スタチンと認知症リスク(2025年メタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Alzheimer's & Dementia誌に2025年1月16日付で掲載された、
コレステロール降下剤と認知症との関連についての論文です。
スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤ですが、
コレステロールを下げるばかりではなく、
抗炎症作用などの多面的な作用を持ち、
それが動脈硬化の進行予防などに結び付いていると考えられています。
スタチンの心筋梗塞などの心疾患の予防効果は、
間違いなく実証された事実ですが、
認知症に対する効果についてはまだ議論があります。
スタチンの効果の1つとして、
コレステロールの中間代謝産物のイソプレノイドを抑制し、
これが認知症の発症に伴うβアミロイドなどの異常蛋白の蓄積を、
抑制する効果があるのではないか、
という考え方があります。
これが事実であるとすれば、
スタチンは認知症、特にアルツハイマー型認知症に対しては、
その発症を抑制するような効果が期待出来ます。
しかし、その一方でスタチンに使用において、
認知機能の低下が生じるような事例も報告されています。
また、疫学データにおいても、
スタチンの使用により一定の認知症予防効果が認められた、
という報告がある一方で、
そうした効果は認められなかった、
というような報告もあります。
たとえば、2024年に発表された、
日本の診療報酬のデータを元にした研究では、
スタチンの30日以内の使用では、
むしろ使用者の方が認知症リスクは増加していた一方で、
それを超える長期の処方においては、
認知症リスクは有意に低下していました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38968046/
この問題はまだ結論が出ているとは言えないのです。
今回の研究は、
これまでの主な臨床データを、
まとめて解析するメタ解析の手法で、
この問題の現時点での検証を行っているものです。
これまでに発表された55の観察研究に含まれる、
トータルで700万例を超える臨床データをまとめて解析したところ、
スタチンを使用している人は、していない人と比較して、
その後の認知症のリスクが14%(95%CI:0.82から0.91)、
有意に低下していました。
個別の認知症毎の解析では、
スタチンの使用はアルツハイマー型認知症のリスクを、
18%(95%CI:0.74から0.90)有意に低下させていましたが、
脳血管性認知症のリスクについては、
低下の傾向はあるものの有意ではありませんでした。
条件毎の解析では、
スタチンの使用はその後の認知症のリスクを、
2型糖尿病の患者さんにおいて13%(95%CI:0.85から0.89)、
3年以上スタチンを継続している患者さんにおいて、
67%(95%CI:0.30から0.46)、
アジア人の集団において16%(95%CI:0.80から0.88)、
それぞれ有意に低下させていました。
また、スタチンの種別毎の解析では、
ロスバスタチンが最も認知症予防効果が高く、
28%(95%CI:0.60から0.88)、
認知症リスクを有意に低下させていました。
このように、
スタチンを数年を超えて使用することにより、
認知症、特にアルツハイマー型認知症のリスク低下に結び付くことは、
今回の大規模な解析でもほぼ間違いのない事実で、
今後そのメカニズムを含め、
より緻密で実証的な研究の進捗に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Alzheimer's & Dementia誌に2025年1月16日付で掲載された、
コレステロール降下剤と認知症との関連についての論文です。
スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤ですが、
コレステロールを下げるばかりではなく、
抗炎症作用などの多面的な作用を持ち、
それが動脈硬化の進行予防などに結び付いていると考えられています。
スタチンの心筋梗塞などの心疾患の予防効果は、
間違いなく実証された事実ですが、
認知症に対する効果についてはまだ議論があります。
スタチンの効果の1つとして、
コレステロールの中間代謝産物のイソプレノイドを抑制し、
これが認知症の発症に伴うβアミロイドなどの異常蛋白の蓄積を、
抑制する効果があるのではないか、
という考え方があります。
これが事実であるとすれば、
スタチンは認知症、特にアルツハイマー型認知症に対しては、
その発症を抑制するような効果が期待出来ます。
しかし、その一方でスタチンに使用において、
認知機能の低下が生じるような事例も報告されています。
また、疫学データにおいても、
スタチンの使用により一定の認知症予防効果が認められた、
という報告がある一方で、
そうした効果は認められなかった、
というような報告もあります。
たとえば、2024年に発表された、
日本の診療報酬のデータを元にした研究では、
スタチンの30日以内の使用では、
むしろ使用者の方が認知症リスクは増加していた一方で、
それを超える長期の処方においては、
認知症リスクは有意に低下していました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38968046/
この問題はまだ結論が出ているとは言えないのです。
今回の研究は、
これまでの主な臨床データを、
まとめて解析するメタ解析の手法で、
この問題の現時点での検証を行っているものです。
これまでに発表された55の観察研究に含まれる、
トータルで700万例を超える臨床データをまとめて解析したところ、
スタチンを使用している人は、していない人と比較して、
その後の認知症のリスクが14%(95%CI:0.82から0.91)、
有意に低下していました。
個別の認知症毎の解析では、
スタチンの使用はアルツハイマー型認知症のリスクを、
18%(95%CI:0.74から0.90)有意に低下させていましたが、
脳血管性認知症のリスクについては、
低下の傾向はあるものの有意ではありませんでした。
条件毎の解析では、
スタチンの使用はその後の認知症のリスクを、
2型糖尿病の患者さんにおいて13%(95%CI:0.85から0.89)、
3年以上スタチンを継続している患者さんにおいて、
67%(95%CI:0.30から0.46)、
アジア人の集団において16%(95%CI:0.80から0.88)、
それぞれ有意に低下させていました。
また、スタチンの種別毎の解析では、
ロスバスタチンが最も認知症予防効果が高く、
28%(95%CI:0.60から0.88)、
認知症リスクを有意に低下させていました。
このように、
スタチンを数年を超えて使用することにより、
認知症、特にアルツハイマー型認知症のリスク低下に結び付くことは、
今回の大規模な解析でもほぼ間違いのない事実で、
今後そのメカニズムを含め、
より緻密で実証的な研究の進捗に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
有酸素運動の体重減少効果(2024年メタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は介護保険の審査会などに出席の予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Network Open誌に、
2024年12月26日付で掲載された、
有酸素運動の体重減少効果についての論文です。
健康的なダイエットにおいて、
食事と運動は最も重要な生活習慣の両輪です。
ただ、低糖質やカロリー制限などの体重減少効果は、
ほぼ実証された事実と言って良い知見ですが、
運動の減量効果は明確に証明されているとは言えません。
勿論運動そのものの健康効果は、
多くの点で実証されていますが、
運動するだけで体重が減るのか、
という点については明確ではないのです。
運動には幾つかの種類がありますが、
最も健康効果の確認されているのは、
ジョギングや水泳、サイクリングなどの、
有酸素運動です。
それでは、どのくらい有酸素運動を行えば、
明確な減量効果が得られるのでしょうか?
2009年に公開されたアメリカのスポーツ関連学会のガイドラインでは
週に150分以上の中等度以上の強度の有酸素運動を行うことにより、
2から3キロの体重減少効果が期待出来る、
とされています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19127177/
これは逆に言えば、
それを下回るような運動量では、
減量効果は期待出来ないという意味合いです。
それは事実でしょうか?
今回の研究ではこれまでの主だった介入試験という、
精度の高い臨床試験のデータをまとめて解析することで、
この問題の検証を行っています。
これまでの116の臨床研究に含まれる、
トータルで6880名のデータをまとめて解析したところ、
週に30分以上の有酸素運動を行う毎に、
体重は0.52kg(95%CI:-0.61から-0.44)、
腹囲は0.56cm(95%CI:-0.67から-0.45)、
体脂肪率は0.37%(95%CI:-0.43から-0.31)、
それぞれ有意に低下が認められました。
体脂肪は内臓脂肪、皮下脂肪とも同等に減少が認められました。
つまり、少なくとも週に30分以上の有酸素運動を行えば、
それに伴って健康的に体重は減少する、
という結果です。
ただ、矢張り臨床的に意味のあるレベルで体重減少を期待するのであれば、
週に150分以上の中強度以上の有酸素運動が必要であることも、
同時に確認がされています。
有酸素運動は、
仮に短時間であっても、
体重減少に一定の効果が期待出来ますが、
運動だけで体重と体脂肪を減少させるためには、
最低でも週に150分以上の、
ある程度負荷の高いトレーニングが必要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は介護保険の審査会などに出席の予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Network Open誌に、
2024年12月26日付で掲載された、
有酸素運動の体重減少効果についての論文です。
健康的なダイエットにおいて、
食事と運動は最も重要な生活習慣の両輪です。
ただ、低糖質やカロリー制限などの体重減少効果は、
ほぼ実証された事実と言って良い知見ですが、
運動の減量効果は明確に証明されているとは言えません。
勿論運動そのものの健康効果は、
多くの点で実証されていますが、
運動するだけで体重が減るのか、
という点については明確ではないのです。
運動には幾つかの種類がありますが、
最も健康効果の確認されているのは、
ジョギングや水泳、サイクリングなどの、
有酸素運動です。
それでは、どのくらい有酸素運動を行えば、
明確な減量効果が得られるのでしょうか?
2009年に公開されたアメリカのスポーツ関連学会のガイドラインでは
週に150分以上の中等度以上の強度の有酸素運動を行うことにより、
2から3キロの体重減少効果が期待出来る、
とされています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19127177/
これは逆に言えば、
それを下回るような運動量では、
減量効果は期待出来ないという意味合いです。
それは事実でしょうか?
今回の研究ではこれまでの主だった介入試験という、
精度の高い臨床試験のデータをまとめて解析することで、
この問題の検証を行っています。
これまでの116の臨床研究に含まれる、
トータルで6880名のデータをまとめて解析したところ、
週に30分以上の有酸素運動を行う毎に、
体重は0.52kg(95%CI:-0.61から-0.44)、
腹囲は0.56cm(95%CI:-0.67から-0.45)、
体脂肪率は0.37%(95%CI:-0.43から-0.31)、
それぞれ有意に低下が認められました。
体脂肪は内臓脂肪、皮下脂肪とも同等に減少が認められました。
つまり、少なくとも週に30分以上の有酸素運動を行えば、
それに伴って健康的に体重は減少する、
という結果です。
ただ、矢張り臨床的に意味のあるレベルで体重減少を期待するのであれば、
週に150分以上の中強度以上の有酸素運動が必要であることも、
同時に確認がされています。
有酸素運動は、
仮に短時間であっても、
体重減少に一定の効果が期待出来ますが、
運動だけで体重と体脂肪を減少させるためには、
最低でも週に150分以上の、
ある程度負荷の高いトレーニングが必要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
高齢者はどのくらい卵を食べるのが健康的なのか?(2025年オーストラリアの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト作業の予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Nutrients誌に2025年1月17日付で掲載された、
高齢者はどのくらい卵を食べるのが健康的かについての論文です。
卵と健康との関連については、
色々な見方があります。
卵黄には1個に200ミリグラムを超えるコレステロールが含まれています。
血液のコレステロールが高いと、
動脈硬化が進行しやすいという知見が得られてから、
食事のコレステロールを制限しようという動きが、
世界的に高まり、
そこで提唱された基準が、
食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にする、
というものです。
これを達成するためには、
卵をなるべく食べないことが、
必要不可欠ですから、
卵の制限が、
健康のためには必要であると考えられたのです。
ところが
2016年に公表されたアメリカのガイドラインにおいては、
食事のコレステロールを制限しても、
血液のコレステロールを減らせるという根拠は乏しいとして、
その目標値は削除されました。
2020年の段階でその根拠となるデータをまとめた、
米国心臓病学会の総説がこちらになります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31838890/
このガイドラインの変更は、
「コレステロールの食事制限は不要」として、
一般にも報道されました。
その報道には誤解を招く点があり、
実際には数値目標が外れただけで、
コレステロールの制限自体は推奨されていたのですが、
コレステロールに制限は要らない、
という誤ったメッセージに受け取られたことは、
残念でした。
その後様々の研究データが発表されましたが、
概ね1日1個を超えない卵の摂取については、
大きな健康リスクはない、
というのがほぼ一致した考え方になっています。
ただ、その元になっているデータの多くは現役世代のもので、
高齢者でも同じとは限りません。
高齢者は摂取する蛋白量が低下していて、
それが体力低下の一因であるという指摘があります。
卵は簡単に蛋白質を摂ることの出来る食品なので、
その意味では卵を食べる習慣は健康に資すると考えることが出来ます。
一方で高齢者ではコレステロールが高い人は多く、
動脈硬化も進行している人が多いことが想定されるので、
コレステロールを多めに摂ることは、
矢張り良くないのではないか、
という考え方もあるのです。
実際にはどうなのでしょうか?
今回の研究はオーストラリアにおいて、
高齢者の健康調査のデータを活用することで、
卵の摂取量と生命予後との関連を検証しています。
対象は登録の時点で70歳以上の一般住民8756例です。
中間値で5から9年の観察期間において、
卵を殆ど食べない人と比較して、
毎週1から6回食べている人は、
心血管疾患による死亡のリスクが29%(95%CI:0.54から0.92)、
総死亡のリスクが17%(95%CI:0.71から0.96)、
それぞれ有意に低下していました。
その一方で毎日卵を食べる習慣のある人は、
殆ど食べない人と比較して、
心血管疾患による死亡リスクも総死亡のリスクも、
やや高い傾向が認められました。
ただ統計的に有意な増加ではありませんでした。
このように、
70歳以上の高齢者を対象とした今回の研究では、
毎日1回を超えないレベルで卵を食べることは、
むしろ健康長寿に役立つ可能性がある、
という結果が得られました。
これは回数のみの質問を元にしているので、
正確な卵の摂取量は不明ですが、
概ね毎日1個以上継続的に食べることは良くない可能性があるものの、
それを超えなければ健康に害はなく、
むしろ健康に資する可能性もある、
というくらいに考えて頂くのが良いと思います。
卵は食べ過ぎず、美味しく食べるのが吉であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト作業の予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Nutrients誌に2025年1月17日付で掲載された、
高齢者はどのくらい卵を食べるのが健康的かについての論文です。
卵と健康との関連については、
色々な見方があります。
卵黄には1個に200ミリグラムを超えるコレステロールが含まれています。
血液のコレステロールが高いと、
動脈硬化が進行しやすいという知見が得られてから、
食事のコレステロールを制限しようという動きが、
世界的に高まり、
そこで提唱された基準が、
食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にする、
というものです。
これを達成するためには、
卵をなるべく食べないことが、
必要不可欠ですから、
卵の制限が、
健康のためには必要であると考えられたのです。
ところが
2016年に公表されたアメリカのガイドラインにおいては、
食事のコレステロールを制限しても、
血液のコレステロールを減らせるという根拠は乏しいとして、
その目標値は削除されました。
2020年の段階でその根拠となるデータをまとめた、
米国心臓病学会の総説がこちらになります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31838890/
このガイドラインの変更は、
「コレステロールの食事制限は不要」として、
一般にも報道されました。
その報道には誤解を招く点があり、
実際には数値目標が外れただけで、
コレステロールの制限自体は推奨されていたのですが、
コレステロールに制限は要らない、
という誤ったメッセージに受け取られたことは、
残念でした。
その後様々の研究データが発表されましたが、
概ね1日1個を超えない卵の摂取については、
大きな健康リスクはない、
というのがほぼ一致した考え方になっています。
ただ、その元になっているデータの多くは現役世代のもので、
高齢者でも同じとは限りません。
高齢者は摂取する蛋白量が低下していて、
それが体力低下の一因であるという指摘があります。
卵は簡単に蛋白質を摂ることの出来る食品なので、
その意味では卵を食べる習慣は健康に資すると考えることが出来ます。
一方で高齢者ではコレステロールが高い人は多く、
動脈硬化も進行している人が多いことが想定されるので、
コレステロールを多めに摂ることは、
矢張り良くないのではないか、
という考え方もあるのです。
実際にはどうなのでしょうか?
今回の研究はオーストラリアにおいて、
高齢者の健康調査のデータを活用することで、
卵の摂取量と生命予後との関連を検証しています。
対象は登録の時点で70歳以上の一般住民8756例です。
中間値で5から9年の観察期間において、
卵を殆ど食べない人と比較して、
毎週1から6回食べている人は、
心血管疾患による死亡のリスクが29%(95%CI:0.54から0.92)、
総死亡のリスクが17%(95%CI:0.71から0.96)、
それぞれ有意に低下していました。
その一方で毎日卵を食べる習慣のある人は、
殆ど食べない人と比較して、
心血管疾患による死亡リスクも総死亡のリスクも、
やや高い傾向が認められました。
ただ統計的に有意な増加ではありませんでした。
このように、
70歳以上の高齢者を対象とした今回の研究では、
毎日1回を超えないレベルで卵を食べることは、
むしろ健康長寿に役立つ可能性がある、
という結果が得られました。
これは回数のみの質問を元にしているので、
正確な卵の摂取量は不明ですが、
概ね毎日1個以上継続的に食べることは良くない可能性があるものの、
それを超えなければ健康に害はなく、
むしろ健康に資する可能性もある、
というくらいに考えて頂くのが良いと思います。
卵は食べ過ぎず、美味しく食べるのが吉であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
痛み止めと胃薬併用の下部消化管出血リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Gut and Liver誌に2025年1月3日付でウェブ掲載された、
頻用されている痛み止めと胃薬の併用で、
下血のリスクが高まるという、
ちょっと気になる報告です。
アスピリンや、
非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)と呼ばれる消炎鎮痛剤は、
安全で即効性のある痛み止めや解熱剤として、
幅広く使用されています。
ただ、幾つか無視できない副作用や有害事象があり、
その1つが胃潰瘍などの消化管出血です。
これは私自身も臨床で何度も経験していますが、
たとえばロキソプロフェンなどの痛み止めを、
短期間使用しただけでも、
胃の中に小さな潰瘍が無数に出来ていたりするのです。
痛み止めを使用しているので、
潰瘍が出来てもあまり痛みを感じず、
出血による貧血で初めて発見される、
というような事例も稀ではありません。
その予防のためには勿論、
消炎鎮痛剤の使用を最小限に留めることが第一ですが、
継続的な使用が止むを得ない、というケースも多く、
その時にしばしば行われる方法が、
胃酸の分泌を強力に抑えて潰瘍を治療する、
プロトンポンプ阻害剤という胃薬を、
痛み止めと併用するという考え方です。
こうした方法を取ることにより、
確かに痛み止めの使用による、
胃潰瘍などの上部消化管出血は減少しました。
ところが…
上部消化管の出血は減少した一方で、
十二指腸より下部の消化管からの出血(小腸や大腸からの出血)は、
むしろ増えているのではないか、
という指摘が最近見られるようになりました。
2023年に発表されたメタ解析の論文では、
これまでに発表された12の臨床研究に含まれる、
トータルで341063名の症例をまとめて解析したところ、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
下部消化管出血のリスクは3.23倍(HR95%CI:1.56から6.71)、
有意に増加していて、
非ステロイド系消炎鎮痛剤の単独使用と比較して、
プロトンポンプ阻害剤の併用は、
下部消化管出血のリスクを6.55倍(HR95%CI:2.01から21.33)、
有意に増加させていました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37553807/
今回の検証は韓国において、
5つの医療機関のデータをまとめて解析することにより、
この問題の実地医療での検証を行っているものです。
非ステロイド系消炎鎮痛剤と、
プロトンポンプ阻害剤を併用した事例8728例を、
年齢などをマッチングさせた、
非ステロイド系消炎鎮痛剤のみ使用している同じ8728例と、
比較検証したところ、
プロトンポンプ阻害剤併用群は、
非ステロイド系消炎鎮痛剤単独使用群と比較して、
下部消化管出血のリスクが、
2.843倍(HR95%CI:1.998から4.044)有意に増加していました。
つまり、今回の検証においても、
矢張り痛み止めとプロトンポンプ阻害剤という胃薬の併用は、
下部消化管出血の危険性を増していたのです。
それでは、
何故胃酸を抑える薬で、
腸の出血が増加するのでしょうか?
カプセル内視鏡などを使用したこれまでの研究によると、
出血部位の多くは小腸であると考えられています。
これは仮説ですが、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
胃酸が強力に抑えられ、
それによって腸内細菌叢の変化などが起こり、
それが小腸の粘膜に悪影響を与えた可能性が指摘されています。
これはまだ実証された事実とは言えませんが、
非ステロイド系消炎鎮痛剤とプロトンポンプ阻害剤を併用することは、
胃などの上部消化管の出血は減らす一方で、
下部消化管特に小腸の出血は増やす可能性があり、
そうした併用は今後はより慎重に行う必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Gut and Liver誌に2025年1月3日付でウェブ掲載された、
頻用されている痛み止めと胃薬の併用で、
下血のリスクが高まるという、
ちょっと気になる報告です。
アスピリンや、
非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)と呼ばれる消炎鎮痛剤は、
安全で即効性のある痛み止めや解熱剤として、
幅広く使用されています。
ただ、幾つか無視できない副作用や有害事象があり、
その1つが胃潰瘍などの消化管出血です。
これは私自身も臨床で何度も経験していますが、
たとえばロキソプロフェンなどの痛み止めを、
短期間使用しただけでも、
胃の中に小さな潰瘍が無数に出来ていたりするのです。
痛み止めを使用しているので、
潰瘍が出来てもあまり痛みを感じず、
出血による貧血で初めて発見される、
というような事例も稀ではありません。
その予防のためには勿論、
消炎鎮痛剤の使用を最小限に留めることが第一ですが、
継続的な使用が止むを得ない、というケースも多く、
その時にしばしば行われる方法が、
胃酸の分泌を強力に抑えて潰瘍を治療する、
プロトンポンプ阻害剤という胃薬を、
痛み止めと併用するという考え方です。
こうした方法を取ることにより、
確かに痛み止めの使用による、
胃潰瘍などの上部消化管出血は減少しました。
ところが…
上部消化管の出血は減少した一方で、
十二指腸より下部の消化管からの出血(小腸や大腸からの出血)は、
むしろ増えているのではないか、
という指摘が最近見られるようになりました。
2023年に発表されたメタ解析の論文では、
これまでに発表された12の臨床研究に含まれる、
トータルで341063名の症例をまとめて解析したところ、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
下部消化管出血のリスクは3.23倍(HR95%CI:1.56から6.71)、
有意に増加していて、
非ステロイド系消炎鎮痛剤の単独使用と比較して、
プロトンポンプ阻害剤の併用は、
下部消化管出血のリスクを6.55倍(HR95%CI:2.01から21.33)、
有意に増加させていました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37553807/
今回の検証は韓国において、
5つの医療機関のデータをまとめて解析することにより、
この問題の実地医療での検証を行っているものです。
非ステロイド系消炎鎮痛剤と、
プロトンポンプ阻害剤を併用した事例8728例を、
年齢などをマッチングさせた、
非ステロイド系消炎鎮痛剤のみ使用している同じ8728例と、
比較検証したところ、
プロトンポンプ阻害剤併用群は、
非ステロイド系消炎鎮痛剤単独使用群と比較して、
下部消化管出血のリスクが、
2.843倍(HR95%CI:1.998から4.044)有意に増加していました。
つまり、今回の検証においても、
矢張り痛み止めとプロトンポンプ阻害剤という胃薬の併用は、
下部消化管出血の危険性を増していたのです。
それでは、
何故胃酸を抑える薬で、
腸の出血が増加するのでしょうか?
カプセル内視鏡などを使用したこれまでの研究によると、
出血部位の多くは小腸であると考えられています。
これは仮説ですが、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
胃酸が強力に抑えられ、
それによって腸内細菌叢の変化などが起こり、
それが小腸の粘膜に悪影響を与えた可能性が指摘されています。
これはまだ実証された事実とは言えませんが、
非ステロイド系消炎鎮痛剤とプロトンポンプ阻害剤を併用することは、
胃などの上部消化管の出血は減らす一方で、
下部消化管特に小腸の出血は増やす可能性があり、
そうした併用は今後はより慎重に行う必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
新型コロナと他疾患の予後比較(2022年から24年アメリカの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Internal Medicine誌に、
2025年1月27日付で掲載された、
同時期に流行した新型コロナと季節性インフルエンザ、RSウイルス感染症の、
重症度を比較した論文です。
今は所謂風邪症状を呈するウイルス感染症の流行期で、
多くの種類のウイルス感染症が流行しています。
その中には簡単に検査で診断が可能なものもあり、
健康保険の診療では、
検査などの診断は困難なものもあります。
季節性インフルエンザウイルスによる感染症と、
COVID-19ウイルスによる新型コロナ感染症、
小児や高齢者に呼吸器症状を起こすRSウイルス感染症は、
抗原検査である程度診断が可能な、
冬に流行するウイルス感染症の代表です。
それでは、実際に今この3種類のウイルス感染症に罹患した場合、
最も重症化し易いのがどのウイルスでしょうか?
新型コロナウイルス感染症は、
確かに2020年から21年くらいの時期には、
季節性インフルエンザやRSウイルス感染症よりも、
重症化のリスクが高い感染症でした。
ただ、その後徐々に症状は軽症化し、
実際の診療での印象としては、
インフルエンザ感染よりも、
患者さんの症状は軽いことが多いと思います。
これは新型インフルエンザによる感染症など、
他のウイルス感染症でも同じですが、
人間の側に免疫のない状態で、
新種のウイルス感染が流行すると、
感染自体も爆発的に広がりますし、
その重症度も高く、予後も悪いことが通常です。
しかし、それから数年が過ぎて、
ほぼ全員が一度は感染を経験するかワクチンによる免疫を得て、
感染拡大も爆発的なものではなくなると、
流行自体は定期的に起こるものの、
その重症度は軽いものとなることが多いのです。
今回の研究はアメリカにおいて、
退役軍人の医療保険のデータを活用することで、
2022年の秋から2023年の春のシーズンと、
2023年の秋から2024年の春のシーズンの、
2つの時期に流行した、
新型コロナウイルス感染症、季節性インフルエンザ感染症、
RSウイルス感染症の、
3種類の感染罹患者の重症度の比較を行っています。
その結果は以下のようになっています。
まず2022年から2023年のシーズンでは、
3種類のウイルス感染の罹患者は68581名が同定されていて、
内訳は9.1%の6239名がRSウイルス感染症、
24.7%の16947名が季節性インフルエンザ感染症、
66.2%の45395名が新型コロナウイルス感染症でした。
2023年から2024年のシーズでは、
全体で72939名の患者が同定されていて、
13.4%の9748名がRSウイルス感染症、
26.4%の19242名が季節性インフルエンザ感染症、
60.3%の43949名が新型コロナウイルス感染症でした。
対象者の性質上、
年齢の中央値は66歳で、男性が87.0%でした。
重症化の指標として、
30日以内の入院のリスクを比較してみると、
2023年から24年のシーズンでは、
新型コロナウイルス感染症では16.2%、
季節性インフルエンザ感染症では16.3%とほぼ同一であった一方、
RSウイルス感染症は14.3%と入院リスクは低い傾向が認められました。
30日以内の死亡リスクの比較では、
2022年から23年のシーズンでは、
新型コロナウイルス感染症が1.0%、
季節性インフルエンザが0.7%、RSウイルス感染症が0.7%と、
その差は僅かではあるものの、
新型コロナウイルス感染症で生命予後が悪い傾向があり、
2023から2024年のシーズンでは、
新型コロナウイルス感染症が0.9%、
季節性インフルエンザが0.7%、RSウイルス感染症が0.7%と、
これも微妙ですが、
新型コロナウイルス感染症がより軽症化していることが示唆されました。
ただ、180日以内の死亡リスクを指標とすると、
2022年から23年のシーズンでは、
新型コロナウイルス感染症が3.1%、
季節性インフルエンザが2.1%、RSウイルス感染症が2.1%と、
こちらもその差は僅かではあるものの、
新型コロナウイルス感染症で生命予後が悪い傾向があり、
2023から2024年のシーズンでも、
新型コロナウイルス感染症が2.9%、
季節性インフルエンザが2.3%、RSウイルス感染症が2.1%と、
その傾向は変わっておらず、
より長期の生命予後では、
他の2種の感染症と比較して、
新型コロナウイルス感染症の生命予後が悪いことが、
明確になっている傾向は認められました。
このように、
トータルには軽症化をしているものの、
冬に流行する風邪症候群のウイルスの中で、
生命予後において最も注意が必要であるのは、
2023から24年の時期においても、
新型コロナウイルス感染症であることは間違いがなく、
その診断や治療方針について判断する上で、
こうした検証が定期的に行われることは、
非常に重要であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Internal Medicine誌に、
2025年1月27日付で掲載された、
同時期に流行した新型コロナと季節性インフルエンザ、RSウイルス感染症の、
重症度を比較した論文です。
今は所謂風邪症状を呈するウイルス感染症の流行期で、
多くの種類のウイルス感染症が流行しています。
その中には簡単に検査で診断が可能なものもあり、
健康保険の診療では、
検査などの診断は困難なものもあります。
季節性インフルエンザウイルスによる感染症と、
COVID-19ウイルスによる新型コロナ感染症、
小児や高齢者に呼吸器症状を起こすRSウイルス感染症は、
抗原検査である程度診断が可能な、
冬に流行するウイルス感染症の代表です。
それでは、実際に今この3種類のウイルス感染症に罹患した場合、
最も重症化し易いのがどのウイルスでしょうか?
新型コロナウイルス感染症は、
確かに2020年から21年くらいの時期には、
季節性インフルエンザやRSウイルス感染症よりも、
重症化のリスクが高い感染症でした。
ただ、その後徐々に症状は軽症化し、
実際の診療での印象としては、
インフルエンザ感染よりも、
患者さんの症状は軽いことが多いと思います。
これは新型インフルエンザによる感染症など、
他のウイルス感染症でも同じですが、
人間の側に免疫のない状態で、
新種のウイルス感染が流行すると、
感染自体も爆発的に広がりますし、
その重症度も高く、予後も悪いことが通常です。
しかし、それから数年が過ぎて、
ほぼ全員が一度は感染を経験するかワクチンによる免疫を得て、
感染拡大も爆発的なものではなくなると、
流行自体は定期的に起こるものの、
その重症度は軽いものとなることが多いのです。
今回の研究はアメリカにおいて、
退役軍人の医療保険のデータを活用することで、
2022年の秋から2023年の春のシーズンと、
2023年の秋から2024年の春のシーズンの、
2つの時期に流行した、
新型コロナウイルス感染症、季節性インフルエンザ感染症、
RSウイルス感染症の、
3種類の感染罹患者の重症度の比較を行っています。
その結果は以下のようになっています。
まず2022年から2023年のシーズンでは、
3種類のウイルス感染の罹患者は68581名が同定されていて、
内訳は9.1%の6239名がRSウイルス感染症、
24.7%の16947名が季節性インフルエンザ感染症、
66.2%の45395名が新型コロナウイルス感染症でした。
2023年から2024年のシーズでは、
全体で72939名の患者が同定されていて、
13.4%の9748名がRSウイルス感染症、
26.4%の19242名が季節性インフルエンザ感染症、
60.3%の43949名が新型コロナウイルス感染症でした。
対象者の性質上、
年齢の中央値は66歳で、男性が87.0%でした。
重症化の指標として、
30日以内の入院のリスクを比較してみると、
2023年から24年のシーズンでは、
新型コロナウイルス感染症では16.2%、
季節性インフルエンザ感染症では16.3%とほぼ同一であった一方、
RSウイルス感染症は14.3%と入院リスクは低い傾向が認められました。
30日以内の死亡リスクの比較では、
2022年から23年のシーズンでは、
新型コロナウイルス感染症が1.0%、
季節性インフルエンザが0.7%、RSウイルス感染症が0.7%と、
その差は僅かではあるものの、
新型コロナウイルス感染症で生命予後が悪い傾向があり、
2023から2024年のシーズンでは、
新型コロナウイルス感染症が0.9%、
季節性インフルエンザが0.7%、RSウイルス感染症が0.7%と、
これも微妙ですが、
新型コロナウイルス感染症がより軽症化していることが示唆されました。
ただ、180日以内の死亡リスクを指標とすると、
2022年から23年のシーズンでは、
新型コロナウイルス感染症が3.1%、
季節性インフルエンザが2.1%、RSウイルス感染症が2.1%と、
こちらもその差は僅かではあるものの、
新型コロナウイルス感染症で生命予後が悪い傾向があり、
2023から2024年のシーズンでも、
新型コロナウイルス感染症が2.9%、
季節性インフルエンザが2.3%、RSウイルス感染症が2.1%と、
その傾向は変わっておらず、
より長期の生命予後では、
他の2種の感染症と比較して、
新型コロナウイルス感染症の生命予後が悪いことが、
明確になっている傾向は認められました。
このように、
トータルには軽症化をしているものの、
冬に流行する風邪症候群のウイルスの中で、
生命予後において最も注意が必要であるのは、
2023から24年の時期においても、
新型コロナウイルス感染症であることは間違いがなく、
その診断や治療方針について判断する上で、
こうした検証が定期的に行われることは、
非常に重要であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
毎日の歩数とうつ病リスク(2024年メタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Network Open誌に、
2024年12月2日付で掲載された、
毎日の歩数とうつ病のリスクとの関係についての論文です。
毎日の歩数と健康との間には関連があり、
1日5000歩から8000歩くらいの歩行習慣により、
心血管疾患の予防効果や、
総死亡リスクの低下が確認されることは、
国内外の精度の高い疫学データにより、
ほぼ実証されている事項です。
ただ、うつ病などの精神疾患においても、
運動療法に一定の有効性のあることは分かっていますが、
毎日の歩数とうつ病リスクとの関係については、
まだあまり明確なことが分かっていません。
そこで今回の研究では、
これまでの臨床研究のデータをまとめて解析する、
システマティックレビューとメタ解析の手法により、
毎日の歩数とうつ病リスクとの関係を検証しています。
複数の研究のデータを比較するため、
うつ病の症状を、
標準化平均差(SMD)という指標で数値化し、
SMDの変化が大きいほど改善度が大きいと判断しています。
効果量は-0.20が少、-0.50が中、-0.80が大、
というのが大まかな目安です。
これまでの33の観察研究に含まれる、
トータルで96173名の患者データをまとめて解析したところ、
1日5000歩未満しか歩いていない場合と比較して、
1日5000から7499歩歩いている人は-0.17(95%CI:-0.30から-0.04)、
1日7500から9999歩歩いている人は-0.27(95%CI:-0.43から-0.11)、
1日10000歩以上歩いている人は-0.26(95%CI:-0.38から-0.14)、
それぞれSMDが有意に低下していました。
つまり1日5000歩以上歩いている人は、
うつ病の症状が軽く、
その変化は1日7500歩以上でより明確化している、
という言い方が可能です。
また前向きコホート研究という、
今回抽出した研究の中では精度の高いデータでの推計では、
1日7000歩未満しか歩いていない場合と比較して、
7000歩以上歩いている人では、
うつ病のリスクが31%(95%CI:0.62 から0.77)低下していて、
1日1000歩歩数を増やすと、
うつ病のリスクは9%(95%CI:0.87から0.94)低下すると推算されました。
このように、
1日の歩数が5000から7000歩以上と、
増加するにつれてうつ病のリスク低下が認められていて、
その影響は軽微なものではありますが、
決して無視すべきものではなく、
特に軽症のうつ状態を悪化させないために、
ウォーキングを含めた運動での対応は、
重要な選択肢となるような気がします。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Network Open誌に、
2024年12月2日付で掲載された、
毎日の歩数とうつ病のリスクとの関係についての論文です。
毎日の歩数と健康との間には関連があり、
1日5000歩から8000歩くらいの歩行習慣により、
心血管疾患の予防効果や、
総死亡リスクの低下が確認されることは、
国内外の精度の高い疫学データにより、
ほぼ実証されている事項です。
ただ、うつ病などの精神疾患においても、
運動療法に一定の有効性のあることは分かっていますが、
毎日の歩数とうつ病リスクとの関係については、
まだあまり明確なことが分かっていません。
そこで今回の研究では、
これまでの臨床研究のデータをまとめて解析する、
システマティックレビューとメタ解析の手法により、
毎日の歩数とうつ病リスクとの関係を検証しています。
複数の研究のデータを比較するため、
うつ病の症状を、
標準化平均差(SMD)という指標で数値化し、
SMDの変化が大きいほど改善度が大きいと判断しています。
効果量は-0.20が少、-0.50が中、-0.80が大、
というのが大まかな目安です。
これまでの33の観察研究に含まれる、
トータルで96173名の患者データをまとめて解析したところ、
1日5000歩未満しか歩いていない場合と比較して、
1日5000から7499歩歩いている人は-0.17(95%CI:-0.30から-0.04)、
1日7500から9999歩歩いている人は-0.27(95%CI:-0.43から-0.11)、
1日10000歩以上歩いている人は-0.26(95%CI:-0.38から-0.14)、
それぞれSMDが有意に低下していました。
つまり1日5000歩以上歩いている人は、
うつ病の症状が軽く、
その変化は1日7500歩以上でより明確化している、
という言い方が可能です。
また前向きコホート研究という、
今回抽出した研究の中では精度の高いデータでの推計では、
1日7000歩未満しか歩いていない場合と比較して、
7000歩以上歩いている人では、
うつ病のリスクが31%(95%CI:0.62 から0.77)低下していて、
1日1000歩歩数を増やすと、
うつ病のリスクは9%(95%CI:0.87から0.94)低下すると推算されました。
このように、
1日の歩数が5000から7000歩以上と、
増加するにつれてうつ病のリスク低下が認められていて、
その影響は軽微なものではありますが、
決して無視すべきものではなく、
特に軽症のうつ状態を悪化させないために、
ウォーキングを含めた運動での対応は、
重要な選択肢となるような気がします。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
薬と認知症との関連(2025年システマティックレビュー) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions 誌に、
2025年1月付で掲載された、
認知症のリスクと薬剤との関連についての論文です。
認知症の治療薬は、
最近新薬の抗体製剤なども導入され、
一定の進歩を続けていますが、
まだまだ根治へのハードルは高いのが実際です。
また新規に開発される新薬は、
非常に高価なものになるという問題もあります。
そこでこうした難治性の病気の場合に注目されるのが、
現時点で使用されている薬剤や、
ワクチンなどの医療行為と、
認知症リスクとの関連です。
従来の他の疾患に対する治療が、
認知症の予防や治療にも有効であるとすれば、
経済的な側面からも、
意義のある治療となる可能性があるからです。
今回の論文では、
これまでの薬物やその他の医学的治療と、
認知症リスクとの関連を調べたデータを、
まとめて俯瞰的に検証する、
システマティックレビューという手法を用いて、
この問題の現時点での検証を行っています。
対象となっているのは、
従来の治療と認知症リスクとの関連を検証した14の臨床研究に含まれる、
トータルで1億3000万人を超えるビックデータです。
解析の結果、
まず認知症リスクを低下させていたのは、
抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、一部の降圧剤の使用と、ワクチン接種で、
このことは認知症の進行が、
細菌やウイルスの感染と、それに伴う組織に炎症に、
関連している可能性を示唆するものです。
一方で抗精神病薬や抗うつ薬、一部の降圧剤や糖尿病治療薬の使用と、
認知症リスクの増加との間に関連がある、
とするデータも複数報告されていました。
ただ、慢性疾患の病態自体が、
認知症リスクと関連していた可能性も否定は出来ず、
本当に薬がリスク増加に繋がっているのか、
という点についてはまだ検証が必要と考えられました。
今回のようなデータを精査した上で、
法外な新薬に頼ることなく、
認知症の予防と治療が可能となるような、
診療の進歩が得られることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions 誌に、
2025年1月付で掲載された、
認知症のリスクと薬剤との関連についての論文です。
認知症の治療薬は、
最近新薬の抗体製剤なども導入され、
一定の進歩を続けていますが、
まだまだ根治へのハードルは高いのが実際です。
また新規に開発される新薬は、
非常に高価なものになるという問題もあります。
そこでこうした難治性の病気の場合に注目されるのが、
現時点で使用されている薬剤や、
ワクチンなどの医療行為と、
認知症リスクとの関連です。
従来の他の疾患に対する治療が、
認知症の予防や治療にも有効であるとすれば、
経済的な側面からも、
意義のある治療となる可能性があるからです。
今回の論文では、
これまでの薬物やその他の医学的治療と、
認知症リスクとの関連を調べたデータを、
まとめて俯瞰的に検証する、
システマティックレビューという手法を用いて、
この問題の現時点での検証を行っています。
対象となっているのは、
従来の治療と認知症リスクとの関連を検証した14の臨床研究に含まれる、
トータルで1億3000万人を超えるビックデータです。
解析の結果、
まず認知症リスクを低下させていたのは、
抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、一部の降圧剤の使用と、ワクチン接種で、
このことは認知症の進行が、
細菌やウイルスの感染と、それに伴う組織に炎症に、
関連している可能性を示唆するものです。
一方で抗精神病薬や抗うつ薬、一部の降圧剤や糖尿病治療薬の使用と、
認知症リスクの増加との間に関連がある、
とするデータも複数報告されていました。
ただ、慢性疾患の病態自体が、
認知症リスクと関連していた可能性も否定は出来ず、
本当に薬がリスク増加に繋がっているのか、
という点についてはまだ検証が必要と考えられました。
今回のようなデータを精査した上で、
法外な新薬に頼ることなく、
認知症の予防と治療が可能となるような、
診療の進歩が得られることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
コーヒーとお茶の頭頚部がんリスクとの関連 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Cancer誌に2024年12月23日付で掲載された、
コーヒーとお茶を飲む習慣と、
頭頚部がんのリスクとの関連についての論文です。
頭頚部がんというのは、
口腔、咽頭、喉頭など、
口から咽喉周辺のがんの総称で、
色々な定義がありますが、
今回の論文では、
口腔、中咽頭、下咽頭、喉頭のがんの総称として、
その言葉が使用されています。
頭頚部がんはアルコールや喫煙が、
その発症リスクとなることが知られています。
つまり、その部位に接触する飲み物や煙などの影響を、
大きく受ける可能性がある訳です。
コーヒーやお茶(今回の場合は主に紅茶)には、
多くの生理活性物質が含有され、
一部のがんに対する予防効果の報告もあります。
ただ、飲み物の影響が大きいと想定される頭頚部がんについて、
コーヒーとお茶の影響についてはあまり明確なことが分かっていません。
今回の研究は世界規模で調査されている、
頭頚部がんの疫学研究のデータを活用して、
コーヒーやお茶を飲む習慣と、
頭頚部がんリスクとの関連を検証しているものです。
これは同様の研究結果が2010年にも論文化されていて、
一定の予防効果が確認されていたのですが、
その後のデータを含めて再度検証しているものです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20570908/
これまでの14の疫学研究に含まれる、
9548例の頭頚部がんの事例を、
15783名のコントロールと比較して検証したところ、
コーヒーを飲まない人と比較して、
毎日カフェインを含むコーヒーを4杯以上飲んでいる人は、
頭頚部がんのリスクが17%(95%CI: 0.69から1.00)低下している傾向があり、
個別の部位のがん毎の解析では、
口腔がんのリスクが30%(95%CI:0.55から0.89)、
中咽頭がんのリスクが22%(95%CI: 0.61から0.99)、
それぞれ有意に低下していました。
同様に毎日カフェインを含むコーヒーを、
1日3から4杯飲んでいる人は、飲まない人と比較して、
下咽頭がんのリスクが41%(95%CI:0.39から0.91)、
有意に低下していました。
また、口腔がんのリスクは、
カフェインを含まないコーヒーを飲まない人と比較して飲む人では、
25%(95%CI: 0.64から0.87)有意に低下していました。
ただ、1日0から1杯飲む人ではリスク低下があった一方で、
1杯以上飲む人では有意なリスク低下はなく、
データの解釈はかなり微妙です。
一方でお茶についての解析では、
お茶を飲む人は飲まない人と比較して、
下咽頭がんのリスクが29%(95%CI:0.59から0.87)、
有意に低下していました。
ただ、1日に0から1杯飲む人では、
頭頚部がんのリスクが9%(95%CI:0.84から0.98)、
下咽頭がんのリスクが27%(95%CI:0.59から0.91)、
有意に低下していた一方で、
1日にお茶を1杯を超えて飲む人では、
喉頭がんのリスクが38%(95%CI:1.09から1.74)、
有意に増加していました。
このようにデータは解釈が難しい面があるのですが、
概ねコーヒーを飲むことは、
頭頚部がんのリスクを下げる可能性が高く、
特にカフェインを含むコーヒーで、
その傾向は明確でした。
一方でお茶と頭頚部がんとの関連については、
一部のがんでリスクが増加しているなど、
現時点での判断は困難と考えられました。
こうしたデータは単独では判断の困難なものが多いので、
コーヒーもお茶も適度に飲む分には、
頭頚部がんのリスクとあまり関係がないと思って頂くのが、
現時点では妥当な判断であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Cancer誌に2024年12月23日付で掲載された、
コーヒーとお茶を飲む習慣と、
頭頚部がんのリスクとの関連についての論文です。
頭頚部がんというのは、
口腔、咽頭、喉頭など、
口から咽喉周辺のがんの総称で、
色々な定義がありますが、
今回の論文では、
口腔、中咽頭、下咽頭、喉頭のがんの総称として、
その言葉が使用されています。
頭頚部がんはアルコールや喫煙が、
その発症リスクとなることが知られています。
つまり、その部位に接触する飲み物や煙などの影響を、
大きく受ける可能性がある訳です。
コーヒーやお茶(今回の場合は主に紅茶)には、
多くの生理活性物質が含有され、
一部のがんに対する予防効果の報告もあります。
ただ、飲み物の影響が大きいと想定される頭頚部がんについて、
コーヒーとお茶の影響についてはあまり明確なことが分かっていません。
今回の研究は世界規模で調査されている、
頭頚部がんの疫学研究のデータを活用して、
コーヒーやお茶を飲む習慣と、
頭頚部がんリスクとの関連を検証しているものです。
これは同様の研究結果が2010年にも論文化されていて、
一定の予防効果が確認されていたのですが、
その後のデータを含めて再度検証しているものです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20570908/
これまでの14の疫学研究に含まれる、
9548例の頭頚部がんの事例を、
15783名のコントロールと比較して検証したところ、
コーヒーを飲まない人と比較して、
毎日カフェインを含むコーヒーを4杯以上飲んでいる人は、
頭頚部がんのリスクが17%(95%CI: 0.69から1.00)低下している傾向があり、
個別の部位のがん毎の解析では、
口腔がんのリスクが30%(95%CI:0.55から0.89)、
中咽頭がんのリスクが22%(95%CI: 0.61から0.99)、
それぞれ有意に低下していました。
同様に毎日カフェインを含むコーヒーを、
1日3から4杯飲んでいる人は、飲まない人と比較して、
下咽頭がんのリスクが41%(95%CI:0.39から0.91)、
有意に低下していました。
また、口腔がんのリスクは、
カフェインを含まないコーヒーを飲まない人と比較して飲む人では、
25%(95%CI: 0.64から0.87)有意に低下していました。
ただ、1日0から1杯飲む人ではリスク低下があった一方で、
1杯以上飲む人では有意なリスク低下はなく、
データの解釈はかなり微妙です。
一方でお茶についての解析では、
お茶を飲む人は飲まない人と比較して、
下咽頭がんのリスクが29%(95%CI:0.59から0.87)、
有意に低下していました。
ただ、1日に0から1杯飲む人では、
頭頚部がんのリスクが9%(95%CI:0.84から0.98)、
下咽頭がんのリスクが27%(95%CI:0.59から0.91)、
有意に低下していた一方で、
1日にお茶を1杯を超えて飲む人では、
喉頭がんのリスクが38%(95%CI:1.09から1.74)、
有意に増加していました。
このようにデータは解釈が難しい面があるのですが、
概ねコーヒーを飲むことは、
頭頚部がんのリスクを下げる可能性が高く、
特にカフェインを含むコーヒーで、
その傾向は明確でした。
一方でお茶と頭頚部がんとの関連については、
一部のがんでリスクが増加しているなど、
現時点での判断は困難と考えられました。
こうしたデータは単独では判断の困難なものが多いので、
コーヒーもお茶も適度に飲む分には、
頭頚部がんのリスクとあまり関係がないと思って頂くのが、
現時点では妥当な判断であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
PTSDの新しい薬物治療の有効性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医活動などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Psychiatry誌に2024年12月18日付で掲載された、
PTSDの新しい薬物治療の有効性についての論文です。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)というのは、
命に関わるような深刻なストレスを受けた後で、
それに伴って生じる精神症状のことです。
その特徴は、
侵入症状:ストレス時の体験がフラッシュバックされる
回避症状:ストレスに関わるものを遠ざけようとする
認知と気分の陰性変化:人生に過剰に否定的になり、気分が沈む
過覚醒症状:常に緊張し過敏になる
の4つとされています。
PTSDの治療は認知行動療法などの心理療法と共に、
抗うつ剤の一種であるSSRIによる薬物療法が有効とされています。
しかし、その薬物療法の有効性はあまり高いものではなく、
アメリカにおいてはセルトラリンとパロキセチンの、
2種類のSSRIがPTSDの治療に認可され使用されていますが、
メタ解析の論文によると、
42%の患者さんでは薬物治療に反応が見られなかった、
と報告されています。
特に過覚醒症状への有効性は低いようです。
最近抗精神病薬の一種であるブレクスピプラゾール(レキサルティ)に、
PTSDへの有効性があることが、
臨床試験において報告されています。
そこで、今回の第3相臨床試験では、
このブレクスピプラゾールとセルトラリンとを、
PTSDに対して併用した場合の有効性と安全性とが検証されています。
アメリカの86か所の専門医療機関において、
PTSDの患者さんトータル416例を、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はブレクスピプラゾール(1日2から3㎎)と、
セルトラリン(1日150㎎)を併用し、
もう一方は同量のセルトラリンに偽薬を併用して、
10週間の経過観察を行っています。
その結果、
セルトラリン単独群に対してブレクスピプラゾール併用群では、
PTSDの症状の有意な改善が認められ、
有害事象の増加も認められませんでした。
トータルな症状への有効率は、
セルトラリン単独群が48.2%に対して、
ブレクスピプラゾール併用群では68.5%でした。
このように、
今回の臨床試験においては、
2種類の薬剤の併用により、
PTSDへの治療効果が高まることが確認されていて、
今後その長期の有効性や安全性についても、
検証の進むことを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医活動などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Psychiatry誌に2024年12月18日付で掲載された、
PTSDの新しい薬物治療の有効性についての論文です。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)というのは、
命に関わるような深刻なストレスを受けた後で、
それに伴って生じる精神症状のことです。
その特徴は、
侵入症状:ストレス時の体験がフラッシュバックされる
回避症状:ストレスに関わるものを遠ざけようとする
認知と気分の陰性変化:人生に過剰に否定的になり、気分が沈む
過覚醒症状:常に緊張し過敏になる
の4つとされています。
PTSDの治療は認知行動療法などの心理療法と共に、
抗うつ剤の一種であるSSRIによる薬物療法が有効とされています。
しかし、その薬物療法の有効性はあまり高いものではなく、
アメリカにおいてはセルトラリンとパロキセチンの、
2種類のSSRIがPTSDの治療に認可され使用されていますが、
メタ解析の論文によると、
42%の患者さんでは薬物治療に反応が見られなかった、
と報告されています。
特に過覚醒症状への有効性は低いようです。
最近抗精神病薬の一種であるブレクスピプラゾール(レキサルティ)に、
PTSDへの有効性があることが、
臨床試験において報告されています。
そこで、今回の第3相臨床試験では、
このブレクスピプラゾールとセルトラリンとを、
PTSDに対して併用した場合の有効性と安全性とが検証されています。
アメリカの86か所の専門医療機関において、
PTSDの患者さんトータル416例を、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はブレクスピプラゾール(1日2から3㎎)と、
セルトラリン(1日150㎎)を併用し、
もう一方は同量のセルトラリンに偽薬を併用して、
10週間の経過観察を行っています。
その結果、
セルトラリン単独群に対してブレクスピプラゾール併用群では、
PTSDの症状の有意な改善が認められ、
有害事象の増加も認められませんでした。
トータルな症状への有効率は、
セルトラリン単独群が48.2%に対して、
ブレクスピプラゾール併用群では68.5%でした。
このように、
今回の臨床試験においては、
2種類の薬剤の併用により、
PTSDへの治療効果が高まることが確認されていて、
今後その長期の有効性や安全性についても、
検証の進むことを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
飲水量の増加と健康効果(2024年メタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Network Open誌に、
2024年11月25日付で掲載された、
飲水を増やすことの健康効果についての論文です。
水を多く飲むことが健康に良い、
というような言説は多く認められます。
勿論高度の脱水状態は、
熱中症などの事例を見ても分かるように、
時に命に関わるような事態を招きます。
しかしこれは、
敢くまで高度の脱水状態の話です。
普段普通に食事を摂り、
普通に咽喉が渇けば水を飲むことが出来る環境で、
より沢山の水を飲んだ方が健康に良いかどうか、
という点については科学的にも見解は分かれています。
日本では国土交通省が、
「健康のため水を飲もう」推進運動というのを提唱していて、
脱水が多くの病気に繋がることを啓蒙し、
もっと意識的に水を飲もう、
という運動をしています。
ただ、これは具体的な数値目標がある、
というようなものではなく、
1日に人間は食事などを含めて、
2.5リットルの水分が必要ですよ、
という説明があり、
入浴後や朝には、
コップ1杯の水を飲もう、
というスローガンなどが示されています。
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/watersupply/stf_seisakunitsuite_bunya_topics_bukyoku_kenkou_suido_nomou_index.html#01
全米医学アカデミーは生理学的データを元にして、
成人男性で1日3リットル強、
成人女性で1日2リットル強の、
水分を摂ることが身体には必要としています。
これは飲水のみではなく食事も含めたものです。
https://nap.nationalacademies.org/read/10925/chapter/6
より一般的には、
「1日1.5から2リットルの水を飲みましょう」
「寝る前には1杯の水を飲みましょう」
というような健康啓蒙的な指針が、
広く人口に膾炙しています。
しかし、実際にこうした習慣により、
どの程度の健康効果があるのでしょうか?
それはどの程度科学的に証明されているのでしょうか?
今回の研究では、
これまでに行われた、
飲水量変更の健康効果についての、
介入試験という精度の高い臨床研究のデータを、
トータルで検証するシステマティックレビューという方法で、
現時点で分かっていることのまとめを行っています。
これまでに施行された18の臨床試験データを検討したところ、
飲水量の増加により、
複数の研究で体重の減少効果と、
腎尿路結石の予防効果が認められました。
単独の研究のみで有効性が報告されているのは、
片頭痛予防、低血圧、糖尿病患者さんの血糖コントロール、
尿路感染症予防の4つの病態でした。
この場合の飲水量の増加というのは、
1日2リットル以上の飲水量の確保、
もしくは1から1.5リットルの水を、
普段の生活に追加で摂取する、
という条件で行われていることが多数でした。
総じて良く言われる心臓病や脳梗塞などの予防に、
水を多く飲むことの効果が、
精度の高い臨床試験で確認された、
ということはなく、
これは現時点では、
「脱水を予防しましょう」というのと、
同じくらいの根拠しかないと考えて良いようです。
水を飲むと体重が減る、
というのはやや奇異な感じもしますが、
実際に普段の生活で、
急に1リットルの水分を追加で飲むと、
胃に水が溜まって食欲が低下することは、
想定出来ることのようにも思います。
このように、
余分に水分を摂ることの健康効果については、
それほど科学的に証明されている、
という事項ではなく、
敢くまで脱水予防という観点で、
考えて頂くのが現状では良いように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Network Open誌に、
2024年11月25日付で掲載された、
飲水を増やすことの健康効果についての論文です。
水を多く飲むことが健康に良い、
というような言説は多く認められます。
勿論高度の脱水状態は、
熱中症などの事例を見ても分かるように、
時に命に関わるような事態を招きます。
しかしこれは、
敢くまで高度の脱水状態の話です。
普段普通に食事を摂り、
普通に咽喉が渇けば水を飲むことが出来る環境で、
より沢山の水を飲んだ方が健康に良いかどうか、
という点については科学的にも見解は分かれています。
日本では国土交通省が、
「健康のため水を飲もう」推進運動というのを提唱していて、
脱水が多くの病気に繋がることを啓蒙し、
もっと意識的に水を飲もう、
という運動をしています。
ただ、これは具体的な数値目標がある、
というようなものではなく、
1日に人間は食事などを含めて、
2.5リットルの水分が必要ですよ、
という説明があり、
入浴後や朝には、
コップ1杯の水を飲もう、
というスローガンなどが示されています。
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/watersupply/stf_seisakunitsuite_bunya_topics_bukyoku_kenkou_suido_nomou_index.html#01
全米医学アカデミーは生理学的データを元にして、
成人男性で1日3リットル強、
成人女性で1日2リットル強の、
水分を摂ることが身体には必要としています。
これは飲水のみではなく食事も含めたものです。
https://nap.nationalacademies.org/read/10925/chapter/6
より一般的には、
「1日1.5から2リットルの水を飲みましょう」
「寝る前には1杯の水を飲みましょう」
というような健康啓蒙的な指針が、
広く人口に膾炙しています。
しかし、実際にこうした習慣により、
どの程度の健康効果があるのでしょうか?
それはどの程度科学的に証明されているのでしょうか?
今回の研究では、
これまでに行われた、
飲水量変更の健康効果についての、
介入試験という精度の高い臨床研究のデータを、
トータルで検証するシステマティックレビューという方法で、
現時点で分かっていることのまとめを行っています。
これまでに施行された18の臨床試験データを検討したところ、
飲水量の増加により、
複数の研究で体重の減少効果と、
腎尿路結石の予防効果が認められました。
単独の研究のみで有効性が報告されているのは、
片頭痛予防、低血圧、糖尿病患者さんの血糖コントロール、
尿路感染症予防の4つの病態でした。
この場合の飲水量の増加というのは、
1日2リットル以上の飲水量の確保、
もしくは1から1.5リットルの水を、
普段の生活に追加で摂取する、
という条件で行われていることが多数でした。
総じて良く言われる心臓病や脳梗塞などの予防に、
水を多く飲むことの効果が、
精度の高い臨床試験で確認された、
ということはなく、
これは現時点では、
「脱水を予防しましょう」というのと、
同じくらいの根拠しかないと考えて良いようです。
水を飲むと体重が減る、
というのはやや奇異な感じもしますが、
実際に普段の生活で、
急に1リットルの水分を追加で飲むと、
胃に水が溜まって食欲が低下することは、
想定出来ることのようにも思います。
このように、
余分に水分を摂ることの健康効果については、
それほど科学的に証明されている、
という事項ではなく、
敢くまで脱水予防という観点で、
考えて頂くのが現状では良いように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。