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妊娠糖尿病の妊娠早期スクリーニングの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
妊娠糖尿病の早期診断の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年5月5日ウェブ掲載された、
妊娠糖尿病の妊娠早期における、
スクリーニングの有効性についての論文です。

妊娠糖尿病というのは、
糖尿病という名前は付いていますが、
実際には糖尿病にまでは至らない糖代謝の異常のことです。

糖尿病にまでは至らなくても、
妊娠中に一時的な耐糖能異常があると、
正常妊娠と比較して流早産や巨大児などの、
母体や胎児双方の異常が、
多くなることが報告されているので、
対応が必要な「病気」として捉えられているのです。

現行世界的に最も広く使用されている基準は、
国際糖尿病妊娠学会が2010年にまとめたもので、
妊娠24週以降くらいの時期に75グラム糖負荷試験を施行して、
負荷前の血糖値が92㎎/dL以上、負荷後1時間値が180mg/dL以上、
負荷後2時間値が153mg/dL以上のいずれかを満たすとき、
というように規定されています。

この基準が現行日本においても適応されていて、
通常まず血糖値などを測定して、
上昇が疑われる場合には糖負荷試験が施行され、
上記の基準を満たせば「妊娠糖尿病」とするのが一般的です。

妊娠糖尿病になった女性は、
その後顕性の糖尿病になるリスクが、
通常より高くなることが知られています。

つまり、妊娠糖尿病は糖尿病の予備群として捉えることが出来るのです。

近年この糖尿病に移行するリスク以外に、
妊娠糖尿病自体が心筋梗塞や脳卒中、
女性に多く深部静脈血栓症などのリスクになるのではないか、
という疫学データが報告されて注目を集めています。

そして、妊娠糖尿病の患者さんの予後改善のために、
現行の妊娠24週以降での検査ではなく、
より妊娠早期に検査を行い、
治療や管理を開始するべきではないのか、
という考え方が強くなって来ました。

そこで今回の研究では、
オーストラリア、オーストリア、スウェーデン、インドの、
複数の専門施設において、
4から19週6日までの妊娠週数において、
早期の糖負荷試験で妊娠糖尿病の有無を診断し、
妊娠糖尿病と診断された802名の妊娠女性を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は血糖改善のための指導や管理を積極的に行い、
もう一方は24から28週という通常のタイミングで、
もう一度糖負荷検査を施行し、
それまでは主治医には早期の結果は伏せておいて、
未治療で観察します。

その結果、
妊娠20週より前の段階で治療的な介入を行うと、
通常の24週以降の介入と比較して、
早産や巨大児、胎児死亡などを併せた胎児のリスクは、
18%(95%CI:0.68から0.98)有意に改善していました。
その一方で高血圧などの母体のリスクについては、
早期の介入でも通常の介入でも、
有意な差は認められませんでした。

今回のデータをどう考えるかは今後の検証が必要ですが、
少なくとも特定のリスクの高い妊娠女性においては、
現行より早期の妊娠糖尿病の診断が、
検討される可能性が高そうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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