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睡眠不足と糖尿病リスクとの関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
短時間睡眠の糖尿病リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年3月5日付で掲載された、
睡眠時間の糖尿病発症に与える影響を検証した論文です。

充分な睡眠を安定して取ることが、
健康のために重要であることは、
これまでの多くの臨床データで実証された事実です。

多くの病気のリスクと睡眠不足との間には関連があり、
2型糖尿病もその1つです。

睡眠時間には個人差が大きく、
明確な線引きは難しいのですが、
概ね1日7時間は眠らないと、
病気のリスクが高まるとする報告が多くなっています。

たとえば2015年に発表されたメタ解析の論文では、
睡眠時間が7時間の人と比較して、
1時間睡眠時間が短くなる毎に、
9%2型糖尿病になるリスクが増加した、
と報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25715415/

ただ、そうは言っても、
仕事や家事など様々な理由により、
そんな長い睡眠時間は取れない、
という人も多いのが実際だと思います。

それでは、食事など他の生活習慣を健康的なものにすることにより、
そのリスクは低減出来るものなのでしょうか?

今回の研究はイギリスの有名な大規模医療データである、
UKバイオバンクのデータを解析することにより、
その問題の検証を行っています。

平均年齢55.9歳の247867名の睡眠時間と生活習慣を登録し、
中間値で12.5年の経過観察を施行したところ、
そのうちの3.2%が観察期間中に2型糖尿病を発症していました。
そこで睡眠時間と糖尿病リスクとの関連を解析すると、
1日7から8時間の睡眠時間の人と比較して、
睡眠時間が6時間を下回ると糖尿病リスクは有意に増加し、
1日5時間の睡眠では16%(95%CI:1.05から1.28)、
1日3から4時間の睡眠では41%(95%CI:1.19から1.68)、
それぞれ有意に増加していました。

健康的な食事パターンは、
糖尿病の発症リスクを25%(95%CI:0.63から0.88)、
有意に低下させましたが、
健康的な食事をしている人でも、
睡眠時間が短いことで糖尿病リスクが増加する傾向には、
違いはありませんでした。

このように、
睡眠時間が短いことは、
糖尿病の独立したリスクである可能性が高く、
最低でも7時間の睡眠を維持することが、
その予防のためには重要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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気管支拡張症の予後と痰の性状との関連性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
痰の色と予後.jpg
European Respiratory Journal誌に、
2024年4月付で掲載された、
痰の色などの性状と、
肺の病気の予後との関連についての論文です。

気管支拡張症というのは、
気道の炎症などを繰り返すことによって、
気管支の一部が進展性を失って拡張した状態になることです。

拡張した部分には、
主に細菌性の慢性の炎症が起こることが多く、
それが悪化すると、
重症の肺炎を来したり、
呼吸機能が低下したりして、
命に関わることも稀ではありません。

気道の炎症の状態を知ることは、
気管支拡張症などの炎症性の肺の病気の予後を知る上で、
重要なことは間違いがありません。
ただ、臨床的に簡単に確認出来るような方法で、
その炎症の程度を知ることは難しいのが実際です。

気管支に細菌性の炎症が起こった場合、
それは咳と共に痰となって喀出されます。
つまり、痰の状態を見れば、
細菌性の炎症の程度が分かる、
ということになる訳です。

勿論細菌培養の検査などをすることにより、
どのような細菌が増殖しているのかを、
確認することは出来ますが、
結果が判明するまでには結構時間が掛かりますし、
培養の結果が必ずしも病状や予後と直結するとは限りません。

もっと簡単で病状を把握出来るような方法はないのでしょうか?

そこで1つ注目されているのが、
痰の色などの肉眼的な所見から、
その重症度を推測しようという方法です。

こちらをご覧下さい。
痰の色の表.jpg
これは2009年にMurrayらにより提唱された、
痰の性状の分類法です。

一番上の図が炎症の要素に乏しい粘液性の痰で、
上から2番目の画像はやや黄色の粘液膿性痰です。
これは軽い細菌感染の所見を示しています。
細菌感染の炎症により、
顆粒球という白血球からMPOという成分が放出されると、
痰は緑色に変化します。
上から3番目の画像はその膿性痰によるもので、
一番下の画像は、
より重症化した膿性痰のものです。

それでは、この痰の性状の分類から、
どの程度の臨床的な情報が得られるのでしょうか?

今回の研究では世界31か国で施行された、
気管支拡張症の疫学調査のデータを活用することで、
気管支拡張症の予後と、痰の性状との関連を比較検証しています。
対象は気管支拡張症の患者、トータル13484名です。

その結果、
炎症所見に乏しい粘性痰の患者と比較して、
粘性膿性痰の患者の重症化リスクは、
1.29倍(95%CI:1.22から1.38)、
膿性痰の患者の重症化リスクは、
1.55倍(95%CI:1.44から1.67)、
重症の膿性痰の患者の重症化リスクは、
1.91倍(95%CI:1.52から2.39)、
それぞれ有意に増加していました。

つまり、痰の性状で膿性痰が見られると、
その後の重症化のリスクも、入院のリスクも、
生命予後もいずれも悪化していた、という結果です。

こうしたデータは専門的な検査を行ったようなものとは違って、
シンプルで原始的なものですが、
それだけに臨床的には大きな意義があり、
日々の臨床にすぐに活かせると言う意味で、
私のような市囲の医療者には、
非常に参考になるものなのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大腸癌の予後に対する超加工食品の影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
超加工食品と大腸癌の予後.jpg
Lancet系のウェブ誌である eClinical Medicine誌に、
2024年3月28日付で掲載された、
超加工食品の大腸癌の予後への影響を検証した論文です。

超加工食品(ultra-processed foods)というのは、
2016年に国連の関連する食品についての会議で提唱されたもので、
食品をその加工の度合いによって、
4種類に分類するNOVA分類がその元になっています。

このNOVA分類では、
食品をその加工度によって、
第1群;加工されていないか、最小限しか加工されていない食品
第2群;加工された調味料
第3群;加工食品
第4群;超加工食品
の4つに分類しています。

第1群は果物や野菜や肉、豆は牛乳など、
その由来が見て分かるような食品のことです。
第2群は砂糖や塩などの加工された調味料です。
第3群は一定の加工をされた食品のことで、
たとえば缶詰の桃や自然の製法で作ったパンやチーズ、
ミックスナッツやミックスベジタブルなどがそれに当たります。

そして、第4群の超加工食品は、
通常5種類以上の食品が組み合わされ、
そこに複数の調味料などが加えられたものを意味しています。
こうした食品は他の群の食品では、
使用されないような添加物や化学物質が添加されることが通常です。

これは要するに、
僕達がお店などで手に入れることの出来る、
食事の材料となる食品の分類なのです。

たとえばラーメンを食べようと思った時に、
その材料として、
自然の岩塩などを調味料に使い、
自然の小麦や豚肉、野菜などを調達して、
それを組み合わせて調理すれば、
第1群のみを使用したことになりますし、
塩や砂糖などの調味料は市販の物を使うと、
第2群も使用したことになります。
袋詰めの麺を買い、
スーパーの焼き豚などを買って、
それを組み合わせてラーメンを作ると、
第3群も使用したことになり、
最初からカップ麺やインスタントラーメンを買って、
それを使用すると第4群を使ったことになるのです。

健康のためには、
極力超加工食品を減らそう、
というのがこの国連の会議の、
基本的な考え方です。
超加工食品は料理の手間を減らしてくれますから、
確かに便利ですが、
最初からパッケージ化されているので、
その成分を確認することは出来ませんし、
栄養バランスの調節も難しくなります。

添加物を全て危険視するような考え方にも問題はありますが、
人間の手間を省くために、
本来は必要のない物質を、
多く使用してそれを食べるということ自体が、
人間本来のあり方ではないことも、
また事実だと思います。

それでは実際に超加工食品を多く食べることで、
健康上の悪影響はどの程度あるのでしょうか?

これまでに心血管疾患や糖尿病のリスクと、
超加工食品との間に一定の関連が示唆されるデータが報告されています。

また以前ご紹介したことのある、
2022年のBritish Medical Journal誌の論文では、
アメリカの大規模な医療従事者の疫学データの解析で、
男性のみ大腸癌のリスクの増加が認められました。
https://www.bmj.com/content/378/bmj-2021-068921

今回のデータは同じ疫学データを元にして、
大腸癌と診断された患者さんにおけるその予後と、
超加工食品の摂取量との関連を検証しているものです。

対象となっているのは大腸癌に罹患した2498名で、
診断時の年齢の平均は68.5歳です。
中央値で11.0年の観察期間中に、
そのうちの1661名が死亡しています。

ここで診断後の食事内容と癌の予後との関連を検証したところ、
超加工食品の摂取量を5分割して比較すると、
最も少ない群と比較して最も多い群では、
心血管疾患で死亡するリスクが、
1.65倍(95%CI:1.13から2.40)有意に増加していました。

更に個別の超加工食品毎に解析してみると、
アイスクリームやシャーベットの摂取量が最も多い群は、
少ない群と比較して、
大腸癌により死亡するリスクが、
1.86倍(95%CI:1.33から2.61)有意に増加していました。

今回の結果で、
大腸癌の予後と超加工食品との間に明確な関係がある、
とまでは言い切れませんが、
改めて今回心血管疾患による死亡のリスクとの関連は確認されていて、
これまでにも多くの病気との関連が指摘されていることを考えれば、
仮に癌になった場合にも、
なるべくその使用を控えることは、
健康のために有益であると考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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GLP-1アナログのパーキンソン病進行予防 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
終日事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
パーキンソン病へのGLP-1アナログの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年4月4日付で掲載された、
2型糖尿病や肥満症の治療薬を、
パーキンソン病の進行予防に使用するという試みの、
第2相臨床試験結果をまとめた論文です。

パーキンソン病というのは、
脳の特定の部位のドーパミン分泌細胞が減少することにより、
手の震えや歩行障害などの特徴的な症状が見られる神経難病で、
認知症や睡眠障害、自律神経障害とも関連が深く、
様々な治療薬や治療法が開発されていますが、
完治に至るような確実な治療は未だ実現していません。

通常不足したドーパミンを補充するような治療が、
まず試みられますが、
初期には著効しても、
進行するとその効果は不安定となり、
特有の薬による有害事象も増えることが知られています。

そのため、
ドーパミン製剤に併用して、
その治療効果を高め、
何より神経細胞の障害を予防して、
病気の進行を遅らせるような治療薬の開発が、
期待をされています。

その1つの候補として最近注目をされているのが、
GLP-1アナログです。

GLP-1アナログは2型糖尿病の治療薬で、
その体重減少効果から肥満症の治療薬としても、
現在注目されている薬剤です。

GLP-1アナログで治療を受けている患者さんは、
他の糖尿病治療薬を使用している患者さんと比較して、
パーキンソン病のリスクが50%以上低下した、
とする報告があります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7794498/

また動物実験においては、
パーキンソン病の原因に関連する神経細胞の変性が、
GLP-1受容体の刺激により予防された、
とする実験結果も報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29892066/

こうした知見からは、
GLP-1アナログの使用により、
パーキンソン病の進行が予防可能なのではないか、
という可能性が示唆されます。

そこでエキセナチドという初期のGLP-1アナログを、
パーキンソン病の患者さんに使用した臨床試験が施行され、
一定の症状改善の有効性が示唆される結果が報告されました。

今回の研究は現在も使用されている、
リキシセナチド(リキスミア)というGLP-1アナログ製剤を使用して、
初期のアルツハイマー病の患者さんに対する、
進行予防効果を検証したものです。

パーキンソン病と診断されて3年未満の、
通常のドーパミン製剤などにより病状の安定している患者、
トータル156名を本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はGLP-1アナログのリキシセナチドを、
1日20μg皮下注射し、
もう一方は偽薬を同じように注射して、
それぞれ12か月間の投与を継続。
14か月までの経過観察を施行しています。

その結果、12か月の時点で歩行障害などの運動障害は、
偽薬群では進行していましたが、
リキシセナチド群では、
ほぼ試験開始時と同等レベルに維持されていて、
初期パーキンソン病の運動障害に対する、
一定の進行予防効果が確認されました。

リキシセナチドによる有害事象は吐気などの消化器症状が主なもので、
重篤な有害事象で薬剤の使用との関連が高いものは認められませんでした。

これまでのパーキンソン病の薬物治療は、
ドーパミンの補充がその主体で、
薬を止めれば症状はすぐに元に戻りますし、
治療を継続することにより、
徐々に薬の効果が減弱したり、
症状が不安定になったりするという問題がありました。
またパーキンソン病自体の進行を止めるようなものではありません。
遺伝子治療や外科的治療なども試みられてはいますが、
個々に問題はあり、
多くの患者さんに適応可能なものではありません。

その中でこのGLP-1アナログは、
GLP‐1受容体を介する神経細胞の保護作用と再生促進作用を、
そのメカニズムに持ち、
元々が糖尿病や肥満症の治療薬なので、
強い副作用や有害事象がなく、
少なくとも1年くらいの使用においては、
使用により病状が不安定になる、
ということもなさそうで、
これまでにない利点を多く持っている可能性があります。

ただ、今回の結果はパーキンソン病統一スケールの、
一部の運動機能の判定に絞って、
若干の有効性が認められる、
というレベルのものです。

従って、それほど著明な効果と言えるほどではなく、
今回の結果は臨床での効果判定としては、
まだ不充分なもののように思います。

それでも、これまでにないメカニズムの治療薬として、
安全性も比較的確立しているという点には魅力があり、
パーキンソン病の改善に繋がる薬物療法の選択肢の1つとして、
今後の更なる検証の結果に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ジルチアゼムと抗凝固剤併用の出血リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ジルチアゼムの出血リスク.jpg
JAMA誌に2024年4月15日付でウェブ掲載された、
不整脈の脈拍コントロールに頻用される薬剤の、
有害事象についての論文です。

心房細動は心臓の心房という部分が、
不規則に痙攣的に収縮する不整脈で、
年齢に伴って増加する、
高齢者では頻度の高い病気です。

高齢者の慢性心房細動は、
不整脈自体を元に戻すことは困難であることが多く、
その合併症を予防することが治療の中心となります。

一番予後に直結するのは、
不整脈により拡大した左房に生じる血栓で、
それが脳梗塞の原因となります。

それを予防する目的で、
抗凝固剤と呼ばれる、
血栓の生成を抑制する薬が使用されます。

その目的で現在最も頻用されているのは、
アピキサバンやリバーロキサバンなどの、
直接経口抗凝固薬と呼ばれる薬剤です。

こうした薬は以前から使用されているワルファリンと比較して、
食事の制限などが必要なく、
血液検査で量の調整をする必要もあまりないため、
患者さんにとって利便性が高いと考えられています。

ただ、その有害事象は重篤な出血系の合併症で、
併用する薬剤によっては、
そのリスクが増加するという可能性が指摘されています。

ジルチアゼムは血管拡張剤の一種ですが、
脈拍を下げる働きがあり、
そのため心房細動で心拍が早く、
動悸があるような患者さんに対して、
脈拍を調整して症状を改善する目的で、
使用されることの多い薬剤です。

ただ、このジルチアゼムは、
肝臓の薬物代謝酵素であるCYP3A4を強く阻害するため、
同様の酵素で代謝される薬の血液濃度を、
上昇させる可能性があります。
また細胞外に薬剤を排出させる作用を持つ、
P糖タンパク質の機能を抑制する働きも弱く持っていて、
それにより、細胞内の薬物濃度を、
上昇させる可能性も想定されます。

実際にアピキサバンとジルチアゼムを併用すると、
アピキサバン単独の場合と比較して、
トータルな薬物濃度を反映するAUCという指標が、
40%増加したとする報告もあります。
ただ、これは敢くまで実験的なデータで、
実際に患者さんに使用した場合、
単独と比べてジルチアゼムを併用した時に、
出血系合併症のリスクが増えるどうかを示すものではありません。

今回の研究では、
アメリカの高齢者の医療保険である、
メディケアのデータを活用して、
65歳以上で心房細動のために、
抗凝固剤のアピキサバンかリバーロキサバンを開始し、
ジルチアゼムもしくは、
同じような脈拍低下作用を持つ、
βブロッカーのメトプロロールを併用した、
トータル240115名の患者を約1年間観察し、
出血系の合併症の発症リスクを比較検証しています。

204155名の対象患者のうち、
53275名はジルチアゼムを使用し、
150880名はメトプロロールを使用していました。
中間値で120日の経過観察期間中に、
ジルチアゼム併用群が、
出血系の合併症で入院もしくは死亡するリスクは、
メトプロロール使用群と比較して、
1.21倍(95%CI:1.13から1.29)有意に増加していました。
これをジルチアゼムの使用量毎で見ると、
1日120㎎を超える高用量では、
1.29倍(95%CI:1.19から1.39)とより高くなっていました。

このように今回の大規模な疫学データにおいても、
抗凝固剤とジルチアゼムの併用は、
重篤な出血系の合併症を増やすという可能性が示唆され、
この組み合わせは特に高齢者においては、
より慎重に施行する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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GLP-1アナログと甲状腺癌リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
GLP-1アナログと甲状腺癌リスク.jpg
British Medical Journal誌に2024年4月10日付で掲載された、
糖尿病や肥満の治療薬と甲状腺癌との関連についての論文です。

GLP-1アナログは、
人間の消化管から分泌されるホルモンである、
GLP-1と同じ作用を持つ薬剤で、
その膵臓を刺激してインスリン分泌を促し、
血糖を降下させる作用から、
糖尿病の治療薬として開発されて使用され、
その臨床データで体重減少効果が認められたことより、
最近では肥満症の治療薬としても注目されている薬剤です。

もともとは注射の製剤しかなかったのですが、
最近になって内服薬も開発され、
その使用のハードルはグッと下がりました。

最近ではまた、
GLP-1アナログを他のインクレチンなどのホルモンと配合して、
よりその効果を高めたような薬剤も、
次々と開発されています。
その中には既に日本でも発売されているものもありますし、
まだ未発売のものもあります。

このように非常に評価の高いGLP-1アナログですが、
副作用や使用に伴う有害事象も幾つか報告されています。
有名なものは消化器症状や膵疾患ですが、
それほど一般には知られていないものの、
指摘される有害事象の1つが、
甲状腺癌リスクの増加です。

これは開発の当初から、
動物実験において、
甲状腺のカルシトニン産生細胞(c細胞)の発癌のリスクを、
GLP-1アナログが高めるというデータがあったために、
注目された知見です。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMp1001578?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200www.ncbi.nlm.nih.gov

またフランスの臨床データをまとめた論文では、
GLP-1アナログを1から3年使用することで、
甲状腺癌のリスクが1.58倍、
C細胞由来の癌である甲状腺髄様癌のリスクが1.78倍、
それぞれ有意に増加していると報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36356111/

今回の研究はデンマーク、ノルウェー、スウェーデンにおいて、
GLP-1アナログを使用した145410名の患者を、
平均で3.9年観察し、
その間に診断された甲状腺癌の罹患率を、
DPP4阻害剤やSGLT2阻害剤という、
別のタイプの糖尿病治療薬を使用した患者と比較しているものです。

その結果、トータルな甲状腺癌の発症リスクも、
甲状腺髄様癌に限った発症リスクも、
GLP-1使用群と他剤使用群との間で、
有意な違いは認められませんでした。

今回の研究は対象者は大規模であるものの、
観察期間は比較的短く、
その間に発症した癌の患者数はそれほど多くはないので、
GLP-1アナログの甲状腺癌についての安全性が、
完全に実証されたという訳ではありませんが、
そのリスク増加はあるとしても極僅かなもので、
その使用を一律に控えるという必要はないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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塩分摂取と認知症リスクとの関係(2024年メンデル無作為化解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
認知症と塩分摂取との関連.jpg
Genes & Nutrition誌に2024年付で掲載された、
塩分の摂取量と認知症リスクとの関連についての論文です。

認知症のリスクとしては、
高血圧や糖尿病などが知られていますが、
塩分摂取量が多いことも、
認知症のリスクになるのではないか、
という意見があります。

認知症のメカニズムの1つとして、
タウ蛋白のリン酸化が知られていますが、
塩分の摂取量が多いことが、
このリン酸化を進めることが動物実験で指摘されています。
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1688-z

そして、臨床的なデータにおいても、
塩分摂取量の増加が認知症リスクを高めたとする報告があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36351463/
ただ、その一方で塩分摂取量と認知症との間には、
明確な関連はなかったとする報告もあります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26137952/
(この文献は上記論文では関連ありの例として引用されていますが、
実際には否定的な報告でした)
つまり、塩分摂取の認知症リスクへの影響は、
まだ明確には分かっていないのです。

今回の研究では、
認知症のリスクに与える塩分摂取量の影響について、
それと関連のある遺伝子変異の有無を比較することで、
その因果関係の有無を解析しています。

これは何度かこれまでにも紹介したことのある、
メンデル無作為化解析という手法です。

遺伝子の変異の型というのは、
無作為に生じるものなので、
それにより異なった現象が生じているとすれば、
因果関係に踏み込んだ解析が出来る、
という考え方です。

複数の遺伝子変異から推測された塩分過多は、
ヨーロッパに祖先を持つ対象者の解析で、
トータルな認知症リスクを1.542倍(95%CI:1.095から2.169)有意に増加させていました。
つまり、塩分摂取が多いと、認知症になり易いことを示唆する結果です。
ただ、アルツハイマー病や血管性認知症など、
個別の認知症のリスクと塩分摂取過多との間には、
明確な関連は認められませんでした。

このように、
今回の解析において、
塩分摂取量の多いことと、
認知症のリスクとの間には、
一定の関連がありそうなことは示唆されましたが、
個別の認知症リスクとの間には明確な関連はないなど、
それほど明確に因果関係が示されたとは言えず、
この問題は今後も検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ケトジェニックダイエットの精神疾患に対する有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
小学校の健診や老人ホームの診療などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ケトジェニック食の精神疾患への有効性.jpg
Psychiatry Research誌に、
2024年3月20日ウェブ掲載された、
ケトジェニックダイエットの精神疾患に対しての有効性を検証した論文です。

ケトジェニックダイエット(ケトジェニック食)というのは、
かなり特殊な食事療法の1種で、
糖質を極端に制限し、
蛋白質と脂質主体の食事を摂ることにより、
脂肪を燃焼させてケトン体を産生させ、
それを糖質の代わりにエネルギー源として使用する、
という食事パターンのことです。

通常の食事は身体が簡単に利用可能な、
ブドウ糖を主なエネルギー源としていて、
絶食時のみ尿中にケトン体が検出され、
それは飢餓時の代謝で脂肪酸が分解されたことによる、
と説明されていました。

つまり、ケトン体が検出されるということは、
身体にとっては異常事態を示すものであり、
それは良くないこととされていた訳です。
特に脳はブドウ糖しかエネルギー源としては使用出来ない、
という考え方があったため、
ケトン体が出現することは、
脳にとっては悪影響しかないと考えられていたのです。

私は大学の医局に勤務していた頃は、
糖尿病の研究と診療とに当たっていたので、
その頃の常識が染みついているようなところがまだあるのですが、
当時(25年以上前)の常識としては、
尿や血液でケトンが検出されるのは、
飢餓状態の兆候であって、
人間の身体は定常状態ではブドウ糖を活用して、
それをエネルギーとして動くように出来ている、
というものでした。

ところが…

ケトジェニックダイエットを継続することにより、
肥満が改善し、
糖尿病や脂質異常症、脂肪肝炎などが改善するという報告が、
近年多く寄せられるようになりました。
https://www.mdpi.com/2072-6643/9/5/517

今回の研究はメタボを併発した精神疾患の患者さんに対して、
少人数の試験的な研究ではありますが、
ケトジェニックダイエットを4か月間継続して、
その有効性を見たものです。

対象は肥満やインスリン抵抗性などを伴う、
統合失調症もしくは双極性障害の患者さんトータル21名で、
ケトジェニックダイエットを継続施行し、
それを適時血液中のケトン体の測定で確認し、
4か月間の有効性を検証しているものです。

その結果、ケトジェニックダイエットを適切に継続することにより、
体重や血圧の減少が認められると共に、
臨床指標による精神疾患の症状も、
明確な改善が確認されました。

つまり、身体疾患のみならず、
精神疾患に対しても、
ケトジェニックダイエットの有効性が確認された、
という結果です。

ただ、これはまだ少人数での試験的な研究結果に過ぎない、
という点には注意が必要です。

飢餓状態や絶食が、
メタボなどの多くの病態の進行をリセットし、
それを改善するという知見は以前よりあり、
ブドウ糖の代わりにケトン体をエネルギー源として使用する、
というケトジェニックダイエットの考え方は、
その現象の1つの理論的裏付けと考えることが出来ます。

ただ、脂質や蛋白質のバランスによっては、
ケトジェニックダイエットで肝障害などが悪化した、
というような報告もあり、
その安全な施行には、
血液中のケトン体を経時的に測定するなど、
慎重な管理が必要です。

また、本当に糖質を摂らず、ケトン体をエネルギー源とする生活が、
人間にとってトータルに適切なものなのか、
というような点はまだ解明はされていません。

いずれにしても多くの代謝性疾患や精神疾患に対して、
ケトジェニックダイエットに、
少なくとも短期的な有効性のあることは、
ほぼ間違いのない事実となりつつあり、
今後の研究の進捗を慎重に見守りたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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運動と食事制限の食欲に対する影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
運動と食事の関連.jpg
Official Journal of the American College of Sports Medicine誌に、
2016年に掲載された、
食事制限と運動が食欲に与える影響についての論文です。

少し古いものですが、
このテーマにおいて興味深い知見なので、
ご紹介をさせて頂きます。

ダイエットのために食事制限と運動を行ったら、
運動の後で無性に食欲が亢進して、
ドカ食いをしてしまって失敗した、
というような体験談が良く聞かれます。

運動はカロリーを消費することですから、
運動の後には食欲が増すのはおかしなことではありません。
その一方で激しい運動の後は、
精神は高揚していて心地良い疲労感がありますが、
そうした時にはあまり食欲が沸かないものだと思います。

一般論で言って、運動をしっかり習慣としている人は、
食事制限を意図的にしなくても、
太ることはあまりないと思います。
この事実は、運動すること自体が、
食欲を適度に調整して、
過不足のない身体の状態を維持している、
という可能性を想像させます。

実際にそれは事実であるのでしょうか?

今回の論文はそのテーマを、
主に女性を対象として検証しているものです。
その理由はこうした研究はこれまで、
専ら男性の被験者で施行されることが多かったからだ、
と説明されています。
また、女性は食欲が亢進しやすいとの、
あまり根拠のない言説が多いことも指摘されています。

研究ではまず、
12 人の女性に9時間自由に生活した場合と、
90分のランニングをした場合、
食事を1食240キロカロリー程度に制限した場合の、
3種類のパターンを1週間の間隔で繰り返してもらい、
時間内には自由に間食も摂ってもらって、
運動と食事制限が、
その後の食欲と摂食に与える影響を検証しています。
更に2つ目の研究としては、
10人の男性と10人の女性を対象として、
運動の食欲と摂食に与える影響を、
同様に検証しています。

その結果、
食事制限を行うと、
食欲増進のホルモンであるグレリンの血液濃度は上昇し、
被験者は空腹感を感じて食欲が亢進、
結果として間食の量が増加します。

その一方で運動により、
食事制限と同等のエネルギー消費があっても、
グレリンの濃度の上昇はあまり認められず、
食事制限に見られたような、
食欲の亢進や過食の傾向も認められませんでした。

第二の実験で男女に分けて同様の検証を行っても、
運動の食欲抑制効果には、
明確な性差は認められませんでした。

要するに運動(この場合最大酸素摂取量の70%程度)を施行して、
エネルギーが消費されても、
食欲の増進は起こらない一方で、
同じカロリーを食事制限で抑制すると、
強い空腹感と食欲が生じて、
結果としてカロリー過多の状態になり易い、
という結果です。

ここで最初の疑問に戻りますが、
ダイエットで運動をするとその後にドカ食いをし易いのは、
元々過度な食事制限を施行している状態なので、
運動後の食欲亢進が起こり易く、
問題は運動ではなく食事制限の方にある、
と考えるのが妥当であるようです。

体重のコントロールには、
確かに運動と食事制限が両輪ですが、
食事制限は確実に食欲の亢進をもたらすので、
それをどうコントロールするかがポイントで、
食事制限でフラフラの状態で運動することは、
食欲の亢進に輪をかける可能性が高い、
という点はしっかり押させておく必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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急性心筋梗塞後のβブロッカーの有効性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
心筋梗塞後のβブロッカー使用の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年4月7日付でウェブ掲載された、
心不全治療薬を急性心筋梗塞後に使用することの、
有効性についての論文です。

βブロッカーというのは、
交感神経作用の1つであるβ受容体を介した働きを、
抑制する作用のある薬です。
商品名ではインデラル、ミケラン、テノーミン、メインテートなどが、
その代表的薬剤です。

交感神経のβ作用を抑制することにより、
脈拍は低下し、血圧も低下して、心臓への負荷が軽減されます。
このため、βブロッカーは労作性狭心症や心不全、高血圧の治療薬として、
その有効性が確認されています。
その一方でβ作用により気管支は拡張するので、
βブロッカーの使用により、
喘息は悪化するリスクがあるのです。

心臓を栄養する血管が閉塞する、
急性心筋梗塞の際には、
βブロッカーを使用することで、
その後の死亡リスクを20%以上低下させる、
というデータがあり、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7038157/
急性心筋梗塞後にβブロッカーを使用することが、
ガイドラインにおいても推奨されて来ました。

ただ、これは心臓のカテーテル治療などが進歩する前のデータで、
現在でも当て嵌まるとは限りません。
特に心不全や心機能の低下が顕著ではないケースでは、
βブロッカーの必要性は高くないのではないか、
という意見も見られるようになって来ています。

今回の研究はスウェーデン、エストニア、ニュージーランドの複数施設において、
急性心筋梗塞でカテーテル治療を施行した患者さんのうち、
心機能の指標である駆出率が50%以上と、
明確な心不全のない5020名の患者を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーを使用し、
もう一方は未使用として、
中間値で3.5年の経過観察を施行しています。
偽薬などは用いない試験デザインとなっています。

その結果、
患者の死亡や心筋梗塞の再発などのリスクには、
両群で明確な差は認められませんでした。

つまり、心不全のない急性心筋梗塞の患者さんでは、
βブロッカーの使用はあまり有効性はない、
ということを示唆する結果です。

ただ、同様の目的を持った別個の臨床試験も現在進行中で、
この問題はまだ一致した結論に至った、
とは言えないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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