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高齢者の高血圧治療の認知症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
高齢者の降圧治療の認知症予防効果.jpg
Journal of the American College of Cardiology誌に、
2024年4月2日付で掲載された、
高血圧の治療と認知症との関連についての論文です。

中年期以降の高血圧が、
その後の認知症のリスクを高めることは、
多くの信頼のおける疫学データで実証されている事実です。

ただ、降圧剤による高血圧の治療が、
認知症のリスクに与える影響については、
最近までそれほど明確な知見がありませんでした。

最近になって、
収縮期血圧を130mmHg未満にすることで、
脳の白質病変と呼ばれる認知症と関連のある変化が、
抑制されたとする報告や、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31607143/
65 歳を超える年齢では、
収縮期血圧を10mmHg下げることにより、
認知症のリスクが13%低下したとする、
メタ解析の報告などが発表されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36282295/

ただ、一般住民を対象として長期間観察したような単独の研究は、
これまであまりありませんでした。

今回の研究はイタリアにおいて、
65歳以上で降圧剤による治療を開始した、
215547名の患者を対象として、
降圧剤の累積の治療期間と、
認知症のリスクとの関連を検証しているものです。

その結果降圧剤の治療期間が長いほど、
その後の認知症のリスクは低い傾向があり、
実際に観察期間の4分の1以下しか、
治療が行われていなかった場合と比較して、
4分の3以上の期間降圧剤の治療が継続されている患者では、
他の認知症のリスクに関わる因子を補正した結果として、
認知症の発症リスクが24%(95%CI:19から28)有意に低下していました。
85歳以上の年齢に限定しても、
余命が1年未満と想定される患者に限定しても、
同様の傾向が確認されました。

つまり、高血圧の治療を継続しているほど、
認知症のリスクが抑制された、
ということを示唆する結果です。

ただ、お分かりのようにこのデータは、
降圧剤の処方歴を確認して比較しているだけなので、
本当に血圧値の低下自体が、
認知症のリスクの低下の原因であるとは断定出来ません。

ただ、一般住民を対象とした大規模なデータである点には意義があり、
今後血圧コントロールと認知症との関連については、
検証が重ねられ、
より精度の高い結果が確認されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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脂肪肝に対する低用量アスピリンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アスピリンの脂肪肝改善効果.jpg
JAMA誌に2024年3月19日付で掲載された、
脂肪肝に対する低用量アスピリンの有効性についての論文です。

肝機能障害が命に関わるのは、
肝硬変や肝臓癌になった場合で、
その原因としてはB型肝炎やC型肝炎による慢性肝炎や、
アルコール性肝障害が知られています。
ただ、近年それ以外で注目されているのが、
アルコールを飲まないのに脂肪肝や脂肪肝炎を発症し、
中には肝硬変に至り肝臓癌を合併する事例もある、
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。

NAFLDのうち、
肝臓の組織に通常の脂肪肝とは別個の所見を持ち、
進行性で肝硬変などのリスクの高い脂肪肝炎の状態を、
特にNASH(非アルコール性脂肪肝炎)と呼んでいます。

通常NAFLDは肝細胞への脂肪の沈着で始まり、
長い月日を掛けて、
肝臓の炎症と線維化とが進行して、
その一部がNASHの状態に至ると考えられています。

そのメカニズムは内臓脂肪の増加と関連していますから、
当然肥満や糖尿病とも関連の深い病態です。

従って、NAFLDのある人は、
心筋梗塞や脳卒中の発症リスクも高くなっています。

つまり、NAFLDはメタボの1つの現れ、というように、
考えることも出来るのです。

ここまでは、
脂肪肝などの脂肪性肝疾患を、
お酒を飲むかどうかで分類するという視点でした。

より最近になって、
新たに「代謝異常関連脂肪性肝疾患」
という概念が提唱されているようになりました。
英語ではMetabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease、
これを略してMASLDです。

MASLDは今度は飲酒の有無には関わらず、
糖尿病や高血圧、肥満など、
メタボに関わる代謝異常があって、
脂肪肝などの脂肪性肝疾患がある状態を指している言葉です。

NAFLDの中でも、
肝硬変に至るような事例と、
そうではない事例とがあり、
代謝性疾患やメタボを合併している時に、
重症化のリスクが高いことから、
こうした概念が提唱されたのです。

それぞれ理屈や理由はあるのですが、
コロコロと新しい言葉が次々と出て来て、
分類も変化してしまうので、
かなりややこしいという感じはあります。

さて、NAFLDにもMASLDにも、
現時点で確実に有効性が確認された治療はありません。

低用量のアスピリンは、
動脈硬化に伴う病気の再発などのリスクを、
抑制する効果が確認され、
広く使用されている薬剤です。

この低用量アスピリンの主要な作用は、
血栓の形成などに重要な役割を持っている、
血小板の作用を抑制することですが、
実は肝臓の細胞の炎症や線維化の進行においても、
血小板が重要な働きを持っていることが報告されています。
そのため、低用量アスピリンを使用することで、
脂肪肝炎の進行が抑制される可能性が注目されているのです。

今回の研究はアメリカにおいて、
肝硬変までは進行していないMASLDと診断された患者、
トータル80名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は1日81㎎の低用量アスピリンを継続して使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
半年間の治療後の肝脂肪量の低下の有無を、
MRIを用いた定量法により比較検証しているものです。

その結果、
半年の治療後の肝脂肪量は、
偽薬群では3.6%増加していたのに対して、
アスピリン使用群では6.6%減少していて、
アスピリンは偽薬と比較して、
肝脂肪量を10.2%(95%CI:-66.7から-2.6)有意に低下させていました。

これはまだ試験的な結果に過ぎませんが、
古くから使用されている安価な薬剤が、
脂肪肝炎の進行予防にも有効な可能性がある、
という結果は非常に興味深く、
今後より多数例でより厳密な方法での再検証に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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へアトリートメントの薬剤による急性腎障害の事例 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
グリオキシル酸と腎障害.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年3月21日付で掲載された、
ヘアトリートメントに使用する薬剤による、
急性腎障害の事例についての報告です。

事例は26歳のチュニジア人の女性ですが、
ヘアサロンで酸熱トリートメントと言われている、
グリオキシル酸という成分を含むトリートメント剤を使用した、
くせ毛矯正の施術を行ったところ、
時期の違う3回の施術のいずれにおいても、
その後に嘔吐や下痢、発熱、背部痛などの症状が起こり、
腎機能の指標である血液のクレアチニンの数値が、
正常範囲から1.5から2.0mg/dLまで急上昇し、
その後速やかに正常に復しました。

このことは、トリートメント剤に含まれる何らかの成分が、
髪や皮膚から吸収されて、
急性の腎障害を引き起こした可能性を示唆しています。

それを検証する目的でネズミの皮膚にトリートメント剤を塗り、
その後の経過を検証したところ、
塗布後28時間で血液中のクレアチニンは上昇し、
3DCTの画像において、
シュウ酸カルシウムの著明な沈着が、
腎臓全体に認められました。

つまり、皮膚から吸収されたグリオキシル酸が、
肝臓で代謝されてシュウ酸カルシウムとなり、
腎臓に沈着して急性の腎障害を来したことが、
動物実験でほぼ実証されたのです。

髪のトリートメント剤は、
髪をコーティングするのみの働きで、
全身的な影響は与えないと考えがちですが、
実際にはその成分の一部は髪や頭皮から吸収され、
急性の腎障害を来すリスクが存在しているようです。

上記レターの著者は、
トリートメント目的のグリオキシル酸は使用するべきではない、
と警鐘を鳴らしており、
今後の早急な対応に注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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糖尿病性末梢神経障害とビタミンD欠乏との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ビタミンDと糖尿病性末しょう神経障害.jpg
Diabetic Research and Clinical Practice誌に、
2024年2月15日ウェブ掲載された、
糖尿病の合併症とビタミンD欠乏との関連についての論文です。

糖尿病性末梢神経障害は、
所謂糖尿病の3大合併症の1つで、
手足の先端のしびれや痛みが特徴的な初期症状で、
進行すると痛覚の鈍麻から、
下肢の壊死や切断の原因ともなります。

そのメカニズムにはまだ、不明の点が多いのが実際です。

近年糖尿病性神経障害とビタミンDの欠乏との間に、
関連があるとする報告があり、注目を集めています。

ビタミンDは健康な骨の維持に必須のビタミンですが、
それ以外に免疫系や炎症の制御など、
多岐に渡る作用が確認されていて、
その中には神経調節因子の誘導など、
神経障害を予防するような働きもあると報告されています。
この観点からは、
糖尿病で頻度が多いとされているビタミンDの欠乏が、
神経障害の一因となっている可能性が示唆されるのです。

今回の研究は中国において、
年齢が60歳以上で2型糖尿病に罹患している、
トータル257名の患者の、
ビタミンD欠乏を反映する血液中の25(OH)D3濃度を測定し、
糖尿病性末梢神経障害とビタミンD欠乏との関連を検証しています。
25(OH)D3濃度が20ng/ml未満をビタミンD欠乏と定義し、
末梢神経障害は、
大きな神経線維の異常を筋電図において、
小さな神経線維の異常を皮膚伝導率で測定し、
分けての評価を行っています。

その結果、
末梢神経障害のある患者はない患者と比較して、
血液のビタミンD濃度が有意に低下していて、
他の関連因子を補正した結果として、
ビタミンD欠乏は糖尿病性末梢神経障害のリスクを、
2.488倍(95%CI:1.274から4.858)有意に増加させていました。
神経線維の比較では、
特に大きな神経線維の障害と、
ビタミンD欠乏との間に関連が認められました。

このように、
今回の検証においても、
ビタミンD欠乏と糖尿病性末梢神経障害との間には、
一定の関連が認められました。

今後はビタミンDの補充が、
そのリスクの低減に結び付くのかなど、
より実際的な検証の進捗に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アレルギー性鼻炎と慢性副鼻腔炎の鑑別法とその意義 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎の鑑別.jpg
Otolaryngology Head & Neck Surgery誌に、
2024年1月31日付で掲載された、
アレルギー性鼻炎と慢性腹腔炎の鑑別についての論文です。

アレルギー性鼻炎は花粉症のように、
特定の抗原タンパク質に反応して、
鼻の粘膜がアレルギー性の炎症を起こし、
鼻水や鼻閉などの症状が持続する病気です。
鼻水や鼻詰まりが同じように生じる病気として、
慢性副鼻腔炎(いわゆる蓄膿)があり、
こちらは鼻の奥に繋がっている、
副鼻腔という空洞に、
持続的な細菌などの炎症が起こる病気です。

アレルギー性鼻炎と慢性副鼻腔炎は、
症状のみから鑑別することは難しい側面があり、
通常耳鼻科で経鼻内視鏡検査で確認したり、
レントゲンやCT、MRIなどの検査で、
副鼻腔への膿汁の貯留を、
検出することで診断されます。

この2つの病気には、
抗アレルギー剤やステロイド剤の点鼻薬など、
共通する治療薬もありますが、
アレルギー性鼻炎は専ら抗ヒスタミン剤で、
鼻水を止めて様子を見ることが多く、
慢性副鼻腔炎は少量の抗菌剤を継続したり、
膿汁の排泄を促す薬を使用したり、
重症の事例では手術療法も検討される、
という違いがあります。

実際に単なるアレルギー性鼻炎との判断で、
市販の抗ヒスタミン剤を長期間服用していて良くならず、
病状の悪化した慢性副鼻腔炎の合併例が、
少なからずあることが報告されています。

今回の研究では、
自覚的に「鼻のアレルギー」の症状のある219名の一般住民を対象として、
経鼻内視鏡などの精査を行ってその診断を確定し、
慢性副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎の頻度を検証すると共に、
通常慢性副鼻腔炎の症状確認に施行されている、
22項目の質問からなるSNOT-22という自覚症状調査票の項目と、
その診断への有用性を確認しています。

その結果、
鼻アレルギー症状を申告した219名のうち、
91.3%に当たる200名はアレルギー性鼻炎と診断されましたが、
45.2%に当たる99名は慢性副鼻腔炎とも診断されました。

つまり、アレルギー性鼻炎と診断される患者さんの約半数は、
慢性副鼻腔炎を併発している可能性がある、
という結果です。

ここで症状質問票との対比で検討すると、
鼻をかむ回数が多い、粘着な鼻水が出る、
鼻が詰まる、という症状が比較的重く、
軽度の味覚嗅覚障害を伴うような場合に、
慢性副鼻腔炎併発のリスクが高いという結果が得られました。

このように慢性のアレルギー性鼻炎と、
自己判断している患者さんのうち、
半数近くは慢性副鼻腔炎を併発している可能性があり、
特にその症状から疑われる場合や、
抗ヒスタミン剤の使用により改善が見られない場合には、
その可能性を積極的に疑って、
診断を受ける必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マグネシウム欠乏とメタボリックシンドロームとの関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
マグネシウム欠乏とメタボリスク.jpg
the Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism誌に、
2024年2月14日付で掲載された、
マグネシウム欠乏とメタボリックシンドロームとの、
関連についての論文です。

マグネシウムというのは、
多くの酵素の働きのために必要なミネラルで、
そのためその不足は、
身体の代謝系に大きな影響を与え、
メタボリックシンドロームのリスクになると考えられています。
低マグネシウム血症は、
糖尿病や脳卒中、心血管疾患などのリスクを上げ、
その予後にも悪影響を与えるとの報告もあります。

ただ、マグネシウムは腎臓で80%以上が再吸収されるため、
血液のマグネシウムの測定は、
必ずしも身体のマグネシウムの動態を、
反映していない、という指摘もあります。

そこで今回の研究では、
マグネシウム欠乏指数という新たな指標を活用し、
アメリカで施行された健康と栄養についての疫学データに含まれる、
トータル15565名の一般住民を対象として、
マグネシウムの欠乏状態と、
メタボのリスクとの関連を比較検証しています。

メタボリックシンドロームは、
検査データなどは日本のメタボとほぼ同一ですが、
腹囲の基準は男性が102センチ以上、
女性が88センチ以上となっています。

マグネシウム欠乏指数というのは、
利尿剤の使用の有無、プロトンポンプ阻害剤の使用の有無、
推測の腎機能の指標、
過度の飲酒の有無をポイント化して、
0から6点で指標としたもので、
点数が高いほど、
マグネシウム欠乏のリスクが高い状態を意味しています。

その結果、
関連する他のメタボのリスクを補正して算出しても、
マグネシウム欠乏指数が1上がる毎に、
メタボのリスクは31%(95%CI:1.17から1.45)、
有意に増加していました。

これは敢くまで間接的なリスク指標であることを、
理解して考える必要がありますが、
年齢や使用している薬によってリスクが増加する、
マグネシウムの欠乏が、
メタボのリスクに関わっているという指摘は興味深く、
今後より多角的な検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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歩行時の息切れの原因は?(スウェーデンの疫学研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医活動などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
息切れの原因は?.jpg
Respiratory Research誌に、
2024年3月16日付で掲載された、
中年期の年齢層の息切れの原因を調べた論文です。

歩くと息が切れる、
他の人と同じように歩こうとすると苦しくなる、
というような症状は、
中年以降の年齢では10から25%に見られる、
というほど頻度の高い症状です。

ただ、その原因は様々で、
肺気腫や喘息のような呼吸器疾患の場合もありますし、
心臓が原因のこともあります。
また調べても原因が分からないこともあります。

それでは実際に「歩行時の息切れ」が見られた時、
その個々の原因は、
どのくらいの頻度で見られるものなのでしょうか?

今回の研究はスウェーデンにおいて、
心肺疾患についての疫学研究のデータを活用して、
歩行時の息切れの原因検索を施行しているものです。

対象は年齢が50から64歳の25948名で、
同年代の人と同じような速度で歩こうとすると、
息切れが生じる、というような症状もしくは、
より重い息切れの症状があったのは、
そのうちの3.7%でした。
検査により判明した病名との関連を検討すると、
息切れに最も関連していたのは、
過体重及び肥満が全体の63%(59.6から66.0)、
ストレスが60%(31.6から76.8)、
呼吸器疾患が29%(20.1から37.1)、
抑うつ状態が22%(17.1から26.6)、
心臓病が9.5%(6.3から12.7)でした。
(PAF95%CI)

このように、
歩行時の息切れ症状は、
肥満や過体重を伴う場合には、
それによって生じている可能性が高く、
通常病気として想定される、
呼吸器疾患や心臓疾患の関与は、
それほど大きなものではありませんでした。

勿論鑑別診断としては、
呼吸機能や心機能などの検索は行われるべきですが、
息切れの多くは、
むしろ肥満やストレスが関連しているという、
今回の調査結果は非常に興味深く、
今後日本でも同様の検証が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ED治療薬の認知症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
バイアグラと認知症.jpg
Neurology誌に2024年2月7日付で掲載された、
男性の勃起障害の治療薬の、
認知症予防効果についての論文です。

シルデナフィル(バイアグラ)などのED治療薬は、
フォスフォジエステラーゼ5(Phosphodiesterase Type5)
という酵素を阻害する作用を持つ、
フォスフォジエステラーゼ5阻害剤です。
以下これをPDE-5阻害剤と略します。

このPDE-5という酵素はサイクリックGMPという、
血管拡張物質を分解する働きを持っているので、
酵素の阻害により、
陰茎の血管拡張が持続し、
それが勃起機能の改善に繋がっているのです。

ただ、この酵素は陰茎以外にも身体の多くの血管に存在しているので、
陰茎以外の組織にも一定の効果を示すと考えられています。
また動物実験においてはこの酵素の阻害剤は、
血管拡張作用と共に、
血管内皮細胞の機能自体を改善する効果も、
確認されています。

そのためPDE-5阻害剤は男性機能のみならず、
心臓疾患や糖尿病など、
他の多くの病気の治療薬や予防薬としても、
その有効性が研究されています。

その1つが認知症です。

PDE-5阻害剤には認知症の原因の1つである、
タウ蛋白のリン酸化を抑制する作用が、
実験的研究では報告されていて、
この事実はPDE-5が認知症予防に繋がる、
という可能性を示唆するものです。

その実際の有効性はどの程度のものなのでしょうか?

今回の研究はイギリスにおいて、
勃起不全と診断された、
登録の時点で認知症のない、
40歳以上の男性269725名を対象として、
中央値で5.1年という経過観察を施行。
バイアグラなどの使用と、
アルツハイマー病の発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、
PDE-5阻害剤使用群でのアルツハイマー病発症リスクは、
年間1万人当たり8.1件であったのに対して、
未使用群での発症リスクは、
年間1万人当たり9.7件で、
関連する因子を補正した結果として、
PDE-5阻害剤の使用はその後のアルツハイマー病の発症リスクを、
18%(95%CI:0.72から0.93)有意に低下させていました。

こうしたデータは他にも報告されていて、
ほぼ同等の結果が得られていることから考えて、
こうした現象のあること自体は、
ほぼ事実と考えて良さそうです。

今後は実際にこの薬を、
認知症予防に使用することは可能であるのか、
可能であるとすれば、
どのような対象者にどのように使用するべきなのか、
そうした実際的な検証が不可欠であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ピロリ菌の感染と大腸癌リスクとの関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヘリコバクターと大腸癌.jpg
Journal of Clinical Oncology誌に、
2024年3月1日付で掲載された、
ピロリ菌の感染が大腸癌の発症に及ぼす影響についての論文です。

胃粘膜で生育するヘリコバクター・ピロリ菌が、
萎縮性胃炎や胃癌のリスクとなり、
除菌治療がその予防に繋がることは、
専門家のみならず、
今では一般にも広く知られている事実です。

ピロリ菌の感染は胃癌以外にも、
大腸癌の発症リスクを上昇させることを示唆するデータが、
幾つか報告されています。
例えば2020年に発表されたメタ解析の論文では、
ピロリ菌の感染により大腸癌のリスクは1.7倍に上昇したと報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7489651/

ただ、実際には単独の疫学データで、
それほど大規模なものはなく、
報告によっても結果にはかなりの幅があります。

今回の研究はアメリカの退役軍人を対象とした、
大規模な疫学データを解析したものです。

ピロリ菌の検査を施行した退役軍人、
トータル812736名のうち、
25.2%に当たる205178名が陽性と診断されました。
15年の観察期間において、
ピロリ菌の感染者は非感染者と比較して、
大腸癌に罹患するリスクが18%(95%CI:1.12から1.24)、
大腸癌により死亡するリスクが12%(95%CI:1.03から1.21)、
それぞれ有意に増加していました。

また、ピロリ菌の感染があって未治療であると、
除菌治療を施行した場合と比較して、
大腸癌に罹患するリスクが23%(95%CI:1.13から1.34)、
大腸癌により死亡するリスクが40%(95%CI:1.24から1.58)、
それぞれ有意に増加していました。

矢張り、今回の大規模な検証においても、
ピロリ菌の感染が持続していると、
大腸癌のリスクも増加することは間違いのない事実であるようです。

それでは、何故ピロリ菌の感染が大腸癌と関連しているのでしょうか?

現時点では不明ですが、
ピロリ菌自体が大腸粘膜においても、
発癌を誘発する可能性を示唆する、
実験的なデータが存在しているようです。

そのメカニズムは今後の検証を待つ必要がありますが、
ピロリ菌の除菌は胃癌予防のみならず、
大腸癌予防に対しても一定の有効性が期待出来るので、
その施行はより積極的に行う必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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カルシウムとビタミンDのサプリメントの健康影響(大規模臨床データの解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カルシウムサプリメントの健康効果.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2024年3月12日付で掲載された、
カルシウムとビタミンDのサプリメントの、
閉経後女性への長期の健康影響を解析した論文です。

カルシウムとビタミンDは、
いずれも骨の健康のためには不可欠の成分で、
そのため健康な骨を維持するためには、
この2つの栄養素を不足なく摂ることが、
必要と考えられています。

ただ、実際に骨折のリスクの高い閉経後の女性に、
サプリメントとしてカルシウムとビタミンDを投与しても、
その骨折予防としての有効性は、
多くの臨床研究が施行されたものの、
あまり明確な有効性は確認されていません。

ただ、ビタミンDには骨に対する作用以外にも、
免疫調整作用や抗炎症作用など、
多くの健康効果を持つことが報告されていて、
トータルにはそのサプリメントの使用が、
健康の維持に有効な可能性は否定されていません。

今回の研究はアメリカにおいて、
36282名の閉経女性を対象とし、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は1日1000㎎の炭酸カルシウムと、
400IUのビタミンD3をサプリメントとして使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
7年間の使用を継続し、
その後も含めて中間値で22.3年の健康観察を行って、
トータルな予後を比較検証しているものです。

その結果、
カルシウムとビタミンD使用群では、未使用群と比較して、
癌による死亡のリスクが7%(95%CI:0.87から0.99)、
有意に低下していた一方で、
心血管疾患による死亡のリスクは6%(95%CI:1.01から1.12)、
こちらは有意に増加していました。
総死亡のリスクについては、
両群で有意な差はなく、
大腿骨頸部骨折のリスクについても、
明確な差は認められませんでした。

このように、
今回の大規模かつ長期の臨床研究において、
閉経後の女性にカルシウムとビタミンDのサプリメントを使用しても、
骨折リスクの低下には繋がらず、
一部の癌のリスクが低下する可能性がある一方で、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクについては、
やや増加する可能性が示唆されました。

カルシウムとビタミンDをサプリメントとして使用することの、
トータルな健康影響については、
まだ明確な結論が得られておらず、
その使用には一定のリスクがある可能性もあると、
現状はそう考えておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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