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気管支拡張症の予後と痰の性状との関連性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
痰の色と予後.jpg
European Respiratory Journal誌に、
2024年4月付で掲載された、
痰の色などの性状と、
肺の病気の予後との関連についての論文です。

気管支拡張症というのは、
気道の炎症などを繰り返すことによって、
気管支の一部が進展性を失って拡張した状態になることです。

拡張した部分には、
主に細菌性の慢性の炎症が起こることが多く、
それが悪化すると、
重症の肺炎を来したり、
呼吸機能が低下したりして、
命に関わることも稀ではありません。

気道の炎症の状態を知ることは、
気管支拡張症などの炎症性の肺の病気の予後を知る上で、
重要なことは間違いがありません。
ただ、臨床的に簡単に確認出来るような方法で、
その炎症の程度を知ることは難しいのが実際です。

気管支に細菌性の炎症が起こった場合、
それは咳と共に痰となって喀出されます。
つまり、痰の状態を見れば、
細菌性の炎症の程度が分かる、
ということになる訳です。

勿論細菌培養の検査などをすることにより、
どのような細菌が増殖しているのかを、
確認することは出来ますが、
結果が判明するまでには結構時間が掛かりますし、
培養の結果が必ずしも病状や予後と直結するとは限りません。

もっと簡単で病状を把握出来るような方法はないのでしょうか?

そこで1つ注目されているのが、
痰の色などの肉眼的な所見から、
その重症度を推測しようという方法です。

こちらをご覧下さい。
痰の色の表.jpg
これは2009年にMurrayらにより提唱された、
痰の性状の分類法です。

一番上の図が炎症の要素に乏しい粘液性の痰で、
上から2番目の画像はやや黄色の粘液膿性痰です。
これは軽い細菌感染の所見を示しています。
細菌感染の炎症により、
顆粒球という白血球からMPOという成分が放出されると、
痰は緑色に変化します。
上から3番目の画像はその膿性痰によるもので、
一番下の画像は、
より重症化した膿性痰のものです。

それでは、この痰の性状の分類から、
どの程度の臨床的な情報が得られるのでしょうか?

今回の研究では世界31か国で施行された、
気管支拡張症の疫学調査のデータを活用することで、
気管支拡張症の予後と、痰の性状との関連を比較検証しています。
対象は気管支拡張症の患者、トータル13484名です。

その結果、
炎症所見に乏しい粘性痰の患者と比較して、
粘性膿性痰の患者の重症化リスクは、
1.29倍(95%CI:1.22から1.38)、
膿性痰の患者の重症化リスクは、
1.55倍(95%CI:1.44から1.67)、
重症の膿性痰の患者の重症化リスクは、
1.91倍(95%CI:1.52から2.39)、
それぞれ有意に増加していました。

つまり、痰の性状で膿性痰が見られると、
その後の重症化のリスクも、入院のリスクも、
生命予後もいずれも悪化していた、という結果です。

こうしたデータは専門的な検査を行ったようなものとは違って、
シンプルで原始的なものですが、
それだけに臨床的には大きな意義があり、
日々の臨床にすぐに活かせると言う意味で、
私のような市囲の医療者には、
非常に参考になるものなのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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