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キャッチアップ睡眠の認知症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
キャッチアップ睡眠の認知症予防効果.jpg
Sleep Breath誌に、
2024年6月15日付でウェブ掲載された、
キャッチアップ睡眠(週末の寝だめ)の認知機能への影響を、
検証した論文です。

睡眠というのは食事や運動と並んで、
健康に欠かせない生活習慣の1つです。

特に睡眠時間が短いことは、
心臓病や脳卒中などの心血管疾患、認知症、
うつ病など多くの病気のリスクになることが分かっていて、
健康寿命にも悪影響を与える因子です。

そのためアメリカの睡眠関連の専門学会では、
健康のために毎日の睡眠時間を、
7時間以上にすることを推奨しています。
https://academic.oup.com/sleep/article/38/6/843/2416939

しかし、実際には多くの日本人が、
もっと短い睡眠時間で生活をしています。

そしてそうした寝不足の日本人が、
睡眠不足の解消のために、
しばしば行っている習慣が、
週末や休日の「寝だめ」です。

「休みの日は昼までゆっくり寝ていた」という、
休みの日にありがちな習慣が「寝だめ」です。
医学用語としては、キャッチアップ睡眠(catch-up sleep)、
という言い方が一般的で、
上記論文ではウィークデイの睡眠時間の平均より、
週末の睡眠時間が1時間以上長いこと、
として定義されています。

「寝だめ」は体感的には、
睡眠不足の軽減に一定の効果があるように思えます。

それでは、
週末に寝だめをすることで、
睡眠不足のもたらす健康への悪影響を、
抑制するような効果があるのでしょうか?

2024年に2月に発表されたアメリカの健康データを解析した論文では、
週末のキャッチアップ睡眠により、
その後の心血管疾患のリスクが63%低下した、
という結果が発表されています。
ただ、高血圧などの関連因子を補正して解析すると、
統計的な有意差はなくなっていたので、
それほど信頼性の高い結果ではありません。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38000943/

睡眠の状態と認知機能低下との間にも、
強い関連のあることが指摘されています。
ただ、睡眠不足は認知症のリスクになることが知られている反面、
昼寝の習慣も認知症のリスクになる、
というような知見もあって、
その関係は単純ではありません。

それでは、週末の寝だめの習慣は、
認知機能にどのような影響を与えるのでしょうか?

今回の研究は台湾において、
65歳以上の自力歩行可能な高齢者215名を登録し、
睡眠の状態を睡眠日記とウェアラブル端末による測定で記録して、
キャッチアップ睡眠がその後の認知機能に与える影響を比較検証しています。
認知機能はMMSEという簡易検査で測定されています。
これは30点満点で低いほど認知機能低下が疑われるのですが、
台湾の基準では学歴により基準が異なり、
学歴のない人は16点以下、高学歴の人は23点以下が、
認知機能障害の基準となっています。

他の認知機能に関連する因子を補正した結果として、
睡眠日記による記録によるキャッチアップ睡眠は、
その後の認知機能障害のリスクを74%(95%CI:0.09から0.69)、
加速度計の記録によるキャッチアップ睡眠は、
その後の認知機能障害のリスクを73%(95%CI:0.10から0.70)、
それぞれ有意に低下させていました。

つまりキャッチアップ睡眠が認知症を予防することを、
示唆する所見です。

ただ、こうした研究としては例数は少なく、
対象者には病気のある人もない人も含まれているので、
キャッチアップ睡眠が認知症を予防すると言うためには、
より大規模で精度の高い研究を積み重ねる必要があると思います。

従って、
これはまだ事実とまでは言えない知見ですが、
日頃睡眠不足の人にとっては、
休日に少なくとも1から2時間程度の寝だめをすることが、
健康上の害になることはなく、
睡眠不足を補う1つの方法として有効であると、
そう考えて大きな間違いはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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リスの水晶体変化のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
リスと白内障.jpg
the Journal of Clinical Investigation誌に、
2024年9月17日付で掲載された、
白内障の制御に結び付く可能性のある、
興味深い知見についての論文です。

白内障というのは、
カメラのレンズのような働きをしている、
目の水晶体という部分が、
白濁して視力が低下する病気です。

これは老化に伴う病態ですが、
その本態は水晶体の中で、
折り畳み異常を来した蛋白質が、
凝集することで起こると考えられています。

一度そうした凝集が生じてしまうと、
元に戻ることはありません。

ただ、冬眠するリス(ジリス)の仲間では、
冬眠時には目の水晶体が白内障に似た白濁状態となり、
実際に折り畳み異常を来した蛋白の凝集が起こるのですが、
春になって温度が上昇すると、
その白濁が改善して、
元の透明な状態に戻るという現象が確認されています。

これは一体どうしたことなのでしょうか?

今回の研究では、
ジリスの細胞から作成した人工水晶体モデルを活用して、
温度による水晶体白濁改善のメカニズムを検証しています。

その結果、
温度の低下により、
水晶体の中で異常蛋白の凝集が起こるのですが、
温度が上昇することで、
RNF114 と名付けられた、
今回初めて同定された蛋白質が増加し、
それが蛋白の凝集を阻止することで、
水晶体の白濁が改善することが確認されました。

ラットは人間と同じように、
温度による水晶体の白濁改善は見られないのですが、
そこに特殊な方法で大量のRNF114を水晶体に注入すると、
ジリスと同じ水晶体白濁の改善が、
認められることも確認されました。

人間で同様のことが起こるとは、
現時点では全く不明ですが、
仮にそうしたことがあるとすると、
従来は手術以外の方法はなかった白内障の治療において、
水晶体に直接RNF114もしくは、
それと同様の作用を持つ蛋白質を注入することで、
水晶体の白濁が改善する可能性があるのです。

まだ動物実験のみの知見で、
すぐに臨床応用可能な技術ではありませんが、
将来的には白内障の手術によらない抜本的な治療が、
可能な時代が訪れるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「動物園が消える日」(唐組・第74回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
動物園が消える日ポスター.jpg
唐組の第74回公演として、
1993年に初演され、2017年に再演された、
「動物園が消える日」が再再演されました。

この作品は初演も再演も観ています。

再演時の感想はブログ記事にしていますが、
改めて読み返してみると、
今回鑑賞後と全く同じ感想だったので驚きました。
記事はこちらです。
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2017-11-05-1

この作品は唐組の初期、
最初の頃のメンバーが退団した後、
過渡期に上演された作品で、
その前の「桃太郎の母」とこの作品が、
それ以降の唐先生の作品のスタイルを、
決定付けたと言って良いと思います。

この時期の唐先生を代表する傑作の1つで、
群像劇としての面白さは卓越していますし、
唐イズムは濃厚に漂いながらも、
他の唐先生の作品にはない、
唯一無二の魅力のある作品です。

過去記事にも書いたように、
テネシー・ウィリアムスなどの、
アメリカ戯曲に近い味わいのある作品で、
場末のホテルのロビーという場所の設定も、
女性のサム・スペードが西陽を浴びて登場する、
というオープニングも、
勿論舞台は日本ですが、
如何にもアメリカという気分を醸しています。

経済的な理由で金沢の動物園が閉園して、
処分に困った一頭の河馬が、
密かに殺されてしまうのですが、
動物園を愛するかつての従業員達は、
それをなかったことにすることが出来ず、
妄想の中でホテルのバスタブに、
その河馬を隠します。

その妄想を先導するのが、
初演では唐先生本人が演じた灰牙という男ですが、
水に溶けて透明になった河馬が、
ホテルの天井を突き破って飛散し、
妄想は砕けて、
「動物園が消える日」が訪れるのです。

唐先生のお芝居の本質を一言で言うなら、
「見えないものを見せる」ということだと思うのですが、
この芝居はその1つの頂点として、
失いたくない夢を象徴する巨大な河馬が、
灰牙という男に降り注ぐ水の煌きの中に可視化される、
という奇跡的な光景に結実しているのです。

素晴らしいと思います。

今回の上演は2017年の再演を超えて素晴らしいもので、
久保井さんの精緻な演出と、
小規模ながら見事な舞台効果、
メインキャストの多くは2017年版と同じキャスト陣は、
円熟した見事な芝居で唐イズムを継承し、
若手の熱演も心躍らせるものがありました。
この弾丸のように放たれる台詞のリズムこそ、
小劇場の大いなる遺産なのです。

そんな傑作であった「動物園が消える日」ですが、
実は1993年初演を観た感想はあまり良いものではなく、
「唐先生はもう終わったか」というネガティブなものでした。

当時はまだ、
「状況劇場病」から、
多くの唐ファンは抜けていなかったのです。
要するにスペクタクルなものや大仕掛け、
善悪のはっきりしたダイナミックな設定と、
迫力のある人間離れした悪役の大暴れ、
みたいなものを渇望していたので、
そこで上演されたこの作品は、
そうしたものが全くなかったので、
僕には失望しか感じさせなかったのです。

ただ、今にして思えば、
それは新生唐芝居が、
誕生した瞬間でもあったのです。

テントはあまりホスピタリティの良い場所ではありませんが、
アングラ演劇、小劇場演劇の、
精髄を示すような傑作ですので、
ご興味のある方は、
是非是非テントに足をお運びください。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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抗菌剤の使用と自然気胸との関連性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は保育園の健診などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ニューキノロンと自然気胸リスク.jpg
BMJグループのThorax誌に、
2024年10月11日付で掲載された、
現在広く使用されている抗菌剤と、
自然気胸という肺の病気との関連についての論文です。

ニューキノロン(フルオロキノロン)系の抗菌剤というのは、
レボフロキサシン(クラビット)、シプロフロキサシン(シプロキサン)、
オフロキサシン(タリビット)、ガレノキサシン(ジェニナック)、
シタフロキサシン(ジェニナック)などがそれに当たります。

このタイプの抗菌剤は経口剤が主体で使用が簡便で、
その効果は強力なので、
国内外を問わず広く使用されています。

ただ、このタイプの抗菌剤は、
ペニシリン系の抗生物質と比較すると、
人間の細胞に対する毒性が強く、
神経細胞に対する毒性から痙攣を誘発するなど、
他の抗菌剤にはあまり見られない、
有害事象や副作用の原因となります。

そうしたニューキノロンに特徴的な副作用の1つが、
アキレス腱の炎症やその断裂です。
これは、ニューキノロンの抗菌作用以外の作用に、
その原因があると考えられています。

報告によると、
マトリックス・メタロプロテアーゼという、
コラーゲンなどの膠原繊維を分解する酵素があり、
その酵素を刺激することにより、
腱組織などの炎症に結び付きやすいと想定されています。

つまり、ニューキノロン系抗菌薬の使用により、
コラーゲン繊維が脆弱となり、
コラーゲン関連の有害事象に結び付く可能性があります。

実際アキレス腱断裂以外にも、
大動脈の解離や網膜剥離など、
コラーゲン繊維の障害によると想定される、
ニューキノロン系抗菌薬使用後の、
有害事象の増加が報告されています。

自然気胸は肺に何らかの原因で穴が開き、
そこから空気が漏れ出て、肺を圧迫してしまう病気です。
「自然」というのは、
外傷などによらない、という意味です。

その多くは肺に嚢胞など、
破れやすい場所があるために起こりますが、
コラーゲン組織に異常があると発症しやすいため、
ニューキノロン系抗菌剤の使用との関連を、
指摘する意見があります。

ただ、現状その関連を実証するような、
信頼のおけるデータの報告はありません。

ニューキノロン系の抗菌剤の使用は、
本当に自然気胸のリスクになるのでしょうか?

今回の研究はフランスにおいて、
自然気胸を発症して入院し、
発症の前後にニューキノロン系抗菌薬を使用した246例と、
比較対照として、
一般的な抗生物質であるペニシリン系のアモキシシリンを、
同様に発症の前後に使用した3316例とを、
比較検証しています。

その結果、
ニューキノロン系抗菌薬を発症前30日以内に使用すると、
それ以外の期間に使用した場合と比較して、
自然気胸のリスクは1.59倍(95%CI:1.14 から2.22)、
有意に増加していました。

一方でペニシリン系のアモキシシリンを発症前30日以内に使用すると、
それ以外の期間に使用した場合と比較して、
自然気胸のリスクはより高く、
2.25倍(95%CI:2.07から2.45)有意に増加していました。

要するに、
確かにニューキノロン系抗菌薬の使用後には、
自然気胸のリスクは増加していたのですが、
コラーゲン繊維に悪影響は与えない筈のペニシリンの使用の方が、
より自然気胸のリスク増加に繋がっていた、
という結果です。

おそらく抗菌剤使用後の自然気胸の増加は、
抗菌剤使用そのものが原因なのではなく、
その使用の理由である感染症の存在自体が、
リスク増加に繋がっていると考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ナッツの摂取と認知症リスク(2024年UKバイオバンク解析データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ナッツの摂取と認知症リスク.jpg
GeroScience誌に2024年9月30日付で掲載された、
ナッツの摂取量と認知症リスクとの関係についての論文です。

認知症の予防効果のある食事として、
複数のデータのある地中海ダイエットは、
ギリシャなど地中海周辺地域の伝統的な食事で、
その特徴の1つはナッツの摂取です。

ただ、ナッツを強化した食事の認知症予防効果については、
効果のあったとするデータもある一方で、
明確な有効性は見られなかったとするデータもあって、
その評価は一致していません。

そこで今回の研究では、
遺伝情報を含む大規模な健康関連のデータを蓄積している、
イギリスのUKバイオバンクの住民データを活用して、
この問題の検証を行っています。

対象となっているのは、
登録の時点で認知症のない、
平均年齢56.5歳のトータル50386名の男女です。

観察期間において、
そのうちの2.8%に当たる1422例で認知症が診断されています。

ナッツを殆ど食べない場合と比較して、
毎日ナッツを食べる習慣のある人では、
平均で7.1年の観察期間におけるトータルな認知症のリスクが、
他のリスク因子を調整した結果として、
12%(95%CI:0.77から0.99)有意に低下していました。
このリスク低下は、
1日30グラムまでの塩分を含まないナッツで、
最も高い傾向が認められました。

このように、
今回の大規模な疫学データにおいては、
毎日少量の塩分を含まないナッツを食べる習慣が、
認知症リスク低下に、
一定の有効性が確認されました。

勿論ナッツだけで認知症が防げる、
ということはありませんが、
凡百のサプリメントを購入するより、
毎日少量の無塩ナッツを食べる習慣は、
多くの病気の予防効果が確認されていると言って、
間違いはないと思います。

ただ、くれぐれも食べ過ぎにはお気をつけ下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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