「ファーストキス」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

坂元裕二さんの脚本を塚原あゆ子さんが監督し、
松たか子さんと松村北斗さんが主演を勤めた恋愛映画が、
今公開されています。
45歳の設定の松たか子さんが、
ひょんなことからタイムスリップして、
事故で亡くなった夫の松村北斗さんに、
初めて出逢った15年前に再会し、
未来を変えようと奮闘するという物語で、
円熟の域にある松たか子さんの、
相性の良い坂元裕二さんとのタッグで見せる、
抜群の演技が見どころの映画です。
極めてありきたりの設定であるように、
予告などを見る限りは思うのですが、
そこはさすがに坂元裕二さんで、
タイムスリップしたとは言え、
15歳の年の差のあるカップルの恋愛、
というのが含みのある感じですし、
普通事故死した夫を愛するがあまりタイムスリップ、
という感じになるところ、
2人の仲は冷めきっていて、
そうではない、という辺りも捻りが効いています。
ただ、SFチックな設定自体はかなり雑で、
テレビで「バックトゥザフューチャー」辺りを流しながら、
その勢いで書いてしまった、
という感じのイージーな設定でした。
これはタイムリープと言うよりも、
松たか子さんを主役した台本を、
途中で何度も書き直してラストを変えようとする、
というような創作遊戯的な作品なんですね。
そう思って割り切って観ないと、
多分最後までモヤモヤする気分になるかも知れません。
SF的な設定があると、
どうしてもそこでの展開を期待してしまうので、
それが何もないというのも、
矢張り物足りないものは感じてしまいました。
そんな訳で坂元裕二さんの作品としては、
正直完成度は今一つという感じで、
SF的設定との相性もあまり良くなかったかな、
という印象はあるのですが、
塚原監督の巧みな演出と、
松たか子さんと松村北斗さんの抜群な演技を見るだけで、
観て損はなかった、
という気分にはさせてくれる作品でした。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

坂元裕二さんの脚本を塚原あゆ子さんが監督し、
松たか子さんと松村北斗さんが主演を勤めた恋愛映画が、
今公開されています。
45歳の設定の松たか子さんが、
ひょんなことからタイムスリップして、
事故で亡くなった夫の松村北斗さんに、
初めて出逢った15年前に再会し、
未来を変えようと奮闘するという物語で、
円熟の域にある松たか子さんの、
相性の良い坂元裕二さんとのタッグで見せる、
抜群の演技が見どころの映画です。
極めてありきたりの設定であるように、
予告などを見る限りは思うのですが、
そこはさすがに坂元裕二さんで、
タイムスリップしたとは言え、
15歳の年の差のあるカップルの恋愛、
というのが含みのある感じですし、
普通事故死した夫を愛するがあまりタイムスリップ、
という感じになるところ、
2人の仲は冷めきっていて、
そうではない、という辺りも捻りが効いています。
ただ、SFチックな設定自体はかなり雑で、
テレビで「バックトゥザフューチャー」辺りを流しながら、
その勢いで書いてしまった、
という感じのイージーな設定でした。
これはタイムリープと言うよりも、
松たか子さんを主役した台本を、
途中で何度も書き直してラストを変えようとする、
というような創作遊戯的な作品なんですね。
そう思って割り切って観ないと、
多分最後までモヤモヤする気分になるかも知れません。
SF的な設定があると、
どうしてもそこでの展開を期待してしまうので、
それが何もないというのも、
矢張り物足りないものは感じてしまいました。
そんな訳で坂元裕二さんの作品としては、
正直完成度は今一つという感じで、
SF的設定との相性もあまり良くなかったかな、
という印象はあるのですが、
塚原監督の巧みな演出と、
松たか子さんと松村北斗さんの抜群な演技を見るだけで、
観て損はなかった、
という気分にはさせてくれる作品でした。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「敵」(吉田大八監督 映画版) [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

筒井康隆さんが64歳の時に執筆した原作を、
吉田大八監督が脚本演出し、
長塚京三さんを初めとして、
理想的なキャストが揃った映画版を観ました。
これはなかなかの傑作で、
吉田大八監督の代表作の1つであることは間違いありません。
昔の勅使河原宏監督やブニュエルみたいな感じ。
不条理な悪夢の世界は懐かしさを感じますが、
きちんと現代にリニューアルされていて、
今製作した意味も感じさせる力作でした。
ただ、クライマックスは少し弱いかな、という感じ。
スケール感というよりも、
もっと強烈な場面というか、
この映画を代表するようなカットが、
そこにあると良かったのではないか、
という思いはありました。
先に筒井さんの原作は読んでいたのですが、
読んだのは比較的最近です。
筒井さんの作品には、
リアルタイムで本当に影響を受け、
こんなに面白い小説があるのかと思ったものですが、
文学に傾斜して物語を破壊するようになってから、
オヤオヤという感じになり、
例の断筆宣言から復活以降は、
殆ど作品を読んでいませんでした。
「敵」は随所に懐かしい雰囲気があり、
1人暮らしの老人の緻密な生活描写はさすが、
という感じがあったのですが、
後半は漱石の「夢十夜」のような、
妄想や幻想に彩られた夢の断片が、
そのまま提示されるという感じで、
「敵」という題名ですし、
もっと「敵」という存在が大きくなるのかと、
やや期待して読み進むと、
肩透かしを感じる読後感でした。
吉田大八監督は、
三島さんの「美しい星」にしても、
「騙し絵の牙」にしても、
その作者の作品としては、
失礼ながらあまり上出来とは言えない作品を選択して、
それを自由自在に改変し、
原作とは別物の、
吉田イズムの横溢した作品にするのが得意です。
今回の「敵」もその例に漏れず、
筒井さんの作品としてはやや散漫でボンヤリした印象の原作を、
老人が老いらくの恋から人生に転落する、
という原作には欠片もない要素を付加して、
古典的なお話としての筋を通し、
後は自由自在に妄想と悪夢の世界に遊んでいます。
それでいて、
ラストの「春になれば…」という台詞は、
原作そのままのテイストで残して、
原作へもきちんと仁義を切っているのがさすがです。
「美しい星」はトンデモ要素もあって微妙ですが、
「騙し絵の牙」と今回の「敵」は、
明らかに原作より面白く
優れた映画になっている点が凄いのです。
これが作者の自信作や代表作であれば、
反発が予想されるところですが、
吉田監督はその点がとてもクレヴァーで、
その作家の微妙な作品を巧みにチョイスしているのです。
「愛読書」のような言い方をしているのは、
明らかな社交辞令だと個人的には思っています。
今回の作品が見事なのは、
原作の改変が全て上手く機能している点にあって、
連載が打ち切られる話も、
バーの女の子からお金をせびられる話も、
亡くなった奥さんがパリに行きたがっていたり、
納屋に潜んでいる戦争の記憶であるとか、
空井戸に男の死体を落とす話とか、
プルーストの作品にある鴨料理の再現など、
印象的なパートの全ては原作にないものなのに、
お話の雰囲気を壊すことなく、
一種の機能美を確立している点が凄いと思います。
原作の「敵」はパソコン通信で登場するのですが、
それをメールにして、
途中でうっかりリンクを踏んだことで、
パソコンが動かなくなってしまい、
遺書が手書きになる、
という趣向が鮮やかですし、
食事の場面を丁寧に描写しているので、
後半それがカップ麺になる、
という辺りも残酷さを感じさせるのです。
こうした趣向も勿論映画のオリジナルです。
この映画の成功の第一は、
何といってもキャストにあって、
主人公の長塚さんは、
まさにこの役のために生まれて来た、
と観ている間は思えてしまうくらいの絶妙さですし、
その演技もまた格別でした。
それを取り囲む女優陣3人がまた凄くて、
その役以外考えられないくらいの嵌まりぶりでした。
美しいモノクロ映像の魅惑を含めて、
映画の魅力に心から浸ることの出来る逸品でした。
お勧めです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

筒井康隆さんが64歳の時に執筆した原作を、
吉田大八監督が脚本演出し、
長塚京三さんを初めとして、
理想的なキャストが揃った映画版を観ました。
これはなかなかの傑作で、
吉田大八監督の代表作の1つであることは間違いありません。
昔の勅使河原宏監督やブニュエルみたいな感じ。
不条理な悪夢の世界は懐かしさを感じますが、
きちんと現代にリニューアルされていて、
今製作した意味も感じさせる力作でした。
ただ、クライマックスは少し弱いかな、という感じ。
スケール感というよりも、
もっと強烈な場面というか、
この映画を代表するようなカットが、
そこにあると良かったのではないか、
という思いはありました。
先に筒井さんの原作は読んでいたのですが、
読んだのは比較的最近です。
筒井さんの作品には、
リアルタイムで本当に影響を受け、
こんなに面白い小説があるのかと思ったものですが、
文学に傾斜して物語を破壊するようになってから、
オヤオヤという感じになり、
例の断筆宣言から復活以降は、
殆ど作品を読んでいませんでした。
「敵」は随所に懐かしい雰囲気があり、
1人暮らしの老人の緻密な生活描写はさすが、
という感じがあったのですが、
後半は漱石の「夢十夜」のような、
妄想や幻想に彩られた夢の断片が、
そのまま提示されるという感じで、
「敵」という題名ですし、
もっと「敵」という存在が大きくなるのかと、
やや期待して読み進むと、
肩透かしを感じる読後感でした。
吉田大八監督は、
三島さんの「美しい星」にしても、
「騙し絵の牙」にしても、
その作者の作品としては、
失礼ながらあまり上出来とは言えない作品を選択して、
それを自由自在に改変し、
原作とは別物の、
吉田イズムの横溢した作品にするのが得意です。
今回の「敵」もその例に漏れず、
筒井さんの作品としてはやや散漫でボンヤリした印象の原作を、
老人が老いらくの恋から人生に転落する、
という原作には欠片もない要素を付加して、
古典的なお話としての筋を通し、
後は自由自在に妄想と悪夢の世界に遊んでいます。
それでいて、
ラストの「春になれば…」という台詞は、
原作そのままのテイストで残して、
原作へもきちんと仁義を切っているのがさすがです。
「美しい星」はトンデモ要素もあって微妙ですが、
「騙し絵の牙」と今回の「敵」は、
明らかに原作より面白く
優れた映画になっている点が凄いのです。
これが作者の自信作や代表作であれば、
反発が予想されるところですが、
吉田監督はその点がとてもクレヴァーで、
その作家の微妙な作品を巧みにチョイスしているのです。
「愛読書」のような言い方をしているのは、
明らかな社交辞令だと個人的には思っています。
今回の作品が見事なのは、
原作の改変が全て上手く機能している点にあって、
連載が打ち切られる話も、
バーの女の子からお金をせびられる話も、
亡くなった奥さんがパリに行きたがっていたり、
納屋に潜んでいる戦争の記憶であるとか、
空井戸に男の死体を落とす話とか、
プルーストの作品にある鴨料理の再現など、
印象的なパートの全ては原作にないものなのに、
お話の雰囲気を壊すことなく、
一種の機能美を確立している点が凄いと思います。
原作の「敵」はパソコン通信で登場するのですが、
それをメールにして、
途中でうっかりリンクを踏んだことで、
パソコンが動かなくなってしまい、
遺書が手書きになる、
という趣向が鮮やかですし、
食事の場面を丁寧に描写しているので、
後半それがカップ麺になる、
という辺りも残酷さを感じさせるのです。
こうした趣向も勿論映画のオリジナルです。
この映画の成功の第一は、
何といってもキャストにあって、
主人公の長塚さんは、
まさにこの役のために生まれて来た、
と観ている間は思えてしまうくらいの絶妙さですし、
その演技もまた格別でした。
それを取り囲む女優陣3人がまた凄くて、
その役以外考えられないくらいの嵌まりぶりでした。
美しいモノクロ映像の魅惑を含めて、
映画の魅力に心から浸ることの出来る逸品でした。
お勧めです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2024年に観た映画を振り返る [映画]
あけましておめでとうございます。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックは年末年始の休診期間中です。
今日は昨年観た映画を振り返ります。
昨年映画館で観た映画がこちらです。
1.ゴールデンカムイ
2.哀れなるものたち
3.夜明けのすべて
4.サイレント・ラブ
5.ボーはおそれている
6.マッチング
7.落下の解剖学
8. セッション(リバイバル)
9. デューン 砂の惑星 PART2
10.52ヘルツのクジラたち
11.ドッグマン
12.オッペンハイマー
13.変な家
14.メメント(リバイバル)
15. 異人たち
16.陰陽師0
17.悪は存在しない
18. ブルックリンでオペラを
19.ミッシング
20.関心領域
21.マッドマックス:フュリオサ
22.あんのこと
23.蛇の道(2024年版)
24.ウォッチャーズ
25.ルックバック
26.青春18×18
27.キングダム 大将軍の帰還
28.フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
29.Chime
30. 箱男
31.ラストマイル
32.侍タイムスリッパー
33.あの人が消えた
34.夏目アラタの結婚
35.Cloud
36.憐れみの3章
37.ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ
38.室井慎次 敗れざる者
39.室井慎次 生き続ける者
40. ヴェノム:ザ・ラストダンス
41. グラディエーターII 英雄を呼ぶ声
42. 十一人の賊軍
43. 花嫁はどこへ?
44. 正体
以上の44本です。
今年はあれやこれやでせわしなく、
映画を観る本数はかなり減りました。
良かった3本を洋画と邦画とに分けて、
エントリーしてみます。
2024年に公開された新作に限っています。
それではまず洋画編です。
①花嫁はどこへ?
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-12-31-1
今年一番ほっこりとして楽しめた映画で、
映画ってこのくらいで丁度良いよね、
と心から思えた愛すべき1本でした。
②憐れみの3章
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-09-29
今年大活躍の鬼才ヨルゴス・ランティモス監督ですが、
「哀れなるものたち」より、
個人的にはこちらの方が好みです。
かなり病的で退廃的な世界ですが、
如何にもヨーロッパ的な豊穣なディテールが魅力でした。
③オッペンハイマー
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-30-1
2024年日本公開の洋画の中では、
最も注目を集めた1本で、
僕自身もワクワクしながら映画館に足を運びました。
壮大な作品で映像の緻密さはさすがノーランという感じでしたが、
正直ノーラン監督の歴史ものは、
あまり好みではないことを実感した作品でもありました。
「インターステラー」みたいな新作希望。
それでは次は日本映画のベスト3です。
2024年はもう明らかに、
公開される映画は邦画が主体になっていました。
①ルックバック
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-07-14-1
2024年に最も感銘を受けた1本で、
創作の孤独とかけがえのない友情が、
技巧を駆使した振幅の大きなアニメ表現で、
見事に描出されていました。
②ミッシング
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-05-25
吉田恵嗣監督の意欲的な新作で、
石原さとみさんの体当たり的演技も話題となりました。
今の時代ならではの社会性の強い家族劇で、
ラストはまだ迷いが感じられましたが、
現実が虚構化されてゆく中段の展開にはしびれました。
③ラストマイル
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-09-16-2
2つのテレビドラマが共有する世界から生まれた映画ですが、
それが現実に拮抗する世界の重厚さを感じさせ、
世界的な企業の非人間的なシステムを描くという、
挑戦的なテーマに説得力を与えていました。
満島ひかりさんの見事な芝居も良かったですし、
単なるテレビ発の娯楽作を超えて、
今年を代表する映画の1本になっていたと思います。
今年はもう少し沢山の映画を観たいと思いますし、
また良い作品に出逢えればと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックは年末年始の休診期間中です。
今日は昨年観た映画を振り返ります。
昨年映画館で観た映画がこちらです。
1.ゴールデンカムイ
2.哀れなるものたち
3.夜明けのすべて
4.サイレント・ラブ
5.ボーはおそれている
6.マッチング
7.落下の解剖学
8. セッション(リバイバル)
9. デューン 砂の惑星 PART2
10.52ヘルツのクジラたち
11.ドッグマン
12.オッペンハイマー
13.変な家
14.メメント(リバイバル)
15. 異人たち
16.陰陽師0
17.悪は存在しない
18. ブルックリンでオペラを
19.ミッシング
20.関心領域
21.マッドマックス:フュリオサ
22.あんのこと
23.蛇の道(2024年版)
24.ウォッチャーズ
25.ルックバック
26.青春18×18
27.キングダム 大将軍の帰還
28.フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
29.Chime
30. 箱男
31.ラストマイル
32.侍タイムスリッパー
33.あの人が消えた
34.夏目アラタの結婚
35.Cloud
36.憐れみの3章
37.ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ
38.室井慎次 敗れざる者
39.室井慎次 生き続ける者
40. ヴェノム:ザ・ラストダンス
41. グラディエーターII 英雄を呼ぶ声
42. 十一人の賊軍
43. 花嫁はどこへ?
44. 正体
以上の44本です。
今年はあれやこれやでせわしなく、
映画を観る本数はかなり減りました。
良かった3本を洋画と邦画とに分けて、
エントリーしてみます。
2024年に公開された新作に限っています。
それではまず洋画編です。
①花嫁はどこへ?
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-12-31-1
今年一番ほっこりとして楽しめた映画で、
映画ってこのくらいで丁度良いよね、
と心から思えた愛すべき1本でした。
②憐れみの3章
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-09-29
今年大活躍の鬼才ヨルゴス・ランティモス監督ですが、
「哀れなるものたち」より、
個人的にはこちらの方が好みです。
かなり病的で退廃的な世界ですが、
如何にもヨーロッパ的な豊穣なディテールが魅力でした。
③オッペンハイマー
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-03-30-1
2024年日本公開の洋画の中では、
最も注目を集めた1本で、
僕自身もワクワクしながら映画館に足を運びました。
壮大な作品で映像の緻密さはさすがノーランという感じでしたが、
正直ノーラン監督の歴史ものは、
あまり好みではないことを実感した作品でもありました。
「インターステラー」みたいな新作希望。
それでは次は日本映画のベスト3です。
2024年はもう明らかに、
公開される映画は邦画が主体になっていました。
①ルックバック
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-07-14-1
2024年に最も感銘を受けた1本で、
創作の孤独とかけがえのない友情が、
技巧を駆使した振幅の大きなアニメ表現で、
見事に描出されていました。
②ミッシング
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-05-25
吉田恵嗣監督の意欲的な新作で、
石原さとみさんの体当たり的演技も話題となりました。
今の時代ならではの社会性の強い家族劇で、
ラストはまだ迷いが感じられましたが、
現実が虚構化されてゆく中段の展開にはしびれました。
③ラストマイル
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2024-09-16-2
2つのテレビドラマが共有する世界から生まれた映画ですが、
それが現実に拮抗する世界の重厚さを感じさせ、
世界的な企業の非人間的なシステムを描くという、
挑戦的なテーマに説得力を与えていました。
満島ひかりさんの見事な芝居も良かったですし、
単なるテレビ発の娯楽作を超えて、
今年を代表する映画の1本になっていたと思います。
今年はもう少し沢山の映画を観たいと思いますし、
また良い作品に出逢えればと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
「花嫁はどこへ?」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
大晦日ですね。
クリニックは12月29日から、
2025年1月5日まで年末年始のお休みを頂いています。
今日は軽い話題でお届けます。
今日はこちら。

2024年製作のインド映画です。
評判は聞いていたのですが、
なかなか観に行けず、
漸く年末に間に合って観ることが出来ました。
これは控え目に言って最高でした。
この映画は1980年代くらいまでは、
ハリウッド製の良く出来た映画として、
量産されていたタイプの作品なんですね。
でも、今はハリウッドは勿論、
他の国でもあまりこうした映画を作らなくなっている、
という気がするのです。
正直「オッペンハイマー」や「憐れみの3章」、
「関心領域」などを観ても、
勿論詰まらなくはないし、
技術的にも藝術的にも優れてはいることは理解出来るのですが、
昔映画を観た時の楽しさや満足感、
ワクワクするような気分を、
全く感じることは出来ません。
別に映画なんて、
こんな風に進歩なんかしなくて、
良かったのではないかしら、
というように思ってしまうのです。
この映画は20年前くらいのインドを舞台に、
その地域特有の風習から、
2人の花嫁が取り違えられてしまい、
再び互いの夫に「発見」されるまでの悲喜劇が、
とても暖かく、ワクワクもするタッチで描かれている物語です。
しかも、再び発見された花嫁は、
元の花嫁とは違う人間へと成長しているのです。
かつてのハリウッド製娯楽映画と同じように、
物語は極めて緻密に精緻に組み立てられていて、
要所要所で意外な人物が、
物語の鍵を握る展開もあざとく感じるくらい鮮やかです。
それでいて、あまり鼻に付くような感じがないのは、
映像の空気感が非常にノスタルジックで牧歌的で、
「昔観たな」というような懐かしさを感じさせるからなのですね。
こういう映画を観ると、
「そうだよね。映画はこれで充分だよ」
という気持ちにさせてくれます。
今普通に作られて上映されている映画は、
もっと技術レベルが高くて、
もっと高尚なテーマを持ち、
社会的な意義も持っているかと思うのですが、
おそらく今映画が好きな多くの人にとって、
そんなものはあまり意味はなく、
単なる好き嫌い程度の問題なのではないでしょうか?
今の多くの映画はそうしたものの代わりに、
素朴な映画の楽しさを失っているからです。
そんな訳で今年一番と言って良い、
映画の楽しさを再認識出来る映画で、
是非是非お勧めしたいと思います。
最高ですよ。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
大晦日ですね。
クリニックは12月29日から、
2025年1月5日まで年末年始のお休みを頂いています。
今日は軽い話題でお届けます。
今日はこちら。

2024年製作のインド映画です。
評判は聞いていたのですが、
なかなか観に行けず、
漸く年末に間に合って観ることが出来ました。
これは控え目に言って最高でした。
この映画は1980年代くらいまでは、
ハリウッド製の良く出来た映画として、
量産されていたタイプの作品なんですね。
でも、今はハリウッドは勿論、
他の国でもあまりこうした映画を作らなくなっている、
という気がするのです。
正直「オッペンハイマー」や「憐れみの3章」、
「関心領域」などを観ても、
勿論詰まらなくはないし、
技術的にも藝術的にも優れてはいることは理解出来るのですが、
昔映画を観た時の楽しさや満足感、
ワクワクするような気分を、
全く感じることは出来ません。
別に映画なんて、
こんな風に進歩なんかしなくて、
良かったのではないかしら、
というように思ってしまうのです。
この映画は20年前くらいのインドを舞台に、
その地域特有の風習から、
2人の花嫁が取り違えられてしまい、
再び互いの夫に「発見」されるまでの悲喜劇が、
とても暖かく、ワクワクもするタッチで描かれている物語です。
しかも、再び発見された花嫁は、
元の花嫁とは違う人間へと成長しているのです。
かつてのハリウッド製娯楽映画と同じように、
物語は極めて緻密に精緻に組み立てられていて、
要所要所で意外な人物が、
物語の鍵を握る展開もあざとく感じるくらい鮮やかです。
それでいて、あまり鼻に付くような感じがないのは、
映像の空気感が非常にノスタルジックで牧歌的で、
「昔観たな」というような懐かしさを感じさせるからなのですね。
こういう映画を観ると、
「そうだよね。映画はこれで充分だよ」
という気持ちにさせてくれます。
今普通に作られて上映されている映画は、
もっと技術レベルが高くて、
もっと高尚なテーマを持ち、
社会的な意義も持っているかと思うのですが、
おそらく今映画が好きな多くの人にとって、
そんなものはあまり意味はなく、
単なる好き嫌い程度の問題なのではないでしょうか?
今の多くの映画はそうしたものの代わりに、
素朴な映画の楽しさを失っているからです。
そんな訳で今年一番と言って良い、
映画の楽しさを再認識出来る映画で、
是非是非お勧めしたいと思います。
最高ですよ。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「憐れみの3章」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

「哀れなるものたち」のヨルゴス・ランティモス監督の新作で、
前作とほぼ同じメインキャストが顔を揃え、
今回は1本50分ほどの3本のオムニバス映画の趣向です。
観る前はブニュエルやフェリーニの感じを想定していたのですが、
観てみると、
石井輝夫監督の「徳川女刑罰史」みたいな作品でした。
映画は米英の合作ですが、
監督はギリシャ系でヨーロッパの雰囲気が濃厚です。
それもかなり退廃的で病んでいる感じ。
最近のヨーロッパの映画はこうした感じのものが多いですね。
ヨーロッパの知識人たちが、
世界の滅亡と退廃とを強く意識している感じが、
現れているという気がします。
3話のオムニバスで、
1話目は大金持ちから自分の身を犠牲にして、
自動車事故を起こし、相手を殺せと命じられる話。
2話目は妻が偽者と思い込んだ警官が、
残酷な責め苦を与える話。
3話目はカルト宗教の信者の女が、
死者を蘇らせる能力を持つ救世主の女性を探す話。
どれも一筋縄ではいかない、
異常で残酷でエログロ趣味全開の物語で、
それを同じキャストが別々の役柄で演じ分け、
最後には各話が結び付くオチが用意されています。
165分とかなり長尺ですが、
それを感じさせないジェットコースター的な面白さがあり、
何だこの悪趣味で酷い話は、と思いながらも、
あれよあれよと、
最後まで観てしまうという感じがあります。
絶対に今の日本では作れない感じの作品で、
「この映画が好きです」と言うこと自体、
かなり勇気のいる感じの映画です。
個人的にはこうしたものは嫌いではないのですが、
かと言って、褒めるという気分にはなりません。
従って、観るとしても密かに観るというタイプの映画で、
くれぐれも友人や恋人との鑑賞は、
慎重に考えて頂く必要があると思います。
怪作です。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

「哀れなるものたち」のヨルゴス・ランティモス監督の新作で、
前作とほぼ同じメインキャストが顔を揃え、
今回は1本50分ほどの3本のオムニバス映画の趣向です。
観る前はブニュエルやフェリーニの感じを想定していたのですが、
観てみると、
石井輝夫監督の「徳川女刑罰史」みたいな作品でした。
映画は米英の合作ですが、
監督はギリシャ系でヨーロッパの雰囲気が濃厚です。
それもかなり退廃的で病んでいる感じ。
最近のヨーロッパの映画はこうした感じのものが多いですね。
ヨーロッパの知識人たちが、
世界の滅亡と退廃とを強く意識している感じが、
現れているという気がします。
3話のオムニバスで、
1話目は大金持ちから自分の身を犠牲にして、
自動車事故を起こし、相手を殺せと命じられる話。
2話目は妻が偽者と思い込んだ警官が、
残酷な責め苦を与える話。
3話目はカルト宗教の信者の女が、
死者を蘇らせる能力を持つ救世主の女性を探す話。
どれも一筋縄ではいかない、
異常で残酷でエログロ趣味全開の物語で、
それを同じキャストが別々の役柄で演じ分け、
最後には各話が結び付くオチが用意されています。
165分とかなり長尺ですが、
それを感じさせないジェットコースター的な面白さがあり、
何だこの悪趣味で酷い話は、と思いながらも、
あれよあれよと、
最後まで観てしまうという感じがあります。
絶対に今の日本では作れない感じの作品で、
「この映画が好きです」と言うこと自体、
かなり勇気のいる感じの映画です。
個人的にはこうしたものは嫌いではないのですが、
かと言って、褒めるという気分にはなりません。
従って、観るとしても密かに観るというタイプの映画で、
くれぐれも友人や恋人との鑑賞は、
慎重に考えて頂く必要があると思います。
怪作です。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「Cloud クラウド」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。

菅田将暉さんを初めとして豪華キャストが共演した、
黒沢清監督の新作映画が、
今ロードショー公開されています。
黒沢監督は大好きなので、
これは見逃せないと初日に映画館に足を運びました。
これはキャストが豪華なので幻惑される感じがありますが、
基本的にはかなり短期間であまり準備なく撮られた、
「低予算映画」だと思うのですね。
黒沢監督は以前、
Vシネマを量産されていた時期があり、
今年フランス版リメイクが公開された「蛇の道」も、
その遺産のリクリエーションですが、
今回の映画も、
後半のチープな銃撃戦が象徴しているように、
Vシネテイストの作品です。
菅田さん演じる主人公の、
他人と距離を取り、コミュニケーションを最小限にする生活パターン、
そして独特の無為な感じと、
転売をしてそれが高値で売れた時に、
画面を見る視線に潜むある種の恍惚感のようなもの、
そこに現代の1つの生き方を反映させている点が、
今回の作品のポイントで、
暴力のような直接的な悪事には手を染めていないのに、
周囲の人間からの悪意や反感を買い、
それが後半の暴力の連鎖劇に繋がる、
という趣向はなかなか面白いと思います。
ただ、前半の重厚さと比較して、
後半の銃撃戦はリアリティのないチープさで展開されるので、
銃を後ろ手に持って抱き合う、
というような如何にもの演出と併せて、
後半には脱力を感じたのも事実です。
黒沢監督は銃撃戦への拘りを、
過去のインタビューなどでも話されていましたから、
今回はその拘りが結実した、
という感じであるのだと思うのですが、
銃を使用しないもっと生々しい暴力の肌触りの方が、
今回の作品には合っていたように感じました。
そんな訳で黒沢監督のファンであれば、
まずまず楽しめる作品である一方、
「普通のサスペンス」を期待されて鑑賞された方には、
戸惑いを感じさせる作品であることは確かで、
これから鑑賞予定の方は、
その点を確認の上選択されることをお勧めします。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。

菅田将暉さんを初めとして豪華キャストが共演した、
黒沢清監督の新作映画が、
今ロードショー公開されています。
黒沢監督は大好きなので、
これは見逃せないと初日に映画館に足を運びました。
これはキャストが豪華なので幻惑される感じがありますが、
基本的にはかなり短期間であまり準備なく撮られた、
「低予算映画」だと思うのですね。
黒沢監督は以前、
Vシネマを量産されていた時期があり、
今年フランス版リメイクが公開された「蛇の道」も、
その遺産のリクリエーションですが、
今回の映画も、
後半のチープな銃撃戦が象徴しているように、
Vシネテイストの作品です。
菅田さん演じる主人公の、
他人と距離を取り、コミュニケーションを最小限にする生活パターン、
そして独特の無為な感じと、
転売をしてそれが高値で売れた時に、
画面を見る視線に潜むある種の恍惚感のようなもの、
そこに現代の1つの生き方を反映させている点が、
今回の作品のポイントで、
暴力のような直接的な悪事には手を染めていないのに、
周囲の人間からの悪意や反感を買い、
それが後半の暴力の連鎖劇に繋がる、
という趣向はなかなか面白いと思います。
ただ、前半の重厚さと比較して、
後半の銃撃戦はリアリティのないチープさで展開されるので、
銃を後ろ手に持って抱き合う、
というような如何にもの演出と併せて、
後半には脱力を感じたのも事実です。
黒沢監督は銃撃戦への拘りを、
過去のインタビューなどでも話されていましたから、
今回はその拘りが結実した、
という感じであるのだと思うのですが、
銃を使用しないもっと生々しい暴力の肌触りの方が、
今回の作品には合っていたように感じました。
そんな訳で黒沢監督のファンであれば、
まずまず楽しめる作品である一方、
「普通のサスペンス」を期待されて鑑賞された方には、
戸惑いを感じさせる作品であることは確かで、
これから鑑賞予定の方は、
その点を確認の上選択されることをお勧めします。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
「侍タイムスリッパー」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

インディーズ映画の単館上映で人気が高まり、
今拡大公開中の話題の映画です。
幕末の会津藩の武士が、
タイムスリップして現代の京都の映画撮影所に入り、
そこで斬られ役として活躍するというお話です。
「カメラを止めるな」みたいな奇想を期待すると、
そうしたものではなくて、
オーソドックスな人情噺的な世界が展開されます。
ストーリーラインはハリウッド映画的で、
ちょっとスピルバーグみたいな感じです。
各場面のきちっとオチを付けるところとか、
現代に「侍」という異物を化学反応させ、
うねるように山場を作ってゆくところ。
クライマックスを明確にして、
そこに観客の意識を集中させる工夫など、
日本の娯楽映画の作りとは、
一線を画すという感じがします。
正直演出や登場する俳優の技量は、
かなり稚拙でプロの映画とは言い難いレベルなので、
普通の日本映画のように捉えてしまいがちなのですが、
どうしてどうして、
構成は非常に緻密でダイナミズムがあり、
堂々たるハリウッド大作のレベルなのです。
その点と主役を演じた山口馬木也さんの切実さ、
滅びゆく時代劇というものへの哀歌のようなものが、
この作品をヒットさせた要因であるように思います。
個人的にはあまりに長過ぎるという感じがしますし、
演技を含めた技術レベルの低さは、
ちょっと劇場用映画としては、
容認し難いという気持ちがあります。
ただ、ラストの殺陣は、
あまり前例のない迫力のある名場面で、
このシーンがあるだけで、
この映画の価値はあった、
という気分にはさせられました。
とてもハリウッド映画的、スピルバーグ映画的な作品なので、
意外にリメイクのオファーがあるかも知れませんね。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

インディーズ映画の単館上映で人気が高まり、
今拡大公開中の話題の映画です。
幕末の会津藩の武士が、
タイムスリップして現代の京都の映画撮影所に入り、
そこで斬られ役として活躍するというお話です。
「カメラを止めるな」みたいな奇想を期待すると、
そうしたものではなくて、
オーソドックスな人情噺的な世界が展開されます。
ストーリーラインはハリウッド映画的で、
ちょっとスピルバーグみたいな感じです。
各場面のきちっとオチを付けるところとか、
現代に「侍」という異物を化学反応させ、
うねるように山場を作ってゆくところ。
クライマックスを明確にして、
そこに観客の意識を集中させる工夫など、
日本の娯楽映画の作りとは、
一線を画すという感じがします。
正直演出や登場する俳優の技量は、
かなり稚拙でプロの映画とは言い難いレベルなので、
普通の日本映画のように捉えてしまいがちなのですが、
どうしてどうして、
構成は非常に緻密でダイナミズムがあり、
堂々たるハリウッド大作のレベルなのです。
その点と主役を演じた山口馬木也さんの切実さ、
滅びゆく時代劇というものへの哀歌のようなものが、
この作品をヒットさせた要因であるように思います。
個人的にはあまりに長過ぎるという感じがしますし、
演技を含めた技術レベルの低さは、
ちょっと劇場用映画としては、
容認し難いという気持ちがあります。
ただ、ラストの殺陣は、
あまり前例のない迫力のある名場面で、
このシーンがあるだけで、
この映画の価値はあった、
という気分にはさせられました。
とてもハリウッド映画的、スピルバーグ映画的な作品なので、
意外にリメイクのオファーがあるかも知れませんね。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「あの人が消えた 」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

テレビ畑の水野格監督による、
オリジナルのミステリー映画で、
「あなたの番です」風の設定でありながら、
二重三重に仕掛けのあるストーリーが展開します。
こういうものは大好物なので、
余計な情報が入る前にと、
公開初日に映画館に足を運びました。
感想は…
うーん、ちょっと微妙な感じでした。
以下明確なネタバレはありませんが、
内容に少し踏み込むところはありますので、
鑑賞予定の方は、
必ず鑑賞後にお読みください。
よろしいでしょうか?
それでは続けます。
これはそこそこ楽しんで観ることの出来る作品に、
仕上がっているのですが、
過去の有名などんでん返し映画の名作の趣向を、
かなり露骨にパクッているんですね。
それは主に2つの作品(映画)なのですが、
仕掛け自体と言うよりも、
その仕掛けが分かる瞬間の演出を、
ほぼそのままという感じで再現しているのです。
これはちょっとまずいですよね。
監督は「ブラッシュアップライフ」の演出で有名になった方ですが、
あの作品は脚本はバカリズムさんで、
過去作に影響されたような部分はあるものの、
基本的には作者のオリジナルな世界を紡いでいますよね。
タイムリープ的設定はありきたりのものですが、
それを活かす手法にオリジナリティがありますよね。
でも、今回の水野監督の脚本は、
ストーリーはオリジナルではあっても、
後半のポイントとなる部分の演出は、
ほぼその通りに過去作をなぞっているのです。
これがまずいと思うのは、
元になった過去作を観ていない人が、
この映画を観て衝撃を受けた場合に、
その後にオリジナルの作品を観ても、
もう初見の時の衝撃を受けることが出来ないでしょ。
これは絶対にやってはいけない掟破りのように、
個人的には思いました。
「あなたの番です」的に田中圭さんを出したり、
007シリーズ風の世界が挿入されたりするのは、
これはもうパロディとして成立しているので、
悪くないと思いますし、
他の映画の小ネタ的なものも、
悪くないと思うのですが、
どんでん返しの演出自体をそのまま再現するというのは、
小説であれば密室トリックをそのままパクる、
というのとほぼ同じことではないでしょうか?
監督はセンスと才能のある方だと思うので、
今後は是非再考して頂きたいな、と思いました。
そんな訳でちょっとモヤモヤする映画だったのですが、
こうしたオリジナルのどんでん返し映画は、
大好きであることは間違いがないので、
真の意味でオリジナルのどんでん返し映画を、
監督には是非期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

テレビ畑の水野格監督による、
オリジナルのミステリー映画で、
「あなたの番です」風の設定でありながら、
二重三重に仕掛けのあるストーリーが展開します。
こういうものは大好物なので、
余計な情報が入る前にと、
公開初日に映画館に足を運びました。
感想は…
うーん、ちょっと微妙な感じでした。
以下明確なネタバレはありませんが、
内容に少し踏み込むところはありますので、
鑑賞予定の方は、
必ず鑑賞後にお読みください。
よろしいでしょうか?
それでは続けます。
これはそこそこ楽しんで観ることの出来る作品に、
仕上がっているのですが、
過去の有名などんでん返し映画の名作の趣向を、
かなり露骨にパクッているんですね。
それは主に2つの作品(映画)なのですが、
仕掛け自体と言うよりも、
その仕掛けが分かる瞬間の演出を、
ほぼそのままという感じで再現しているのです。
これはちょっとまずいですよね。
監督は「ブラッシュアップライフ」の演出で有名になった方ですが、
あの作品は脚本はバカリズムさんで、
過去作に影響されたような部分はあるものの、
基本的には作者のオリジナルな世界を紡いでいますよね。
タイムリープ的設定はありきたりのものですが、
それを活かす手法にオリジナリティがありますよね。
でも、今回の水野監督の脚本は、
ストーリーはオリジナルではあっても、
後半のポイントとなる部分の演出は、
ほぼその通りに過去作をなぞっているのです。
これがまずいと思うのは、
元になった過去作を観ていない人が、
この映画を観て衝撃を受けた場合に、
その後にオリジナルの作品を観ても、
もう初見の時の衝撃を受けることが出来ないでしょ。
これは絶対にやってはいけない掟破りのように、
個人的には思いました。
「あなたの番です」的に田中圭さんを出したり、
007シリーズ風の世界が挿入されたりするのは、
これはもうパロディとして成立しているので、
悪くないと思いますし、
他の映画の小ネタ的なものも、
悪くないと思うのですが、
どんでん返しの演出自体をそのまま再現するというのは、
小説であれば密室トリックをそのままパクる、
というのとほぼ同じことではないでしょうか?
監督はセンスと才能のある方だと思うので、
今後は是非再考して頂きたいな、と思いました。
そんな訳でちょっとモヤモヤする映画だったのですが、
こうしたオリジナルのどんでん返し映画は、
大好きであることは間違いがないので、
真の意味でオリジナルのどんでん返し映画を、
監督には是非期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「ラストマイル」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

人気ドラマ「アンナチュラル」と「MIU404」との同次元の世界を舞台に、
野木亜紀子さんのオリジナル脚本を、
テレビの演出にも関わったが塚原あゆ子さんが監督した映画が、
今ロードショー公開されています。
ネット通販大手の配送センターから配送された荷物が、
開封と同時に爆発するという事件が連続して起こり、
新センター長として赴任したばかりの満島ひかりさんと、
その部下の岡田将生さんがその対応に追われますが、
そこに警察の捜査が絡む中、
流通革命の歪みのようなものが、
事件を通して浮かび上がって行きます。
これは素晴らしかったですよ。
テレビドラマを起点とした娯楽映画としては、
踊る大捜査線の映画第一作に匹敵するくらいじゃないかしら。
流通革命でのし上がった巨大流通産業が、
その利便性の一方で、
今の社会の不幸の元凶になっている、という、
誰もが分かっていながら、
あまり真正面からドラマ化することの難しいテーマに、
真向から挑んでいる、という点がまず凄いでしょ。
流通革命とデジタル化が、
一握りの大金持ちを生み出す一方で、
殆どの人間を不幸にして、
間違いなく今の世界を、
滅亡に向かわせているんですよね。
その「悪」の表現は、
ややステレオタイプで、
その解決もやや昭和の臭いのするのが難ですが、
このテーマに勝負を挑んだという時点で、
この作品の値打ちがあると思います。
台本の密度が素晴らしいでしょ。
主役の2人がちょっと得体が知れないんですね。
その言動も結構矛盾に満ちていて、
こうしたキャラを主軸に据えることは、
かなり冒険でもあるのですが、
それを満島ひかりさんと岡田将生さんに演じてもらうことによって、
観客に納得をさせつつ、
この2人の正体も知りたい、
という興味もあって物語を引っ張ってゆくことに成功しているのです。
この辺りの計算もとても巧みです。
ミステリーとしても、
爆弾がどのように仕掛けられたのかという、
ハウダニエットを主軸に据えて、
犯人の正体が二転三転する辺りも、
非常に考えられていると感心しました。
それでいて、クライマックス前に犯人の正体は明かして、
最後の爆弾解除を巡る攻防に、
最初から用意された幾つかの人間ドラマを、
集約させるという手際も、
なかなか鮮やかだったと思います。
最初の斬新さと比較すると、
最後はかなり予定調和的に落ち着いたな、
という感じはあるのですが、
それでも現代の最大の「悪」の1つに、
恐いもの知らずに斬り込んだ、という感じの力作で、
現代を代表する社会派娯楽映画として、
是非劇場でご覧頂きたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

人気ドラマ「アンナチュラル」と「MIU404」との同次元の世界を舞台に、
野木亜紀子さんのオリジナル脚本を、
テレビの演出にも関わったが塚原あゆ子さんが監督した映画が、
今ロードショー公開されています。
ネット通販大手の配送センターから配送された荷物が、
開封と同時に爆発するという事件が連続して起こり、
新センター長として赴任したばかりの満島ひかりさんと、
その部下の岡田将生さんがその対応に追われますが、
そこに警察の捜査が絡む中、
流通革命の歪みのようなものが、
事件を通して浮かび上がって行きます。
これは素晴らしかったですよ。
テレビドラマを起点とした娯楽映画としては、
踊る大捜査線の映画第一作に匹敵するくらいじゃないかしら。
流通革命でのし上がった巨大流通産業が、
その利便性の一方で、
今の社会の不幸の元凶になっている、という、
誰もが分かっていながら、
あまり真正面からドラマ化することの難しいテーマに、
真向から挑んでいる、という点がまず凄いでしょ。
流通革命とデジタル化が、
一握りの大金持ちを生み出す一方で、
殆どの人間を不幸にして、
間違いなく今の世界を、
滅亡に向かわせているんですよね。
その「悪」の表現は、
ややステレオタイプで、
その解決もやや昭和の臭いのするのが難ですが、
このテーマに勝負を挑んだという時点で、
この作品の値打ちがあると思います。
台本の密度が素晴らしいでしょ。
主役の2人がちょっと得体が知れないんですね。
その言動も結構矛盾に満ちていて、
こうしたキャラを主軸に据えることは、
かなり冒険でもあるのですが、
それを満島ひかりさんと岡田将生さんに演じてもらうことによって、
観客に納得をさせつつ、
この2人の正体も知りたい、
という興味もあって物語を引っ張ってゆくことに成功しているのです。
この辺りの計算もとても巧みです。
ミステリーとしても、
爆弾がどのように仕掛けられたのかという、
ハウダニエットを主軸に据えて、
犯人の正体が二転三転する辺りも、
非常に考えられていると感心しました。
それでいて、クライマックス前に犯人の正体は明かして、
最後の爆弾解除を巡る攻防に、
最初から用意された幾つかの人間ドラマを、
集約させるという手際も、
なかなか鮮やかだったと思います。
最初の斬新さと比較すると、
最後はかなり予定調和的に落ち着いたな、
という感じはあるのですが、
それでも現代の最大の「悪」の1つに、
恐いもの知らずに斬り込んだ、という感じの力作で、
現代を代表する社会派娯楽映画として、
是非劇場でご覧頂きたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「箱男」(2024年映画版) [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。

大好きな石井岳龍さんが、
安部公房さんの「箱男」を、
1970年代風のアングラ映画として監督しました。
評判がとても悪いので、
「大丈夫かしら」と思ったのですが、
なかなかどうして、アングラ映画としては、
決して悪くありませんでした。
これはもう本当に、
1960年代から1970年代のATG映画みたいな感じなんですよね。
そこに紛れて上映しても分からないくらいの雰囲気です。
なので、ATG映画が好きな人には、
お勧めの出来る作品ですが、
ああいう、理屈っぽくて、観念的で、
意味不明で暗い映画は嫌だ、
という向きには拒絶反応を起こすのでダメです。
人によって感想は大きく変わると思うので、
出来ればおひとりでの鑑賞をお勧めします。
友達や恋人と一緒に行って、
感想が同じという可能性はかなり低く、
鑑賞をきっかけとして、
人間関係に亀裂が生じる可能性があるからです。
安部公房さんの映画というと、
中学生の時に「おとし穴」と「砂の女」の2本立てを名画座で観て、
確か池袋の文芸座か日比谷の日劇文化だったと思います。
どちらかと言うと、
名作とされる「砂の女」が目的であったのですが、
「砂の女」の方はあまりピンと来なくて、
「おとし穴」の方が衝撃的で印象に残りました。
舞台となる炭鉱町の雰囲気の異様さ、
それから田中邦衛さんの不気味さも出色でした。
今思うと「砂の女」はエロスがテーマで、
あれはもう中学生に分かる感じのエロスではないのですね。
「箱男」については、
高校1年の時の課外活動で、
読書の感想を言い合うような機会があったのですが、
その時にある同級生が、
「箱男」の話を黒板に絵を描きながらしてくれたのを、
何故か今でも良く覚えています。
その説明の大部分は、
小説の最初に書かれている、
「箱男の箱の作り方」で、
それ以外の説明は殆どありませんでした。
「箱男」は手記の体裁を取りながら、
その執筆者の人格は後半に至って、
かなり頻繁に入れ替わり、
それが同一人による創作であるのか、
複数の人間が書いたものの集合体であるのか、
最後まで判然とはしない、
という趣向の小説です。
ラストに描かれるのは、
寂れた医院を1つの箱に見立てて暗室化し、
その中で誰とも知れぬ男性と、
ヒロインの女性が闇の中で裸で愛し合う、
という「砂の女」に通底するエロスになります。
こんなものを高校1年生の男子生徒が完全に理解したり、
共感を覚えたりしたら余程のことですが、
多分今思うと最初の部分しか、
この同級生は読んではいなかったのではないかと、
個人的には思っています。
石井岳龍さんは、
「蜜のあはれ」にしても「パンク侍…」にしても、
難解な原作を徹底して読み込んだ上で、
映像的な1つの解釈と理解の姿を、
極めて明晰に提示してくれる映画作家です。
これは演劇では蜷川幸雄さんのスタンスに近いもので、
蜷川さんの芝居も、
その解釈は極めて明晰で、
村上春樹さんの「海辺のカフカ」も、
死んだ兄弟と共に、
「父」の罪を清算しようという話であることに、
初めて気づいた思いがしましたし
(今うろ覚えなのでこの解釈は間違いかも知れません)、
「ゴドーを待ちながら」も、
蜷川版で初めて得心が入った、
という感じがしました。
今回の石井監督も、
原作の「箱男」を徹底して読み込んでいて、
箱の覗き窓をシネスコサイズにして、
映画のスクリーンと一体化させ、
そこに数人の自我が浮かぶ様を見せたり、
箱が向きを変えるというアクションを梃子にして、
画面にリズムを生み出すような技巧を駆使して、
この原作の正統的解釈を示すと共に、
如何にもアングラ芝居的なラストのオチや、
原作の書かれた1973年と、
映画の舞台となった2023年を、
地続きの時空として設定した工夫などによって、
間違いなく石井岳龍映画としても成立させている点がさすがです。
特に箱同士がぶつかる、
舞踏の愚行にも似た格闘のビジュアルは、
奇妙な興奮と快感を呼ぶ名シーンだったと思います。
この作品を貶す人は、
「独白が多くて説明過剰」であったり、
ラストのメタ映画的オチが、
「想定可能で幼稚」であったり、
箱同士がぶつかり合って格闘するのが、
「何が面白いのか分からない」
と批判しているのですが、
これはもうシンプルなアングラ否定に過ぎないのですね。
アングラとは説明過剰で観念的なものですし、
そのラストは観客参加型のものは、
往々にして想定可能で幼稚で恥ずかしい感じのもので、
恥を捨てて幼稚な世界を楽しむ、
という姿勢が必要とされるものですし、
滑稽で愚かでそれでいてエネルギッシュで妙に切なくもあるアクションが、
その見せ場の大きな部分を占めているのです。
それが嫌ならもうアングラが嫌い、
ということなので、
僕が言うことは特にないのですが、
唯一言いたいことは、
「一旦のめり込むと、これ以上沼る娯楽はないよ」
という事実だけなのです。
そんな訳でまずまず楽しめた「箱男」だったのですが、
正直石井監督には、
もう少し予算を掛けて、
「パンク侍…」みたいな映画をまた撮って欲しいな、
あの知恵のある猿が登場した時の異様な光景など、
あれ以上の映画におけるアングラ的風景はない、
と思うくらいの感銘を受けたからです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。

大好きな石井岳龍さんが、
安部公房さんの「箱男」を、
1970年代風のアングラ映画として監督しました。
評判がとても悪いので、
「大丈夫かしら」と思ったのですが、
なかなかどうして、アングラ映画としては、
決して悪くありませんでした。
これはもう本当に、
1960年代から1970年代のATG映画みたいな感じなんですよね。
そこに紛れて上映しても分からないくらいの雰囲気です。
なので、ATG映画が好きな人には、
お勧めの出来る作品ですが、
ああいう、理屈っぽくて、観念的で、
意味不明で暗い映画は嫌だ、
という向きには拒絶反応を起こすのでダメです。
人によって感想は大きく変わると思うので、
出来ればおひとりでの鑑賞をお勧めします。
友達や恋人と一緒に行って、
感想が同じという可能性はかなり低く、
鑑賞をきっかけとして、
人間関係に亀裂が生じる可能性があるからです。
安部公房さんの映画というと、
中学生の時に「おとし穴」と「砂の女」の2本立てを名画座で観て、
確か池袋の文芸座か日比谷の日劇文化だったと思います。
どちらかと言うと、
名作とされる「砂の女」が目的であったのですが、
「砂の女」の方はあまりピンと来なくて、
「おとし穴」の方が衝撃的で印象に残りました。
舞台となる炭鉱町の雰囲気の異様さ、
それから田中邦衛さんの不気味さも出色でした。
今思うと「砂の女」はエロスがテーマで、
あれはもう中学生に分かる感じのエロスではないのですね。
「箱男」については、
高校1年の時の課外活動で、
読書の感想を言い合うような機会があったのですが、
その時にある同級生が、
「箱男」の話を黒板に絵を描きながらしてくれたのを、
何故か今でも良く覚えています。
その説明の大部分は、
小説の最初に書かれている、
「箱男の箱の作り方」で、
それ以外の説明は殆どありませんでした。
「箱男」は手記の体裁を取りながら、
その執筆者の人格は後半に至って、
かなり頻繁に入れ替わり、
それが同一人による創作であるのか、
複数の人間が書いたものの集合体であるのか、
最後まで判然とはしない、
という趣向の小説です。
ラストに描かれるのは、
寂れた医院を1つの箱に見立てて暗室化し、
その中で誰とも知れぬ男性と、
ヒロインの女性が闇の中で裸で愛し合う、
という「砂の女」に通底するエロスになります。
こんなものを高校1年生の男子生徒が完全に理解したり、
共感を覚えたりしたら余程のことですが、
多分今思うと最初の部分しか、
この同級生は読んではいなかったのではないかと、
個人的には思っています。
石井岳龍さんは、
「蜜のあはれ」にしても「パンク侍…」にしても、
難解な原作を徹底して読み込んだ上で、
映像的な1つの解釈と理解の姿を、
極めて明晰に提示してくれる映画作家です。
これは演劇では蜷川幸雄さんのスタンスに近いもので、
蜷川さんの芝居も、
その解釈は極めて明晰で、
村上春樹さんの「海辺のカフカ」も、
死んだ兄弟と共に、
「父」の罪を清算しようという話であることに、
初めて気づいた思いがしましたし
(今うろ覚えなのでこの解釈は間違いかも知れません)、
「ゴドーを待ちながら」も、
蜷川版で初めて得心が入った、
という感じがしました。
今回の石井監督も、
原作の「箱男」を徹底して読み込んでいて、
箱の覗き窓をシネスコサイズにして、
映画のスクリーンと一体化させ、
そこに数人の自我が浮かぶ様を見せたり、
箱が向きを変えるというアクションを梃子にして、
画面にリズムを生み出すような技巧を駆使して、
この原作の正統的解釈を示すと共に、
如何にもアングラ芝居的なラストのオチや、
原作の書かれた1973年と、
映画の舞台となった2023年を、
地続きの時空として設定した工夫などによって、
間違いなく石井岳龍映画としても成立させている点がさすがです。
特に箱同士がぶつかる、
舞踏の愚行にも似た格闘のビジュアルは、
奇妙な興奮と快感を呼ぶ名シーンだったと思います。
この作品を貶す人は、
「独白が多くて説明過剰」であったり、
ラストのメタ映画的オチが、
「想定可能で幼稚」であったり、
箱同士がぶつかり合って格闘するのが、
「何が面白いのか分からない」
と批判しているのですが、
これはもうシンプルなアングラ否定に過ぎないのですね。
アングラとは説明過剰で観念的なものですし、
そのラストは観客参加型のものは、
往々にして想定可能で幼稚で恥ずかしい感じのもので、
恥を捨てて幼稚な世界を楽しむ、
という姿勢が必要とされるものですし、
滑稽で愚かでそれでいてエネルギッシュで妙に切なくもあるアクションが、
その見せ場の大きな部分を占めているのです。
それが嫌ならもうアングラが嫌い、
ということなので、
僕が言うことは特にないのですが、
唯一言いたいことは、
「一旦のめり込むと、これ以上沼る娯楽はないよ」
という事実だけなのです。
そんな訳でまずまず楽しめた「箱男」だったのですが、
正直石井監督には、
もう少し予算を掛けて、
「パンク侍…」みたいな映画をまた撮って欲しいな、
あの知恵のある猿が登場した時の異様な光景など、
あれ以上の映画におけるアングラ的風景はない、
と思うくらいの感銘を受けたからです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。