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心筋梗塞後のβブロッカーの中断とそのリスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
βブロッカーの中断リスク.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年8月30日付で掲載された、
βブロッカーの心筋梗塞後の中止の影響についての論文です。

βブロッカーというのは、
交感神経作用の1つであるβ受容体を介した働きを、
抑制する作用のある薬です。
商品名ではインデラル、ミケラン、テノーミン、メインテートなどが、
その代表的薬剤です。

交感神経のβ作用を抑制することにより、
脈拍は低下し、血圧も低下して、心臓への負荷が軽減されます。
このため、βブロッカーは労作性狭心症や心不全、高血圧の治療薬として、
その有効性が確認されています。
その一方でβ作用により気管支は拡張するので、
βブロッカーの使用により、
喘息は悪化するリスクがあるのです。

心臓を栄養する血管が閉塞する、
急性心筋梗塞の際には、
βブロッカーを使用することで、
その後の死亡リスクを20%以上低下させる、
というデータがあり、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7038157/
急性心筋梗塞後にβブロッカーを使用することが、
ガイドラインにおいても推奨されて来ました。

ただ、これは心臓のカテーテル治療などが進歩する前のデータで、
現在でも当て嵌まるとは限りません。
特に心不全や心機能の低下が顕著ではないケースでは、
βブロッカーの必要性は高くないのではないか、
という意見も見られるようになって来ています。

2024年の4月にNew England…誌に掲載された論文では、
スウェーデン、エストニア、ニュージーランドの複数施設において、
急性心筋梗塞でカテーテル治療を施行した患者さんのうち、
心機能の指標である駆出率が50%以上と、
明確な心不全のない5020名の患者を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーを使用し、
もう一方は未使用として、
中間値で3.5年の経過観察を施行しています。
偽薬などは用いない試験デザインとなっています。

その結果、
患者の死亡や心筋梗塞の再発などのリスクには、
両群で明確な差は認められませんでした。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2401479

つまり、心不全のない急性心筋梗塞の患者さんでは、
βブロッカーの使用はあまり有効性はない、
ということを示唆する結果です。

今回の研究はフランスの複数施設において、
急性心筋梗塞後に長期間βブロッカーを使用している患者さんで、
心機能の指標である駆出率が40%以上に保たれている、
トータル3698名の患者さんをくじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーの使用を中止し、
もう一方はそのまま継続して、
中間値で3年の経過観察を施行しています。
登録の時点でβブロッカー使用期間の中間値は2.9年です。

その結果、
死亡と心筋梗塞や脳卒中の発症、心血管疾患による入院を併せたリスクは、
中断群の23.8%、継続群の21.1%に発症していて、
この差はデータの解析基準上、
有意な差ではないと判断されました。

つまり、安定した状態にある心筋梗塞後の患者さんで、
βブロッカーを長期継続後に中止しても、
患者さんの予後に大きな影響はない、
という結果です。

今後こうしたデータを元にして、
心筋梗塞後で一定の心機能が保たれている患者さんにおける、
βブロッカーの使用は、
かなり限定されたものになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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深夜の部屋の明るさと2型糖尿病リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
夜の明るさと糖尿病リスク.jpg
the Lancet Regional Health-Europe誌に、
2024年6月5日付で掲載された、
深夜の部屋の明るさと糖尿病リスクとの関連についての論文です。

昼に起きて夜に寝るという日内リズムが崩れると、
身体の代謝状態が乱れて、
それが2型糖尿病のリスクになると想定されています。
夜中にずっと起きていることは勿論ですが、
たとえば夜に照明を点けたままで寝ていたり、
テレビなどを点けたままで寝ていると、
それだけでもホルモンなどの日内変動に、
影響を与えると考えられています。

たとえば寝ている間部屋の明かりを点けておくと、
翌日のインスリン抵抗性が悪化した、
という研究結果などが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35286195/

ただ、実際に夜中の時間帯の光の曝露量自体が、
どの程度その後の2型糖尿病のリスクに繋がるのか、
というような点については、
実証的なデータは不足しています。

そこで今回の研究では、
イギリスの大規模な医療データである、
UKバイオバンクの住民データを活用して、
84790名の一般住民に1週間ウェアラブルの端末を装着して、
その個人の光の曝露量を計測。
その後7.9±1.2年の経過観察期間における、
2型糖尿病の発症との関連を検証しています。

その結果、
午前0時30分から午前6時という、
深夜から早朝の時間帯に、
暗い部屋で寝ていた場合と比較して、
48ルクス(街灯くらい)を超えるくらいの光曝露があると、
その後の2型糖尿病のリスクが、
53%(95%CI:1.32から1.77)有意に増加していました。

つまり、深夜に少し明るい中で寝ているだけでも、
それが続けば糖尿病のリスクになるという結果です。

夜は暗い部屋で寝ることが、
糖尿病の予防においても、
重要な生活習慣の1つであるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SGLT2阻害剤の認知症予防効果(2024年韓国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤の認知症予防効果.jpg
British Medical Journal誌に、
2024年8月28日付で掲載された、
経口糖尿病治療薬の認知症予防効果についての論文です。

2型糖尿病は認知症のリスクであることが知られていますが、
その治療に使われる薬剤によって、
そのリスクに差があるかどうかについては、
まだ明確なことが分かっていません。

最近の知見では、
尿に糖を排泄するSGLT2阻害剤というタイプの薬剤の使用が、
認知症のリスクの低減に働いているのでは、
という報告が幾つか見られます。

たとえば2023年に発表されたカナダの疫学データでは、
66歳以上の2型糖尿病の患者さんで、
SGLT2阻害剤を使用すると、
他のメカニズムの糖尿病治療薬である、
DPP4阻害剤を使用した場合と比較して、
その後の認知症のリスクが、
トータルで20%低下した、
という結果が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36508692/

それではより若い年齢で使用した場合にも、
同様の影響は認められるのでしょうか?

今回の研究は韓国において、
年齢が40から69歳でSGLT2阻害剤を開始した、
110885名の2型糖尿病の患者を、
年齢などをマッチさせた、
DPP4阻害剤を開始した同数の患者と比較して、
認知症の発症リスクを検証しています。

その結果、
平均で670日の観察期間において、
DPP4阻害剤を使用した患者と比較して、
SGLT2阻害剤を使用している患者は、
トータルな認知症のリスクが、
35%(95%CI:0.58から0.73)有意に低下していました。
このリスクの低下は、
治療期間が2年を超えるとより強く認められましたが、
認知症のタイプによらず認められました。

それでは、何故SGLT2阻害剤には、
認知症の予防効果があるのでしょうか?

現時点では正確なメカニズムは不明ですが、
幾つかの研究により、
このタイプの薬剤に、
脳神経細胞を保護するような効果のあることが、
報告されています。

今後より精度の高い方法で、
今回の結果は検証される必要がありますが、
最近臓器保護において多くのデータが報告されている、
SGLT2阻害剤において、
認知症予防においても肯定的なデータが蓄積されていて、
今後このタイプの薬の評価は、
より高まることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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月刊「根本宗子」第19号 『共闘者』 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
共闘者.jpg
根本宗子さんの新作公演が、
本日まで東京FMホールで上演されています。

これは女性のみの5人芝居で、
根本宗子さんも俳優で出演し、
ヒロインに前田敦子さん、
何かと話題のAマッソのお二人、
そしてお馴染みの長井短さんの5人です。

この5人が高校の演劇部の仲間を演じ、
絶対的ヒロインであった前田敦子さん演じる少女が、
根本宗子さん演じる同級生に、
最後まで明かされることはないある秘密を告げて、
それをきっかけに逃げるように姿を消し、
その後波乱万丈の人生を送って、
5人が再開するまでの物語です。

これはもう間違いのないネモシューの世界、
これまでにも何度も綴られて来た、
女性同士の誤解と友情と愛の物語を、
王道のストーリーと小劇場的演出、
そして鉄壁のキャストで描きます。

キャスティングのあざとさ、
野田秀樹や松たか子などの虚実ないまぜのアイテム、
あまりにも強い「演劇愛」と、
自分の人生を作家として肯定したニュアンス、
最後の無理矢理の時間戻しの力業まで、
これぞ今のネモシューというエネルギーが、
最初から最後までくどいくらいに漲る2時間余は、
根本さんが自分の全てをさらけ出したような、
潔さに満ちた世界でした。

キャストは抜群で、
根本さんの小劇場座長芝居、
前田さんの圧倒的ヒロイン感、
Aマッソのお二人が予想以上に達者なところを見せ、
長井短さんは、
映像のお仕事も多く経験して、
驚くほど上手い役者になっていました。

これ多分同じ時期に上演している、
「朝日のような夕日をつれて」を、
ちょっと意識していると思うのですね。
どちらも同性のみの5人芝居で、
ノンストップで小劇場的を遊びまくり、
1人のヒロインを救うため、
永遠の一瞬に回帰するというお話でしょ。

いずれにしても最近の根本さんのお芝居の中では、
間違いなく突出した出来栄えで、
ある意味根本さんの現時点での集大成と言っても、
過言ではない作品だったと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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高齢者の慢性腎臓病における蛋白制限の影響(2024年スウェーデンの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日なので休診ですが、
終日事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
蛋白摂取量と腎障害の予後.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年8月7日付で掲載された、
高齢者の慢性腎臓病(CKD)における、
蛋白制限の必要性についての論文です

CKDという言葉が、
一般向けの書籍や報道などでも、
使用される機会が最近増えています。

CKDはChronic Kidney Diseaseの略で、
要するに慢性腎臓病という意味合いです。

腎臓という臓器はソラマメのような形をして、
背中に近い位置に2つあり、
その主な働きは、
身体に不要な物質や老廃物を、
おしっことして体外に排泄すると共に、
身体の水分や電解質などの量を、
適切に調節することにあります。

この腎臓の働きは、
他の臓器と同じように、
年齢や、高血圧・糖尿病など他の病気の影響で、
次第に低下してゆきます。

この働きが高度に低下した状態が腎不全で、
こうなると身体は老廃物を排泄することが出来ないので、
そのままでは死に至ります。
そして、高度に進行した腎不全において、
死を回避する方法は、
腎移植を除けば、
透析により人工的に老廃物を除去するしかありません。

しかし、
透析の治療は患者さんにも大きな負担になりますし、
社会生活も大きく制限を受けると共に、
高額な医療費が掛かるために、
医療経済的にも大きな問題となっています。

特に日本においては、
超高齢化社会が目の前に迫っていて、
透析が必要となるような、
高度の腎不全の患者さんも急増が予想され、
社会保障制度の存続のためにも、
大きな問題の1つになることは避けられません。

CKDという概念自体はアメリカで始まったものですが、
より早期の段階で腎臓病の管理を行なうことにより、
透析が必要となるような患者さんの数を減らし、
医療費の削減を期待しようという考え方は、
現在の日本ではよりその意義が大きく、
事態はより切迫しているように思います。

こうした背景があるので、
報道などでもCKDの話題が、
しばしば取り上げられるようになりましたし、
僕のような末端の医者に対しても、
CKDを見落とさずに適切な管理を行ない、
一定以上進行した場合には、
速やかに専門医へ患者さんを取り次ぐように、
という指導が行われているのです。

CKDの概念は比較的シンプルです。

腎機能の低下は、
GFR(糸球体濾過量)という数値で表現され、
その数値が平均の体表面積当たり、
60ml/min という数値を切った状態が、
3ヶ月以上持続する場合に、
CKDがあると判断されます。

もう1つの要素はおしっこの所見で、
おしっこにアルブミンという蛋白が検出される状態が、
これも3ヶ月以上持続すれば、
GFRが60を超えていても、
CKDがあると診断されるのです。

CKDはその進行度によって、
1~5までのステージに分かれ、
概ねGFRの数値によって区分けされます。

1は90以上で、
2は60~89まで、
3は30~59で、
4は15~29、
そして5は腎不全でGFRは15未満となっています。

GFRは推算GFRとして、
血液のクレアチニンという数値から、
年齢と男女差のみから算定されます。

たとえば、
55歳の男性で血液のクレアチニンが1.5mg/dl の場合、
概算でeGFRは36.0ml/minとなり、
これは進行度ではCKDのステージ3になる、
という訳です。

こうした指標を導入する意味は、
ステージ3以下の進行度が比較的軽い状態で、
CKDを診断し、
その後の進行を遅らせて、
透析になるような事態を回避する方策を取る、
というところにあります。

それでは、
どのようにして腎機能の低下を遅らせることが出来るのでしょうか?

栄養指導で指摘されることが多いのが蛋白制限です。
蛋白質は勿論身体にとって必須な栄養素ですが、
腎機能が低下した状態で食事の蛋白質が多いと、
それが腎機能の低下に、
拍車をかける可能性が指摘されているからです。

そのため現行の海外のガイドラインでは、
ステージ1から2のCKDでは、
体重1キロ当たり1.3グラムを超える高蛋白食を避け、
ステージ3以上のCKDでは、
体重1キロ当たり0.6から0.8グラムに蛋白質を制限する、
というように記載をされています。
日本のガイドラインでも、
細部は異なる点はありますが、
ほぼ同一の方針が示されています。

しかし…

これが高齢者の慢性腎臓病においても、
同じように当て嵌まるものかどうか、
という点については、
議論があるところです。

高齢者は筋肉量が減少することによって、
体力の低下や転倒リスクの増加などが指摘されていて、
そのため体重当たり1から1.2グラムくらいの蛋白質の摂取を、
維持することが重要であると考えられているからです。

高齢者のCKDにおいて、
蛋白制限は必要なのでしょうか、
それとも必要ないのでしょうか?

今回の研究では、スウェーデンにおいて、
高齢者の健康についての3つの疫学研究のデータを、
まとめて解析する手法で、
生命予後に与える蛋白制限の影響を検証しています。

対象は登録時点で60歳以上の一般住民14399名で、
そのうちの4739名はCKDと診断されています。
最長10年の観察期間において、
1468名が死亡されています。
CKDでステージ4以上の患者さんは除外されているので、
対象となっているのは、
ステージ1から3の、
軽症から中等症の患者さんです。

ここで体重1キロ当たり0.8グラムという蛋白制限と比較して、
1.0グラムの通常蛋白群では、
総死亡リスクは12%(95%CI:0.79から0.98)、
1.2グラムの軽度高蛋白群では、
総死亡リスクは21%(95%CI;0.66から0.95)、
1.4グラムという高蛋白群では、
総死亡リスクは27%(95%CI:0.57から0.92)、
それぞれ有意に低下していました。

つまり、蛋白摂取量が多いほど、
総死亡のリスクは低下していたという結果です。

蛋白制限の生命予後改善効果は、
CKDのない人でより強く認められていて、
蛋白の組成では、
動物由来蛋白より、
豆類などの植物由来蛋白質の摂取で、
より強く認められる傾向がありました。

つまり、高齢者においては、
高蛋白食が生命予後の改善に繋がる可能性が高く、
確かに腎機能低下においては、
その効果は減弱はするものの、
CKDステージ1から3の状態であれば、
体重1.2グラム程度の高蛋白食は健康上のリスクにはならない、
蛋白の組成は植物性蛋白主体であればより望ましい、
という結果です。

今回のデータは生命予後のみを対象としたもので、
腎機能低下の抑止という観点からは、
また別の結果が出る可能性がありますが、
いずれにしても高齢者の腎機能低下時の蛋白制限については、
今後ガイドラインを含めて変更される可能性がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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