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北野武監督「首」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日ですが、
午前中は区民健診の当番日なので、
健診の診療は行う予定です。

日曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
首.jpg
一時はお蔵入りの可能性もあった、
北野武監督の新作時代劇「首」が、
今ロードショー公開されています。

これはもうとても楽しみで、
公開初日に映画館に出掛けました。

ザックリの感想としては、
思っていたよりも数段良かったです。

これね、黒澤明監督なら「影武者」、
大島渚監督なら「御法度」みたいな作品ですね。
どちらもその監督ならではの個性の横溢したカルトで、
ただ、その監督の代表作という訳ではなくて、
「老いたり」という感じもあるんだけど、
それでも監督でないと絶対に撮れない、
という感じの絵があって、
捨てがたい魅力のある映画です。

「影武者」も物凄い悪口を、
公開の時は言われたんですね。
悪口を言うことが、知識人のたしなみ、というような感じ。
でも、監督の本当のファンなら、
そう悪く言えるような作品ではないですよ。
完成度は確かに低くて、
その点で幾らでも悪くは言えるのですが、
間違いなくカルトの魅力に溢れていました。

「御法度」も同じで、
大島監督老いたり、という感じは勿論あるのですが、
ラストの尋常ならざる感じは、
大島監督作品の中でも白眉の1つと、
そう感じさせるものがありました。

今回の映画は、
予告だけ見ると、
「ああ、戦国時代で『アウトレイジ』をやるだけのことね」
みたいに思いますよね。

でもそうではないんですね。
「座頭市」で、
ちょっとシュールでスタイリッシュな時代劇をやったのですが、
あまり成功ではなかったですよね。
多分ちょっと気負い過ぎたのではないかと思うのですね。
それで今回はもっと肩の力を抜いた感じで、
監督が面白いと思う時代劇の要素を、
ともかく全部叩き込んだような1本になっているんですね。
「アウトレイジ」もあるけれど、それは部分的なもので、
「影武者」と「乱」の黒澤後期時代劇の世界もあるし、
泥の中の殺陣は「七人の侍」のオマージュですね。
「ガルシアの首」のペキンパーも出て来るし、
大島渚監督の切腹描写と男色描写もあるでしょ。
途中で忍びの里の異界が出現すると、
かつての東映時代劇を、
深作監督が再構築した忍者映画みたいなタッチもあるし、
石井輝男監督の残酷時代劇みたいな部分もありますよね。
また石井岳龍さんの大傑作「パンク侍、斬られて候」を、
彷彿とさせる破天荒さもありました。

間違いなく北野映画で一番の大作だと思いますが、
合戦描写もきちんとやっていて、
掛けたお金が無駄になっていないですよね。
特に大抵ナレーションでしか説明されない山崎の戦いが、
しっかりと描写されていたのは感心しました。
その一方で監督悪ノリの不真面目なアドリブ合戦もあって、
それがキチンと作品の流れを邪魔していないのが、
さすがと思います。

かなり出鱈目で、完成度の高い映画ではないのです。
でも、間違いなくカルトとして残る1本だと思います。
VFXの質も高くて、
題名の通り、ワンカットで人間の首が、
ビュンビュンと飛ぶのですが、
不謹慎ですがワクワクするような魅力がありました。

キャストは皆好演ですが、
特に準主役で狂言回し的な役柄を演じた木村祐一さんが、
元忍びで語り芸の新境地を開いた芸人という役柄を、
巧みに描いて作品に1本の筋を通しているのが、
見応えがありました。

そんな訳で北野映画のファンは勿論必見ですが、
かつての娯楽映画の好きな方には、
シネフィルとしての北野監督が、
そうした映画愛をおもちゃ箱的に表現した、
稚気溢れるカルト映画として、
あまり過度な期待はせずに足を運んで頂きたいと思います。

僕は大好きですが、
この映画を絶賛する人も、
罵倒する人も、
おそらく何等かのバイアスからの感想と思って、
それに惑わされずにご覧頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ドミノ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドミノ.jpg
ロバート・ロドリゲス監督の新作SFアクション映画が、
ベン・アフレックの主演で今公開されています。

仮想現実を操る男との対決とか、
予想外のどんでん返しの連続、
みたいな煽りがあったので、
そうした仕掛けのあるお話は大好きなので、
それでも、まあそれほどの期待はせずに出掛けました。

結果は、
控え目な予想を更に裏切る、
相当ショボい映画で、
要するに低予算のB級映画なんですね。

「インセプション」や「ドクターストレンジ」みたいな、
空間が無限ループみたいに歪む映像が予告編にあったのですが、
実際には殆どそんな場面はなくて、
予告編に使われたものでほぼ全て、
という感じでした。
それもきちんとCG使っている感じではなくて、
映像パネルの前で演技して胡麻化した、
という感じのビジュアルでした。

内容も何を今更、というような、
相当お寒い感じで、
まあ「メメント」と「マトリックス」をミックスしたような話なのですが、
「メメント」のような知的スリルは微塵もなく、
「マトリックス」の100分の1以下くらいのスケール感でした。

1時間33分という上演時間は手頃で、
ちょっと時間が空いた時に観られるのは良いのですが、
その短さは納得という内容の貧弱さで、
配信でこれはもう充分かな、
そもそも映画館で公開するつもりで製作したのかしら、
と疑問に思うような作品でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ゴジラ−1.0」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ゴジラ-1.jpg
山崎貴監督によるゴジラの新作映画が、
今公開されています。

怪獣映画は大好きなので期待して出掛けました。

内容は微妙なところで、
これは「永遠のゼロ」と「ゴジラ」のミックス、
というような作品なんですね。

うーん、それだと結構好き嫌いが分かれてしまうと思うんですね。
正直観たいのは純粋な怪獣映画なので、
勿論そんなものは存在しない、
と言われればそれまでなのですが、
文芸映画と怪獣映画をミックスするとしても、
あまり特攻の生き残りみたいな設定は、
よろしくなかったように思えてなりません。

戦争映画と怪獣映画は基本的に別物だと思うのですね。
同じような兵器や戦いが登場するとしても、
それは別物で、
戦争は現実であって、
そこには思想性や社会性が、
当然の如く付き纏っている訳ですが、
そこから自由に解き放たれた状態で、
「怪獣との闘い」を純粋に娯楽として楽しめる、
というのが怪獣映画のメリットではないのでしょうか?

要するに戦争映画からそれ以外の要素をはぎ取って、
純粋に娯楽にしたのが、
怪獣映画という考え方です。

そこに戦争の要素、特に特攻などの要素を入れてしまうと、
これはもう本末転倒と言うか、
戦争映画として観ざるを得なくなってしまうので、
それはまずかったように個人的には感じました。

怪獣映画としては非常に優れていて、
色々なパニック映画のパターンを総ざらいしているんですね。
オープニングのゴジラ登場は、
ハリウッドゴジラ的テイストですし、
海で小舟と戦うところは、
これは「ジョーズ」そのものですよね。
原作のオマージュ的銀座壊滅を経て、
ラストの崩壊シーンは「鬼滅の刃」の鬼のテイストでした。

頑張っているのは分かるだけに、
どうして戦争映画にしてしまったのかな、と、
それだけが悔やまれる「怪獣映画」でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
キラーズオブザフラワームーン.jpg
名匠スコセッシがメガホンを取り、
ディカプリオとデ・ニーロが競演した話題の映画が、
今公開されています。

上映時間206分、3時間半近いという大作で、
それで途中休憩なしというのは、
かなりの覚悟を要します。

ただ、
語り口は平明で奇を衒ったところはないのですが、
名匠の演出と堂々たる絵作りはさすがに見ごたえがあり、
名優の演技に見惚れているうちに、
それほどのストレスなく、
最後まで休憩なしで完走することが出来ました。

最近あまりない、
劇場公開映画らしい映画だと思います。
それでいてバックはamazonですから、
もう映画館で上映するために作られる映画というのは、
なくなる流れになるのかも知れません。

内容はアメリカの過去の先住民に対する犯罪を、
告発するノンフィクションの映画化で、
先住民の一家を次々と殺害して、
石油の利権を手に入れようとする悪党をデ・ニーロが演じ、
その甥で真相を知らないままに犯罪に加担する主人公を、
ディカプリオが演じます。

ただ、その素材からイメージされるような、
ドロドロした感じではなく、
語るべきことはしっかりと語りながらも、
タッチはドライで感情的ではなく、
誰にでも内容がそのまま伝わるような作劇となっています。
この辺りにもスコセッシの円熟が感じられます。

オープニングの町の描写が、
俯瞰やドローンの活用、
CGの節度のある使用などと相俟って、
スケール感とリアルさが両立されているのが好印象です。
その後の展開も殺される先住民一家の人物描写が巧みで、
家族の抗争劇として、
「ゴットファーザー」のような気分で観ることが出来ます。
その後はディカプリオとデ・ニーロの真向演技対決が、
これはもう映画ファンには至福の時間を約束してくれるのです。
ラストはタバコ会社がスポンサーの、
ラジオドラマとして締め括られるという、
そのアイロニカルでコミカルなオチも抜群で、
名匠の手際を心ゆくまで味わることが出来ました。

今映画らしい映画を観たい、
という向きには、絶対のお薦めで、
社会派映画と気合を入れるのではなく、
名匠と名優の名人芸を、
時間を忘れてゆっくりと味わうのが吉だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「愛にイナズマ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
愛にイナズマ.jpg
石井裕也監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

撮影時期は違うのでしょうが、
同じ石井監督の「月」と同時公開となっています。

物凄く褒めている批評を読んで、
ちょっと興味が沸いたのですが、
スケジュールを見ると、
早くも公開は縮小されていたので、
頑張って映画館に足を運びました。

この作品はコロナ禍の現在から始まって、
松岡茉優さん演じる新人映画監督を主人公に、
生きづらい現代での格闘から、
自分が振り捨てて来た家族と向き合い、
その再生に向かうという物語です。

それをきっかりとした構成の語り口ではなく、
即興的で自由度の高い作劇で見せて行きます。
その遊びの部分を楽しめるか、
それとも無駄で冗長に感じるのかが、
この作品の評価を分けるポイントで、
個人的にはこうした冗長さが嫌いではないのですが、
破格なら破格で、後半はもう少し予想外の展開や仕掛けが、
あっても良かったな、というのが正直な感想でした。

これはかなり作家性の強い作品で、
主人公は松岡茉優さん演じる新人映画監督なのですが、
彼女の作家性が全く評価されず、
自分の家族をテーマにした作品を準備していたのに、
質の悪い助監督に企画自体を奪われてしまう、
というような設定になっています。

この設定は要するに監督自身が反映されているのですね。

それで映画の現場から弾かれてしまった主人公は、
自分だけの手で家族の映画を完成させようと、
改めて疎遠になっていた家族と向き合うことになるのです、

「愛にイナズマ」という題名は、
多分園子温さんの「愛のむきだし」が、
元になっているのではないかと思うのですね。
仰々しいサブタイトルを多用しているのもそうですし、
大袈裟な展開や宗教を取り入れている点もそうですね。
雷鳴に白いマリア像と赤い薔薇が浮かぶのは、
明らかにそのトリビュートだと思います。

ただ、「愛のむきだし」のような、
ぶっ飛んだ展開を期待すると、
今回の作品はそこまでではなくて、
ちょっと期待させるだけ期待させておいて、
最後は肩透かしという感じが、
正直少しありました。

ただ、これはこっちの勝手な期待が、
悪かっただけのことで、
これはそうした性質の作品では、
最初からなかったのかも知れません。

キャストは今絶好調の松岡さんが絶妙で、
脇のキャストも充実度が高いので、
まずはその演技の競演を楽しむことが出来ました。

総じて、それほど高い期待を持って観なければ、
まずまず楽しめる映画ではあるのですが、
一部の絶賛に引き摺られて足を運ぶと、
落胆してしまう結果になるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「月」(石井裕也監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は院長の石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
月.jpg
相模原障碍者施設殺傷事件を元にした、
辺見庸さんの同題の小説を原作とした映画が、
今ロードショー公開されています。

これは原作は、
外界とのコミュニケーションが一切取れない、
障碍者の女性の内面を、
ジョイスばりの意識の流れで描写する、
というかなり実験的な小説で、
実際の障碍者の内面を描いたというよりは、
作者自身がそうした身体状態になった時の内面を、
想像力で描写したという感じの作品です。
事件をもとにはしていますが、
それを正面から描いた、という性質の作品ではありません。

それを「ジョニーは戦場に行った」や、
僕の大好きな「潜水服は蝶の夢を見る」のように、
ナレーションなどを使用してそのままに映像化することも、
不可能ではないと思うのですが、
今回はそうした手法は取ってはいなくて、
原作の主人公の女性は、
その外面を少し描写するに留め、
宮沢りえさん扮する作家の女性を新たに主人公に設定して、
彼女と夫のオダギリジョーさんの物語を主軸に据え、
その関わりの中で事件を描く、
というほぼオリジナルの物語に改変しています。

それで何で辺見庸さんの「月」が原作なのかしら、
というようには思うのですが、
監督の石井さんは筋金入りの辺見さんの大ファンなので、
これはもう充分分かった上でのアクロバティック的な発想なんですね。

途中で犯人役の磯村勇斗さんが、
絞首刑の時の首が折れる音の話をするのですが、
これは石井監督が辺見さんから聞いた話が、
そのまま使われているんですね。
原作には勿論そんな話は出て来ないのです。
つまり、石井監督は原作を映画化するというよりも、
大好きな辺見さんの作品世界のイズムのようなものを、
今回の映画で表現したかったように感じました。

ただ、その情熱は理解した上で、
今回の作品が映画として成功しているかと言うと、
その点はちょっと微妙です。

この映画、前半は割とオドロオドロしい感じなんですね。
登場する施設は幽霊屋敷のようで、
昔は病院を舞台にしたホラーが良くありましたが、
そんな雰囲気なんですね。

登場する職員の二階堂ふみさんにしても、
磯村有斗さんにしても、
他人の心を理解せず、
土足で踏み込んで踏みにじるような、
つまり、SNS全盛の現代的な怪物で、
その2人が主人公の宮沢さんの家で、
彼女を傷つけたり不快にする発言を、
悪意なく言い募るところなど、
恐怖映画のテイストで慄然とするものがありました。

なるほどこれは新しい発想で面白い、
とは思ったのですが、
この調子で事件を再現するつもりなのかしら。
深刻な事件をホラーにしてしまって、
本当に大丈夫なのかしら、
多方面から叱られることにならないのかしら、
というように危惧する思いも同時にありました。

ただ、実際には段々と映画のテイストは変わり、
基本的に傍観者的で知識人を気取る感じの主人公夫婦の、
「芸術家の苦悩」的なテーマが前面に出て、
それに対峙する現実として事件は置かれ、
事件自体は割とリアルに描写されていましたが、
実際の殺人の描写自体は描かない、
というスタイルで終了となりました。

まあ勿論、これで仕方がなかったのかな、
というようには思うのですね。
障碍者を惨殺する場面をそのまま描くことは、
それを結果として残酷見世物にする、
ということになりますから、
到底映像にするべきではないのですね。
そうなると、結果としてこのようになるしかないのですが、
それで映画として成立しているのかと言うと、
ちょっと難しいように思いました。

「芸術家の苦悩」というのは、
身内受けはすると思うのですね。
でも観客の多くは芸術家や表現者ではないと思うので、
その辺りもちょっと計算違いがあったのではないかな、
というようには感じました。

テーマとしては、
「存在すること自体の意味」
という重いものがあるのですが、
個人的にはあまり刺さるテーマではないんですね。

僕も医療従事者で、
障碍のある方や認知症の方に、
接する機会は多いので、
「存在すること自体の意味」ということについては、
割と抵抗なく受け入れられる感じではあるからです。

原作でも映画でも、
老人の入所者が汚物に塗れて自慰行為をする姿に、
衝撃を受けて事件を起こすことを決意する、
という流れになっているのですが、
個人的にはあまりそれが衝撃的とは思わないんですね。

そういうのは日常茶飯事のことだと思うからです。

それより多分あり得るのは、
障碍者や認知症の方に殴られたりする職員はいるんですね。
それから罵倒されたり、
召使のように命令されたり、
汚物を投げつけられたり、
というようなことですね。
こうしたことが積み重なると結構きつくて、
それが理由で施設を辞めるという職員については、
僕も何度か経験があります。

ただ、そうした描写をすると、
それはそれで障碍者の方を悪く描く、
という感じになってお叱りを受けることにもなるので、
その辺りの匙加減は、
現実的には非常に難しいところであるように思います。

総じて、本当に難しいテーマに、
真っ向から取り組んだ力作ではあるのですが、
矢張り正攻法でこのテーマは映画にするのは困難だ、
という事実を確認したような作品でもあったように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「キリエのうた」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
キリエのうた.jpg
岩井俊二さんの新作映画が今公開されています。

岩井さんの映画は、
個人的には「リップヴァンウィンクルの花嫁」が、
何と言っても素晴らしくて、
これはもう僕のオールタイムベストの1本です。

ただ「LOVE LETTER」と「ラストレター」は、
あまり乗らなかったですし、
「スワロウテイル」は公開当時に物凄く期待をして観に行って、
「何だかなあ」という感想でした。

そんな訳で好き嫌いの大きな岩井映画ですが、
今回の作品は「リップヴァンウィンクルの花嫁」ほどではないのですが、
最初のかすれ声のオフコースから、
「いいな、いいな」と思って観ていて、
その後の展開の程よい「おとぎ話」感が心地良く、
ヒロインの歌声が素晴らしいですし、
途中で震災の場面は、
あまりにリアリティのない絵作りで、
ここは「オヤオヤ」という感じはしたのですが、
ラストにオフコースが再現された時には、
結構満足感がありました。

まあ、「リップヴァンウィンクル…」的な世界と、
「ラストレター」的な世界のミックスなのですが、
個人的には「リップヴァンウィンクル…」的部分がとても良くて、
「ラストレター」的な部分もそれほど邪魔にはならなかった、
という作品でした。

アイナ・ジ・エンドさんの個性を巧みに利用していて、
まあ岩井さん的にはCharaさんやCcccoさんの相似形なのですが、
今回アイナさんの歌う小林武史さんの楽曲は、
テーマ曲の1曲だけなんですね。
後は彼女自身の思いつくまま叫んでみた、
みたいな感じのもので、
それを巧みに利用して、
物語自体に何処に行くか分からないという感じの、
不安を孕んだ疾走感のようなものが生まれています。

対峙される広瀬すずさんがまたいいんですよね。
彼女はどんな役をやるときでも、
何か媚びたような計算を感じるのですが、
それを役柄にそのまま映しているのが岩井さんの卓越したセンスで、
その哀しさがラストは心に滲みました。

岩井さんの作品は、
何か禍々しい悪、
それは通常「男」ということなのですが、
そうしたものが登場する作品がいいんですね。
今回は最近の映画で、
男の醜悪さを一手に引き受けているような、
異能の松浦祐也さんが登場し、
北村有起哉さんとハミングの歌しか歌わない石井竜也さんなど、
禍々しさを振りまいているのが、
とても魅力的でした。

物凄く拘って作っている映画の筈なのに、
あの震災の場面の噓臭さと凡庸さは、
一体何なのかなあ、
という感じはどうしても残るのですが、
トータルには心に残るとても素敵な映画で、
最近では一番のお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「BAD LANDS バッド・ランズ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
バット・ランズ.jpg
原田眞人監督の新作映画が今公開されています。

これは一応黒川博行さんの「勁草」という作品が原作ですが、
オレオレ詐欺に関わる物語の骨格の一部は、
確かに原作が使われてはいるものの、
キャラ設定などは大幅に変えられていて、
原作のリアルな雰囲気は皆無となり、
それに代わって原田眞人ワールドが、
大々的に展開されています。

一応作者のコメントもあるのですが、
全く別物と言って良い映画版に、
社交辞令ではなく、
実際にどう思ったのかは興味のあるところです。
おそらく、あまり関心などないのかも知れません。

原田さんの最近の作品、
「検察側の罪人」、「ヘルドックス」、
そして今回の「バッド・ランズ」は、
どれも原作があるのですが、
いずれも原作の世界とは全く別の、
「原田眞人ワールド」に改変されていて、
「検察側の罪人」を観た時には、
何でこんな変梃りんな演出をするのだろう、
と理解不能であったのですが、
要するに原作はただのたたき台に過ぎず、
原田さんが独自に作り上げた、
一種の架空の日本という舞台で、
色々なエピソードが展開されるシリーズ物として、
理解するべき作品であると今回理解しました。

言ってみれば、
バットマンシリーズのような世界観で、
バットマンではニューヨークのようで、
現実のニューヨークとはちょっと違う、
より暴力的で荒廃したゴッサムシティで、
物語が展開されますが、
最近の原田さんの一連の映画も、
現実の日本とはちょっと違う、
より腐敗してより暴力的になった架空の日本で、
展開される物語なのです。

そこでは「検察側の罪人」に描かれたような、
正義のために殺人を犯す検察官がいて、
「ヘルドックス」に描かれたような犯罪組織が暗躍し、
その底辺では今回の映画に描かれたような、
貧困に喘ぐ悪人の騙し合いの世界があるのです。

今回の映画はより縦横無尽に、
その原田ワールドが展開されていて、
主人公の安藤サクラさんは、
マーベルのダークヒロインのように、
2人の自分を凌辱した男に復讐することで、
次のステージに進むという物語を展開していますし、
家族でも骨肉の争いを展開します。

そのアメコミめいた世界観は、
黒川さんのリアルな犯罪小説の世界とは、
全く別物と言って良いのです。

この映画が好きかどうかは、
原田ワールドを受け入れられるかどうかで、
違ってくるのかな、という気がします。

個人的には、
スタイリッシュでグロテスクな世界観には魅力もあるのですが、
暴力的な企業経営者のSMめいた描写や、
時々正気に戻る宇崎竜童さんの極道など、
あまりに絵空事でリアリティがなく、
ゲンナリしてしまったことも事実でした。
勿論そんな人物は原作には全く登場はしていないのです。

そんな訳で、
最近の原田さんの映画が好きな方には、
今回も濃厚でお勧めの映画ですが、
それ以外の方には、
ガッカリする可能性もあることを、
事前にお伝えしておきたいと思います。

原田ワールド全開です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「栗の森のものがたり」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
栗の森のものがたり.jpg
あまり観ることのないスロヴェニア映画
(イタリアと合作)で、
1950年代の忘れ去られた国境の村を舞台に、
妻を失った棺桶職人の老人と、
栗を売る若い女性との交流を、
意識の流れ的な構造で描いた作品です。

何かタルコフスキーの「鏡」みたいな雰囲気なのですが、
監督は30代ですし、
今の映画なんですよね。
そう思うと、字幕の出方であるとか、
時間を頻繁に交錯させたり、
急にミュージカル仕立てになったりするのは、
タランティーノの影響かしら、
というような感じもあります。

ただ、短い割にモヤモヤしたしんどい映画で、
イメージフォーラムで観たのですが、
如何にもイメージフォーラムという感じの作品でした。

つまり、
年間で50本くらい映画を観るという感じの人には向かなくて、
そうですね、200本以上観る人になら、
ちょこっとお薦めしても良いかな、
というような感じの映画でした。

とても一般向けの映画とは言えないのですが、
某週刊誌の映画欄では結構褒めている人が多くて、
勿論悪い訳ではないし映像も美しいのですが、
到底普通に面白いという作品ではないので、
もうちょっと考えて批評して欲しいものだな、
というようには感じました。
ちょっと騙されてしまいました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「スイート・マイホーム」(斎藤工監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
スイート・マイホーム.jpg
神津凛子さんのサイコホラーを原作にした、
斎藤工さん監督の新作映画が今公開されています。

家を舞台にして禍々しい存在のために、
家族が崩壊してしまうというような話は、
昔からホラーの定番ですが、
今回の作品は住宅展示場で契約した、
ありふれた注文住宅で暮らし始めた家族に、
幽霊の仕業のような奇怪な事件と、
身近な人が殺される殺人事件や脅迫などの、
人間によるとしか思えない事件の、
双方が振るかかるという点が面白いポイントです。

ミステリーとして考えるとすぐに底が割れてしまうプロットに、
超常現象(らしきもの)を組み合わせることで、
真相を読みづらくしているんですね。

映画版では家に苦しめられる主人公を、
当代きっての曲者役者、窪田正孝さんが演じていて、
いつもの癖の強い演技を全開で演じています。
最初はこんなに癖のある芝居だと、
主役に感情移入するのが難しいなあ、と思っていたのですが、
後半はそれがむしろ活きて来るというのか、
異様な世界への窪田さんが道案内的に見えるので不思議でした。
物語では窪田さんのお兄さんが、
窪塚洋介さんですから、
何とも癖の強い兄弟だと思いました。

結果として、窪田さんが主人公を演じているので、
結末がより見えにくくなった、
というように思います。
これが狙いであれば冴えていますね。

斎藤工さんは俳優の中でも、
映画の見識が高いことで知られていますから、
どうしても作品の期待は高くなります。

たとえば黒沢清監督のような、
どんな平凡な話であっても、
誰が観ても黒沢監督だと分かる個性的な絵作りを、
期待してしまったのですが、
結果的にはあまりそうした感じではなく、
原作を丁寧に分かり易く映像化する、
というスタイルで一貫していました。

全体に画面にチープな感じが漂うのと、
窪田さんの演技のせいか、
場面のお尻が常に長いのが残念な感じで、
獲物を狙う蜘蛛のカットとか、
役者の正面の象徴的アップなどを、
場面の間に挟む演出も、
何か自主映画的であまり乗れませんでした。

何処か一か所でも、
「あっ、ここ凄い」と言えるような絵が、
あれば印象はかなり変わるのではないでしょうか?

少し残念に感じました。

総じて悪くはないのですが、
映画館に足を運ぶほどのことはなく、
配信で充分かな、という感じの映画ではありました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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