心筋梗塞後のβブロッカーの中断とそのリスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年8月30日付で掲載された、
βブロッカーの心筋梗塞後の中止の影響についての論文です。
βブロッカーというのは、
交感神経作用の1つであるβ受容体を介した働きを、
抑制する作用のある薬です。
商品名ではインデラル、ミケラン、テノーミン、メインテートなどが、
その代表的薬剤です。
交感神経のβ作用を抑制することにより、
脈拍は低下し、血圧も低下して、心臓への負荷が軽減されます。
このため、βブロッカーは労作性狭心症や心不全、高血圧の治療薬として、
その有効性が確認されています。
その一方でβ作用により気管支は拡張するので、
βブロッカーの使用により、
喘息は悪化するリスクがあるのです。
心臓を栄養する血管が閉塞する、
急性心筋梗塞の際には、
βブロッカーを使用することで、
その後の死亡リスクを20%以上低下させる、
というデータがあり、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7038157/
急性心筋梗塞後にβブロッカーを使用することが、
ガイドラインにおいても推奨されて来ました。
ただ、これは心臓のカテーテル治療などが進歩する前のデータで、
現在でも当て嵌まるとは限りません。
特に心不全や心機能の低下が顕著ではないケースでは、
βブロッカーの必要性は高くないのではないか、
という意見も見られるようになって来ています。
2024年の4月にNew England…誌に掲載された論文では、
スウェーデン、エストニア、ニュージーランドの複数施設において、
急性心筋梗塞でカテーテル治療を施行した患者さんのうち、
心機能の指標である駆出率が50%以上と、
明確な心不全のない5020名の患者を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーを使用し、
もう一方は未使用として、
中間値で3.5年の経過観察を施行しています。
偽薬などは用いない試験デザインとなっています。
その結果、
患者の死亡や心筋梗塞の再発などのリスクには、
両群で明確な差は認められませんでした。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2401479
つまり、心不全のない急性心筋梗塞の患者さんでは、
βブロッカーの使用はあまり有効性はない、
ということを示唆する結果です。
今回の研究はフランスの複数施設において、
急性心筋梗塞後に長期間βブロッカーを使用している患者さんで、
心機能の指標である駆出率が40%以上に保たれている、
トータル3698名の患者さんをくじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーの使用を中止し、
もう一方はそのまま継続して、
中間値で3年の経過観察を施行しています。
登録の時点でβブロッカー使用期間の中間値は2.9年です。
その結果、
死亡と心筋梗塞や脳卒中の発症、心血管疾患による入院を併せたリスクは、
中断群の23.8%、継続群の21.1%に発症していて、
この差はデータの解析基準上、
有意な差ではないと判断されました。
つまり、安定した状態にある心筋梗塞後の患者さんで、
βブロッカーを長期継続後に中止しても、
患者さんの予後に大きな影響はない、
という結果です。
今後こうしたデータを元にして、
心筋梗塞後で一定の心機能が保たれている患者さんにおける、
βブロッカーの使用は、
かなり限定されたものになりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年8月30日付で掲載された、
βブロッカーの心筋梗塞後の中止の影響についての論文です。
βブロッカーというのは、
交感神経作用の1つであるβ受容体を介した働きを、
抑制する作用のある薬です。
商品名ではインデラル、ミケラン、テノーミン、メインテートなどが、
その代表的薬剤です。
交感神経のβ作用を抑制することにより、
脈拍は低下し、血圧も低下して、心臓への負荷が軽減されます。
このため、βブロッカーは労作性狭心症や心不全、高血圧の治療薬として、
その有効性が確認されています。
その一方でβ作用により気管支は拡張するので、
βブロッカーの使用により、
喘息は悪化するリスクがあるのです。
心臓を栄養する血管が閉塞する、
急性心筋梗塞の際には、
βブロッカーを使用することで、
その後の死亡リスクを20%以上低下させる、
というデータがあり、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7038157/
急性心筋梗塞後にβブロッカーを使用することが、
ガイドラインにおいても推奨されて来ました。
ただ、これは心臓のカテーテル治療などが進歩する前のデータで、
現在でも当て嵌まるとは限りません。
特に心不全や心機能の低下が顕著ではないケースでは、
βブロッカーの必要性は高くないのではないか、
という意見も見られるようになって来ています。
2024年の4月にNew England…誌に掲載された論文では、
スウェーデン、エストニア、ニュージーランドの複数施設において、
急性心筋梗塞でカテーテル治療を施行した患者さんのうち、
心機能の指標である駆出率が50%以上と、
明確な心不全のない5020名の患者を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーを使用し、
もう一方は未使用として、
中間値で3.5年の経過観察を施行しています。
偽薬などは用いない試験デザインとなっています。
その結果、
患者の死亡や心筋梗塞の再発などのリスクには、
両群で明確な差は認められませんでした。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2401479
つまり、心不全のない急性心筋梗塞の患者さんでは、
βブロッカーの使用はあまり有効性はない、
ということを示唆する結果です。
今回の研究はフランスの複数施設において、
急性心筋梗塞後に長期間βブロッカーを使用している患者さんで、
心機能の指標である駆出率が40%以上に保たれている、
トータル3698名の患者さんをくじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーの使用を中止し、
もう一方はそのまま継続して、
中間値で3年の経過観察を施行しています。
登録の時点でβブロッカー使用期間の中間値は2.9年です。
その結果、
死亡と心筋梗塞や脳卒中の発症、心血管疾患による入院を併せたリスクは、
中断群の23.8%、継続群の21.1%に発症していて、
この差はデータの解析基準上、
有意な差ではないと判断されました。
つまり、安定した状態にある心筋梗塞後の患者さんで、
βブロッカーを長期継続後に中止しても、
患者さんの予後に大きな影響はない、
という結果です。
今後こうしたデータを元にして、
心筋梗塞後で一定の心機能が保たれている患者さんにおける、
βブロッカーの使用は、
かなり限定されたものになりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
深夜の部屋の明るさと2型糖尿病リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the Lancet Regional Health-Europe誌に、
2024年6月5日付で掲載された、
深夜の部屋の明るさと糖尿病リスクとの関連についての論文です。
昼に起きて夜に寝るという日内リズムが崩れると、
身体の代謝状態が乱れて、
それが2型糖尿病のリスクになると想定されています。
夜中にずっと起きていることは勿論ですが、
たとえば夜に照明を点けたままで寝ていたり、
テレビなどを点けたままで寝ていると、
それだけでもホルモンなどの日内変動に、
影響を与えると考えられています。
たとえば寝ている間部屋の明かりを点けておくと、
翌日のインスリン抵抗性が悪化した、
という研究結果などが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35286195/
ただ、実際に夜中の時間帯の光の曝露量自体が、
どの程度その後の2型糖尿病のリスクに繋がるのか、
というような点については、
実証的なデータは不足しています。
そこで今回の研究では、
イギリスの大規模な医療データである、
UKバイオバンクの住民データを活用して、
84790名の一般住民に1週間ウェアラブルの端末を装着して、
その個人の光の曝露量を計測。
その後7.9±1.2年の経過観察期間における、
2型糖尿病の発症との関連を検証しています。
その結果、
午前0時30分から午前6時という、
深夜から早朝の時間帯に、
暗い部屋で寝ていた場合と比較して、
48ルクス(街灯くらい)を超えるくらいの光曝露があると、
その後の2型糖尿病のリスクが、
53%(95%CI:1.32から1.77)有意に増加していました。
つまり、深夜に少し明るい中で寝ているだけでも、
それが続けば糖尿病のリスクになるという結果です。
夜は暗い部屋で寝ることが、
糖尿病の予防においても、
重要な生活習慣の1つであるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the Lancet Regional Health-Europe誌に、
2024年6月5日付で掲載された、
深夜の部屋の明るさと糖尿病リスクとの関連についての論文です。
昼に起きて夜に寝るという日内リズムが崩れると、
身体の代謝状態が乱れて、
それが2型糖尿病のリスクになると想定されています。
夜中にずっと起きていることは勿論ですが、
たとえば夜に照明を点けたままで寝ていたり、
テレビなどを点けたままで寝ていると、
それだけでもホルモンなどの日内変動に、
影響を与えると考えられています。
たとえば寝ている間部屋の明かりを点けておくと、
翌日のインスリン抵抗性が悪化した、
という研究結果などが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35286195/
ただ、実際に夜中の時間帯の光の曝露量自体が、
どの程度その後の2型糖尿病のリスクに繋がるのか、
というような点については、
実証的なデータは不足しています。
そこで今回の研究では、
イギリスの大規模な医療データである、
UKバイオバンクの住民データを活用して、
84790名の一般住民に1週間ウェアラブルの端末を装着して、
その個人の光の曝露量を計測。
その後7.9±1.2年の経過観察期間における、
2型糖尿病の発症との関連を検証しています。
その結果、
午前0時30分から午前6時という、
深夜から早朝の時間帯に、
暗い部屋で寝ていた場合と比較して、
48ルクス(街灯くらい)を超えるくらいの光曝露があると、
その後の2型糖尿病のリスクが、
53%(95%CI:1.32から1.77)有意に増加していました。
つまり、深夜に少し明るい中で寝ているだけでも、
それが続けば糖尿病のリスクになるという結果です。
夜は暗い部屋で寝ることが、
糖尿病の予防においても、
重要な生活習慣の1つであるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
SGLT2阻害剤の認知症予防効果(2024年韓国の疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2024年8月28日付で掲載された、
経口糖尿病治療薬の認知症予防効果についての論文です。
2型糖尿病は認知症のリスクであることが知られていますが、
その治療に使われる薬剤によって、
そのリスクに差があるかどうかについては、
まだ明確なことが分かっていません。
最近の知見では、
尿に糖を排泄するSGLT2阻害剤というタイプの薬剤の使用が、
認知症のリスクの低減に働いているのでは、
という報告が幾つか見られます。
たとえば2023年に発表されたカナダの疫学データでは、
66歳以上の2型糖尿病の患者さんで、
SGLT2阻害剤を使用すると、
他のメカニズムの糖尿病治療薬である、
DPP4阻害剤を使用した場合と比較して、
その後の認知症のリスクが、
トータルで20%低下した、
という結果が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36508692/
それではより若い年齢で使用した場合にも、
同様の影響は認められるのでしょうか?
今回の研究は韓国において、
年齢が40から69歳でSGLT2阻害剤を開始した、
110885名の2型糖尿病の患者を、
年齢などをマッチさせた、
DPP4阻害剤を開始した同数の患者と比較して、
認知症の発症リスクを検証しています。
その結果、
平均で670日の観察期間において、
DPP4阻害剤を使用した患者と比較して、
SGLT2阻害剤を使用している患者は、
トータルな認知症のリスクが、
35%(95%CI:0.58から0.73)有意に低下していました。
このリスクの低下は、
治療期間が2年を超えるとより強く認められましたが、
認知症のタイプによらず認められました。
それでは、何故SGLT2阻害剤には、
認知症の予防効果があるのでしょうか?
現時点では正確なメカニズムは不明ですが、
幾つかの研究により、
このタイプの薬剤に、
脳神経細胞を保護するような効果のあることが、
報告されています。
今後より精度の高い方法で、
今回の結果は検証される必要がありますが、
最近臓器保護において多くのデータが報告されている、
SGLT2阻害剤において、
認知症予防においても肯定的なデータが蓄積されていて、
今後このタイプの薬の評価は、
より高まることになりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2024年8月28日付で掲載された、
経口糖尿病治療薬の認知症予防効果についての論文です。
2型糖尿病は認知症のリスクであることが知られていますが、
その治療に使われる薬剤によって、
そのリスクに差があるかどうかについては、
まだ明確なことが分かっていません。
最近の知見では、
尿に糖を排泄するSGLT2阻害剤というタイプの薬剤の使用が、
認知症のリスクの低減に働いているのでは、
という報告が幾つか見られます。
たとえば2023年に発表されたカナダの疫学データでは、
66歳以上の2型糖尿病の患者さんで、
SGLT2阻害剤を使用すると、
他のメカニズムの糖尿病治療薬である、
DPP4阻害剤を使用した場合と比較して、
その後の認知症のリスクが、
トータルで20%低下した、
という結果が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36508692/
それではより若い年齢で使用した場合にも、
同様の影響は認められるのでしょうか?
今回の研究は韓国において、
年齢が40から69歳でSGLT2阻害剤を開始した、
110885名の2型糖尿病の患者を、
年齢などをマッチさせた、
DPP4阻害剤を開始した同数の患者と比較して、
認知症の発症リスクを検証しています。
その結果、
平均で670日の観察期間において、
DPP4阻害剤を使用した患者と比較して、
SGLT2阻害剤を使用している患者は、
トータルな認知症のリスクが、
35%(95%CI:0.58から0.73)有意に低下していました。
このリスクの低下は、
治療期間が2年を超えるとより強く認められましたが、
認知症のタイプによらず認められました。
それでは、何故SGLT2阻害剤には、
認知症の予防効果があるのでしょうか?
現時点では正確なメカニズムは不明ですが、
幾つかの研究により、
このタイプの薬剤に、
脳神経細胞を保護するような効果のあることが、
報告されています。
今後より精度の高い方法で、
今回の結果は検証される必要がありますが、
最近臓器保護において多くのデータが報告されている、
SGLT2阻害剤において、
認知症予防においても肯定的なデータが蓄積されていて、
今後このタイプの薬の評価は、
より高まることになりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
高齢者の慢性腎臓病における蛋白制限の影響(2024年スウェーデンの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日なので休診ですが、
終日事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2024年8月7日付で掲載された、
高齢者の慢性腎臓病(CKD)における、
蛋白制限の必要性についての論文です
CKDという言葉が、
一般向けの書籍や報道などでも、
使用される機会が最近増えています。
CKDはChronic Kidney Diseaseの略で、
要するに慢性腎臓病という意味合いです。
腎臓という臓器はソラマメのような形をして、
背中に近い位置に2つあり、
その主な働きは、
身体に不要な物質や老廃物を、
おしっことして体外に排泄すると共に、
身体の水分や電解質などの量を、
適切に調節することにあります。
この腎臓の働きは、
他の臓器と同じように、
年齢や、高血圧・糖尿病など他の病気の影響で、
次第に低下してゆきます。
この働きが高度に低下した状態が腎不全で、
こうなると身体は老廃物を排泄することが出来ないので、
そのままでは死に至ります。
そして、高度に進行した腎不全において、
死を回避する方法は、
腎移植を除けば、
透析により人工的に老廃物を除去するしかありません。
しかし、
透析の治療は患者さんにも大きな負担になりますし、
社会生活も大きく制限を受けると共に、
高額な医療費が掛かるために、
医療経済的にも大きな問題となっています。
特に日本においては、
超高齢化社会が目の前に迫っていて、
透析が必要となるような、
高度の腎不全の患者さんも急増が予想され、
社会保障制度の存続のためにも、
大きな問題の1つになることは避けられません。
CKDという概念自体はアメリカで始まったものですが、
より早期の段階で腎臓病の管理を行なうことにより、
透析が必要となるような患者さんの数を減らし、
医療費の削減を期待しようという考え方は、
現在の日本ではよりその意義が大きく、
事態はより切迫しているように思います。
こうした背景があるので、
報道などでもCKDの話題が、
しばしば取り上げられるようになりましたし、
僕のような末端の医者に対しても、
CKDを見落とさずに適切な管理を行ない、
一定以上進行した場合には、
速やかに専門医へ患者さんを取り次ぐように、
という指導が行われているのです。
CKDの概念は比較的シンプルです。
腎機能の低下は、
GFR(糸球体濾過量)という数値で表現され、
その数値が平均の体表面積当たり、
60ml/min という数値を切った状態が、
3ヶ月以上持続する場合に、
CKDがあると判断されます。
もう1つの要素はおしっこの所見で、
おしっこにアルブミンという蛋白が検出される状態が、
これも3ヶ月以上持続すれば、
GFRが60を超えていても、
CKDがあると診断されるのです。
CKDはその進行度によって、
1~5までのステージに分かれ、
概ねGFRの数値によって区分けされます。
1は90以上で、
2は60~89まで、
3は30~59で、
4は15~29、
そして5は腎不全でGFRは15未満となっています。
GFRは推算GFRとして、
血液のクレアチニンという数値から、
年齢と男女差のみから算定されます。
たとえば、
55歳の男性で血液のクレアチニンが1.5mg/dl の場合、
概算でeGFRは36.0ml/minとなり、
これは進行度ではCKDのステージ3になる、
という訳です。
こうした指標を導入する意味は、
ステージ3以下の進行度が比較的軽い状態で、
CKDを診断し、
その後の進行を遅らせて、
透析になるような事態を回避する方策を取る、
というところにあります。
それでは、
どのようにして腎機能の低下を遅らせることが出来るのでしょうか?
栄養指導で指摘されることが多いのが蛋白制限です。
蛋白質は勿論身体にとって必須な栄養素ですが、
腎機能が低下した状態で食事の蛋白質が多いと、
それが腎機能の低下に、
拍車をかける可能性が指摘されているからです。
そのため現行の海外のガイドラインでは、
ステージ1から2のCKDでは、
体重1キロ当たり1.3グラムを超える高蛋白食を避け、
ステージ3以上のCKDでは、
体重1キロ当たり0.6から0.8グラムに蛋白質を制限する、
というように記載をされています。
日本のガイドラインでも、
細部は異なる点はありますが、
ほぼ同一の方針が示されています。
しかし…
これが高齢者の慢性腎臓病においても、
同じように当て嵌まるものかどうか、
という点については、
議論があるところです。
高齢者は筋肉量が減少することによって、
体力の低下や転倒リスクの増加などが指摘されていて、
そのため体重当たり1から1.2グラムくらいの蛋白質の摂取を、
維持することが重要であると考えられているからです。
高齢者のCKDにおいて、
蛋白制限は必要なのでしょうか、
それとも必要ないのでしょうか?
今回の研究では、スウェーデンにおいて、
高齢者の健康についての3つの疫学研究のデータを、
まとめて解析する手法で、
生命予後に与える蛋白制限の影響を検証しています。
対象は登録時点で60歳以上の一般住民14399名で、
そのうちの4739名はCKDと診断されています。
最長10年の観察期間において、
1468名が死亡されています。
CKDでステージ4以上の患者さんは除外されているので、
対象となっているのは、
ステージ1から3の、
軽症から中等症の患者さんです。
ここで体重1キロ当たり0.8グラムという蛋白制限と比較して、
1.0グラムの通常蛋白群では、
総死亡リスクは12%(95%CI:0.79から0.98)、
1.2グラムの軽度高蛋白群では、
総死亡リスクは21%(95%CI;0.66から0.95)、
1.4グラムという高蛋白群では、
総死亡リスクは27%(95%CI:0.57から0.92)、
それぞれ有意に低下していました。
つまり、蛋白摂取量が多いほど、
総死亡のリスクは低下していたという結果です。
蛋白制限の生命予後改善効果は、
CKDのない人でより強く認められていて、
蛋白の組成では、
動物由来蛋白より、
豆類などの植物由来蛋白質の摂取で、
より強く認められる傾向がありました。
つまり、高齢者においては、
高蛋白食が生命予後の改善に繋がる可能性が高く、
確かに腎機能低下においては、
その効果は減弱はするものの、
CKDステージ1から3の状態であれば、
体重1.2グラム程度の高蛋白食は健康上のリスクにはならない、
蛋白の組成は植物性蛋白主体であればより望ましい、
という結果です。
今回のデータは生命予後のみを対象としたもので、
腎機能低下の抑止という観点からは、
また別の結果が出る可能性がありますが、
いずれにしても高齢者の腎機能低下時の蛋白制限については、
今後ガイドラインを含めて変更される可能性がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日なので休診ですが、
終日事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2024年8月7日付で掲載された、
高齢者の慢性腎臓病(CKD)における、
蛋白制限の必要性についての論文です
CKDという言葉が、
一般向けの書籍や報道などでも、
使用される機会が最近増えています。
CKDはChronic Kidney Diseaseの略で、
要するに慢性腎臓病という意味合いです。
腎臓という臓器はソラマメのような形をして、
背中に近い位置に2つあり、
その主な働きは、
身体に不要な物質や老廃物を、
おしっことして体外に排泄すると共に、
身体の水分や電解質などの量を、
適切に調節することにあります。
この腎臓の働きは、
他の臓器と同じように、
年齢や、高血圧・糖尿病など他の病気の影響で、
次第に低下してゆきます。
この働きが高度に低下した状態が腎不全で、
こうなると身体は老廃物を排泄することが出来ないので、
そのままでは死に至ります。
そして、高度に進行した腎不全において、
死を回避する方法は、
腎移植を除けば、
透析により人工的に老廃物を除去するしかありません。
しかし、
透析の治療は患者さんにも大きな負担になりますし、
社会生活も大きく制限を受けると共に、
高額な医療費が掛かるために、
医療経済的にも大きな問題となっています。
特に日本においては、
超高齢化社会が目の前に迫っていて、
透析が必要となるような、
高度の腎不全の患者さんも急増が予想され、
社会保障制度の存続のためにも、
大きな問題の1つになることは避けられません。
CKDという概念自体はアメリカで始まったものですが、
より早期の段階で腎臓病の管理を行なうことにより、
透析が必要となるような患者さんの数を減らし、
医療費の削減を期待しようという考え方は、
現在の日本ではよりその意義が大きく、
事態はより切迫しているように思います。
こうした背景があるので、
報道などでもCKDの話題が、
しばしば取り上げられるようになりましたし、
僕のような末端の医者に対しても、
CKDを見落とさずに適切な管理を行ない、
一定以上進行した場合には、
速やかに専門医へ患者さんを取り次ぐように、
という指導が行われているのです。
CKDの概念は比較的シンプルです。
腎機能の低下は、
GFR(糸球体濾過量)という数値で表現され、
その数値が平均の体表面積当たり、
60ml/min という数値を切った状態が、
3ヶ月以上持続する場合に、
CKDがあると判断されます。
もう1つの要素はおしっこの所見で、
おしっこにアルブミンという蛋白が検出される状態が、
これも3ヶ月以上持続すれば、
GFRが60を超えていても、
CKDがあると診断されるのです。
CKDはその進行度によって、
1~5までのステージに分かれ、
概ねGFRの数値によって区分けされます。
1は90以上で、
2は60~89まで、
3は30~59で、
4は15~29、
そして5は腎不全でGFRは15未満となっています。
GFRは推算GFRとして、
血液のクレアチニンという数値から、
年齢と男女差のみから算定されます。
たとえば、
55歳の男性で血液のクレアチニンが1.5mg/dl の場合、
概算でeGFRは36.0ml/minとなり、
これは進行度ではCKDのステージ3になる、
という訳です。
こうした指標を導入する意味は、
ステージ3以下の進行度が比較的軽い状態で、
CKDを診断し、
その後の進行を遅らせて、
透析になるような事態を回避する方策を取る、
というところにあります。
それでは、
どのようにして腎機能の低下を遅らせることが出来るのでしょうか?
栄養指導で指摘されることが多いのが蛋白制限です。
蛋白質は勿論身体にとって必須な栄養素ですが、
腎機能が低下した状態で食事の蛋白質が多いと、
それが腎機能の低下に、
拍車をかける可能性が指摘されているからです。
そのため現行の海外のガイドラインでは、
ステージ1から2のCKDでは、
体重1キロ当たり1.3グラムを超える高蛋白食を避け、
ステージ3以上のCKDでは、
体重1キロ当たり0.6から0.8グラムに蛋白質を制限する、
というように記載をされています。
日本のガイドラインでも、
細部は異なる点はありますが、
ほぼ同一の方針が示されています。
しかし…
これが高齢者の慢性腎臓病においても、
同じように当て嵌まるものかどうか、
という点については、
議論があるところです。
高齢者は筋肉量が減少することによって、
体力の低下や転倒リスクの増加などが指摘されていて、
そのため体重当たり1から1.2グラムくらいの蛋白質の摂取を、
維持することが重要であると考えられているからです。
高齢者のCKDにおいて、
蛋白制限は必要なのでしょうか、
それとも必要ないのでしょうか?
今回の研究では、スウェーデンにおいて、
高齢者の健康についての3つの疫学研究のデータを、
まとめて解析する手法で、
生命予後に与える蛋白制限の影響を検証しています。
対象は登録時点で60歳以上の一般住民14399名で、
そのうちの4739名はCKDと診断されています。
最長10年の観察期間において、
1468名が死亡されています。
CKDでステージ4以上の患者さんは除外されているので、
対象となっているのは、
ステージ1から3の、
軽症から中等症の患者さんです。
ここで体重1キロ当たり0.8グラムという蛋白制限と比較して、
1.0グラムの通常蛋白群では、
総死亡リスクは12%(95%CI:0.79から0.98)、
1.2グラムの軽度高蛋白群では、
総死亡リスクは21%(95%CI;0.66から0.95)、
1.4グラムという高蛋白群では、
総死亡リスクは27%(95%CI:0.57から0.92)、
それぞれ有意に低下していました。
つまり、蛋白摂取量が多いほど、
総死亡のリスクは低下していたという結果です。
蛋白制限の生命予後改善効果は、
CKDのない人でより強く認められていて、
蛋白の組成では、
動物由来蛋白より、
豆類などの植物由来蛋白質の摂取で、
より強く認められる傾向がありました。
つまり、高齢者においては、
高蛋白食が生命予後の改善に繋がる可能性が高く、
確かに腎機能低下においては、
その効果は減弱はするものの、
CKDステージ1から3の状態であれば、
体重1.2グラム程度の高蛋白食は健康上のリスクにはならない、
蛋白の組成は植物性蛋白主体であればより望ましい、
という結果です。
今回のデータは生命予後のみを対象としたもので、
腎機能低下の抑止という観点からは、
また別の結果が出る可能性がありますが、
いずれにしても高齢者の腎機能低下時の蛋白制限については、
今後ガイドラインを含めて変更される可能性がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
肉の摂取量と2型糖尿病リスク(2024年メタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the Lancet Diabetes & Endocrinology 誌に、
2024年9月付で掲載された、
肉の摂取量と2型糖尿病リスクについての論文です。
肉の摂取量、特に牛や豚などの赤身肉や、
ソーセージなどの加工肉の摂取量が多いと、
2型糖尿病の発症リスクが高くなるというのは、
これまでにも度々報告されている知見です。
ただ、その多くは欧米での疫学データによるもので、
アジア人種などで同様の傾向があるかどうかについては、
明確ではない点があります。
また、データの解析法は様々で、
特に赤身肉についてのデータは多いのですが、
鶏肉などの家禽においても、
同様の影響があるかどうかについては、
そのデータは限られていて、
明確な結論には到っていません。
そこで今回の研究では、
アメリカ、ヨーロッパ、アジア、太平洋地域など、
世界中で施行された31の疫学データをまとめて解析するメタ解析の手法で、
この問題のトータルな検証を行っています。
対象は登録の時点で2型糖尿病のない、
18歳以上のトータル1966444名の一般住民で、
中間値で10年の観察期間中に、
そのうちの107271名が2型糖尿病を発症していました。
そこで糖尿病の発症リスクと、
食事調査による肉の摂取量との関連を、
赤身肉(牛、豚、羊など)、加工肉(ハム、ソーセージなど)、
家禽肉(鶏など)に分けて検証したところ、
赤身肉の摂取が1日100グラム増える毎に、
10%(95%CI:1.06から1.15)、
加工肉の摂取が1日50グラム増える毎に、
15%(95%CI:1.11から1.20)
家禽の肉の摂取が1日100グラム増える毎に、
8%(95%CI:1.02から1.14)、
2型糖尿病の発症リスクがそれぞれ有意に増加していました。
この肉の摂取による糖尿病のリスクの増加は、
主に北米、ヨーロッパ、西太平洋地域で主に認められていました。
ここで赤身肉や加工肉の摂取を、
家禽肉の摂取に置き換えると、
糖尿病のリスクは低下することが推計されました。
このように、
肉の摂取量が多いことは、
全体で2型糖尿病のリスク増加に結び付いており、
特に赤身肉と加工肉の摂取量が、
より強く影響することが今回改めて示されました。
特に加工肉の摂り過ぎは、
糖尿病のみならず、
心血管疾患のリスク増加に結び付くことが報告されていますから、
ソーセージやハムなどの摂取は、
健康のためには控えるに越したことはないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the Lancet Diabetes & Endocrinology 誌に、
2024年9月付で掲載された、
肉の摂取量と2型糖尿病リスクについての論文です。
肉の摂取量、特に牛や豚などの赤身肉や、
ソーセージなどの加工肉の摂取量が多いと、
2型糖尿病の発症リスクが高くなるというのは、
これまでにも度々報告されている知見です。
ただ、その多くは欧米での疫学データによるもので、
アジア人種などで同様の傾向があるかどうかについては、
明確ではない点があります。
また、データの解析法は様々で、
特に赤身肉についてのデータは多いのですが、
鶏肉などの家禽においても、
同様の影響があるかどうかについては、
そのデータは限られていて、
明確な結論には到っていません。
そこで今回の研究では、
アメリカ、ヨーロッパ、アジア、太平洋地域など、
世界中で施行された31の疫学データをまとめて解析するメタ解析の手法で、
この問題のトータルな検証を行っています。
対象は登録の時点で2型糖尿病のない、
18歳以上のトータル1966444名の一般住民で、
中間値で10年の観察期間中に、
そのうちの107271名が2型糖尿病を発症していました。
そこで糖尿病の発症リスクと、
食事調査による肉の摂取量との関連を、
赤身肉(牛、豚、羊など)、加工肉(ハム、ソーセージなど)、
家禽肉(鶏など)に分けて検証したところ、
赤身肉の摂取が1日100グラム増える毎に、
10%(95%CI:1.06から1.15)、
加工肉の摂取が1日50グラム増える毎に、
15%(95%CI:1.11から1.20)
家禽の肉の摂取が1日100グラム増える毎に、
8%(95%CI:1.02から1.14)、
2型糖尿病の発症リスクがそれぞれ有意に増加していました。
この肉の摂取による糖尿病のリスクの増加は、
主に北米、ヨーロッパ、西太平洋地域で主に認められていました。
ここで赤身肉や加工肉の摂取を、
家禽肉の摂取に置き換えると、
糖尿病のリスクは低下することが推計されました。
このように、
肉の摂取量が多いことは、
全体で2型糖尿病のリスク増加に結び付いており、
特に赤身肉と加工肉の摂取量が、
より強く影響することが今回改めて示されました。
特に加工肉の摂り過ぎは、
糖尿病のみならず、
心血管疾患のリスク増加に結び付くことが報告されていますから、
ソーセージやハムなどの摂取は、
健康のためには控えるに越したことはないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
高身長とがんリスク(2024年中国の疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Cancer Epidemiology誌に、
2024年8月13日付でウェブ掲載された、
身長とがんリスクとの関連についての論文です。
身長が高いほどがんのリスクが増加するというのは、
かなり昔から報告されている知見です。
以前ご紹介した2013年のCancer Epidemiol Biomarkers Prev誌の論文では、
アメリカの閉経後女性を調査したデータにより、
身長が10センチ高くなる毎に、
トータルながんのリスクは13%増加した、
という結果が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23887996/
他にも多くの研究があり、メタ解析もありますが、
面白いことに概ね、身長が10センチ高くなる毎に、
10%程度のリスク増加が見られている、
という点では一致しています。
今回の論文は中国の研究者によるもので、
これまでの同様のデータは、
主に欧米人を対象として解析されたものなので、
今回はアジア人種で同様の検証を行った、
と記載されています。
ただ、最初に引用されている、
身長とがんリスクついての論文は、
その多くが韓国人の疫学データなので、
記載とはやや矛盾しているような気もします。
閑話休題…
今回の研究では中国のバイオバンクのデータを活用して、
年齢が30から79歳のトータル510145名の一般住民を、
中間値で10.1年観察した結果、
そのうちの22731名が何等かのがんを発症していました。
そこで他の関連する因子を補正した上で、
身長とがんリスクとの関連をみると、
身長が10センチ高くなる毎に、
トータルながんのリスクが16%(95%CI:1.14から1.19)、
肺癌のリスクが18%(95%CI:1.12から1.24)、
食道癌のリスクが21%(95%CI:1.12から1.30)、
乳癌のリスクが41%(95%CI:1.31から1.53)、
子宮頸癌のリスクが29%(95%CI:1.15から1.45)、
それぞれ有意に増加していました。
これとは別個に、
メンデル遺伝子解析という手法で、
中国人、韓国人、日本人のこれまでのデータを、
まとめて解析した結果でも、
ほぼ同等の結果が得られました。
このように、
人種に関わらずがん発症のリスクが、
身長が高いほど増加する、
というのは間違いのない事実であるようです。
それでは、何故身長が高いとがんになり易いのでしょうか?
上記文献には2つの仮説が提唱されている、と書かれています。
そのうちの1つは、身長の高い人は細胞数が多いので、
細胞分裂の回数も多く、
それだけ分裂時の変異も起こり易いのではないか、
というものですが、
これはあまり説得力のあるものではない気がします。
もう1つの仮説は、
高身長の要因となる、
成長ホルモンや成長因子のIGF1が、
細胞の増殖を刺激して、
それががんのリスク増加に繋がっているのではないか、
というものです。
こちらの見解の方がもっともらしいのですが、
まだ実証されている訳ではない、という点には注意が必要です。
いずれにしても、
がんのリスクが身長に影響されるのは間違いがないとしても、
その影響は軽微なものなので、
高身長の方は特にそれを不安に感じる必要はないと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Cancer Epidemiology誌に、
2024年8月13日付でウェブ掲載された、
身長とがんリスクとの関連についての論文です。
身長が高いほどがんのリスクが増加するというのは、
かなり昔から報告されている知見です。
以前ご紹介した2013年のCancer Epidemiol Biomarkers Prev誌の論文では、
アメリカの閉経後女性を調査したデータにより、
身長が10センチ高くなる毎に、
トータルながんのリスクは13%増加した、
という結果が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23887996/
他にも多くの研究があり、メタ解析もありますが、
面白いことに概ね、身長が10センチ高くなる毎に、
10%程度のリスク増加が見られている、
という点では一致しています。
今回の論文は中国の研究者によるもので、
これまでの同様のデータは、
主に欧米人を対象として解析されたものなので、
今回はアジア人種で同様の検証を行った、
と記載されています。
ただ、最初に引用されている、
身長とがんリスクついての論文は、
その多くが韓国人の疫学データなので、
記載とはやや矛盾しているような気もします。
閑話休題…
今回の研究では中国のバイオバンクのデータを活用して、
年齢が30から79歳のトータル510145名の一般住民を、
中間値で10.1年観察した結果、
そのうちの22731名が何等かのがんを発症していました。
そこで他の関連する因子を補正した上で、
身長とがんリスクとの関連をみると、
身長が10センチ高くなる毎に、
トータルながんのリスクが16%(95%CI:1.14から1.19)、
肺癌のリスクが18%(95%CI:1.12から1.24)、
食道癌のリスクが21%(95%CI:1.12から1.30)、
乳癌のリスクが41%(95%CI:1.31から1.53)、
子宮頸癌のリスクが29%(95%CI:1.15から1.45)、
それぞれ有意に増加していました。
これとは別個に、
メンデル遺伝子解析という手法で、
中国人、韓国人、日本人のこれまでのデータを、
まとめて解析した結果でも、
ほぼ同等の結果が得られました。
このように、
人種に関わらずがん発症のリスクが、
身長が高いほど増加する、
というのは間違いのない事実であるようです。
それでは、何故身長が高いとがんになり易いのでしょうか?
上記文献には2つの仮説が提唱されている、と書かれています。
そのうちの1つは、身長の高い人は細胞数が多いので、
細胞分裂の回数も多く、
それだけ分裂時の変異も起こり易いのではないか、
というものですが、
これはあまり説得力のあるものではない気がします。
もう1つの仮説は、
高身長の要因となる、
成長ホルモンや成長因子のIGF1が、
細胞の増殖を刺激して、
それががんのリスク増加に繋がっているのではないか、
というものです。
こちらの見解の方がもっともらしいのですが、
まだ実証されている訳ではない、という点には注意が必要です。
いずれにしても、
がんのリスクが身長に影響されるのは間違いがないとしても、
その影響は軽微なものなので、
高身長の方は特にそれを不安に感じる必要はないと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
経口抗菌薬と重症薬疹リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA誌に2024年8月8日付で掲載された、
重症の薬の副作用と、
飲み薬の抗菌薬との関連についての論文です。
薬の副作用として最も起こり易いものの1つが、
皮膚に起こる蕁麻疹などのアレルギー性の変化です。
こうした変化が出た場合には、
速やかに原因となる薬を中止することにより、
症状は改善することが多いのですが、
中には重症な皮膚の変化や内臓の障害を伴って、
緊急入院が必要となったり、
命に関わる深刻な事態となることもあります。
その代表的な病気が、
スティーブンス・ジョンソン症候群や、
中毒性表皮壊死融解症と呼ばれる重症薬疹で、
全身に水疱が生じて皮膚が壊死し、
致死率も高いという深刻な病態です。
特に高齢者では、そのリスクも高く、
重症化も多いことが知られています。
勿論原因となる薬が予め分かっていれば、
それを使わなければ良いだけの話ですが、
同じ薬を同じように使用していても、
起こる人と起こらない人がいますし、
その頻度は多くはないことは確かで、
大半の方には安全に使用可能な薬が殆どであるのが、
この問題の厄介なところです。
それでも、重症薬疹を来しやすい薬というものはあり、
その代表の1つが細菌感染などの治療薬である、
抗菌薬(抗生物質を含む)です。
ただ、多くの種類の抗菌剤がある中で、
重症薬疹のリスクを比較したようなデータは、
あまり存在していません。
そこで今回の研究では、
カナダのオンタリオ州の医療データを活用して、
少なくとも年1回経口抗菌薬の処方歴のある、
65歳以上の高齢者で、
処方後60日以内に重症の薬疹を来して、
救急医療機関を受診もしくは入院した、
トータル21758名の一般住民を、
年齢などをマッチングした67025名のコントロール群と比較して、
薬剤毎のリスクを検証しています。
抗菌剤の処方期間の中間値は7日間
(四分位範囲7から10日)で、
処方から受診までの期間の中間値は14日間
(四分位範囲7から35日)でした。
検証の結果、
クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬と比較して、
最も重症薬疹リスクが高かったのは、
スルホンアミド系抗菌薬
(日本での使用はゲーベンクリームとサラゾピリン、バクタなど)
でそのリスクは2.9倍(95%CI:2.7から3.1)と最も高く、
次に高かったのはセファロスポリン系抗菌薬
(ケフレックス、バナン、トミロンなど多数)
でそのリスクは2.6倍(95%CI:2.5から2.8)でした。
特に日本の処方では、
セファロスポリン系抗菌薬は使用頻度の高い薬剤なので、
その使用時には患者さんの背景から、
薬疹のリスクを想定し、
必要性の高い事例のみに使用を留めるなど、
より慎重な対応が必要と考えられます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
(付記)コメントでご指摘を受け、スルホンアミド系抗菌剤に、
バクタを追加しました。(2024年8月31日午前6時24分修正)
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA誌に2024年8月8日付で掲載された、
重症の薬の副作用と、
飲み薬の抗菌薬との関連についての論文です。
薬の副作用として最も起こり易いものの1つが、
皮膚に起こる蕁麻疹などのアレルギー性の変化です。
こうした変化が出た場合には、
速やかに原因となる薬を中止することにより、
症状は改善することが多いのですが、
中には重症な皮膚の変化や内臓の障害を伴って、
緊急入院が必要となったり、
命に関わる深刻な事態となることもあります。
その代表的な病気が、
スティーブンス・ジョンソン症候群や、
中毒性表皮壊死融解症と呼ばれる重症薬疹で、
全身に水疱が生じて皮膚が壊死し、
致死率も高いという深刻な病態です。
特に高齢者では、そのリスクも高く、
重症化も多いことが知られています。
勿論原因となる薬が予め分かっていれば、
それを使わなければ良いだけの話ですが、
同じ薬を同じように使用していても、
起こる人と起こらない人がいますし、
その頻度は多くはないことは確かで、
大半の方には安全に使用可能な薬が殆どであるのが、
この問題の厄介なところです。
それでも、重症薬疹を来しやすい薬というものはあり、
その代表の1つが細菌感染などの治療薬である、
抗菌薬(抗生物質を含む)です。
ただ、多くの種類の抗菌剤がある中で、
重症薬疹のリスクを比較したようなデータは、
あまり存在していません。
そこで今回の研究では、
カナダのオンタリオ州の医療データを活用して、
少なくとも年1回経口抗菌薬の処方歴のある、
65歳以上の高齢者で、
処方後60日以内に重症の薬疹を来して、
救急医療機関を受診もしくは入院した、
トータル21758名の一般住民を、
年齢などをマッチングした67025名のコントロール群と比較して、
薬剤毎のリスクを検証しています。
抗菌剤の処方期間の中間値は7日間
(四分位範囲7から10日)で、
処方から受診までの期間の中間値は14日間
(四分位範囲7から35日)でした。
検証の結果、
クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬と比較して、
最も重症薬疹リスクが高かったのは、
スルホンアミド系抗菌薬
(日本での使用はゲーベンクリームとサラゾピリン、バクタなど)
でそのリスクは2.9倍(95%CI:2.7から3.1)と最も高く、
次に高かったのはセファロスポリン系抗菌薬
(ケフレックス、バナン、トミロンなど多数)
でそのリスクは2.6倍(95%CI:2.5から2.8)でした。
特に日本の処方では、
セファロスポリン系抗菌薬は使用頻度の高い薬剤なので、
その使用時には患者さんの背景から、
薬疹のリスクを想定し、
必要性の高い事例のみに使用を留めるなど、
より慎重な対応が必要と考えられます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
(付記)コメントでご指摘を受け、スルホンアミド系抗菌剤に、
バクタを追加しました。(2024年8月31日午前6時24分修正)
アスピリンの中止とその影響 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BMC Medicine誌に、
2024年7月29日付で掲載された、
高齢者でのアスピリンの服用中止の影響についての論文です。
1日80から100mg程度のアスピリンを継続的に飲むことに、
心血管疾患や腺癌というタイプの癌の、
予防効果のあることは、
多くの疫学データや精度の高い臨床試験においても、
実証されている事実です。
ただ、その一方でアスピリンには出血系の合併症があり、
使用を継続することで、
消化管出血や脳出血などのリスクは増加します。
従って、アスピリンを服用することが、
その人にとって有益であるかどうかは、
その作用と有害事象とのバランスに掛かっています。
その有効性は一度そうした病気になった人の、
再発予防効果としては確立されていますが、
まだ病気にはなっていない場合の、
一次予防効果については、
どのような対象者を選ぶかによっても、
その結果は様々で統一した見解とはなっていません。
心血管疾患の中でも虚血性心疾患については、
比較的アスピリンの予防効果が実証されていますが、
脳卒中についてはそれほど明確なことが分かっていません。
特に脳卒中のリスクの高い70歳以上の高齢者については、
臨床試験の対象からは外されていることが多く、
信頼のおけるデータは限られています。
そこで70歳以上の心血管疾患のない高齢者を対象として、
低用量アスピリンの一次予防効果を検証した、
ASPREEという臨床試験が施行されました。
その結果は2018年に論文化されましたが、
高齢者に一次予防目的でアスピリンを使用しても、
心血管疾患のリスクは低下せず、
出血系の合併症は増加し、
結果として生命予後も悪化が認められた、
という衝撃的なものでした。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1805819
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1803955
つまり、
心血管疾患のない70歳以上の人においては、
アスピリン継続使用の健康効果は、
ほぼ完全に否定されたのです。
ただ、そこで問題となるのは、
アスピリンを継続して使用している高齢者において、
それを中止することのリスクはないのだろうか、
という点です。
アスピリンを開始することにメリットがない、
ということと、
それまで特に問題なくアスピリンを使用していた人が、
それを中止することの弊害がない、
ということとはまた別の問題であるからです。
今回の研究は、
今ご紹介したASPREE試験の二次解析ですが、
対象事例のうち、
途中でアスピリンを中止した事例と、
継続した事例とを比較することで、
アスピリン中止の影響を検証しているものです。
解析の結果、
アスピリンを中途で中止しても、
その後48か月までの期間において、
心血管疾患のリスクや生命予後に悪影響は生じることはなく、
重症の出血系合併症は、
明確に低下することが確認されました。
これは臨床試験のデータを後から解析したものなので、
これをもってアスピリン中止の安全性が、
実証されたとまでは言えませんが、
70歳以上の心血管疾患のない高齢者において、
一次予防目的で使用されているアスピリンについては、
中止を検討することで、
患者さんに特に弊害は生じないと、
現時点では考えて良いように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BMC Medicine誌に、
2024年7月29日付で掲載された、
高齢者でのアスピリンの服用中止の影響についての論文です。
1日80から100mg程度のアスピリンを継続的に飲むことに、
心血管疾患や腺癌というタイプの癌の、
予防効果のあることは、
多くの疫学データや精度の高い臨床試験においても、
実証されている事実です。
ただ、その一方でアスピリンには出血系の合併症があり、
使用を継続することで、
消化管出血や脳出血などのリスクは増加します。
従って、アスピリンを服用することが、
その人にとって有益であるかどうかは、
その作用と有害事象とのバランスに掛かっています。
その有効性は一度そうした病気になった人の、
再発予防効果としては確立されていますが、
まだ病気にはなっていない場合の、
一次予防効果については、
どのような対象者を選ぶかによっても、
その結果は様々で統一した見解とはなっていません。
心血管疾患の中でも虚血性心疾患については、
比較的アスピリンの予防効果が実証されていますが、
脳卒中についてはそれほど明確なことが分かっていません。
特に脳卒中のリスクの高い70歳以上の高齢者については、
臨床試験の対象からは外されていることが多く、
信頼のおけるデータは限られています。
そこで70歳以上の心血管疾患のない高齢者を対象として、
低用量アスピリンの一次予防効果を検証した、
ASPREEという臨床試験が施行されました。
その結果は2018年に論文化されましたが、
高齢者に一次予防目的でアスピリンを使用しても、
心血管疾患のリスクは低下せず、
出血系の合併症は増加し、
結果として生命予後も悪化が認められた、
という衝撃的なものでした。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1805819
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1803955
つまり、
心血管疾患のない70歳以上の人においては、
アスピリン継続使用の健康効果は、
ほぼ完全に否定されたのです。
ただ、そこで問題となるのは、
アスピリンを継続して使用している高齢者において、
それを中止することのリスクはないのだろうか、
という点です。
アスピリンを開始することにメリットがない、
ということと、
それまで特に問題なくアスピリンを使用していた人が、
それを中止することの弊害がない、
ということとはまた別の問題であるからです。
今回の研究は、
今ご紹介したASPREE試験の二次解析ですが、
対象事例のうち、
途中でアスピリンを中止した事例と、
継続した事例とを比較することで、
アスピリン中止の影響を検証しているものです。
解析の結果、
アスピリンを中途で中止しても、
その後48か月までの期間において、
心血管疾患のリスクや生命予後に悪影響は生じることはなく、
重症の出血系合併症は、
明確に低下することが確認されました。
これは臨床試験のデータを後から解析したものなので、
これをもってアスピリン中止の安全性が、
実証されたとまでは言えませんが、
70歳以上の心血管疾患のない高齢者において、
一次予防目的で使用されているアスピリンについては、
中止を検討することで、
患者さんに特に弊害は生じないと、
現時点では考えて良いように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
コーヒーとお茶の脳卒中への影響(2024 年発表の疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医面談などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
International Journal of Stroke誌に、
2024年6月18日付で掲載された、
コーヒーとお茶の脳卒中への影響についての論文です。
コーヒーの健康効果については多くの報告があり、
生命予後の改善作用や、
糖尿病、肝臓病、心臓病などの予防効果については、
その有効性はほぼ確立されていると言って良いと思います。
ただ、脳卒中に対するコーヒーの有効性については、
一定の有効性が確認されたというデータはあるものの、
無効であったというデータもあって、
必ずしも一致した結論に至っていません。
むしろお茶については紅茶でも緑茶でも、
脳卒中の予防効果が見られたという報告があります。
その辺りについては以前のブログ記事にまとめたありますので、
こちらをご覧ください。
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2018-04-18-1
今回の研究は脳卒中のリスクを解析した、
INTERSTROKE研究という、
世界32か国142施設で行われた国際的な疫学研究のデータを、
二次的に解析したもので、
トータル13462名の初発脳卒中患者を、
年齢などをマッチングした、
13488名と比較して、
コーヒーやお茶(紅茶、緑茶など全て含む)の習慣的摂取と、
脳卒中の発症リスクとの関連を検証しています。
その結果、
コーヒーについては、
1日4杯までの摂取習慣では、
脳卒中リスクとの間に有意な関連はありませんでしたが、
1日5杯以上飲む人は、
飲まない人と比較して、
脳梗塞や脳出血など全てを含む脳卒中のリスクを、
37%(95%CI:1.06から1.77)有意に増加させていました。
脳卒中の内訳では、
虚血性梗塞のリスクが、
32%(95%CI:1.00から1.74)と増加していましたが、
脳内出血のリスクの有意な増加は認められませんでした。
一方でお茶については、
1日1から2杯で18%(95%CI:0.73から0.92)、
3から4杯で20%(95%CI:0.70から0.91)、
5杯以上で19%(95%CI:0.69から0.94)と、
いずれの量でもトータルな脳卒中のリスクを低下させていました。
このリスク低下は緑茶でより強く認められ、
紅茶単独ではそれほど明確ではありませんでした。
このように今回の検証では、
コーヒーは1日5杯を超えると、
脳卒中のリスク増加に結び付いていて、
お茶、特に緑茶については、
その量に関わらず一定のリスク低下が認められました。
これは過去のデータともほぼ一致しているもので、
現状で脳卒中予防の飲み物としては、
緑茶が最も優れていて、
コーヒーは1日3から4杯に留めておくのが、
安全な選択であるように思われます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医面談などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
International Journal of Stroke誌に、
2024年6月18日付で掲載された、
コーヒーとお茶の脳卒中への影響についての論文です。
コーヒーの健康効果については多くの報告があり、
生命予後の改善作用や、
糖尿病、肝臓病、心臓病などの予防効果については、
その有効性はほぼ確立されていると言って良いと思います。
ただ、脳卒中に対するコーヒーの有効性については、
一定の有効性が確認されたというデータはあるものの、
無効であったというデータもあって、
必ずしも一致した結論に至っていません。
むしろお茶については紅茶でも緑茶でも、
脳卒中の予防効果が見られたという報告があります。
その辺りについては以前のブログ記事にまとめたありますので、
こちらをご覧ください。
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2018-04-18-1
今回の研究は脳卒中のリスクを解析した、
INTERSTROKE研究という、
世界32か国142施設で行われた国際的な疫学研究のデータを、
二次的に解析したもので、
トータル13462名の初発脳卒中患者を、
年齢などをマッチングした、
13488名と比較して、
コーヒーやお茶(紅茶、緑茶など全て含む)の習慣的摂取と、
脳卒中の発症リスクとの関連を検証しています。
その結果、
コーヒーについては、
1日4杯までの摂取習慣では、
脳卒中リスクとの間に有意な関連はありませんでしたが、
1日5杯以上飲む人は、
飲まない人と比較して、
脳梗塞や脳出血など全てを含む脳卒中のリスクを、
37%(95%CI:1.06から1.77)有意に増加させていました。
脳卒中の内訳では、
虚血性梗塞のリスクが、
32%(95%CI:1.00から1.74)と増加していましたが、
脳内出血のリスクの有意な増加は認められませんでした。
一方でお茶については、
1日1から2杯で18%(95%CI:0.73から0.92)、
3から4杯で20%(95%CI:0.70から0.91)、
5杯以上で19%(95%CI:0.69から0.94)と、
いずれの量でもトータルな脳卒中のリスクを低下させていました。
このリスク低下は緑茶でより強く認められ、
紅茶単独ではそれほど明確ではありませんでした。
このように今回の検証では、
コーヒーは1日5杯を超えると、
脳卒中のリスク増加に結び付いていて、
お茶、特に緑茶については、
その量に関わらず一定のリスク低下が認められました。
これは過去のデータともほぼ一致しているもので、
現状で脳卒中予防の飲み物としては、
緑茶が最も優れていて、
コーヒーは1日3から4杯に留めておくのが、
安全な選択であるように思われます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
アルツハイマー型認知症に対するコリンエステラーゼ阻害剤の治療効果の差 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Aging Medicine誌に、
2024年6月18日付で掲載された、
現行の治療薬による認知症の治療効果の差についての論文です。
新薬の使用などが徐々に始まってはいますが、
現在の認知症治療の主体は、
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、
というタイプの薬剤です。
ドネペジル(アリセプト)はその代表で、
他に少しずつ性質や作用の異なる薬がありますが、
その基本的な性質は同じです。
アセチルコリンは脳の神経伝達物質の1つで、
認知症においてその働きが低下するため、
アセチルコリンの分解を抑える薬を使用して、
認知症の進行を抑止しよう、というのが、
その主なメカニズムです。
このタイプの薬は認知症そのものを改善する効果はありませんが、
認知症に伴う症状を軽減し、
その進行を緩やかにする効果のあることは、
多くの精度の高い臨床試験において確認されています。
ただ、同じようにこうした薬を使用していても、
その効果は患者さんによって様々で、
薬の効果で病状の進行があまり見られない、
という患者さんがいる一方で、
薬を使用していても、
急速に病状が進行するというケースもあります。
それでは、
どのような患者さんでこうした薬は有効で、
どのような患者さんで無効なのでしょうか?
それがある程度推測可能であれば、
治療方針の選択や、
病状経過や予後を予測する意味で、
有益な情報が得られることは間違いがありません。
今回の研究は台湾において、
単独の医療施設のカルテデータを解析して、
コリンエステラーゼ阻害剤の治療効果に与える、
個別の患者背景を検証しています。
対象は新たにアルツハイマー型認知症と診断されて、
コリンエステラーゼ阻害剤による治療を新たに開始した、
トータル1370名の患者で、
1年の治療の経過後に、
認知機能が明確に低下した事例と、
それに影響を与えた因子を解析しています。
認知機能の低下は、
MMSEという認知症の臨床指標がが3点以上、
もしくはCDRという指標が1点以上、
それぞれ低下したことで判定しています。
その結果、
対象者のうち854名は認知機能の明確な低下はなく、
516名は治療後1年で認知機能が明確に低下していました。
そして、
関連する他の因子を補正した結果、
認知機能低下群では体格の指標であるBMIが有意に低く、
抗精神病薬の使用は認知機能低下群で有意に高くなっていました。
またベンゾジアゼピンの使用も、
有意ではないものの認知機能低下群で高い傾向がありました。
今回のデータはまだ確定的なものではありませんが、
認知症で治療を施行している場合には、
抗精神病薬やベンゾジアゼピン系の薬剤の使用は、
より慎重な対応が必要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Aging Medicine誌に、
2024年6月18日付で掲載された、
現行の治療薬による認知症の治療効果の差についての論文です。
新薬の使用などが徐々に始まってはいますが、
現在の認知症治療の主体は、
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、
というタイプの薬剤です。
ドネペジル(アリセプト)はその代表で、
他に少しずつ性質や作用の異なる薬がありますが、
その基本的な性質は同じです。
アセチルコリンは脳の神経伝達物質の1つで、
認知症においてその働きが低下するため、
アセチルコリンの分解を抑える薬を使用して、
認知症の進行を抑止しよう、というのが、
その主なメカニズムです。
このタイプの薬は認知症そのものを改善する効果はありませんが、
認知症に伴う症状を軽減し、
その進行を緩やかにする効果のあることは、
多くの精度の高い臨床試験において確認されています。
ただ、同じようにこうした薬を使用していても、
その効果は患者さんによって様々で、
薬の効果で病状の進行があまり見られない、
という患者さんがいる一方で、
薬を使用していても、
急速に病状が進行するというケースもあります。
それでは、
どのような患者さんでこうした薬は有効で、
どのような患者さんで無効なのでしょうか?
それがある程度推測可能であれば、
治療方針の選択や、
病状経過や予後を予測する意味で、
有益な情報が得られることは間違いがありません。
今回の研究は台湾において、
単独の医療施設のカルテデータを解析して、
コリンエステラーゼ阻害剤の治療効果に与える、
個別の患者背景を検証しています。
対象は新たにアルツハイマー型認知症と診断されて、
コリンエステラーゼ阻害剤による治療を新たに開始した、
トータル1370名の患者で、
1年の治療の経過後に、
認知機能が明確に低下した事例と、
それに影響を与えた因子を解析しています。
認知機能の低下は、
MMSEという認知症の臨床指標がが3点以上、
もしくはCDRという指標が1点以上、
それぞれ低下したことで判定しています。
その結果、
対象者のうち854名は認知機能の明確な低下はなく、
516名は治療後1年で認知機能が明確に低下していました。
そして、
関連する他の因子を補正した結果、
認知機能低下群では体格の指標であるBMIが有意に低く、
抗精神病薬の使用は認知機能低下群で有意に高くなっていました。
またベンゾジアゼピンの使用も、
有意ではないものの認知機能低下群で高い傾向がありました。
今回のデータはまだ確定的なものではありませんが、
認知症で治療を施行している場合には、
抗精神病薬やベンゾジアゼピン系の薬剤の使用は、
より慎重な対応が必要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。