公共の場でのサージカルマスクの感染予防効果(2024年ノルウェーの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2024年7月24日付で掲載された、
サージカルマスクの感染予防効果についての論文です。
マスクによる感染予防の有効性については、
新型コロナのパンデミック時に色々な議論がありました。
呼吸器感染症の流行期に、
みんなでマスクを適切に装着することで、
感染拡大をある程度抑制する効果のあることは間違いがありません。
ただ、個別に自分がマスクをすることで、
どの程度感染を予防可能であるのか、
という点については、
必ずしも明確な科学的根拠がある訳ではありません。
マスクの効果は、
どちらかと言えば感染症で咳などをしている人が、
周辺への感染のリスクを防ぐことに、
その主眼があるからです。
たとえば2023年に発表されたメタ解析の論文では、
医療現場においても、一般の環境においても、
症状のない人がマスクをすることで、
呼吸器感染を予防する効果は、
確認はされるものの有効性は軽微なものに留まる、
という結果になっていました。
https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M23-0570
ただ、こうした研究の多くは新型コロナのパンデミックの時期に行われていて、
実際には研究を厳密に行うことにはかなり限界があり、
データには多くのバイアスがあるという指摘もあります。
それでは通常の時期に人混みでマスクを装着することで、
どの程度呼吸器感染症を予防可能なのでしょうか?
今回の研究はノルウェーにおいて、
18歳以上の4647名の一般住民をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は外出時の交通機関や買い物など、
不特定多数の人と接触する時には必ずマスクを装着し、
もう一方はマスクは使用せずに、
14日間を過ごして、
呼吸器感染の予防効果を比較検証しています。
試験は2023年の2月から4月に実施されています。
その結果、
経過中に咳や発熱などの呼吸器感染の症状が出現したのは、
マスク非使用群では12.2%に対して、
マスク使用群では8.9%で、
サージカルマスクの人混みでの使用は、
呼吸器感染のリスクを29%(95%CI:0.58から0.87)
有意に低下させていました。
今回の検証では、
人混みでのマスク使用には、
呼吸器感染症の予防に、
一定の有効性が確認されました。
こうしたデータを元にして、
現状は個別の判断で感染対策をして頂くのが、
妥当な対策であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2024年7月24日付で掲載された、
サージカルマスクの感染予防効果についての論文です。
マスクによる感染予防の有効性については、
新型コロナのパンデミック時に色々な議論がありました。
呼吸器感染症の流行期に、
みんなでマスクを適切に装着することで、
感染拡大をある程度抑制する効果のあることは間違いがありません。
ただ、個別に自分がマスクをすることで、
どの程度感染を予防可能であるのか、
という点については、
必ずしも明確な科学的根拠がある訳ではありません。
マスクの効果は、
どちらかと言えば感染症で咳などをしている人が、
周辺への感染のリスクを防ぐことに、
その主眼があるからです。
たとえば2023年に発表されたメタ解析の論文では、
医療現場においても、一般の環境においても、
症状のない人がマスクをすることで、
呼吸器感染を予防する効果は、
確認はされるものの有効性は軽微なものに留まる、
という結果になっていました。
https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M23-0570
ただ、こうした研究の多くは新型コロナのパンデミックの時期に行われていて、
実際には研究を厳密に行うことにはかなり限界があり、
データには多くのバイアスがあるという指摘もあります。
それでは通常の時期に人混みでマスクを装着することで、
どの程度呼吸器感染症を予防可能なのでしょうか?
今回の研究はノルウェーにおいて、
18歳以上の4647名の一般住民をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は外出時の交通機関や買い物など、
不特定多数の人と接触する時には必ずマスクを装着し、
もう一方はマスクは使用せずに、
14日間を過ごして、
呼吸器感染の予防効果を比較検証しています。
試験は2023年の2月から4月に実施されています。
その結果、
経過中に咳や発熱などの呼吸器感染の症状が出現したのは、
マスク非使用群では12.2%に対して、
マスク使用群では8.9%で、
サージカルマスクの人混みでの使用は、
呼吸器感染のリスクを29%(95%CI:0.58から0.87)
有意に低下させていました。
今回の検証では、
人混みでのマスク使用には、
呼吸器感染症の予防に、
一定の有効性が確認されました。
こうしたデータを元にして、
現状は個別の判断で感染対策をして頂くのが、
妥当な対策であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
タトゥーと悪性リンパ腫リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Lancet系のEClinical Medicine誌に、
2024年5月21日付で掲載された、
タトゥーの健康リスクについての論文です。
タトゥーは日本の入れ墨文化とは、
また別個の身体表現としての進歩を遂げ、
上記論文の記載によれば、
今ではヨーロッパの人口の20%、アメリカの30%で、
何らかのタトゥーを入れている、
という報告もあるほどです。
タトゥーは専用のインクを、
皮膚に挿入し、その影響は生涯残ることになります。
インクの中にある生理活性物質には、
発癌性のあるものが複数含まれています。
インクはもともと皮膚に挿入されることを、
想定して開発されているものではありませんから、
これは特段違法ではありません。
このインクに含まれる発癌物質が、
周辺のリンパ節に移行し、
影響を与えることは確認をされています。
悪性リンパ腫はリンパ組織のがんですが、
最近世界的に増加しており、
その理由は不明です。
上記論文の著者らは、
タトゥーのインクに含まれる発癌物質が、
リンパ節に移行してリンパ腫の発症に繋がっている可能性を想定し、
タトゥーの有無と悪性リンパ腫のリスクとの関連を、
今回の研究において検証しています。
国民総背番号制が敷かれているスウェーデンにおいて、
悪性リンパ腫と診断された2938名を、
年齢などをマッチングした8967名と比較して検証したところ、
タトゥーのある人はそうでない人と比較して、
悪性リンパ腫のリスクが21%(95%CI:0.99から1.48)
高い傾向が認められました。
特に最初のタトゥーを彫ってから2年未満に限定すると、
悪性リンパ腫のリスクは81%(95%CI:1.03から3.20)、
こちらは有意に増加していました。
タトゥーの大きさとリンパ腫のリスクとの間には、
明確は関連は認められませんでした。
このようにタトゥーがある人は悪性リンパ腫のリスクが高い、
という傾向はあるものの、
それが原因であると言えるほど明確な知見ではなく、
タトゥーの健康リスクについては、
今後より詳細な検証が必要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Lancet系のEClinical Medicine誌に、
2024年5月21日付で掲載された、
タトゥーの健康リスクについての論文です。
タトゥーは日本の入れ墨文化とは、
また別個の身体表現としての進歩を遂げ、
上記論文の記載によれば、
今ではヨーロッパの人口の20%、アメリカの30%で、
何らかのタトゥーを入れている、
という報告もあるほどです。
タトゥーは専用のインクを、
皮膚に挿入し、その影響は生涯残ることになります。
インクの中にある生理活性物質には、
発癌性のあるものが複数含まれています。
インクはもともと皮膚に挿入されることを、
想定して開発されているものではありませんから、
これは特段違法ではありません。
このインクに含まれる発癌物質が、
周辺のリンパ節に移行し、
影響を与えることは確認をされています。
悪性リンパ腫はリンパ組織のがんですが、
最近世界的に増加しており、
その理由は不明です。
上記論文の著者らは、
タトゥーのインクに含まれる発癌物質が、
リンパ節に移行してリンパ腫の発症に繋がっている可能性を想定し、
タトゥーの有無と悪性リンパ腫のリスクとの関連を、
今回の研究において検証しています。
国民総背番号制が敷かれているスウェーデンにおいて、
悪性リンパ腫と診断された2938名を、
年齢などをマッチングした8967名と比較して検証したところ、
タトゥーのある人はそうでない人と比較して、
悪性リンパ腫のリスクが21%(95%CI:0.99から1.48)
高い傾向が認められました。
特に最初のタトゥーを彫ってから2年未満に限定すると、
悪性リンパ腫のリスクは81%(95%CI:1.03から3.20)、
こちらは有意に増加していました。
タトゥーの大きさとリンパ腫のリスクとの間には、
明確は関連は認められませんでした。
このようにタトゥーがある人は悪性リンパ腫のリスクが高い、
という傾向はあるものの、
それが原因であると言えるほど明確な知見ではなく、
タトゥーの健康リスクについては、
今後より詳細な検証が必要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
感謝の心と生命予後 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Psychiatry誌に、
2024年7月3日付で掲載された、
感謝の気持ちが生命予後に与える影響についての論文です。
全く同じ経験をしたり、同じ物を見ても、
そこから受ける印象や、
そこから惹起される感情には、
個人により大きな違いがあります。
たとえば、道を歩いていて、
自転車とぶつかりそうになった時、
「ぶつからなくて良かった。きっと誰かが守ってくれだんた」
と考える人がいる一方で、
「もう少しでぶつかって怪我をするところだった。次はぶつかるかも知れないので、怖くて道も歩けない」
と思って不安に駆られる人もいます。
これは単純にポジティブかネガティブかの違い、
というように捉えることも出来ますが、
その心理には2つの段階があると考察することも出来ます。
つまり、まず何かが起こった時に、
それをどう捉えるか、という段階があり、
次にそれを他者からの影響によるものと考えるかどうか、
という段階があります。
上記の例で言えば、
自転車とぶつかりそうになった、という現象を、
「ぶつかりそうだったが間一髪で助かった」
と肯定的に捉えるか、
「もう少しでぶつかるところだった。次は本当にぶつかるかも知れない」
と否定的に考えるかが最初の段階。
それを、
「きっと誰かが助けてくれたんだ」
と何かのお蔭として考えるか、
「この世界は自転車で危険な運転をする人に満ちている」
と自分に危害を加える対象を想定するのか、
というのが第二の段階です。
今回検証されている「感謝の心」というのは、
今の前者の心の動きのこと、つまり、
出来事を常に肯定的に考えて、
それを他者のお蔭として認識する、
という心の動きのことです。
上記の例では人間ならざるものへの感謝、
というニュアンスになりますが、
勿論それだけではなく、
家族や友人、見知らぬ他人まで、
実際に存在する人間への感謝も含んでいます。
感謝の心を強く持つことは、
気持ちを安定させ、心身の健康に繋がる、
という考え方がありますが、
それが生命予後に影響を与えるのか、
というような点については、
科学的な知見はあまりないのが実際です。
今回の研究はアメリカの有名な疫学研究のデータを活用して、
高齢の女性看護師を対象に、
この問題の検証を行っているものです。
平均年齢が79歳の女性看護師、
トータル49275名を対象として、
人生に感謝の気持ちを持っているかどうかの、
質問に答えてもらい、
その結果と生命予後との関係を検証しています。
感謝の気持ちについての質問の内容はこちらです。
「人生において感謝を感じることが多い」
というような言葉に対して、
強く同意するか、それほど同意しないか、
のような段階で数値化して、
その人の感謝の度合いをスコア化します。
その結果、関連する他の因子を補正した結果として、
感謝の心の強さを3分割した時、
感謝の心が多い人は、少ない人と比較して、
総死亡のリスクが9%(95%CI:0.84から0.99)、
有意に低下していました。
これを亡くなる原因となった病気毎に解析すると、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患による死亡が、
感謝の心が多い人は、少ない人と比較して、
15%(95%CI:0.73から0.995)有意に低下していました。
他の癌などによる死亡については、
有意な低下は認められませんでした。
このように、高齢女性に限った知見ですが、
感謝の心を持って生きることは、
長生きに結び付く可能性が高く、
特に心血管疾患による死亡のリスクを低下させる、
という可能性が示唆されました。
なかなか難しいことですが、
他者への感謝を意識して生活することは、
健康への近道でもあるのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Psychiatry誌に、
2024年7月3日付で掲載された、
感謝の気持ちが生命予後に与える影響についての論文です。
全く同じ経験をしたり、同じ物を見ても、
そこから受ける印象や、
そこから惹起される感情には、
個人により大きな違いがあります。
たとえば、道を歩いていて、
自転車とぶつかりそうになった時、
「ぶつからなくて良かった。きっと誰かが守ってくれだんた」
と考える人がいる一方で、
「もう少しでぶつかって怪我をするところだった。次はぶつかるかも知れないので、怖くて道も歩けない」
と思って不安に駆られる人もいます。
これは単純にポジティブかネガティブかの違い、
というように捉えることも出来ますが、
その心理には2つの段階があると考察することも出来ます。
つまり、まず何かが起こった時に、
それをどう捉えるか、という段階があり、
次にそれを他者からの影響によるものと考えるかどうか、
という段階があります。
上記の例で言えば、
自転車とぶつかりそうになった、という現象を、
「ぶつかりそうだったが間一髪で助かった」
と肯定的に捉えるか、
「もう少しでぶつかるところだった。次は本当にぶつかるかも知れない」
と否定的に考えるかが最初の段階。
それを、
「きっと誰かが助けてくれたんだ」
と何かのお蔭として考えるか、
「この世界は自転車で危険な運転をする人に満ちている」
と自分に危害を加える対象を想定するのか、
というのが第二の段階です。
今回検証されている「感謝の心」というのは、
今の前者の心の動きのこと、つまり、
出来事を常に肯定的に考えて、
それを他者のお蔭として認識する、
という心の動きのことです。
上記の例では人間ならざるものへの感謝、
というニュアンスになりますが、
勿論それだけではなく、
家族や友人、見知らぬ他人まで、
実際に存在する人間への感謝も含んでいます。
感謝の心を強く持つことは、
気持ちを安定させ、心身の健康に繋がる、
という考え方がありますが、
それが生命予後に影響を与えるのか、
というような点については、
科学的な知見はあまりないのが実際です。
今回の研究はアメリカの有名な疫学研究のデータを活用して、
高齢の女性看護師を対象に、
この問題の検証を行っているものです。
平均年齢が79歳の女性看護師、
トータル49275名を対象として、
人生に感謝の気持ちを持っているかどうかの、
質問に答えてもらい、
その結果と生命予後との関係を検証しています。
感謝の気持ちについての質問の内容はこちらです。
「人生において感謝を感じることが多い」
というような言葉に対して、
強く同意するか、それほど同意しないか、
のような段階で数値化して、
その人の感謝の度合いをスコア化します。
その結果、関連する他の因子を補正した結果として、
感謝の心の強さを3分割した時、
感謝の心が多い人は、少ない人と比較して、
総死亡のリスクが9%(95%CI:0.84から0.99)、
有意に低下していました。
これを亡くなる原因となった病気毎に解析すると、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患による死亡が、
感謝の心が多い人は、少ない人と比較して、
15%(95%CI:0.73から0.995)有意に低下していました。
他の癌などによる死亡については、
有意な低下は認められませんでした。
このように、高齢女性に限った知見ですが、
感謝の心を持って生きることは、
長生きに結び付く可能性が高く、
特に心血管疾患による死亡のリスクを低下させる、
という可能性が示唆されました。
なかなか難しいことですが、
他者への感謝を意識して生活することは、
健康への近道でもあるのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アポロ計画を巡る悲喜劇を、
人気者同士の恋愛ドラマに絡めて描いた、
娯楽映画を観て来ました。
個人的にはなかなか良かったと思います。
これはね、昔のハリウッド映画の感じなんですね。
それも1970年代くらいに、
キネマ旬報の洋画ベスト10で、
8位か9位くらいを獲得する感じの映画。
ベスト10の上位には絶対ならないのですが、
観てちょっとほっこりするような、
「映画ってこんなんでいいよね」と思えるような映画。
それをかなり忠実にやっているんですね。
主役の2人もちょっとお人形さんみたいで、
このノスタルジックな世界にフィットしていますよね。
時代の雰囲気の出し方がとてもいいですよね。
リアルではなく、その時代の虚構をやっているんですね。
うん。とても素敵です。
1970年代に「アポロは月に行かなかった」という本が、
ベストセラーになったんですね。
それから「カプリコン1」という映画が、
ちょっとしたヒットになって、
これは火星ロケットをでっちあげる話なのですが、
アポロ計画の陰謀論は当時思春期以降の人にとっては、
「ノストラダムスの大予言」と一緒に、
まあ定番のネタではあったのですね。
この映画はその空気感もテーマの1つにしているのですが、
実際にはそれが本筋ということではなくて、
アポロは勿論月に行くのですが、
それをバックアップするフェイク映画の話があって、
それがラブロマンスの彩になっている、
という感じの趣向です。
「夢を見ずして何が人生だ!」というのが、
こうした映画の一貫したテーマで、
でもそれが「アポロ計画」ということになると、
今の世の中の雰囲気としては、
素直にそれを夢だとは言えないですよね。
どちらかと言えば否定的に扱った方が喝采を浴びるのが現在ですが、
この映画はそんな時の流れも分かった上で、
昔風の夢を信じる昔の人達を、
「こんな考え方もあったんですよ、どうですか?」
と肯定も否定もしないで提示しているんですね。
その控え目な感じが僕にはとても好ましくて、
ネットの感想などを読むと、
真面目にそれを批判しているような感じのものも多くて、
何だかなあ、という気分になってしまいます。
これは意図的にノスタルジックな映画で、
今の人には多分批判的にしか見えないかも知れないのですが、
僕も古い人間の1人なので、
これはこれで良かったなあ、
という感じで観ていました。
今の映画はギスギスするなあ、という感じを持たれる、
昔の映画ファンの方にはお勧めの1本です。
ウェス・アンダーソンに似た感じもあるのですが、
あそこまでひねくれた感じではなくて、
もっと素朴でウェルメイドな世界です。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アポロ計画を巡る悲喜劇を、
人気者同士の恋愛ドラマに絡めて描いた、
娯楽映画を観て来ました。
個人的にはなかなか良かったと思います。
これはね、昔のハリウッド映画の感じなんですね。
それも1970年代くらいに、
キネマ旬報の洋画ベスト10で、
8位か9位くらいを獲得する感じの映画。
ベスト10の上位には絶対ならないのですが、
観てちょっとほっこりするような、
「映画ってこんなんでいいよね」と思えるような映画。
それをかなり忠実にやっているんですね。
主役の2人もちょっとお人形さんみたいで、
このノスタルジックな世界にフィットしていますよね。
時代の雰囲気の出し方がとてもいいですよね。
リアルではなく、その時代の虚構をやっているんですね。
うん。とても素敵です。
1970年代に「アポロは月に行かなかった」という本が、
ベストセラーになったんですね。
それから「カプリコン1」という映画が、
ちょっとしたヒットになって、
これは火星ロケットをでっちあげる話なのですが、
アポロ計画の陰謀論は当時思春期以降の人にとっては、
「ノストラダムスの大予言」と一緒に、
まあ定番のネタではあったのですね。
この映画はその空気感もテーマの1つにしているのですが、
実際にはそれが本筋ということではなくて、
アポロは勿論月に行くのですが、
それをバックアップするフェイク映画の話があって、
それがラブロマンスの彩になっている、
という感じの趣向です。
「夢を見ずして何が人生だ!」というのが、
こうした映画の一貫したテーマで、
でもそれが「アポロ計画」ということになると、
今の世の中の雰囲気としては、
素直にそれを夢だとは言えないですよね。
どちらかと言えば否定的に扱った方が喝采を浴びるのが現在ですが、
この映画はそんな時の流れも分かった上で、
昔風の夢を信じる昔の人達を、
「こんな考え方もあったんですよ、どうですか?」
と肯定も否定もしないで提示しているんですね。
その控え目な感じが僕にはとても好ましくて、
ネットの感想などを読むと、
真面目にそれを批判しているような感じのものも多くて、
何だかなあ、という気分になってしまいます。
これは意図的にノスタルジックな映画で、
今の人には多分批判的にしか見えないかも知れないのですが、
僕も古い人間の1人なので、
これはこれで良かったなあ、
という感じで観ていました。
今の映画はギスギスするなあ、という感じを持たれる、
昔の映画ファンの方にはお勧めの1本です。
ウェス・アンダーソンに似た感じもあるのですが、
あそこまでひねくれた感じではなくて、
もっと素朴でウェルメイドな世界です。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「あばれヤーコン」(ゴキブリコンビナート第38回公演) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
日本に残る最後のアングラ、
ゴキブリコンビナートの本公演に参加しました。
今回は僕の大好きな「順路演劇」、
つまり迷路のような、お化け屋敷のようなセットを作って、
そこに観客が1人ずつ入り、
そこで展開される物語の主人公となって、
その世界を体感する、というタイプの演劇です。
これはその昔寺山修司の天井桟敷が、
「迷路演劇」や「暗闇演劇」という、
それに近いことをやっていたのですね。
それから昔OM2という劇団が、
観客を小さなケージ(檻)の中に閉じ込めて、
迷路のようなセットを巡回する、
というような作品もありました。
ただ、こうした少数の例外はあっても、
演劇集団がこうした「順路演劇」の試みを、
何度も上演するというのは、
ほぼゴキブリコンビナートの独壇場、
と言って間違いはないと思います。
今はリアル脱出ゲームみたいなものもありますから、
昔と比べるとこうしたスタイルの演劇も、
受け入れやすくなっていると思うのです。
ただ、僕は基本的に演劇のマニアなので、
ただのゲームでは詰まらなくて、
そこに演劇の血肉がないと駄目だと思うのですね。
普通のお芝居というのは、
客席という安全な空間に座って、
遠くの額縁の中で繰り広げられる、
役者さんのお芝居を遠見する、
という性質のものでしょ。
順路演劇は自分が主人公になって物語の中に入り込み、
目の前で役者さんの演技を体感する、
という贅沢な趣向なのですね。
そこに何かに憑依して何かを演じている「役者」という存在があるかどうか、
その役者が表現する物語があるかどうか、
それがそのパフォーマンスが演劇であるかどうかの、
分かれ目であるのです。
僕は9年前のゴキブリコンビナートの順路演劇、
「ゴキブリハートカクテル」を体験して、
その虜になったのですが、
今回の作品はそれをよりスケールアップした感じのもので、
舞台は北千住の多目的スペースBUoYの地下に設定され、
あそこは元風呂屋の野趣溢れる大空間なので、
そこに設営された暗黒迷路は、
間違いなく前回より大規模なもので、
特に迷路に入ってから隘路を延々と引き回される感じは、
異世界への導入として、
これ以上のものはありませんでした。
内容は「ゴキブリハートカクテル」とかなり似ていて、
最初に逃げて来る女性と、
襲い掛かる巨根男と対峙する、
というくだりや、
その後で排便塗れになるという趣向、
インチキジェットコースターのようなものに載せられて、
脱出に失敗して散々な目に遭うという趣向などは、
ほぼ同一でした。
前回は中東の内戦的世界観であったのですが、
今回は未知のウイルスによって、
人間がミュータント化した世界になっていて、
観客はその世界を救う救世主に見立てられ、
前回は4人1組で始まって、
途中でバラバラになり、
その後再会するという流れであったのが、
今回は最初は1人ずつで参加して、
途中1人だけでは敵を倒せないという話になり、
闇の中で次の観客を待って、
その見ず知らずの観客と「合体」し、
一緒に敵に立ち向かうという趣向になっています。
最後にはエピローグとして、
敵を倒した後で勇者を称える歌と踊りを覚えさせられ、
後から来る観客2人が合体したことを称えて、
冒険は終わるという筋書きになっています。
今回は結構アスレチック的なところがあって、
日頃の運動不足が祟り、
途中で恥骨を打って、
1週間ほど腰から臀部の痛みが残りました。
また参加するためには、
日頃の精進が必要と再確認しました。
今回もとても楽しかったですし、
唯一無二の体験でしたが、
演劇的な妙味というか、
ドラマ的な部分の魅力は、
前回の「ゴキブリハートカクテル」の方が優れていました。
前回は血肉の姉妹対決みたいなものがあって、
そうしたものが心を躍らせるのですね。
これは構造的に難しいのだと思いますが、
観客側のドラマと並行して、
役者さん達の間にもドラマがあって、
それが拮抗するような感じがあると、
より盛り上がるし余韻も残るのではないか、
というようには感じました。
いずれにしても現在唯一無二の体感型のお芝居で、
アングラを愛する方には、
もう公演は終わっていますが、
次の機会を是非にお勧めしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
日本に残る最後のアングラ、
ゴキブリコンビナートの本公演に参加しました。
今回は僕の大好きな「順路演劇」、
つまり迷路のような、お化け屋敷のようなセットを作って、
そこに観客が1人ずつ入り、
そこで展開される物語の主人公となって、
その世界を体感する、というタイプの演劇です。
これはその昔寺山修司の天井桟敷が、
「迷路演劇」や「暗闇演劇」という、
それに近いことをやっていたのですね。
それから昔OM2という劇団が、
観客を小さなケージ(檻)の中に閉じ込めて、
迷路のようなセットを巡回する、
というような作品もありました。
ただ、こうした少数の例外はあっても、
演劇集団がこうした「順路演劇」の試みを、
何度も上演するというのは、
ほぼゴキブリコンビナートの独壇場、
と言って間違いはないと思います。
今はリアル脱出ゲームみたいなものもありますから、
昔と比べるとこうしたスタイルの演劇も、
受け入れやすくなっていると思うのです。
ただ、僕は基本的に演劇のマニアなので、
ただのゲームでは詰まらなくて、
そこに演劇の血肉がないと駄目だと思うのですね。
普通のお芝居というのは、
客席という安全な空間に座って、
遠くの額縁の中で繰り広げられる、
役者さんのお芝居を遠見する、
という性質のものでしょ。
順路演劇は自分が主人公になって物語の中に入り込み、
目の前で役者さんの演技を体感する、
という贅沢な趣向なのですね。
そこに何かに憑依して何かを演じている「役者」という存在があるかどうか、
その役者が表現する物語があるかどうか、
それがそのパフォーマンスが演劇であるかどうかの、
分かれ目であるのです。
僕は9年前のゴキブリコンビナートの順路演劇、
「ゴキブリハートカクテル」を体験して、
その虜になったのですが、
今回の作品はそれをよりスケールアップした感じのもので、
舞台は北千住の多目的スペースBUoYの地下に設定され、
あそこは元風呂屋の野趣溢れる大空間なので、
そこに設営された暗黒迷路は、
間違いなく前回より大規模なもので、
特に迷路に入ってから隘路を延々と引き回される感じは、
異世界への導入として、
これ以上のものはありませんでした。
内容は「ゴキブリハートカクテル」とかなり似ていて、
最初に逃げて来る女性と、
襲い掛かる巨根男と対峙する、
というくだりや、
その後で排便塗れになるという趣向、
インチキジェットコースターのようなものに載せられて、
脱出に失敗して散々な目に遭うという趣向などは、
ほぼ同一でした。
前回は中東の内戦的世界観であったのですが、
今回は未知のウイルスによって、
人間がミュータント化した世界になっていて、
観客はその世界を救う救世主に見立てられ、
前回は4人1組で始まって、
途中でバラバラになり、
その後再会するという流れであったのが、
今回は最初は1人ずつで参加して、
途中1人だけでは敵を倒せないという話になり、
闇の中で次の観客を待って、
その見ず知らずの観客と「合体」し、
一緒に敵に立ち向かうという趣向になっています。
最後にはエピローグとして、
敵を倒した後で勇者を称える歌と踊りを覚えさせられ、
後から来る観客2人が合体したことを称えて、
冒険は終わるという筋書きになっています。
今回は結構アスレチック的なところがあって、
日頃の運動不足が祟り、
途中で恥骨を打って、
1週間ほど腰から臀部の痛みが残りました。
また参加するためには、
日頃の精進が必要と再確認しました。
今回もとても楽しかったですし、
唯一無二の体験でしたが、
演劇的な妙味というか、
ドラマ的な部分の魅力は、
前回の「ゴキブリハートカクテル」の方が優れていました。
前回は血肉の姉妹対決みたいなものがあって、
そうしたものが心を躍らせるのですね。
これは構造的に難しいのだと思いますが、
観客側のドラマと並行して、
役者さん達の間にもドラマがあって、
それが拮抗するような感じがあると、
より盛り上がるし余韻も残るのではないか、
というようには感じました。
いずれにしても現在唯一無二の体感型のお芝居で、
アングラを愛する方には、
もう公演は終わっていますが、
次の機会を是非にお勧めしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
抗うつ剤の体重増加影響の比較 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医面談などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Annals of Internal Medicine誌に、
2024年7月2日付で掲載された、
抗うつ剤の体重への影響を比較した論文です。
抗うつ作用を持つ薬剤の多くは、
体重を増加させる働きを持っています。
抗うつ剤を継続的に使用している患者さんの中には、
糖尿病など代謝系の病気を併発していたり、
メタボの傾向のある方も多く、
その場合の急激な体重増加は、
トータルな健康のリスクを高めます。
また、予期せぬ体重の増加は、
患者さん本人にも不安を与え、
治療の中断に繋がるリスクを高める、
という指摘もあります。
「太る薬なら飲みたくない」と思って、
勝手に薬を止めてしまうのは、
ある意味無理のないことだと言って良いかも知れません。
ただ、一口に抗うつ剤と言っても、
その種類は様々で、
その作用メカニズムにも異なる面があります。
その有効性についての報告は多くあっても、
体重増加の副作用を比較したようなデータは、
これまでにあまり存在していませんでした。
そこで今回の研究では、
アメリカの医療保険のデータを解析することで、
抗うつ剤の体重増加についての薬剤間比較を行っています。
対象となっているのは、
抗うつ剤による治療が開始された、
トータル183118名の患者です。
SSRIのセルトラリン(ジェイゾロフト)を基礎薬として、
同じSSRIのシタロプラム(日本未発売)、
エスシタロプラム(レクサプロ)、
フルオキセチン(プロザック日本未発売)、
パロキセチン(パキシル)、
SNRIのデュロキセチン(サインバルタ)とベンラファキシン(イフェクサー)、
そしてNDRIのブプロピオン(日本未発売)が比較されています。
その結果、
セルトラリンとの比較で、
有意な体重増加が認められたのはエスシタロプラム(+0.41キロ)、
パロキセチン(+0.37キロ)、デュロキセチン(+0.34キロ)、
ベンラファキシン(+0.17キロ)、シタロプラム(+0.12キロ)の5剤でした。
フルオキセチンはセルトラリンと体重の増減に差はなく、
ブプロピンのみが、
セルトラリンと比較して有意に体重が低下していました。(-0.22キロ)
このように現行使用されている代表的な抗うつ剤の中で、
最も体重増加を来しにくいのはブプロピオンで、
それに次いで体重増加が少ないのは、
セルトラリンとフルオキセチンでした。
ブプロピオンはノルアドレナリン・ドパミン再取り込み阻害剤で、
ニコチン作用に拮抗することから、
禁煙治療にも有効というとても興味深い薬剤です。
そうした薬に限って、
日本未発売というのはいつもながら複雑な思いがありますが、
今回のデータは患者さんに説明するにも非常に有益で、
今後もこうした検証に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医面談などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Annals of Internal Medicine誌に、
2024年7月2日付で掲載された、
抗うつ剤の体重への影響を比較した論文です。
抗うつ作用を持つ薬剤の多くは、
体重を増加させる働きを持っています。
抗うつ剤を継続的に使用している患者さんの中には、
糖尿病など代謝系の病気を併発していたり、
メタボの傾向のある方も多く、
その場合の急激な体重増加は、
トータルな健康のリスクを高めます。
また、予期せぬ体重の増加は、
患者さん本人にも不安を与え、
治療の中断に繋がるリスクを高める、
という指摘もあります。
「太る薬なら飲みたくない」と思って、
勝手に薬を止めてしまうのは、
ある意味無理のないことだと言って良いかも知れません。
ただ、一口に抗うつ剤と言っても、
その種類は様々で、
その作用メカニズムにも異なる面があります。
その有効性についての報告は多くあっても、
体重増加の副作用を比較したようなデータは、
これまでにあまり存在していませんでした。
そこで今回の研究では、
アメリカの医療保険のデータを解析することで、
抗うつ剤の体重増加についての薬剤間比較を行っています。
対象となっているのは、
抗うつ剤による治療が開始された、
トータル183118名の患者です。
SSRIのセルトラリン(ジェイゾロフト)を基礎薬として、
同じSSRIのシタロプラム(日本未発売)、
エスシタロプラム(レクサプロ)、
フルオキセチン(プロザック日本未発売)、
パロキセチン(パキシル)、
SNRIのデュロキセチン(サインバルタ)とベンラファキシン(イフェクサー)、
そしてNDRIのブプロピオン(日本未発売)が比較されています。
その結果、
セルトラリンとの比較で、
有意な体重増加が認められたのはエスシタロプラム(+0.41キロ)、
パロキセチン(+0.37キロ)、デュロキセチン(+0.34キロ)、
ベンラファキシン(+0.17キロ)、シタロプラム(+0.12キロ)の5剤でした。
フルオキセチンはセルトラリンと体重の増減に差はなく、
ブプロピンのみが、
セルトラリンと比較して有意に体重が低下していました。(-0.22キロ)
このように現行使用されている代表的な抗うつ剤の中で、
最も体重増加を来しにくいのはブプロピオンで、
それに次いで体重増加が少ないのは、
セルトラリンとフルオキセチンでした。
ブプロピオンはノルアドレナリン・ドパミン再取り込み阻害剤で、
ニコチン作用に拮抗することから、
禁煙治療にも有効というとても興味深い薬剤です。
そうした薬に限って、
日本未発売というのはいつもながら複雑な思いがありますが、
今回のデータは患者さんに説明するにも非常に有益で、
今後もこうした検証に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
コルヒチンの脳梗塞予防への有効性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2024年6月26日付で掲載された、
炎症を抑制する働きを持つコルヒチンという薬の、
脳卒中再発予防の有効性を検証した論文です。
コルヒチンという薬があります。
主に痛風発作の初期段階の治療に使用されている薬剤ですが、
この薬は細胞内にある微小管と呼ばれる構造の、
機能を低下させるという特殊な作用を持ち、
白血球の活動も低下させて炎症を抑制する働きがあります。
つまり、抗炎症作用のある薬です。
そこで最近になり、
急性心筋梗塞後30日以内の患者さんに対して、
通常治療に上乗せしてコルヒチンを使用する臨床試験(COLCOT研究)が施行されました。
その結果は、
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に論文として掲載されています。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1912388
急性心筋梗塞を起こして30日以内の患者さん、
トータル4745名を患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで2つの群に分けると、
一方はコルヒチンを1日0.5mg使用継続し、
もう一方は偽薬を使用して、
中間値で22.6か月の経過観察を行なっています。
その結果、
心血管疾患による死亡と心停止、心筋梗塞、脳卒中、
カテーテル治療を要する狭心症を併せたリスクは、
偽薬と比較してコルヒチン群では、
23%(95%CI; 0.61から0.96)有意に低下していました。
個別のリスクで見ると、
脳卒中のリスクが74%(95%CI: 0.10から0.70)、
カテーテル治療を要した狭心症が50%(95%CI: 0.31から0.81)と、
いずれも有意に低下していましたが、
それ以外のリスクは有意な低下はありませんでした。
コルヒチンの有害事象は主に下痢で、
感染症の発症については両群で有意差はありませんでした。
この結果からは、
コルヒチンが脳卒中の再発予防にも、
有効な可能性が示唆されます。
そこで今回の研究では、
中国の244か所の病院において、
年齢が40歳以上で軽症から中等症までの虚血性梗塞と、
再発リスクが高いことの想定される一過性脳虚血発作に罹患した、
トータル8343名の患者を、
発症24時間以内にくじ引きで2つの群に分けると、
一方はコルヒチンを3日目までは1日1㎎、
それ以降は1日0.5㎎で90日間継続使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
その間の再発の有無を比較検証しています。
その結果、
コルヒチン使用群と偽薬群との間で、
脳卒中の再発率には、
有意な差は認められませんでした。
つまり、今回の研究では、
脳卒中の再発予防に、
コルヒチンの有効性は確認されませんでした。
ただ、これは心筋梗塞の同様な試験と比較すると、
短期間の再発に限った検証なので、
その点にどうやら結果が分かれた原因の一端があると考えられます。
この問題は、
また条件を変えて、
検証する必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2024年6月26日付で掲載された、
炎症を抑制する働きを持つコルヒチンという薬の、
脳卒中再発予防の有効性を検証した論文です。
コルヒチンという薬があります。
主に痛風発作の初期段階の治療に使用されている薬剤ですが、
この薬は細胞内にある微小管と呼ばれる構造の、
機能を低下させるという特殊な作用を持ち、
白血球の活動も低下させて炎症を抑制する働きがあります。
つまり、抗炎症作用のある薬です。
そこで最近になり、
急性心筋梗塞後30日以内の患者さんに対して、
通常治療に上乗せしてコルヒチンを使用する臨床試験(COLCOT研究)が施行されました。
その結果は、
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に論文として掲載されています。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1912388
急性心筋梗塞を起こして30日以内の患者さん、
トータル4745名を患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで2つの群に分けると、
一方はコルヒチンを1日0.5mg使用継続し、
もう一方は偽薬を使用して、
中間値で22.6か月の経過観察を行なっています。
その結果、
心血管疾患による死亡と心停止、心筋梗塞、脳卒中、
カテーテル治療を要する狭心症を併せたリスクは、
偽薬と比較してコルヒチン群では、
23%(95%CI; 0.61から0.96)有意に低下していました。
個別のリスクで見ると、
脳卒中のリスクが74%(95%CI: 0.10から0.70)、
カテーテル治療を要した狭心症が50%(95%CI: 0.31から0.81)と、
いずれも有意に低下していましたが、
それ以外のリスクは有意な低下はありませんでした。
コルヒチンの有害事象は主に下痢で、
感染症の発症については両群で有意差はありませんでした。
この結果からは、
コルヒチンが脳卒中の再発予防にも、
有効な可能性が示唆されます。
そこで今回の研究では、
中国の244か所の病院において、
年齢が40歳以上で軽症から中等症までの虚血性梗塞と、
再発リスクが高いことの想定される一過性脳虚血発作に罹患した、
トータル8343名の患者を、
発症24時間以内にくじ引きで2つの群に分けると、
一方はコルヒチンを3日目までは1日1㎎、
それ以降は1日0.5㎎で90日間継続使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
その間の再発の有無を比較検証しています。
その結果、
コルヒチン使用群と偽薬群との間で、
脳卒中の再発率には、
有意な差は認められませんでした。
つまり、今回の研究では、
脳卒中の再発予防に、
コルヒチンの有効性は確認されませんでした。
ただ、これは心筋梗塞の同様な試験と比較すると、
短期間の再発に限った検証なので、
その点にどうやら結果が分かれた原因の一端があると考えられます。
この問題は、
また条件を変えて、
検証する必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
糖尿病治療薬と高カリウム血症リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2024年6月26日付で掲載された、
糖尿病の治療と高カリウム血症のリスクについての論文です。
2型糖尿病の患者さんでは、
臓器保護や合併する高血圧などの治療のために、
レニン・アンジオテンシン系を抑制する薬である、
ACE阻害剤やARBなどを使用する機会が増えます。
こうした薬剤は患者さんの予後を長期的にも改善させる可能性が高く、
継続的な使用が望ましいのですが、
その一方で血液のカリウム濃度を上昇させる、
という副作用があり、
それが服用継続の障害となることがしばしばあります。
血液のカリウム濃度が上昇すると、
心臓の重症不整脈が誘発されるリスクが高まり、
生命予後にも悪影響を与える、
という知見が一方であるからです。
2型糖尿病の患者さんでは、
複数の薬剤を併用することが多いという特徴があります。
そこで問題の1つは、
そうした併用薬剤により、
血液のカリウム濃度にどのような影響があるのか、
ということです。
血液にブドウ糖を排泄する働きを持つSGLT2阻害剤、
インクレチン関連薬のGLP-1アナログとDPP-4阻害剤は、
中でも最近評価が高く、
使用頻度も高い薬剤です。
それでは、こうした薬剤は、
血液のカリウム濃度にどのような影響を与えるのでしょうか?
これまでに臨床試験データの解析などでは、
SGLT2阻害剤とGLP-1アナログは、
尿中へのカリウムの排泄を促進して、
高カリウム血症のリスクを低下させることを、
示唆するデータが報告されています。
ただ、実際に臨床で使用した場合のデータは限られています。
そこで今回の検証では、
アメリカの医療保険のデータを活用して、
実臨床で使用した場合の高カリウム血症のリスクを、
SGLT2阻害剤、GLP-1アナログ、DPP-4阻害剤の3者で比較しています。
その結果、
SGLT2阻害剤の新規使用は、
DPP4阻害剤と比較して高カリウム血症のリスクを、
25%(95%CI:0.73から0.78)、
GLP-1アナログとの比較でも、
8%(95%CI:0.77から0.82)、
有意に低下させていました。
それぞれのクラスにおける個々の薬剤の解析でも、
その傾向は維持されていました。
このように、
高カリウム血症のリスクが高い2型糖尿病の患者さんでは、
SGLT2阻害剤がカリウム上昇のリスクは最も低く、
GLP-1アナログがそれに続いて安全に使用可能と、
そう考えて大きな問題はないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2024年6月26日付で掲載された、
糖尿病の治療と高カリウム血症のリスクについての論文です。
2型糖尿病の患者さんでは、
臓器保護や合併する高血圧などの治療のために、
レニン・アンジオテンシン系を抑制する薬である、
ACE阻害剤やARBなどを使用する機会が増えます。
こうした薬剤は患者さんの予後を長期的にも改善させる可能性が高く、
継続的な使用が望ましいのですが、
その一方で血液のカリウム濃度を上昇させる、
という副作用があり、
それが服用継続の障害となることがしばしばあります。
血液のカリウム濃度が上昇すると、
心臓の重症不整脈が誘発されるリスクが高まり、
生命予後にも悪影響を与える、
という知見が一方であるからです。
2型糖尿病の患者さんでは、
複数の薬剤を併用することが多いという特徴があります。
そこで問題の1つは、
そうした併用薬剤により、
血液のカリウム濃度にどのような影響があるのか、
ということです。
血液にブドウ糖を排泄する働きを持つSGLT2阻害剤、
インクレチン関連薬のGLP-1アナログとDPP-4阻害剤は、
中でも最近評価が高く、
使用頻度も高い薬剤です。
それでは、こうした薬剤は、
血液のカリウム濃度にどのような影響を与えるのでしょうか?
これまでに臨床試験データの解析などでは、
SGLT2阻害剤とGLP-1アナログは、
尿中へのカリウムの排泄を促進して、
高カリウム血症のリスクを低下させることを、
示唆するデータが報告されています。
ただ、実際に臨床で使用した場合のデータは限られています。
そこで今回の検証では、
アメリカの医療保険のデータを活用して、
実臨床で使用した場合の高カリウム血症のリスクを、
SGLT2阻害剤、GLP-1アナログ、DPP-4阻害剤の3者で比較しています。
その結果、
SGLT2阻害剤の新規使用は、
DPP4阻害剤と比較して高カリウム血症のリスクを、
25%(95%CI:0.73から0.78)、
GLP-1アナログとの比較でも、
8%(95%CI:0.77から0.82)、
有意に低下させていました。
それぞれのクラスにおける個々の薬剤の解析でも、
その傾向は維持されていました。
このように、
高カリウム血症のリスクが高い2型糖尿病の患者さんでは、
SGLT2阻害剤がカリウム上昇のリスクは最も低く、
GLP-1アナログがそれに続いて安全に使用可能と、
そう考えて大きな問題はないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
蕁麻疹とがんリスク(2024年デンマークの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Journal of Dermatology誌に、
2024年6月27日付で掲載された、
蕁麻疹とがんリスクについての論文です。
蕁麻疹は非常に一般的な皮膚症状です。
その多くはアレルギーに伴って出現しますが、
他の全身疾患においても、
しばしば蕁麻疹を伴うことが知られています。
その1つが悪性腫瘍(がん)です。
悪性腫瘍(がん)はそれが皮膚に発症するものではなくても、
皮膚病変を併発することが以前より知られています。
しかし、実際に多くの原因で発症する蕁麻疹が、
どの程度のがんリスクと関連しているのかについての、
まとまったデータには乏しいのが現状です。
そこで今回の研究では、
国民総背番号制を取っているデンマークにおいて、
1980年から2022年に蕁麻疹と診断された87507名を対象に、
診断後のがん発症の有無を、
中間値で10.1年観察を継続しています。
そして、蕁麻疹後のがん発症リスクを、
その時点の平均的ながん発症リスクと比較して、
蕁麻疹がその後のがん発症に、
影響を与えている可能性があるかどうかを検証しています。
その結果、
蕁麻疹と診断されて以降のがん罹患率は、
平均と比較して9%(95%CI:1.06から1.11)有意に増加していました。
これを蕁麻疹診断からの期間で見てみると、
診断後1年以内では49%(95%CI:1.38から1.62)の増加で、
それ以降は6%(95%CI:1.04から1.09)の有意な増加が認められました。
こちらをご覧下さい。
これは蕁麻疹出現1年以内での、
個々のがんの発症リスクを一覧表にしたものです。
最もリスクが高かったのは、
ホジキンリンパ腫で5.35倍、
次が非ホジキンリンパ腫の2.91倍、
多発性骨髄腫の2.53倍、
リンパ系白血病の2.46倍、
骨髄性白血病と血液疾患が上位を占め、
卵巣癌1.99倍、肺癌1.96倍、膀胱癌1.94倍、
などが続いています。
原因不明の蕁麻疹が持続する時には、
特に血液系の悪性腫瘍の可能性を、
鑑別として考慮する必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Journal of Dermatology誌に、
2024年6月27日付で掲載された、
蕁麻疹とがんリスクについての論文です。
蕁麻疹は非常に一般的な皮膚症状です。
その多くはアレルギーに伴って出現しますが、
他の全身疾患においても、
しばしば蕁麻疹を伴うことが知られています。
その1つが悪性腫瘍(がん)です。
悪性腫瘍(がん)はそれが皮膚に発症するものではなくても、
皮膚病変を併発することが以前より知られています。
しかし、実際に多くの原因で発症する蕁麻疹が、
どの程度のがんリスクと関連しているのかについての、
まとまったデータには乏しいのが現状です。
そこで今回の研究では、
国民総背番号制を取っているデンマークにおいて、
1980年から2022年に蕁麻疹と診断された87507名を対象に、
診断後のがん発症の有無を、
中間値で10.1年観察を継続しています。
そして、蕁麻疹後のがん発症リスクを、
その時点の平均的ながん発症リスクと比較して、
蕁麻疹がその後のがん発症に、
影響を与えている可能性があるかどうかを検証しています。
その結果、
蕁麻疹と診断されて以降のがん罹患率は、
平均と比較して9%(95%CI:1.06から1.11)有意に増加していました。
これを蕁麻疹診断からの期間で見てみると、
診断後1年以内では49%(95%CI:1.38から1.62)の増加で、
それ以降は6%(95%CI:1.04から1.09)の有意な増加が認められました。
こちらをご覧下さい。
これは蕁麻疹出現1年以内での、
個々のがんの発症リスクを一覧表にしたものです。
最もリスクが高かったのは、
ホジキンリンパ腫で5.35倍、
次が非ホジキンリンパ腫の2.91倍、
多発性骨髄腫の2.53倍、
リンパ系白血病の2.46倍、
骨髄性白血病と血液疾患が上位を占め、
卵巣癌1.99倍、肺癌1.96倍、膀胱癌1.94倍、
などが続いています。
原因不明の蕁麻疹が持続する時には、
特に血液系の悪性腫瘍の可能性を、
鑑別として考慮する必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
カフェイン含有飲料が脱水を進める、は正しいのか? [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
European Journal of Nutrition誌に、
2023年8月18日付で掲載された、
脱水状態にある時に、
カフェインを含む飲料を利用することの可否についての論文です。
これはお茶の伊藤園が奈良女子大学と共同で行った研究です。
お茶やコーヒーなど、
カフェインを含む飲み物は、
猛暑の時などの脱水状態の時に、
脱水を改善するために使用する飲み物としては、
不適当である、という意見があります。
カフェインには利尿作用があり、
飲むことによって、
却っておしっこの量が増えて、
脱水が進行するリスクがあると言うのです。
僕は本も書いているくらいのコーヒー好きなので、
この意見には抵抗がありました。
そこにどの程度の科学的根拠があるのか、
疑問に感じたからです。
そこで調べてみると、
少なくとも臨床データにおいて、
あまりそうした知見は得られていない、
ということが分かりました。
これは2007年のMedicine & Science in Sports & Exercise誌に掲載された、
スポーツ時の脱水への対応についての、
アメリカスポーツ医学会の提言ですが、
これまでの複数の臨床データにおいて、
カフェインを含む飲料を脱水時に使用しても、
脱水の改善に支障はなかった、
というように報告されています。
https://journals.lww.com/acsm-msse/fulltext/2007/02000/exercise_and_fluid_replacement.22.aspx
今回の研究は13名の健康な被験者に対して、
20分の階段昇降運動を10分の休憩を挟んで3回繰り返し、
その後に同量の水もしくはカフェイン入りの水を飲んで、
2時間後の体内の水分バランスを比較しているものです。
その結果、水でもカフェイン入りの水でも、
運動による脱水後の水分バランスの改善には、
同様に有効で、有意な差はないことが確認されました。
そうは言ってもカフェインに利尿作用のあること自体は事実で、
高度の脱水の場合などには、
カフェインを含まない飲み物の方が望ましいと思いますが、
通常の運動時などの軽度の脱水に留まるような状態では、
カフェイン含有の有無を、
そこまで気にする必要はないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
European Journal of Nutrition誌に、
2023年8月18日付で掲載された、
脱水状態にある時に、
カフェインを含む飲料を利用することの可否についての論文です。
これはお茶の伊藤園が奈良女子大学と共同で行った研究です。
お茶やコーヒーなど、
カフェインを含む飲み物は、
猛暑の時などの脱水状態の時に、
脱水を改善するために使用する飲み物としては、
不適当である、という意見があります。
カフェインには利尿作用があり、
飲むことによって、
却っておしっこの量が増えて、
脱水が進行するリスクがあると言うのです。
僕は本も書いているくらいのコーヒー好きなので、
この意見には抵抗がありました。
そこにどの程度の科学的根拠があるのか、
疑問に感じたからです。
そこで調べてみると、
少なくとも臨床データにおいて、
あまりそうした知見は得られていない、
ということが分かりました。
これは2007年のMedicine & Science in Sports & Exercise誌に掲載された、
スポーツ時の脱水への対応についての、
アメリカスポーツ医学会の提言ですが、
これまでの複数の臨床データにおいて、
カフェインを含む飲料を脱水時に使用しても、
脱水の改善に支障はなかった、
というように報告されています。
https://journals.lww.com/acsm-msse/fulltext/2007/02000/exercise_and_fluid_replacement.22.aspx
今回の研究は13名の健康な被験者に対して、
20分の階段昇降運動を10分の休憩を挟んで3回繰り返し、
その後に同量の水もしくはカフェイン入りの水を飲んで、
2時間後の体内の水分バランスを比較しているものです。
その結果、水でもカフェイン入りの水でも、
運動による脱水後の水分バランスの改善には、
同様に有効で、有意な差はないことが確認されました。
そうは言ってもカフェインに利尿作用のあること自体は事実で、
高度の脱水の場合などには、
カフェインを含まない飲み物の方が望ましいと思いますが、
通常の運動時などの軽度の脱水に留まるような状態では、
カフェイン含有の有無を、
そこまで気にする必要はないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。