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「Chime」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
chime.jpg
黒沢清監督が、
配信買取という特殊なフォーマットで製作した新作中編映画が、
今映画館で公開されています。

黒沢清監督は勿論大好きで、
この間のフランス版「蛇の道」も、
とても良かったのですが、
今回の映画は個人的には微妙でした。

「CURE」から、
催眠術というファンタジー的な趣向や、
事件の捜査という物語的な部分、
主人公の刑事の夫婦のドラマ要素などを、
全部削ぎ取って、
単純に不条理に人が殺される場面のみを、
繋ぎ合わせたような作品で、
技巧的にはさすが黒沢監督というカットの連続なので、
見応えはあるのですが、
あまりに殺伐として救いのない場面が連続するので、
息が抜けずにしんどい映画ではありました。

「CURE」のことも考えると、
多分主人公は妻と子供を既に殺しているんですよね。
それを隠して普段通りの生活を続けているのですが、
それが次第に破綻してゆく、
というストーリーのように理解しました。
主人公は最初から怪物で、
あの家は「悪魔のいけにえ」の一軒家と同じなのです。
ただ、そうではないと言われれば、
そうでもないようにも思えるので、
無理押しするつもりはありません。

個人的には、
職業柄なのかも知れませんが、
こういう怖さを娯楽として楽しむ、
という気分にはなれないのですね。
精神的にお辛い立場にある人の話は、
良く聞く機会があるので、
それがいきなり即物的に殺人に結び付くような感じの流れは、
あまり良くないもののように感じました。

実際に宇宙人がチャイムを鳴らしていたり、
催眠術で人に殺人をさせる能力のある怪人がいる、
というような虚構を持ってきた方が、
こういうお話では無理がないのではないかしら。
そうした逃げ道をなくしてしまうと、
「精神疾患=怖い」という図式が成立しかねないので、
「ちょっとまずいなあ」と思いながら観ていました。

黒沢監督の「怖い映画」への拘りは、
とても好きですし尊敬もしているので、
こういう方向にはあまり行って欲しくないな、
というのが鑑賞後の正直な気持ちでした。

次回作にまた期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
フライミートゥザムーン.jpg
アポロ計画を巡る悲喜劇を、
人気者同士の恋愛ドラマに絡めて描いた、
娯楽映画を観て来ました。

個人的にはなかなか良かったと思います。

これはね、昔のハリウッド映画の感じなんですね。
それも1970年代くらいに、
キネマ旬報の洋画ベスト10で、
8位か9位くらいを獲得する感じの映画。
ベスト10の上位には絶対ならないのですが、
観てちょっとほっこりするような、
「映画ってこんなんでいいよね」と思えるような映画。

それをかなり忠実にやっているんですね。
主役の2人もちょっとお人形さんみたいで、
このノスタルジックな世界にフィットしていますよね。
時代の雰囲気の出し方がとてもいいですよね。
リアルではなく、その時代の虚構をやっているんですね。
うん。とても素敵です。

1970年代に「アポロは月に行かなかった」という本が、
ベストセラーになったんですね。
それから「カプリコン1」という映画が、
ちょっとしたヒットになって、
これは火星ロケットをでっちあげる話なのですが、
アポロ計画の陰謀論は当時思春期以降の人にとっては、
「ノストラダムスの大予言」と一緒に、
まあ定番のネタではあったのですね。

この映画はその空気感もテーマの1つにしているのですが、
実際にはそれが本筋ということではなくて、
アポロは勿論月に行くのですが、
それをバックアップするフェイク映画の話があって、
それがラブロマンスの彩になっている、
という感じの趣向です。

「夢を見ずして何が人生だ!」というのが、
こうした映画の一貫したテーマで、
でもそれが「アポロ計画」ということになると、
今の世の中の雰囲気としては、
素直にそれを夢だとは言えないですよね。
どちらかと言えば否定的に扱った方が喝采を浴びるのが現在ですが、
この映画はそんな時の流れも分かった上で、
昔風の夢を信じる昔の人達を、
「こんな考え方もあったんですよ、どうですか?」
と肯定も否定もしないで提示しているんですね。
その控え目な感じが僕にはとても好ましくて、
ネットの感想などを読むと、
真面目にそれを批判しているような感じのものも多くて、
何だかなあ、という気分になってしまいます。

これは意図的にノスタルジックな映画で、
今の人には多分批判的にしか見えないかも知れないのですが、
僕も古い人間の1人なので、
これはこれで良かったなあ、
という感じで観ていました。

今の映画はギスギスするなあ、という感じを持たれる、
昔の映画ファンの方にはお勧めの1本です。
ウェス・アンダーソンに似た感じもあるのですが、
あそこまでひねくれた感じではなくて、
もっと素朴でウェルメイドな世界です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ザ・ウォッチャーズ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ウォッチャーズ.jpg
M・ナイト・シャマラン監督の娘さんの監督デビュー作が、
先日ロードショー公開されました。

お父さんのシャマラン監督は、
個人的には「アンブレイカブル」が結構衝撃的で、
その意表を付いた展開に感銘を受け、
次の「サイン」で今度も何かやってくれるだろうと思っていたら、
とても肩透かしの思わせぶりのみの内容で、
公開初日に観て、とてもとても落胆したことを、
かなりはっきりと覚えています。

個人的にはどんでん返しの映画が大好きで、
それも仰々しい謎が前面に押し出されて、
当然その真相が主題になるのだろうと思っていると、
全然そうではなくて、
あまり主筋と関係ないと思っていた部分に、
実はサプライズとテーマがある、
というようなマニア向けの作品が好みです。

小説は海外ではジョン・ブラックバーン、
日本では我孫子武丸さんの作品に、
そうしたものが多いですよね。
両者ともとても好きです。

映画では意外にそうしたものは少なくて、
シャマラン監督には割とそうした作品が多いので、
個人的にはその点が気に入っています。
「アンブレイカブル」がそうですし、
最近では「オールド」がそうでしたよね。

何故か急激に年を取ってしまう謎の浜辺、
というと、
それが何なのか、
とか、
そう見えてそれはトリック、
というような内容を普通は考えるでしょ。
でも、そうではないんですね。
実は急激に年を取るという謎、
なんてものはどうでも良くて、
それ以外の部分に作品の肝があるのです。

今回の作品は、
森の中で謎の存在に監視されている、
というような趣向なので、
ああ、これはその系統の奴かな、
というように思って、
ちょっと期待をして観に行ったのですが、
実際に観てみるとそうではなくて、
超常現象を真面目にやっている、
というような内容であったので、
個人的には少しガッカリしました。

まあ正統的なホラーサスペンス映画で、
そのジャンル物としての出来栄えはボチボチという感じでした。
画面は全体に暗く、
CGは暗さで胡麻化している、
という印象が否めませんでした。

これなら配信のみの作品の方が、
質的には優れているものも多いので、
今後はこうしたジャンル物を、
映画館で観るという機会は減って来るのだろうと思います。

ジャンル物がお好きな方のみにお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ルックバック」(藤本タツキ原作・映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ルックバック.jpg
藤本タツキさんが2021年に発表した、
小説であれば中編くらいのサイズ感の読み切り漫画を、
押山清高さんが脚色監督した映画が、
今ロードショー公開されています。

上映時間も58分で、
1700円の単一料金での、
一般の映画とは異なる興行形態での上映です。

映画自体に一種の中毒性があって、
何度も繰り返し観たくなる内容である上に、
上映時間の短さが、
1日の上映回数を増やすことを可能としているので、
好きな人だけだけが映画館に足を運んでも、
収益が望める興行となっている点がとてもクレヴァーで、
想定通りのヒットになっているようです。

中学生の2人の少女が、
その運命的な出逢いから、
漫画家デビューを果たすサクセスストーリーに、
共同創作にありがちな2人の感情の葛藤を絡め、
更に現実の事件を元にした、
悲劇とそこからの再生を、
タイムリープ的な構成を巧みに活用して、
感動的なラストに集束させています。

原作の漫画を、忠実に映画化しているのですが、
最初の天空から地上に降りて来る時の、
めくるめくようなカメラワークから、
原作にもあった、後ろ姿の創作の様子を、
映画ならではの時間の持続で描いたり、
2人の無垢な少女が運命的に出逢う時の、
絶妙な声の表現と、
そこから連鎖する田舎道を走る時の、
くずれたデッサンが醸し出す劇的な高揚感、
2つの世界が交錯する際の動画ならではの表現など、
原作を単純に立体化したのではない、
映画ならではの表現が見事に結実しています。

映画を観終わった瞬間に原作が読みたくなり、
原作を読むとまたすぐに映画が観たくなるという、
非常に中毒性のある作品で、
ここまで原作と映画とが幸福な関係を保っていることも、
かなり稀有なことではないかと思います。

創作と青春というものの根幹に関わる、
そのテーマの切実さを含めて、
アニメ映画の枠を超えて、
今年必見の映画の1本であることは間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「青春18×2 君へと続く道」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
青春18×18.jpg
藤井道人監督が日本台湾合作の青春映画を作りました。

これは岩井俊二作品へのリスペクトがベースにあって、
内容自体は物凄くベタな感じのものなのですが、
台湾のパートは如何にも台湾映画らしい空気感があり、良さがあって、
その一方日本のパートは、
こちらはモロに岩井俊二さんの空気感があって、
それが非常に幸福な出逢い方をしている、
という感じがありました。

台湾で台湾流にお茶を飲む場面があると、
日本でも日本風にお茶を飲む場面があり、
台湾の列車の場面があると、
それに対比される日本の列車の場面もあって、
それがとても綺麗にシンクロして、
お互いをリスペクトし合っている、
という雰囲気がとても良いのですね。
合作の理想だな、という気がするのですが、
意外にこうしたものが今までになかったという気がします。

特に台湾のランタンを飛ばす景色と、
それから18年後に日本でランタンを飛ばす場面が、
見事にシンクロするという奇観は、
本当に感動的で素晴らしかったと思います。

この映画の成功の一番の肝は、
主人公の青年を台湾のシュー・グァンハンさんが演じたことで、
ある意味かなり気恥ずかしい感じの役柄なのですが、
彼がこれを自然体で演じることで、
こちらも自然体で作品の世界に没入出来る雰囲気が醸成されました。

合作としてはかなりの成功例と言って良い、
奇を衒わない愛すべき力作で、
シンプルな恋愛映画が観たい、
という向きには今一番のお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「蛇の道」(フランス版セルフリメイク) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
蛇の道.jpg
黒沢清監督が1998年にビデオムービーとして作った作品を、
フランスを舞台とした、
セルフリメイクの新作映画としてリクリエーションし、
日本とフランスなどの合作として製作された映画が、
今ロードショー公開されています。

黒沢清監督は大ファンで、
関連するインタビュー本なども全て持っているので、
これは絶対観なければと思い公開早々に鑑賞しました。

監督の作品は、
一般受けはあまりしないことが多く、
あっと言う間に公開が終了してしまうことが多いからです。

殺された娘の復讐を誓う男に、
謎の人物が協力して、
犯人の疑いのある男を監禁して拷問するのですが、
監禁された男は、
別の人物を真犯人として告発するので、
その告発の連鎖の中で、
事件の真相は次第にあやふやになり、
復讐を誓う男と協力者との関係も、
変貌して迷宮のような世界に誘われます。

オリジナルは謎の協力者を、
数学者で塾教師の男に設定して、
哀川翔さんが演じたのですが、
今回のリメイク版ではフランスに舞台を移し、
復讐を誓う男をフランス人の男性が演じる一方、
協力者は柴咲コウさん演じる、
フランス在住の心療内科医に変更しています。
そのため全体の構成はほぼ同じであるものの、
ラストは全く新しいものになっています。

オリジナルは哀川翔さんが、
謎めいた、別世界から現れたような人物で、
その正体は最後まで明確に明かされることはなく、
最後は観客も別世界に誘われるような感じがあるのですが、
今回のリメイク版では、
柴咲さんの意図はもう少し明確になっていて、
「CURE」の催眠術師に近いニュアンスがあり、
ラストもより明確なものになっています。

これはオリジナル版も面白いし、
今回のリメイク版も、
黒沢清監督のファンにはたまらない、
傑作の1つになっていたと思います。

オリジナルはね、
北野武映画の影響が大きいと思うのですね。
哀川翔さんの役を、
北野武さんがやればピタリと来る、という感じなんですね。
暴力の連鎖の感じも、
ちょっと歪んだ間抜けなキャラの感じも、
北野映画の匂いがプンプンとする感じです。
ただ、脚本の高橋洋さんが、
「怪奇大作戦」や「悪魔くん」、「妖怪人間ベム」などで育った、
怪奇大好きな人なので、
仕込み杖の女殺し屋など、
怪奇に寄せたキャラが登場すると共に、
大和屋竺さんのトリッキーな脚本による、
ルパン3世ファーストシーズンや、
鈴木清順監督の「殺しの烙印」、
若松孝二監督の「処女ゲバゲバ」みたいな世界も、
同時に展開されるのが魅力です。

今回のリメイクは、
柴咲コウさんが患者を操る感じなどに、
「CURE」のテイストがありながら、
大和屋竺風の怪奇味のあるトリッキーな残酷劇の雰囲気、
1970年代モノクロ映画の感じも、
濃厚に漂っていて、
僕は最初から、いいな、いいな、という感じで観ていて、
最後のモニターの中で青木崇高さんが凍り付くカットまで、
これでなくちゃ、という感じで堪能することが出来ました。

大好きです。

ただ、一般の映画ファンの方が観て、
皆さんが面白いと感じるような作品ではなく、
ヒッチコック映画と同じく、
これはその1つ1つのカットの技巧を、
藝術品として楽しむようなタイプの映画なので、
是非その点は理解の上で鑑賞して頂きたいと思います。

たとえば、街中の廃墟みたいな場所で、
監禁することが不自然、というような意見があるのですね。
それは普通に考えれば勿論そうなのですが、
そういうリアルな表現を一旦排除したところに、
この映画のビジュアルは成立しているんですね。
それは「処女ゲバゲバ」で密室での拷問劇を、
敢えて荒野で表現する、というのと同じなんですね。

黒沢清監督は、
その書かれたものやインタビュー記事などを読めば、
物凄くロジカルに、
1つ1つのカットを考える人なんですね。
好い加減に撮られたカットは1つたりともないのです。
なので一見、いい加減で辻褄の合わないように思えるシーンでも、
映画としてのロジックは緻密で一貫しているものなのです。
観ながらそれを確認して読み解くことが、
黒沢清作品の一番の醍醐味なのです。

今回の作品もその1つの完成形と言える傑作で、
是非大スクリーンで鑑賞出来る機会を、
お見逃しにならないようにして下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「マッドマックス フュリオサ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
マッドマックス フュリオサ.jpg
マッドマックスの新作が今公開されています。
大傑作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の前日談で、
前作でシャーリーズ・セロンが演じたヒロインのフュリオサの、
前作のオープニングに至るまでの人生を辿ります。

今回の作品のラストがそのまま前作に繋がり、
ラストクレジットでは前作の映像が流れるという趣向です。

これはそれなりに良かったのですね。

極彩色のオープニングから、
ただ事ではない感じでワクワクしますし、
ラストまでつるべ打ちのように、
壮絶なアクションが展開されます。
ヒロインの魅力もなかなかです。

ただ、観る前から想像の付くことですが、
「前日談」というのは弱いですよね。
観終わった瞬間の感想は
「やっぱりデス・ロードは良かったね」
という感じなんですね。
壮大な前振りではあるのですが、
所詮前振りは前振りであるからです。

あと、今回登場する悪役のディメンタス将軍が、
矢張りキャラとして弱いのですね。
スーパーヒーローを演じた役者さんが演じる、
というところに捻りがあるのですが、
正直悪さがあまり感じられないので、
どうしても弱いなあ、という感じが最後まで抜けませんでした。
それから、もっと前作からは想像の付かないようなキャラや兵器が、
バンバン出て欲しかったな、と思うのですが、
全て前作から想像出来る範囲のものしか出て来ないのですね。
それも弱いなあ、と感じてしまいました。

そんな訳で世界観はとても良かったのですが、
どうしても前作のおまけ的な感じが抜けず、
少し残念な思いはありました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「関心領域」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
関心領域.jpg
ポーランドなどの合作で、
2023年のカンヌのグランプリを獲得した「関心領域」が、
今ロードショー公開されています。

これは内容というよりも、
その様式がかなり特異な映画で、
オープニングから映像のない黒い画面に、
気持ちを逆なでするような音楽のみが、
延々と流れますし、
ラストも再び音効のみで締め括られます。

観ていない方も多くがご存じのように、
アウシュビッツ収容所の所長を長く務めた、
ルドルフ・ヘスの一家のドラマが、
その隣にある収容所での虐殺を、
ないものであるかのように展開され、
その家族劇的な凡庸なドラマのみが、
ほぼ作品の全てとなっています。

確かに面白い発想だと思います。

ただ、鑑賞前のイメージとしては、
本当に牧歌的な美しい家族のドラマのみが展開され、
そのまま終わるようなものを想定していたのですが、
実際にはそれほど徹底している訳ではなくて、
ヘスの妻の母親は、
その異様な雰囲気に怖れをなして逃亡してしまいますし、
途中で暗視カメラのような映像が流れ、
ポーランドの地元の少女が、
密かにユダヤ人を助ける、
というようなパートが童話的に差し挟まれます。
わざわざ暗視カメラにしたのは、
それが「見えない」ということを徹底しているのだと思いますが、
何か中途半端な印象になるので、
却って入れない方が良かったように感じました。
ラストにヘスが意味ありげに嘔吐するのも、
拮抗を欠くような気がしますし、
現在の博物館となったアウシュビッツで、
職員が掃除をする風景を唐突に入れるのも、
とても意地悪でひねくれた発想だなあ、
とは思うものの、
これもない方が良かったように感じました。

全体に描写がしつこいのも個人的には趣味ではなくて、
たとえば焼却されたユダヤ人の灰を肥料にして、
ヘスの家の庭に極彩色の花が咲くのを、
延々と映すのも、やり過ぎ感がありました。

そんな訳であまり良いとは思えなかったのですが、
僕は前から新しいタイプの作品を受け入れるのが苦手で、
「ストレンジャー・ザン・パラダイス」も、
「ワイルド・アット・ハート」も、
「バービー」も、
初見ではとても良いとは思えなかったので、
今回の作品もその斬新な素晴らしさを、
おそらく見落としている可能性が高いのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「あんのこと」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日でいつも通りの外来になります。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
あんのこと.jpg
入江悠監督がかなり深刻な実話を元に脚本演出を勤め、
今注目の河合優実さんが体当たりの熱演を見せた映画が、
ロードショー公開されています。

入江監督は「22年目の告白」と「AI崩壊」が、
新たな日本の娯楽映画の可能性を感じさせて好印象でしたが、
その後はあまり企画に恵まれていないな、
というような印象がありました。
幅広い作品を手掛けていますが、
かなり出来にはムラがあります。

これはゴミだらけの狭い公団住宅の部屋で、
家族が罵り合い取っ組み合いを続ける様子を、
延々と撮り続けるようなヘビーな作品で、
大森立嗣監督や是枝裕和監督、白石和彌監督などにも、
同じような素材を扱った映画がありましたが、
そのどれよりも画面は暗く構図も歪み、
ある意味ノンフィクションよりも荒れた映像が連続します。

情緒的な泣かせのような水分もほぼなく、
観ていると、
こちらの心も砂漠と化してしまうような気分になります。

これは今の社会の空気感でないと望まれない作品、
良くも悪くも、
この映画をこのように観ることが出来るのは、
今生きている観客のみだろう、
という感じがする作品です。

僕自身もかなりのダメージを受けましたが、
精神的にダウンしているような時には、
とてもお勧め出来ないタイプの映画です。

皆さんもご注意下さい。

主演の河合優実さんが抜群で、
この役をこのように演じられる役者さんが、
今他にいるとは思えません。

彼女の纏う空気感が、
おそらく今の社会の閉塞感と、
絶妙にリンクしているのだと思います。

評価が分かれるだろうと思うのは、
複雑なキャラの警察官を演じた佐藤二朗さんで、
僕も大好きな俳優さんですが、
今回の役柄に関しては、
ややミスキャストのように感じました。
この役は表面的には、がさつだけれど良い人、
というように見えないといけないと思うのですが、
佐藤さんが演じると、
「得体の知れなさ」が出てしまうのですね。
それではいけないように感じました。

作劇としては、
ラストが少し中途半端に感じました。
ちょっと泣かせと希望を入れようとしているのですが、
この映画はハノケみたいに、
身もふたもないくらいに、
無雑作に絶望的に終わらないといけないですよね。
多分作り手はそうしたかったのだけれど、
それが許されなかったのではないかな、
というように感じました。

いずれにしても鑑賞には非常に精神的体力の必要な、
かなりヘビーな力作で、
こうした作品が国内外問わず多い気がするのは、
それはもう今の時代の反映なのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ミッシング」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ミッシング.jpg
現代を間違いなく代表する映画監督の1人である、
吉田恵輔監督の新作が、
オリジナル台本で石原さとみさんの主演で完成し、
今ロードショー公開されています。

吉田監督は「空白」が、
現代社会を鷲掴みにしたような大傑作で、
非常な感銘を受けました。
それを更に先鋭化させたのが、
次作の「神は見返りを求める」でしたが、
フィクショナルな展開が、
やや暴走気味で収拾がつかなくなった感がありました。

今回の映画はその方向性とは全く別の形、
過激な展開の連鎖や、
キャラの誇張を避け、
リアルでありそうな展開のみを、
物語的にはあまり面白みのない設定と性格のキャラ達に演じさせ、
殆どノンフィクションを指向しながら、
そこにフィクションの意義を見出そうとした、
吉田監督の作家性が、
非常に強く打ち出された力作でした。

これは個人的には大傑作だと思うのですが、
その真価はおそらく今よりも、
5年から10年くらいが経過して、
今の時代の狂気の熱が少し冷めた時に、
明らかになるような気がします。

マスコミの描き方にしても、
SNSの描き方にしても、
今の時代に多くの人が、
何となく正しいと感じていることとは、
実は真逆に近いことを、
作り手は主張しているのですね。
ただ、それをそのまま主張したら、
反発されることが分かっているので、
表面的にはそうでもない風を装いつつ、
その奥に真実を忍ばせるような描き方をしています。

そのため、この作品を観た人は、
何となく居心地の悪さを感じるのです。
それは実は作り手から観客に向けられた、
刃の切っ先なのですが、
それが理解出来ないと、
「もっと別の展開を予想していたので、期待外れだった」とか、
「何が言いたいのか分からず、心に響かなかった」
というような感想になるのではないかと思います。

鑑賞後にすぐ連想したのは、
マクドナーの「スリー・ビルボード」で、
どちらも「母が最愛の娘を失う」という、
1つの事件を主軸に据えながら、
その事件が解決するのではなく、
娘を喪失した母の心情のエネルギーを梃子にして、
その周辺の世界を描いています。
つまり、これは一種の物理実験のようなもので、
得体の知れない世界に、
母の感情をぶつけることにより、
その揺らぎから世界の本質を観測しよう、
という試みなのです。

そして、もう1つのポイントは、
いずれの作品においても、
母の心情はその喪失後にしか基本的には描かれず、
それ以前の母娘がどのような関係であったのかは、
完全なブラックボックスになっている、という点にあります。
「空白」においては、
父と死んだ娘との関係性は、
最後に至ってある程度明らかになり、
そこに1つのカタルシスが生まれるのですが、
この作品では敢えてそれをせず、
事件の真相のみならず、
事件前の親子の関係性すら、
未解決のままにしているのです。

これはどういうことかと言うと、
私達がたとえば女の子が失踪した、
というような事件を報道で見て、
そこから得られる情報と基本的には同じものだけを、
この映画も提示している、
ということなのですね。

それがワイドショーやSNSなどで拡散されると、
私達は何の関係もないその家族について、
実は親子は仲が悪かったのではないかなど、
根拠もない憶測から勝手に自分の物語を作り、
それを共有することによって「娯楽化」するのです。

この映画が本質的に描いているのは、
そうした現実が虚構化され、
物語化されて消費される過程なのです。

しかし、そんなものが果たして面白いでしょうか?

現実の報道は実在の人物を傷つけるけれど、
虚構の報道の利点は誰も傷つけることがない点にあります。

その虚構がそれ自体として面白ければ、
人は現実の詰まらない事件を追い求めて、
そこに娯楽を見出すような必要はなくなります。

今回の映画がやりたかったことは、
自分が創作した物語が、
現実の娯楽化を超えられるのか、
という挑戦であって、
そこにこの映画の本質があるという気がします。

その試みが成功したのか、という点については、
おそらく今はまだ決着が付かないのです。

いずれにしても吉田恵輔監督にして初めてなしえた、
あまり類例のない意欲的な傑作で、
この混乱と狂気の時代に、
確実に観るべき1本だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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