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「異人たち」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
異人たち.jpg
山田太一さんの「異人たちとの夏」を原作とした映画が、
イギリス版として今公開されています。

これは1988年に市川森一さんが脚本、
大林宜彦監督の日本版があって、
封切りの時に映画館で観ています。

これは多くの方が言っているように、
すき焼き屋さんの別れの場面など、
大林監督のフィルモグラフィの中でも、
屈指の名場面がありながら、
ラストがゴーストバスターズみたいになって、
安っぽいSFXシーンが繰り広げられるので、
とてもとてもガッカリしたことを、
今でも鮮明に覚えています。
30年前なのにこれだけリアルに再現出来る記憶もあまりなく、
その意味では強烈な映画体験の1つでした。

でもまあ、それこそ大林監督らしい、
と言えなくもありません。
物凄く愛していて、物凄く感動させられて、
それでいて無意味に間抜けで、
何度も裏切られるというのが、
大林映画の唯一無二の魅力であり、
欠点でもあるからです。
「ここまでこんなに頑張ったのに、
何で肝心のところでこんなに滅茶苦茶にしちゃうの」
という映画が沢山あります。

ただ、この映画に関してはちょっと気の毒な部分があるのは、
原作自体も最後のオカルトパートは、
そのまま忠実に映画化したとしても、
少しお間抜けな印象はあるのです。

今回のイギリス版は、
映画ということではなく、
山田太一さんの小説の映画化で、
大林映画のような急なラストの転調はないのですが、
最後はちょっとビックリする感じになっていて、
これは言ってしまっても良いと思うのですが、
懐メロが大音響で流れる中、
主人公が星になるんですね。
真面目に空の星になるのです。

このラストに感動された方もいらっしゃると思うので、
これはもう個人の感性と好みの問題なのですが、
個人的には相当脱力しました。
ある意味大林版とおなじくらいビックリです。

これ、70年代のロックオペラみたいな終わり方ですよね。
それまでとても抑制的なタッチで展開していて、
いいな、いいなと思っていたのに、
これはどうなのかしら。
もっと静かな終わりで良かったのではないかと、
個人的には思いました。

これ、原作をゲイの話にしているんですね。
まあ、今映画化するとすれば、
こうした感じになりますよね。
ロンドンの人気のない集合住宅に、
酒とドラッグとセックスの退廃的な日々というのは、
「トレインスポッティング」みたいな感じもありますね。
まあそれがイギリスで映画化する意味、
ということなのかも知れません。

この物語の「異人」というのは、
足もあるし鏡にも映るし、昼間も平気だし、
全く普通なんですね。
異常なのは、両親と息子が同じ年まわり、
ということで、
その異常さだけで異界を成立させてしまう、
というのがこのお話の一番のオリジナリティである、
という気がします。
結局生きている人間の方が狂わざるを得なくなるんですね。
それがこの話の不気味さの本質だと思います。

イギリス的な濃密さに満ちた佳品で、
まずまずの見応えがありますが、
かなり特異な感性で成立している映画なので、
好き嫌いは分かれると思います。
鈴木亮平さんの「エゴイスト」に近い感じもありますね。
孤独故の熱情を、偏執狂的に描いた映画です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「オッペンハイマー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
オッペンハイマー.jpg
クリストファー・ノーラン監督の新作で、
原爆の開発計画を主導した理論物理学者のオッペンハイマーの、
数奇な人生を描いたドラマです。

その内容から、
一度は配給会社が手を引いて公開がなくなり、
配給会社が代わって漸く公開となりました。
米アカデミー賞作品賞など7部門の受賞に輝きました。

これはなかなか良かったですよ。

これまで観たノーラン監督の作品の中では、
個人的には「インターステラー」と「メメント」に次いで、
好きな1本です。

ただ、確かに日本公開に躊躇したのも分かる感じがするのは、
本当にアメリカがあまり意味もなく無雑作に日本に原爆を落とした、
ということの分かるようなエピソードが、
かなり直接的にかつ即物的に描かれているので、
見て辛い気分になる方や、
憤りを感じる方もいると思います。

その点は注意の上鑑賞する必要のある映画です。

ただ、アメリカ視点の物語としては、
原爆の開発のいきさつや、その後の世界に与えた影響、
科学者と社会や政治との関係などが、
過不足なくリアルに描かれていて見応えがあり、
何よりオッペンハイマーという、
偉大でも卑小でもない稀有な1人の人間が、
キリアン・マーフィーの肉体をもって、
鮮やかに画面に刻まれていました。

これは絶対アイマックスで観るべき映画で、
音効の迫力が素晴らしいんですね。
原爆実験のカウントダウンの盛り上がりから爆音の迫力、
また原爆投下が成功して、
喜ぶ人達の踏み鳴らす靴音の轟音など、
音の迫力が映画の見せ場の大きな部分を担っているからです。

あまりネタばれは良くないのですが、
アインシュタインがキーパーソンとして登場して、
ほぼ本物、というビジュアルも凄いですし、
物凄く絶妙な役割を果たしていて、
ラストを鮮やかに締め括る辺りに最も感銘を受けました。

色々な感想の方があると思いますが、
原爆開発を扱った映画の中では、
間違いなくトップに位置する意欲的な大作で、
ノーラン監督が外連味は封印しながら、
その映像技巧を駆使して描いた3時間は、
必見の映像体験と言って間違いはないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「マッチング」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
マッチング.jpg
内田英治監督のオリジナル脚本による、
ホラー風味のサスペンス映画で、
こうしたものは嫌いではないので観てみました。

内田監督は三池崇史監督と同じ系統のように理解していて、
大変意欲的な企画も多いのですが、
やや粗製乱造的な面があって、
抜群な作品がある一方で、
一体どんなつもりでこんな作品を作ったのかしら、
というような目を覆うような作品も沢山作っています。
(敢くまで個人的な感想です)

今回はどうなのかしら、
という感じでやや恐る恐る鑑賞しましたが、
まあまあ力が入っている部類と思いました。
マッチング・アプリを素材としたスリラーで、
身近な恐怖感がありますし、
オリジナルとしてはかなり頑張って考えたな、
という感じがあります。
ただ、明らかに設定のミスというか、
ある人物が逮捕された筈なのに、
その後すぐに別の人物を誘拐するという、
おかしなところがあって、
ノベライズの本も立ち読みしたのですが、
矢張り同じ記載になっていて、
特別な説明はありませんでした。

こういうものは、
きちんとオリジナルで辻褄を合わせるのは、
難しい作業であるようです。

あと、ラストのどんでん返しが、
単なるオチとなっていて、
その前の設定をただ引っくり返しただけとなっていたのが、
ちょっと残念でした。
どんでん返しというのは、
それによって物語の構図が一気に反転する、
というようでなければ意味がないので、
こんな捻りであれば、
捻らない方が良かったと感じました。

総じて普通の方にとっては、
配信で充分という感じの映画で、
内田監督のファンと、
オリジナルのミステリーの構成に興味のある方のみに、
お薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「DOGMAN ドッグマン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ドッグマン.jpg
リュック・ベッソン監督の新作アクション映画が、
今ロードショー公開されています。

リュック・ベッソン監督は、
「グランブルー」と「ニキータ」を、
建て替え前のパルコpart3の特集上映で観て、
両作ともそのラストの、
ハリウッド製にはあまりない、
切ない抒情のようなものに魅せられ、
「レオン」、「フィフス・エレメント」、
「ジャンヌダルク」は封切りで観ました。
「レオン」以降は正直オヤオヤという感じがあって、
その後の水増し感のあるアクション映画には、
あまり興味が沸きませんでした。

今回の作品は、アメコミのダークヒーローものを、
ベッソン監督なりに咀嚼した感じのもので、
「ニキータ」の頃のような凄味はないのですが、
最近の作品の中ではかなり力が入っていて、
そのラストの余韻を含めて、
アメリカ製とは違う魅力が充分に感じられる仕上がりでした。

これ、今の世の中なので、
相当苦労した設定になっているんですね。
主人公は狂信的な家族に、
徹底した虐待を受け、
父親の銃撃によって指を失い、
下半身不随になっています。
女装趣味で犬とコミュニケーションの取れる能力があり、
沢山の保護された犬と暮らしていて、
その犬達が主人公を助けて、
ある時は敵と戦い、
またある時は主人公の犯罪行為の手伝いをするのです。

まあ、相当捻った設定ですよね。
今ではこのくらいのことをしないと、
多方面から指摘を受けてしまうのかも知れません。

パターンは「レオン」に近いのですが、
この作品ではアクションやサスペンスよりも、
主人公の生い立ちや心理の動きと、
面談を担当することになった精神科医の女性との交流とに、
力点が置かれているので、
展開の意外性などは語り口で除去されていて、
「レオン」のようなスリルを期待すると、
肩透かしに遭ってしまいます。

ここは昔のベッソン監督の迫力を期待するのではなく、
円熟したある種の境地を、
じっくりと味わうのが吉だと思います。

ベッソン監督のファンであれば、
一見の価値はある作品だと思います。
過度な期待は持たずに、映画館に足をお運び下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「デューン 砂の惑星 PART2」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
デューン パート2.jpg
ドゥニ・ビルヌーブ監督による、
スペースオペラの古典「デューン砂の惑星」映画化のパート2が、
今ロードショー公開されています。

ビルヌーブ監督は「メッセージ」も「ブレードランナー2049」も大好きで、
「デューン」の1作目もとても楽しみに鑑賞したのですが、
ほぼほぼプロローグだけ、という、
「ゴールデンカムイ」状態で、
正直かなりガッカリしました。

ただ、戦闘シーンなどは、
もっと幾らでも盛り上げようはあった筈で、
原作からドラマチックな要素を、
かなり削ぎ落したような作劇は、
ビルヌーブ監督はこういうものは、
あまり得意ではないのかしら、
という危惧を感じる出来栄えでした。

今回の続編は、一応原作の1作目のラストまで描かれているので、
前作よりまとまった感じがあって、
それなりの満足感はある仕上がりになっていました。

ただ、最後怒涛の戦闘シーンを期待したものの、
段取りだけで紙芝居的に、
「戦いがありまして、こちらが勝ちました」
というようにあっさりと終わってしまうので、
かなり落胆を感じたことは確かでした。

考えてみればビルヌーブ監督の作品で、
あまり集団の戦闘場面などは観たことがないので、
どうもこうした場面はあまり得意ではないし、
それほど興味もないのかしら、
というように感じました。

これ、欧米とアラブとの対立と和解、
みたいなものを描いている作品ですよね。

原作自体にもそうした要素はあるのですね。
でも、この映画版はよりその要素を拡大して描いていて、
キリスト教とイスラム教の対立からキリスト教の没落、
みたいなものが描かれ、
救世主は誰か、みたいな話もあります。
香料というのは、要するに石油のことですよね。

今の社会の構図をより明確に取り込んでいて、
それが今回の映画化の意図ではあると思うのですが、
そのせいでSF的設定やセンスオブワンダーの部分が、
何かとても矮小化されてしまった、
という感じはあります。

パート3もあるかも知れない、
というような流れですが、
この上「アラビアのロレンス」の後半みたいな展開が、
延々と続くことになるのもしんどいなあ、
という感じがありますし、
個人的にはビルヌーブ監督には、
「デューン」はこのくらいで終わりにしてもらって、
また新たな異世界を見せて欲しいな、
というように思います。

映像は確かに凄いですが、
「紙芝居」なので、
かなり観客を選ぶ映画だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「セッション」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
セッション.jpg
デイミアン・チャゼルを有名にした、
2014年のアメリカ映画で、
再上映が行われていたので、
これは映画館で是非と思い足を運びました。

師弟の壮絶な対決を描いた音楽映画で、
最初から最後までまさに才気迸るという感じです。

プロのジャズドラマーを目指す、
屈折した家庭環境を持つ青年が、
一流の音楽学校で強烈な個性を持つ教師と出会い、
そのパワハラとしか思えないような指導を受けるうちに、
精神の均衡を崩してゆきます。

最初から全く無駄のない作劇で、
ぐいぐいと作品世界に引き込まれますし、
教師を演じたJ・K・シモンズさんの個性が強烈で、
素材がドラム演奏というのが、
また非常に映像的で素晴らしいのです。

上映時間は107分なのですが、
非常に作劇が濃密なので、
良い意味でもっと長いような印象があります。
前半を観ると「フルメタルジャケット」みたいな感じなんですね。
これだと追い詰められた主人公が、
最後に狂気に陥って暴力的に反逆して、
それで終わりではないか、
というように思ってしまうのですが、
確かにそうしたパートはありながら、
物語はそれで終わらず、
その後でもっと良いお話に着地しかけ、
それはそれで良いのかしら、
と思っていると、
更にそれがひっくり返されて、
殆どの観客の想像を超えるような、
鮮やかなラストに着地します。

後半の展開には特にしびれるものがあるのですが、
何と言ってもラストが素晴らしいですよね。
これ以上はないという鮮やかなタイミングで終わります。
最近はいつ終わったのか分からないような、
タラタラしたエンディングの作品も多く、
それはそれで時代なのかな、とも思うのですが、
この映画のようにビシッとラストの決まった作品を観ると、
やっぱりこれだよね、という気持ちになります。

いずれにしても天才監督の才気が迸る傑作で、
かなりインテリ臭が強いので、
その辺りの好き嫌いは分かれるところですが、
必見であることは間違いがありません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「落下の解剖学」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
落下の解剖学.jpg
フランスのジュスティーヌ・トリエ監督の新作が、
今ロードショー公開されています。
2023年のカンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作です。

カンヌのパルムドールというのは、
かなり異常でヘンテコな作品が多く、
アメリカのアカデミー賞の受賞作が、
最近は流行に合わせて変なものもありますが、
概ね倫理的な「良いお話」が選ばれるのに対して、
突飛で通常の倫理観からは逸脱した怪作が選ばれることが多い、
という特徴があります。
カンヌのパルムドールは芥川賞で、
アカデミー賞は直木賞、くらいの違いがあります。

カンヌのパルムドールを数年間分一気見すると、
頭が正常ではなくなること必定です。

その系譜の中では今回の作品は、
比較的破綻のなくまとまっている、
割合と優等生的な作品で、
米アカデミー賞を取ることはないと思いますが、
取っても不思議はないくらいの映画にはなっています。

フランスの田舎の山荘に、
ドイツ人の夫と高名なドイツ出身の作家の妻、
そして4歳の時の事故のために高度の弱視となった息子が住んでいます。
ある日息子が愛犬と散歩をしていた間に、
屋根裏部屋から転落した夫が死亡し、
家で寝ていたと主張する作家の妻に、
夫殺しの嫌疑が掛かります。

舞台は雪の山荘で密室ですから、
夫の死は、事故死か自殺か妻による殺人の、
3択しかないのですが、
妻が殺人容疑で起訴され、
彼女と旧知の間柄の弁護士が立つことで、
事件は裁判の場に舞台を移してゆきます。

どんでん返しのあるミステリーのような出だしですが、
勿論そうではなく、
裁判自体は決着が付きますが、
「真相」は明らかにされることなく終わります。

大岡昇平さんの「事件」に近い感じのお話ですね。
少年がキーになるところも似ています。
ただ、内容は「事件」よりもっとモヤモヤしていて、
観客のカタルシスは一切ありません。

それでも真相を観客が推測するための情報は、
過剰なくらいに与えられているので、
実際に起こった事件を、
報道からああだこうだと、
茶の間で議論しているのと同じような水準と、
言えなくもありません。

役者の演技は非常に卓越していて、
一家の愛犬がまた、
人間に匹敵する芝居をしています。

1つの家族の悲劇が克明に描かれるのですが、
作り手が誰かに肩入れしているという感じではなくて、
それこそ解剖するように、
人間の心理の綾が切り分けられてゆくので、
観た側がそれを自分で物語に仕立てて理解する、
という趣向の映画なんですね。
作り手の視点を排除しているので、
居心地の良くない感じはあるのですが、
それはそれと割り切って観ることが出来れば、
なかなかの魅力を感じることが出来る映画だと思います。

勿論これならノンフィクションでいいではないか、
という批判は成立するのですね。
でも、ノンフィクションでは実際の人間に、
迷惑やストレスが掛かる結果になるでしょ。
それがないのがフィクションの魅力だと思いますし、
それを言いたいので、
主人公も現実を元にして創作する作家にして、
そこにテーマを語らせているんですね。

そんな訳でなかなかの骨太な力作で、
個人的には楽しめましたが、
「何が言いたいんだ!」と怒る方もあるかと思います。
観る人を選ぶ映画の1つなので、
くれぐれも真相の明らかになるお話ではない、
自分で自分なりの真相を作る作品なのだ、
ということを理解して鑑賞するのが吉だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ボーはおそれている」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ボーは怖れている.jpg
鬼才アリ・アスター監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

アリ・アスター監督は、
「ヘレディタリー継承」が、
ポランスキー監督の某作を見事に換骨奪胎した大傑作で、
次の「ミッドサマー」も「ウィッカーマン」を、
極彩色でリニューアルした、
大ほら吹きのようなカルトでした。

それで次はどうするつもりだろうと、
待ちわびていたのですが、
今回はボーという、
ホアキン・フェニックスさん演じる謎の中年男が、
母親を求めて奇怪な旅を続ける様を、
アメリカ映画の全ての要素を詰め込んで、
それをグロテスクに解体したような異様な肌触りで、
3時間に渡り綴られた大作でした。

感想は…
うーん…
大好きなんだけど、
出来としてはモヤモヤする、
という感じがありました。

今回はそう「地獄の黙示録」みたいな感じですね。
圧倒的な迫力の地獄巡りが、
挿話を連ねたような様式で、
次々と終わることなく続いて行くのですが、
最後までその本質みたいなものには、
触れないままに終わったしまった、
というような感じがある映画でした。

個人的にはとても面白くて全く退屈は感じなかったんですね。
3時間も長いという感じはしなくて、
むしろもっと長くてもいいと思ったくらい。
逆に言うと、この程度で終わったしまったら、
ちょっと残念だな、
という感じが最後まで残ってしまいました。

まずボーという人がどういう人なのか、
良く分からないんですよね。
生活の輪郭が全く分からなくて、
働いているのかいないのかも分からないし、
貧乏なのか裕福なのかも分からないですよね。
最後になって、こういうことでした、
みたいなネタばらしが一応あるのですが、
それを聞いても、やはり良く分からないんですね。
通常の映画にあるような、
「この人はこういう人です」みたいな説明が、
この映画には一切ないからなんですね。

普通はこういう主人公の設定の良く分からない話というのは、
最後になると、ネタバレがあって、
それが分かるように出来ているんですが、
この映画はネタバレはあっても、
それがまたあまり辻褄があっていない感じなので、
腑に落ちた、というようなカタルシスがないのです。

屋根裏に秘密があって、
最後に上って行くのですが、
そこにある秘密というのが、
これもとても納得のゆくものじゃないんですね。
この辺りも「地獄の黙示録」に良く似ていて、
物凄く勿体ぶった前振りをしているのに、
「えっ、これで終わりなの?」
という感じがあるのです。

多くのアリ・アスター監督のファンにとって、
おそらく今回の映画は、
納得のゆくものではなかったと思うんですね。
次作は同じホアキン・フェニックスさんの主演で、
ウェスタンだそうですから、
「またどうなのかなあ」という危惧はあるのですが、
それでも熱烈なファンの1人としては、
その公開を心待ちにしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「夜明けのすべて」(三宅唱監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
夜明けのすべて.jpg
瀬尾まい子さんのベストセラーを、
「ケイコ 目を澄ませば」の斬新な映像表現が印象的だった、
気鋭の三宅唱監督が映画化しました。
原作のPMSとパニック障害の主人公2人を、
人気者で演技派でもある、
上白石萌音さんと松村北斗さんが演じています。

これは映画を観てとても感銘を受けたので、
原作を後から読んだのですが、
映画は原作をかなり大きく改変していて、
読後の印象は映画と別物と言って良いほど違っていたので、
映画の評価もちょっと悩ましいものになってしまいました。

原作を読んでお好きな方が、
この映画をご覧になると、
多分かなりショックを受けるのではないかと思います。
なので、ご覧になる時には、
別物と割り切って鑑賞するのが吉です。
逆に先に映画をご覧になって感動された方は、
是非原作をお読み下さい。
映画の方が良いな、と思われる方もいると思いますし、
その反対の方もいると思います。

映画単体として考えると、
三宅唱監督らしいドキュメンタリー的な映像表現が、
非常に完成度高く駆使されていて、
随所にハッとさせる場面もあり、
特に観客の生理を計算し尽くしたような、
編集が素晴らしいと思います。

ホリプロが主体の映画なので、
分かり易さを重視しながら、
監督の個性はしっかり出されている、
という点にも感心しました。

主役2人の演技がまた素晴らしく、
特に松村北斗さんは、
最初の如何にも関わると面倒そうな雰囲気から、
ラストの笑顔までの振幅の大きさが見事で、
これまでの代表作と言って良い仕上がりでした。

ただ、前述のように原作とはほぼ別物で、
それもかなり根幹の部分を変えてしまっているので、
その点について以下少し比較してみます。

ネタバレになりますので、
これから原作を読まれる予定の方や、
映画を鑑賞予定の方はご注意下さい。

よろしいでしょうか?

では続けます。

映画を観ると、
「ははあ、これは恋愛感情なしの男女の交流を描いた映画なのね」
というように思うのですね。
そうした台詞もありますし、
普通は最後は一緒になるか、
ならなくてもちょっといい雰囲気にはなるか、
一度別れても最後には再会するのか、
そのどれかになると思うでしょ。
でもそうならないんですね。
上白石さんのお母さんがパーキンソン病で介護が必要となり、
実家に戻ってしまう一方、
松村さんの方は最初は馬鹿にしていた中小工場に残ることになり、
特別な感慨もなく、2人は別々の道を歩んで、
それで終わってしまうのです。
ある意味斬新な終わり方で、
現実なんて多分そんなものでしょうし、
悪い気分にはならないんですね。

でも、原作を読むと全然違っていて、
そちらは最後、
2人は中小工場でそのまま働き続け、
何となくいい感じになって終わるんですね。
とても普通の終わり方です。
映画の上白石さんの役の母親も、
原作ではぴんぴんしていて、
別に介護が必要にもならないのですね。

そもそも2人の勤めている会社も、
ネジなどを作って売っている中小企業で、
プラネタリウムなどとは何の関係もないんですね。
クライマックスは上白石さんの役の女性が盲腸で入院して、
一念発起した松村さん役の男性が、
初めて頑張って病院まで遠出する、
というエピソードになっています。
まあ、ベタな感じではあるのですが、
それを映画はバッサリ切って、
プラネタリウムの話を創出しているのです。
そこで朗読される題名に結び付く感動的なメッセージも、
勿論原作にはありません。

他にも改変箇所は山のようにあって、
パニック障害の男性が、
薬を飲みながら軽トラを運転している、
という原作の設定などは、
怒られてしまうのが必定ですから、
変えて仕方がないのですが、
ほぼほぼ全ての設定を変えまくっていて、
残っているのは、
松村さんの髪を上白石さんが切る場面と、
上白石さんのイライラを、
行動療法的なアプローチで、
松村さんが解消して上げるという場面ですね。
この2つは映画でも非常に印象的ですが、
この場面の鮮烈さは、
原作の良さなのです。
端的に言えば、この2つの場面を残して、
他の全ては総とっかえしたのが、
映画版の「夜明けのすべて」です。

これは原作もいいし、映画もいいんですね。
でもその良さはかなり異なるフェーズのものなので、
これは是非両者を味わうのが吉だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「哀れなるものたち」(2024年日本公開映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
哀れなるものたち.jpg
ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した、
ギリシャ出身の鬼才ヨルゴス・ランティモス監督の新作映画が、
今ロードショー公開されています。

イギリス・アメリカなどの合作ですが、
基本ヨーロッパ映画なのだと思います。
「逆転のトライアングル」などにも通底する、
退廃と終末感に溢れた作品で、
全てのディテールは過剰で装飾的で、
それでいて知的に世界を読み解こう、
この世界の終末を分析しよう、
という理知的な手触りも共通しています。

この理屈っぽく知的な部分が、
アメリカ映画にはない、
ヨーロッパ映画の昔からの魅力です。

原作は未読ですが、
1990年代初頭に書かれていて、
フランケンシュタインの物語を現代に読み替えた、
偽古典のような作品であるようです。

舞台は19世紀末のロンドン、
エマ・ストーン演じる、
夫から虐待を受けていた女性は、
自分の娘を身ごもったまま、
身を投げて自殺するのですが、
それをウィリアム・デフォー演じるマッドサイエンティストが、
胎児の脳を移植することで蘇生します。

この母親の身体に娘の脳を持つ人造人間は、
マッドサイエンティストを父親として育つのですが、
彼女に思いを寄せる男達に翻弄され、
その狂暴で無垢な個性のままに、
ヨーロッパ世界を旅することになるのです。

要するに「男にとって都合の良い女性」は、
男によって造られた人造人間だ、
ということなのですね。
物語は彼女が世界を旅して自我に目覚め、
自立した女性として生まれ変わるまでを、
滅びゆくヨーロッパ世界の、
熟し過ぎた果実のような退廃的な魅力と共に描きます。

こういうお話の常で、
登場する男どもはほぼ全てろくでなしかクズなので、
一応男の端くれとしては、
観ていてあまり居心地の良い感じはしません。

ただ、それを脇に置いておけば、
物語は豊饒なロマンの魅力に満ち、
残酷やエロス、グロテスクや見世物的過剰さも、
フェリーニの映画を観ているようで、
懐かしく鑑賞することが出来ました。
ただ、基本的に「ヨーロッパなんてもう終わりさ」
という雰囲気が濃厚に感じられる映画なので、
基調音はかなり重苦しくも感じられます。

総じてヨーロッパ映画(とてもザックリの括りですが)のお好きな方には、
完成度も高くお勧め出来る作品です。
ただ、この監督の常で、
魚眼レンズを駆使した撮影や読みづらいタイトルなど、
かなり癖のある絵作りなので、
それほど観易い作品ではないことは、
一応理解の上鑑賞して頂くのが吉だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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