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新型コロナ感染に伴う心電図異常 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は訪問診療やレセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オスボーン波のコロナとの関連.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年11月13日付で掲載された、
重症の新型コロナ感染症時に認められた、
心電図異常についての症例報告です。

新型コロナ感染症は一時的より軽症化していますが、
それでも少ないながら重症肺炎を起こして、
命に関わるような事例も存在しています。

そうした重症の事例では、
心筋障害などの心臓の異常を、
併発していることも多く、
それが予後に影響していることが報告されています。

今回の症例報告では、
高血圧と糖尿病の持病のある中年の患者が、
COVID-19に罹患して重症の肺炎を来し、
集中治療室に入室した事例が紹介されています。

病状悪化時に計測された心電図がこちらです。
オスボーン波の心電図.jpg
QRSと呼ばれる大きな波の終わりのところに、
上に尖ったでっぱりのような部分があり、
その後の基線は上昇しています。
ノッチ型のJ波の後にST上昇を伴ったそうした波形を、
Osborn波(オズボーン波)と呼んでいます。

このオズボーン波は、
心室細動という心停止に結び付く重症の不整脈の、
リスクとなることが知られています。
その原因は不明ですが、
低体温症でこの波形が認められやすいと報告されています。

今回のケースは低体温ではなく、
他のオスボーン波の出現が報告されている、
高カルシウム血症、甲状腺機能低下症、心筋症などは否定され、
新型コロナ感染に伴って何等かの機序により発症したものと考えられました。

実際この波形が出現して5日後に、
患者は死亡しています。

このように、通常低体温症などに特徴的な心電図異常が、
新型コロナに伴う肺炎の際に認められることがあり、
重症不整脈を惹起して予後に影響を与える可能性があり、
その後の経過を慎重に観察する必要があると考えられました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺機能亢進症と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
甲状腺機能と認知症リスク.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年10月23日付で掲載された、
甲状腺機能異常と認知症リスクとの関連についての論文です。

甲状腺の機能異常と認知症との関連では、
甲状腺機能低下症における、
認知機能低下が有名です。
この場合見掛け上は普通の認知症のように見えるのですが、
実際には甲状腺の機能低下に伴う一時的な症状で、
甲状腺ホルモン剤を使用して機能低下が改善すると、
認知機能低下も元に戻るのです。

その一方で甲状腺ホルモンの過剰、
これは主に機能低下症に対するホルモン剤の治療が、
甲状腺ホルモンの過多に結びついていることが多いのですが、
その場合に認知症のリスクが高まることが、
複数の疫学データの解析から報告されています。

この場合の甲状腺ホルモンの過剰というのは、
血液の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の低下として診断されます。

現在使用されている甲状腺ホルモン製剤は、
主にT4製剤で、
体内でT3に変換されることによって、
活性のあるホルモンとなります。
そのためある程度過剰に使用されても、
その全てがT3になる訳ではなく、
体はTSHを下げることによってその調整を行っているので、
強い甲状腺機能亢進症となることは、
殆どないのですが、
TSHが通常より低下する程度の、
潜在性の甲状腺機能亢進症においても、
認知症のリスクが高まると言うのです。

それは事実なのでしょうか?

今回の研究では、
プライマリケアの医療データを活用することで、
65歳以上の65931名のデータを解析。
血液のTSH濃度と認知症リスクとの関連を検証しています。

その結果TSHが0.45mIU/L未満であることは、
関連する因子を補正した結果として、
75歳までに認知症を発症するリスクを、
1.39倍(95%CI:1.18から1.64)有意に増加させていました。

TSH低下の原因はその60%がホルモン剤の使用によるもので、
バセドウ病など内因性の亢進症によるものは17%でした。
ホルモン剤の使用によるTSHの低下は重度のものは少なく、
TSHが0.1未満に抑制されていたのは、
全体の31%でした。

ここで原因別に分けて検証すると、
内因性の亢進症では認知症リスクの有意な増加はなく、
ホルモン剤の内服によるTSH低下のみで、
認知症リスクは1.34倍(95%CI:1.10から1.63)有意に増加していました。

今回の結果では、
ホルモン剤を使用して潜在性甲状腺機能亢進症が生じると、
その後の認知症リスクが増加していました。

こうしたデータのみで、
軽度の甲状腺機能亢進でも認知症のリスクになる、
と言い切ることは出来ないと思いますが、
年齢と共に徐々にTSHが上昇すること自体は正常な加齢現象なので、
甲状腺機能低下症をホルモン剤で治療する際には、
投与が過剰にならないように留意することは、
重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マルチターゲット便中RNA検査による大腸癌検診の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
レセプト作業など事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
マルチターゲット便RNA検査.jpg
JAMA誌に2023年10月23日付で掲載された、
新しい大腸癌検出の検査法の有効性を検証した論文です。

大腸癌はその成り立ちが遺伝子レベルで解明されていて、
早期に発見されれば完治する可能性の高い癌です。
そのため、検診で早期発見することが重要な癌で、
これまでに便潜血検査に大腸内視鏡検査を組み合わせた検診により、
その予後改善の有効性が確認されています。

便潜血検査は、
簡単に出来てコストも安価なので、
非常に利点の多い検査ですが、
便で微量の出血を検出しているだけなので、
痔や粘膜のびらんなど、
癌以外の病気でも陽性になってしまう、
という欠点があります。
また肛門から距離のある部位に発生した大腸癌の場合には、
検出率は低下するという問題もあります。

それでは、
より大腸癌のみで陽性となるような、
精度の高い便検査はないのでしょうか?

そこで注目されているのが、
今回ご紹介するマルチターゲット便中RNA検査です。

大腸癌は複数の遺伝子変異が積み重なることによって、
発症することが分かっています。
そうであるなら、個々の段階で特徴的な遺伝子の変異を、
便で検出することが出来れば、
より精度の高い診断に結び付くことが期待出来ます。

今回使用されているColoSenseというシステムは、
大腸癌に関わる7種類のRNA配列と、
喫煙歴と便潜血検査の結果を、
点数化して陽性と陰性を判定するものです。
要するに便潜血と遺伝子検査を組み合わせた方法です。

今回の研究ではアメリカにおいて、
45歳以上の一般住民8920名に、
大腸内視鏡検査と便中の遺伝子検査、便潜血検査を施行して、
便潜血検査単独の場合と、
そこに遺伝子検査を組み合わせた場合との、
大腸癌の診断能を比較検証しています。

その結果、
対象となった8920名の0.4%に当たる36名に大腸癌が、
6.8%に前癌病変(Advanced Adenoma)が見つかりました。
ここで大腸癌の患者さんのうち、
便潜血検査が陽性であったのは78%であったのに対して、
マルチターゲット便中RNA検査の陽性率は94%で、
遺伝子検査を施行することにより、
検査の感度は上昇していました。

前癌病変の陽性率で見ると、
前癌病変の見つかった患者さんのうち、
便潜血検査が陽性であったのは29%であったのに対して、
マルチターゲット便中RNA検査の陽性率は46%で、
前癌病変を診断することは便の検査だけでは困難なのですが、
それでも検出率は遺伝子検査により上昇していました。

逆に大腸内視鏡検査で異常のなかった対象者のうち、
マルチターゲット便中RNA検査が陰性であったのは88%でした。
つまり、12%は検査の偽陽性が存在していました。

このように、
便潜血検査に組み合わせて施行しているので、
ある意味当然と言えないこともないのですが、
マルチターゲット便中RNA検査を施行することにより、
便潜血のみの検査と比較して、
大腸癌の診断能は上昇することが確認されました。

これはこの検査のライバルとも言える、
血液のマイクロRNA検査とほぼ同等の結果です。

今後こうした検査が広く実用化されることにより、
早期癌の診断は向上すると思われますが、
そのコストはかなり高額となることも予想され、
検査の高額化と精度上昇の狭間で、
今後の癌検診のあり方は、
大きく変わらざるを得ないような気もします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大動脈弁狭窄症に対する超音波治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療ですが、
午後は石原が公務のため、
石田医師の診療となります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大動脈弁狭窄症の超音波治療.jpg
Lancet誌に2023年11月13日付で掲載された、
大動脈弁狭窄症に対する非侵襲的超音波治療法の有効性についての論文です。

大動脈弁狭窄症は、
心臓から全身に血液を送り出す、
大動脈の入り口にある弁が石灰化などを来して硬くなり、
弁の広がりが悪くなって、
血液を効率的に送り出すことが出来なくなる病気です。

生まれつきの異常によって起こることもありますが、
その多くは加齢や動脈硬化の進行に伴って起こるのです。

初期は無症状で経過しますが、
一旦胸の痛みや息切れなどの症状が出現するとその進行は早く、
数年で命に関わる事態になることも稀ではありません。

大動脈弁狭窄症の治療は、
手術で機能しなくなった弁を、
人工弁や生体弁に取り換えるという外科治療が行われ、
最近ではカテーテル治療により、
人工弁を挿入するような方法も開発され施行されています。

ただ、大動脈弁狭窄症の患者さんには、
高齢で内臓の機能も高度に低下していたり、
他にも病気を併発しているような人が多く、
比較的侵襲の少ないカテーテル治療でも、
その適応にならない場合が少なくありません。

それでは、こうした治療の困難な高齢の患者さんでも、
適応可能な治療法はないのでしょうか?

その1つとして注目されているのが、
今回の非侵襲的超音波療法です。

超音波は尿路結石の破砕などにも使用されていますから、
大動脈弁の石灰化の除去には、
一定の効果が期待出来そうです。
実際にそうした試みはこれまでにもあるようですが、
そうした治療単独で手術などの治療に代わり得る、
というほどの効果は確認されていませんでした。

今回のフランスのメーカーが開発したCardiowaveというシステムは、
身体の外から強力な超音波を大動脈弁に照射することにより、
「硬い弁の組織を柔らかくする」と説明されています。
https://cardiawave.com/our-device-valvosoft/

今回発表されたデータでは、
フランス、オランダ、セルビアの3か所の専門病院において、
重度で有症状の大動脈弁狭窄の患者さん40名に対して、
この超音波治療が施行されています。
その結果平均の弁口面積は治療前から10%増加し、
平均圧格差は平均41.9mmHgから38.8mmHgへと、
7%有意に低下していました。

正直単独で大動脈弁狭窄症の治療の選択肢となり得る、
というほどの結果ではないように思えますが、
他の治療の施行が困難な患者さんに対しては、
一定の有効性が期待される治療として、
その選択肢の1つとはなり得る可能性があり、
今後のより詳細な検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オンラインと対面の顔認識の差 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ウェブ会議と対面の脳機能.jpg
Imaging Neuroscience誌に2023年10月25日付で掲載された、
対面とモニターを通した場合の、
顔の認識の違いについての論文です。

新型コロナの流行以降、
対面での会議や話し合いは減り、
複数人が仕事などで一堂に会するような時には、
ズームに代表されるようなウェブ会議が主体となりました。

これはそれ以前から、
ウェブ会議の方が効率的という意見はあったものの、
「実際にその場で話さないと微妙なニュアンスは伝わらない」
というような意見も根強くあって、
なかなか導入が難しかったものが、
コロナ禍で一気に進んだ、という側面があります。

2023年5月になって、
ほぼコロナ以前の生活が戻って来たのですが、
対面の会議を減らすという考え方自体は、
オフィスの縮小などの方針とも相俟って、
もう多くの企業などの規定方針となっているようです。

対面の会議では、
直接相手の顔を見てコミュニケーションを取ることが可能ですが、
ウェブの会議ではPCなどのモニターを介して、
相手の顔を見ることになります。

それでは、実際の相手の顔を認識することと、
モニターに映った相手の顔を認識することとの間には、
脳の働きとして何か違いがあるのでしょうか?

今回の研究では28名のボランティアを対象として、
お互いに対面でコミュニケーションを取った場合と、
モニターを介してオンライン会議のようにコミュニケーションを取った場合とで、
脳の反応にどのような違いがあるのかを、
主に機能的近赤外分光法という、
非侵襲的に脳の血流を評価する検査を用いて、
比較検証しています。

その結果、
モニターを介した場合と比較して対面では、
社会性に関わる領域の神経活動が活性化し、
コミュニケーションも協調的に行われることが確認されました。

相手とのコミュニケーションを取る時、
相手の顔を脳は認識して、
その表情などを脳内で再現して模倣することで、
相手を理解しようとするのですが、
そうした活動は対面では活発である一方、
モニターを介した交流では、
そうした部分がやや抑制されてしまうようです。

私は古い人間なので、
こうした知見を読むと、
「やはり人間は直接会って話をした方が、理解が深まるのだな」
などと思うのですが、
科学の進歩は目覚ましいものなので、
そうした脳の認識を取り入れた、
新たなオンラインのコミュニケーションの方法が、
今後は開発されてゆくような気もします。

いずれにしても個人同士の理解と協調、
その先にある寛容さこそが、
今の社会に最も欠けているものであり、
それを十全に発揮出来るようなコミュニケーション手法の開発が、
今最も望まれているものなので、
今回のような研究がそうした進歩に繋がることを、
これはもう切に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス後遺症に対するワクチン接種の有効性(スウェーデンの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19後遺症に対するワクチン接種の有効性.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年11月21日付で掲載された、
新型コロナ後遺症に対するワクチンの予防効果を検証した、
スウェーデンの疫学データについての論文です。

COVID-19後遺症については、
これまでも何度も記事にしています。

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、
体調不良が長期間持続することは以前より指摘されていて、
その呼び名も定義も、
必ずしも統一されていませんが、
概ね感染に罹患後3か月以上持続する症状で、
それにより日常生活や仕事などの社会生活に、
一定の制限が必要となったり困難が生じる場合に、
COVID-19後遺症や新型コロナ後遺症、
COVID-19罹患後症候群やロングCOVID、
などの名称が使用されています。
ちなみに今回の論文では「post-covid-19 condition」
という用語が使用されています。
これは新型コロナ発症後3か月以上何等かの体調不良が持続し、
個々の症状自体も2か月以上持続している、
というのがその定義であるようです。

その症状も数多く報告されていますが、
報告の多いものでは大きく3つに分かれるというのが、
今の一般的な考え方です。
その3つというのは、
①咳や痰がらみ、息切れなどの呼吸器症状
②感情の変化や身体の痛みなどを伴う、全身の倦怠感
③物忘れや集中力低下などの認知機能障害
の3種類です。
他に味覚嗅覚障害がありますが、
これは持続することはあるものの、
他のCOVID-19後遺症とは別に考えることが通常です。

その原因には不明の点も多く、
その治療法も現時点で確立されたものはありません。

ワクチン接種をすることで、
感染の重症化予防効果と共に、
後遺症の予防効果もあるとするデータが、
これまでに幾つか報告されていますが、
主に臨床試験のデータなどを解析したもので、
実際に一般の多数の住民を対象としたものは、
あまり公表されていませんでした。

今回の研究は国民総背番号制を敷いているスウェーデンのもので、
ワクチン接種歴があって新型コロナに罹患した、
トータル299692名の一般住民を、
290030名のワクチン接種歴のない感染者と比較して、
その後のCOVID-19後遺症の発症リスクを比較しています。

その結果、
ワクチン接種歴のある感染者の0.4%に当たる1201名と、
ワクチン接種歴のない感染者の1.4%に当たる4118名が、
COVID-19後遺症を発症していて、
1回以上のワクチン接種は、
後遺症のリスクを58%(95%CI:0.38から0.46)有意に低下させていました。

これをワクチン接種回数毎に解析すると、
1回のみの予防効果は21%、
2回接種の予防効果は59%、
3回接種以上の予防効果は73%と計算されました。

このように、
今回の大規模な疫学データにおいて、
ワクチン接種はその回数が多いほど、
新型コロナ罹患後の後遺症の発症を抑制していて、
その全てが予防可能ということでは勿論ありませんが、
ワクチンが後遺症の予防に一定の有効性のあることは、
おそらく間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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メトホルミンの中止と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医活動で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メトホルミンと認知症.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年10月25日付で掲載された、
糖尿病治療薬の認知症予防効果についての論文です。

高齢者の糖尿病は認知症のリスクであることが知られています。

血糖値の上昇やインスリン抵抗性による高インスリン血症は、
血管の炎症や動脈硬化の進行を促進する原因となり、
脳血管の老化が認知症に繋がることは理に適っています。

メトホルミンは2型糖尿病の治療薬として、
広く使用されている薬剤で、
その使用により合併症の予防効果や、
生命予後の改善効果が認められています。

また臨床試験の解析により、
メトホルミンの使用によって認知機能が改善し、
認知症のリスクが低下したとする報告があります。
https://content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad180263

ただ、こうしたデータは、
血糖コントロールが認知症予防に繋がったのか、
それともメトホルミン自体に認知症予防効果があるのか、
という点については明確にすることが出来ません。

そこで今回の研究では、
アメリカの大規模な民間医療保険のデータを活用して、
腎機能低下以外の何等かの理由で、
メトホルミンの使用を中止した患者さん、
トータル12220名の臨床データを、
メトホルミンの使用を継続している患者さんと比較して、
認知症の予防効果を検証しています。

その結果、
メトホルミンの中断は、
その後の認知症発症リスクを、
1.21倍(95%CI:1.12から1.30)有意に増加させていました。
そしてこの認知症リスクの増加は、
血糖コントロールの変動とは独立した現象として認められました。

つまり間接的なデータではありますが、
メトホルミンの使用自体が、
認知症の予防に繋がっている可能性を示唆するデータです。

今後もっと厳密な介入試験などによって、
メトホルミンの認知症予防効果の実態が、
明確になることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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早期アルツハイマー病治療薬ガンテネルマブの有効性(第3相臨床試験結果) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は休診となりますのでご注意下さい。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ガンテネルマブの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年11月16日付で掲載された、
早期アルツハイマー病の治療薬の、
臨床試験結果をまとめた論文です。

アルツハイマー型認知症の新薬としては、
エーザイとバイオジェン社が開発したレカネマブという新薬が、
こうした薬剤として初めてアメリカのFDAで承認され、
大きな話題となりました。

その理由は臨床試験において、
早期アルツハイマー病の進行予防効果が、
一定レベル確認されたからです。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2212948

また、ドナネマブという、
脳のアミロイドプラークのみに発現している、
不溶性のβアミロイド蛋白に対するIgG抗体の新薬もあり、
こちらもレカネマブとはターゲットの蛋白質が若干異なりますが、
ほぼ同等の薬で、
その臨床試験結果も最近公表され、
レカネマブとほぼ同等の認知症進行予防効果が確認されています。
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2807533

今回ご紹介するガンテネルマブは、
矢張りβアミロイド蛋白に対するIgG抗体で、
凝集した異常蛋白に対して高い結合性を示している点が特徴の、
ロシュ社の製品です。

今回の第3相臨床試験は、
軽度の認知機能低下を伴う軽度のアルツハイマー型認知症の患者、
985名と980名と対象とした、
2つの臨床試験結果をまとめて解析していますが、
治療開始116週の時点で、
PET検査で計測されたアミロイドβの沈着は、
投与群で抑制されていたものの、
偽薬群との間で認知機能の低下には有意な差はなく、
レカネマブやドナネマブで見られた、
認知症進行予防効果は確認されませんでした。

その差が何処にあるのかは今後検証が必要ですが、
こうした薬剤の効果はまだ不確実な部分が大きく、
その有効性と安全性については、
慎重に見極める必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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セマグルチドの心血管疾患予防効果(非糖尿病での検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
セマグルチドの心血管疾患改善効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年11月11月付で掲載された、
糖尿病治療薬で肥満症の治療薬としても注目されている、
セマグルチドという薬剤の、
糖尿病のない肥満の患者さんに対する、
心血管疾患予防効果についての論文です。

セマグルチドは、
GLP-1受容体作動薬と呼ばれる糖尿病の治療薬ですが、
その臨床試験において体重減少効果が認められ、
現在では肥満症の治療薬として、
欧米では広く使用され、
日本でも最近になってその肥満症への適応が認められました。

セマグルチドを、
肥満を伴う2型糖尿病の患者さんに使用すると、
血糖値や体重の改善作用のみならず、
心血管疾患のリスクを低下させ、
患者さんの生命予後にも良い影響を与えることが確認されています。

しかし、これは2型糖尿病の患者さんに限った知見です。

それでは、
糖尿病ではない肥満症の患者さんにセマグルチドを使用した場合、
心血管予防効果はどの程度あるのでしょうか?

今回の研究では世界41か国の専門医療機関において、
年齢が45歳以上でBMIが27以上の過体重か肥満があり、
糖尿病の合併はなく、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の既往のある、
17604名の患者を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は1週間に1回セマグルチド2.4㎎を皮下注射し、
もう一方は偽の注射を施行して、
平均39.8か月の経過観察を施行しています。

その結果、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中の発症を併せたリスクは、
偽注射群と比較してセマグルチド群で、
20%(95%CI:0.72から0.90)有意に低下していました。

これまでのメタ解析のデータでは、
2型糖尿病で心血管疾患を合併している患者さんに対する、
GLP-1受容体作動薬の使用は、
心血管疾患のリスクを14%有意に低下させると報告されています。
https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(21)00203-5/fulltext

つまり、糖尿病のない肥満の患者さんに使用した場合にも、
糖尿病の患者さんと同様の予防効果が確認された、
ということになります。

GLP-1受容体拮抗薬は肥満症の患者さんに対しても、
トータルにその予後を改善する可能性が高い薬であることが、
明らかになりつつあるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2型糖尿病における時間制限食の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
時間制限食とカロリー制限との比較.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年10月27日付で掲載された、
2型糖尿病の患者さんにおける食事制限の方法についての論文です。

過食や運動不足がその経過に大きく影響する、
2型糖尿病においては、
適切な食事療法がそのコントロールに重要と考えられています。

私が大学や医局で学んだ食事療法は、
全体のカロリーを制限しつつ、栄養素を過不足なく摂り、
毎日3食をきちんと食べるという方法です。

そうした食事療法の有効性は確認されていますが、
実際には個々の患者さんがそれを実践することは、
それほど容易いことではありません。

食事内容や量などを詳細に毎日記録し、
それを元に指導を重ねる必要があるからです。

近年特にカロリー制限は指導せず、
食事時間を昼間の6から10時間くらいのみに制限することにより、
1日の摂取カロリーは200から500カロリー抑制され、
体重減少効果のあることが報告され、
注目を集めています。

これは元々民間のダイエット法から、
始まった試みだと思いますが、
食事の時間を制限するだけで、
特に食事内容には制限を加えないので、
非常に続けやすいという利点があります。

これまでに成人糖尿病患者を対象として、
時間制限食の有効性を検証した臨床研究は2つあり、
この方法によって体重は1から4%、
HbA1cが1.5%低下したという結果が得られています。
ただ、研究はいずれも3から12週間という比較的短期間のもので、
通常の食事指導とは比較されていない、
という限界が指摘されています。
https://link.springer.com/article/10.1007/s00125-022-05752-z
https://nutritionandmetabolism.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12986-021-00613-9

そこで今回の研究では、
アメリカの単独施設において、
年齢が18から80歳で糖尿病があり、
BMIが30から50という肥満の患者、
トータル75名をくじ引きで3つの群に分けると、
それまでの生活をそのまま続けるコントロール群、
食事量をカロリーで25%制限するカロリー制限指導群、
カロリー制限はせず食事時間を午後0時から午後8時の、
8時間に制限する時間制限食群の3群に分けて、
その経過を半年間観察しています。

その結果、6か月後における摂取カロリーは、
時間制限食では平均313キロカロリー低下し、
カロリー制限指導群では197キロカロリー低下していましたが、
コントロール群では16キロカロリーの低下に留まっていました。

6か月後における体重は、
時間制限食では-3.56キログラム(95%CI:-5.92から-1.20)、
コントロール群と比較して有意に低下が認められましたが、
カロリー制限指導群では有意な低下は確認されませんでした。

HbA1cの低下は、
時間制限食では-0.91%(95%CI:-1.61から-0.20)、
カロリー制限指導群では-0.94%(95%CI:-1.59から-0.30)と、
コントロール群と比較して、
どちらも有意に低下していました。

今回の検証では、
カロリー制限よりもむしろ時間制限のみの方が、
体重減少効果は高く、
血糖コントロールの改善効果も同等に認められました。
これはカロリー制限の指導を行っても、
実際には患者さんはそれほど指導を継続的に守ることは出来ず、
むしろ食事の時間のみを制限した方が、
結果としてカロリー制限に繋がっている、
という点が影響しているものと考えられます。

今後介入試験など、より厳密な方法による検証を行うことで、
糖尿病の一般臨床における食事指導はどうあるべきなのか、
その具体的な改善に繋がることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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