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「マーメイド・イン・パリ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
マーメイド・イン・パリ.jpg
2020年本国公開のフランスのファンタジー映画ですが、
これもハリウッド製の映画が殆ど公開されないので、
急遽引っ張り出されたような感じの地味な1本です。
フランスでも限定的な公開に留まっていたようです。

パリのセーヌ川に稽留された遊覧船を利用した、
バーレスクを上演するバーのオーナーの息子のしがない音楽家が、
バーが経営難で身売りするという時に、
傷ついた世界で最後に残った美しい人魚を助け、
やがて恋に落ちます。

色々な先行作に似ていますが、
一番はアカデミー賞を受賞した「シェイプ・オブ・ウォーター」
に良く似ている映画です。

男女を入れ替えればほぼ同じ話で、
ミュージカル的になる点も似ています。

ただ、ちょっとやり過ぎ感のある「シェイプ・オブ・ウォーター」と比べると、
勿論お金がないという点が大きいと思うのですが、
あまりCGや特殊効果を使用していないので、
レトロな感じでのんびり観ることが出来ます。

最初はちょっとこのセンス駄目かなあ、
と思って観ていたのですが、
途中からバーレスクに取り憑かれた家族の、
その歴史が綴られる辺りがなかなか魅力的で、
レトロなショーも素敵な気分で観ることが出来ました。

非常に人工的でおとぎ話的絵作りなのですが、
それでいてラストの部分では、
入水の場面をとてもリアルな映像で描いていて、
その辺りには演出のセンスを感じます。

ラストもなかなか気が利いていますよね。
稽留された船が海へと向かう辺りは、
さすがフランスのエスプリという感じです。

そんな訳でまあ二線級の映画ではあるのですが、
ほろ苦い大人向けのファンタジーとして、
意外に拾い物の1本です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ファーストラヴ」(堤幸彦監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ファーストラヴ.jpg
島本理生さんのベストセラーで直木賞受賞作を、
堤幸彦監督が映画化しました。
2020年にはNHKでドラマ化もされています。
ヒロインの臨床心理士に北川景子さん、
かつての恋人の弁護士に中村倫也さん、
父親殺しの容疑者の少女に芳根京子さん、
ヒロインの夫に窪塚洋介さんという、
イメージ通りと言って良い豪華なキャストです。

島本さんの原作は読んでいます。
語り口の心地よさが独特で、
会話も読んでいる分にはとても自然でリズミカルなのですが、
いざ映像化すると、
何か不自然で人工的できれい事の感じに思えるのが不思議で、
これまでに「ナラタージュ」と「RED」の映画版を観ましたが、
どちらも原作の魅力を十全に伝えているとは、
言い難いような作品でした。

出来不出来が激しいのが難点ですが、
技巧派で職人肌でもある堤監督が、
この島本ワールドをどのように映像化するのかに興味がありました。

結果としてはとてもシンプルでオーソドックス、
物語をそのまま伝えることに力点を置いた、
とても穏当な仕上がりでした。
ほぼほぼ趣味的な遊びもありません。

内容もほぼ原作通りですが、
原作では子供のいるヒロインに子供がいない設定になっていて、
これはNHKのドラマでもそうでしたから、
原作者の希望だったのかな、とも思いました。
また、ヒロインの母親との断絶が、
1つの大きなテーマでもあったのですが、
その点はあまり映画では踏み込んで描かれていません。

これね、映画を観てから原作を読み返してみると、
相当怖い話なんですよね。
これまであった、なあなあの人間関係や家族関係を、
全て否定しているんですね。
ヒロインは母親にも父親にも一点の愛情すら持っていなくて、
自分の夫との信頼だけで生きているんですね。
でもそういうあり方の方が、
共感されるのが今の世の中なんですね。
だから、他人のちょっとした過ちにも、
徹底して糾弾するんですね。
特に古い価値観に基づいた行動や言動を、
絶対に許さないんですね。
でももしそうだと、
上下の世代の交流というのは、
基本的はもうなくなりますよね。
価値観の違うものを強引に結びつけるのが、
それこそ家族でそれが集合したものが社会でしょ。
それはもう存在しなくなる、ということですよね。

怖いですね。

それともう1つ、この作品は性的虐待の問題を扱っているんですが、
2人のお互いの考えと意識とが、
深い部分で完全に一致した時のみが許される状態で、
1人が「いいよ」と言っていても、
実際には「嫌だな」と思っていれば、
それはもう全て虐待だ、という考え方なんですね。
要するにこの基準だと性交渉は殆どが虐待なんですね。
これも怖いですよね。
島本さんは人間同士の交流と言えるものを、
徹底して追求して、
その殆どは「虐待」だと断罪しているんですね。

そこには寛容とか「大目に見る」という感覚が一切なくて、
全てが後戻りは出来ないものなのです。

怖いなあ、と思うのですが、
でも今の若い人の感覚は多分そうしたものなのだと思いますし、
社会ももうそうした方向に向かっているのですね。
それはそうしたものとして、
どうにかこうにか必死で生きていかないと、
いけないのだと思います。

さて、そうした問題作のこの作品ですが、
体裁はミステリーの雰囲気があり、
法廷で父親殺しの真相が明らかになる、という展開になります。
ただ、その真相は結構脱力しますね。
ミステリー畑の作者ではないので仕方がないのだと思いますが、
もう少しミステリー的仕掛けが、
若干でもあると良かった、というようには感じました。

キャストは概ね熱演で、
特に中村倫也さんは良かったと思います。
北川景子さんは前半は徹底した「棒読み」の芝居で、
それが徐々に変貌して、
感情を爆発させる部分では、
あまりこれまで見たことのなかった表情を見せます。
これはもう監督の演出であり狙いだと感じました。
ただ、正直もう少し上手い人の方が、
この役には良かったかな、と思うのと、
大学生の場面はかなり厳しい感じがありました。

総じて問題作を無難に仕上げた、
という感じの映画版で、
映画を観られて興味の沸いた方には、
是非原作も一読をお勧めします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「哀愁しんでれら」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
哀愁しんでれら.jpg
2016年のクリエーター発掘コンテストのグランプリ企画を、
映像化したオリジナルのサスペンスです。

土屋太鳳さん演じる児童相談所に勤める女性が、
ひょんなことからバツイチで子持ちの開業医の男性に巡り会い、
とんとん拍子で結婚するのですが、
男性も子供も大きな闇を抱えていて、
ラストにはとんでもない惨劇が待っています。

湊かなえさん原作の「告白」の映画みたいな感じですね。
原色の色彩を活かした様式的な演出もそうですし、
徹底して人間の嫌な部分をクローズアップして、
非現実的な犯罪に強引に落とし込む感じも一緒です。
シンデレラと青髯の物語を絡めて、
ラストは嫌ミスの世界に着地する、という趣向です。

ただ「告白」と比較しても、
ラストへの段取りがかなり唐突で、
悪趣味度が強いようには感じます。
自分達だけの幸せを追求するという家族3人の思いが、
最終的に3人だけの世界を作る、
という共通のハッピーエンドに至るというロジックだと思いますが、
その最後の決断の部分に、
説得力がないのが一番の問題のように思います。

キャストでは闇を抱えた娘を演じたCOCOさんが、
抜群の怪演で素晴らしく、
土屋太鳳さんも振り切れた芝居で、
そのちょっと苛つく感じが、
役柄に説得力を持たせていました。
田中圭さんはやや意外性を狙ったキャスティングと思いますが、
冬彦さんキャラはちょっと違和感があり、
その演技も基本的には今まで通りなので、
その闇を感じにくいというきらいはあったと思います。

総じて悪くはないのですが、
モンスター的家族と、
人間の負の部分をこれでもかと描くような作風は、
今の世の中にはちょっと周回遅れの感じがあって、
ラストは衝撃的というより、
不快なだけに感じる方も多そうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「すばらしき世界」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当します。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
すばらしき世界.jpg
西川美和監督の新作は、
佐木隆三さんの「身分帳」を元にして、
人生の大半を刑務所で過ごした初老の元ヤクザが、
今の生きづらい社会で奮闘する様を、
悲喜こもごもに描いた力作です。

これは前半は素晴らしかったですね。
今村昌平監督の映画を観ているみたい。
話自体も「うなぎ」に似ていますしね。
と言うか、まあ同じですね。
意図的なのでしょうが、
昔の骨太日本映画のタッチなんですね。
映像も凝りに凝っていて、
主人公の生い立ちを8ミリっぽい映像で見せるのですが、
物凄いリアルですよね。
最初の音効が入るきっかけもゾクゾクしますし、
主人公が安アパートの部屋からぼんやり外を見ているカット、
奥の家の緑の壁面が素敵でしょ。
ちょっとしたところに、
物凄い拘っていることが分かります。

原作は読んでブログ記事にもしたのですが、
しっかり完結しているという内容ではなくて、
主人公の人生が、
少し前向きになって来たかな、
というところで終わるんですね。

それで終わってもそれはそれで良かったのじゃないかな、
というようには思うのですが、
映画としては確かに弱いですよね。
また、原作は昭和61年が舞台なのですが、
それを映画は2019年にしているんですね。
これはまあ、「身分帳」の主人公を、
現代にタイムスリップしてもらって、
今の社会と格闘してもらう、
という作品であると思うので、
その部分はオリジナルでないとまずいのですね。

それで、映画は途中で、
山田洋次的ハッピーエンドが描かれて、
「これでまさか終わりじゃないよね」
という気分にさせるのですが、
そこからちょっとタッチが変わって、
原作を離れて、
主人公が「現代」に立ち向かい、
ある意味無残に敗北する姿が描かれて、
複雑な余白を残しながら、
主人公の死まで描いて映画は終わります。

西川監督、かなり悩み抜き、
考え抜いたのだろうな、
という気はするのですね。
空気を読まずに、自分の倫理観で、
全てを割り切り暴力も辞さないという主人公が、
自分の意見を最後は押しとどめ、
結局その後には死しか残らないのですね。
どうなのかしら。
ちょっとモヤモヤするラストですよね。
黒澤明監督の後期の映画に出て来る、
ちょっとくどくて中途半端なヒューマニズムと、
同じような欲求不満の感じがありますね。
矢張り迷わず、
スパッと何かを断ち切るようなラストにして欲しかったな、
というように個人的には思いました。

原作はノンフィクション的なフィクションなので、
主人公はその性格を変えることは一切ありませんし、
補足的なエッセイを読んでも、
結局はトラブルを起こして周囲を困らせながら、
そのまま死んでいったようです。
西川監督がそれを変えたかった、という意図は分かるのですが、
作品を観た感想としては、
そのままの方が良かったのに、
とどうしてもそう思ってしまいました。

また、
原作の主人公は、ばりばりの活動家で、
刑務所でも待遇改善の訴訟を起こしたり、
どちらかと言えば保守寄りの過激派なんですね。
ヤクザで活動家というのがあの時代ならではで、
それが彼の倫理観の根っこにあるのですが、
映画は時代を現代にしてしまったので、
その設定自体がなくなってしまい、
主人公の思想的なこだわりが見えにくい、
という欠点はあったように思います。

他にも昭和61年の話を現代にしているので、
主人公の生い立ちの部分とか、
ヤクザの兄貴分に会いに行くところとか、
ちょっと違和感がありますね。
現代でやるには、
綻びと無理があったようにも感じました。
後主人公が心電図を撮る場面があるのですが、
電極を付ける位置が違いますよね。
「ディアドクター」の時も思いましたが、
西川監督は、
あまり医療考証みたいなものには関心がないようです。

そんな訳で西川監督らしい骨太の意欲作で、
非常に面白い映画ですし、
前半だけなら全ての方にお勧めしたい傑作なのですが、
ラストは監督の迷いも感じられ、
少しモヤモヤする気分が残りました。

でも、一見の価値は充分にあります。
お勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「さんかく窓の外側は夜」(2020年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
さんかく窓.jpg
ヤマシタトモコさんの漫画を原作に、
森ガキ侑大監督が独特のセンスで、
スタイリッシュなスリラー映画に仕立てています。

これは前半は結構良かったんですよね。
人物紹介などなく、
いきなり本題に入る感じも良いですし、
幽霊というのか生き霊というのか、
そのビジュアルもなかなか不気味で良いですし、
岡田将生さんと平手友梨奈さんがどちらも謎めいていて、
正体不明な2人に志尊淳さんが、
翻弄されるのも悪くないと思います。

ただ、原作がまだ完結していないということもあって、
後半はかなりやっつけ仕事、という感じになります。

予算もなかったのだとは思いますが、
クライマックスが廃屋の地下の変な部屋で、
主人公達がじたばたするだけ、
というのは如何にもひどいでしょ。

ラスボスの筈の新興宗教の教祖が、
殆ど活躍しないままに、
警察に捕まってお終い、というのも酷いと思います。

これ、新興宗教の出て来るところで、
お話のスケールがグッと広がらないといけないんですよね。
それが逆にしぼんでしまっているでしょ。
このくらいなら話を膨らまさない方が良かったですよね。
全くもって、後半は画が撮れていません。

そんな訳で堤幸彦さんが一時連発したような、
宣伝先行のガッカリ超大作に近い雰囲気で、
とてもとても空しい気分で映画館を後にしました。

映像センスはあるのでとても残念です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「プラットフォーム」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
プラットフォーム.jpg
2019年製作のスペイン映画で、
所謂「ソリッド・シチュエーション・スリラー」です。

世界政府のようなものがある近未来が舞台のようですが、
特殊な監獄があって、
何百階という階層が上下に広がっていて、
1つの階の独房には2人の囚人が入れられ、
1か月毎に階が無作為(?)に入れ替わります。
一番上の0階には豪華なキッチンがあって、
そこで作られた豪華な料理が、
独房中央にある穴から、
時間毎に下に降りて来る、という仕掛けです。
上の方の階では食事が摂れますが、
下に行くにつれ上の囚人が食い散らかすことで食事は減り、
下の方の階では残飯しか残らない、
と言う結果になります。

主人公は囚人ではないのですが、
何かの権利を得るために取引として収監され、
幾つかの階の囚人や、
囚人ではない収監者と話すうちに、
このシステムを破壊しようと企てます。

食事の奪い合いの殺し合いやリンチがあったり、
カニバリズムがあったりと、
かなりグロテスクで残酷な場面もあり、
ホラー味も強い作品ですが、
基本的にはテーマは至ってまともで、
この社会をもっと良いものに変革しようという、
至極真面目なテーマが描かれています。

得体の知れない残酷過酷な状況に閉じ込められ、
そこで必死にサバイバルをするというお話は、
これまでにも沢山ありますし、
それをグロテスクに描写するという点では、
乙一さんなどを始めとして、
日本の小説でも得意な分野です。

内容的には状況を架空の一種のゲームとして楽しむ、
という趣向のものと、
社会の一種の縮図や比喩として、
それを変革するという意図を持っているものとで、
内容はどちらかに振れることが多いのですが、
この作品に関しては明らかに後者で、
この作品の世界はゲームではなく、
一部の金持ちや特権階級が、
世界の富や食料の多くを食い荒らし、
その不均衡から多くの弱者が貧しく飢えるしかない、
という世界の構造を比喩的に示したものです。

物語は定石通りに展開し、
最初は主人公がこの世界のルールを理解し、
生き残る術を学んでから、
悲惨な出来事が起こり、
最後は仲間と一緒に、
邪魔するものを蹴散らしながら、
最下層を目指します。

ラストは全ての謎が明かされる、
という感じにはなりませんが、
まあ納得のゆく「希望」が示されて終わります。

鑑賞後の感想としては、
思ったより悪くない、観られる映画だった、
という感じです。

ただ、色々な意味で中途半端で、
突き抜けたものはありませんでした。

物語の種明かしを何処までするかは、
それぞれに良し悪しのあるところで、
必ずしも全て絵解きする必要はないのですが、
状況のルールはもう少し明確になった方が良いかな、
という気はしました。

独房にトイレがなく、
排泄の描写もない、というのも、
意図的とは思いますがモヤモヤします。
1か月に一度入れ替わるのは無作為なのかしら?
それとも何かルールがあるのかしら?
この辺りも不鮮明でイライラします。
女殺し屋が囚人を殺しまくるのですが、
それだとすぐにお話が終わってしまいそうですよね。
食事の量は明らかに10階くらいで終わる量ですよね。
銃なども持ち込めるという設定ですが、
それなら力関係がすぐに変わってしまいそうですよね。
結局全ての階を移動して、
武器は刃物くらいでしたよね。
これ、持ち込めるものは限定しないと、
成立しないのじゃないかしら…
とちょっと考えるだけで色々と矛盾があり、
もう少し設定は練る必要があったのじゃないかしら、
というように思いました。

最後に穴をどんどん降りて、
かたっぱしから囚人をなぎ倒すのは面白いのですが、
ちょっとあっさり過ぎましたね。
ここはもっとしつこくやれば、
「マッドマックス」みたいになったのに、
とそれも残念に感じました。

総じてまっとうな社会派目線と、
何でもありの残酷見世物の世界が、
上手くかみ合わずに終わってしまった、
という感じの作品で、
それを両立させた「マッドマックス怒りのデスロード」は、
矢張り世紀の傑作だったのだな、と、
再確認したような気分で映画館を後にしました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「スワロウ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
スワロウ.jpg
2019年のフランス・アメリカ合作で、
異食症を扱ったちょっと変わった映画です。

これも新型コロナ禍でなければ、
日本で劇場公開はされなかったのではないかしら、
という感じの地味な映画で、
ハリウッド製ではなく、
アメリカが舞台のフランス映画、
というニュアンスの作品です。

妊娠したヒロインが、
「あるべき妻」「あるべき嫁」を求める周囲へのストレスから、
最初は氷から始まって、
次第にピンや紙、土やビー玉など、
色々な物を飲み込むことで、
心の落ち着きを得ることを繰り返してゆきます。

色彩は美しく、
意味ありげな場面や音楽に満ちていて、
「氷の微笑」のようでもあり、
その元ネタのヒッチコックの「めまい」のようでもあります。
なので、何となくサイコスリラーのようなものを期待するのですが、
実際にはそうしたフィクション的なひねりはなく、
「ヒロインのトラウマからの解放と個の自立」
というような真っ当なテーマが真面目に描かれます。

ここでちょっと引っ掛かるのは、
「人形の家」みたいなものがやりたいのであれば、
わざわざ異食症みたいな病態を、
持ち出さなくても良いのではないかしら、
という気がするからです。

たとえばアリ・アスター監督がこのテーマを取り上げれば、
もっとどんどんエスカレートして、
「うげっ!」と言うような展開になりそうでしょ。
勿論そうなって欲しい、という訳ではないのですが、
さんざん病気の症状を興味本位な感じで演出しておいて、
それで全くそうした飛躍はないのであれば、
何のためにそんな思わせぶりなことをしたの、
と聞きたくなってしまいます。

この映画の「異食症」は、
ただ観客の興味を繋ぐための仕掛けとして、
使われているのに過ぎないという点が、
僕の一番納得のゆかない点です。

実際にある病気を、
あまりそうした「仕掛け」として使うのは、
趣味の良いあり方ではないと思います。

その点を除けば物語は至ってまっとうに展開し、
ラストの主人公のトラウマ解決法の是非については、
観客によって評価は異なる点があると思いますが、
その心の旅路は結構説得力を持って描かれています。

そんな訳でまあ、あまり観る価値はなかったかな、
という感じの映画ですが、
意外にウィークデイの映画館は満員に近い盛況で、
何か複雑な思いも感じつつ映画館を後にしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ヤクザと家族 The Family」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ヤクザと家族.jpg
注目の藤井道人監督の新作は、
監督自身のオリジナル脚本によるヤクザ映画という、
少し意表を突くようなものでした。

これは好みは分かれるところのある映画ですが、
力作であることは間違いがありません。
藤井さんは熱のある人物描写に才があり、
その特質は存分に発揮されていますし、
主役の綾野剛さんが、
また凄みのある熱演でした。

これは1999年、2005年、2019年という3部構成で、
第一部は主人公の不良少年がヤクザの盃を交わすまで、
第二部はヤクザの抗争から主人公が鉄砲玉となって刑務所に入るまでを描き、
第三部では全てが変わってしまった現代で、
主人公があがく姿を描きます。

先日の井筒監督の「無頼」が、
戦後の闇市からバブル崩壊までの話でしたから、
丁度それを引き継ぐ感じで、
ヤクザを軸にした戦後史の前後編というような趣もあります。

3部構成ですが、
第一部は15分くらいしかなく、
第一部が終わると共に、タイトルバックになりますから、
基本的には2部構成で、
そこにプロローグが付くというような格好です。
これ、1部は正調ヤクザ映画の感じで、
2部は「アウトレイジ」を意識した新ヤクザ映画の感じ、
そして3部は現代版「極道残酷物語」
という感じの壮絶で虚無的な世界になります。
画角も変わるんですね。
1部と2部は上下の切れたシネスコサイズで、
それが3部になると上下に広がって、
アイマックスと同じ画角になります。

トータルにスタイリッシュで完成度は高いですね。
前半など敢えて古いスタイルを取っていますが、
随所に新しい工夫がありますし、
後半でスタイルを全く切り替えるという、
思い切りの良さも凄いと思います。
「無頼」と比べるのは井筒監督に失礼なのですが、
正直完成度には雲泥の差がありました。
ただ、「無頼」の泥臭いような魅力はこの映画にはなく、
主役級以外のヤクザの面々の存在感では、
「無頼」の方が遙かに上でした。

藤井監督は根っからのシネフィルだと思うのですね。
最初のタイトルバックがバーンと出る時の爽快感、
凄いですよね。
臆面もなくかつての任侠映画のカタルシスを引用して、
それを超える落差を生み出しています。
ワンカットで主人公が路地を逃げて車にはねられるところ、
凄い撮影ですよね。
あれ、「1917」でしょ。
完全なワンカットじゃないものを、
技術でワンカットに見せているんですよね。
館ひろしさんが襲撃されるところも、
車の中から並走するバイクが近づいてきて、
銃撃があって、そのまま車が激突して、
これも凄いよね。
自動車の中の撮り方をね。
最初はレトロな固定カメラで、
それから移動撮影で、と変えているんですね。
この辺の凝り方も半端じゃありません。
途中で画角と雰囲気を一変させるのは、
多分昨年の「ウェイブス」という映画を参考にしていますね。
あれも主人公が犯罪を犯したところで、
視点が反転して画角も変わります。

内容に関しては、
物語が「多視点」を許さない、という感じになっているでしょ。
それがちょっと引っかかる感じはしました。
豊原功補さんの経済ヤクザや岩松了さんの悪徳警察官は、
悪そのものとして描いているでしょ。
「この人なりの言い分があるんじゃないか」
というような視点は許さない作劇ですよね。
後半SNSで主人公が追い詰められるのも、
現実はそこまで一方的じゃないという気がするのに、
ともかく一視点で押し切りますよね。
娯楽映画としてはそれでいいのですが、
この映画は社会派映画的側面もあるじゃないですか。
それで1つの考え方のみの押しつけが強い、
と言う点にはちょっと違和感を感じました。

それから、最初10分の時点で、
もう主人公はこのまま駄目になるな、
という感じがするでしょ。
それが結局その想定通りに進むじゃないですか。
それもちょっとしんどいな、という感じは残ります。
もうちょっと途中でこちらの予測を裏切るような展開があっても、
いいのじゃないかな、というようには感じました。
ちょっと息苦しすぎる映画なんですね。

これは疑似家族を描いた映画で、
館ひろしさんと綾野剛さん、磯村勇斗さんという3世代があって、
血のつながりはないのですが、
それこそが家族だ、と言っているんですね。
死に際の館さんが「家族を大事にしろよ」と言うのですが、
言われる綾野さんには、
文字通りの家族は1人もいないのです。
そう考えるとかなり重いテーマで、
これからの社会は、
良くも悪くも「血の繋がった家族」というもの以外の絆を、
探して行かなければいけないのかも知れません。

そんな訳でそれほど好きな映画ではないのですが、
紛れもない力作で、
現在の日本映画を代表するような仕上がりです。
綾野剛さんは現時点で随一、
という感じの芝居を見せていますし、
館さんの芝居も、
その存在をスクリーンに焼き付ける、
という感じのものでした。

見応えはありますが、
気分は軽くはなりません。
なるべく体調の良い時の鑑賞がお勧めです。
「よし明日頑張ろう」という感じの映画ではなくて、
「まあそうだよね。生きるってしんどいけど、どうにかするしかないか」
というような気分になる映画です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「聖なる犯罪者」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
聖なる犯罪者.jpg
これは珍しいポーランドとフランスの合作映画です。
基本的にはポーランドが舞台のポーランド映画で、
フランスが資本を含めて協力している、
というような格好であるようです。

実話を元にして、
少年院を出所した若者が、
ひょんなことからカトリックの司祭に間違われ、
そのまま司祭の代役を演じて、
田舎町の住民の中に溶け込んで行く、
という「偽神父」という、
「偽医者」とも似通った性質のお話です。

これはコミカルにもシリアスにも振れるお話ですが、
この映画はコミカルな部分もあるものの、
基本的にはかなりシリアスな雰囲気で、
最初の少年院の描写からして、
暴力的な苛めなどがハードに展開されますし、
住民のネチっこい嫌らしさもなかなかです。

色々あって村に恋人が出来たりもするのですが、
最後は正体がバレて少年院に逆戻り、
というのはまあ誰でも予測出来る通りです。

ただ、村を分断してしまう危険を孕んだ、
不幸な自動車事故の真相を、
主人公が彼を愛する少女と一緒に追及する、
という社会派ミステリーのような趣向があり、
それが1つの軸になっている、という点が特色であるのと、
主人公が少年院で野獣のような姿を見せるラストが、
ちょっと規格外で独特です。

法律や規則、戒律などでがんじがらめになった世界に対する、
抗議の表明がテーマであるように思われますが、
それにしてはラストが身も蓋もないな、
というような感じはします。

この辺りは民族性というのか、
感覚の本質的な違いのようなものがあるのかも知れません。

トータルにはなかなか見応えのある、
良質の映画であることは間違いがありません。

主人公の独特の雰囲気とふるまいが面白いですし、
草の匂いのするような映像は、
これはもうヨーロッパでないと出ないセンスですね。
意味の取り難い場面も一部にありますが、
基本的には理解可能な表現になっていて、
ヨーロッパ映画としては、
それほどハードルが高くはない作品だと思います。

今はあまり新作が公開されない状態が続いていますし、
ちょっと歯応えのある映画を1本、
という向きにはそこそこお勧め出来る作品です。

ご興味があればどうぞ。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「無頼」(井筒和幸監督新作) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
無頼.jpg
井筒和幸監督の8年ぶりの新作は、
「ゴッドファーザー」と「仁義なき戦い」を、
強く意識した正調の昭和ヤクザ抗争映画で、
今ではあまりない昭和の熱量に満ちた力作です。

内容はまあ、下敷きになっている物語は、
「仁義なき戦い」と同じなんですね。
それを1つの家族の絆の物語に再構成しているところは、
「ゴッドファーザー」と丸かぶりですね。
そんな訳で物語にオリジナリティはまるでないのですが、
オープニングから戦後のドタバタの時期に、
不良少年が下品に大暴れして、
どうしようもない酒浸りの父親をぶん殴って、
という辺りは井筒監督ならではの楽しさです。

キャストもなかなかいいんですよね。
主役の松本利夫さんは、
その癖のある感じがリアルで悪くないですね。
もっと別のキャスティングも勿論ありなのですが、
松本さんを選んだ辺りは1つの見識だと思います。
脇のキャストがね、いいんですよね。
松本さんの子分に松角洋平さんや中村達也さん、
阿部亮平さんと、魅力のある強面が並ぶでしょ。
この辺りのキャストは、
「仁義なき戦い」と比べても遜色ないと思います。

一方でゲスト待遇的なキャストは、
升毅さんにしても木下ほうかさんにしても、
置きに行った感じの芝居で今ひとつでした。

ここまではまあ、いいんですが、
映画として完成度が高いかと言うと、
それはそうではないんですね。

2時間半近い長尺なのですが、
それでも結構1つ1つの場面はダラダラしている一方で、
そのエピソードの解決がつかないまま終わってしまったり、
大事なキャラが途中で消えてしまったり、
というようなことが多く、
「大事な場面が撮り切れていない」
という印象の強い作品です。
監督としても時間を含めて、
思うように撮れなかった作品だったのではないかと推察します。

ラストも主人公が安易に死なないのはいいのですが、
アジアの恵まれない子ども達を助けに旅立つ、
というラストには脱力してしまいました。

井筒監督の新作としては、
ほぼ単館のミニシアターのロードショーで、
きっかり4週間で終了というのは、
ちょっと寂しい感じがします。

そんな訳で完成度は低い作品ですが、
井筒監督らしい力の入った王道ヤクザ映画で、
お好きな方には観て損はないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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