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涙の検査でプリオン病を診断する [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
プリオン病の涙からの検出.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年5月11日掲載されたレターですが、
プリオン病の新しい診断法についての内容です。

プリオン病という病気があります。
プリオンという異常な折り畳みタンパク質が、
人肉を食べる風習や脳膜の移植手術、
人間の脳由来の成分を含む注射薬などにより感染し、
クロイツフェルト・ヤコブ病という、
脳の難病を引き起こし、
牛では所謂「狂牛病」の原因となることが実証されたのです。

プリオンのSeed(種)という言い方をしていますが、
極少量のプリオンというタンパク質が、
人間の身体に入ると、
体内で正常なプリオンタンパク質が、
異常なプリオンに、
オセロゲームのように次々と変化し、
あたかもウイルスなどの感染症のように、
体内で増殖するのです。

これまで病原体でなければ起こらないと考えられていた現象が、
ただの「タンパク質」で起こったのです。

このことは、
衝撃を持って科学界のみならず、
社会全体に受け止められました。

このプリオン病の診断には、
通常は脳脊髄液を採取しての検査が必要です。
近年QUIC法という、
遺伝子のPCR法に相当する異常蛋白質の増幅法が確立され、
比較的簡便に精度の高い検査が施行可能となりました。

ただ、それでも脳脊髄液の採取というのは、
背中に針を刺して行う検査で、
患者さんには負担が大きな方法ですし、
神経障害などの合併症のリスクもあります。

それでは、もっと簡便に異常蛋白を検出するような方法はないのでしょうか?

理論的にはプリオンのような異常蛋白は、
脳や脊髄以外の組織にも検出される可能性があります。

そこで今回の検証では、
プリオン病の19名の患者に涙のプリオン蛋白の検出検査を施行。
そのうちの84%に当たる16名で陽性が確認されました。

勿論プリオン病のタイプによっては、
涙に蛋白質が分泌されない場合も想定されるため、
この方法でプリオン病の可能性を、
完全に否定することは出来ませんが、
涙での検査をまず施行して、
その結果により必要と思われる事例のみ脳脊髄液の検査に進む、
というような方法を取ることにより、
患者さんの負担を減らし、
より確実で効率的な診断に結び付く可能性があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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