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ピロリ菌の感染と大腸癌リスクとの関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヘリコバクターと大腸癌.jpg
Journal of Clinical Oncology誌に、
2024年3月1日付で掲載された、
ピロリ菌の感染が大腸癌の発症に及ぼす影響についての論文です。

胃粘膜で生育するヘリコバクター・ピロリ菌が、
萎縮性胃炎や胃癌のリスクとなり、
除菌治療がその予防に繋がることは、
専門家のみならず、
今では一般にも広く知られている事実です。

ピロリ菌の感染は胃癌以外にも、
大腸癌の発症リスクを上昇させることを示唆するデータが、
幾つか報告されています。
例えば2020年に発表されたメタ解析の論文では、
ピロリ菌の感染により大腸癌のリスクは1.7倍に上昇したと報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7489651/

ただ、実際には単独の疫学データで、
それほど大規模なものはなく、
報告によっても結果にはかなりの幅があります。

今回の研究はアメリカの退役軍人を対象とした、
大規模な疫学データを解析したものです。

ピロリ菌の検査を施行した退役軍人、
トータル812736名のうち、
25.2%に当たる205178名が陽性と診断されました。
15年の観察期間において、
ピロリ菌の感染者は非感染者と比較して、
大腸癌に罹患するリスクが18%(95%CI:1.12から1.24)、
大腸癌により死亡するリスクが12%(95%CI:1.03から1.21)、
それぞれ有意に増加していました。

また、ピロリ菌の感染があって未治療であると、
除菌治療を施行した場合と比較して、
大腸癌に罹患するリスクが23%(95%CI:1.13から1.34)、
大腸癌により死亡するリスクが40%(95%CI:1.24から1.58)、
それぞれ有意に増加していました。

矢張り、今回の大規模な検証においても、
ピロリ菌の感染が持続していると、
大腸癌のリスクも増加することは間違いのない事実であるようです。

それでは、何故ピロリ菌の感染が大腸癌と関連しているのでしょうか?

現時点では不明ですが、
ピロリ菌自体が大腸粘膜においても、
発癌を誘発する可能性を示唆する、
実験的なデータが存在しているようです。

そのメカニズムは今後の検証を待つ必要がありますが、
ピロリ菌の除菌は胃癌予防のみならず、
大腸癌予防に対しても一定の有効性が期待出来るので、
その施行はより積極的に行う必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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カルシウムとビタミンDのサプリメントの健康影響(大規模臨床データの解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カルシウムサプリメントの健康効果.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2024年3月12日付で掲載された、
カルシウムとビタミンDのサプリメントの、
閉経後女性への長期の健康影響を解析した論文です。

カルシウムとビタミンDは、
いずれも骨の健康のためには不可欠の成分で、
そのため健康な骨を維持するためには、
この2つの栄養素を不足なく摂ることが、
必要と考えられています。

ただ、実際に骨折のリスクの高い閉経後の女性に、
サプリメントとしてカルシウムとビタミンDを投与しても、
その骨折予防としての有効性は、
多くの臨床研究が施行されたものの、
あまり明確な有効性は確認されていません。

ただ、ビタミンDには骨に対する作用以外にも、
免疫調整作用や抗炎症作用など、
多くの健康効果を持つことが報告されていて、
トータルにはそのサプリメントの使用が、
健康の維持に有効な可能性は否定されていません。

今回の研究はアメリカにおいて、
36282名の閉経女性を対象とし、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は1日1000㎎の炭酸カルシウムと、
400IUのビタミンD3をサプリメントとして使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
7年間の使用を継続し、
その後も含めて中間値で22.3年の健康観察を行って、
トータルな予後を比較検証しているものです。

その結果、
カルシウムとビタミンD使用群では、未使用群と比較して、
癌による死亡のリスクが7%(95%CI:0.87から0.99)、
有意に低下していた一方で、
心血管疾患による死亡のリスクは6%(95%CI:1.01から1.12)、
こちらは有意に増加していました。
総死亡のリスクについては、
両群で有意な差はなく、
大腿骨頸部骨折のリスクについても、
明確な差は認められませんでした。

このように、
今回の大規模かつ長期の臨床研究において、
閉経後の女性にカルシウムとビタミンDのサプリメントを使用しても、
骨折リスクの低下には繋がらず、
一部の癌のリスクが低下する可能性がある一方で、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクについては、
やや増加する可能性が示唆されました。

カルシウムとビタミンDをサプリメントとして使用することの、
トータルな健康影響については、
まだ明確な結論が得られておらず、
その使用には一定のリスクがある可能性もあると、
現状はそう考えておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大腸癌の血液検査によるスクリーニング(Shieldテスト) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
DNAによる大腸癌検診.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年3月14日付で掲載された、
新しい血液による大腸癌検診の有効性についての論文です。

大腸癌の多くは早期に発見されれば、
その治療の予後は良く、
そのため検診のメリットが大きな癌として知られています。

現行の大腸癌検診は、
問診と便の潜血反応と呼ばれる検査を基本として、
検査で異常が見つかったり、症状から病気を疑った場合には、
大腸内視鏡検査(含む直腸からS状結腸内視鏡)によって、
その診断を行うという方法が一般的です。

この方法は優れた検診法として、
その評価は確立していますが、
便潜血は痔など他の病気でも陽性になることがあり、
癌になる前の癌リスクの高いポリープなどでは、
陽性率は高くない、などの欠点があります。
また、便を採取することが煩わしいと考える人も多く、
検診の受診率が思ったほど上がらない、
という問題もあります。

そのため、より精度の高い簡便なスクリーニング検査が、
求められているのです。

その候補として最近登場したのが、
便や血液で癌細胞由来の遺伝子を検出し、
それを便潜血検査の代わりに使用する、
という方法です。

今回紹介されているのは、
そのうちの1つが癌細胞由来の遺伝子を、
血液で検出するという方法です。 

細胞の崩壊に伴って、
血液中に癌由来の遺伝子の断片が流出します。
これをcell free DNA(cfDNA)と呼んでいます。
このcfDNAを高感度の測定法によって検出するのです。

この検査は、
「Shield[レジスタードトレードマーク] 大腸がん ctDNA 検査」と呼ばれ、
アメリカのガーダントヘルス社の製品で、
日本では検査会社のBMLを介して販売されています。
基本採血のみの検査ですが、
検査は数十万円と高額で、
血液も40ミリリットルほど必要であるようです。

その精度はどのくらいのものなのでしょうか?

今回の研究では、
年齢が45から84歳で平均的な大腸癌リスクがあり、
大腸内視鏡検査をしたトータル10258名を対象として、
血液の癌検査を施行、
その結果を比較検証してます。
最終的にそのうちの7861名が解析されています。

その結果、
大腸癌が検出された人のうち83.1%は血液検査が陽性となり、
16.9%は陰性の結果でした。
つまりこの遺伝子検査の検出感度は、
83.1%(95%CI:72.2から90.3)でした。
大腸内視鏡検査で大腸癌やその前癌病変が認められなかった人のうち、
血液検査も陰性であったのは89.6%で、
残りの10.4%は血液検査は陽性でした。
この検査の大腸癌と前癌病変についての感度は、
89.6%(95%CI:88.8から90.3)と算出されました。

このように、
便潜血検査と同等以上の有用性が、
血液の癌由来遺伝子検査にあることは間違いがありません。
血液検査である点も利点です。
ただ、偽陰性や偽陽性は一定レベルは認められています。
また現時点では非常に高額な検査なので、
すぐにこの検査を一般の検診に導入する、
ということにはならないと思います。

別個に便の遺伝子検査の研究も進んでいて、
今後どのような検査を組み合わせて実施することが、
コスパや有効性を含めて適切であるのか、
何らかの指針がまとめられることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大西洋ダイエットの健康効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大西洋ダイエットの有効性.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年2024年2月7日付で掲載された、
スペイン発の大西洋ダイエットの健康効果についての論文です。

健康に良い食事の代表として、
推奨されることの多い食事習慣の1つが、
「地中海ダイエット」と呼ばれるものです。
これは地中海に面したギリシャなどの食生活を、
1つの典型としているもので、
その内容は必ずしも報告や研究で一致している訳ではありませんが、
ナッツやオリーブオイルを多く摂り、
野菜や果物、魚を多く摂り、
赤身肉や加工肉はあまり摂らない、
というような特徴は一定しています。

今回の研究で対象となっている、
「大西洋ダイエット(Atlantic Diet)というのは、
スペインやポルトガルの一部の伝統食を元にしたもので、
野菜や果物、ナッツやオリーブオイルなどを多く摂る点は、
地中海ダイエットと同じですが、
それに加えてポテトやパンを多く摂り、
ドライフルーツや乳製品も多く摂る、
という点に特色があり、
地中海ダイエットより肉やワインの摂取も多い、
と記載されています。

つまり、地中海ダイエットより、
動物性脂肪や炭水化物が、
やや多いという違いがあるのです。

今回の研究はこの大西洋ダイエットを広めたいスペインにおいて、
通常の食事と大西洋ダイエットを比較して、
その健康面での有効性を検証しているものですが、
今時の特徴として、
環境への負荷に配慮し、
二酸化炭素の排出量(カーボンフットプリント)の、
比較も行っている点が特徴です。

対象となっているのはスペインの250の家族で、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はそれまでと同じ食事を継続し、
もう一方は専門的な指導の元に、
大西洋ダイエットを実践して、
その効果を6か月に渡って観察しています。

有効性の指標となっているのは、
所謂メタボリックシンドロームの比率で、
食事の変化により、
メタボの改善がどの程度見られたのかを比較しています。
この場合のメタボの基準は、
血圧などの検査値は日本のものと同等ですが、
腹囲については、
男性が110センチを超える、女性が88センチを超える、
という日本とは異なる基準が採用されています。

その結果、
通常の食事と比較して、
家族に大西洋ダイエットを指導すると、
観察期間中のメタボの発症リスクは68%(95%CI:0.13から0.79)、
個別のメタボの項目のリスクは42%(95%CI:0.42から0.82)、
それぞれ有意に低下していました。
一方で二酸化炭素の家庭毎の排出量については、
両群で明確な差は見られませんでした。

正直大西洋ダイエットと地中海ダイエットの違いは、
それほど大きなものとは言えないように思いますが、
食事指導を継続的に行うことにより、
半年程度の期間でもメタボの改善には結びつく、
という結果と考えれば、
意義のある研究ではあったように思います。

地中海ダイエットが持ち上げられ過ぎたので、
スペインやポルトガルとしては、
「いやいやうちの食事も大して違いはないぞ」
という意思表示のようにも思われ、
健康のみならず健康負荷まで評価して、
各地域の料理を比較し序列化するようになるのは、
ちょっと行き過ぎのような気がしなくもありませんが、
良くも悪くも食事もその価値を、
多角的に競争する時代になったのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マイクロプラスチックとナノプラスチックの動脈硬化への影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
マイクロプラスチックの動脈硬化への影響.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年3月7日付で掲載された、
最近問題となっているプラスチックの身体への影響を検証した論文です。

近年プラスチックの環境破壊が注目され、
プラスチックの使用量を減らし、
環境汚染を減らそうとする試みが広く行われています。

これは主に環境への影響で、
私達の身体への直接の影響ではありません。

プラスチックそのものが体内に蓄積することは、
通常はないと考えられていたからです。

しかし、プラスチックが分解劣化し、
非常に微細な細片となると、
それが食品に混ざって体内に入ったり、
空気中の微粒子となって呼吸で肺に取り込まれたり、
皮膚から吸収されるという可能性が否定は出来ません。

このプラスチックの細片のうち、
大きさが1μmから5mmのものをマイクロプラスチック、
より小さくnm(ナノメートル)レベルのものを、
ナノプラスチックと呼び、
上記論文ではこれを総称して、
MNPs(Microplastics and Nanoplastics)と呼んでいいます。

最近ではペットボトルの水の中に、
一定レベルのナノプラスチックが同定された、
という論文が発表されて話題となりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38190543/

つまり、こうした分解劣化したプラスチックの細片が、
私達の身体の中に存在していることは、
ほぼ間違いのないことなのです。

それでは、その健康影響はどの程度のものなのでしょうか?

今回の研究では、
頸動脈の動脈硬化病変に対して、
血管内治療を行った304名の患者から採取された、
動脈硬化巣(プラーク)の組織で、
マイクロプラスチックとナノプラスチックの測定を行い、
それが健康に与える影響を検証しています。
その後の観察期間を完遂して解析対象となっているのは、
そのうちの257名です。

その結果、
全体の58.4%に当たる150名で、
プラスチックの成分であるポリエチレンが、
頸動脈のプラークから検出され、
そのうちの31名では、
通常の測定法でポリ塩化ビニールが定量されました。

そして平均で33.7か月(±6.9)の経過観察期間中に、
心筋梗塞や脳卒中を発症したか、もしくは死亡したのは、
プラスチックの細片が検出されなかった事例では7.5%であったのに対して、
検出された事例では20.0%という高率になっていました。

今回の研究はまだ確定的なものではなく、
マイクロプラスチックやナノプラスチックの健康影響は、
仮定の域を出るものではありませんが、
こうしたプラスチックの細片が、
炎症などの病変部位に蓄積すること自体は、
おそらくは事実であると考えられ、
その健康影響を含めて、
今後の研究の蓄積を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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単純ヘルペスウイルス感染症と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
レセプト作業など事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヘルペスウイルスと認知症リスク.jpg
Journal of Alzheimer's Disease誌に2024年2月付で掲載された、
非常に一般的なウイルスによる感染と、
認知症リスクとの関連についての論文です。

認知症のメカニズムには不明の点も多く、
ウイルス感染がそのリスクになるという報告も複数あります。

その中で報告の多いものの1つが、
単純ヘルペスウイルスの感染です。

たとえば、2008年の論文では、
急性の感染を示す単純ヘルペスウイルスのIgM抗体が陽性であると、
アルツハイマー病のリスクが2.55倍増加した、
とするデータが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18982063/

また、2015年の別の論文では、
今度はIgG抗体が陽性であると、
アルツハイマー病のリスクが1.636倍増加した、
とするデータ報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25304990/

ただ、2008年の論文ではIgG抗体との関連はなかった、
という結果になっていますから、
データが必ずしも一致しているという訳ではありません。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
70歳で認知症の兆候のないトータル1002名の一般住民を、
15年間という長期に渡り観察したものですが、
単純ヘルペスウイルスとサイトメガロウイルスの血清抗体価と、
認知症の発症との関連を検証しているものです。

サイトメガロウイルスというのはヘルペスウイルスの一種で、
抗体の陽性率も高いため、一緒に検証されています。
抗体はIgM抗体とIgG抗体が測定されていますが、
感染の急性期のみに上昇するのがIgM抗体で、
IgG抗体は感染後しばらくして上昇すると、
長期に渡り陽性となるので、
その感染の既往を表しています。

その結果、
累積のアルツハイマー病の罹患率は4%で、
全ての認知症の罹患率は7%でした。
全体の82%の対象者は単純ヘルペスウイルスのIgG抗体陽性で、
この抗体の陽性者は陰性者と比較して、
観察期間中に認知症を発症するリスクが、
2.26倍(95%CI:1.08から4.72)有意に増加していました。
アルツハイマー病単独のリスクも、
2.24倍(95%CI:0.79から6.33)増加する傾向は示しましたが、
統計的に有意ではありませんでした。

一方で単純ヘルペスのIgM抗体とサイトメガロウイルスIgG抗体の陽性率、
単純ヘルペスウイルス感染症の治療の有無、
単純毛ヘルペスとサイトメガロウイルスの抗体価については、
認知症のリスクと明確な関連を示していませんでした。

このように、
今回の検証においては、
トータルな認知症リスクと、
単純ヘルペスの抗体陽性(その既往あり)との間には、
一定の関連が認められた一方で、
アルツハイマー病との間では、
有意な関連は認められませんでした。

この結果はかなり微妙なもので、
データを見るとその信頼区間は非常に大きく、
認知症とアルツハイマー病との間に、
それほどの差はないようにも思えます。

単純ヘルペス感染症の既往と、
その後の認知症の発症との間には、
一定の関連のあること自体は事実と言って良さそうですが、
その解釈やアルツハイマー病との関連などについては、
まだ今後の検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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うつ病の運動療法(2024年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
うつ病の運動療法.jpg
British Medical Journal誌に、
2024年2月14日付で掲載された、
うつ病の有効な運動を検証したメタ解析の論文です。

うつ病の現状の治療の柱は、
心理療法と薬物療法ですが、
それらを補う意味で注目されているのが運動療法です。

うつ病においては通常活動性が低下するため、
糖尿病や心臓病、肥満などのリスクを高めることも知られています。

運動にはリラクゼーションの効果もありますし、
緊張で硬直した身体をほぐすことは、
脳にも良い影響を与える可能性が想定されます。
また、うつ病に併発する生活習慣病などの予防にも繋がるのです。

しかし、実際にどのような運動をすることが、
うつ病において適していて、治療効果が望めるのか、
というような点については、
これまであまり明確なことが分かっていませんでした。

今回の研究は、
これまでの主だったうつ病に対する運動療法の効果を検証した、
介入試験のデータをまとめて解析することで、
この問題の検証を行っています。

これまでの218の臨床研究に含まれる、
トータルで14170名のうつ病患者のデータをまとめて解析したところ、
ウォーキングやジョギング、ヨガ、筋力トレーニング、
の3者が他の運動よりうつ病の改善への有効性があり、
運動強度は高いほど有効性も増すことが確認されました。
特に患者さんへの受け入れにおいて、
ヨガと筋力トレーニングがより優れていました。

今後こうしたデータを元にして、
うつ病の患者さんにおける運動療法が、
より科学的に整備され活用されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症罹患後の認知機能低下(イギリスの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19後の認知機能低下.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年2月29日付で掲載された、
新型コロナウイルス感染症罹患後の、
認知機能低下についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患後には、
様々な「後遺症」と呼ばれるような体調不良が、
遷延することが報告されています。

そのうちの1つが、
「頭がぼんやりして集中出来ない」、
「物忘れが強くなった」、
などの認知機能の低下です。

こうした現象のあること自体は間違いがありませんし、
私自身も集中力低下などの症状が持続して、
長期仕事を休まざるを得なくなった事例を経験しています。

ただ、実際の認知機能低下がどの程度のもので、
どのくらい持続しているのか、
というような点については、
客観的なデータが不足しています。

そこで今回の研究はイギリスにおいて、
141583名の一般住民にオンラインで認知機能の検査を施行。
検査を完遂した112964名の解析を施行しています。
その結果を新型コロナウイルス感染症の既往の有無で比較検証したところ、
新型コロナウイルス感染症に罹患して回復した人は、
感染の既往のない人と比較して、
0.2SD程度の軽度の認知機能の低下を認めました。
これはIQ検査での3点の低下と同等のものと試算されています。
新型コロナ感染の症状が12週を超えて持続していた人では、
感染の既往のない人と比較して、
より大きく0.4SD程度の低下を示していました。
また集中治療室に入室した重症の新型コロナ感染の罹患後では、
認知機能低下はより大きく0.63SDに達し、
これはIQ検査で9点の低下と同程度と試算されました。

このように、
程度はそれほど大きなものではありませんが、
新型コロナ感染後には認知機能の低下が持続的に認められ、
特に他の症状も長期持続していたり、
重症化したような事例において、
より大きな低下が認められる傾向があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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卵の脂肪肝に対する有効性(イタリアの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
卵と脂肪性肝疾患.jpg
Nutients誌に2024年1月31日付で掲載された、
卵の健康効果についての論文です。

卵と健康との関連については、
色々な見方があります。

卵黄には1個に200ミリグラムを超えるコレステロールが含まれています。

血液のコレステロールが高いと、
動脈硬化が進行しやすいという知見が得られてから、
食事のコレステロールを制限しようという動きが、
世界的に高まり、
そこで提唱された基準が、
食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にする、
というものです。

これを達成するためには、
卵をなるべく食べないことが、
必要不可欠ですから、
卵の制限が、
健康のためには必要であると考えられたのです。

ところが

2016年に公表されたアメリカのガイドラインにおいては、
食事のコレステロールを制限しても、
血液のコレステロールを減らせるという根拠は乏しいとして、
その目標値は削除されました。

これは、
「コレステロールの食事制限は不要」として、
一般にも報道されました。
その報道には誤解を招く点があり、
実際には数値目標が外れただけで、
コレステロールの制限自体は推奨されていたのですが、
コレステロールに制限は要らない、
という誤ったメッセージに受け取られたことは、
残念でした。

その後様々の研究データが発表されましたが、
概ね1日1個を超えない卵の摂取については、
大きな健康リスクはない、
というのがほぼ一致した考え方になっています。

以上は主に動脈硬化性疾患の予防に限った、
卵の摂取についての話です。

肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積して起こる、
脂肪肝などの脂肪性肝疾患は、
近年生活習慣病の1つとして注目されています。

コレステロールを多く含む卵は、
脂肪性肝疾患のリスクを高めることが想定される一方で、
卵にはコレステロール以外の、
多くの健康に必須な栄養素が含まれていて、
特に栄養失調となりやすい高齢者においては、
卵の摂取は健康に資するという可能性もあります。

しかし、これまで脂肪性肝疾患に対する卵の影響を、
検証したような研究はあまりありませんでした。

今回の研究はイタリアにおいて、
胆石症に対する疫学研究のデータを活用し、
60歳以上の908名の一般住民を対象として、
卵の摂取量と脂肪性肝疾患、
そして高血圧のリスクとの関連を比較検証しています。

その結果、脂肪性肝疾患と高血圧が共にない群では、
他の群と比較して、
卵の摂取量がより多くなっていました。

また卵を週に2個は食べていない人と比較して、
週に3個より多く食べている人は、
脂肪性肝疾患を合併しない高血圧症になるリスクが79%(95%CI:0.07から0.62)、
脂肪性肝疾患と高血圧症を合併するリスクが66%(95%CI:0.15から0.73)、
それぞれ有意に低下していました。

要するにそれほどクリアな結果とは言えませんが、
卵を週に3個より多く食べる方が、
脂肪性肝疾患や高血圧になり難いのでは、
ということを示唆する結果です。

上記論文の考察では、
卵に多く含まれる、
ビタミンB12や葉酸に脂肪肝炎改善作用があり、
それが影響しているのはないかと記載されています。

その真偽のほどはまだ定かではありませんが、
概ね1日1個を超えない範囲であれば、
卵の摂取には健康上の悪影響はないことは、
これまでのデータからほぼ間違いのないことなので、
特に食が細る高齢者においては、
卵は重要な栄養源として、
扱う必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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食物アレルギーに対するオマリズマブの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ゾレアの食物アレルギーへの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年2月25日付で掲載された、
食物アレルギーに対する生物学的製剤の治療の有効性についての論文です。

食物アレルギーは、
特定の成分を含む食品を食べた時に、
アレルギー反応を起こす病気で、
軽ければ口の周りが少し赤くなったり、
かゆみが出たりする程度の場合もありますし、
アナフィラキシーと言って、
血圧低下などを伴う重篤な全身的な症状が出ることもあります。
その反応の強さは、
摂取する量によって違いがあり、
食べる量が多いほど症状も強くなります。
そして、重症のアレルギーがあるほど、
ごく少量の摂取でも重い症状が出るのです。

食物アレルギーの治療は、
その成分を除去することが、
長くスタンダードな治療として行われて来ました。

卵のアレルギーがある場合には、
卵を一切食べないという治療です。

ただ、患者さんによっては多くの食品に、
アレルギー反応を示す場合もあり、
全ての食品を除去することは、
栄養的にも困難なケースがあります。
また、食事は人生の楽しみでもありますから、
ある食品を一生食べられないというのは、
かなりの犠牲を強いることでもあります。

何か良い治療法は他にないのでしょうか?

最近施行されている方法の1つが、
経口免疫療法と呼ばれる方法です。

これは原因となる成分を、
極微量から摂取することを開始して、
徐々にその量を増やしてゆく、
という治療法です。
まず、どのくらいの量で症状が出現するのかを、
負荷試験によって確認しておいて、
それより少ない量から摂取を開始するのです。

この方法を持続することによって、
徐々にアレルギーに対する耐性が獲得され、
少しの量なら食べても問題ない状態に、
改善する事例が少なからずあることが、
多くの研究によって確認されています。

最もその有効性が確認されているのは、
ピーナツアレルギーで、
それ以外にも牛乳や卵など、
多くのアレルゲンで同様の試みが行われ、
一定の効果が報告されています。

ただ、これで充分かと言うと、そうは言えません。

食物アレルギーの原因である食品を、
敢えて負荷するのですから、
当然体調不良やアナフィラキシーなどのリスクがあります。
治療は長期間を要しますし、
効果には個人差があって、
その食品が食べられるようになるという保証はありません。
特に複数の成分に対してのアレルギーがあると、
その1つ1つに対して同じことをするのですから、
かなりストレスの掛かる治療でもあります。

それでは、他に何か良い治療はないのでしょうか?

即時型の食物アレルギーでは、
その反応を媒介する物質の主体はIgEという、
免疫グロブリンです。

その成分に対する特定のIgEが増加していて、
それが反応を起こしているのです。

それであるなら、そのIgEを除去してしまえば、
反応は起こらなくなる理屈です。

IgEに結合する抗体を薬にした、
生物学的製剤が既に開発され、
重症の気管支喘息や蕁麻疹、花粉症などの、
アレルギー症状の改善に使用されています。

その代表がオマリズマブ(ゾレア)という注射薬です。

ただ、この薬を食物アレルギーに使用した場合の有効性と安全性とは、
まだ確立されていません。

そこで今回の臨床研究では、
年齢が1から55歳で、
100㎎以下の負荷で症状の出現するピーナツアレルギーを持ち、
それ以外に卵や牛乳など2種類以上のアレルギー(300㎎以下の負荷で症状出現)を、
併発している食物アレルギー患者、
トータル180名をくじ引きで2つの群に分け、
一方は抗IgE抗体であるオマリズマブを、
2から4週毎に皮下注射することを繰り返し、
もう一方は偽の注射を同じように施行して、
16から24週の治療を継続。
その後にもう一度経口負荷試験を施行して、
その結果を治療前と比較しています。
解析は1から17歳の177名が最終的には対象となっています。

その結果、
ピーナツ蛋白に対する経口負荷試験で、
治療後に600㎎を負荷しても無症状であった比率は、
偽薬では59例中7%に当たる4名であったのに対して、
オマリズマブ治療群では118名中67%に当たる79名で、
オマリズマブの治療により、
食物アレルギーへの耐性が一定レベル獲得されているのが分かります。

ピーナツ以外のアレルギーについてみると、
治療後に1000㎎を負荷しても症状が出なくなっていたのは、
カシューナッツが偽薬群3%に対して治療群41%、
牛乳が偽薬群10%に対して治療群66%、
卵が偽薬群0%に対して68%、
となっていました。

つまり、複数の原因による食物アレルギーであっても、
オマリズマブの治療を継続することにより、
原因食品に対する耐性が獲得され、
一定の有効性があることが確認されました。

ただ、より長い治療期間(40から44週)の検討では、
有効性が維持されたり、より改善した事例があった一方で、
全体の21%においては効果が減弱していました。

従って、治療効果は永続的なものではない可能性もあるのです。

現在今回発表された報告と並行して、
経口免疫療法とオマリズマブの治療を併用する試みも行われていて、
それにより経口免疫療法がより安全に、
より効果的に施行可能となる可能性があり、
今後のデータの開示に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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