インフルエンザ治療薬の有効性比較(2025年メタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Internal Medicine誌に、
2025年1月13日付で掲載された、
インフルエンザ治療薬の有効性を比較してメタ解析の論文です。
インフルエンザウイルスによる、
インフルエンザ感染症の治療薬としては、
オセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)、
ペラミビル(ラピアクタ)、ラニナミビル(イナビル)、
ファビピラビル(アビガン)、バロキサビル(ゾフルーザ)、
アマンタジンがあり、
世界的にはオセルタミビルが、
最も広く使用されています。
ただ、その有効性については、
それほど明確なデータがある訳ではありません。
たとえば2023年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
メタ解析の論文では、
オセルタミビルを使用しても、
病状の悪化による入院のリスクは明確には低下しなかった、
という結論になっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37306992/
勿論個別のデータでは、
症状期間の短縮や重症化予防など、
一定の有効性が確認されているものはあるのですが、
一般化出来るほどではないのです。
今回の研究は更に新しいデータを加えた、
再診のネットワークメタ解析です。
これまでの73の精度の高い臨床試験に含まれる、
34332名の患者データをまとめて解析したところ、
インフルエンザに罹患した患者さんの生命予後については、
どの治療薬を使用しても、
明確な改善は認められませんでした。
持病など重症化リスクのある、
治療の時点では重症ではない患者のインフルエンザ感染に対して、
オセルタミビル(タミフル)を使用しても、
入院の予防効果は確認はされませんでした。
対象となった全ての抗ウイルス薬のうち、
バロキセビル(ゾフルーザ)は、
入院のリスクを低下させる可能性が示唆されましたが有意ではなく、
それ以外の抗ウイルス剤では予防効果は確認されませんでした。
また、症状が消失するまでの期間を、
バロキセビルは1日程度短縮する効果が、
中等度の確実性で認められましたが、
オセルタミビルなど他の抗ウイルス薬では、
そうした効果は確認されませんでした。
主な有害事象や副作用についても、
バロキセビルはオセルタミビルより、
安全に使用可能な薬剤であることが示唆されました。
このように今回のメタ解析においては、
抗ウイルス剤の中でバロキセビル(ゾフルーザ)の有効性と安全性とが
他の同種の薬剤と比較して優れているという結果が得られました。
ただ、既存の薬の中では、
オセルタミビルが圧倒的にデータが多いことは間違いがなく、
もう少しバロキセビルの臨床データが蓄積されないと、
実証的な結論は得られないように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Internal Medicine誌に、
2025年1月13日付で掲載された、
インフルエンザ治療薬の有効性を比較してメタ解析の論文です。
インフルエンザウイルスによる、
インフルエンザ感染症の治療薬としては、
オセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)、
ペラミビル(ラピアクタ)、ラニナミビル(イナビル)、
ファビピラビル(アビガン)、バロキサビル(ゾフルーザ)、
アマンタジンがあり、
世界的にはオセルタミビルが、
最も広く使用されています。
ただ、その有効性については、
それほど明確なデータがある訳ではありません。
たとえば2023年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
メタ解析の論文では、
オセルタミビルを使用しても、
病状の悪化による入院のリスクは明確には低下しなかった、
という結論になっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37306992/
勿論個別のデータでは、
症状期間の短縮や重症化予防など、
一定の有効性が確認されているものはあるのですが、
一般化出来るほどではないのです。
今回の研究は更に新しいデータを加えた、
再診のネットワークメタ解析です。
これまでの73の精度の高い臨床試験に含まれる、
34332名の患者データをまとめて解析したところ、
インフルエンザに罹患した患者さんの生命予後については、
どの治療薬を使用しても、
明確な改善は認められませんでした。
持病など重症化リスクのある、
治療の時点では重症ではない患者のインフルエンザ感染に対して、
オセルタミビル(タミフル)を使用しても、
入院の予防効果は確認はされませんでした。
対象となった全ての抗ウイルス薬のうち、
バロキセビル(ゾフルーザ)は、
入院のリスクを低下させる可能性が示唆されましたが有意ではなく、
それ以外の抗ウイルス剤では予防効果は確認されませんでした。
また、症状が消失するまでの期間を、
バロキセビルは1日程度短縮する効果が、
中等度の確実性で認められましたが、
オセルタミビルなど他の抗ウイルス薬では、
そうした効果は確認されませんでした。
主な有害事象や副作用についても、
バロキセビルはオセルタミビルより、
安全に使用可能な薬剤であることが示唆されました。
このように今回のメタ解析においては、
抗ウイルス剤の中でバロキセビル(ゾフルーザ)の有効性と安全性とが
他の同種の薬剤と比較して優れているという結果が得られました。
ただ、既存の薬の中では、
オセルタミビルが圧倒的にデータが多いことは間違いがなく、
もう少しバロキセビルの臨床データが蓄積されないと、
実証的な結論は得られないように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
朝食のメタボ改善効果(2024年スペインの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the Journal of nutrition, health and aging 誌に、
2024年12月1日付で掲載された、
朝食を摂ることのメタボへの効果についての論文です。
食事をどのようなタイミングで、
どのような回数で摂るべきか、
というのは、
まだ明確な結論の出ていない問題です。
朝食、昼食、夕食と、
活動している時間に3回に分けて摂取することが、
長く一般的な習慣とされ、
糖尿病などの生活習慣病の指導においても、
その3食を過不足なく摂ることが、
最も健康的であるとして推奨されています。
ただ、実際には1日1食や2食、4食以上など、
国や地域によっては1日3食以外の食習慣が、
文化的に維持されている地域もあり、
それを健康のために無理に1日3食にすることで、
より健康面でのメリットが大きいとする根拠は、
それほど明確ではありません。
一番健康的な食習慣であるとされることの多い、
朝食を摂ることの健康影響についても、
まだ見解は一致しているとは言えません。
朝食を抜くと太る、というのは、
以前から比較的よく語られている説ですが、
そうしたデータがある一方で、
明確な変化はなかった、とするデータもあります。
朝食の健康効果についても、
まだ不明の点が多いのです。
今回の研究はスペインにおいて、
ダイエットに関わる臨床試験のデータを解析する手法で、
朝食のカロリー及びその質と、
メタボの経過との関連を検証しています。
対象は、血圧高値や腹囲高値など、
メタボのリスク因子を複数持った、
55から75歳の383名で、
3年間の経過観察を施行しています。
朝食のカロリーは1日の摂取カロリーの20から30%を標準として、
20%未満を朝食低カロリー群、30%を超えるものを朝食高カロリー群として、
その比較を行っています。
またこの臨床研究では、
地中海食を基本とした食事指導を施行しているので、
果物や雑穀、ナッツ、ヨーグルトなどを多く含む朝食を、
品質の高い朝食として規定しています。
その結果、
朝食のカロリーが1日の20から30%であった場合と比較して、
カロリーが高くても低くても、
いずれも3年間で腹囲は増加し、
中性脂肪も増加し、
善玉とされるHDLコレステロールは低下し、
腎機能の指標である推計糸球体濾過量は低下していました。
また朝食の品質が低いことも、
同様のメタボの指標の悪化と関連していました。
これは中高年のメタボの傾向のある人に限ったデータですが、
朝食を1日総カロリーの20から30%とすることが、
朝食を摂らないよりもメタボの指標を改善するとする、
今回のデータは非常に興味深く、
今後より観察期間を長くした検証にも期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the Journal of nutrition, health and aging 誌に、
2024年12月1日付で掲載された、
朝食を摂ることのメタボへの効果についての論文です。
食事をどのようなタイミングで、
どのような回数で摂るべきか、
というのは、
まだ明確な結論の出ていない問題です。
朝食、昼食、夕食と、
活動している時間に3回に分けて摂取することが、
長く一般的な習慣とされ、
糖尿病などの生活習慣病の指導においても、
その3食を過不足なく摂ることが、
最も健康的であるとして推奨されています。
ただ、実際には1日1食や2食、4食以上など、
国や地域によっては1日3食以外の食習慣が、
文化的に維持されている地域もあり、
それを健康のために無理に1日3食にすることで、
より健康面でのメリットが大きいとする根拠は、
それほど明確ではありません。
一番健康的な食習慣であるとされることの多い、
朝食を摂ることの健康影響についても、
まだ見解は一致しているとは言えません。
朝食を抜くと太る、というのは、
以前から比較的よく語られている説ですが、
そうしたデータがある一方で、
明確な変化はなかった、とするデータもあります。
朝食の健康効果についても、
まだ不明の点が多いのです。
今回の研究はスペインにおいて、
ダイエットに関わる臨床試験のデータを解析する手法で、
朝食のカロリー及びその質と、
メタボの経過との関連を検証しています。
対象は、血圧高値や腹囲高値など、
メタボのリスク因子を複数持った、
55から75歳の383名で、
3年間の経過観察を施行しています。
朝食のカロリーは1日の摂取カロリーの20から30%を標準として、
20%未満を朝食低カロリー群、30%を超えるものを朝食高カロリー群として、
その比較を行っています。
またこの臨床研究では、
地中海食を基本とした食事指導を施行しているので、
果物や雑穀、ナッツ、ヨーグルトなどを多く含む朝食を、
品質の高い朝食として規定しています。
その結果、
朝食のカロリーが1日の20から30%であった場合と比較して、
カロリーが高くても低くても、
いずれも3年間で腹囲は増加し、
中性脂肪も増加し、
善玉とされるHDLコレステロールは低下し、
腎機能の指標である推計糸球体濾過量は低下していました。
また朝食の品質が低いことも、
同様のメタボの指標の悪化と関連していました。
これは中高年のメタボの傾向のある人に限ったデータですが、
朝食を1日総カロリーの20から30%とすることが、
朝食を摂らないよりもメタボの指標を改善するとする、
今回のデータは非常に興味深く、
今後より観察期間を長くした検証にも期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
アセトアミノフェンの有害事象リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックは本日まで、
年末年始の休診期間となります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Arthritis Care & Research誌に、
2024年11月24日付で掲載された、
臨床において最も広く使用されている、
鎮痛剤の安全性についての論文です。
関節痛や腰痛などの疼痛の治療薬として、
最も広く使用されている薬剤はアセトアミノフェンです。
商品名ではカロナールやアンヒバなどがそれに当たります。
この薬は鎮痛剤の中では、
使用による有害事象やリスクの少ない薬剤として知られています。
アセトアミノフェン以外の鎮痛剤は、その使用に伴い、
消化性潰瘍や腎障害、心血管疾患やライ症候群など、
多くの有害事象が知られていますが、
アセトアミノフェンはそうした有害事象は、
肝障害以外は稀だと考えられています。
そのため特に内臓機能が低下している高齢者では、
安全性の高いアセトアミノフェンが、
第一選択の薬として選ばれることが多いと思います。
しかし、アセトアミノフェンの使用においても、
他の非ステロイド系消炎鎮痛剤の使用時と同様に、
消化管出血や心血管疾患のリスクが、
少なからず存在する、
という報告も認められています。
実際はどうなのでしょうか?
今回の研究では、
イギリスのプライマリケアの臨床データを活用して、
65歳以上の年齢で、
関節痛などの症状に対して、
アセトアミノフェンを使用した場合の、
出血などのリスク増加を、
未使用の場合と比較検証しています。
対象は半年以内に2回以上アセトアミノフェンを使用した180483名と、
未使用の402478名です。
その結果、
アセトアミノフェンの使用により、
胃潰瘍などの出血のリスクが24%(95%CI:1.16から1.34)、
下部消化管出血のリスクが36%(95%CI:1.29から1.46)、
心不全のリスクが9%(95%CI:1.06から1.13)、
高血圧のリスクが7%(95%CI:1.04から1.11)、
慢性腎障害のリスクが19%(95%CI:1.13から1.24)、
それぞれ有意に増加していました。
このように、
今回の実地臨床での大規模なデータにおいては、
安全とされていたアセトアミノフェンの使用においても、
65歳以上の年齢層において、
消化管出血や心血管疾患などの有害事象のリスクが、
少なからず認められていました。
これは関節痛の治療に限った話ですが、
痛み止めとしての有効性が見劣りがする、
という点も加味して考えると、
これまでの高齢者の痛み止めにはアセトアミノフェンが第一選択、
という考え方は、
臨床的には再考する必要があるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックは本日まで、
年末年始の休診期間となります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Arthritis Care & Research誌に、
2024年11月24日付で掲載された、
臨床において最も広く使用されている、
鎮痛剤の安全性についての論文です。
関節痛や腰痛などの疼痛の治療薬として、
最も広く使用されている薬剤はアセトアミノフェンです。
商品名ではカロナールやアンヒバなどがそれに当たります。
この薬は鎮痛剤の中では、
使用による有害事象やリスクの少ない薬剤として知られています。
アセトアミノフェン以外の鎮痛剤は、その使用に伴い、
消化性潰瘍や腎障害、心血管疾患やライ症候群など、
多くの有害事象が知られていますが、
アセトアミノフェンはそうした有害事象は、
肝障害以外は稀だと考えられています。
そのため特に内臓機能が低下している高齢者では、
安全性の高いアセトアミノフェンが、
第一選択の薬として選ばれることが多いと思います。
しかし、アセトアミノフェンの使用においても、
他の非ステロイド系消炎鎮痛剤の使用時と同様に、
消化管出血や心血管疾患のリスクが、
少なからず存在する、
という報告も認められています。
実際はどうなのでしょうか?
今回の研究では、
イギリスのプライマリケアの臨床データを活用して、
65歳以上の年齢で、
関節痛などの症状に対して、
アセトアミノフェンを使用した場合の、
出血などのリスク増加を、
未使用の場合と比較検証しています。
対象は半年以内に2回以上アセトアミノフェンを使用した180483名と、
未使用の402478名です。
その結果、
アセトアミノフェンの使用により、
胃潰瘍などの出血のリスクが24%(95%CI:1.16から1.34)、
下部消化管出血のリスクが36%(95%CI:1.29から1.46)、
心不全のリスクが9%(95%CI:1.06から1.13)、
高血圧のリスクが7%(95%CI:1.04から1.11)、
慢性腎障害のリスクが19%(95%CI:1.13から1.24)、
それぞれ有意に増加していました。
このように、
今回の実地臨床での大規模なデータにおいては、
安全とされていたアセトアミノフェンの使用においても、
65歳以上の年齢層において、
消化管出血や心血管疾患などの有害事象のリスクが、
少なからず認められていました。
これは関節痛の治療に限った話ですが、
痛み止めとしての有効性が見劣りがする、
という点も加味して考えると、
これまでの高齢者の痛み止めにはアセトアミノフェンが第一選択、
という考え方は、
臨床的には再考する必要があるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
直接作用型経口抗凝固剤とコレステロール降下剤併用の出血リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックは年末年始の休診期間中です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Journal of General Practice誌に、
2024年11月28日付でウェブ掲載された、
臨床で良く行われている、
2種類の薬剤の併用による出血リスクについての論文です。
心房細動という不整脈における、
脳塞栓症などの予防や、
下肢静脈血栓塞栓症における、
肺血栓塞栓症の予防などには、
抗凝固剤という、
強力に血液の凝固を抑える薬が使用されます。
古くから使用されているのが、
注射薬のヘパリンと経口薬のワルファリンで、
最近その利便性からその利用が増えているのが、
直接作用型経口抗凝固剤(DOAC)と呼ばれる薬です。
プラザキサやイグザレルト、エリキュース(いずれも商品名)、
などがそれに当たります。
この直接作用型経口抗凝固剤は、
概ね良くコントロールされたワルファリンと同等の効果と、
より低い重症出血系合併症発症率を持つと報告されています。
しかし、直接作用型経口抗凝固剤の使用時にも、
消化管出血や脳出血などの出血系有害事象が、
少なからず発症しています。
ワルファリンは多くの薬剤や食品などとの相互作用があり、
その併用により出血リスクが増加することが報告されています。
こうした相互作用は直接作用型経口抗凝固剤ではない筈ですが、
実際には出血リスクはワルファリンより少ないものの増加は認められています。
直接作用型経口抗凝固剤と、
臨床的に併用されることが多い薬剤の1つが、
スタチンと呼ばれるコレステロール降下剤です。
抗凝固剤が使用されるような病態では、
動脈硬化の進行がベースにあることが多く、
コレステロール降下作用のみならず、
抗炎症作用など動脈硬化の進行予防に働く、
有効性が確認されているからです。
ただ、ここで1つの危惧があります。
スタチンとして使用されることの多い、
アトルバスタチンとシンバスタチンは、
薬剤などの異物を細胞外に排出する働きを持つ、
P糖タンパク質の基質で、
肝臓の薬物代謝酵素であるCYP3A4で代謝されますが、
DOACも同じP糖タンパク質が基質で、
CYP3A4で代謝されます。
そのため、両者を併用すると、
その相互作用によって、
DOACの作用が強まり、
出血などの合併症のリスクが、
高まることが予想されます。
しかし、これまでその併用によるリスク増加のデータは限られていて、
その結果も一定はしていません。
今回の研究では、
イギリスのプライマリケアの大規模データを活用して、
DOAC(ダビガトラン、リバロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)と、
アトルバスタチン、シンバスタチンの併用が、
出血などの合併症に与える影響を比較検証しています。
対象はDOACが使用された、
トータル397459例で、
そのうちの70318例ではアトルバスタチンが、
38724例ではシンバスタチンが併用されていました。
他のスタチン使用群と比較して、
アトルバスタチンとシンバスタチン使用群では、
出血リスクや心血管疾患リスクに、
有意な差は認められませんでした。
総死亡のリスクについては、
シンバスタチンで上昇が認められましたが、
年齢などの因子を補正すると、
有意な上昇は検出されなくなりました。
アトルバスタチンやシンバスタチンの使用中に、
DOACの使用を開始すると、
出血リスクと死亡リスクは上昇が認められましたが、
DOACの使用中に、
アトルバスタチンやシンバスタチンを併用しても、
同様のリスク増加は認められませんでした。
このように、
確かにスタチンにDOACを上乗せすると、
出血リスクは増加するのですが、
DOACにスタチンを上乗せしても、
そうしたリスク増加は認められないことから考えて、
このリスク増加は、
薬剤相互作用によるものではなく、
DOACを使用する理由となった、
血栓症などの病気によるものと考えられました。
勿論両者の薬剤の併用時には、
有害事象や副作用のリスクには、
充分留意する必要がありますが、
その併用を特別視する必要は、
どうやらなさそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックは年末年始の休診期間中です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Journal of General Practice誌に、
2024年11月28日付でウェブ掲載された、
臨床で良く行われている、
2種類の薬剤の併用による出血リスクについての論文です。
心房細動という不整脈における、
脳塞栓症などの予防や、
下肢静脈血栓塞栓症における、
肺血栓塞栓症の予防などには、
抗凝固剤という、
強力に血液の凝固を抑える薬が使用されます。
古くから使用されているのが、
注射薬のヘパリンと経口薬のワルファリンで、
最近その利便性からその利用が増えているのが、
直接作用型経口抗凝固剤(DOAC)と呼ばれる薬です。
プラザキサやイグザレルト、エリキュース(いずれも商品名)、
などがそれに当たります。
この直接作用型経口抗凝固剤は、
概ね良くコントロールされたワルファリンと同等の効果と、
より低い重症出血系合併症発症率を持つと報告されています。
しかし、直接作用型経口抗凝固剤の使用時にも、
消化管出血や脳出血などの出血系有害事象が、
少なからず発症しています。
ワルファリンは多くの薬剤や食品などとの相互作用があり、
その併用により出血リスクが増加することが報告されています。
こうした相互作用は直接作用型経口抗凝固剤ではない筈ですが、
実際には出血リスクはワルファリンより少ないものの増加は認められています。
直接作用型経口抗凝固剤と、
臨床的に併用されることが多い薬剤の1つが、
スタチンと呼ばれるコレステロール降下剤です。
抗凝固剤が使用されるような病態では、
動脈硬化の進行がベースにあることが多く、
コレステロール降下作用のみならず、
抗炎症作用など動脈硬化の進行予防に働く、
有効性が確認されているからです。
ただ、ここで1つの危惧があります。
スタチンとして使用されることの多い、
アトルバスタチンとシンバスタチンは、
薬剤などの異物を細胞外に排出する働きを持つ、
P糖タンパク質の基質で、
肝臓の薬物代謝酵素であるCYP3A4で代謝されますが、
DOACも同じP糖タンパク質が基質で、
CYP3A4で代謝されます。
そのため、両者を併用すると、
その相互作用によって、
DOACの作用が強まり、
出血などの合併症のリスクが、
高まることが予想されます。
しかし、これまでその併用によるリスク増加のデータは限られていて、
その結果も一定はしていません。
今回の研究では、
イギリスのプライマリケアの大規模データを活用して、
DOAC(ダビガトラン、リバロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)と、
アトルバスタチン、シンバスタチンの併用が、
出血などの合併症に与える影響を比較検証しています。
対象はDOACが使用された、
トータル397459例で、
そのうちの70318例ではアトルバスタチンが、
38724例ではシンバスタチンが併用されていました。
他のスタチン使用群と比較して、
アトルバスタチンとシンバスタチン使用群では、
出血リスクや心血管疾患リスクに、
有意な差は認められませんでした。
総死亡のリスクについては、
シンバスタチンで上昇が認められましたが、
年齢などの因子を補正すると、
有意な上昇は検出されなくなりました。
アトルバスタチンやシンバスタチンの使用中に、
DOACの使用を開始すると、
出血リスクと死亡リスクは上昇が認められましたが、
DOACの使用中に、
アトルバスタチンやシンバスタチンを併用しても、
同様のリスク増加は認められませんでした。
このように、
確かにスタチンにDOACを上乗せすると、
出血リスクは増加するのですが、
DOACにスタチンを上乗せしても、
そうしたリスク増加は認められないことから考えて、
このリスク増加は、
薬剤相互作用によるものではなく、
DOACを使用する理由となった、
血栓症などの病気によるものと考えられました。
勿論両者の薬剤の併用時には、
有害事象や副作用のリスクには、
充分留意する必要がありますが、
その併用を特別視する必要は、
どうやらなさそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
コーヒーを飲む時間と健康効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックは年末年始の休診中です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Food Functon誌に2024年10月14日付で掲載された、
コーヒーを飲む時間と健康効果の差についての論文です。
コーヒーの健康効果については多くの報告があり、
生命予後の改善作用や、
糖尿病、肝臓病、心臓病などの予防効果については、
その有効性はほぼ確立されていると言って良いと思います。
糖尿病については、
その予防効果のみならず、
糖尿病の患者さんの予後についても、
改善するとするデータが多く報告されています。
ただ、糖尿病の合併症のうち、
患者さんの予後に大きな影響を与える、
慢性腎臓病の予後に、
コーヒーがどのような影響を与えるのか、
という点については、
あまり明確なことが分かっていません。
今回の論文の著者らは、
コーヒーを飲むタイミングが、
慢性腎臓病の発症に影響を与える可能性を想定して、
その検証を行っています。
アメリカの大規模な栄養調査のデータを活用して、
2型糖尿病の患者さん8564名を解析したところ、
時間に関わらずコーヒーを飲む習慣のある人は、
飲まない人と比較して、
観察期間中に慢性腎臓病を発症するリスクが、
11%(95%CI:0.80から0.99)有意に低下していました。
これをコーヒーを飲んでいた時間帯で分けて解析したところ、
朝から午前中までにコーヒーを飲む習慣のある人は、
そうでない人と比較して、
観察期間中に慢性腎臓病を発症するリスクが、
13%(95%CI:0.77から0.98)有意に低下していました。
その一方で昼から夜の時間帯にコーヒーを飲んでいる人のみで、
同様の解析を行っても、
慢性腎臓病の予防効果は確認されませんでした。
このデータがどのような意味を持つのかは、
まだ不明ですが、
健康に良いとされる飲み物であっても、
その飲む時間帯によってその影響が異なるという、
その考え方自体は非常に興味深く、
今後の更なるデータの蓄積に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックは年末年始の休診中です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Food Functon誌に2024年10月14日付で掲載された、
コーヒーを飲む時間と健康効果の差についての論文です。
コーヒーの健康効果については多くの報告があり、
生命予後の改善作用や、
糖尿病、肝臓病、心臓病などの予防効果については、
その有効性はほぼ確立されていると言って良いと思います。
糖尿病については、
その予防効果のみならず、
糖尿病の患者さんの予後についても、
改善するとするデータが多く報告されています。
ただ、糖尿病の合併症のうち、
患者さんの予後に大きな影響を与える、
慢性腎臓病の予後に、
コーヒーがどのような影響を与えるのか、
という点については、
あまり明確なことが分かっていません。
今回の論文の著者らは、
コーヒーを飲むタイミングが、
慢性腎臓病の発症に影響を与える可能性を想定して、
その検証を行っています。
アメリカの大規模な栄養調査のデータを活用して、
2型糖尿病の患者さん8564名を解析したところ、
時間に関わらずコーヒーを飲む習慣のある人は、
飲まない人と比較して、
観察期間中に慢性腎臓病を発症するリスクが、
11%(95%CI:0.80から0.99)有意に低下していました。
これをコーヒーを飲んでいた時間帯で分けて解析したところ、
朝から午前中までにコーヒーを飲む習慣のある人は、
そうでない人と比較して、
観察期間中に慢性腎臓病を発症するリスクが、
13%(95%CI:0.77から0.98)有意に低下していました。
その一方で昼から夜の時間帯にコーヒーを飲んでいる人のみで、
同様の解析を行っても、
慢性腎臓病の予防効果は確認されませんでした。
このデータがどのような意味を持つのかは、
まだ不明ですが、
健康に良いとされる飲み物であっても、
その飲む時間帯によってその影響が異なるという、
その考え方自体は非常に興味深く、
今後の更なるデータの蓄積に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
アルコールの種類と健康習慣(2024年アメリカの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Nutrients誌に2024年11月13日付でウェブ掲載された、
アルコールの種類と他の生活習慣との関連についての論文です。
過度な飲酒が健康を害するというのは、
殊更科学的なデータが示されなくても、
多くの方が心の中では事実と感じていることだと思います。
科学的なデータとしては、
概ねアルコール量で20グラム(日本酒1合、ビール中瓶1本くらい)
までのアルコールは、
大きな健康影響はないと考えられています。
その一方で、
多量の飲酒を続けることにより、
アルコール性脂肪肝やアルコール性肝炎が生じ、
それが進行することで肝硬変になったり、
肝臓癌の原因となり、
命に関わることがあります。
概ね1日60グラム(日本酒3合目安)以上のアルコールを、
5年以上常用することで,
そうした肝障害のリスクが高まると想定されています。
しかし、同じように多量の飲酒を続けていても、
そのうち重症のアルコール性肝炎や肝硬変になる人は、
全体の10から20%と報告されています。
つまり、アルコール性肝障害が重症化するかどうかは、
必ずしも飲酒量のみで決まっている訳ではないのです。
それでは、他にどのような因子が、
そのリスクに影響をしているのでしょうか?
1つ想定されるのは、食事などの他の健康習慣との関連です。
以前当ブログでもご紹介したネイチャー関連の論文では、
飲酒量の多い人が、
辛いものや加工肉を多く食べるような食生活をしていると、
肝臓病悪化のリスクがより高まる、
という結果が報告されていました。
https://www.nature.com/articles/s41467-024-51314-9
今回の研究はアメリカにおいて、
飲酒習慣のある1917名の飲酒パターンと生活習慣を解析し、
その関連を検証しているものです。
対象者の38.9%はビールのみを飲み、
21.8%はワインのみを、18.2%は蒸留酒やカクテルのみを、
21.0%は複数の種類のアルコールを飲んでいました。
アルコールを常用する人の生活は、
トータルに不健康な傾向が認められました。
またビールのみを飲む人は、
他のお酒を飲む人と比較して、
経済的に貧困している人が多く、
食事パターンは不健康で、
運動不足で、喫煙者が多い傾向が認められました。
このように今回のアメリカの検証では、
同じ飲酒でもビールと他の酒類との間で違いがあり、
ビールがより健康リスクが高いと判断されました。
これはアメリカの1つの疫学データに過ぎないものなので、
これをもってビールが不健康なお酒だ、
ということにはならない点には注意が必要です。
問題はお酒の酒類ではなく、
それに結び付いた不健康な生活パターンにあります。
どんなお酒を飲んでいるかには関わらず、
食事を健康に保ち、
運動習慣を持つなど、
生活を健康に保つことこそが、
正しいお酒との付き合い方であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Nutrients誌に2024年11月13日付でウェブ掲載された、
アルコールの種類と他の生活習慣との関連についての論文です。
過度な飲酒が健康を害するというのは、
殊更科学的なデータが示されなくても、
多くの方が心の中では事実と感じていることだと思います。
科学的なデータとしては、
概ねアルコール量で20グラム(日本酒1合、ビール中瓶1本くらい)
までのアルコールは、
大きな健康影響はないと考えられています。
その一方で、
多量の飲酒を続けることにより、
アルコール性脂肪肝やアルコール性肝炎が生じ、
それが進行することで肝硬変になったり、
肝臓癌の原因となり、
命に関わることがあります。
概ね1日60グラム(日本酒3合目安)以上のアルコールを、
5年以上常用することで,
そうした肝障害のリスクが高まると想定されています。
しかし、同じように多量の飲酒を続けていても、
そのうち重症のアルコール性肝炎や肝硬変になる人は、
全体の10から20%と報告されています。
つまり、アルコール性肝障害が重症化するかどうかは、
必ずしも飲酒量のみで決まっている訳ではないのです。
それでは、他にどのような因子が、
そのリスクに影響をしているのでしょうか?
1つ想定されるのは、食事などの他の健康習慣との関連です。
以前当ブログでもご紹介したネイチャー関連の論文では、
飲酒量の多い人が、
辛いものや加工肉を多く食べるような食生活をしていると、
肝臓病悪化のリスクがより高まる、
という結果が報告されていました。
https://www.nature.com/articles/s41467-024-51314-9
今回の研究はアメリカにおいて、
飲酒習慣のある1917名の飲酒パターンと生活習慣を解析し、
その関連を検証しているものです。
対象者の38.9%はビールのみを飲み、
21.8%はワインのみを、18.2%は蒸留酒やカクテルのみを、
21.0%は複数の種類のアルコールを飲んでいました。
アルコールを常用する人の生活は、
トータルに不健康な傾向が認められました。
またビールのみを飲む人は、
他のお酒を飲む人と比較して、
経済的に貧困している人が多く、
食事パターンは不健康で、
運動不足で、喫煙者が多い傾向が認められました。
このように今回のアメリカの検証では、
同じ飲酒でもビールと他の酒類との間で違いがあり、
ビールがより健康リスクが高いと判断されました。
これはアメリカの1つの疫学データに過ぎないものなので、
これをもってビールが不健康なお酒だ、
ということにはならない点には注意が必要です。
問題はお酒の酒類ではなく、
それに結び付いた不健康な生活パターンにあります。
どんなお酒を飲んでいるかには関わらず、
食事を健康に保ち、
運動習慣を持つなど、
生活を健康に保つことこそが、
正しいお酒との付き合い方であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
ダークチョコレートの糖尿病予防効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
色々忙しくはしています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Medical Journal誌に、
2024年12月4日付で掲載された、
チョコレートの種類と健康効果についての論文です。
チョコレートやココアには、
カカオ由来の生理活性物質(フラボノイド)が多く含まれていて、
代謝改善作用や抗酸化作用、認知症予防など、
多くの健康効果が指摘されています。
糖尿病のような生活習慣病に対しても、
カカオフラボノイドは有効と考えられますが、
その加工品であるチョコレートやココアは、
通常牛乳など多くの動物性脂肪を含む形で作られていて、
カロリーも高く脂質も多い、
という点がむしろ糖尿病などの悪化要因になる、
というジレンマがあります。
最近従来のチョコレートをミルクチョコレートとすると、
色々な名称がありますが、
よりカロリーを減らして、カカオの含量を増やした、
ダークチョコレート(これは上記論文の名称です)が登場し、
各メーカーはその健康効果を競って宣伝しています。
ただ、これまでチョコレートの健康効果についての研究は多くありますが、
従来のミルクチョコレートとダークチョコレートの健康効果を、
比較したような研究データは限られています。
そこで今回の研究では、
アメリカで看護師と医療従事者を対象とした、
大規模な疫学研究のデータを活用して、
チョコレートの種類と糖尿病への影響を比較検証しています。
登録の時点で糖尿病などのない、
トータル192208名が解析対象となっています。
その結果、
チョコレートを週に5回以上食べている人は、
殆ど食べていない人と比較して、
その後糖尿病になるリスクが、
10%(95%CI:2から17)有意に低下していていました。
ここでチョコレートの種類毎にみてみると、
ダークチョコレートのみの解析では、
週5回以上食べている人は食べていない人と比較して、
その後糖尿病になるリスクが、
21%(95%CI:5から34%)有意に低下していた一方で、
ミルクチョコレートのみの解析では、
糖尿病リスクの有意な低下は認められませんでした。
またミルクチョコレートの摂取は、
その後の体重増加と関連していましたが、
ダークチョコレートの摂取では、
そうした関連は認められませんでした。
このように、チョコレートの糖尿病予防効果は、
カカオ含量が多くてカロリーの少ない、
ダークチョコレートのみで認められていて、
こうしたデータを踏まえて、
今後より科学的な、
チョコレートの健康効果が確認されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
色々忙しくはしています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Medical Journal誌に、
2024年12月4日付で掲載された、
チョコレートの種類と健康効果についての論文です。
チョコレートやココアには、
カカオ由来の生理活性物質(フラボノイド)が多く含まれていて、
代謝改善作用や抗酸化作用、認知症予防など、
多くの健康効果が指摘されています。
糖尿病のような生活習慣病に対しても、
カカオフラボノイドは有効と考えられますが、
その加工品であるチョコレートやココアは、
通常牛乳など多くの動物性脂肪を含む形で作られていて、
カロリーも高く脂質も多い、
という点がむしろ糖尿病などの悪化要因になる、
というジレンマがあります。
最近従来のチョコレートをミルクチョコレートとすると、
色々な名称がありますが、
よりカロリーを減らして、カカオの含量を増やした、
ダークチョコレート(これは上記論文の名称です)が登場し、
各メーカーはその健康効果を競って宣伝しています。
ただ、これまでチョコレートの健康効果についての研究は多くありますが、
従来のミルクチョコレートとダークチョコレートの健康効果を、
比較したような研究データは限られています。
そこで今回の研究では、
アメリカで看護師と医療従事者を対象とした、
大規模な疫学研究のデータを活用して、
チョコレートの種類と糖尿病への影響を比較検証しています。
登録の時点で糖尿病などのない、
トータル192208名が解析対象となっています。
その結果、
チョコレートを週に5回以上食べている人は、
殆ど食べていない人と比較して、
その後糖尿病になるリスクが、
10%(95%CI:2から17)有意に低下していていました。
ここでチョコレートの種類毎にみてみると、
ダークチョコレートのみの解析では、
週5回以上食べている人は食べていない人と比較して、
その後糖尿病になるリスクが、
21%(95%CI:5から34%)有意に低下していた一方で、
ミルクチョコレートのみの解析では、
糖尿病リスクの有意な低下は認められませんでした。
またミルクチョコレートの摂取は、
その後の体重増加と関連していましたが、
ダークチョコレートの摂取では、
そうした関連は認められませんでした。
このように、チョコレートの糖尿病予防効果は、
カカオ含量が多くてカロリーの少ない、
ダークチョコレートのみで認められていて、
こうしたデータを踏まえて、
今後より科学的な、
チョコレートの健康効果が確認されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
認知症を疑う最も初期症状は何か? [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Neurology誌に2024年11月6日付で掲載された、
認知症の初期症状についての論文です。
認知症には抗体製剤などの新薬も導入され、
その治療はなるべく早期に開始することが、
その予後の改善に結び付く、
という知見が積み重ねられています。
そのためには、
なるべく早く初期の認知症を診断する必要があります。
ただ、加齢とともに、
脳の働きが低下すること自体は生理的な現象で、
病気ではありませんから、
生理的な脳の機能の低下と、
病的な認知症とを、
どのように鑑別するのかが、
大きな問題となります。
アルツハイマー病などについては、
初期診断のための検査などが開発はされていますが、
非常に高額で特殊な検査であったり、
背中に針を刺すなど、
患者さんへの負担も大きい検査であったりと、
現時点で全ての認知症疑いの患者さんに、
そうした検査を施行することは現実的ではありません。
認知症の初期症状として、
必ず言われることのあるのは「物忘れ」ですが、
それ自体は生理的な加齢現象でも生じる性質のもので、
その初期の段階で、
加齢による生理的な物忘れと、
認知症に伴う進行性の物忘れとを、
症状のみから見分けることは簡単ではありません。
それでは、
何か物忘れ以外に、
認知症の初期を疑う症状はないのでしょうか?
最近注目されている考え方の1つに、
運動認知リスク症候群(Motoric Cognitive Risk Syndrome)があります。
これは物忘れなどの軽度の認知機能低下と、
歩行速度の低下が見られた時に、
その後認知機能低下が進行して、
認知症に移行しやすい、
という考え方です。
2014年のNeurology誌に掲載された論文によると、
運動認知リスク症候群では、
その後の認知症リスクが2倍に高まると報告されています。
https://www.neurology.org/doi/abs/10.1212/WNL.0000000000000717
つまり、
運動認知リスク症候群は、
認知症の前兆というようにも考えられるのです。
歩行速度以外に、
認知症の随伴症状として指摘されることが多いのは、
睡眠の質などの眠りの異常です。
ただ、運動認知リスク症候群と睡眠の質とが、
認知症の初期の兆候として、
互いにどのような関連を持っているのかについては、
あまり明確なことが分かっていません。
そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
65歳以上で認知症のない445名と登録し、
睡眠の状態と運動認知リスク症候群が、
その後の認知症の進行と、
どのような関連を持っているのかを検証しています。
その結果、中央値で2.9年の観察期間において、
睡眠の質のうち、
昼間の眠気と意欲の低下があると、
その後に運動認知リスク症候群と診断されるリスクが、
関連する因子を補正した結果として、
3.3倍(95%CI:1.5から7.4)有意に増加していることが確認されました。
一方で登録の時点で運動認知リスク症候群の状態にあると、
昼間の眠気と意欲低下は、
運動認知リスク症候群と明確な関連を示しませんでした。
運動認知リスク症候群と睡眠の質との間に、
どのような関係があるのかはまだ不明ですが、
両者には一定の関連があり、
特に昼間の眠気や意欲低下などの症状があって、
その後に物忘れや歩行速度の低下が見られた時には、
認知症へと進行する可能性が高いと考えて、
適切な対応を取る必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Neurology誌に2024年11月6日付で掲載された、
認知症の初期症状についての論文です。
認知症には抗体製剤などの新薬も導入され、
その治療はなるべく早期に開始することが、
その予後の改善に結び付く、
という知見が積み重ねられています。
そのためには、
なるべく早く初期の認知症を診断する必要があります。
ただ、加齢とともに、
脳の働きが低下すること自体は生理的な現象で、
病気ではありませんから、
生理的な脳の機能の低下と、
病的な認知症とを、
どのように鑑別するのかが、
大きな問題となります。
アルツハイマー病などについては、
初期診断のための検査などが開発はされていますが、
非常に高額で特殊な検査であったり、
背中に針を刺すなど、
患者さんへの負担も大きい検査であったりと、
現時点で全ての認知症疑いの患者さんに、
そうした検査を施行することは現実的ではありません。
認知症の初期症状として、
必ず言われることのあるのは「物忘れ」ですが、
それ自体は生理的な加齢現象でも生じる性質のもので、
その初期の段階で、
加齢による生理的な物忘れと、
認知症に伴う進行性の物忘れとを、
症状のみから見分けることは簡単ではありません。
それでは、
何か物忘れ以外に、
認知症の初期を疑う症状はないのでしょうか?
最近注目されている考え方の1つに、
運動認知リスク症候群(Motoric Cognitive Risk Syndrome)があります。
これは物忘れなどの軽度の認知機能低下と、
歩行速度の低下が見られた時に、
その後認知機能低下が進行して、
認知症に移行しやすい、
という考え方です。
2014年のNeurology誌に掲載された論文によると、
運動認知リスク症候群では、
その後の認知症リスクが2倍に高まると報告されています。
https://www.neurology.org/doi/abs/10.1212/WNL.0000000000000717
つまり、
運動認知リスク症候群は、
認知症の前兆というようにも考えられるのです。
歩行速度以外に、
認知症の随伴症状として指摘されることが多いのは、
睡眠の質などの眠りの異常です。
ただ、運動認知リスク症候群と睡眠の質とが、
認知症の初期の兆候として、
互いにどのような関連を持っているのかについては、
あまり明確なことが分かっていません。
そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
65歳以上で認知症のない445名と登録し、
睡眠の状態と運動認知リスク症候群が、
その後の認知症の進行と、
どのような関連を持っているのかを検証しています。
その結果、中央値で2.9年の観察期間において、
睡眠の質のうち、
昼間の眠気と意欲の低下があると、
その後に運動認知リスク症候群と診断されるリスクが、
関連する因子を補正した結果として、
3.3倍(95%CI:1.5から7.4)有意に増加していることが確認されました。
一方で登録の時点で運動認知リスク症候群の状態にあると、
昼間の眠気と意欲低下は、
運動認知リスク症候群と明確な関連を示しませんでした。
運動認知リスク症候群と睡眠の質との間に、
どのような関係があるのかはまだ不明ですが、
両者には一定の関連があり、
特に昼間の眠気や意欲低下などの症状があって、
その後に物忘れや歩行速度の低下が見られた時には、
認知症へと進行する可能性が高いと考えて、
適切な対応を取る必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
がんが診断されてからの禁煙の有効性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Oncology誌に、
2024年10月31日付で掲載された、
がんが診断されてから禁煙することの意義についての論文です。
喫煙が多くのがんのリスクとなることは、
広く認識されている事実です。
肺癌や喉頭癌などはその代表です。
早期に禁煙をすることで、
その後のがんのリスクが低減することも、
ほぼ実証されている事実です。
この場合の禁煙の有効性というのは、
がんが診断される前の禁煙の実行が想定されています。
それでは、
喫煙をしている人にがんが見つかった場合、
それから禁煙をしても、
がんの予後に影響はあるのでしょうか?
がんの治療をする場合には、
「禁煙はして頂かないと、治療をすることは出来ません」
と言われることが多いかとは思います。
ただ、それを真面目に守る患者さんがいる一方で、
「どうせもう、がんになってしまったのだから、今から禁煙をしても意味がない」
と考える人もいるように思います。
実際にがんになってから禁煙することには、
どの程度の意味があるのでしょうか?
今回の研究はアメリカの単一施設において、
がんと診断をされて以降に、
その施設での禁煙治療を受けた4526名の患者を対象として、
禁煙の開始時期とその継続期間が、
その患者さんの生命予後に与える影響を比較検証しています。
その結果、診断から15年以内に死亡するリスクは、
禁煙失敗群と比較して、
診断から3か月以内に禁煙した場合には25%(95%CI:0.67から0.83)、
6か月以内に禁煙した場合には21%(95%CI:0.71から0.88)、
9か月以内に禁煙した場合には15%(95%CI:0.76から0.95)、
とそれぞれ有意に低下していました。
つまり、がんと診断された以降においても、
早期に禁煙すればするほど、
その後の生命予後には改善が見られた、
という結果です。
勿論健康のためには早く禁煙するに越したことはありませんが、
仮にがんが診断されてからにおいても、
数か月以内に禁煙を実行することは、
長生きに結び付く有効性があるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Oncology誌に、
2024年10月31日付で掲載された、
がんが診断されてから禁煙することの意義についての論文です。
喫煙が多くのがんのリスクとなることは、
広く認識されている事実です。
肺癌や喉頭癌などはその代表です。
早期に禁煙をすることで、
その後のがんのリスクが低減することも、
ほぼ実証されている事実です。
この場合の禁煙の有効性というのは、
がんが診断される前の禁煙の実行が想定されています。
それでは、
喫煙をしている人にがんが見つかった場合、
それから禁煙をしても、
がんの予後に影響はあるのでしょうか?
がんの治療をする場合には、
「禁煙はして頂かないと、治療をすることは出来ません」
と言われることが多いかとは思います。
ただ、それを真面目に守る患者さんがいる一方で、
「どうせもう、がんになってしまったのだから、今から禁煙をしても意味がない」
と考える人もいるように思います。
実際にがんになってから禁煙することには、
どの程度の意味があるのでしょうか?
今回の研究はアメリカの単一施設において、
がんと診断をされて以降に、
その施設での禁煙治療を受けた4526名の患者を対象として、
禁煙の開始時期とその継続期間が、
その患者さんの生命予後に与える影響を比較検証しています。
その結果、診断から15年以内に死亡するリスクは、
禁煙失敗群と比較して、
診断から3か月以内に禁煙した場合には25%(95%CI:0.67から0.83)、
6か月以内に禁煙した場合には21%(95%CI:0.71から0.88)、
9か月以内に禁煙した場合には15%(95%CI:0.76から0.95)、
とそれぞれ有意に低下していました。
つまり、がんと診断された以降においても、
早期に禁煙すればするほど、
その後の生命予後には改善が見られた、
という結果です。
勿論健康のためには早く禁煙するに越したことはありませんが、
仮にがんが診断されてからにおいても、
数か月以内に禁煙を実行することは、
長生きに結び付く有効性があるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
SGLT2阻害剤の腎(尿路)結石症再発に対する有効性(2024年カナダの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Medical Journal誌に、
2024年10月30日付で掲載された、
糖尿病の飲み薬の、
再発性の腎(尿路)結石症に対する有効性を検証した論文です。
SGLT2阻害剤は最近最も注目されている、
2型糖尿病の治療薬です。
この薬は尿へのブドウ糖の排泄を増加させる作用の薬です。
それにより確かに血糖値は低下しますが、
尿糖が増加することは尿路や陰部の感染のリスクを高めますし、
尿量が増加して脱水のリスクも高めますから、
使用開始当初は、
あまり良い薬のようには思えませんでした。
この薬が注目されたのは、
心血管疾患による死亡や総死亡のリスクを、
有意に30%以上低下させるという画期的なデータが、
エンパグリフロジンというSGLT2阻害剤で、
報告されたからです。
その後この心血管疾患の生命予後改善効果の多くは、
心不全の予後改善による部分が大きいことが解析され、
SGLT2阻害剤は心不全の治療薬としても、
有効な可能性が開かれたのです。
最近ではそれ以外に、
慢性腎臓病に対する進行予防効果も、
複数の臨床データで実証されています。
さて、2型糖尿病では腎結石や尿路結石のリスクが、
増加することも知られています。
そして最近SGLT2阻害剤の使用が、
糖尿病の患者さんにおける腎結石のリスクを、
低下させるのではないかというデータが報告されて、
注目を集めています。
その代表的なものの1つはこちらですが、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35290464/
これまでの臨床試験のデータを解析した結果として、
エンパグリフロジンの使用により、
腎結石の発症は40%有意に低下していました。
また、2024年の1月に発表された、
アメリカの健康保険データを解析した論文では、
2型糖尿病で新規にSGLT2阻害剤を開始した患者さんの、
その後の腎結石罹患率を、
GLP-1アナログもしくはDPP4阻害剤という、
いずれも広く使用されている糖尿病治療薬を開始した患者さんと、
比較検証しています。
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2814491#:~:text=Sodium%2Dglucose%20cotransporter%202%20inhibitors%20(SGLT2is)%2C%20a%20newer,14%20and%20increasing%20urine%20volume.
358203名のSGLT2阻害剤新規使用者を、
年齢などをマッチングさせた、
同数のGLP-1アナログ新規使用者と比較し、
更に331028名のSGLT2阻害剤新規使用者を、
こちらも同数のDPP4阻害剤の新規使用者と、
腎結石のリスクについて比較検証したところ、
観察期間の中間値は192日で、
SGLT2阻害剤使用者は、
GLP-1アナログ使用者と比較して31%(95%CI:0.67から0.72)、
DPP4阻害剤使用者と比較して26%(95%CI:0.71から0.77)、
腎結石のリスクがそれぞれ有意に低下していました。
この大規模な疫学データにおいても、
他のインクレチン関連の治療薬と比較して、
SGLT2阻害剤の使用は、
比較的短期で腎結石のリスクを明確に低下させていました。
ただ、腎(尿路)結石は再発の多い病気として知られていますが、
SGLT2阻害剤が腎結石の再発のリスクを低下させるか、
という点についてはまだ明らかではありません。
また、尿量の増加や尿のPHの変化が、
腎結石予防効果のメカニズムとして推測されていますが、
これは痛風発作にも影響を与える可能性があります。
ただ、糖尿病に合併することの多い痛風に対する、
SGLT2阻害剤の影響についてもまだ明らかではありません。
そこで今回の研究ではカナダにおいて、
健康統計のデータを活用することで、
この問題の検証を行っています。
対象は腎結石と2型糖尿病を合併している20146名で、
そこには痛風を合併している患者さんも含まれています。
関連する因子を補正して解析した結果、
GLP1アナログを使用した場合と比較して、
SGLT2阻害剤を使用している患者さんは、
腎結石の再発のリスクが33%(95%CI:0.57から0.79)、
有意に低下していました。
また痛風発作のリスクについても、
GLP1アナログを使用した場合と比較して、
SGLT2阻害剤を使用している患者さんは、
発作のリスクが28%(95%CI:0.54から0.95)、
有意に低下していました。
そのメカニズムはまだ不明の点もありますが、
今回の大規模な検証においても、
SGLT2阻害剤の腎結石症予防効果は明確で、
今回更にその再発の予防効果と、
合併する痛風発作の予防効果も確認されました。
今後は糖尿病の患者さん以外にも、
その有効性が認められるかどうかを含めて、
より視点を広げた検証に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Medical Journal誌に、
2024年10月30日付で掲載された、
糖尿病の飲み薬の、
再発性の腎(尿路)結石症に対する有効性を検証した論文です。
SGLT2阻害剤は最近最も注目されている、
2型糖尿病の治療薬です。
この薬は尿へのブドウ糖の排泄を増加させる作用の薬です。
それにより確かに血糖値は低下しますが、
尿糖が増加することは尿路や陰部の感染のリスクを高めますし、
尿量が増加して脱水のリスクも高めますから、
使用開始当初は、
あまり良い薬のようには思えませんでした。
この薬が注目されたのは、
心血管疾患による死亡や総死亡のリスクを、
有意に30%以上低下させるという画期的なデータが、
エンパグリフロジンというSGLT2阻害剤で、
報告されたからです。
その後この心血管疾患の生命予後改善効果の多くは、
心不全の予後改善による部分が大きいことが解析され、
SGLT2阻害剤は心不全の治療薬としても、
有効な可能性が開かれたのです。
最近ではそれ以外に、
慢性腎臓病に対する進行予防効果も、
複数の臨床データで実証されています。
さて、2型糖尿病では腎結石や尿路結石のリスクが、
増加することも知られています。
そして最近SGLT2阻害剤の使用が、
糖尿病の患者さんにおける腎結石のリスクを、
低下させるのではないかというデータが報告されて、
注目を集めています。
その代表的なものの1つはこちらですが、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35290464/
これまでの臨床試験のデータを解析した結果として、
エンパグリフロジンの使用により、
腎結石の発症は40%有意に低下していました。
また、2024年の1月に発表された、
アメリカの健康保険データを解析した論文では、
2型糖尿病で新規にSGLT2阻害剤を開始した患者さんの、
その後の腎結石罹患率を、
GLP-1アナログもしくはDPP4阻害剤という、
いずれも広く使用されている糖尿病治療薬を開始した患者さんと、
比較検証しています。
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2814491#:~:text=Sodium%2Dglucose%20cotransporter%202%20inhibitors%20(SGLT2is)%2C%20a%20newer,14%20and%20increasing%20urine%20volume.
358203名のSGLT2阻害剤新規使用者を、
年齢などをマッチングさせた、
同数のGLP-1アナログ新規使用者と比較し、
更に331028名のSGLT2阻害剤新規使用者を、
こちらも同数のDPP4阻害剤の新規使用者と、
腎結石のリスクについて比較検証したところ、
観察期間の中間値は192日で、
SGLT2阻害剤使用者は、
GLP-1アナログ使用者と比較して31%(95%CI:0.67から0.72)、
DPP4阻害剤使用者と比較して26%(95%CI:0.71から0.77)、
腎結石のリスクがそれぞれ有意に低下していました。
この大規模な疫学データにおいても、
他のインクレチン関連の治療薬と比較して、
SGLT2阻害剤の使用は、
比較的短期で腎結石のリスクを明確に低下させていました。
ただ、腎(尿路)結石は再発の多い病気として知られていますが、
SGLT2阻害剤が腎結石の再発のリスクを低下させるか、
という点についてはまだ明らかではありません。
また、尿量の増加や尿のPHの変化が、
腎結石予防効果のメカニズムとして推測されていますが、
これは痛風発作にも影響を与える可能性があります。
ただ、糖尿病に合併することの多い痛風に対する、
SGLT2阻害剤の影響についてもまだ明らかではありません。
そこで今回の研究ではカナダにおいて、
健康統計のデータを活用することで、
この問題の検証を行っています。
対象は腎結石と2型糖尿病を合併している20146名で、
そこには痛風を合併している患者さんも含まれています。
関連する因子を補正して解析した結果、
GLP1アナログを使用した場合と比較して、
SGLT2阻害剤を使用している患者さんは、
腎結石の再発のリスクが33%(95%CI:0.57から0.79)、
有意に低下していました。
また痛風発作のリスクについても、
GLP1アナログを使用した場合と比較して、
SGLT2阻害剤を使用している患者さんは、
発作のリスクが28%(95%CI:0.54から0.95)、
有意に低下していました。
そのメカニズムはまだ不明の点もありますが、
今回の大規模な検証においても、
SGLT2阻害剤の腎結石症予防効果は明確で、
今回更にその再発の予防効果と、
合併する痛風発作の予防効果も確認されました。
今後は糖尿病の患者さん以外にも、
その有効性が認められるかどうかを含めて、
より視点を広げた検証に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。