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2019年12月のフランス、新型コロナウイルス感染事例 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
フランスの新型コロナ一例目?.jpg
Antimicrobial Agents誌に2020年5月3日ウェブ掲載された、
従来言われているより早い時期に、
新型コロナウイルスの感染症が発生していたのでは、
というフランスからの報告です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、
2019年12月に中国武漢市周辺で発生し、
日本での最初の事例は2020年1月15日に確認されています。
1月6日に武漢市より帰国をした方です。
フランスにおいては同じく武漢市に滞在歴のある旅行者から、
2020年1月24日に確認されたのが最初の事例とされています。
しかし、実際には2019年12月からは、
季節性インフルエンザの流行があり、
インフルエンザ肺炎の事例も複数報告されていました。
その時点では新型コロナウイルス感染症を疑ってのPCR検査などは、
殆ど行われてはいなかったので、
そこに紛れ込みの事例があった、
という可能性は否定出来ません。

今回の報告はパリに近い集中治療室を持つ病院において、
2019年12月2日から2020年1月16日の間に、
インフルエンザ様症状で集中治療室に入室し、
呼吸器や鼻腔の検体サンプルが保存されていた患者の、
新型コロナウイルスのPCR検査を改めて施行したものです。

その結果、1例のサンプルでPCRが陽性となりました。

その患者はアルジェリア出身で長くフランス在住の42歳の男性で、
中国への渡航歴はありません。
肺炎のため2019年12月27日に入院しています。
その時の胸部CT画像がこちらです。
フランスの新型コロナ1例目?のCT.jpg
新型コロナウイルス肺炎に典型的な、
多発性のすりガラス陰影と記載されています。
ただ、陰影は片側が優位で、
区域性に広がっているようにも見えます。
個人的にはとても典型的な像、
とまでは言えないように思います。

この1例だけで2019年の12月から、
新型コロナウイルス感染症がフランスに広がっていた、
とまでは言えないように思いますが、
日本でも同様の事例のある可能性は充分にあり、
こうした検証も行うことによって、
現状は感染経路の特定が困難な事例においても、
また別の見方が出来るようになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシン併用の心疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシン併用の効果.jpg
JAMA Cardiology誌に2020年5月1日ウェブ掲載された、
フランスやアメリカで比較的多く使用されている、
2種類の内服薬を併用する新型コロナウイルス感染症の治療が、
心臓に与える影響についての論文です。

これはこの治療のリスクを検証したもので、
この治療の効果を検証したものではありません。
上記論文の著者らは、
この治療自体もあまり評価はしていないようです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療には、
多くの薬剤が試みられていますが、
その中でも世界的にその有効性が期待され、
一定の臨床データも存在しているのが、
リン酸クロロキンとヒドロキシクロロキン硫酸塩です。

クロロキンはマラリアの治療薬として合成されたもので、
マラリアに有効性がある一方、
心臓への毒性やクロロキン網膜症と呼ばれる、
失明に結び付くこともある目の有害事象があり、
その使用は慎重に行う必要のある薬です。

ヒドロキシクロロキンはクロロキンの代謝産物で、
マラリアの診療に使用されると共に、
関節リウマチやSLEなどの膠原病の治療にもその有効性が確認され、
使用が行われています。
日本ではもっぱらこのヒドロキシクロロキンが、
膠原病の治療薬として保険適応されて使用されています。
その有害事象は基本的にはクロロキンと同一ですが、
その用量設定はマラリア治療よりずっと少なく、
有害事象も用量を守って適応のある患者さんが使用する範囲において、
クロロキン網膜症以外の有害事象は少ない、
というように判断されています。

クロロキンが膠原病に効果があるのは、
免疫系の活性化を抑えて、
免疫を調整するような作用と、
ウイルスの細胞との膜融合と取り込みを阻害する、
抗ウイルス作用によると考えられています。

アジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)と言う抗菌剤と、
併用されることがあるのは、
アジスロマイシンにも免疫調整作用があるので、
その相乗効果を期待している、ということのようです。

この治療が注目されたのはフランスで、
少人数の臨床試験において画期的な治療効果があった、
という報告があったからです。
ただ、別個に行われた臨床試験においては、
同様の結果は再現されていません。

この治療を推奨しているフランスの研究者は、
今度はこの併用治療を受けた、
1061名の新型コロナウイルス感染症の患者さんにおいて、
10日以内に91.7%で症状の改善が認められた、
というデータを公表しています。
ただ、論文化は少なくとも英語ではされていないようです。
また、このデータはコントロールなどはなく、
ただ、治療を受けていた患者を後から調べると、
9割は改善していた、というだけのものなので、
それが治療の効果であるのかどうかは、
正直何とも言えないと思います。

ただ、この結果がアメリカのニュースで取り上げられて、
大騒ぎというような感じを見ていると、
メディアに踊らされるのは、
日本に限った話ではないようです。

その有効性はともかくとして、
ヒドロキシクロロキンもアジスロマイシンも、
共に心臓に作用して、
QT延長という心電図の異常を伴うことが指摘されています。
そして、QT延長は、
重症の不整脈の発生に結び付き易いと考えられているのです。

実際にその影響はどの程度のものなのでしょうか?

今回の研究はアメリカはボストンの単独施設において、
PCR検査と画像診断で新型コロナウイルス肺炎と診断され、
少なくとも1日以上ヒドロキシクロロキンが処方された、
トータル90名の患者さんにおいて、
アジスロマイシンとの併用と心電図変化との関連について検証しています。
90名中53名ではアジスロマイシンが併用されていました。

ヒドロキシクロロキン単独の使用では、
明確な使用後の補正QT時間の延長は認められませんでしたが、
アジスロマイシンとの併用では、
中央値で23ms(0-40)と比較的明確なQT時間の延長が認められました。

ヒドロキシクロロキン単独では、
19%に当たる7名が、
補正QT時間が明確な異常値と言える500msを超えていました。
そのうちの3名ではQT時間が60ms以上大きく増加していました。
アジスロマイシンとの併用群では、
21%に当たる53名中11名で補正QT時間は500msを超えていて、
13%に当たる7名で60ms以上の増加が認められていました。
補正QT時間が異常に延長するリスクは、
治療前の補正QT時間が450ms以上であると7.11倍(95%CI;1.75から28.87)、
ループ利尿剤を使用していると3.38倍(95%CI: 1.03から11.08)、
それぞれ有意に増加していました。
また、1例の患者さんが経過中に心停止を来していました。

このように、
ヒドロクロロキンとアジスロマイシンとの併用は、
QT延長のリスクが高く、
治療前のQT時間が長めであったり、
利尿剤を使用しているような患者さんでは、
その使用にはより慎重な判断が、
必要であるように考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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イベルメクチンの新型コロナウイルスに対する有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
イベルメクチンとコロナウイルス論文.jpg
Antiviral Research誌に2020年4月3日ウェブ掲載された、
蟯虫症や疥癬の治療薬として使用されている、
イベルメクチン(商品名ストロメクトール)
の新型コロナウイルスへの効果を検証した、
細胞レベルの基礎実験の論文です。

イベルメクチンというのは、
日本の大村智先生が発見した、
クラリシッドやアジスロマイシンと同じ、
マクロライド系抗菌剤ですが、
他のマクロライドのような抗菌活性はない替わりに、
寄生虫に対する強い毒性を持ち、
1980年代から、
動物用の寄生虫症の治療薬として広く使用されています。

人間に対しては、
蟯虫症などの寄生虫症、そして、
ダニによる疥癬の治療薬として、
保険適応の上使用されています。

イベルメクチンは寄生虫の細胞に存在する、
クロライド(クロール)チャネルの阻害剤で、
細胞の過分極を引き起こして寄生虫を死滅させると考えられています。

その一方このイベルメクチンは、
培養細胞などを用いた基礎実験においては、
HIV-1やデング熱ウイルス、インフルエンザウイルスなど、
多くのウイルスに対する抗ウイルス作用を持つことが報告されています。

ただ、現状臨床において明確に抗ウイルス作用が実証された、
ということはないようです。

今回の研究はオーストラリアの研究者によるものですが、
培養細胞を使用した実験において、
細胞を新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染させ、
その2時間後に5μMのイベルメクチンを培養液に添加したところ、
未使用と比較して24時間後のウイルスRNA量は93%減少し、
48時間後には5000分の1以下に減少したと報告されています。
イベルメクチン濃度を変えた検証により、
イベルメクチンの新型コロナウイルス感染に対するIC50(50%阻害濃度)は、
2から3μMと計算されています。

それではどのようなメカニズムで、
イベルメクチンは新型コロナウイルスの感染を抑制しているのでしょうか?

上記文献の著者らによると、
細胞の細胞質で合成されたタンパク質を、
核に運ぶインポーチンという乗り物のようなタンパク質があり、
このインポーチンの働きを妨害することにより、
ウイルス遺伝子の複製を抑えるのではないか、
と推測しています。

細胞に感染したウイルスタンパク質の一部は、
インポーチンの働きで核内に運ばれ、
それがSTAT1というシグナル伝達系を介した、
自然免疫の活性化を抑制するので、
ウイルスの増殖が止められなくなってしまうのですが、
そのウイルスタンパクの核内移行を妨害することで、
ウイルスの増殖を抑えるという、
やや回りくどいメカニズムです。

通常ウイルスなどが細胞に感染すると、
それを細胞側が察知し、
すぐに自然免疫系を活発にして、
感染を押さえ込むような働きがあるのですが、
コロナウイルスはその仕組みを抑えてしまうので、
感染が止められなくなるのです。
そこでウイルスが利用しているのがインポーチンなので、
それを阻害するイベルメクチンが、
ウイルスの増殖阻害に有効だ、
という理屈です。

お分かり頂けたでしょうか?

いずれにしても、
寄生虫に対して有効なクロールチャンネルの阻害とは、
全く異なる作用がイベルメクチンにはある、
ということになります。

ただ、問題なのはIC50で2.5μMという、
イベルメクチンの濃度です。

通常人間の寄生虫症や疥癬で使用されるのは、
体重1キロ当たり150から200μgという用量です。
血液濃度で2.5μMという濃度は、
イベルメクチンを通常量で使用した場合のピークの血液濃度の、
50から100倍という高用量です。

単純に考えると、
通常の使用量でクロールチャネルの阻害作用は、
生体でも認められるけれど、
インポーチンを阻害するとなると、
その50から100倍は使わないと役に立たない、
ということになります。

実際デング熱に対してイベルメクチンを使用する臨床試験が、
タイで行われたのですが、
そこでは体重1キロ当たり400μgで3日間という、
通常の倍以上の高用量が使用され、
結果として臨床的有効性は示されませんでした。

ここまででは、
イベルメクチン駄目じゃん、
という気がします。

しかし、その一方で、ひょっとしたら、
と思わせる臨床データが発表されています。
こちらです。
イベルメクチンのハーバード論文.jpg
これはユタ大学とハーバード大学が発表した、
短報みたいなもので、
まだしっかりした論文、
というようなものではなく、
学会のポスター発表、くらいの感じのものです。

内容は2020年1月から3月に北米、ヨーロッパ、アジアの、
169の病院のデータから、
イベルメクチンを使用した新型コロナウイルス感染症の、
704名の患者データを抽出して、
イベルメクチン未使用のコントロール群704名と、
他の条件をマッチングさせてその予後を比較検証したものです。
イベルメクチンは体重キロ当たり150μgが、
1回のみ使用されているのが標準です。

その結果、
総死亡のリスクはイベルメクチン使用群が1.4%に対して、
未使用群は8.5%で、
イベルメクチンは総死亡のリスクを、
80%(95%CI: 0.11から0.37)有意に低下させていました。

この内容が報道などもされていて、
イベルメクチンに画期的効果、
というようなニュアンスなのですが、
このレベルのデータなら、
クロロキンとアジスロマイシンも凄いし、
レムデシビルもアビガンも凄いんですよね。
患者さんを登録したような臨床試験ではなく、
ただ、症例を集めて比較しただけのもので、
それも治療法の確立していない感染症なのですから、
条件など合わせられる訳もないし、
本当に何とも言えないと思います。

今後日本でも臨床使用が行われるようですが、
厳密な臨床試験のようなスタイルではなさそうなので、
その有効性が確認されるかどうかは、
極めて疑問のように思います。

イベルメクチンは確かに面白い作用の薬なのですが、
寄生虫への有効性は確立しているものの、
抗ウイルス作用は通常の50から100倍くらいの用量でないと、
成立はしない可能性が高く、
タイでのデング熱の臨床試験も失敗していることから考えて、
それほどの期待は持てないように、
個人的には考えています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染時のACE2受容体と免疫との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療には廻って、
それからレセプト作業に入る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ACE2とインターフェロンγの論文.jpg
Cell誌に2020年4月27日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの感染様式についての論文です。

基礎実験のデータなので、
ここで示される知見が、
臨床でも成り立つとは言えないことに注意が必要ですが、
内容は非常に興味深いものです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の人体への感染では、
ウイルスの突起が細胞のACE2を受容体として結合し、
それからセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)という酵素の働きを借りて、
細胞の中に入ります。
感染経路がこれだけなのか、
という点については別の知見もありますが、
いずれにしてもACE2とTMPRSS2が発現している細胞では、
感染が成立し得る、ということは間違いがありません。

当初下気道の細胞のみに主に感染が起こる、
という見解が主体でしたが、
その後上気道や腸管の感染が成立しないと、
説明の付かないような現象が認められ、
研究が重ねられて知見は修正されました。
ただ、そうしたデータの多くは、
ACE2受容体の発現のみを見ているものなので、
それが感染することと同じではありません。

今回の研究では、
人間の細胞のうち、
鼻の粘膜のゴブレット細胞と、
2型肺胞上皮細胞、
そして腸管上皮細胞の3種類の細胞が、
ACE2とTMPRSS2の両者の遺伝子を発現していて、
新型コロナウイルスの感染を受ける可能性があると、
確認されました。

この知見は、
新型コロナウイルスが、
実際に上気道症状と肺炎などの下気道症状、
そして下痢などの消化器症状の3つを主に示すという、
臨床的な知見とも合致するものです。

新型コロナウイルスはそれぞれ独立に、
鼻粘膜と肺と腸に感染し、そこで増殖するのです。
その増殖の仕方により、
出現する症状には差がある訳です。

ウイルスの侵入に対して身体の細胞は、
インターフェロンなどのサイトカインを産生して、
ウイルスを撃退しようとします。

ただ、今回の研究では意外なことに、
インターフェロンにより気道の内皮細胞において、
ACE2の遺伝子発現が刺激され増加する、
ということが明らかになりました。

インターフェロンは、
ウイルスを退治するための武器のようなものですが、
それがACE2を増加させることによって、
結果的に感染を促進しているのではないか、
というのが上記文献の著者らの推測です。

ただ、ACE2自体には肺障害を抑制するような働きがあり、
細胞がウイルスに感染するとACE2の発現は抑制されますから、
そうした仕組みによりバランスが保たれている、
というようにも考えられます。

単純にこの知見から、
ACE2の善悪を論じるのは行き過ぎではないでしょうか?

こちらをご覧下さい。
ACE2とインターフェロンγ.jpg
今回の知見をまとめた図がこちらになります。
ネズミの実験が行われることがしばしばありますが、
この図にあるように、
インターフェロンによるACE2の増加は、
ネズミでは認められない現象で、
ネズミでこうした実験を行うと、
その結果を見誤る可能性がありそうです。

これは1つの実験結果としては興味深いものですが、
複雑な感染と免疫応答の、
1つの側面を示しただけのものとも言え、
今後の知見の更なる積み重ねにより、
感染の詳細なメカニズムが、
明らかになることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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レムデシビルの臨床試験結果(Lancet) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
レムデシビルの臨床試験.jpg
Lancet誌に2020年4月29日にウェブ掲載された、
新型コロナウイルス治療薬として、
最も注目されている薬の1つ、
レムデシビルの中国での臨床試験の結果をまとめた論文です。

レムデシビルはDNAの原料となる核酸の誘導体で、
ウイルスが細胞内で核酸(RNA)の合成を行う、
RNAポリメラーゼの阻害剤です。

これはアビガン(ファビピラビル)と同様のメカニズムです。

この薬はアメリカの製薬会社ギリアドサイエンシズ社の開発品で、
現行はまだ世界的に未承認薬、治験薬の扱いです。
エボラ出血熱に対しては研究的使用が行われ、
一定の有効性が確認されています。
SARSやMERSなどのコロナウイルスに関しても、
基礎実験では一定の有効性が確認されています。

新型コロナウイルス感染症に対するレムデシビルへの期待は、
この薬の新型コロナウイルスに対するEC50という、
ウイルスの感染細胞での増殖を50%抑制する濃度が、
0.77μMという低さであることが影響しています。

実験的にはここまで効果の高い薬は他にないからです。

その実際の有効性はどうなのでしょうか?

先日New England…誌のレムデシビルについての論文をご紹介しましたが、
それはこれまでに試験的に投与された61例を解析したもので、
コントロール群が設定された、
厳密な臨床試験ではありませんでした。

今回の臨床試験は、
中国の10カ所の病院において、
偽薬を使用した厳密な方法で施行されたものです。

対象は湖北省で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染した、
年齢は18歳以上でCTで肺炎像が認められ、
酸素飽和度が94%以下の237名の患者で、
登録は症状出現後12日以内に行われ、
PCR検査での陽性も条件となっています。

登録者を本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2対1に分けると、
多い群はレムデシビルを10日間注射し、
少ない群は偽薬の注射を施行して、
その予後を比較検証しています。
試験は2020年の2月6日から3月12日の間に開始されています。

その結果、
症状が改善するまでに期間には、
レムデシビル群と偽薬群との間で、
明確な差は認められませんでした。
その予後にも明確な差は認められていません。
ちなみに試験開始28日後の時点で、
レムデシビル群の15%、
偽薬群の13%が死亡されています。

ただ、症状出現後早期に投与が開始されたケースでは、
有意ではないものの改善が早い傾向は認められていて、
もう少し事例が多く、
より早期に投与が開始されていれば、
また別の結果が出た可能性もあります。

この結果からレムデシビルが無効、
というようには言えません。
ただ、著効する夢の薬、ということではないのも、
また間違いのないことだと思います。

先日アメリカのFDAがレムデシビルの緊急使用を認可した、
という報道がありましたが、
その主な裏付けとしているデータは、
アメリカのNIHが主導した上記論文とは異なる臨床試験結果で、
こちらはまだ論文化はされていません。
1000例を超える規模のもので、
一定の有効性が認められているようですが、
今出ている情報の範囲では、
著効という感じでは矢張りなさそうです。

この薬はこれまでの臨床試験において、
一定の安全性は確認されているので、
今のような緊急事態で早期に認可されること自体については、
問題のあるものではないと思いますが、
その効果は現時点で必ずしも満足のゆくものではなく、
今後も慎重に検証する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスの内膜障害 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの血管障害.jpg
Lancet誌に2020年4月17日ウェブ掲載された、
重症の新型コロナウイルス感染症の臓器所見で、
血管や臓器の内膜炎が認められ、
ウイルスの感染が認められたという報告です。

「新型コロナウイルスは全身の血管に直接感染して炎症を起こす」
と報道などを読んで思われた方も多いかと思います。
確かにそうした可能性も否定は出来ないのですが、
これは3例の重症事例の組織所見のみの報告で、
たとえば、インフルエンザや他の風邪症候群の原因ウイルスでも、
こうした全身の血管炎のような報告自体はあるのですが、
かと言って、インフルエンザウイルスや他の風邪原因ウイルスが、
血液を巡って血管に炎症を起こすようなことが、
通常に認められるということではありません。
極めて例外的な事例である可能性もあり、
他の原因による炎症の可能性も、
あり得るとは思います。

こうしたこともあり得る、
というくらいで理解をして頂ければと思います。

さて、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症では、
急性の肺炎とそれに伴う進行性の呼吸不全が、
その悪化の主な原因ですが、
それ以外に脳梗塞や心筋梗塞、肺塞栓症、虚血性腸炎、腎不全など、
血管の炎症や閉塞に伴うような合併症が、
特に動脈硬化性の病気などの基礎疾患をお持ちの方で、
多く報告されています。

この血管系の合併症は何故起こるのでしょうか?

1つの説明としては、
肺炎による炎症のためにサイトカインが過剰産生される、
サイトカインストームと呼ばれる状態が起こると、
炎症と凝固系はリンクしているので、
凝固系の過剰な亢進もまた起こって、
血液内に血栓が出来、
それが詰まって全身の臓器障害を起こす、
という考え方が可能です。

もう1つの説明としては、
肺の炎症とは別個に、
ウイルスが血液を廻って全身に炎症を起こし、
それが全身の臓器障害に繋がっているという考え方があります。

これまでに血管の内膜などに、
ウイルスが証明されたことはなかったので、
通常は最初の説明が正しいと考えられています。

しかし、今回の報告では、
いやいやそうとは限らない、
血管に直接ウイルスが感染する可能性もあるのだ、
と言っているのです。

これも耳にタコの知識ですが、
新型コロナウイルスは細胞にあるACE2を受容体として、
細胞に感染します。
先日いやいやそればかりではなく、
細胞表面のヘパラン硫酸も結合部位として重要な可能性があるよ、
というような話をしましたが、
一般的な説明はまだACE2受容体説が主流です。

このACE2は、
肺以外に心臓や腎臓,腸の組織にも発現が認められ、
血管なのど内皮細胞にも確認されています。
実験的な研究では、
今回の新型コロナウイルスが、
血管内皮細胞に感染する能力のあることも確認されています。

それでは、
実際にウイルスが内皮細胞に感染するような事例が、
存在しているのでしょうか?

今回の検証では3例の事例が紹介されています。

スイスとアメリカの研究者による論文なので、
おそらくスイスの事例のように思われますが、
補足データ含めて何処の事例なのかは書かれていないようです。

事例1は71歳の腎移植を受けている男性で、
2020年3月20日に呼吸困難と低血圧などのショック症状で発症。
同日にPCR検査陽性。
入院しすぐに人工呼吸器を装着し、
透析や強心剤の投与も開始されています。
重症肺炎に心不全と腎不全も併発している重篤な事例です。
新型コロナウイルス感染症に対する治療は、
ヒドロキシクロロキンと併発する細菌感染に対して抗菌剤、
そして凝固線溶系の亢進も認めたことより、
ヘパリンの投与も施行されています。
しかし、治療の甲斐なく入院8日目に死亡されています。

死亡後の解剖所見において、
腸間膜の虚血と肺胞の広範な障害が認められ、
移植腎の内皮細胞に電子顕微鏡でウイルス粒子の侵入が認められました。
肺、小腸、心臓の内皮細胞に広範な炎症細胞の浸潤が認められ、
特に肺血管周囲にアポトーシス体が目立ち、
肺には単核球の集積が認められました。

事例2は糖尿病、高血圧、肥満のある58歳の女性で、
3日間の発熱と呼吸困難の後、
直接病院の集中治療室に入院となりました。
入院の時点でARDSと診断されています。
治療はヒドロキシクロロキンとヘパリンと抗菌剤です。
その後多臓器不全の状態となり、
血液透析と人工呼吸器が装着されました。
入院16日目に腸間膜虚血性壊死のため小腸切除の手術を行いましたが、
同時期に急性心筋梗塞(下壁)も併発して死亡されました。

解剖所見では、
ARDSの所見と、
肺、腎臓、心臓、肝臓に、
広範な内皮の炎症の所見を認めました。
臨床的には急性心膜炎が疑われましたが、
解剖ではその所見はなく、
右冠動脈の血栓による閉塞が認められました。
小腸の粘膜下の血管周囲には、
特徴的なアポトーシス体が複数認められました。

事例3は高血圧以外は持病のない69歳の男性で、
2020年3月11日から咳、発熱、息切れの症状あり。
3月20日に病院の外来でPCR検査を行い陽性が判明。
3月28日にARDSを発症して緊急入院となりました。
治療はヒドロキシクロロキンとヘパリンと抗菌剤です。
心房細動を併発し、心機能は著明に低下していました。
入院2日後に腸間膜の虚血を起こして小腸を切除。
患者は生存していますが、
切除した小腸の組織において、
内膜炎と粘膜の壊死、そして、
粘膜下の血管周囲にアポトーシス体を認めています。

画像が添付されています。
こちらをご覧ください。
コロナウイルスの血管障害の図.jpg
左のCの図の大きな画像は事例3の小腸の組織で、
矢印の先は単核球の浸潤を示しています。
Cの右下の小さな画像は、
アポトーシス体を可視化する特殊染色で、
矢印の先がアポトーシス体を示しています。

右のDは事例1の肺組織で、
矢張り特殊染色ではアポトーシス体が見られます。
血管内皮細胞が炎症を起こしてアポトーシス(細胞死)に至った、
という説明になっています。

このように重症化した新型コロナウイルス感染症では、
心臓や腸管、腎臓など多くの臓器において、
血管内皮に炎症が起こって細胞死に繋がり、
それがウイルスの感染によるという可能性が示唆されました。

ただ、実際にウイルスが同定されたとされているのは、
移植腎のみですから、
通常の組織でも同じことが起こっている、
ということではないようにも思います。

この論文の著者らは、
これが臓器への直接のウイルス感染による、
と主張をしているのですが、
その根拠は現時点ではやや弱いような気がします。

いずれにしても、
多臓器不全に至る広範な臓器障害が、
進行した新型コロナウイルス感染症の予後を、
悪いものとしている原因であることは間違いがなく、
こうした知見の積み重ねにより、
その病態が解明され、
有効な治療に結び付くことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の軽症事例における味覚嗅覚障害 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスと味覚嗅覚障害.jpg
JAMA誌に2020年4月22日にウェブ掲載された、
小論文(レター)ですが、
新型コロナウイルス感染に比較的特徴的とされる、
味覚嗅覚障害の臨床的特徴についての論文です。

味覚嗅覚障害は、
日本でもプロ野球選手や芸能人の事例などが報道され、
一般にも新型コロナウイルス感染症の症状として、
広く知られるようになりました。
ただ、その発症率などを科学的に検証したデータは、
実際にはあまり存在していません。
比較的信頼のおけるデータとしては、
入院患者の34%に認められた、
というものがあるだけです。

そこで今回の研究ではイタリアにおいて、
PCR検査で陽性が確認されるも、
症状が軽症が軽症で自宅観察の扱いとなった、
18歳以上の新型コロナウイルス感染症の患者、
トータル374名に症状の聞き取りを行い、
その結果を解析しています。

患者の年齢の中央値は56歳で、
52.0%は女性でした。
軽症を含めると64.4%に味覚嗅覚障害が認められ、
そのうちの34.6%は鼻閉を伴っていました。
他に多い症状は全身倦怠感が68.3%、
咳が60.4%、発熱が55.5%でした。
味覚嗅覚障害が唯一の症状であったのは3.0%でした。
味覚嗅覚障害と他の諸症状との関連をみると、
11.9%の事例では味覚嗅覚障害が先行して現れ、
22.8%では同時に出現し、
26.7%では遅れて出現していました。
味覚嗅覚障害は女性に多い傾向が認められました。

他の風邪症候群などと比較して、
今回の新型コロナウイルス感染症で味覚嗅覚障害が多い、
ということはほぼ間違いのない知見であると思います。

ただ、今回のデータは軽症事例に限ったもので、
味覚嗅覚障害のみが認められたのは3%というと、
如何にも少ない気はするのですが、
イタリアにおいても国民全員にPCR検査が行われている、
という訳ではないですから、
何等かの振り分けで疑い事例に検査がされているとすれば、
少ないのは当然と思わなくもありません。

味覚嗅覚障害の出現時期を見ると、
他の症状の前もあれば後もありとまちまちで、
特定の傾向は認められないようです。

味覚嗅覚障害とは言われますが、
その原因についても一定の知見があるのは、
嗅皮質周辺に炎症がありそうだ、
という嗅覚についてのものだけで、
味覚についての情報は全くありません。
個人的には嗅覚障害があるので、
「味が分からない」という症状が伴いやすく、
実際には味覚障害はないのではないか、
というように考えますが、
それが事実かどうかは現時点では分かりません。

いずれにしても新型コロナウイルス感染症の臨床診断において、
一定の意義のある所見であることは間違いがありませんが、
それで事例を振り分けたりすることに、
現時点であまり意味があるとは思えず、
特に単独で味覚嗅覚障害のみがある場合の判断は、
現時点で定まったものはないと、
そう考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスに対するヘパリンの治療可能性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスとヘパリン.jpg
これは2020年のbioRxivに公表された論文です。
査読なしに論文を発表出来るサーバーなので、
その内容な玉石混交であることには注意が必要です。

でも、内容は非常に興味深いもので、
あまりこれまで論じられて来なかった部分に、
光が当てられているものです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が人間に感染するには、
上気道や下気道にあるACE2というタンパク質に、
ウイルス粒子の突起部分が結合することが必要と、
通常は考えられています。

ただ、ACE2に結合して人間の細胞に侵入したウイルスは、
その複製の過程でACE2の発現を抑制します。
これでは感染は進行しなくなってしまいますから、
こうした現象が事実であるとすれば、
ACE2なしでも新型コロナウイルスは感染が可能だと、
そう考えないと理屈が合わなくなってしまいます。

そこで注目されるのが2014年に発表された1つの知見です。

こちらをご覧ください。
コロナウイルスとヘパラン硫酸.jpg
これは2014年のJournal of Viology誌に掲載された論文です。
コロナウイルスNL63というのは、
2004年に初めて発見されたコロナウイルスの亜型で、
SARSやMERSの原因ウイルス、
今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とは異なり、
小児を中心に普通の風邪症状を起こすウイルスです。

このウイルスも新型コロナウイルスと同様、
ACE2受容体に結合して感染することが2005年に判明しています。
そして、確かにACE受容体が存在しない細胞には、
このウイルスは感染することは出来ないのですが、
その一方でウイルスが結合するのはACE2のみではなく、
他のウイルスの結合部位でもある、
細胞膜のヘパラン硫酸により多く結合して、
その感染が増大していることが確認されたのです。

このヘパラン硫酸(Heparan Sulfate)とはどのようなものなのでしょうか?

血液の凝固を抑え、
血液をサラサラにする薬として使用されている、
ヘパリンという薬剤があります。
ヘパリンは多くの哺乳類などの肺、小腸に分泌している、
複雑な構造の糖タンパク質で、
人間の身体にも存在はしていますがごく僅かで、
代わりにヘパラン硫酸というヘパリンに構造の似た化合物が、
同じような働きをしています。

基本的にはヘパリンやヘパラン硫酸は、
抗ウイルス作用を持ち、
ウイルスの身体への侵入を防御する働きを持っているのですが、
敵もさるもので、一部のウイルスは、
このヘパリンやヘパラン硫酸と結合して、
細胞内に侵入するのです。

さて、これまでの研究により、
コロナウイルスの一部はACE受容体と共に、
細胞膜のヘパラン硫酸に結合して、
感染を起こすことが実証されていますが、
それが今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)においても、
同じであるかどうかは分かってませんでした。

そこで上記論文においては、
大腸菌のベクターに新型コロナウイルスの突起部分を発現させ、
そこにヘパリンやヘパラン硫酸が結合することを確認しています。
ヘパリンに結合することによって突起部分に構造的な変化が起こり、
それが感染を進行させることも確認されました。

ここで注目されるのは薬剤としてのヘパリンの、
新型コロナウイルス感染に対する治療可能性です。

新型コロナウイルスは、
気道の粘膜細胞などにあるヘパラン硫酸を、
そのターゲットとして突起を結合させようとするのですが、
そこにヘパリンを注入すれば、
ウイルスの結合をヘパリンが競合し、
結果として感染が予防されるという原理です。

ヘパリンの治療可能性については、
ヘパリンの使用により、
新型コロナウイルス感染症の死亡リスクが20%低下した、
というような報告もあります。

これは新型コロナウイルス感染症により、
メカニズムは不明ですが凝固線溶系が亢進し、
血栓症の発生が患者さんの予後を悪化させているという知見から、
抗凝固作用を期待しての使用であったのですが、
実はそれ以外に、
ヘパリンはより直接的に、
新型コロナウイルス感染を防御している、
という可能性もある訳です。

今後新型コロナウイルス感染症の感染予防という観点から、
ワクチンや抗ウイルス剤などと共に、
ヘパリンの使用というのも、
その投与経路を含めて、
検討する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ACE阻害剤やARBと新型コロナウイルス感染症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ACEIのCOVID19に対する効果論文.jpg
Circulation Research誌に2020年の4月17日にウェブ掲載された、
ACE2受容体を増加させる作用を持つ降圧剤と、
新型コロナウイルス感染症との関連についての論文です。

SARSの原因ウイルスや、
今回の新型コロナウイルスは、
下気道の細胞などにあるACE2という受容体に結合し、
そこから細胞に侵入して感染を起こします。

ここで1つ問題となったことは、
幾つかの薬剤が結果としてACE2を増やすような働きを持っている、
ということです。
高血圧の患者さんに使用される、
ACE阻害剤やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は、
結果としてACE2受容体を増やす作用があります。
また、インスリン抵抗性改善剤で糖尿病の治療に使用される、
チアゾリジンジオン(ピオグリタゾンなど)と、
解熱鎮痛剤のイブプロフェンによっても、
ACE2は増加することが報告されています。

ただ、ACE2は高血圧の悪玉とされるACE1とは異なり、
血管を拡張して血圧を下げ、
肺などの臓器障害を抑制するような効果も認められています。

興味深いことに、
新型コロナウイルスがACE2受容体に結合して、
細胞に入り感染すると、
ACE2受容体の発現は抑制され、
ACE1受容体を介したシグナリングが優位となります。
ACE1受容体の刺激は、
血管を収縮させて血圧を上げ、
臓器障害も進行させる方向に働きますから、
一旦感染が成立した状態では、
ACE2が減少した方が感染は進行しやすい、
という言い方も出来るのです。

こちらをご覧下さい。
ACEとCOVID19の図.jpg
これは上記の文献ではなく、
この問題を解説した、
the New England Journal of Medicine誌の解説記事にあるものです。

左側に描かれているように、
新型コロナウイルスはその突起を細胞のACE2に結合させ、
それにより細胞内に侵入して増殖します。
ここでウイルスの遺伝子が複製されると、
その一方で細胞のACE2の発現は抑制されます。
すると、右に描かれているように、
血管を収縮させ急性肺障害を惹起する、
アンジオテンシン2を増加させることになる訳です。

そうなると、
ACE2受容体が多くなることにより、
新型コロナウイルスの感染が起こりやすくなる、
という可能性は否定は出来ませんが、
むしろ感染の重症化は防ぐ、
という可能性もまたある訳です。

それでは、
実際にACE2を増加させるような薬剤の使用は、
トータルに見て新型コロナウイルス感染症の患者さんの予後に、
どのような影響を及ぼすのでしょうか?

上記論文においては中国武漢市の複数の病院において、
高血圧症があって新型コロナウイルス感染症に罹患した、
トータル1128名の患者さんを解析し、
ACE2受容体を増やす働きのある降圧剤である、
ACE阻害剤とARBの使用が、
患者さんの予後に与える影響を比較検証しています。

患者さんのうち、
188名がACE阻害剤もしくはARBを使用していました。

解析の結果、
ACE阻害剤もしくはARBを使用していた、
患者さんの死亡率は3.7%だったのに対して、
使用していなかった患者さんの死亡率は9.8%で、
ACE2を増加させる降圧剤により、
総死亡リスクは58%(95%CI: 0.19から0.92)有意に低下していました。
複数の統計処理により解析を行っていますが、
いずれにおいてもACE阻害剤やARB使用は、
総死亡のリスクを低下させていました。

このように、今回の検証においては、
一旦感染した患者さんに限ってみると、
ACE2を増加させるような薬剤を使用している方が、
生命予後が良いという結果になっていました。

この問題はまだ解決したとは言えませんが、
少なくともACE2を増やすような薬が、
感染者の予後を悪くすることはないと、
そう考えて大きな間違いはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の多彩な臨床像 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療には往復し、
後は家に籠もっている予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルス感染症の多彩な臨床像.jpg
2020年4月17日のBritish Medical Journal誌にウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の臨床像についての解説記事です。

新型コロナウイルス感染症は、
その発生当初は新型コロナウイルス肺炎と呼ばれました。

つまり、SARSと同じように、
その主要な症状は肺炎などの呼吸器症状であると、
そう考えられていたのです。

しかし、典型的な肺炎を来すのは、
新型コロナウイルスに感染した患者さんの一部で、
中国で行われた疫学研究によると、
感染者の86%は肺炎をターゲットとした現状のスクリーニングでは、
見逃されてしまうと推計されています。

それでは、肺炎を起こさない新型コロナウイルス感染症は、
どのような経過を辿るのでしょうか?

それは呼吸器症状を呈さず、
他の症状のみの場合と、
全くの無症状の場合の2つがあります。

まず呼吸器以外の症状ですが、
患者さんの2から40%は消化器症状が見られる、
という報告があります。
特徴的なのは下痢で、
下痢で発症するケースは実際には多く、
便中でウイルスが増殖し、
それはかなり長期に渡り持続するので、
感染拡大の1つの大きな要因となっています。

嗅覚障害と味覚障害は、
プロ野球選手の事例で一般の方にも有名になりましたが、
イタリアの疫学データでは53%のケースで認められたと報告されています。
若年層の感染では嗅覚障害が唯一の症状であるケースもあり、
積極的スクリーニングが必要とする意見もあります。

新型コロナウイルスに感染した19歳の女性の症例報告では、
頭部MRI検査において、
嗅粘膜のある嗅裂という部分が、
周辺の炎症性変化のために閉塞している所見が認められました。
嗅粘膜周囲にウイルス感染が起こって、
それが嗅覚障害の原因となることを、
これは推測させる所見です。
動物実験においては、コロナウイルスが嗅神経を介して、
脳に神経障害や壊死を起こしたという知見があり、
これは嗅覚障害が脳障害に進行する危惧を感じさせます。

実際にアメリカと中国において、
虚血性梗塞や出血性梗塞、
頭痛や眩暈、精神障害、ギラン・バレー症候群、
急性壊死性脳症など、
多彩な脳障害や神経障害が、
新型コロナウイルス感染に伴って生じることが報告されています。
ただ、脳や神経脂肪への、
直接的なウイルス増殖が、
証明されたことはこれまでにありません。

循環器領域の症状もまた、
新型コロナウイルス感染症に伴って報告されています。
そこには、心筋障害、心筋炎、心内膜炎、不整脈、
心不全などがあり、
症状から急性冠症候群と誤診されたケースもあります。
中国の臨床データでは感染に伴って、
凝固系が亢進した状態が生じ、
静脈血栓塞栓症のリスクを高めて、
肺塞栓症を発症するような事例も報告されています。
従って、胸部痛も新型コロナウルス感染症を否定出来ないのです。

結膜充血や結膜炎、涙液量の増加などの、
眼症状が認められる事例も報告されています。
中国での報告では32%に眼症状が認められ、
ウイルス遺伝子が涙から検出されています。

年齢による症状の違いにも注意が必要です。

小児では全体に症状は軽く、
鼻水だけ、というようなこともあります。
高齢者では重症肺炎の事例が多くなりますが、
発熱がなく、ただ元気がなくなったり食欲がないだけ、
というケースも多いので注意が必要です。

無症候性か、
鼻水や軽度の咽頭痛以外、
症状の全くないケースが多いことが、
新型コロナウイルス感染症の問題点です。

最近の研究により、
無症候性の時期にむしろ感染は成立しやすく、
それが流行の拡大を招いていることが確実となっています。

そうなると、
ある程度感染が拡大した段階においては、
現行の症状のある患者を特定して、
濃厚接触者を検査するというような方法では、
感染を収束させることは困難だ、
という答えが見えて来ます。

それではどうするべきなのでしょうか?

もう少しウイルスの動態が明確となり、
検査法や治療法も整理されてくると、
より効率的な対策が可能となるのだと思いますが、
現状では今のような人と人との距離を保つ施策以外に、
穏当な名案はありそうにないのが実状なのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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