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餅イレウスの事例 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
rice cake ileus 論文.jpg
2024年のClinical Case Reports誌に掲載された、
餅によって腸閉塞を来した事例の報告です。

正月の前後に救急受診の原因となる病気の1つが、
餅による窒息や腸閉塞です。

窒息は粘り気のある餅が咽喉に張り付いて、
呼吸が出来なくなってしまうことですが、
それに比べて比較的知られていない腸閉塞(イレウス)は、
噛まずに飲み込んだ餅が、
咽喉はそのまま通過したものの、
硬くなって腸に詰まってしまうことです。

この餅イレウスの報告は、
調べた範囲では日本での報告があるだけです。
上記文献はその中では新しいもので、
香川大学の研究者によるものです。

事例は2度お腹の手術の手術歴のある、
61歳の男性で、
餅の入ったお雑煮のような煮物を食べてから9時間後に、
吐き気を訴えて救急医療機関を受診しました。

腹痛は右上腹部で比較的軽度のもので、
診察上は明確なイレウス所見は認めませんでしたが、
レントゲン検査を施行したところ、
ニボーという典型的なイレウスの所見を認めました。

こちらをご覧ください。
イレウス画像.jpg
こちらは上記論文のものではありませんが、
クリニックで診断された同様のイレウスのレントゲン所見です。

診断のためCT検査を施行したところ、
餅イレウスに典型的な所見が見つかりました。
それがこちらです。(画像は上記論文よりの引用です)
rice cake ileus画像1.jpg
白い矢印の先の部分に、
白い4センチほどの長細い構造が見えます。
これが硬くなった餅で、
それにより腸の流れが悪くなって、
餅イレウスと呼ばれる状態が生じていたのです。

稀に手術の必要となる重症例もありますが、
殆どの餅イレウスは、
絶食と安静のみで改善します。
報告された事例も鼻からチューブを挿入し、
3日間絶食することにより改善しました。
一旦詰まった餅の塊も、
徐々に肛門の方への移動し、
便と一緒に排泄されることが多いようです。

これとは別個に2011年には長岡赤十字病院において、
2003年から2010年に経験した、
14例の餅イレウスをまとめた論文が掲載されていて、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22082884/
そのうちの10例は12月から1月に集中していました。
その全例が手術は要さず改善しています。

それでは今日のまとめです。

餅をあまり噛まずに丸飲みすることにより、
腸に一時的に詰まってイレウスの原因となることがあります。
特にお腹の手術をしている高齢者に多いので、
お餅は極力細かく切って、
ゆっくりと食べて頂くことが安全です。
お餅を食べてから数時間後に吐き気や腹痛が見られた時には、
この病気を疑って、CT検査の可能な医療機関を受診する必要があります。

これからの時期、
皆さんもご注意下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大腸癌検診の有効性比較(2024年アメリカの解析データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大腸がんスクリーニングの効果比較.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2024年10月29日付で掲載された、
大腸癌のスクリーニング法を比較検証した論文です。

大腸癌の多くは早期に発見されれば、
その治療の予後は良く、
そのため検診のメリットが大きな癌として知られています。

現行の大腸癌検診は、
問診と便の潜血反応と呼ばれる検査を基本として、
検査で異常が見つかったり、症状から病気を疑った場合には、
大腸内視鏡検査(含む直腸からS状結腸内視鏡)によって、
その診断を行うという方法が一般的です。

この方法は優れた検診法として、
その評価は確立していますが、
便潜血は痔など他の病気でも陽性になることがあり、
癌になる前の癌リスクの高いポリープなどでは、
陽性率は高くない、などの欠点があります。
また、便を採取することが煩わしいと考える人も多く、
検診の受診率が思ったほど上がらない、
という問題もあります。

また大腸内視鏡検査については、
強力に下剤を使わないといけない点、
稀ですが穿孔や出血などの合併症が生じることのある点、
ある程度の体力が必要とされる検査である点など、
必ずしも必要とされる人の全てが、
受けることの可能な検査ではない、
という欠点があります。

そのため、より精度の高い簡便なスクリーニング検査が、
求められているのです。

その候補として最近登場したのが、
便や血液で癌細胞由来の遺伝子を検出し、
それを便潜血検査の代わりに使用する、
という方法です。

代表的な方法の1つは癌細胞由来の遺伝子を、
血液で検出するという方法です。 

細胞の崩壊に伴って、
血液中に癌由来の遺伝子の断片が流出します。
これをcell free DNA(cfDNA)と呼んでいます。
このcfDNAを高感度の測定法によって検出するのです。

この検査は、
「Shield[レジスタードトレードマーク] 大腸がん ctDNA 検査」と呼ばれ、
アメリカのガーダントヘルス社の製品で、
日本では検査会社のBMLを介して販売されています。
基本採血のみの検査ですが、
検査は数十万円と高額で、
血液も40ミリリットルほど必要であるようです。
ちなみにアメリカでの定価は1495ドルです。

その後同様の商品が、
別のアメリカのバイオ企業Freenome社からも発売されています。

日本では市町村などの検診レベルでは、
こうした遺伝子検査は導入はされていませんが、
アメリカの健康保険組合は、
一定の基準を満たし、FDA(アメリカ食品医療品局)が認可した遺伝子検査を、
3年毎に行うことを大腸癌のスクリーニングとして認めています。
https://www.cms.gov/medicare-coverage-database/view/ncacal-decision-memo.aspx?proposed=N&NCAId=299
そしてFDAは、
2024年の7月に前述のシールド検査を、
正式に大腸癌スクリーニングとして認可しています。
https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfpma/pma.cfm?id=P230009
しかし、非常に高額なこの検査を導入することで、
検診を受ける人に実際にどの程度の効果があるのでしょうか?

今回の研究では、
これまでの臨床データをまとめて解析する手法で、
大腸内視鏡検査を10年毎に施行する方法と、
1から3年毎に便潜血検査を施行して、
異常があれば精密検査を施行する方法、
そして3年毎に血液の癌由来遺伝子検査を施行する方法の、
3種類の有効性を比較検証しています。

血液検査はシールド検査もしくはFreenome社の検査が対象となっています。
(本文には便の遺伝子検査も対象となっていますが、
複雑になるのでこの解説では割愛しています)

その結果3種類の方法のいずれもが、
検診を受けない場合と比較して、
大腸癌の罹患率も、大腸癌による死亡のリスクも、
低下させていることが確認されました。

検診にも活用されているシールドテストについては、
アメリカでは1495ドルのコストが掛かり、
健康寿命を1年延ばすために、
89600ドルが必要という試算になりました。
これは10万ドル以下であれば、
一定の経済的妥当性がある医療行為である、
とされていますから、
ギリギリそれを満たしている、という言い方が出来そうです。

ただ、これは3年毎に検査を施行するとしての試算ですが、
仮に便潜血検査や大腸内視鏡検査での検診を問題なく行っている人が、
3年毎の血液検査の検診に変更すると、
それにより大腸癌の死亡リスクは、
増加することになると推計されています。

これを回避するには、
血液検査の頻度を1から2年に1回に短縮する必要がありますが、
そうすると健康寿命を1年延ばすコストは、
10万ドルを優に超えますから、
この方法は経済的に見合わない、
という言い方が出来そうです。

大腸癌は遺伝子変異が積み重なって、
ある程度の時間を掛けて発症するものですから、
3年程度の間隔で遺伝子検査を施行して、
癌由来の遺伝子が検出されれば、
そのタイミングで大腸ファイバーを施行して癌を診断する、
という考え方は非常に理に適っているという気はします。

ただ、現状の血液検査を利用して、
そうした検診を行った場合、
実際には従来の検診より大腸癌による死亡は増え、
コストもより掛かるという結果が推計されています。

これはおそらく検査の精度の問題と、
その高額な費用の問題が影響していると考えられ、
安易に新しい検査に飛びつくのではなく、
その実態を良く検証した上で、
適切な検診の実施につなげる必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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自転車競技と骨粗鬆症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サイクリングの骨粗鬆症リスク.jpg
Medicine & Science in Sports & Exercise誌に、
2023年に発表された論文ですが、
サイクリングが骨密度に与える影響についての内容です。

骨粗鬆症の予防のためには、
運動が有効であると指摘されています。
ただ、これは体操やサッカーなどのスポーツについては、
良い効果があるとするデータがある一方で、
愛好家の多いサイクリングについては、
意外にも骨密度を低下させるリスクがある、
とする報告が多いのです。

今回の研究ではオランダにおいて、
自転車競技のロードレースに参加しているか参加していた、
93名の競技者の骨密度を計測して検証しています。

競技者をキャリアの浅い競技者と、
プロを含むベテランの競技者、
そして競技引退後の競技者に分けて検証。
男女の比較も行っています。
骨密度はZスコア<-1を骨密度低下と定義しています。

その結果、
腰椎の骨密度の低下は、
キャリアの浅い男性の競技者の27%、
ベテランの競技者の64%、
引退後の競技者の50%に認められました。
また女性の現役の競技者の45%においても、
同様の骨密度低下が認められました。

一般の人より運動を常時している筈のサイクリストの骨密度が、
何故一般の人より低いのでしょうか?

サイクリングは、
重力の負荷を受け難い、
非荷重性の運動です。
つまり、地面に足を踏ん張るような動きがないので、
骨密度保持のための運動としては、
適していない可能性があるのです。

勿論筋トレなどの荷重性の運動を組み合わせれば、
その欠点を補うことが出来るのですが、
往々にしてサイクリングの競技者は、
サイクリング以外の運動に時間を割くことが少なく、
それが骨密度低下の要因となっている可能性が示唆されました。

サイクリングには非荷重性という特徴があり、
他の運動をしないと、
骨密度には悪影響を与える可能性があることには、
注意が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ロッシーニ「ウィリアム・テル」(新国立劇場2024/25レパートリー) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ウィリアムテル.jpg
新国立劇場のレパートリーとして、
ロッシーニの最後のオペラにして、
グランドオペラ形式の大作「ウィリアム・テル」が上演されています。

ロッシーニは心を躍らせる、
アジリタの超絶技巧が唯一無二の素晴らしさで、
上演頻度の高い「セヴィリアの理髪師」は、
凡庸な歌手での上演であれば、
眠気を誘うだらけた作品にしかなりませんが、
プロのロッシーニ歌いが集結すると、
その絢爛豪華な極上のアンサンブルとアリアは、
他の追随を許さない至福の音楽体験となります。

個人的にも全盛期のフローレスが伯爵を歌った「セヴィリアの理髪師」と、
ヴィヴィカ・ジュノーの「ラ・チェネレントラ」
新国立でのヴァサロヴァとシラグーザの「ラ・チェネレントラ」は、
その歌声の素晴らしさが、
今でも耳に焼き付いています。

ロッシーニは長いこと忘れられたオペラ作者で、
世界的にも「セヴィリアの理髪師」の、
それも難度の高いアリアを省略した不完全版が、
唯一上演されていた、という時代が長く、
今では他の多くの作品が完全版で上演されていますが、
日本では「セヴィリアの理髪師」以外の作品は、
かなり上演頻度が低いのが実際です。

僕が生で聴いているのも、
「セヴィリアの理髪師」と「ラ・チェネレントラ」以外には、
「タンクレディ」と「セミラーミデ」、「オテロ」、
「ランスの旅」くらいです。

ロッシーニは軽快な喜劇の印象が強く、
確かにぞのオペラ作者としての前半期には、
そうした作品が多いのですが、
後半期にはむしろ重厚なドラマ主体で、
その後のヴェルディを彷彿とさせるような作品を多く残しています。

この「ウィリアム・テル(ギョーム・テル)」も、
そうした作品の1つで、
合唱主体のドラマティックな展開は、
ほぼほぼヴェルディと言って良いくらいです。

今回の上演は新国立劇場の最近のレパートリーの中では、
かなりのヒットと言って良いもので、
今の戦争の時代を匂わせながらも、
それほどの改変をしなかった演出も良いですし、
オケの繊細さと躍動感を併せ持つ感じも高水準で、
何よりメインキャストの3人が、
充実した世界レベルの歌唱で、
このオペラの素晴らしさを、
十全に表現していたと思います。

オペラファンの方は是非是非聞き逃しなしよう。

ロッシーニの精髄を感じさせる上演でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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糖尿病治療薬と喘息発作との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メトホルミンと喘息.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2024年11月18日付で掲載された、
糖尿病治療薬が喘息のコントロールに与える影響についての論文です。

気管支喘息と糖尿病というのは、
基本的には全く別の慢性の病気ですが、
互いに無関係ではありません。

肥満の患者さんでは喘息と糖尿病の合併が多く、
糖尿病を合併する喘息では、
発作のコントロールが不良になることが多い、
というような知見があるからです。

それでは糖尿病の治療薬によって、
喘息の予後に違いがあるのでしょうか?

肥満や生活習慣が大きく影響する2型糖尿病では、
世界的にメトホルミンが第一選択の治療薬とされています。

このメトホルミンには抗炎症作用など、
喘息の改善にも有効と思われる薬理作用があることが、
これまでの研究で明らかになっていますが、
それが実地の臨床においてどの程度有効であるのかは、
明らかになっていません。

そこで今回の研究ではイギリスにおいて、
プライマリケアの大規模なデータベースを活用。
臨床データから2種類の解析法を用いて、
糖尿病と喘息を合併している患者さんにおいて、
糖尿病治療薬の開始がその後の喘息発作に与える影響を検証しています。

まず各患者さんの治療の時期とそれ以外の時期とを比較する、
自己対照研究(self-controlled case series)という方法で、
4278名の患者さんを解析、
更に治療選択の根拠を階層化して分析する、
傾向スコア分析(inverse probability of treatment weighting)という方法で、
8424名の患者さんを解析しています。

その結果、
1年の観察期間における重症の喘息発作のリスクは、
メトホルミンの使用により、
自己対照研究で32%(95%CI:0.62から0.75)、
傾向スコア分析でも24%(95%CI:0.67から0.85)、
それぞれ有意に低下していました。

つまり、メトホルミンの使用により、
喘息のコントロールも改善した、
ということを示唆する結果です。

メトホルミンは通常の治療において、
他の糖尿病治療薬と併用されることが多いのですが、
その解析においては、
GLP-1アナログという治療薬の上乗せにより、
自己対照研究において、
更に40%(95%CI:0.49から0.73)、
喘息発作のリスク低下が確認されました。

このように、
メトホルミンの使用及びそこへのGLP-1の上乗せは、
喘息と糖尿病を合併する患者さんにおいて、
血糖コントロールを良くするのみならず、
喘息の重症化も改善する効果が、
今回の結果から推測されました。

これはまだ過去の臨床データを後から解析したものなので、
今後より精度の高い、
介入試験などで確認されるまでは、
実証された知見とまでは言えないものですが、
糖尿病の治療薬が喘息にも有効という知見自体は非常に興味深く、
今後の更なる検証に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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