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食事の脂肪が健康に与える影響(2024年アメリカの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
脂肪の摂取と健康リスク.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2024年8月12日付で掲載された、
食事の脂肪の組成と健康への影響についての論文です。

動物性の油よりも、
植物性の油の方が健康に良い、
というのはしばしば言われて来たことです。

飽和脂肪酸よりも不飽和脂肪酸が健康に良い、
というような言い方も、
しばしばされてきました。

テレビなどの健康情報では、
サバやサンマに含まれる脂肪酸が、
ダイエットに良いという話題も盛んに取り上げられています。

脂肪酸というのは、身体の中の油の総称で、
タンパク質のように窒素は含まず、
炭素と水素、酸素だけからなる、
シンプルな構造物です。
リン脂質や糖脂質、コレステロールやステロイドのような、
脂肪酸から由来する物質も多く、
この中には窒素を含むものもあります。

その大元である脂肪酸は、
二重結合のない飽和脂肪酸と、
二重結合のある不飽和脂肪酸に分かれます。

原子は他と繋がる手を、
決まった数だけ持っていて、
その手がそれぞれ別のものと繋がっているのが、
飽和で、2つの手が同じものと繋がっているのが、
不飽和ということになります。

分子量の大きい「不飽和脂肪酸」は、
その二重結合の位置が端から3番目のものと、
6番目のものとに分かれます。
3番目のものをn-3脂肪酸とか、ω-3系多価不飽和脂肪酸、
などと呼び、
EPAやDHA、α-リノレン酸などはその代表です。
一方で6番目のものの代表は、
リノール酸やアラキドン酸で、
これをおなじように、
n-6脂肪酸やω-6系多価不飽和脂肪酸、
などと呼んでいます。

動物性の脂肪の多くは、
飽和脂肪酸です。
ラードやバターなどはその代表です。

魚や植物油を多く摂るような生活習慣により、
心血管疾患のリスクが減少する、
というような疫学データは多くあり、
その原因として注目されているのがω3系脂肪酸です。

概ね植物由来の油を多く摂り、
動物性の油脂を多く摂ることが、
健康リスクを低下させると考えられていますが、
動物性の油脂の中でも、
魚の脂、特にω3系脂肪酸を多く含む青身魚の脂は、
健康に良いという意見があります。
また動物性の油脂の中で、
乳製品や卵については、
適度な摂取であれば健康に良い、
という意見もあります。

この問題はかなり複雑なのです。

今回の研究はアメリカにおいて、
1995年から2019年に掛けて行われた大規模な疫学研究のデータを活用して、
動物性や植物性の脂肪の組成と、
その後の生命予後との関連を検証したものです。

登録時点で平均年齢が61.2歳の、
男性407531名、女性231881名が対象となっています。

ここで言う動物性脂肪には、
穀物由来、ナッツ由来、豆類由来、野菜由来の油が含まれ、
一方で動物性の脂肪には、
肉由来、乳製品由来、卵由来、魚由来の油脂が含まれています。

関連する他の因子を補正した結果として、
5等分した植物性脂肪の摂取量が最も多い群は、
最も少ない群と比較して、
総死亡のリスクが9%(95%CI:0.89から0.93)、
心血管疾患により死亡するリスクが14%(95%CI:0.82から0.89)、
それぞれ有意に低下していました。
一方で動物性脂肪の摂取量が最も多い群は、
最も少ない群と比較して、
総死亡のリスクが16%(95%CI:1.12から1.19)、
心血管疾患により死亡するリスクが14%(95%CI:1.08から1.20)、
それぞれ有意に増加していました。

動物性の脂肪の中でも、
魚の脂については、
最も多い群は少ない群と比較して、
総死亡のリスクが4%(95%CI:0.94から0.98)、
心血管疾患により死亡するリスクが6%(95%CI:0.90から0.97)、
有意に低下していました。

乳製品の脂肪については、
最も多い群は少ない群と比較して、
総死亡のリスクが9%(95%CI:1.07から1.11)、
心血管疾患により死亡するリスクが7%(95%CI:1.03から1.11)、
ぞれぞれ有意に増加していました。

卵由来の脂肪についても、
最も多い群は少ない群と比較して、
総死亡のリスクが13%(95%CI:1.11から1.16)、
心血管疾患により死亡するリスクが16%(95%CI:1.12から1.20)、
それぞれ有意に増加していました。

このように、
今回の大規模な検証においては、
全般として植物性脂肪の摂取増加は、
生命予後を改善していた一方で
動物性脂肪の摂取増加は、
顕著とは言えないものの生命予後の悪化に結び付き、
除外されて議論されることの多い、
卵は乳製品もリスク増加に結び付いていた一方で、
魚由来の脂肪の摂取増加は、
リスク低下に関連していました。

今回の検証は生命予後のみを指標としているので、
その点には注意が必要ですが、
概ね植物性の脂肪を増やして、
動物性の脂肪を減らすのが健康に良い、
という一般的な考え方は、
今回の大規模な検証においても確認された、
と言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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でがらし

 有益な情報のご提供、ありがとうございます。
 記事中、「ここで言う動物性脂肪には、」のところは、植物性脂肪が正しいようです。連絡まで、申し上げます。
 
by でがらし (2024-10-10 20:47) 

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