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ケトジェニックダイエットの精神疾患に対する有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
小学校の健診や老人ホームの診療などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ケトジェニック食の精神疾患への有効性.jpg
Psychiatry Research誌に、
2024年3月20日ウェブ掲載された、
ケトジェニックダイエットの精神疾患に対しての有効性を検証した論文です。

ケトジェニックダイエット(ケトジェニック食)というのは、
かなり特殊な食事療法の1種で、
糖質を極端に制限し、
蛋白質と脂質主体の食事を摂ることにより、
脂肪を燃焼させてケトン体を産生させ、
それを糖質の代わりにエネルギー源として使用する、
という食事パターンのことです。

通常の食事は身体が簡単に利用可能な、
ブドウ糖を主なエネルギー源としていて、
絶食時のみ尿中にケトン体が検出され、
それは飢餓時の代謝で脂肪酸が分解されたことによる、
と説明されていました。

つまり、ケトン体が検出されるということは、
身体にとっては異常事態を示すものであり、
それは良くないこととされていた訳です。
特に脳はブドウ糖しかエネルギー源としては使用出来ない、
という考え方があったため、
ケトン体が出現することは、
脳にとっては悪影響しかないと考えられていたのです。

私は大学の医局に勤務していた頃は、
糖尿病の研究と診療とに当たっていたので、
その頃の常識が染みついているようなところがまだあるのですが、
当時(25年以上前)の常識としては、
尿や血液でケトンが検出されるのは、
飢餓状態の兆候であって、
人間の身体は定常状態ではブドウ糖を活用して、
それをエネルギーとして動くように出来ている、
というものでした。

ところが…

ケトジェニックダイエットを継続することにより、
肥満が改善し、
糖尿病や脂質異常症、脂肪肝炎などが改善するという報告が、
近年多く寄せられるようになりました。
https://www.mdpi.com/2072-6643/9/5/517

今回の研究はメタボを併発した精神疾患の患者さんに対して、
少人数の試験的な研究ではありますが、
ケトジェニックダイエットを4か月間継続して、
その有効性を見たものです。

対象は肥満やインスリン抵抗性などを伴う、
統合失調症もしくは双極性障害の患者さんトータル21名で、
ケトジェニックダイエットを継続施行し、
それを適時血液中のケトン体の測定で確認し、
4か月間の有効性を検証しているものです。

その結果、ケトジェニックダイエットを適切に継続することにより、
体重や血圧の減少が認められると共に、
臨床指標による精神疾患の症状も、
明確な改善が確認されました。

つまり、身体疾患のみならず、
精神疾患に対しても、
ケトジェニックダイエットの有効性が確認された、
という結果です。

ただ、これはまだ少人数での試験的な研究結果に過ぎない、
という点には注意が必要です。

飢餓状態や絶食が、
メタボなどの多くの病態の進行をリセットし、
それを改善するという知見は以前よりあり、
ブドウ糖の代わりにケトン体をエネルギー源として使用する、
というケトジェニックダイエットの考え方は、
その現象の1つの理論的裏付けと考えることが出来ます。

ただ、脂質や蛋白質のバランスによっては、
ケトジェニックダイエットで肝障害などが悪化した、
というような報告もあり、
その安全な施行には、
血液中のケトン体を経時的に測定するなど、
慎重な管理が必要です。

また、本当に糖質を摂らず、ケトン体をエネルギー源とする生活が、
人間にとってトータルに適切なものなのか、
というような点はまだ解明はされていません。

いずれにしても多くの代謝性疾患や精神疾患に対して、
ケトジェニックダイエットに、
少なくとも短期的な有効性のあることは、
ほぼ間違いのない事実となりつつあり、
今後の研究の進捗を慎重に見守りたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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