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新型コロナ後遺症に対する睡眠の影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後産業医面談などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナ後遺症に対する睡眠の影響.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年5月30日ウェブ掲載された、
新型コロナ後遺症に対する、
睡眠の影響についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患時には、
その急性症状が回復した後に、
数か月から経過によっては数年に渡り持続する、
倦怠感や息苦しさ、眩暈や精神症状など、
幅広い症状が見られることが知られています。

この現象には多くの呼び方がありますが、
厚労省は「新型コロナウイルス感染症罹患後症状(いわゆる後遺症)」
という言い方を採用しています。

これはWHOが提唱している、
Post-COVID-19 Conditionを翻訳したものと思います。

そのメカニズムにはまだ不明な点が多く、
現時点で有効な予防法や治療法は確立していません。

最近抗ウイルス剤を使用した方が、
その後の後遺症の発症が少なかった、というようなデータが、
幾つか発表されていますが、
そもそも重症の事例や重症化リスクの高い事例に、
そうした薬剤は使用されているので、
抗ウイルス剤の臨床試験などのデータから、
後遺症の予防効果を正確に評価することは、
実際には困難であるように思います。

今回の研究では、
睡眠の質が重要な健康のバロメーターであることに着目して、
新型コロナに罹患する前の睡眠の質が、
罹患後の後遺症の発症にどのように影響するのかを検証しています。

女性の医療従事者を対象とした、
大規模な疫学研究のデータを活用して、
新型コロナに感染した1979名の睡眠状態を解析したところ、
睡眠時間や昼の眠気など、
睡眠の質を0から5点で評価した指標において、
睡眠の質が最も良い5点の人は、
睡眠の質が悪い0から1点の人と比較して、
新型コロナ後遺症の発症リスクが、
30%(95%CI:0.52から0.94)有意に低下していました。

これだけのデータで断定的なことは言えませんが、
良い睡眠が病気への抵抗力を高め、
その予後の改善にも繋がるという、
昔からある一般的な健康理解は、
意外に新型コロナなどの新規感染症においても、
真理であるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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断続的絶食と食事時間制限併用の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
間欠的絶食と食事時間制限の有効性.jpg
Nature Medicine誌に、
2023年4月6日ウェブ掲載された、
食事の時間や量の調整による、
耐糖能改善効果についての論文です。

栄養素のバランスを保ちつつ、
摂取カロリーを制限する低カロリー食は、
長く2型糖尿病の食事療法の定番でした。
その場合1日しっかり3食を定期的に摂ることが、
健康のために重要であるとされて来ました。

確かにインスリン治療やSU剤のような、
低血糖のリスクの高い治療薬を使用中には、
食事の間隔を長くしたり、一時的に絶食することは、
低血糖のリスクを高めるので禁忌でした。

しかし、人間は本当に3食を毎日摂った方が健康的なのでしょうか?
それがあるべき食事のパターンなのでしょうか?
それはまだ解決されていない問題です。

地域や文化や時代の違いにより、
食事習慣は様々で、
1日3食が標準的な食事であるとはとても言えません。
従って、糖尿病の患者さんでも、
血糖降下剤は使用していなかったり、
低血糖リスクの低い薬剤のみ使用している場合には、
1日3食摂ることがベストとは言えません。

最近その点で注目されているのが、
ある程度定期的に食事を摂らない期間を作る、
間欠的絶食(Intermittennt Fasting)と、
1日のうちで食事をしない時間を作る時間制限食(Time-restricted Eating)です。

従来は良くないこととされていた長時間の禁食が、
実は身体の代謝をリセットして、
むしろ糖尿病に対しても良い効果があるのでは、
という知見が多く発表されるようになったのです。

食事療法についての常識は、
間違いなくアップデートされたのです。

ただ、間欠的絶食は良いとして、
食事時間を制限することの効果については、
様々なデータが発表されていて、
その結果にはかなりの差異があるのが実際です。
夜は食事を摂らない、というのが、
一般常識的にも「そうかなあ」と思うところですし、
理に適っているような気はするのですが、
食事制限の時間帯でその有効性に差はないという結果もありますし、
むしろ夜食事をした方が代謝が改善する、というような、
真逆な結果も報告されていて、
その辺りの状況はまだ混沌としています。

今回の研究はオーストラリアにおいて、
診断はされていないものの、
2型糖尿病の発症リスクが高いと判断された209名の一般住民を対象として、
くじ引きで3つの群に分けると、
減量に関するパンフレットを渡すだけのコントロール群と、
摂取エネルギーをそれまでの7割に減らすカロリー制限群、
そして週3日食事の時間を朝8時から12時までに制限し、
その日の朝と昼の食事もそれまでの3割に減らす、
断続的絶食+食事時間制限群に分けて、
その生活を6か月間継続しました。

その結果、
カロリー制限群も断続的絶食+食事時間制限群も、
コントロール群と比較して同程度の体重減少効果が認められました。
その一方で食事負荷試験で計測された食後の血糖上昇は、
カロリー制限群よりも、
断続的絶食+食事時間制限群でより強く抑制されていました。

つまり、
継続可能なレベルでカロリー制限のみを行うよりも、
週3日のみ超低カロリーとして、
食事時間を午前中のみに制限する方が、
より糖代謝に対する改善効果は高かった、
という結果です。

この研究のポイントは、
6か月という長期の介入を行って、
その間の栄養状態など、
トータルな健康状態に問題がないことを確認している点が、
最も重要な知見で、
今後こうした知見を元にして、
本当の意味で健康的な、
食事療法が確立されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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白内障の両眼同時手術の有効性と安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
白内障手術の形式と安全性.jpg
Lancet誌に2023年5月13日ウェブ掲載された、
白内障手術の方法を比較した論文です。

白内障は年齢を重ねるに伴って、
全ての人に起こると言って良い、
非常に一般的な加齢性の変化です。

その治療は通常は手術によって、
加齢により老化した水晶体(レンズ)を吸引するようにして除去し、
代わりに人工のレンズを挿入することによって行われます。

ただ、高齢者の白内障は多くの場合、
両方の目に程度の差はあっても、
同じように起こりますから、
両眼の手術が必要となることが多いのです。

その場合、
まず片眼の手術をして、
1週間かそれ以上の間隔をおいて、
もう一方の目を手術する、
という方法が広く行われて来ました。

その一方で、結果として時間差で両目の手術をするのであれば、
最初から同時に両目の手術を行った方が、
より効率的ではないのか、という意見があり、
治療技術の進歩もあってその環境も整ったことから、
両眼の同時手術も施設によっては国内でも施行されています。

ただ、人工レンズは生体の水晶体とは異なり、
自由に焦点を調節するようなことは出来ません。
1つもしくはせいぜい2つの焦点距離を持っているだけです。
従って、良かれと思って手術を施行しても、
実際の見え方が改善しないなど、
結果が奏功しないこともあり得ます。
そうしたことを考えると、
まず片眼の手術をして、
状態や症状の改善を確認してから、
もう一方の目の手術をするという方法も、
一定の考慮に値するという言い方は出来ます。

今回の検証はオランダの複数施設において、
両眼の白内障手術を予定していて、
眼内の炎症や極端な挿入予定の眼内レンズの焦点距離の差がない、
865例の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は両眼の同時手術を施行し、
もう一方は片眼の手術の2週間後にもう一方の手術を施行して、
その経過を比較検証しています。

その結果、
時間をおいた手術でも両眼同時手術でも、
その成功率や安全性に明確な差は認められませんでした。
その一方で当然のことですが、
手術に掛かったトータルな医療費は、
両眼同時手術が有意に低くなっていました。

今後こうしたデータを元にして、
両眼同時手術が白内障手術のスタンダードになる可能性が高い、
というように思われます。

ただ、ここからは個人的な経験からの見解になりますが、
実際には片眼の手術後に、
見え方に納得がいかないと言われる患者さんは意外に多く、
そのことを考えると、
片眼の手術後にその経過をみて、
もう一方の手術の適否を考えるという方針も、
考慮には値するような気もします。

この問題はより患者さん目線で、
考える必要があるのではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ザ・ホエール」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ザ・ホエール.jpg
「ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー監督が、
また一筋縄ではいかない心理劇を作りました。
今回はアメリカの劇作家サム・D・ハンターの戯曲が原作なので、
より純度の高い心理劇となり、
彼の本領発揮と言える作品になっています。
基本的に地味な密室劇なのですが、
主役が270キロを超える重度の肥満で、
自力で歩行することも出来ないという役柄なので、
それを特殊メイクで演じた、
ブレンダン・フレイザーの演技とビジュアルが、
映像的な見どころとして映画を成立させています。

ただ、今のポリコレの時代では、
「肉体的特徴を見世物にしている」
と取られかねないところではあり、
勿論肥満を馬鹿にしたような作品ではないのですが、
その部分を宣伝し過ぎると、
そうした批判もされかねないという、
痛し痒しの部分はあります。

これは素晴らしい映画でした。

まず原作が素晴らしい戯曲なんですね。
おそらく日本では翻訳上演はされていないと思うのですが
(もし間違っていればご教授下さい)、
密室劇として非常に緻密に練り上げられていて、
感動へと盛り上げる仕掛けも鮮やかです。

ただ、おそらく原作とは映画はテーマを少し変えていて、
より現代の人間関係の問題に、
深く切り込んだものとなっているように思います。

基本的には、
自分の欲望に忠実に生きて来て、
そのために家族を犠牲にしてしまった主人公が、
死の間際になって、
1つだけ善行を施そうとする、
という非常に古典的な物語ですよね。
多分19世紀的テーマと言っても良いかも知れません。

それが心に傷を負いながら、
けなげに生きている少女に対して、
ということであれば、
19世紀の作品なのですが、
今回の作品では、
主人公が男の恋人と同棲するために捨てて来た、
今は高校生(?)になっている娘なのですが、
自分のことしか考えない性悪娘で、
気に入らないことがあれば、
すぐに画像や音声をネットに晒しますし、
睡眠強盗的なことも平気でします。

そう、今生まれて世界を席巻している怪物というのか、
全ての権威に唾を吐き、
少しでも「正しくない」と自分勝手に思えることがあれば、
それを徹底して攻撃し、
秘密を曝露し、ネットに晒して、他人の痛みなど意に介さず、
自分が痛まなければ、
盗みや暴力行為にも平気で手を染めるという、
今を象徴する存在の1人なのですね。

一言で言えば、
心から「寛容」を失った怪物です。

この映画においては、
その「怪物」を作ったのは、
明確にその親の世代なのだと糾弾した上で、
彼らはその責任を取るべきだ、
それをせずに安易に死ぬことは許されない、
というような厳しいメッセージを送っているのです。

しかし、そんなことが可能なのでしょうか?

この作品においては、
欲望のままに生きて愛する人を全て失い、
死を待つだけとなった1人の男が、
娘という名の1人の悪魔を救おうとして、
格闘する姿を描いています。

そう、これは悪魔祓いの話なんですね。
神なき時代のエクソシストの話なのです。

そして、この作品で特筆するべきはラストで、
最後に向けて伏線は回収され、
急速に物語は盛り上がりを見せると、
それが頂点に達した瞬間に、
エンドクレジットに至るのです。

ラストが一番盛り上がるというのは、
物語作者なら誰でも目標とするところです。
「最後で盛り上がるような話は下らない」
というような斜に構えた作者も勿論いなくはありませんが、
実際にはそうした作者も内心では、
最後に一番盛り上がる物語を求めているのです。

この作品のラストはかなりその理想形に近いもので、
最初に登場する「白鯨」の感想文の意味であるとか、
最初に娘が立ち上がることも出来ない父親に対して、
「ここまで歩いて来い」と言う場面などが、
最後になって巧みに回収され、
全てが1つのテーマに向かって走り出し、
観客の心が最大限に高揚した瞬間を見計らって、
映像的な奇跡の瞬間でホワイトアウトするのです。

掛け値なしに心が震えました。

監督の独特の個性と、
やや煽りの強い演出は、
好き嫌いが分かれる部分があるのですが、
原作が抜群、脚本が抜群、演技が抜群と、
全てにおいて水準が高く、
何より現代と格闘した傑作で、
是非にお薦めしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「最後まで行く」(2023年藤井道人監督版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
最後まで行く.jpg
現在を代表する邦画監督の1人、
藤井道人監督が、
韓国映画のヒット作を原作として、
岡田准一さんと綾野剛さんが主演を勤める、
アクションスリラー映画のメガホンを取りました。

藤井監督は海外で言えば、
フライシャーやフリッツ・ラングみたいな感じ、
多作で職人芸的な体質がありながら、
映画マニアで個性的な映像美と、
作り込んだジャンル映画が持ち味です。

「新聞記者」が非常に評価されたので、
社会派監督めいたイメージが付きましたが、
決してそれが本領ということではなく、
社会派もやれば、アクションもやるし、
ミステリーもやれば、恋愛ものも撮る、
というタイプの監督だと思います。
でも、どんなジャンル映画を撮っても、
そこに藤井イズムはしっかりと持っているのです。

ファンとしては多作なのが嬉しいですね。
多作でも三池崇史監督や大林宜彦監督のように、
明らかなやっつけ仕事が多いのは困るのですが、
藤井監督はそうしたことはなくて、
どの作品も一定のクオリティと、
藤井監督らしい拘りの場面が、
必ず用意されているのがさすがです。

今回の作品はおそらく、
与えられた企画だと思うのですが、
タランティーノがやりたかったのだと思うのですね。
それから、70年代くらいの、
東映サスペンススリラーみたいな感じ。

絵作りは明らかに昔のシネスコスリラーなんですよね。
それを洗練させているという感じ。
で、でっかい字幕で日付が出て、
それが途中で逆廻しされて時間が戻るところは、
これはもうタランティーノ以外の何物でもないですね。
それを本家よりスタイリッシュにやっています。
爆破や銃撃の質感や色味の美しさにも拘りがあり、
1場面だけでも、
これまでにないアクションを作ろう、
という意欲が感じられました。

岡田准一さんは頑張っていましたが、
ちょっとこの役柄には合わなかったですね。
これ、もう少し昔の北野武さんの役柄ですよね。
ちょっと憎めないところもある悪徳刑事が絶体絶命になる感じ。
岡田さんは矢張りヒーローが似合うので、
この崩れ方は違和感がありました。
対する綾野剛さんは凄かったですね。
よくぞここまで、という崩し方で、
これまでのキャリアの中でも、
屈指の芝居ではなかったかと思いました。
彼の演技の落差の素晴らしさを見るだけでも、
この作品は値打ちがあると思います。

総じて、藤井監督のフィルモグラフィの中では、
突出したものではなく、
職人芸的な水準作ですが、
それでも細部まで監督の魅力の感じられる、
愛すべきノワール(暗黒映画)になっていたと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ワクチン接種と新型コロナの予後との関連(デルタ株とオミクロン株流行期の解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19の予後とワクチンとの関連2023.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年5月23日ウェブ掲載された、
デルタ株以降の流行期における、
新型コロナ感染の重症化に対する、
ワクチン接種の有効性についての論文です。

新型コロナウイルス感染症は、
日本では2023年5月以降、
季節性インフルエンザなどと同じ5類相当の感染症となり、
日常生活もコロナを意識しないものに、
徐々にシフトしています。

ただ、実際にはその流行は継続していて、
クリニックでも発熱などの症状があって、
検査希望の患者さんには発熱外来で検査を行っていますが、
成人の所謂感冒症状の原因として、
圧倒的に多いのは新型コロナです。

それでも、健康成人であれば、
その症状は軽症で「風邪」として治癒する事例が殆どなので、
予防の主体は高齢者など、
重症化リスクのある対象に限って検討されることが、
妥当であることは間違いがありません。

新型コロナワクチンのうち、
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社の、
2種類のmRNAワクチンについては、
特にパンデミック初期の感染についての、
強い感染予防効果が確認されています。
ただ、デルタ株以降においては、
ワクチンを接種していても感染が起こる、
所謂ブレイクスルー感染も多く報告され、
感染自体を予防する効果は、
減弱していることが指摘されています。

オミクロン株の時期においては、
症状自体が軽症化する一方、
ワクチンの感染予防効果は、
より低いものとなっています。
そこで力点が置かれるようになったのは、
感染予防ではなく重症化予防効果で、
そのため現行のワクチンの接種対象は、
重症化リスクの高い人に限定されています。

それでは、デルタ株以降の時期において、
実際にワクチンの重症化予防効果は、
どの程度のものなのでしょうか?

今回の研究では、
アメリカの退役軍人の医療保険データを活用して、
デルタ株流行以降の時期における、
ワクチンの有効性を、
ワクチン毎に比較検証しています。

対象となっているワクチンは、
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社のmRNAワクチンと、
ジョンソンエンドジョンソン社のウイルスベクターワクチンです。

デルタ株の流行期に新型コロナに感染した95336名と、
オミクロン株の流行期に感染した184653名が解析対象となっています。

解析の結果、
デルタ株の流行期においては、
mRNAワクチンの2回接種により、未接種と比較して、
新型コロナで入院するリスクは59%(95%CI:0.39から0.43)、
集中治療室に入室するリスクは67%(95%CI:0.31から0.36)、
人工呼吸器を装着するリスクは73%(95%CI:0.24から0.30)、
死亡するリスクは79%(95%CI:0.19から0.23)と、
それぞれ有意に低下していました。

オミクロン株の流行期においての同様の検証では、
入院のリスクは40%(95%CI:0.57から0.63)、
集中治療室に入室するリスクは43%(95%CI:0.53から0.62)、
人工呼吸器を装着するリスクは41%(95%CI:0.51から0.67)、
死亡するリスクは57%(95%CI:0.39から0.48)と、
デルタ株の時期と比較すると見劣りはするものの、
それぞれ有意に低下していました。

オミクロン株流行期における、
mRNAワクチンの3回接種は、
2回接種と比較して、
入院のリスクを35%(95%CI:0.63から0.69)、
集中治療室に入室するリスクを35%(95%CI:0.59から0.70)、
人工呼吸器を装着するリスクを30%(95%CI:0.61から0.80)、
死亡するリスを49%(95%CI:0.46から0.57)、
それぞれ有意に低下させていました。

ジョンソンエンドジョンソン社のウイルスベクターワクチンは、
未接種と比較して重症化リスクを概ね低下させましたが、
mRNAワクチンと比較して入院期間は長く、
集中治療室への入室のリスクは高くなっていました。

mRNAワクチン同士の比較においては、
重症化リスクの抑制効果は、
ファイザー・ビオンテック社ワクチンと比較して、
モデルナ社ワクチンの方が優れていました。

このように、
オミクロン株の流行時期においても、
mRNAワクチンの重症化予防効果は一定レベル認められ、
3回接種の有効性も確認されています。
ワクチン同士の比較においては、
mRNAワクチンと比較すると、
ジョンソンエンドジョンソン社のウイルスベクターワクチンの有効性は劣り、
mRNAワクチン同士の比較では、
ファイザー・ビオンテック社ワクチンより、
モデルナ社ワクチンの方が優れていました。

今後の追加接種の方向性はまだ未定ですが、
これまでの有効性データや流行状況、
変異株の性質などを総合的に判断して、
決定される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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COPDの2型炎症に対する抗体製剤の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2 型炎症とCOPD.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年5月21日ウェブ掲載された、
喘息やアトピー性皮膚炎の治療薬を、
COPDの重症化予防に使用した臨床試験についての論文です。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、
主に喫煙による慢性気管支炎や肺気腫などの、
肺の変化を総称したもので、
その進行により呼吸困難が生じると、
歩行時の息切れや咳痰などのために、
日常生活は大きく制限されますし、
患者さんの生命予後にも大きな影響を与える、
深刻な病気でもあります。

COPDの進行において、
感染などをきっかけとして、
呼吸機能を含めた病状が急激に悪化することがあり、
これを急性増悪と呼んでいます。

肺炎から呼吸不全となって亡くなることもありますし、
回復しても、
呼吸機能は急性増悪以前より、
悪化してしまうことも多いのです。

従って、急性増悪を予防することが、
COPDの管理においては極めて重要です。

現状その主な予防としては、
誘因となる感染症を予防することに力点が置かれていて、
今でしたら、インフルエンザや新型コロナのワクチン接種を施行。
基本的な手洗いなどの感染対策が主体となります。

それでは、COPDの急性増悪を有効に抑制するような、
薬物治療はないのでしょうか?

2型炎症という考え方があります。

これはもともとは特定の働きをするTh2という種類のリンパ球が、
関連する炎症として考えられていましたが、
今ではもう少し広い概念として、
インターロイキン4、5、13といったサイトカインが、
関連する炎症の形態として定義されています。

この2型炎症は気管支喘息やアトピー性皮膚炎などの、
アレルギー性の病気の炎症の主体となっていて、
こうしたインターロイキンを抑制する生物学的製剤が、
その治療として使用されています。

COPDは基本的には2型炎症主体の病気ではありませんが、
その20から40%には2型炎症の関与があり、
急性増悪の引き金にもなっている、
という報告があります。
ステロイド(糖質コルチコイド)が有効なケースがあり、
それが2型炎症を抑制しているためではないかと推測されています。

それでは、喘息と同じように、
2型炎症の関与が疑われるCOPDの患者においては、
そのサイトカインを抑制する薬が、
急性増悪の予防にも有効となるのでしょうか?

今回の研究では、
通常の気管支喘息の治療を継続しても急性増悪のリスクが高く、
2型炎症の関与が疑われるCOPDの患者トータル939名を、
患者にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方では2型炎症のサイトカインを抑制する効果を持つ生物学的製剤である、
デュピルマブ(ヒト型抗ヒトIL4/13受容体モノクローナル抗体)を、
2週に一度皮下注射で使用し、
もう一方は偽注射を施行して、
52週間の治療を継続しています。

2型炎症の関与があるかどうかは、
血液の好酸球数が300/μL以上と増加が認められたかどうかで、
簡易的に判定されています。

その結果、
偽注射と比較してデュピルマブ群では、
急性増悪のリスクが30%(95%CI:0.58から0.86)
有意に抑制されていました。
また呼吸機能の指標も改善が認められました。

このように、
一定の2型炎症を抑制する治療により、
COPDの急性増悪が一定レベル予防された、
という結果が得られました。

こうした薬は非常に高額なので、
今後どのような対象者に、
こうした治療を行うべきかは議論のあるところですが、
これまであまり有効な治療法のなかった、
COPDの急性増悪予防に、
一定の有効性が見られたという結果は非常に興味深く、
今後の検証にも期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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電気自動車の高出力充電器の安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
電気自動車のペースメーカーへの影響について.jpg
Europace誌に2023年掲載された、
電気自動車の高出力充電器の健康影響についての論文です。

新しい機器が生活に登場する度に、
その健康影響が問題となります。

現在生活に欠かせない機器で電磁波を出すものは多く、
その人体への影響については、
まだ明確な結論は出ていません。

その代表格は携帯電話やスマートフォンで、
その登場の時期には、
脳への悪影響などが問題となり、
若干ながら影響を与えるとするデータも発表されています。
ただ、その影響は軽微であることが次第に認知され、
今ではあまりそうした主張は、
それほど大きなものではなくなって来ています。
その背景には安全性への危惧と比較して、
生活への必要性が圧倒的に大きい、
という点にも理由はありそうです。

ただ、現行でも指摘されることがあるのは、
皮下に埋め込み型の心臓ペースメーカーや除細動器への影響です。

その誤作動の可能性はゼロとは言えないので、
ペースメーカー埋め込み部に密着しての携帯電話の使用などは、
原則として控えるべきとされています。

最近進歩が著しいのが電気自動車です。

電気自動車は空気を汚さないなど多くの利点がありますが、
充電をケーブルを介して行うと、
非常に強い電磁波が発生するという危惧があります。
それでは、高出力の充電器を使用した場合、
その周辺への電磁波の影響はないのでしょうか?

今回の研究では、
ペースメーカーもしくは除細動器を皮下に埋め込んでいる、
130名の患者を対象として、
高出力の充電器を用いて電気自動車の充電を行い、
充電ケーブルに埋め込み機器を近づけて、
その影響を検証しています。
トータルで561回の充電を行って検証したところ、
電磁波の干渉によって機器の誤作動などのトラブルは、
一度も発生しませんでした。

つまり、一定の安全性が確認されています。
ただ、理論的には充電ケーブルに近接した状態では、
そうした電磁波の干渉によるリスクはゼロとは言えず、
当面は充電ケーブルとペースメーカーなどの機器が、
直接接触するような状態は、
なるべく避けた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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厳格な血圧コントロールの認知症予防効果(SPRINT試験の二次解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血圧コントロールと認知症リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年5月19日ウェブ掲載された、
厳格に血圧をコントロールすることの、
認知機能に与える影響についての論文です。

これは厳格な血圧コントロールの有効性を検証した、
有名なSPRINT試験のデータを活用したものです。

認知症は高齢化社会における最も深刻な健康上の問題ですが、
世界中で研究は進められていながら、
認知症そのものを治療するような治療法の開発は、
まだ道半ばという感じがあります。

そこでもう1つの認知症対策の柱となるのが、
認知症の予防です。

認知症はある日突然起こるような病気ではなく、
10年以上の期間を掛けて進行する病気です。
最初は全く症状がないうちに、
異常タンパクの蓄積などの脳の変化が起こり、
それから軽度認知障害(MCI)という、
認知機能の一部のみが低下した状態が出現します。
そこからまた数年以上を掛けて、
認知症への進行するのが一般的な経過なのです。

それでは、
まだ、異常タンパクの沈着が始まったくらいの段階や、
軽度認知障害の段階で、
その後の進行を予防することは出来ないのでしょうか?

動脈硬化と関連のある心血管疾患のリスクと、
認知症のリスクとの間には関連のあることが分かっています。

それが事実とすれば、
心血管疾患の代表的なリスク因子である高血圧を、
厳格にコントロールすることにより、
認知症の進行も予防出来るのではないでしょうか?

有名なSPRINTと呼ばれるアメリカの臨床試験があります。

これはアメリカの102の専門施設において、
収縮期血圧が130mmHg以上で、
年齢は50歳以上。
慢性腎障害や心血管疾患の既往、
年齢が75歳以上など、
今後の心血管疾患のリスクが高いと想定される、
トータル9361名の患者さんを登録し、
くじ引きで2群に分けると、
一方は収縮期血圧を140未満にすることを目標とし、
もう一方は120未満にすることを目標として、
数年間の経過観察を行ない、
その間の心筋梗塞などの急性冠症候群、
脳卒中、心不全、心血管疾患のよる死亡のリスクを、
両群で比較するというものです。

平均観察期間は5年間とされていました。
しかし、平均観察期間3.26年の時点で終了となりました。
これは開始後1年の時点で、
既に統計的に明確な差が現れ、
かつ血圧を強く低下させることにより、
腎機能の低下にも明確な差が現れたことで、
それ以上の継続の意義がない、
と考えられたからです。

その結果は当初の予想を上回るものでした。

収縮期血圧120未満を目標とした、
強化コントロール群は、
140未満を目標とする通常コントロール群と比較して、
トータルな心血管疾患とそれによる死亡のリスクが、
25%有意に低下していたのです。
(Hazard Ratio 0.75 : 95%CI 0.64-0.89)

このSPRINT試験の延長として、
より厳密な降圧治療の認知症予防効果を検証され、
その結果は2019年のJAMA誌に発表されています。

SPRINT試験の観察期間のみでは、
認知症の進行を見るには短すぎるので、
試験終了後も3年近いコホート研究としての観察期間を設定し、
トータルで6年近い経過観察を施行しています。

その結果、
観察期間中に認知症と診断されるリスクは、
通常降圧群と比較して厳格降圧群では、
17%低下する傾向を示したものの有意ではありませんでした。
(95%CI: 0.67から1.04)

ただ、軽度認知障害の発症リスクは、
厳格治療群で19%(95%CI: 0.69から0.95)、
軽度認知障害と認知症を併せたリスクも、
厳格治療群で15%(95%CI: 0.74から0.97)、
それぞれ有意に低下していました。

このように、
より厳格な血圧コントロールを行なうことにより、
一定レベル認知症の発症を予防出来る可能性がありますが、
それは軽度認知障害以前の状態において、
より有効であるようです。

今回の検証は同じSPRINT試験の二次解析ですが、
試験に登録の時点で認知症の可能性があるか、
軽度認知障害を持っている患者さんに限定して解析をしたところ、
全体の解析よりも、
厳密な血圧コントロールの認知症予防効果が、
より明確に示された、という結果になっています。

SPRINT試験の解析はこのように沢山の種類があり、
その範囲においては、
厳格な血圧コントロールを行った方が、
認知症の予防にも繋がるという結果はかなり明確ですが、
今後はSPRINT試験に匹敵するような別個の臨床データにおいて、
同様の結果が得られるかどうかが問題であるという気がします。

今後の知見の蓄積に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ニキビに対するスピロノラクトンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スピロノラクトンのニキビへの効果.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年5月16日ウェブ掲載された、
抗アンドロゲン作用のある利尿剤を、
ニキビに使用した臨床試験についての論文です。

ニキビ(尋常性挫創)というのは、
非常に一般的な症状ですが、
その治療は現時点でも確立されているとは言えません。

通常過酸化ベンゾイル製剤や抗菌剤などの外用剤が使用され、
それで改善が見られない場合には、
内服の抗菌剤が使用されることが一般的です。
ニキビに対する抗菌剤の使用は、
原則として半年以内に限るとされていますが、
それを超えて継続されることの多いのが実際です。
抗菌剤の長期の使用継続は、
耐性菌の増加などのリスクに繋がることが知られています。

そのため、抗菌剤を使用しないニキビ治療が、
求められているのです。

現状ガイドラインで推奨されているものではありませんが、
臨床で使用されることが多いのが、
スピロノラクトン(商品名アルドステロンなど)の使用です。

スピロノラクトンは利尿剤の一種ですが、
抗アンドロゲン作用を持ち、
それがニキビの改善に繋がると考えられています。

そこで今回の臨床研究では、
イギリスとウェールズの18歳以上でニキビのある女性、
トータル410名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方はスピロノラクトンを1日50㎎から開始して、
6週以降は100㎎に増量し24週までの治療を継続。
もう一方は偽薬を使用して、
その有効性を比較検証しています。

その結果、
治療12週の時点ではニキビの自覚的改善率には、
有意な差はありませんでしたが、
治療24週の時点では治療群の改善率が82%に対して、
偽薬群の改善率は63%で、
スピロノラクトンの治療には、
一定の臨床的有効性が認められました。

スピロノラクトンには、
無月経などの副作用があり、
妊娠中や授乳中は原則として使用出来ませんから、
その使用継続には限界がありますが、
抗菌剤のような有害事象はない治療の選択肢として、
今後抗菌剤が使用継続されているようなケースにおいて、
検討に値する治療になると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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