直接作用型経口抗凝固剤とコレステロール降下剤併用の出血リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックは年末年始の休診期間中です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Journal of General Practice誌に、
2024年11月28日付でウェブ掲載された、
臨床で良く行われている、
2種類の薬剤の併用による出血リスクについての論文です。
心房細動という不整脈における、
脳塞栓症などの予防や、
下肢静脈血栓塞栓症における、
肺血栓塞栓症の予防などには、
抗凝固剤という、
強力に血液の凝固を抑える薬が使用されます。
古くから使用されているのが、
注射薬のヘパリンと経口薬のワルファリンで、
最近その利便性からその利用が増えているのが、
直接作用型経口抗凝固剤(DOAC)と呼ばれる薬です。
プラザキサやイグザレルト、エリキュース(いずれも商品名)、
などがそれに当たります。
この直接作用型経口抗凝固剤は、
概ね良くコントロールされたワルファリンと同等の効果と、
より低い重症出血系合併症発症率を持つと報告されています。
しかし、直接作用型経口抗凝固剤の使用時にも、
消化管出血や脳出血などの出血系有害事象が、
少なからず発症しています。
ワルファリンは多くの薬剤や食品などとの相互作用があり、
その併用により出血リスクが増加することが報告されています。
こうした相互作用は直接作用型経口抗凝固剤ではない筈ですが、
実際には出血リスクはワルファリンより少ないものの増加は認められています。
直接作用型経口抗凝固剤と、
臨床的に併用されることが多い薬剤の1つが、
スタチンと呼ばれるコレステロール降下剤です。
抗凝固剤が使用されるような病態では、
動脈硬化の進行がベースにあることが多く、
コレステロール降下作用のみならず、
抗炎症作用など動脈硬化の進行予防に働く、
有効性が確認されているからです。
ただ、ここで1つの危惧があります。
スタチンとして使用されることの多い、
アトルバスタチンとシンバスタチンは、
薬剤などの異物を細胞外に排出する働きを持つ、
P糖タンパク質の基質で、
肝臓の薬物代謝酵素であるCYP3A4で代謝されますが、
DOACも同じP糖タンパク質が基質で、
CYP3A4で代謝されます。
そのため、両者を併用すると、
その相互作用によって、
DOACの作用が強まり、
出血などの合併症のリスクが、
高まることが予想されます。
しかし、これまでその併用によるリスク増加のデータは限られていて、
その結果も一定はしていません。
今回の研究では、
イギリスのプライマリケアの大規模データを活用して、
DOAC(ダビガトラン、リバロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)と、
アトルバスタチン、シンバスタチンの併用が、
出血などの合併症に与える影響を比較検証しています。
対象はDOACが使用された、
トータル397459例で、
そのうちの70318例ではアトルバスタチンが、
38724例ではシンバスタチンが併用されていました。
他のスタチン使用群と比較して、
アトルバスタチンとシンバスタチン使用群では、
出血リスクや心血管疾患リスクに、
有意な差は認められませんでした。
総死亡のリスクについては、
シンバスタチンで上昇が認められましたが、
年齢などの因子を補正すると、
有意な上昇は検出されなくなりました。
アトルバスタチンやシンバスタチンの使用中に、
DOACの使用を開始すると、
出血リスクと死亡リスクは上昇が認められましたが、
DOACの使用中に、
アトルバスタチンやシンバスタチンを併用しても、
同様のリスク増加は認められませんでした。
このように、
確かにスタチンにDOACを上乗せすると、
出血リスクは増加するのですが、
DOACにスタチンを上乗せしても、
そうしたリスク増加は認められないことから考えて、
このリスク増加は、
薬剤相互作用によるものではなく、
DOACを使用する理由となった、
血栓症などの病気によるものと考えられました。
勿論両者の薬剤の併用時には、
有害事象や副作用のリスクには、
充分留意する必要がありますが、
その併用を特別視する必要は、
どうやらなさそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックは年末年始の休診期間中です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

British Journal of General Practice誌に、
2024年11月28日付でウェブ掲載された、
臨床で良く行われている、
2種類の薬剤の併用による出血リスクについての論文です。
心房細動という不整脈における、
脳塞栓症などの予防や、
下肢静脈血栓塞栓症における、
肺血栓塞栓症の予防などには、
抗凝固剤という、
強力に血液の凝固を抑える薬が使用されます。
古くから使用されているのが、
注射薬のヘパリンと経口薬のワルファリンで、
最近その利便性からその利用が増えているのが、
直接作用型経口抗凝固剤(DOAC)と呼ばれる薬です。
プラザキサやイグザレルト、エリキュース(いずれも商品名)、
などがそれに当たります。
この直接作用型経口抗凝固剤は、
概ね良くコントロールされたワルファリンと同等の効果と、
より低い重症出血系合併症発症率を持つと報告されています。
しかし、直接作用型経口抗凝固剤の使用時にも、
消化管出血や脳出血などの出血系有害事象が、
少なからず発症しています。
ワルファリンは多くの薬剤や食品などとの相互作用があり、
その併用により出血リスクが増加することが報告されています。
こうした相互作用は直接作用型経口抗凝固剤ではない筈ですが、
実際には出血リスクはワルファリンより少ないものの増加は認められています。
直接作用型経口抗凝固剤と、
臨床的に併用されることが多い薬剤の1つが、
スタチンと呼ばれるコレステロール降下剤です。
抗凝固剤が使用されるような病態では、
動脈硬化の進行がベースにあることが多く、
コレステロール降下作用のみならず、
抗炎症作用など動脈硬化の進行予防に働く、
有効性が確認されているからです。
ただ、ここで1つの危惧があります。
スタチンとして使用されることの多い、
アトルバスタチンとシンバスタチンは、
薬剤などの異物を細胞外に排出する働きを持つ、
P糖タンパク質の基質で、
肝臓の薬物代謝酵素であるCYP3A4で代謝されますが、
DOACも同じP糖タンパク質が基質で、
CYP3A4で代謝されます。
そのため、両者を併用すると、
その相互作用によって、
DOACの作用が強まり、
出血などの合併症のリスクが、
高まることが予想されます。
しかし、これまでその併用によるリスク増加のデータは限られていて、
その結果も一定はしていません。
今回の研究では、
イギリスのプライマリケアの大規模データを活用して、
DOAC(ダビガトラン、リバロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)と、
アトルバスタチン、シンバスタチンの併用が、
出血などの合併症に与える影響を比較検証しています。
対象はDOACが使用された、
トータル397459例で、
そのうちの70318例ではアトルバスタチンが、
38724例ではシンバスタチンが併用されていました。
他のスタチン使用群と比較して、
アトルバスタチンとシンバスタチン使用群では、
出血リスクや心血管疾患リスクに、
有意な差は認められませんでした。
総死亡のリスクについては、
シンバスタチンで上昇が認められましたが、
年齢などの因子を補正すると、
有意な上昇は検出されなくなりました。
アトルバスタチンやシンバスタチンの使用中に、
DOACの使用を開始すると、
出血リスクと死亡リスクは上昇が認められましたが、
DOACの使用中に、
アトルバスタチンやシンバスタチンを併用しても、
同様のリスク増加は認められませんでした。
このように、
確かにスタチンにDOACを上乗せすると、
出血リスクは増加するのですが、
DOACにスタチンを上乗せしても、
そうしたリスク増加は認められないことから考えて、
このリスク増加は、
薬剤相互作用によるものではなく、
DOACを使用する理由となった、
血栓症などの病気によるものと考えられました。
勿論両者の薬剤の併用時には、
有害事象や副作用のリスクには、
充分留意する必要がありますが、
その併用を特別視する必要は、
どうやらなさそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2025-01-04 17:15
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コメント(1)
こんばんは。血液をサラサラにするお薬とは全く関係のないコメントで失礼します。今日読んだ安部公房・人間そっくりについての考察をネットで検索していたところ、20140831のブログがhitして拝読させていただきました。タタール人の砂漠がおすすめです。既にご存知でしたらご放念ください。
by わたなべ (2025-01-05 00:36)