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変異株検査の不透明さを憤る [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

今日は最近驚いて憤ったことを話します。

クリニックでは発熱外来を行なっていて、
RT-PCR検査については大手の検査会社に検査を依頼しています。

以前も話題にしたように、
最初は結果が出るのに2日以上掛かり、
もっと早く結果を出して欲しいと言うと、
PCRの検査機器を変えることにより、
より迅速に結果を出すことが可能だと言われました。

精度に問題はないのかと聞くと、
それについては問題はない、という話だったので、
それなら早く結果の出る機器で検査をして欲しい、
という話をして、
そうした対応が取られることになりました。

ただ、実際にはそれほど結果が早く出るようになった訳ではありません。
翌日には結果のファックスが届くようになりましたが、
それは検査機器にはよらなかったようです。
2021年の3月以降は、
検査翌日の午後2時くらいに結果が届くようになったのですが、
それはどうやら検体数が少なかったからのようで、
検体数が多かったり検査でトラブルがあると、
翌日の夜になってしまうようなこともありました。

最近問題になっているのは勿論変異株です。

当初は一部の研究施設や大学病院、
感染症研究所でしか検査が出来なかったので、
検査会社から検体提出の指示があり、
それを感染症研究所に持ち込んで、
遺伝子解析が行われる、
というような段取りであったようです。

それが最近になって、
多くの検査会社でも、
おそらく多くはN501Yのみの検出だと思うのですが、
検査が可能になり、
陽性の事例においては、
全例で変異株の検査も同時に行われるようになりました。

その話を聞いたので、
数日前にクリニックで契約している大手の検査会社の、
営業担当の方に質問をしました。

変異株の検査はしているのですか、と聞くと、
疫学調査として感染症研究所から依頼があり、
自社で検査を行なっている、という答えでした。
陽性者は最近も複数出ているのですが、
変異株かどうかという点については、
一度も検査会社から連絡が来たことはありませんし、
それが結果報告書に記載されていた、
ということもありません。
それで、
「うちの出した検査でも変異株が検出されたことはあるのですか?」
と聞くと、
クリニックの検査を行なっている機器は、
変異株の検査に対応していないので、
今のところ検査はしていません、
という驚くような答えが返って来ました。

つまり、
その検査会社では2つの機器を用いてRT-PCR検査をしていて、
その一方は簡単に対応出来るので、
もう全例で変異株の検査をしているけれど、
クリニックが早く結果が出て精度は変わらない、
という触れ込みで選択した機器については、
対応が難しいので一切検査はしていない、
ということなのです。

仮にそうであるとしたら、
同じように検査をしているにも関わらず、
ある患者さんでは変異株の検査がされ、
別の患者さんでは、
他の条件は全く同じであるにも関わらず、
変異株の検査はされない、ということになります。

そんな不公平があって良いのでしょうか?

そもそも採用している機器の1つでは、
変異株の検査が出来ないのであれば、
それが分かった時点で、
こちらに説明するべきではないでしょうか?
「今使っている機器では変異株の検査が出来ないので、
どうしますか?」
という説明が当然あってしかるべきではないでしょうか?

しかし、実際にはそんな説明は何もなく、
何1つ事前には知らされてはいないのです。

理不尽なことはこれだけではありません。

今後は変異株の検査をして、
その結果を教えてくれますか、と検査会社に聞くと、
「直接医療機関に通知することは認められていません」
という返事です。

クリニックが依頼して行った検査です。
RT-PCR検査をして陽性であったので、
それで付随して行う検査が変異株の検査である筈です。

にもかかわらず、
その結果は依頼した医療機関に直接伝えてはいけない、
と言うのです。

一体誰が何の権限があってそんな決まりを作っているのでしょうか?

それは国立感染症研究所の指示だ、
という答えでした。

これは伝聞ですので正確ではないかも知れませんが、
少なくとも検査会社の担当者と、
別の検査会社の担当者も同じ答えでした。

感染症研究所の指示により、
検査会社は陽性の検体に対して、
変異株の検査を追加で行なっているのですが、
その結果は直接医療機関に伝えることはせず、
感染症研究所にのみ連絡せよ、
という指示なのです。
感染症研究所はその結果を取りまとめて、
今度は市町村や保健所に結果を流しているのです。
保健所で変異株として処理された後、
今度は保健所から医療機関に通知される、
という段取りであるようです。

これはね、
まだ疫学研究の段階であったり、
抽出して調査をしている、
という段階であれば理解は出来るのですね。

ただ、理解はしても納得は出来ないですね。

あまりに医療機関を馬鹿にしているでしょ。

患者さんの検査に関わる情報というのは、
第一に主治医に報告されるべき事項でしょ。
それを「するな」と言っているんですね。

それはあまりにひどいのじゃないかしら。

しかもね、今は疫学調査の段階ではないでしょ。
もう変異株がまん延していて、
その対策が行われている状況ですよね。
変異株かそうでないかで、
臨床上の対応も変わる事態ですよね。

クリニックがお願いしている検査会社は、
大手の行政検査受託機関であるにもかかわらず、
一部の検査機器でしか変異株の検査はせず、
そのことも聞かれないと教えてもくれない、
という論外の対応ですが、
多くのまっとうな検査会社は、
陽性検体の多くで、
変異株の検査もしているのが実際なんですね。

その今日に至ってなお、
検査結果はすぐには主治医に教えるな、
という対応はこれはあまりにひどいのではないでしょうか?
人外の仕業とでも言うべき蛮行ではないかしら。

まとめるとこういうことです。

皆さんは変異株の検査というものが、
系統的に行われていると思われるかも知れませんが、
実際にはそんなことはなくて、
検査機関によって、
かなり恣意的に検査がされたり、
されなかったりしているのです。
実際に検査がされているのは一部の検体に過ぎないのですが、
検査がされないと「通常株」と同じ対応がされ、
それを誰も疑いません。
そんな状態ですから、
変異株の患者を隔離するとかしないとか、
真面目に議論をする先生がいますが、
それはもうナンセンスの極みなのです。

行政検査をしている検査会社に限れば、
もう全例で変異株の検査は出来る体制なんですよ。
だからそれを義務づければいいのに、
現状はそうしていないんですね。
だから、利潤追求の民間の会社は、
全例での検査はしていないのです。
恣意的な対応を許している現状では、
変異株の広がりの実態など分からないのです。

また、医療機関で検査をすれば、
変異の情報は医療機関に伝えられるのかと言うと、
そうではなくて、
感染症研究所がその情報は一手に握っていて、
医療機関にすぐに情報を流すことを禁じているのです。

末端の医療機関もね、
非力なことは承知の上で、
精一杯頑張っているのですよ。
それでこの仕打ちはないのじゃないかなあ。

今日は少し落ち着いていますが、
昨日はかなり自暴自棄になってしまいました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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吸入ステロイドの新型コロナウイルス感染症初期治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ブデソニドの新型コロナに対する効果.jpg
Lancet Respiratory Medicine誌に、
2021年4月9日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
吸入ステロイドによる初期治療の有効性についての論文です。

吸入ステロイドが、
新型コロナウイルス感染症の重症化予防に、
有効なのではないかという知見は、
日本では第1波の流行初期の時点からあり、
臨床的には実際に試みられて、
一般向けのニュースにさえなっていました。

それはシクレソニド(商品名オルベスコ)という、
ややマイナーな吸入ステロイドについての知見でした。

オルベスコを使用することにより、
新型コロナウイルス感染症の予後が劇的に改善し、
それはオルベスコに特異的な、
抗ウイルス作用によるらしい、という情報でした。

ただ、他の吸入ステロイドでは効果がなく、
オルベスコのみが有効というのは、
あまり説得力のない見解で、
その抗ウイルス作用は国立感染症研究所で行われた、
基礎研究のデータによるという説明でしたが、
その時点でそうしたデータは公開されていなかったので
(その後確かにデータは論文化されましたが、
あまり話題にする人はいませんでした)、
その話を信用した方が良いのか悪いのか、
迷うような思いもありました。

吸入ステロイドは気道の炎症を抑え、
喘息発作などの急性増悪を予防する効果があるので、
新型コロナウイルス感染症に伴う、
急激な呼吸器症状の悪化を、
予防するのではないか、という期待があります。

その一方でステロイドは免疫を抑制しますから、
感染症や肺炎はむしろ増悪するというリスクも否定は出来ません。

その後オルベスコの有効性は、
あまり声高に言う人がいなくなり、
国立国際医療センターで少数例での臨床試験が行われて、
オルベスコを使用した方が肺炎の発症が多かった、
という結果であったので、
「オルベスコは無効」と報道され、
日本でのオルベスコによる新型コロナ治療は、
一気にしぼんでしまいました。

この顛末はどうも不可解なところが多いのです。

それほどの根拠がないのに、
まるで特効薬のように扱われ、
臨床でも積極的に使用されたのも強引で不思議ですし、
その一方でオルベスコが無効とされた臨床試験も、
とても精度の高いものとは思えず、
オルベスコを完全否定する根拠としては脆弱なのに、
それで使用が打ち切りになったのも不思議です。

それはともかく、
吸入ステロイドによる新型コロナウイルス感染症治療は、
日本では消えうせた一方で、
海外ではそれなりに注目を集めるようになってきています。

上記文献のロジックでは、
まず喘息やCOPDの患者さんで、
意外に新型コロナウイルス感染症の重症事例が少ない、
という知見が紹介され、
その原因として吸入ステロイドの存在がクローズアップされた、
という流れになっています。
そこでは国立感染症研究所の、
オルベスコが新型コロナウイルスの増殖を抑制した、
という基礎実験の論文も引用されています。

日本での当時の主張は、
オルベスコのみが有効だ、
というやや奇怪にも感じるものでしたが、
海外での論調は、
特定の薬剤ということではなく、
吸入ステロイド自体に有効性があるのでは、
という主張で、
こちらの方が理に適っているという気がします。

今回の臨床試験はイギリスにおいて、
新型コロナウイルス感染症と診断された軽症の患者さんのみを、
くじ引きで2つの群に分け、
症状出現から7日以内に、
一方は通常の治療のみを行ない、
もう一方は吸入ステロイドで、
世界的には最も評価の高いブデソニド(商品名パルミコート)を、
1日3200μg(日本の上限用量の倍)という高用量吸入して、
症状改善まで持続します。
偽薬は使用しない試験です。
146名の患者が登録され、
73名ずつがブデソニド群とコントロール群に振り分けられています。

その結果、
病状の重症化はブデソニド群の3%と、
コントロール群の15%に認められ(intension to treat解析)、
ブデソニドの吸入により、
患者8人の使用で新型コロナウイルス感染症の重症化を1人予防可能、
という有効性が認められました。
またブデソニドの使用は症状回復までの期間を1日短縮し、
有熱期間も短縮することが示されました。

このように、
今回の検証ではかなり明確に、
高用量の吸入ステロイドを病初期に使用することにより、
重症化の予防と早期治癒の促進が認められていて、
病初期に使用するような薬剤で、
これまでに明確な効果の示されたものはなかったですから、
かなり画期的な知見であると言って良いと思います。

ただ、こうした研究としては例数は少なく、
偽薬が使用されていないなど、
試験のデザインにも甘い部分があります。

今後のより厳密な検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症の現在(2021年4月14日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は新型コロナウイルス感染症の、
クリニック周辺での状況です。

2021年の2月と3月は、
クリニックの発熱外来のRT-PCR検査でも、
殆ど陽性者はいない、という状態が続きましたが、
4月に入ってからは明らかに増加傾向が認められ、
毎日数名の陽性者がコンスタントに認められる、
という状況が続いています。

最近の傾向としては、
症状は咳込みが多く、
会食はおろか、仕事もリモートで、
買い物以外は殆ど家から出ない、
というような人でも、
感染が確認される、
というようなケースが、
しばしば認められるようになっています。

市中感染が広がるようになると、
こうした状況になるのだなあと、
そんな思いもあるのですが、
もう症状からは全く普通の風邪と新型コロナの見分けは付かない、
というのが臨床医としての実感です。

感染者はまた増えていますが、
保健所の体制や対応は、
第1波から3波の時のような、
力の入ったものではなくなっています。

以前は本当に朝早くから夜遅くまで、
連絡をすれば発生届は受け取ってくれて、
相談にも乗ってくれたのですね。

それが数日前にショックを受けたのですが、
午前8時前に患者さんに陽性の連絡をして、
それから午前8時10分にいつも連絡している電話に、
発生の連絡を入れたのですが、
電話に出たのが担当の課長さんで、
開口一番、
「まだ就業時間前です」と一方的に宣言されると、
こちらの事情も聴かずに、
向こうから電話を切ってしまわれました。

こんな対応は初めてであったので、
医療現場と保健所の温度差というのか、
トップがそのような事務的な対応で、
他人の話に聞く耳を持たないという態度に、
とてもショックを受けて力が抜けました。

勿論就業時間以降でもう一度連絡を入れて、
詳細を説明しました。
その時は部下の方が電話に出たので、
とても真摯な対応でした。

なんだかなあ、という感じです。

それからこんなこともありました。

先日濃厚接触者に認定された、
という男性が受診をされて、
お話しを聞くと特に症状はなく、
感染者に接触したのは2日前というお話しであったので、
RT-PCR検査をするのであれば、
接触から5から7日目くらいが最も適切で、
今慌てて検査をするよりも、
数日待って検査をした方がいい、
という話を結構念を入れてしました。

その時は分かって頂いたと思ったのです。
それで、3日後に検査の予約をしてお帰り頂いたのですが、
それから1時間もしないうちに電話があって、
「ともかく今日検査をさせろ」
と矢の催促です。
「それでは感染しているかどうか、本当の意味では分かりませんよ」
ともう一度そう説明しましたが、
聞き入れることもなく、
その日結局検査をすることになりました。
結果は陰性で、
本人は「そうか、そうか」と大喜びです。
「まだ分かりませんよ」というお話しはしましたが、
内心はもう、
検査が陰性だから感染していない、
と思い込んでいることは明らかで、
無力感を覚えつつその日の仕事を終えました。

こうしたことを沢山経験すると、
人間は結局信じたいことしか信じず、
自分が結論を決めている時には、
何を言っても無駄な生き物なのだ、
という考えに至るので、
勿論仕事ですから説明はするのですが、
無益な説得はしないようにしています。

ワクチンはようやく5月中旬から、
僕達のような末端の医療者の接種が開始されることが決まりました。
同時期から高齢者の集団接種も始まり、
その手伝いにも行く予定です。

全てが遅々として進みませんが、
まあこんな社会で物事が早く進む筈もありませんよね。

あせらず、出来ることを積み重ねるしかないのだと、
半ば達観しつつ日々を送っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アストラゼネカ社新型コロナワクチン接種後の血栓性血小板減少症 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アストラゼネカ社ワクチンによる誘発される血栓症の特徴.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年4月9日ウェブ掲載された、
アストラゼネカ社などによる、
新型コロナウイルスワクチンによる、
稀な血栓症のメカニズムを検証した論文です。

アストラゼネカ社とオックスフォード大などによる、
共同開発の新型コロナウイルスワクチン(ChAdOx1)は、
今日本で正式採用されているファイザー社のワクチンとは異なる製法の、
ウイルスベクターワクチンです。

このワクチンは主にヨーロッパで広く接種が行われていますが、
そこで最近問題となっているのが、
接種後に血栓症を伴う血小板減少症の発症が、
報告されていることです。

これは頻度としては低いものなのですが、
他のワクチンでこれまであまり見られていない副反応であり、
そのメカニズムを含めて注目をされています。

偶発性のものではなく、
ほぼ間違いなくワクチンの成分か、
その作用が誘発したものと、
現時点で理解されています。

まず、上記文献にある典型的な事例をお示しします。

患者は持病のない49歳の医療従事者の女性で、
2021年2月中旬にドイツでアストラゼネカ社ワクチンの接種を受けています。
接種日を0日とした時、
1日以降で数日だるさや頭痛などの症状があるも改善。
しかし、5日より寒気と発熱、吐き気と腹部不快感が出現、
10日に病院を受診しました。
受診時に血小板が18000と著明に低下を認め、
血液の血栓症の指標であるDダイマーは、
35mg/L(正常0.5未満)とこちらは著明に上昇していました。

新型コロナウイルスのRT-PCR検査は陰性でした。

CT検査により肺血栓塞栓症と門脈塞栓症の所見を認め、
血栓性血小板減少症と診断されました。

臨床症状はこの時点では、
胃のむかつき意外には特にありませんでした。

血栓症改善目的で、
抗凝固剤のヘパリンが投与されたところ、
その後数日で急激に病状が悪化。
広範な消化管出血に腹水も伴い、
11日に脳静脈洞血栓症(剖検にて判明)で死亡となりました。

このケースは当初、
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)と思われました。

この病気はヘパリンという抗凝固剤使用時に起こる、
稀な合併症とされているものです。

ヘパリンは抗凝固剤で、
通常は血栓症などの時にその改善のために使用される薬ですが、
稀にその使用により、
逆に血小板が活性化されて、
血小板が減少するとともに全身の血栓塞栓症が起こる、
という病態があることが報告されています。

これがヘパリン起因性血小板減少症です。

治療をしたら、逆効果で、
却って病状が悪化するというのですから、
臨床医にとっては非常に怖い病態です。

何故こうした現象が起こるのかと言うと、
投与されたヘパリンが血小板第4因子という、
血小板機能の活性に関わる物質に結合し、
それに対する抗体(HIT抗体)が産生されることによって、
血小板の高度の活性化が起こり、
血小板の減少と血栓塞栓症が生じると考えられています。

一種の自己抗体が作られる訳ですが、
何故そうしたことが稀に起こるのか、
と言う点については明確には分かっていません。

上記の事例の患者さんは、
経過としてはヘパリンで悪化して血栓症を来しているので、
その後半の部分だけを見ると、
間違いなくヘパリン起因性血小板減少症と思われます。

しかし、この患者さんはそれまでにヘパリンの使用歴はなく、
血小板減少や血栓症自体は、
ヘパリンの投与前から起こっている、
という点が根本的に違います。

ヘパリンがこの病状を悪化させていることは確かですが、
ヘパリン以外にこの病態を生じさせたものがある筈です。

そこで容疑者として浮かび上がるのが、
新型コロナワクチンの接種です。
接種後5日目から病状が悪化しているという経過は、
ヘパリン使用による悪化と、
ほぼ同じ期間をおいて発症しているという点では、
同様の自己抗体を介したメカニズムが関与しているように思われます。

たとえば、
ワクチンに含まれる何らかの成分が、
ヘパリンと同じように血小板第4因子と結合して、
血小板を活性化させたのでは、
という可能性です。

ドイツ国内の検証では、
トータルで11名の同様の患者がリストアップされました。
いずれも同じアストラゼネカのワクチン接種後に、
血栓性血小板減少症を来しています。

そのうちの9人は女性で年齢の中央値は36歳です。
症状はワクチン接種後5から16日の間に発症していて、
1例の脳内出血で死亡した事例を除いては、
複数の血栓塞栓症を併発しています。
脳静脈洞血栓症が9件、腹部静脈血栓症が3件、
肺血栓塞栓症が3件、その他の血栓症が4件となっていました。
11名中6名は死亡しています。

11名全てがヘパリン使用の既往はありませんでした。

11名のうち検査が可能であった9名において、
HIT抗体は陽性で、
血小板第4因子の投与により、
血小板機能が亢進し、
血小板が凝集することも確認されました。
これはいずれもヘパリン起因性血小板減少症に、
一致する所見です。
その一方でこの血小板の活性化は、
高用量のヘパリン投与により阻害されていて、
充分量のヘパリンは決して病態に対して、
悪い影響は及ぼさないという点が異なっています。

以上のように、
この稀な新型コロナワクチンの副反応は、
ヘパリン起因性血小板減少症に、
非常に似通った経過を取り、
血小板第4因子がその病態に関わっていることは、
間違いがありません。

それがワクチンのどのような成分や、
どのような機能と関連しているのかは、
まだ今の時点では推測の域を出ませんが、
今後の検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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降圧治療と海馬容積との関連(SPRINT試験サブ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
降圧治療と海馬の縮小.jpg
JAMA Neurology誌に、
2021年3月8日ウェブ掲載された、
強力な降圧治療が脳に与える影響についての論文です。

有名なSPRINTと呼ばれるアメリカの臨床試験があります。

これはアメリカの102の専門施設において、
収縮期血圧が130mmHg以上で、
年齢は50歳以上。
慢性腎障害や心血管疾患の既往、
年齢が75歳以上など、
今後の心血管疾患のリスクが高いと想定される、
トータル9361名の患者さんを登録し、
くじ引きで2群に分けると、
一方は収縮期血圧を140未満にすることを目標とし、
もう一方は120未満にすることを目標として、
数年間の経過観察を行ない、
その間の心筋梗塞などの急性冠症候群、
脳卒中、心不全、心血管疾患のよる死亡のリスクを、
両群で比較するというものです。

平均観察期間は5年間とされていました。
しかし、平均観察期間3.26年の時点で終了となりました。
これは開始後1年の時点で、
既に統計的に明確な差が現れ、
かつ血圧を強く低下させることにより、
腎機能の低下にも明確な差が現れたことで、
それ以上の継続の意義がない、
と考えられたからです。

その結果は当初の予想を上回るものでした。

収縮期血圧120未満を目標とした、
強化コントロール群は、
140未満を目標とする通常コントロール群と比較して、
トータルな心血管疾患とそれによる死亡のリスクが、
25%有意に低下していたのです。
(Hazard Ratio 0.75 : 95%CI 0.64-0.89)

このSPRINT試験の延長として、
より厳密な降圧治療の認知症予防効果が検証されました。

SPRINT試験の観察期間のみでは、
認知症の進行を見るには短すぎるので、
試験終了後も3年近いコホート研究としての観察期間を設定し、
トータルで6年近い経過観察を設定したのです。

その結果、
観察期間中に認知症と診断されるリスクは、
通常降圧群と比較して厳格降圧群では、
17%低下する傾向を示したものの有意ではありませんでした。
(95%CI: 0.67から1.04)

ただ、軽度認知障害の発症リスクは、
厳格治療群で19%(95%CI: 0.69から0.95)、
軽度認知障害と認知症を併せたリスクも、
厳格治療群で15%(95%CI: 0.74から0.97)、
それぞれ有意に低下していました。

このように、
収縮血圧を120mmHg未満とすることを目標とする、
厳格な血圧コントロールは、
通常のコントロールと比較して、
心血管疾患のリスクを低下させることは間違いなく、
認知症のリスクも軽症の時点では低下させる可能性が高い、
という結論になります。

それでは仮に血圧の低下が認知症の進行を予防するとして、
それはどのようなメカニズムによるものなのでしょうか?

認知症の主体はアルツハイマー型認知症のような、
脳の変性に伴うもので、
脳梗塞などの血管の異常による認知症とは別物です。
ただ、心血管疾患を予防するような治療は、
アルツハイマー型認知症の予防にも有効、
というような知見は多くありますから、
満更両者が無関係、という訳ではありません。

今回の検証ではSRRINT試験の登録者のうち、
複数回のMRI検査を施行された673名を対象として、
降圧治療の違いによるMRI検査における認知症指標の違いを、
比較検証しています。

その結果、
他の認知症関連マーカーには、
通常の降圧治療と厳密な降圧治療との間で、
有意な差は認められませんでしたが、
記憶に関連の深い海馬容積は、
若干ながら厳密な降圧治療群で低下する傾向が認められました。

今回の結果は、
トータルには降圧治療による明確なMRI指標の変化は、
認められなかった、というものですが、
厳密な降圧治療により、
若干ながら海馬が萎縮していたという結果は、
興味深いもので、
今後認知症発症との関連を含めて、
より精密な検証の行われることを期待したいと思います。

海馬の萎縮を強調したような医療ニュースがありましたが、
上記論文の内容は基本的には有意な脳の変化は、
MRI上では見付からなかった、というもので、
臨床的には厳密な降圧治療の方が、
認知症予防にも良いというSPRINT試験の結論が、
変更されるような性質のものではないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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