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
「イニシェリン島の精霊」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

大好きな劇作家で映画監督のマクドナーの新作が、
公開されたのですぐに映画館に足を運びました。
前作の「スリー・ビルボード」は傑作でしたが、
マクドナーとしては、
かなりアメリカ映画に寄せて、
自分なりのアメリカ映画を作った、
という感じの作品でした。
今回の映画はホームグラウンドのアイルランドが舞台で、
アイルランドのアラン諸島を舞台とした、
アラン諸島3部作という戯曲のうち、
未上演に終わった「イニシア島のバンジー」を、
おそらく再構成して映画化したもののようです。
従って、映画ではあるのですが、
演劇に近いタッチの作品になっていて、
良くも悪くもマクドナーの特質である、
ブラックユーモアと即物的な残酷さ、
異形な登場人物や悪意に満ちた展開が、
堪能出来る作品となっている一方で、
マクドナーの演劇がどのようなものかを知らない人には、
ややハードルの高い映画になっているように思います。
マクドナーのアラン諸島3部作は、
「ウィー・トーマス(イニシュモア島の中尉)」が、
1990年代のイニシュモア島が舞台で、
「イニシュマン島のビリー」が、
1930年代のイニシュマン島が舞台です。
今回の映画は1920年代のイニシェリン島が舞台なので、
一番古い時代を描いています。
「イニシュマン島のビリー」の主人公のビリーは、
身体に障害を持ち、知能も高くはない青年ですが、
この設定は今回の映画でバリー・コーガンが演じる、
キアリーという役柄にに投影されています。
この映画はコリン・ファレル演じる、
出来の良い妹に寄生するようにして生きている、
島で無為な生活を送る中年男が、
ブレンダン・グリーソン演じる、飲み友達で、
おそらくは高名な音楽家の老人から、
ある日突然「お前とは友達を辞める」と言い渡されるところから始まります。
非常に唐突で、
これまでのドラマには、
あまりなかったタイプの導入部です。
その小さな架空の島には、
マクドナー作品ではお馴染みの、
異形な登場人物達がひしめいているので、
当然この些細な出来事は、
そのまま収束するようなことはなく、
狂気と絶望と黒い笑いに満ちた修羅場になってゆきます。
時代設定はアイルランドの内戦の時代で、
その時代の空気が架空の離れ小島にも反映され、
世代も出自も違う2人の不毛な対立は
不毛に戦う人間達の心理の綾を、
それ自体投影しているようにも思われます。
ただ、マクドナーのこれまでの戯曲の優れたものでは、
ラストの構成に妙味があって、
最初は不条理に見えた人間関係の裏にある真実が、
露わになるような瞬間が用意されているのですが、
この映画ではそうしたカタルシスはなく、
全ては伏せられたままで終わります。
老人が中年男と絶縁した理由が、
本人が言うように「お前が退屈だからだ」、
というものではないことは明らかです。
何故コリン・ファレル演じる主人公は、
島で妹と2人で暮らしているのでしょうか?
障害のある青年の出生にはどのような秘密があるのでしょうか?
マクドナーのこれまでの作品から考えて、
今回の作品でもそうした疑問の答えは、
用意した上でこの作品が作られていることは確かだと思います。
ただ、今回の映画については、
そうした構成を一旦なしにして、
人間のちょっとしたボタンの掛け違えから生じる、
不毛な対立の末路を、
冷徹に見つめることに終始したように思います。
そんな訳で、マクドナー好きの方以外には、
今回はあまりお勧めは出来ない作品なのですが、
映像を含めて作品のクオリティは非常に高く、
鑑賞後のモヤモヤは承知の上で、
楽しめる方には一見の価値はある作品だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

大好きな劇作家で映画監督のマクドナーの新作が、
公開されたのですぐに映画館に足を運びました。
前作の「スリー・ビルボード」は傑作でしたが、
マクドナーとしては、
かなりアメリカ映画に寄せて、
自分なりのアメリカ映画を作った、
という感じの作品でした。
今回の映画はホームグラウンドのアイルランドが舞台で、
アイルランドのアラン諸島を舞台とした、
アラン諸島3部作という戯曲のうち、
未上演に終わった「イニシア島のバンジー」を、
おそらく再構成して映画化したもののようです。
従って、映画ではあるのですが、
演劇に近いタッチの作品になっていて、
良くも悪くもマクドナーの特質である、
ブラックユーモアと即物的な残酷さ、
異形な登場人物や悪意に満ちた展開が、
堪能出来る作品となっている一方で、
マクドナーの演劇がどのようなものかを知らない人には、
ややハードルの高い映画になっているように思います。
マクドナーのアラン諸島3部作は、
「ウィー・トーマス(イニシュモア島の中尉)」が、
1990年代のイニシュモア島が舞台で、
「イニシュマン島のビリー」が、
1930年代のイニシュマン島が舞台です。
今回の映画は1920年代のイニシェリン島が舞台なので、
一番古い時代を描いています。
「イニシュマン島のビリー」の主人公のビリーは、
身体に障害を持ち、知能も高くはない青年ですが、
この設定は今回の映画でバリー・コーガンが演じる、
キアリーという役柄にに投影されています。
この映画はコリン・ファレル演じる、
出来の良い妹に寄生するようにして生きている、
島で無為な生活を送る中年男が、
ブレンダン・グリーソン演じる、飲み友達で、
おそらくは高名な音楽家の老人から、
ある日突然「お前とは友達を辞める」と言い渡されるところから始まります。
非常に唐突で、
これまでのドラマには、
あまりなかったタイプの導入部です。
その小さな架空の島には、
マクドナー作品ではお馴染みの、
異形な登場人物達がひしめいているので、
当然この些細な出来事は、
そのまま収束するようなことはなく、
狂気と絶望と黒い笑いに満ちた修羅場になってゆきます。
時代設定はアイルランドの内戦の時代で、
その時代の空気が架空の離れ小島にも反映され、
世代も出自も違う2人の不毛な対立は
不毛に戦う人間達の心理の綾を、
それ自体投影しているようにも思われます。
ただ、マクドナーのこれまでの戯曲の優れたものでは、
ラストの構成に妙味があって、
最初は不条理に見えた人間関係の裏にある真実が、
露わになるような瞬間が用意されているのですが、
この映画ではそうしたカタルシスはなく、
全ては伏せられたままで終わります。
老人が中年男と絶縁した理由が、
本人が言うように「お前が退屈だからだ」、
というものではないことは明らかです。
何故コリン・ファレル演じる主人公は、
島で妹と2人で暮らしているのでしょうか?
障害のある青年の出生にはどのような秘密があるのでしょうか?
マクドナーのこれまでの作品から考えて、
今回の作品でもそうした疑問の答えは、
用意した上でこの作品が作られていることは確かだと思います。
ただ、今回の映画については、
そうした構成を一旦なしにして、
人間のちょっとしたボタンの掛け違えから生じる、
不毛な対立の末路を、
冷徹に見つめることに終始したように思います。
そんな訳で、マクドナー好きの方以外には、
今回はあまりお勧めは出来ない作品なのですが、
映像を含めて作品のクオリティは非常に高く、
鑑賞後のモヤモヤは承知の上で、
楽しめる方には一見の価値はある作品だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「映画 イチケイのカラス」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。

テレビドラマで好評だった「イチケイノカラス」が、
映画版として今公開されています。
ドラマの劇場版、
という枠を逸脱しないジャンル映画なので、
独立した映画としてそれほどの評価にはならないのですが、
主人公2人のキャラ設定が抜群に魅力的で、
演じる竹野内豊さんと黒木華さんの演技も良く、
ドラマシリーズと同じ脚本家による意欲的な台本を、
「コンフィデンスマンJP」の田中亮監督が、
伏線を縦横に巡らせた技巧的な娯楽作に仕上げています。
これは法曹界を舞台にして、
ヒット作の「HERO」に似通ったところのあるドラマで、
その映画版と同じように、
田舎町を牛耳る政治家と企業が絡む大きな事件の、
ちょっとした綻びである見かけ上小さな事件を、
主人公達が掘り下げることによって、
見えなかった大きな真相が明らかになる、
というような構成に見えます。
でも、実はそれ自体がミスリードになっているんですね。
これは前例がない訳ではなく、
最近時々見られる趣向の1つではありますが、
なかなか練り上げられたプロットで感心しました。
ただ、健康に悪影響を与える有害物質の存在が、
1つのキーになっているのですが、
その内容が「一体どんな物質なの!?」
と声を上げたくなるような矛盾に満ちたものなので、
その点は詰めが甘いなあ、とガッカリしました。
科学的検証の部分については、
もう少し知識のある人が、
チェックに当たって欲しいものだと感じました。
また、海難事故の場面のCG処理が非常にお粗末で、
せっかくの魅力的なオープニングが、
気勢を削がれた感じはありました。
このように今一つ、という感はあるジャンル映画ですが、
意欲的で凝った構成と手練れの役者さんの競演は、
なかなか見ごたえがあり、
映画館に足を運ぶ意味はある映画だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。

テレビドラマで好評だった「イチケイノカラス」が、
映画版として今公開されています。
ドラマの劇場版、
という枠を逸脱しないジャンル映画なので、
独立した映画としてそれほどの評価にはならないのですが、
主人公2人のキャラ設定が抜群に魅力的で、
演じる竹野内豊さんと黒木華さんの演技も良く、
ドラマシリーズと同じ脚本家による意欲的な台本を、
「コンフィデンスマンJP」の田中亮監督が、
伏線を縦横に巡らせた技巧的な娯楽作に仕上げています。
これは法曹界を舞台にして、
ヒット作の「HERO」に似通ったところのあるドラマで、
その映画版と同じように、
田舎町を牛耳る政治家と企業が絡む大きな事件の、
ちょっとした綻びである見かけ上小さな事件を、
主人公達が掘り下げることによって、
見えなかった大きな真相が明らかになる、
というような構成に見えます。
でも、実はそれ自体がミスリードになっているんですね。
これは前例がない訳ではなく、
最近時々見られる趣向の1つではありますが、
なかなか練り上げられたプロットで感心しました。
ただ、健康に悪影響を与える有害物質の存在が、
1つのキーになっているのですが、
その内容が「一体どんな物質なの!?」
と声を上げたくなるような矛盾に満ちたものなので、
その点は詰めが甘いなあ、とガッカリしました。
科学的検証の部分については、
もう少し知識のある人が、
チェックに当たって欲しいものだと感じました。
また、海難事故の場面のCG処理が非常にお粗末で、
せっかくの魅力的なオープニングが、
気勢を削がれた感じはありました。
このように今一つ、という感はあるジャンル映画ですが、
意欲的で凝った構成と手練れの役者さんの競演は、
なかなか見ごたえがあり、
映画館に足を運ぶ意味はある映画だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
AIを活用した慢性腰痛の改善効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や産業医で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Internal Medicine誌に、
2022年8月8日ウェブ掲載された、
腰痛治療にAIを活用する試みについての論文です。
慢性の腰の痛みの多くは原因不明の慢性疼痛です。
多くの場合適度なストレッチなどが指導され、
痛み止めの飲み薬や湿布などの対処療法で、
経過をみることが多いのが実際です。
ただ、痛み止めは胃潰瘍や腎臓障害などの有害事象のリスクがあり、
それを軽減したオピオイドと呼ばれる薬剤は、
麻薬ほど強いものではありませんが、
依存性などの問題が指摘されています。
身体に有害な作用のない治療法として、
その有効性が確立されているものの1つが、
認知行動療法です。
慢性疼痛は、
痛みによるストレスによって、
痛みが増幅されるような、
負の連鎖があることが指摘されています。
これを軽減し解消する有効性があるのが、
「痛みなどに対する思い込み」を修正することにより、
生活習慣も良い方向に改善し、
痛みを軽減する心理療法である、
認知行動療法なのです。
ただ、通常臨床研究で効果が確認されているのは、
6から12週間に渡り、
定期的かつ継続的にセラピストとの対面治療を繰り返す、
という方法です。
研究では可能であっても、
一般の診療において、
こうした方法を行うことは困難です。
そこで最近注目されているのが、
AIを活用して自己学習出来る、
認知行動療法のプログラムを作成し、
それを患者さん自身にやってもらう、
という方法です。
しかし、実際にどの程度の効果があるのでしょうか?
今回の研究ではアメリカにおいて、
慢性の腰痛症と診断された278名の患者を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は1回45分のセラピストによる電話診療をを施行、
もう一方はAI活用のプログラムに基づき、
ボイスメッセージでの治療を行います。
ただ、AI活用のプログラムも、
患者さんの希望があれば、
適宜セラピストの電話によるフィードバックは、
可能な仕組みになっています。
治療はいずれも10週間に渡って行われ、
その後一定期間をおいて有効性が評価されています。
その結果、
RMDQという、
個々の生活動作が、
どの程度腰痛のために障害されているかを、
数値化した指標により評価すると
治療開始3か月、及び6か月の時点での、
認知行動療法の有効性には、
両群で明確な優劣は認められませんでした。
6か月の時点での一部の有効性の指標では、
AIを活用した治療の方が、
活用しない治療より改善率が高くなっていました。
AIを治療に活用すると、しない場合と比較して、
セラピストが治療に割く時間は、
半分程度に短縮されていました。
このようにAIを使用したプログラムを活用して、
それをセラピストが補助する形で認知行動療法を施行すると、
AIを使用しない場合と比較して、
セラピストの時間的な負担は半分で済み、
その有効性は少なくとも短期間においては、
明確な差が認められませんでした。
6か月での有効性がAI使用群でやや上回っていた理由は、
明確ではありませんが、
患者さんがより自発的に治療に向き合うため、
それだけ治療の効果が持続した可能性が考えられます。
何でもAIを活用すれば問題解決、
ということではありませんが、
対象者の自発性にかなり左右される心理療法のような分野は、
意外にその活用に適しているのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や産業医で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Internal Medicine誌に、
2022年8月8日ウェブ掲載された、
腰痛治療にAIを活用する試みについての論文です。
慢性の腰の痛みの多くは原因不明の慢性疼痛です。
多くの場合適度なストレッチなどが指導され、
痛み止めの飲み薬や湿布などの対処療法で、
経過をみることが多いのが実際です。
ただ、痛み止めは胃潰瘍や腎臓障害などの有害事象のリスクがあり、
それを軽減したオピオイドと呼ばれる薬剤は、
麻薬ほど強いものではありませんが、
依存性などの問題が指摘されています。
身体に有害な作用のない治療法として、
その有効性が確立されているものの1つが、
認知行動療法です。
慢性疼痛は、
痛みによるストレスによって、
痛みが増幅されるような、
負の連鎖があることが指摘されています。
これを軽減し解消する有効性があるのが、
「痛みなどに対する思い込み」を修正することにより、
生活習慣も良い方向に改善し、
痛みを軽減する心理療法である、
認知行動療法なのです。
ただ、通常臨床研究で効果が確認されているのは、
6から12週間に渡り、
定期的かつ継続的にセラピストとの対面治療を繰り返す、
という方法です。
研究では可能であっても、
一般の診療において、
こうした方法を行うことは困難です。
そこで最近注目されているのが、
AIを活用して自己学習出来る、
認知行動療法のプログラムを作成し、
それを患者さん自身にやってもらう、
という方法です。
しかし、実際にどの程度の効果があるのでしょうか?
今回の研究ではアメリカにおいて、
慢性の腰痛症と診断された278名の患者を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は1回45分のセラピストによる電話診療をを施行、
もう一方はAI活用のプログラムに基づき、
ボイスメッセージでの治療を行います。
ただ、AI活用のプログラムも、
患者さんの希望があれば、
適宜セラピストの電話によるフィードバックは、
可能な仕組みになっています。
治療はいずれも10週間に渡って行われ、
その後一定期間をおいて有効性が評価されています。
その結果、
RMDQという、
個々の生活動作が、
どの程度腰痛のために障害されているかを、
数値化した指標により評価すると
治療開始3か月、及び6か月の時点での、
認知行動療法の有効性には、
両群で明確な優劣は認められませんでした。
6か月の時点での一部の有効性の指標では、
AIを活用した治療の方が、
活用しない治療より改善率が高くなっていました。
AIを治療に活用すると、しない場合と比較して、
セラピストが治療に割く時間は、
半分程度に短縮されていました。
このようにAIを使用したプログラムを活用して、
それをセラピストが補助する形で認知行動療法を施行すると、
AIを使用しない場合と比較して、
セラピストの時間的な負担は半分で済み、
その有効性は少なくとも短期間においては、
明確な差が認められませんでした。
6か月での有効性がAI使用群でやや上回っていた理由は、
明確ではありませんが、
患者さんがより自発的に治療に向き合うため、
それだけ治療の効果が持続した可能性が考えられます。
何でもAIを活用すれば問題解決、
ということではありませんが、
対象者の自発性にかなり左右される心理療法のような分野は、
意外にその活用に適しているのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
新型コロナの抗原検査の精度とタイミング [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Annals of Internal Medicine誌に、
2022年10月11日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの抗原検査の精度についての論文です。
新型コロナとインフルエンザの同時流行以降、
発熱の患者さんでは抗原検査を優先して、
施行することが多くなりました。
インフルエンザは抗原検査しか施行出来ず、
新型コロナとの同時検出のキットが普及しているので、
それが一番効率的であるからです。
ただ、問題は新型コロナの抗原が陰性であった場合の判断で、
RT-PCR検査を追加で施行するべきか、
感染の可能性は低いとして経過観察とするべきか、
事例ごとに迷うところです。
抗原検査の陽性率については色々な見解があります。
症状出現から、
概ね48時間以内に陽性となることについては、
ほぼ確実と考えて良いのですが、
少数ですが、RT-PCR検査は持続的に陽性なのに、
抗原検査は何度施行しても陰性、
ということがあります。
また、施行のタイミングによって、
抗原検査のみ陰性となることも、
こちらはしばしばあります。
デルタ株やオミクロン株の流行期には、
変異株により陽性率に違いがあるのでは、
というような意見もありました。
今回の検証はアメリカにおいて施行された、
新型コロナの疫学研究のデータを二次利用して、
鼻腔の抗原検査とRT-PCR検査を同時施行し、
RT-PCR検査を「正解」として、
その時期における抗原検査の感度を比較しているものです。
もともとの対象者は7349名で、
RT-PCR検査を一方の鼻腔で、
新型コロナの抗原検査をもう一方の鼻腔で、
同時に施行して、その結果を比較します。
そして、それを48時間ごとに繰り返すのです。
検体を採取するのは対象者自身で自宅で行い、
抗原検査は自分でキットを使用して判定し、
RT-PCR検査は検体を検査機関に送って検査を行います。
その結果1回以上RT-PCR検査で陽性が確認されたのは、
施行期間中207名で、
内訳はデルタ株が58例でオミクロン株が149例です。
ここで、初回の遺伝子検査が陽性であった事例における、
抗原検査の感度は、
同日の検査では、
デルタ株で15.5%(95%CI:6.2から24.8)、
オミクロン株で22.1%(95%CI:15.5 から28.8)、
という低率でした。
それが、初回検査から48時間後に施行した抗原検査の感度は、
デルタ株で44.8%(95%CI:32.0から57.6)、
オミクロン株で49.7%(95%CI:41.6から57.6)まで上昇しています。
これを初回検査でも48時間後の検査でも、
続けて遺伝子検査陽性の109例のみで解析すると、
抗原検査の48時間以内の感度は、
デルタ株で81.5%(95%CI:66.8から96.1)、
オミクロン株で78.0%(95%CI:69.1から87.0)と、
通常多くの方が想定される、
抗原検査の感度と一致していました。
このように、
抗原検査は遺伝子検査が初めて陽性となるようなタイミングでは、
半数以上の事例で陽性とはならず、
診断の役には立たないのですが、
その48時間後にはかなりの事例で陽性になります。
オミクロン株では抗原は陽性になりにくい、
というような意見もありましたが、
今回のデータでは、
そうした傾向はないようです。
遺伝子検査が陽性となる期間は、
事例によって異なっていて、
48時間以上陽性が持続するようなケースでは、
その期間の抗原検査の陽性率も高いのですが、
短期間しか遺伝子検査が陽性にならないような事例もあり、
そうした事例における抗原検査の陽性率も低いようです。
このように抗原検査は簡便で、
一定の有効性のある診断法ですが、
その感度は事例の性質や検査のタイミングによって、
大きく変化する性質のものなので、
単独の検査のみで安易に診断を決定することなく、
事例によっては両者の検査を使い分けて、
臨床症状や流行状況との関連も考えつつ、
慎重に個別の診断を行うことが肝要だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Annals of Internal Medicine誌に、
2022年10月11日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの抗原検査の精度についての論文です。
新型コロナとインフルエンザの同時流行以降、
発熱の患者さんでは抗原検査を優先して、
施行することが多くなりました。
インフルエンザは抗原検査しか施行出来ず、
新型コロナとの同時検出のキットが普及しているので、
それが一番効率的であるからです。
ただ、問題は新型コロナの抗原が陰性であった場合の判断で、
RT-PCR検査を追加で施行するべきか、
感染の可能性は低いとして経過観察とするべきか、
事例ごとに迷うところです。
抗原検査の陽性率については色々な見解があります。
症状出現から、
概ね48時間以内に陽性となることについては、
ほぼ確実と考えて良いのですが、
少数ですが、RT-PCR検査は持続的に陽性なのに、
抗原検査は何度施行しても陰性、
ということがあります。
また、施行のタイミングによって、
抗原検査のみ陰性となることも、
こちらはしばしばあります。
デルタ株やオミクロン株の流行期には、
変異株により陽性率に違いがあるのでは、
というような意見もありました。
今回の検証はアメリカにおいて施行された、
新型コロナの疫学研究のデータを二次利用して、
鼻腔の抗原検査とRT-PCR検査を同時施行し、
RT-PCR検査を「正解」として、
その時期における抗原検査の感度を比較しているものです。
もともとの対象者は7349名で、
RT-PCR検査を一方の鼻腔で、
新型コロナの抗原検査をもう一方の鼻腔で、
同時に施行して、その結果を比較します。
そして、それを48時間ごとに繰り返すのです。
検体を採取するのは対象者自身で自宅で行い、
抗原検査は自分でキットを使用して判定し、
RT-PCR検査は検体を検査機関に送って検査を行います。
その結果1回以上RT-PCR検査で陽性が確認されたのは、
施行期間中207名で、
内訳はデルタ株が58例でオミクロン株が149例です。
ここで、初回の遺伝子検査が陽性であった事例における、
抗原検査の感度は、
同日の検査では、
デルタ株で15.5%(95%CI:6.2から24.8)、
オミクロン株で22.1%(95%CI:15.5 から28.8)、
という低率でした。
それが、初回検査から48時間後に施行した抗原検査の感度は、
デルタ株で44.8%(95%CI:32.0から57.6)、
オミクロン株で49.7%(95%CI:41.6から57.6)まで上昇しています。
これを初回検査でも48時間後の検査でも、
続けて遺伝子検査陽性の109例のみで解析すると、
抗原検査の48時間以内の感度は、
デルタ株で81.5%(95%CI:66.8から96.1)、
オミクロン株で78.0%(95%CI:69.1から87.0)と、
通常多くの方が想定される、
抗原検査の感度と一致していました。
このように、
抗原検査は遺伝子検査が初めて陽性となるようなタイミングでは、
半数以上の事例で陽性とはならず、
診断の役には立たないのですが、
その48時間後にはかなりの事例で陽性になります。
オミクロン株では抗原は陽性になりにくい、
というような意見もありましたが、
今回のデータでは、
そうした傾向はないようです。
遺伝子検査が陽性となる期間は、
事例によって異なっていて、
48時間以上陽性が持続するようなケースでは、
その期間の抗原検査の陽性率も高いのですが、
短期間しか遺伝子検査が陽性にならないような事例もあり、
そうした事例における抗原検査の陽性率も低いようです。
このように抗原検査は簡便で、
一定の有効性のある診断法ですが、
その感度は事例の性質や検査のタイミングによって、
大きく変化する性質のものなので、
単独の検査のみで安易に診断を決定することなく、
事例によっては両者の検査を使い分けて、
臨床症状や流行状況との関連も考えつつ、
慎重に個別の診断を行うことが肝要だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
大腸ファイバーはどのくらいの間隔で施行するべきか? [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Internal Medicine誌に、
2023年1月17日ウェブ掲載された、
大腸ファイバーの検査で異常が見られなかった場合、
次の検査はどのくらいの間隔で受けるべきなのかを、
検証した論文です。
50歳以上の年齢において大腸の内視鏡検査を施行することは、
大腸癌の早期発見のためのスクリーニングとして有効性が高く、
50歳で1回の内視鏡検査を施行することで、
その後の大腸進行癌のリスクや、
大腸癌により死亡するリスクを低下させることが、
多くの精度の高い臨床データにより実証されています。
もし、その検査において、
経過観察の必要な前癌病変やポリープなどが認められれば、
その必要性に応じて、
検査は繰り返されることになります。
ただ、ここで1つの問題は、
癌検診としての初回の大腸内視鏡検査において、
特に異常が認められなかった場合、
次の検査はそのくらいの間隔を空けて施行するのが、
最も有効性が高いのか、
という点にあります。
これは日本では、
概ね「5年はやらなくて大丈夫ですよ」
と言われるケースが多いと思います。
一方でアメリカを初め多くの海外のガイドラインにおいては、
10年は間隔を空けて良い、
と記載をされていることが多いのです。
その1つの根拠となっているのは、
2019年に発表されたメタ解析の論文で、
そこでは一度大腸内視鏡検査で異常がなかった場合、
その後10年以内に進行癌が発見される可能性は、
非常に低い、という知見が得られています。
しかし、このメタ解析で対象となっているデータは、
個々にはそれほど対象者が多くなく、
単独の臨床データにおいて、
再検証される必要性が指摘されていました。
また10年空けることで問題ないとすれば、
15年空けるとどうなのか、
それほど違いはないのか、
それとも癌のリスクは明確に増加するのか、
というような点についても、
正確なことは分かっていません。
今回の研究は男性50歳、女性55歳以降で、
大腸癌スクリーニングとしての大腸内視鏡検査を施行しているドイツにおいて、
スクリーニング後の長期経過を観察し、
この問題の検証を行っているものです。
スクリーニングの大腸内視鏡検査を施行した、
トータル120298名の経過を観察したところ、
初回の検査でポリープなどの所見がなかった場合、
10年後に施行された大腸内視鏡検査での、
大腸癌と粘膜内癌(advanced adenoma)を併せた罹患率は、
女性で3.6%、男性で5.2%でした。
これが初回検査から14年以上経過して施行された場合、
罹患率は女性4.9%、男性で6.6%に増加しています。
ただ、期間に関わらず、施行された全ての大腸内視鏡検査における罹患率は、
女性7.1%、男性11.6%ですから、
14年を超えた検査においても、
その罹患率は抑制されていることが分かります。
癌発見のリスクは女性より男性で高く、
年齢が75歳以上で増加しているので、
初回の検査で異常のない場合の、
75歳未満の女性における大腸癌発見のリスクは非常に低く、
10年を超える間隔を空けても、
問題はないと考えられました。
日本においては、
頻度が低くても癌を見落とすべきではない、
という考え方が強く、
一般の方も頻回の検査を希望される傾向が強いので、
所見がなくても5年に一度の検査が施行されることが多いのですが、
コスト意識を重視する欧米では、
むしろ大腸内視鏡検査のスクリーニング間隔は、
より長くするべきだという議論があり、
この論文においても、
条件によっては10年以上の検査間隔が望ましいのではないか、
という結論になっています。
これはどちらが正しいと単純には言えませんが、
癌のスクリーニングのあり方には、
国内外でかなりの考え方の違いのあることは、
個々に確認しておく必要があると思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Internal Medicine誌に、
2023年1月17日ウェブ掲載された、
大腸ファイバーの検査で異常が見られなかった場合、
次の検査はどのくらいの間隔で受けるべきなのかを、
検証した論文です。
50歳以上の年齢において大腸の内視鏡検査を施行することは、
大腸癌の早期発見のためのスクリーニングとして有効性が高く、
50歳で1回の内視鏡検査を施行することで、
その後の大腸進行癌のリスクや、
大腸癌により死亡するリスクを低下させることが、
多くの精度の高い臨床データにより実証されています。
もし、その検査において、
経過観察の必要な前癌病変やポリープなどが認められれば、
その必要性に応じて、
検査は繰り返されることになります。
ただ、ここで1つの問題は、
癌検診としての初回の大腸内視鏡検査において、
特に異常が認められなかった場合、
次の検査はそのくらいの間隔を空けて施行するのが、
最も有効性が高いのか、
という点にあります。
これは日本では、
概ね「5年はやらなくて大丈夫ですよ」
と言われるケースが多いと思います。
一方でアメリカを初め多くの海外のガイドラインにおいては、
10年は間隔を空けて良い、
と記載をされていることが多いのです。
その1つの根拠となっているのは、
2019年に発表されたメタ解析の論文で、
そこでは一度大腸内視鏡検査で異常がなかった場合、
その後10年以内に進行癌が発見される可能性は、
非常に低い、という知見が得られています。
しかし、このメタ解析で対象となっているデータは、
個々にはそれほど対象者が多くなく、
単独の臨床データにおいて、
再検証される必要性が指摘されていました。
また10年空けることで問題ないとすれば、
15年空けるとどうなのか、
それほど違いはないのか、
それとも癌のリスクは明確に増加するのか、
というような点についても、
正確なことは分かっていません。
今回の研究は男性50歳、女性55歳以降で、
大腸癌スクリーニングとしての大腸内視鏡検査を施行しているドイツにおいて、
スクリーニング後の長期経過を観察し、
この問題の検証を行っているものです。
スクリーニングの大腸内視鏡検査を施行した、
トータル120298名の経過を観察したところ、
初回の検査でポリープなどの所見がなかった場合、
10年後に施行された大腸内視鏡検査での、
大腸癌と粘膜内癌(advanced adenoma)を併せた罹患率は、
女性で3.6%、男性で5.2%でした。
これが初回検査から14年以上経過して施行された場合、
罹患率は女性4.9%、男性で6.6%に増加しています。
ただ、期間に関わらず、施行された全ての大腸内視鏡検査における罹患率は、
女性7.1%、男性11.6%ですから、
14年を超えた検査においても、
その罹患率は抑制されていることが分かります。
癌発見のリスクは女性より男性で高く、
年齢が75歳以上で増加しているので、
初回の検査で異常のない場合の、
75歳未満の女性における大腸癌発見のリスクは非常に低く、
10年を超える間隔を空けても、
問題はないと考えられました。
日本においては、
頻度が低くても癌を見落とすべきではない、
という考え方が強く、
一般の方も頻回の検査を希望される傾向が強いので、
所見がなくても5年に一度の検査が施行されることが多いのですが、
コスト意識を重視する欧米では、
むしろ大腸内視鏡検査のスクリーニング間隔は、
より長くするべきだという議論があり、
この論文においても、
条件によっては10年以上の検査間隔が望ましいのではないか、
という結論になっています。
これはどちらが正しいと単純には言えませんが、
癌のスクリーニングのあり方には、
国内外でかなりの考え方の違いのあることは、
個々に確認しておく必要があると思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
ω3系脂肪酸と慢性腎臓病リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Medical Journal誌に、
2023年1月18日ウェブ掲載された、
魚や植物油に含まれるω3系脂肪酸と呼ばれる油の、
腎臓病予防効果についての論文です。
動物性の油よりも、
植物性の油の方が健康に良い、
というのはしばしば言われて来たことです。
飽和脂肪酸よりも不飽和脂肪酸が健康に良い、
というような言い方も、
しばしばされてきました。
テレビなどの健康情報では、
サバやサンマに含まれる脂肪酸が、
ダイエットに良いという話題も盛んに取り上げられています。
脂肪酸というのは、身体の中の油の総称で、
タンパク質のように窒素は含まず、
炭素と水素、酸素だけからなる、
シンプルな構造物です。
リン脂質や糖脂質、コレステロールやステロイドのような、
脂肪酸から由来する物質も多く、
この中には窒素を含むものもあります。
その大元である脂肪酸は、
二重結合のない飽和脂肪酸と、
二重結合のある不飽和脂肪酸に分かれます。
原子は他と繋がる手を、
決まった数だけ持っていて、
その手がそれぞれ別のものと繋がっているのが、
飽和で、2つの手が同じものと繋がっているのが、
不飽和ということになります。
分子量の大きい「不飽和脂肪酸」は、
その二重結合の位置が端から3番目のものと、
6番目のものとに分かれます。
3番目のものをn-3脂肪酸とか、ω-3系多価不飽和脂肪酸、
などと呼び、
EPAやDHA、α-リノレン酸などはその代表です。
一方で6番目のものの代表は、
リノール酸やアラキドン酸で、
これをおなじように、
n-6脂肪酸やω-6系多価不飽和脂肪酸、
などと呼んでいます。
動物性の脂肪の多くは、
飽和脂肪酸です。
ラードやバターなどはその代表です。
魚や植物油を多く摂るような生活習慣により、
心血管疾患のリスクが減少する、
というような疫学データは多くあり、
その原因として注目されているのがω3系脂肪酸です。
これは具体的には、
主にサバやサンマなどの青身魚の脂に含まれる、
EPA(エイコサペンタエン酸)、DPA(ドコサペンタエン酸)、
DHA(ドコサヘキサエン酸)、
そしてエゴマやアブラナ、ダイズなどの油に含まれる、
植物性油脂のαリノレン酸です。
これまでの臨床研究により、
ω3系脂肪酸を多く摂取することにより、
心血管疾患のリスク低下や中性脂肪の低下などの健康効果が、
データによりその程度には違いはあるものの、
ほぼ確認をされています。
ただ、慢性腎臓病単独での予防効果については、
信頼のおけるデータは多くないのが実際です。
そこで今回の研究では、
これまでに施行された世界12か国の19の臨床データを、
まとめて解析する手法で、
ω3系脂肪酸の慢性腎臓病予防効果を検証しています。
摂取量の聞き取りのデータではなく、
ω3系脂肪酸の個々の血液濃度で検証しているところがポイントです。
トータルで25570名を中間値で11.3年観察したデータを解析したところ、
5分割した魚由来のω3系脂肪酸(EPA。DPA、DHA)の血液濃度が、
最も低い群と比較して、最も高い群では、
慢性腎臓病の発症リスクが13%(95%CI:0.80から0.96)有意に低下していました。
一方で植物由来の油に含まれるαリノレン酸濃度と慢性腎臓病リスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
ω3系脂肪酸の血液濃度と健康長寿との関連の解析データでも、
矢張り有効性はDHAとEPA、DPAのみで確認されていて、
どうやら同じω3系脂肪酸でも、
EPAやDHA、DPAとαリノレン酸は、
別のものとして考えた方が良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Medical Journal誌に、
2023年1月18日ウェブ掲載された、
魚や植物油に含まれるω3系脂肪酸と呼ばれる油の、
腎臓病予防効果についての論文です。
動物性の油よりも、
植物性の油の方が健康に良い、
というのはしばしば言われて来たことです。
飽和脂肪酸よりも不飽和脂肪酸が健康に良い、
というような言い方も、
しばしばされてきました。
テレビなどの健康情報では、
サバやサンマに含まれる脂肪酸が、
ダイエットに良いという話題も盛んに取り上げられています。
脂肪酸というのは、身体の中の油の総称で、
タンパク質のように窒素は含まず、
炭素と水素、酸素だけからなる、
シンプルな構造物です。
リン脂質や糖脂質、コレステロールやステロイドのような、
脂肪酸から由来する物質も多く、
この中には窒素を含むものもあります。
その大元である脂肪酸は、
二重結合のない飽和脂肪酸と、
二重結合のある不飽和脂肪酸に分かれます。
原子は他と繋がる手を、
決まった数だけ持っていて、
その手がそれぞれ別のものと繋がっているのが、
飽和で、2つの手が同じものと繋がっているのが、
不飽和ということになります。
分子量の大きい「不飽和脂肪酸」は、
その二重結合の位置が端から3番目のものと、
6番目のものとに分かれます。
3番目のものをn-3脂肪酸とか、ω-3系多価不飽和脂肪酸、
などと呼び、
EPAやDHA、α-リノレン酸などはその代表です。
一方で6番目のものの代表は、
リノール酸やアラキドン酸で、
これをおなじように、
n-6脂肪酸やω-6系多価不飽和脂肪酸、
などと呼んでいます。
動物性の脂肪の多くは、
飽和脂肪酸です。
ラードやバターなどはその代表です。
魚や植物油を多く摂るような生活習慣により、
心血管疾患のリスクが減少する、
というような疫学データは多くあり、
その原因として注目されているのがω3系脂肪酸です。
これは具体的には、
主にサバやサンマなどの青身魚の脂に含まれる、
EPA(エイコサペンタエン酸)、DPA(ドコサペンタエン酸)、
DHA(ドコサヘキサエン酸)、
そしてエゴマやアブラナ、ダイズなどの油に含まれる、
植物性油脂のαリノレン酸です。
これまでの臨床研究により、
ω3系脂肪酸を多く摂取することにより、
心血管疾患のリスク低下や中性脂肪の低下などの健康効果が、
データによりその程度には違いはあるものの、
ほぼ確認をされています。
ただ、慢性腎臓病単独での予防効果については、
信頼のおけるデータは多くないのが実際です。
そこで今回の研究では、
これまでに施行された世界12か国の19の臨床データを、
まとめて解析する手法で、
ω3系脂肪酸の慢性腎臓病予防効果を検証しています。
摂取量の聞き取りのデータではなく、
ω3系脂肪酸の個々の血液濃度で検証しているところがポイントです。
トータルで25570名を中間値で11.3年観察したデータを解析したところ、
5分割した魚由来のω3系脂肪酸(EPA。DPA、DHA)の血液濃度が、
最も低い群と比較して、最も高い群では、
慢性腎臓病の発症リスクが13%(95%CI:0.80から0.96)有意に低下していました。
一方で植物由来の油に含まれるαリノレン酸濃度と慢性腎臓病リスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
ω3系脂肪酸の血液濃度と健康長寿との関連の解析データでも、
矢張り有効性はDHAとEPA、DPAのみで確認されていて、
どうやら同じω3系脂肪酸でも、
EPAやDHA、DPAとαリノレン酸は、
別のものとして考えた方が良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
多発性嚢胞腎の進行メカニズム [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Nuture Communications誌に、
2022年12月23日ウェブ掲載された、
多発性嚢胞腎の進行メカニズムについての論文です。
オルガノイドという最近注目の技術を活用した研究です。
オルガノイドというのは、
2000年代後半以降に確立された技術で、
遺伝子技術によって、
細胞皿や試験管内に作られた「ミニ臓器」のことです。
それまでの研究では、
試験管の中に作ることが出来るのは、
組織を形成する細胞だけで、
複数の細胞が集まって立体的に作られる「臓器」を、
研究に簡単に利用することは出来ませんでした。
臓器の働きや病気になる仕組みを研究しようと思えば、
動物実験をするしかなかったのです。
それが、正常や病気のミニ臓器を、
簡単に作ることが可能となったのです。
動物を殺さなくても、
動物実験と同じような研究が、
出来るようになったのです。
これは画期的な進歩でした。
多発性嚢胞腎というのは、
遺伝性の腎臓病の中で最も多い病気で、
先天的な遺伝子の異常により、
腎臓に多数の嚢胞が形成され、
それが増大することによって、
腎機能が低下します。
この病気の原因遺伝子はPKD1もしくはPKD2と名付けられ、
この遺伝子のどちらかの変異があることにより、
この病気が発症することが分かっています。
しかし、遺伝子変異があると、
どのようにして嚢胞が進行するのかについてのメカニズムは、
これまで分かっていませんでした。
今回の研究では変異遺伝子を導入した、
腎臓オルガノイドを作成することにより、
嚢胞の進行メカニズムを解析しています。
その結果、
グルコーストランスポーターというタンパク質を介して、
ブドウ糖と共に水が嚢胞内に移行し、
それが嚢胞の増大に繋がっていることが確認されました。
これが事実であるとすると、
グルコーストランスポーターを阻害するような薬があれば、
嚢胞腎の進行を抑制するという可能性が示唆されます。
その代表的な薬は、
言うまでもなくSGLT2阻害剤です。
SGLT2阻害剤は、
糖尿病の治療薬として開発されましたが、
今では心不全の治療薬としても使用され、
慢性腎臓病の進行予防効果があることも、
最近報告されて注目されています。
この同じ薬が、
難病である多発性嚢胞腎の、
治療薬となる可能性も生まれて来たのです。
これはまだ実験的「ミニ臓器」での知見で、
嚢胞の形成される場所によっては、
逆に嚢胞を悪化させる可能性もある、
という指摘もあります。
従って、現時点での臨床応用には慎重であるべきですが、
今後より検証が深められることにより、
この病気の治療のブレイクスルーとなることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Nuture Communications誌に、
2022年12月23日ウェブ掲載された、
多発性嚢胞腎の進行メカニズムについての論文です。
オルガノイドという最近注目の技術を活用した研究です。
オルガノイドというのは、
2000年代後半以降に確立された技術で、
遺伝子技術によって、
細胞皿や試験管内に作られた「ミニ臓器」のことです。
それまでの研究では、
試験管の中に作ることが出来るのは、
組織を形成する細胞だけで、
複数の細胞が集まって立体的に作られる「臓器」を、
研究に簡単に利用することは出来ませんでした。
臓器の働きや病気になる仕組みを研究しようと思えば、
動物実験をするしかなかったのです。
それが、正常や病気のミニ臓器を、
簡単に作ることが可能となったのです。
動物を殺さなくても、
動物実験と同じような研究が、
出来るようになったのです。
これは画期的な進歩でした。
多発性嚢胞腎というのは、
遺伝性の腎臓病の中で最も多い病気で、
先天的な遺伝子の異常により、
腎臓に多数の嚢胞が形成され、
それが増大することによって、
腎機能が低下します。
この病気の原因遺伝子はPKD1もしくはPKD2と名付けられ、
この遺伝子のどちらかの変異があることにより、
この病気が発症することが分かっています。
しかし、遺伝子変異があると、
どのようにして嚢胞が進行するのかについてのメカニズムは、
これまで分かっていませんでした。
今回の研究では変異遺伝子を導入した、
腎臓オルガノイドを作成することにより、
嚢胞の進行メカニズムを解析しています。
その結果、
グルコーストランスポーターというタンパク質を介して、
ブドウ糖と共に水が嚢胞内に移行し、
それが嚢胞の増大に繋がっていることが確認されました。
これが事実であるとすると、
グルコーストランスポーターを阻害するような薬があれば、
嚢胞腎の進行を抑制するという可能性が示唆されます。
その代表的な薬は、
言うまでもなくSGLT2阻害剤です。
SGLT2阻害剤は、
糖尿病の治療薬として開発されましたが、
今では心不全の治療薬としても使用され、
慢性腎臓病の進行予防効果があることも、
最近報告されて注目されています。
この同じ薬が、
難病である多発性嚢胞腎の、
治療薬となる可能性も生まれて来たのです。
これはまだ実験的「ミニ臓器」での知見で、
嚢胞の形成される場所によっては、
逆に嚢胞を悪化させる可能性もある、
という指摘もあります。
従って、現時点での臨床応用には慎重であるべきですが、
今後より検証が深められることにより、
この病気の治療のブレイクスルーとなることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
「宝飾時計」(根本宗子作・演出) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

根本宗子さんの新作公演が、
物凄い豪華なスタッフとキャストを伴って、
今大々的に上演されています。
この作品についてはちょっと複雑な気分です。
根本宗子さんはバリバリの演劇少女としてデビューし、
熱のこもった小劇場の舞台で人気を集めました。
演劇作品としてはその当時の、
下北沢のスズナリなどの小劇場を、
熱気で埋め尽くしたような舞台が、
とても印象に残っています。
それが次第にビックネームになって、
中劇場クラスの箱での公演が増えると、
多くの劇団がそうですが、
やや水増しされたような舞台面になりました。
最近ではその交流も演劇界を超えて多岐に渡り、
作家としてもそのキャリアを積み上げています。
1つの明確な成功パターンを辿っていることは、
間違いがないことだと思います。
今回の舞台はホリプロステージとして企画され、
ホリプロの高畑充希さんが主役で、
成田凌さん、小池栄子さん、伊藤万理華さんが競演、
衣装は著明なファッションデザイナー、
音楽は生演奏で、
テーマ曲は椎名林檎さんの書き下ろしという、
豪華絢爛な布陣です。
これ、何に似ているかと考えると、
中島みゆきさんの「夜会」に近い感じなんですね。
ストーリーはあるのですが、
台詞劇という感じではないのですね。
どちらかと言うと、高畑充希さんの1人語りに近い雰囲気で、
他のキャストは基本添え物という感じ。
高畑さんの感情に伴って、
時間も空間もコロコロ変わっていって、
他のキャストはそれをサポートするために出演している、
という構成です。
そして、ラストは生演奏でテーマ曲を、
高畑さんが歌い上げて終わるのです。
ね、「夜会」と一緒でしょ。
中島みゆきさんの語りがあって、
悠然たるテンポで、
繰り返しの多い場面が、
淡々と続いていって、
テーマ曲で締め括られます。
内容も小説の心理描写に近いですよね。
子役時代に1人の少年への情念から、
自分の成長を止めて、
同じ少女の舞台を演じ続けている主人公の、
心の揺らぎを綴って行きます。
2幕構成になっていて、前半も後半も70分という構成。
前編の終わりにある「秘密の曝露」があって、
結構衝撃的に雰囲気が変わるのですが、
後半は再び前半の流れを、
その秘密を交えた形で繰り返すのです。
内容も悪くないし、
キャストは豪華だし、
ラストの歌も素敵で悪くありません。
ただ、「夜会」が純粋な演劇ではないのと同じ意味で、
この作品も演劇ではないという気がします。
何より、豪華キャストがとても勿体ないですよね。
小池栄子さんは今や充分主役を張れる大女優ですが、
今回の役柄は台詞はあるものの、
主人公の心理を補完する程度の役割ですし、
伊藤万理華さんも、
「サマーフィルムにのって」など、
唯一無二の存在感のある女優さんなのに、
その存在感が活かされているとはとても思えません。
成田凌さんの役柄も、
対等な主人公の相手役ではなく、
主人公の心理の反響板のような役割を、
半ば人形のように演じているだけにも思えます。
こうした内容であれば、
ほぼ高畑さんの1人芝居でいけたと思いますし、
その方が観客の想像力を刺激して、
より演劇としては本来の姿かな、
という気がします。
まあでも、
かつての小劇場的なものからは遠く離れて、
根本さんは根本さんでしか叶わない夢を、
追い求めているのだと思いますから、
個人的にややその方向性には興味を失いつつあるのですが、
今後も時々は様子を窺いたいとは思っています。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

根本宗子さんの新作公演が、
物凄い豪華なスタッフとキャストを伴って、
今大々的に上演されています。
この作品についてはちょっと複雑な気分です。
根本宗子さんはバリバリの演劇少女としてデビューし、
熱のこもった小劇場の舞台で人気を集めました。
演劇作品としてはその当時の、
下北沢のスズナリなどの小劇場を、
熱気で埋め尽くしたような舞台が、
とても印象に残っています。
それが次第にビックネームになって、
中劇場クラスの箱での公演が増えると、
多くの劇団がそうですが、
やや水増しされたような舞台面になりました。
最近ではその交流も演劇界を超えて多岐に渡り、
作家としてもそのキャリアを積み上げています。
1つの明確な成功パターンを辿っていることは、
間違いがないことだと思います。
今回の舞台はホリプロステージとして企画され、
ホリプロの高畑充希さんが主役で、
成田凌さん、小池栄子さん、伊藤万理華さんが競演、
衣装は著明なファッションデザイナー、
音楽は生演奏で、
テーマ曲は椎名林檎さんの書き下ろしという、
豪華絢爛な布陣です。
これ、何に似ているかと考えると、
中島みゆきさんの「夜会」に近い感じなんですね。
ストーリーはあるのですが、
台詞劇という感じではないのですね。
どちらかと言うと、高畑充希さんの1人語りに近い雰囲気で、
他のキャストは基本添え物という感じ。
高畑さんの感情に伴って、
時間も空間もコロコロ変わっていって、
他のキャストはそれをサポートするために出演している、
という構成です。
そして、ラストは生演奏でテーマ曲を、
高畑さんが歌い上げて終わるのです。
ね、「夜会」と一緒でしょ。
中島みゆきさんの語りがあって、
悠然たるテンポで、
繰り返しの多い場面が、
淡々と続いていって、
テーマ曲で締め括られます。
内容も小説の心理描写に近いですよね。
子役時代に1人の少年への情念から、
自分の成長を止めて、
同じ少女の舞台を演じ続けている主人公の、
心の揺らぎを綴って行きます。
2幕構成になっていて、前半も後半も70分という構成。
前編の終わりにある「秘密の曝露」があって、
結構衝撃的に雰囲気が変わるのですが、
後半は再び前半の流れを、
その秘密を交えた形で繰り返すのです。
内容も悪くないし、
キャストは豪華だし、
ラストの歌も素敵で悪くありません。
ただ、「夜会」が純粋な演劇ではないのと同じ意味で、
この作品も演劇ではないという気がします。
何より、豪華キャストがとても勿体ないですよね。
小池栄子さんは今や充分主役を張れる大女優ですが、
今回の役柄は台詞はあるものの、
主人公の心理を補完する程度の役割ですし、
伊藤万理華さんも、
「サマーフィルムにのって」など、
唯一無二の存在感のある女優さんなのに、
その存在感が活かされているとはとても思えません。
成田凌さんの役柄も、
対等な主人公の相手役ではなく、
主人公の心理の反響板のような役割を、
半ば人形のように演じているだけにも思えます。
こうした内容であれば、
ほぼ高畑さんの1人芝居でいけたと思いますし、
その方が観客の想像力を刺激して、
より演劇としては本来の姿かな、
という気がします。
まあでも、
かつての小劇場的なものからは遠く離れて、
根本さんは根本さんでしか叶わない夢を、
追い求めているのだと思いますから、
個人的にややその方向性には興味を失いつつあるのですが、
今後も時々は様子を窺いたいとは思っています。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。