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新型コロナウイルス感染症に対するレムデシビルの有効性(無作為介入試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスに対するレムデシビルの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年5月22日ウェブ掲載された、
抗ウイルス剤レムデシビルの、
大規模な介入試験の結果をまとめた論文です。

NIHからプレスリリースのようなものだけが発表されていた結果の、
待望の論文化ということになります。

レムデシビルはDNAの原料となる核酸の誘導体で、
ウイルスが細胞内で核酸(RNA)の合成を行う、
RNAポリメラーゼの阻害剤です。

これはアビガン(ファビピラビル)と同様のメカニズムです。

この薬はアメリカの製薬会社ギリアドサイエンシズ社の開発品で、
現行はまだ世界的に未承認薬、治験薬の扱いです。
エボラ出血熱に対しては研究的使用が行われ、
一定の有効性が確認されています。
SARSやMERSなどのコロナウイルスに関しても、
基礎実験では一定の有効性が確認されています。

新型コロナウイルス感染症に対するレムデシビルへの期待は、
この薬の新型コロナウイルスに対するEC50という、
ウイルスの感染細胞での増殖を50%抑制する濃度が、
0.77μMという低さであることが影響しています。

実験的にはここまで効果の高い薬は他にないからです。

その実際の有効性はどうなのでしょうか?

先日同じNew England…誌のレムデシビルについての論文をご紹介しましたが、
それはこれまでに試験的に投与された61例を解析したもので、
コントロール群が設定された、
厳密な臨床試験ではありませんでした。

それから中国において行われた、
無作為介入試験の結果がLancet誌に掲載されました。
対象は湖北省で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染した、
年齢は18歳以上でCTで肺炎像が認められ、
酸素飽和度が94%以下の237名の患者で、
登録は症状出現後12日以内に行われ、
PCR検査での陽性も条件となっています。

登録者を本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2対1に分けると、
多い群はレムデシビルを10日間注射し、
少ない群は偽薬の注射を施行して、
その予後を比較検証しています。

その結果、
症状が改善するまでに期間には、
レムデシビル群と偽薬群との間で、
明確な差は認められませんでした。
その予後にも明確な差は認められていません。
ちなみに試験開始28日後の時点で、
レムデシビル群の15%、
偽薬群の13%が死亡されています。

つまり、あまり明確な有効性が確認されなかったのです。

今回の大規模介入試験は、
中国以外の世界各地で行われており、
日本も1施設で参加しています。
国立国際医療研究センター病院であるようです。
施設はアメリカが多く、
イギリス、デンマーク、ドイツ、韓国、
メキシコ、スぺイン、シンガポールが参加しています。

最初に中国国内で介入試験が行われて駄目で、
今度は中国抜きの介入試験がより大規模に施行された、
という流れです。

登録された新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の患者は、
トータル1063名で、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はレムデシビルを初日は200ミリグラム、
2日目以降は100ミリグラムの静注を10日目まで継続し、
もう一方は偽の注射を行います。

そして、
効果判定は治癒にて退院か、
もしくは病状は治癒し、
感染予防目的のみでの入院と判断されるまでの期間を、
両群で比較しています。

ただ、中間解析において、
レムデシビル群での入院期間の短縮が明確となったので、
その時点で盲検試験としては終了となり、
偽薬かレムデシビルかは開示されています。

今回のデータはその時点までの解析結果です。

レムデシビル群の回復までの期間の中間値は11日に対して、
偽薬群のそれは15日で、
偽薬群ではレムデシビル群と比較して、
回復までの期間が1.32倍(95%CI: 1.12から1.55)、
有意に延長していました。
推計の死亡リスクも、
レムデシビル群で30%(95%CI: 0.47から1.04)、
有意ではないものの低下する傾向を示しました。

今回の結果は色々と制限や限界のある中では、
かなり画期的なもので、
入院を要するような新型コロナウイルス感染症の治療においては、
現時点ではレムデシビルが、
最も有効性を期待出来る薬剤、
と言って良いように思います。

ただ、その効果は決して満足のゆくレベルのものではなく、
このウイルス感染症の克服のためには、
より有効な治療薬が必要であることは、
また間違いのないことなのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスの年齢による感染しやすさとACE2遺伝子との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ACEと年齢論文.jpg
JAMA誌に2020年5月20日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の年齢分布の謎を、
鼻粘膜のACE2遺伝子発現量で説明した論文です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV2)の感染症は、
小児の感染事例が少ないことが特徴で、
流行の当初は小児の感染事例はないとされていました。
その後感染が全世界に拡大するに至って、
乳幼児を含む小児の感染事例も報告されるようになりましたが、
それでも小児の事例は2%未満(上記文献の記載)という少なさです。

この現象には幾つかの異なった説明があります。

代表的なものは、
小児はこのウイルスに感染しづらいというものと、
感染はするけれども軽症に終わる、
という2つの説明です。

そのどちらが正しいのかについては、
現状正確には分かっていません。

新型コロナウイルスはSARSと同じように、
細胞にあるACE2受容体に結合して、
それを足掛かりに細胞内に侵入して感染します。

これも当初は下気道のACE2にのみ感染して、
肺炎を起こす、というように考えられていましたが、
今では鼻粘膜などの上気道にもACE2が発現していて、
そこにも感染することが分かっています。

今回の研究では、
このACE2の発現に年齢による差があるのでは、
という推測のもとに、
多数例で鼻粘膜のACE2遺伝子の発現を調べ、
その年齢による違いを比較検証しています。

喘息の関連因子を検証するために採取された、
4歳から60歳の305名の鼻粘膜の検体を、
10歳未満、10から17歳、18から24歳、25歳以上、
という4群に分けて、ACE2遺伝子の発現量を比較したところ、
10歳未満の年齢では、
それ以外の年齢区分と比較して、
有意にACE2遺伝子の発現量が低下していました。
それを図示したものがこちらです。
ACEと年齢の図.jpg
このように鼻粘膜のACE2遺伝子発現量は、
18歳くらいまでは年齢とともに増加することが分かります。
この違いは喘息の有無や性差に影響はされませんでした。

つまり、
小児では上気道のACE2が少なく、
そのために新型コロナウイルス感染症に罹り難いのでは、
ということが推測されます。

ただ、気管支肺胞洗浄液によるACE2活性を調べた以前の報告では、
年齢による差は見られなかったという結果が発表されています。

上気道と下気道で発現が異なっているという可能性はありますが、
それは証明されたものではなく、
今回の研究結果は非常に興味深いものですが、
今後別のデータや研究により、
補強される必要はありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SARSの抗体の一部が新型コロナウイルスに有効? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの中和抗体の交差免疫.jpg
Nature誌に2020年5月18日にウェブ掲載された、
SARS患者の回復後のリンパ球が産生する抗体の一部が、
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の中和抗体でもあるという、
興味深い検査結果についての論文です。

ウイルスなどの病原体が身体に侵入して感染を起こすと、
それを排除しようとする免疫の仕組みが働きます。
そして、病原体が排除された回復期になると、
その病原体を速やかに排除するために、
病原体の特徴的な部分に結合する、
抗体というマーカーのようなタンパク質が、
B細胞というリンパ球によって産生されます。

仮にまた同じウイルスが感染を起こそうとして侵入すると、
その抗体が速やかにそこに結合して、
その侵入を許さないのです。

これが抗体がウイルスを排除して、
同じ病気に2度罹らないようにする仕組みです。

個別のウイルスに対しては、
通常そのウイルスにのみ結合する抗体が産生されます。

ただ、ウイルス自体に似通った性質がある場合、
違うウイルスに対しても同じ抗体が結合し反応する、
ということもありえます。

あるウイルスに対する抗体が、
他のウイルスに対しても有効である場合、
これを交差免疫と呼んでいます。

さて、
今回の新型コロナウイルスはSARSの原因ウイルスと、
高い類似性があります。
分類的にも、
同じβコロナウイルスのサルベコウイルス亜属に属します。

上記文献の著者らは、
SARSから回復した患者の血液より、
メモリーB細胞という抗体産生細胞を取り出し、
SARSに反応する抗体の分析を行なっています。

SARSの原因ウイルスに反応する抗体と言っても、
1種類ではなく多くの抗体が存在しているのですが、
その中に他のコウモリなど動物由来のコロナウイルスに対しても、
中和抗体として働くような抗体があることを発見しているのです。

であるならば、
SARSから回復した患者のリンパ球が産生する抗体の中に、
今回の新型コロナウイルスを中和するような抗体も、
あるのではないでしょうか?

そうした推測のもとに、
25種類の主に感染に関わる突起の部位に結合する抗体を解析。
それが新型コロナウイルスの中和抗体として、
働くかどうかを検証しています。

25種類の抗体のうち8種類は新型コロナウイルスにも結合し、
特にS309とネーミングされた抗体が、
新型コロナウイルスの中和抗体として働くことが、
疑似ウイルス中和アッセイという厳密な手法により確認されました。

これは本物のウイルスではありませんが、
それに非常に近い疑似ウイルスを細胞に感染させ、
それを抗体が阻止するかどうかを見ている検査で、
かなり信頼性の高いものなのです。

このS309というモノクローナル抗体を合成して、
投与すれば理屈の上では新型コロナウイルスには感染しません。

勿論新型コロナウイルス感染症自体から回復した患者によって、
同様の検証を行なえばより確実であるのですが、
その検証の手がかりにもなる訳です。

抗体と簡単に言いますが、
実際にはウイルスの結合部位に対する抗体も、
SARS原因ウイルスにおいて20種類以上も同定されていますから、
どの抗体が確実にウイルスの中和に働くのか、
それともあまり働かないのか、
ワクチンの開発も含めて、
その辺りの検証はそう簡単なものではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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低ナトリウム塩の健康効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ナトリウム減少塩と健康.jpg
2020年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
低ナトリウム塩の活用効果を数理モデルで検証した論文です。

過度な塩分制限には異論もありますが、
現代人が塩分を必要以上に多く摂っていることは事実で、
1日10グラムを超えるような塩分の摂取が、
高血圧や脳卒中、虚血性心疾患、慢性腎臓病、
胃がんなどの病気のリスクを増加させることは、
多くの精度の高い疫学データや臨床データによって、
実証された事実です。

健康な食生活として、
そのため適度な減塩が重要であることは、
これも間違いがありません。

ただ、味覚というのは習慣的な部分が大きく、
また文化的な側面もあります。
昔の人間は今より運動量が多く、
塩分も多く喪失していました。
食事も保存の利くものが重宝されたので、
自ずと塩分濃度の高いものが好まれたのです。

それを変えることはなかなか困難です。

最近無理なく減塩を達成するための方法として、
注目されているのが「低ナトリウム塩」です。

これはどういうものかと言うと、
塩化ナトリウムが主体の通常の塩の、
一部を塩化カリウムに変えてしまいます。

そうすると、
通常の塩より、
ナトリウムは大きく減少して、
カリウムが増加する、
ということになります。

実は塩化カリウムも味としては塩辛く感じるので、
それほど違和感なく、
普通の食塩の代わりに使用することが出来るのですね。

カリウムはナトリウムの排泄を促すので、
ナトリウム自体の含有量が少ないことと、
ナトリウムの排泄が促されることの相乗効果で、
減塩効果がもたらされるということになります。

日本においても複数のメーカーから、
この低ナトリウム塩が販売されています。

それでは、通常の食塩をこの低ナトリウム塩にすることで、
どのくらいの健康効果が期待されるのでしょうか?

1つ危惧されるのは腎機能低下がある場合で、
進行した腎機能低下があるとカリウムの排泄が低下するので、
高カリウム血症になりやすく、
その段階では低ナトリウム塩を使用することで、
むしろ高カリウム血症が増悪する、
という可能性も否定出来ません。

そこで今回の研究では中国において、
慢性腎臓病を持つおよそ1700万人に対して、
通常の食塩を、
その20から30%を塩化カリウムに置き換えた、
低ナトリウム塩に変更することで、
心血管疾患のリスクがどのように変化するのかを、
これまでの疫学データや臨床データを基にした、
数理モデルを使って解析しています。

今流行りの「ビッグデータからAIが予測した」という解析に近いものです。

その結果、
低ナトリウム塩を活用することにより、
総人口を対象とした場合、
年間で461000人の心血管疾患による死亡が予防され、
これは心血管疾患による死亡を、
11%抑制することに匹敵すえると想定されました。
その一方で低ナトリウム塩で誘発される高カリウム血症により、
年間約11000人が死亡するという可能性があります。
これを差し引きして、
年間45万人の死亡が予防され、
慢性腎臓病のある対象者に限ると、
年間で21000人の死亡が予防されます。
これは慢性腎臓病の対象者の心血管疾患による死亡のうち、
8%を抑制したということになります。

このように、
トータルでみて低ナトリウム塩の使用は、
心血管疾患のリスク低下において、
非常に有効な方法である一方、
高カリウム血症のリスクが想定される対象に対しては、
慎重に行う必要があり、
今後どのようにその使用を広げるべきか、
議論が必要であると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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クロロキン製剤治療の新型コロナウイルスに対する有効性(患者レジストリ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヒドロキシクロロキンの実世界での有効性.jpg
Lancet誌に2020年5月22日にウェブ掲載された、
クロロキンとヒドロキシクロロキンによる、
新型コロナウイルス感染症治療の有効性を、
大規模な患者レジストリ解析という手法で、
世界規模で検証した論文です。

患者レジストリ解析というのは、
疾患により登録した通常臨床のの患者データを、
ある治療の有無などで分けて解析する手法で、
主に厳密な介入試験などの実施が困難な場合に、
その代替として施行されるものです。

新型コロナウイルス感染症は、
まだその予防や治療法が確立しておらず、
急激に悪化して死に至る事例もあるので、
偽薬を使うような介入試験を行うことは困難で、
そのため治療の評価としては、
この患者レジストリ解析が主流になるようです。

クロロキンとヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬ですが、
新型コロナウイルスに対する抗ウイルス作用と免疫調整作用が期待され、
単独もしくは免疫調整作用のあるマクロライド系抗菌剤との併用で、
その試験的な使用が世界的に行われています。

ただ、その実際の有効性については、
これまでにも何度か記事にしたように、
あまり明確な有効性が示されていません。
また、特にマクロライドとの併用により、
重篤な不整脈の発生のリスクも危惧されています。

今回の検証では世界6大陸の671の登録施設における。
トータルで96032名の新型コロナウイルス感染症の入院事例を、
患者レジストリ解析の対象としています。
そのうち14888名は治療群で、
その内訳は1868名はクロロキン単独、
3783名はクロロキンとマクロライドの併用、
3016名はヒドロキシクロロキン単独、
6221名はヒドロキシクロロキンとマクロライドの併用です。
クロロキン製剤未使用のコントロール群は81144名です。

性別年齢体格などの因子を補正して解析した結果、
コントロール群の死亡率(9.3%)と比較して、
クロロキン群の死亡率16.4%は1.365倍
(95%CI:1.218から1.531)、
クロロキンとマクロライド併用群の死亡率22.2%は1.368倍
(95%CI:1.273から1.469)、
ヒドロキシクロロキン群の死亡率18.0%は1.335倍
(95%CI:1.223唐1.457)、
ヒドロキシクロロキンとマクロライド併用群の死亡率23.8%は1.447倍
(95%CI:1.368から1.531)、
それぞれ有意に増加していました。

要するに未治療と比較して、
クロロキン製剤を使用する治療を行った方が、
入院中の死亡リスクが高く、
マクロライドとの併用でそのリスクはより増加する、
という結果です。

この原因として想定されるのは、
心臓への影響に伴う致死性の不整脈ですが、
入院中の新規発生の心室性不整脈の発症リスクが、
コントロール群(0.3%)と比較して、
クロロキン群では4.3%で3.561倍
(95%CI:2.760から4.596)、
クロロキンとマクロライド併用群では6.5%で4.011倍
(95%CI:3.344唐4.812)、
ヒドロキシクロロキン群では6.1%で2.369倍
(95%CI:1.935から2.900)、
ヒドロキシクロロキンとマクロライド併用群では8.1%で5.106倍
(95%CI:4.106から5.983)、
それぞれ有意に増加していました。

これをもって、
単純に不整脈の発症と死亡リスクの増加を結び付けることは出来ませんが、
いずれにしてもクロロキン製剤を新型コロナウイルス感染症に使用する試みは、
今後余程肯定的なデータが出ない限り、
今回の発表をもってほぼ完全に治療の選択肢からは除外された、
と言って間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスに対するアデノウイルス5型ウイルスベクターワクチンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アデノウイルスベクターの有効性.jpg
Lancet誌に2020年5月22日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスに対する、
ウイルスベクターワクチンの、
中国での臨床試験結果をまとめた論文です。

査読された雑誌に掲載されるものとしては、
おそらく最初の新型コロナウイルスワクチンの臨床試験結果です。

世界各国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の、
ワクチン開発が行われています。

今回ご紹介するのは、
中国が国策として推進しているプロジェクトの1つで、
アデノウイルス5型を用いたウイルスベクターワクチンです。
中国政府とカンシノバイオロジクス社というバイオ企業の共同研究です。

ウイルスベクターワクチンというのは、
他の無害なウイルスの遺伝子の一部に、
目標とするウイルスの遺伝子を取り込ませて、
それを人間に感染させることにより、
免疫を誘導しよう、という手法のワクチンです。

アデノウイルス5型というのは、
風邪ウイルスの一種で人間にも感染しますが、
無症状か軽い風邪症状のみで治癒します。
それを利用して新型コロナウイルスの免疫を、
同時に付けてしまおう、という方法なのです。

中国はこの手法を用いたエボラワクチンを開発していて、
臨床試験においても一定の有効性と安全性を得ています。

ただ、エボラに対しては多くのメカニズムによるワクチンが、
世界中で開発され臨床試験が行われていますが、
まだスタンダードに使用出来るようなワクチンはないようです。
かなりリスクが高いようなワクチンや、
成功する可能性も低そうなワクチンが、
アフリカでは次々と臨床試験がされていて、
言葉は悪いですが世界中のワクチンメーカーが、
ワクチン開発の実験場として、
エボラとアフリカを利用しているような側面もあります。

それはともあれ…

中国はエボラで同じタイプのワクチンの製造に成功しているので、
運ぶ遺伝子を新型コロナウイルスの抗原に変えるだけで、
比較的簡単にワクチン製造に着手出来たようです。
使う抗原遺伝子としては、
ワクチンの突起(スパイク)を構成する、
糖蛋白の遺伝子が利用されています。
これはスパイクの細胞との結合部位に対する抗体が、
新型コロナウイルスの中和抗体である可能性が高いからです。

この臨床試験はワクチンの容量設定と安全性、
そして接種による免疫反応を確認するためのもので、
偽ワクチンなどによるコントロールはなく、
被験者を3つの用量接種群に分けて、
その比較を行っています。

195名の中国武漢市在住の市民で、
新型コロナウイルス感染症の罹患歴がなく、
抗体検査でも陰性が確認されている108名を、
低用量群、中用量群、高用量群の3群に分け、
1回ずつウイルスベクターワクチンを接種して、
接種後28日の時点での抗体上昇や細胞性免疫の賦活作用を、
比較検証しています。

その結果、受容体結合部位に対する抗体の、
接種前より4倍以上の上昇は、
低用量群でも97%、高用量群では100%に認められました。
中和抗体の上昇について見ると、
接種前より4倍以上の上昇は、
低用量群では50%、中用量群では50%、
高用量群では75%に認められました。

接種に伴うT細胞の活性化は、
接種後14日をピークとして認められました。

有害事象については、
接種部位の疼痛が最も多く54%に認められ、
発熱が46%、倦怠感が44%、頭痛39%、筋肉痛17%と続いていました。
高熱や倦怠感、筋肉痛が出現するのは、
接種後24時間以内で、
48時間以上継続したケースは認められませんでした。

このワクチンはアデノウイルス5型を元にしているので、
接種前のアデノウイルス5型の抗体価が高いかどうかが、
その有効性や安全性に影響するという可能性があります。
今回の臨床試験においては、
高熱などの接種後の有害事象は、
アデノウイルス5型の抗体価が高い事例では少なく、
一方で中和抗体の陽性率は、
アデノウイルス5型抗体が高力価では低くなっていました。
つまり、アデノウイルス5型の感染の既往があると、
このワクチンの有効性は低くなってしまう可能性があります。

このタイプのワクチンは、
有害性の少ないウイルス自体を接種する形式なので、
安全性は高いと想定されます。
ただ、元のウイルスの免疫に影響されるという点が欠点です。
また、新型コロナウイルスの、
一部の抗原遺伝子しか使用していないので、
中和抗体が28日の時点で上昇したとしても、
それが本当にその後の感染予防に有効であるかどうかは、
現時点では分かりません。
中和抗体の陽性率もそれほど高いとは言えません。

今後実際により多くの対象者にワクチンを接種して、
その感染予防効果を検証するような臨床試験に移ると思われるので、
その結果を注意深く見守りたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症に対するヒドロキシクロロキンの効果(フランスの観察研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療には回る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヒドロキシクロロキンの臨床効果(フランス).jpg
British Medical Journal誌に2020年5月14日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスに対するヒドロキシクロロキンの有効性を検証した、
フランスでの観察研究の結果をまとめた論文です。

これは5月18日にご紹介した中国の多施設臨床試験と、
セットで同じ紙面に載ったものです。
本当は同時に紹介した方が良かったのですが、
事情あってバラでのご紹介となります。
ただ、ほぼほぼ結論は一緒です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療には、
多くの薬剤が試みられていますが、
その中でも世界的にその有効性が期待され、
一定の臨床データも存在している薬の1つが、
リン酸クロロキンとヒドロキシクロロキン硫酸塩です。

アメリカのトランプ大統領はこの薬を何故か気に入っていて、
自らも「予防のため(?)」に内服している、
という報道がありました。

クロロキンはマラリアの治療薬として合成されたもので、
マラリアに有効性がある一方、
心臓への毒性やクロロキン網膜症と呼ばれる、
失明に結び付くこともある目の有害事象があり、
その使用は慎重に行う必要のある薬です。

ヒドロキシクロロキンはクロロキンの代謝産物で、
マラリアの診療に使用されると共に、
関節リウマチやSLEなどの膠原病の治療にもその有効性が確認され、
使用が行われています。
日本ではもっぱらこのヒドロキシクロロキンが、
膠原病の治療薬として保険適応されて使用されています。
その有害事象は基本的にはクロロキンと同一ですが、
その用量設定はマラリア治療よりずっと少なく、
有害事象も用量を守って適応のある患者さんが使用する範囲において、
クロロキン網膜症以外の有害事象は少ない、
というように判断されています。

クロロキンが膠原病に効果があるのは、
免疫系の活性化を抑えて、
免疫を調整するような作用と、
ウイルスの細胞との膜融合と取り込みを阻害する、
抗ウイルス作用によると考えられています。

アジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)と言う抗菌剤と、
併用されることがあるのは、
アジスロマイシンにも免疫調整作用があるので、
その相乗効果を期待している、ということのようです。

この治療が注目されたのはフランスで、
少人数の臨床試験において画期的な治療効果があった、
という報告があったからです。
ただ、別個に行われた臨床試験においては、
同様の結果は再現されていません。

またヒドロキシクロロキン単独の効果については、
以前査読前の論文をご紹介しましたが、
そこでは62名の患者さんを2つの群に分けて、
一方にヒドロキシクロロキンの投与を行ない、
症状改善までの期間が2日程度短縮した、
という結果が報告されています。
ただ、単独施設の結果ですし、
長期の予後や治癒を見たものではないので、
それでクロロキンの有効性が認められた、
とは言い難いものでした。

先日ご紹介した中国の複数施設の報告は、
偽薬を使用したような厳密な方法ではありませんが、
くじ引きで患者を分け、
PCR検査の陰性化を指標としているので、
これまでの研究の中では最も厳密な方法によるものでした。
対象は中国国内の16の病院に入院した、
新型コロナウイルス感染症の軽症から中等症の患者150名です。

軽症というのは発熱や咳などの症状はあるものの肺炎はない事例で、
中等症というのは肺炎があるものの、
呼吸不全のような状態ではなく、
動脈血酸素飽和度は94%以上に保たれているものです。
これまでの臨床試験は、
ほぼ肺炎患者のみを対象としていましたから、
より軽症の患者を対象としているのがこの研究のポイントです。
新型コロナウイルス感染症の診断はPCR検査で確認されています。
その結果はPCRでの陰性化率においても、
症状改善までの時間においても、
両群で明確な差は認められませんでした。

つまり、ヒドロキシクロロキンの有効性は、
実証はされませんでした。

今日ご紹介する臨床データはフランスの4か所の病院のもので、
患者を最初に登録するような試験ではなく、
後からデータを確認して、
新型コロナウイルス肺炎と診断されて入院した患者のうち、
酸素療法が必要な状態であった、
入院から48時間以内に1日600㎎のヒドロキシクロロキンが使用された84名を、
使用されなかった89名と比較し、
入院後21日の時点での予後を比較検証しています。

その結果21日の時点の患者の予後には、
ヒドロキシクロロキンの使用と未使用による違いはなく、
心電図変化などの循環器系の有害事象は、
ヒドロキシクロロキンの使用群で多く認められました。

このように、ヒドロキシクロロキンの有効性を、
いち早く主張したフランスにおいても、
観察研究としてデータを取ってみると、
どうもあまり思わしい結果が得られていません。

偽薬を使用するような厳密な臨床試験はまだ行われていないので、
真の意味での有効性が今後明らかになる、
という可能性はゼロとは言えませんが、
現状積極的に治療薬として使用する根拠は、
科学的なものはあまりないと、
そう考えて大きな間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスの猫から猫への感染について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナの猫猫感染.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年5月13日ウェブ掲載されたレターですが、
3匹の飼い猫を新型コロナウイルスに感染させて、
猫から猫への感染が成立するかを検証した実験結果です。

ウィスコンシン大学と東大などの共同研究です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV2)が、
人間以外にペットにも感染するという話は、
これまでにも何度かご紹介しています。
有名なものでは犬には感染しないけれど猫には感染する、
という知見がありました。

新型コロナウイルスが大流行しているニューヨークでは、
ブロンクス動物園で虎とライオンが呼吸器症状を呈し、
新型コロナウイルス感染症と診断されています。
これは感染していた飼育員から、
感染したものと想定されています。

つまり、ネコ科の動物は新型コロナウイルスに感染する、
というのはほぼ間違いのないことです。

これは人間からネコ科の動物という場合の話です。

それでは、猫から猫への感染は成立するのでしょうか?

それを検証したのが今回の実験で、
ちょっと倫理的に如何なものか、という気がしますが、
3匹の家猫に新型コロナウイルスを鼻から接種したところ、
その感染に伴いRT-PCR検査は陽性となり、
かつその猫を、感染していない猫と接触させると、
その数日後には感染していなかった猫にも、
RT-PCR検査が陽性となったことが確認されました。

今回の猫は、
感染しても何ら症状を呈していません。

つまり、濃厚接触をすると、
猫から猫に感染が広がることはほぼ間違いがなさそうです。

現状不明な点は、
人間から猫に感染した新型コロナウイルスが、
再度人間に感染する可能性はないのか、
ということです。
現状猫から人間への感染は証明されていませんが、
絶対感染しない、という主張は、
あまり根拠はないように思えます。

現状の注意点としては、
新型コロナウイルス感染症に罹った時には、
人間のみならず、ネコ科の動物との接触も避け、
感染した可能性のある猫については、
一定期間は極力家の中で飼い、
外には出さないようにすることが望ましいと考えられます。
猫を介して感染が広がる可能性が否定出来ないからです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症と温度との関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は何もなければ事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの加熱による不活化.jpg
medRxiv誌という査読前の論文を集めたサイトに、
2020年5月5日にウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの加熱に伴う不活化を検証した論文です。

今日はこれを含めて3編の論文をご紹介し、
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)と温度や気候との関係を考えます。

ウイルスはその種別によって、
温度が低い方がより増殖しやすいものもあれば、
温度が高めの方が増殖しやすい性質のものもあります。

それでは、新型コロナウイルスはその点どうなのでしょうか?

最初の論文はそれを検証したもので、
主にRT-PDR検査目的で患者さんの検体を採取した際に、
他の場所に付着したウイルスが、
どのくらいの温度で不活化するかを実験しています。
まず37度の温度においては、
24時間でウイルスの感染力は殆ど低下せず、
48時間でも低下はするものの感染力は維持されていました。

これが42度の室温下になると、
24時間後には感染力はほぼなくなり、
48時間では感染はしない状態になります。

更に56度の室温下では、
30分でウイルスは不活化して感染力はなくなります。

ただ、56度で30分置いた後においても、
ウイルスのRNA自体はそのまま保たれていました。

つまり、56度の高温で30分維持すると、
ウイルス自体は不活化して、
感染力は失うのですが、
ウイルスが死滅したということではなく、
活動出来るような環境に置かれれば、
感染力も回復する可能性がある、
ということになります。

これは遺伝子検査などを行なう際に、
56度で30分検体を置いておけば、
その場では感染するリスクなく検体を扱えて、
遺伝子自体の抽出には問題は生じない可能性が高い、
ということを意味しているのです。

一時お湯を飲むとウイルスが死ぬ、
というようなトンデモ情報が世間をにぎわしたことがありましたが、
確かに熱いお湯を30分以上飲み続ければ、
ウイルスの不活化には成功しますが、
それは現実には不可能ですし、
ただお湯を飲んだだけではウイルスは不活化しないのは、
これはもう間違いのないことなのです。

では次の知見です。
コロナウイルスと中国各地の気候.jpg
気温や湿度とウイルス感染との関連、
というのも議論になるところです。
単純に言えば、流行は夏になると自然に収まるのでは、
というような意見の真偽です。

この論文は2020年のEur Respir Jに掲載されたレターですが、
中国全土の新型コロナウイルスの感染地域において、
その場所の気温や湿度紫外線量と、
感染の起こり易さとの関連をみたものです。
感染の起こり易さは、
1人の患者が何人に感染させるかを示す、
基本再生産数(R0)という指標と、
累積の患者数で検証しています。
その結果、気温や湿度、紫外線量と感染の起こり易さとの間に、
明確な関連は認められませんでした。

現状の新型コロナウイルスの感染と、
季節は関連なのではないか、
ということを示唆する知見です。

では最後にこちらです。
コロナウイルスと気候変動.jpg
これも査読前の論文サーバー、medRxivに、
2020年5月5日に掲載されたものですが、
数理的なモデルを用いて、
新型コロナウイルスの感染力と、
気候変動との関連を検証したものです。

medRxivに載せられている論文は玉石混交で、
ある日本のクリニックからの、
ただ市販の抗体キットで抗体を測ってみただけ、
というような学会の地方会レベルのしょぼい論文から、
ネイチャー掲載レベルまでその質は様々です。

この論文は中国のものですがかなり高度な内容です。

新型コロナウイルスの感染力を、
その飛沫粒子の安定性という観点から分析し、
それを元にして検証を行なっています。
飛沫がどれだけの水分を含むか、
風がどのように吹いているか、
気温はどのくらいか、
というような因子によって、
飛沫粒子の物理的な振る舞いは推測が可能なので、
それを足掛かりにして分析をしようという発想です。

その結果、
北緯30度付近では12月から2月の冬の時期に、
飛沫粒子の安定性は高まって感染力も高まり、
それが気温の上昇と共に北半球全体に広がって、
4月くらいに流行はピークに達します。
その後徐々に感染力は低下して、
北半球では5月以降に流行は収束に向かいます。
一方で南半球では4月から8月に掛けて感染力は高まり、
その後はしばらく維持されることになると推測されています。
つまり、大枠では感染は北半球では夏場に掛けて収まりそうですが、
完全に終息することはなく、
油断していると秋口から再び、
というパターンになる可能性が高そうです。

新型コロナウイルスに、
現時点で明確な季節性などの特徴はなさそうですが、
その飛沫感染などの動態から考えて、
日本のような北半球では、
夏場の時期は減少する可能性は高そうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の検査法の特徴と限界 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルス感染症の経過と検査結果.jpg
JAMA誌に2020年5月6日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の診断法についてのミニレビューです。
横浜市立大学の梁明秀先生らによる執筆です。

これは内容は目新しいことはなく、
今までの内容をまとめた総説です。
引用されている文献もその殆どは、
これまでこのブログでもご紹介したものです。
本ブログのこれまでの新型コロナウイルス関連の記事を読んで頂ければ、
内容はその中に網羅されています。

ただ、まとめとして素晴らしい図が付いているので、
それだけは是非ご紹介したいと思います。
こちらです。
コロナウイルス感染症の経過と検査結果の図(小).jpg
ちょっと細かくて見づらいと思いますが、
これまでに分かっている、
新型コロナウイルスの診断指標についての、
全てがこの1枚に網羅されています。

是非元図もご覧下さい。
内容はこの図を見て頂ければそれまでなのですが、
以下蛇足的に解説します。

新型コロナウイルス感染症の確定診断には、
通常鼻腔などからの検体によるPCR検査が活用されています。

これは正確にはRT-PCRと言います。
PCRというのはDNAの特定の配列を増幅して検出する、
という技術ですが、
RT-PCR(reverse transcription PCR)というのは、
DNAではなくRNAに対して同様の増幅と検出を行う、
という技術のことです。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はRNAウイルスなので、
PCRではなくRT-PCRという方法が行われているのです。
RNAはそのまま増幅出来ないので、
まず逆転写酵素という酵素を利用して、
RNAに相補的なDNAを合成し、
それからそのDNAをPCRで増幅するのです。

ウイルスというのは増殖に必要な遺伝子と、
それを守るためと、
感染するために必要な、
タンパク質だけからなる存在です。
この遺伝子が細胞に入り込むと、
細胞の増殖の仕組みを利用して、
自分達の遺伝子を増やし感染を広げていくのです。

その本体は感染する遺伝子なので、
それを検出する方法が診断としては確実なのです。

現状日本などで使用されているRT-PCRのキットは、
このウイルスに特徴的な複数の塩基配列を検出しているので、
それが適切に使用されれば、
陽性の診断を誤ることはほぼありません。

つまり、他のコロナウイルスなどを、
間違って検出して陽性としてしまうことはないのです。

誤るのは操作のミスがある場合と、
日本の事例でもあったように、
他の検体に汚染されてしまうような場合です。

ただ、RNAが検出されれば、
感染のあったことは確定しますが、
その時点でウイルスが感染力を持っているとは限りません。

以前ブログでも紹介した、
身体の様々な部位のPCR検査の陽性率を比較した論文があり、
そこでは、RNA自体は長期間検出されたものの、
症状発現から8日以降においては、
検出されたウイルスの培養には成功していません。
これは検査は陽性であっても、
その遺伝子断片がウイルスとして、
感染したり増殖する能力は既にない、
という可能性を示唆しています。

アメリカのCDCは、
新型コロナウイルスに感染した医療従事者が、
現場復帰する目安として、
3日以上無症状で、
症状出現後10日以上経っていること、
を1つの指標としていますが、
これはその意味で概ね妥当な方針なのです。

PCR検査をいたずらに繰り返して、
その結果に一喜一憂することは、
検査の性質上適切とは言えません。

抗体検査は、
身体がウイルスの侵入に対して、
それを無力化する抗体を産生するので、
それを血液で測定するというものです。

抗体というのは抗原のタンパク質に対して産生されるので、
複数の種類の抗体が同じウイルスに対して作られます。
抗体自体にもその役割により、
IgGやIgM、IgAなどの種類があります。
通常感染初期に作られるのがIgM抗体で、
その後増加し長く存在するのがIgG抗体です。
現状血液でのIgM抗体とIgG抗体の測定が可能ですが、
本当の意味で感染を防御する、
中和抗体のみを測定している、
という訳ではありません。

上の図にあるように、
PCR検査は症状出現の当日もしくは翌日には、
既に高率に陽性になりますが、
抗体は概ね症状出現後1週間以降に陽性となり、
IgM抗体は3週間目くらいをピークにしてその後は減少。
IgGは少なくとも8週間以上持続して検出されます。

現行多くの抗体迅速検査キットが販売されています。
ただ、これは定量的なものではなく、
どの抗体を測定しているのかは、
個々のメーカーの企業秘密になっているので、
その結果はまちまちで一定していない、
という欠点があります。
PCR検査とは異なり、
新型コロナウイルス以外のウイルスに対して、
陽性を示す可能性もあります。

どのタンパク抗原に対する抗体が、
どのような役割を果たしているのか、
どれが中和抗体で感染阻止の作用があるのか、
そうしたメカニズムが明らかにならないと、
抗体検査の意味も明確にはならないのですが、
その点の知見はまだ充分ではないのです。

たとえばB型肝炎ウイルスの中和抗体はHBs抗体ですが、
それ以外にHBc抗体やHBe抗体など、
複数の抗体があり、
それぞれに陽性の意味合いは異なります。
中には持続感染を示す抗体もあるのです。

何を測っているのか分からない状態で、
それが診断や治療においてどのような意味を持つのか、
何も言えないというのが現状なのです。

その段階で「全国民に抗体検査を!」とかと言うのは、
ただの暴論で、
内容を理解していないからこそ言える、
脳内お花畑的な言説です。
せめて「RBD-S蛋白に対するIgM ELISAの有効性はどうか」
くらいに限定して議論をするべきではないかと思います。

今分かっていることは、
どう作用するのか分からない抗体が、
PCRが検出されにくくなる回復期に一致して増加する、
というだけのことに過ぎないのです。

最近富士レビオで保険収載されたのが抗原迅速検査で、
これは特定のウイルス抗原に対する抗体を利用して、
ウイルス抗原を検出しようとするものです。
今使用されているインフルエンザの迅速診断と、
同じ理屈の検査です。

上記のレビューの執筆者である梁先生は、
新型コロナウイルス抗原に特異的な抗体を発見された専門家で、
その知見が抗原キットの開発に活かされているのかと推測します。

この検査は使用されている抗体が本当に、
新型コロナウイルスに特徴的な抗原のみと結合するのか、
と言う点がポイントで、
キットの出来不出来によって、
診断能は大きく違うという可能性があります。
PCRと同様の使用法が想定されるのですが、
ある程度の抗原量がないと陽性になりませんし、
他のウイルス抗原に反応してしまう、
という可能性もあります。

そんな訳で現行の検査はいずれも帯に短したすきに長しで、
どれをもって確実というものはなく、
特に抗体検査については、
どの抗原に対する抗体をどのように測定するのか、
その根本の部分が確立されないと、
検査だけしまくっても、
意味のないものになる可能性が高そうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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