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食物アレルギーに対するオマリズマブの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ゾレアの食物アレルギーへの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年2月25日付で掲載された、
食物アレルギーに対する生物学的製剤の治療の有効性についての論文です。

食物アレルギーは、
特定の成分を含む食品を食べた時に、
アレルギー反応を起こす病気で、
軽ければ口の周りが少し赤くなったり、
かゆみが出たりする程度の場合もありますし、
アナフィラキシーと言って、
血圧低下などを伴う重篤な全身的な症状が出ることもあります。
その反応の強さは、
摂取する量によって違いがあり、
食べる量が多いほど症状も強くなります。
そして、重症のアレルギーがあるほど、
ごく少量の摂取でも重い症状が出るのです。

食物アレルギーの治療は、
その成分を除去することが、
長くスタンダードな治療として行われて来ました。

卵のアレルギーがある場合には、
卵を一切食べないという治療です。

ただ、患者さんによっては多くの食品に、
アレルギー反応を示す場合もあり、
全ての食品を除去することは、
栄養的にも困難なケースがあります。
また、食事は人生の楽しみでもありますから、
ある食品を一生食べられないというのは、
かなりの犠牲を強いることでもあります。

何か良い治療法は他にないのでしょうか?

最近施行されている方法の1つが、
経口免疫療法と呼ばれる方法です。

これは原因となる成分を、
極微量から摂取することを開始して、
徐々にその量を増やしてゆく、
という治療法です。
まず、どのくらいの量で症状が出現するのかを、
負荷試験によって確認しておいて、
それより少ない量から摂取を開始するのです。

この方法を持続することによって、
徐々にアレルギーに対する耐性が獲得され、
少しの量なら食べても問題ない状態に、
改善する事例が少なからずあることが、
多くの研究によって確認されています。

最もその有効性が確認されているのは、
ピーナツアレルギーで、
それ以外にも牛乳や卵など、
多くのアレルゲンで同様の試みが行われ、
一定の効果が報告されています。

ただ、これで充分かと言うと、そうは言えません。

食物アレルギーの原因である食品を、
敢えて負荷するのですから、
当然体調不良やアナフィラキシーなどのリスクがあります。
治療は長期間を要しますし、
効果には個人差があって、
その食品が食べられるようになるという保証はありません。
特に複数の成分に対してのアレルギーがあると、
その1つ1つに対して同じことをするのですから、
かなりストレスの掛かる治療でもあります。

それでは、他に何か良い治療はないのでしょうか?

即時型の食物アレルギーでは、
その反応を媒介する物質の主体はIgEという、
免疫グロブリンです。

その成分に対する特定のIgEが増加していて、
それが反応を起こしているのです。

それであるなら、そのIgEを除去してしまえば、
反応は起こらなくなる理屈です。

IgEに結合する抗体を薬にした、
生物学的製剤が既に開発され、
重症の気管支喘息や蕁麻疹、花粉症などの、
アレルギー症状の改善に使用されています。

その代表がオマリズマブ(ゾレア)という注射薬です。

ただ、この薬を食物アレルギーに使用した場合の有効性と安全性とは、
まだ確立されていません。

そこで今回の臨床研究では、
年齢が1から55歳で、
100㎎以下の負荷で症状の出現するピーナツアレルギーを持ち、
それ以外に卵や牛乳など2種類以上のアレルギー(300㎎以下の負荷で症状出現)を、
併発している食物アレルギー患者、
トータル180名をくじ引きで2つの群に分け、
一方は抗IgE抗体であるオマリズマブを、
2から4週毎に皮下注射することを繰り返し、
もう一方は偽の注射を同じように施行して、
16から24週の治療を継続。
その後にもう一度経口負荷試験を施行して、
その結果を治療前と比較しています。
解析は1から17歳の177名が最終的には対象となっています。

その結果、
ピーナツ蛋白に対する経口負荷試験で、
治療後に600㎎を負荷しても無症状であった比率は、
偽薬では59例中7%に当たる4名であったのに対して、
オマリズマブ治療群では118名中67%に当たる79名で、
オマリズマブの治療により、
食物アレルギーへの耐性が一定レベル獲得されているのが分かります。

ピーナツ以外のアレルギーについてみると、
治療後に1000㎎を負荷しても症状が出なくなっていたのは、
カシューナッツが偽薬群3%に対して治療群41%、
牛乳が偽薬群10%に対して治療群66%、
卵が偽薬群0%に対して68%、
となっていました。

つまり、複数の原因による食物アレルギーであっても、
オマリズマブの治療を継続することにより、
原因食品に対する耐性が獲得され、
一定の有効性があることが確認されました。

ただ、より長い治療期間(40から44週)の検討では、
有効性が維持されたり、より改善した事例があった一方で、
全体の21%においては効果が減弱していました。

従って、治療効果は永続的なものではない可能性もあるのです。

現在今回発表された報告と並行して、
経口免疫療法とオマリズマブの治療を併用する試みも行われていて、
それにより経口免疫療法がより安全に、
より効果的に施行可能となる可能性があり、
今後のデータの開示に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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仕事中の座位時間と健康リスク(台湾の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
座位時間と心血管疾患リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年1月19日付で掲載された、
仕事中の座位時間と健康リスクについての論文です。

1日のうち座っている時間が長いと、
動脈硬化関連の病気や糖尿病などのリスクを高め、
生命予後にも大きな影響を与えることは、
最近健康管理において注目されている知見の1つです。

その代表的な初期の知見の1つは、
オーストラリアで22万人以上の一般住民を対象としたものですが、
1日のうち11時間を超えて座っていると、
4時間未満しか座っていない場合と比較して、
総死亡のリスクが40%増加した、
という結果になっています。
このデータのポイントは、
1日の運動時間とは無関係にそうした関連が認められた、
ということで、
座っている時間が長いこと自体が、
それ以外の生活パターンとは独立して、
健康リスクになっているという点が重要なのです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22450936/

問題は仕事をしている世代では、
仕事の内容によって座っている時間がほぼ固定されてしまう、
という事実にあります。

たとえば、電話対応が主体の仕事では、
7時間以上座りっぱなし、というようなケースもあり得ますし、
仕事によってはより長い時間、
座っていることを強いられる、
というような状況もありそうです。
私は外来を主体の診療を仕事としているので、
結果としてかなりの時間は座ったままで仕事をしています。

仮に座っているだけで健康リスクとなるのであれば、
そうした仕事に従事していて病気になれば、
それは労災ということにもなりかねません。

企業の経営者は、
労働者を長く座らせない義務がある、
ということも言えなくはないと考えると、
この問題が社会に与える影響は実は非常に大きい、
と考えることが出来ます。

ただ、ここで注意が必要なことは、
座位時間と健康リスクを検証した多くの研究において、
仕事中の座位時間と、
仕事以外の座位時間には区別がないということです。

そこで今回の研究は台湾において、
大規模な疫学調査のデータを活用し、
仕事中の座位時間と健康リスクとの関連を解析しています。

対象は平均年齢39.3歳の481688名で、
平均の観察期間は12.85年です。
性別などの因子を補正した結果として、
殆どの時間座って仕事をしている人は、
殆ど座って仕事をすることがない人と比較して、
総死亡のリスクが1.16倍(95%CI:1.11から1.20)、
心血管疾患による死亡のリスクが1.34倍(95%CI:1.22から1.46)、
それぞれ有意に増加していました。
一方で座る時間とそれ以外の時間を繰り返して仕事をしている人では、
総死亡リスクの有意な増加は認められませんでした。
また仕事中の座位時間が長く、運動習慣もない人が、
1日15から30分の運動習慣を身に着けると、
座位時間は変化していなくても、
総死亡リスクの増加は認められないことも確認されました。

このように、今回のデータからは、
仕事中の座時時間の長さは健康リスクに繋がり、
ずっと座りっぱなしではない仕事環境に移行することにより、
その改善が可能であることが示唆されました。

こうした知見は研究によってかなり差があり、
1つの結果のみで「座りっぱなしの仕事は駄目」、
と決めつけることは危険ですが、
今後座位時間が長いことを強いるような業務が、
制限される可能性もあり、
かなり社会に与えるインパクトの大きな知見であることは間違いがないので、
今後の推移を慎重にフォローしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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横山拓也「う蝕」(瀬戸山美咲演出) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
う蝕.jpg
横山拓也さんの書き下ろし戯曲を、
瀬戸山美咲さんが演出した舞台が、
今三軒茶屋のシアタートラムで上演されています。

これは架空の島が「う蝕」という原因不明の災害(?)に見舞われ、
多くの島民が犠牲になった後に、
遺体の身元を確認するために歯科医師が島を訪れる、
という設定で、
殆ど生きている者のいない孤島を舞台に展開される物語ですが、
如何にも小劇場的な仕掛けによって、
災害によって失われた命に対する生者の鎮魂と責任という、
「今」を強く感じさせるテーマを掘り下げた力作で、
鋭い刃物のような切れ味のある戯曲も素晴らしいですし、
瀬戸山さんの小劇場的なコントラストの明確な演出も良く、
男性のみのキャストの芝居も、
ベテランから若手までバランスの取れた見応えのあるものでした。

「不条理劇」という表現が紹介文に使われていますが、
前衛演劇ではあっても、不条理演劇ではないと思います。
昔の劇団300などで使われていた、
小劇場演劇の1つのパターンを使っていて、
イキウメの初期の「関数ドミノ」を初演した辺りくらいの、
技巧的な作品の肌触りに近い感じもあります。
こういう作品が個人的には大好物なので、
いいな、いいな、と心の中で反芻しながら、
後半はじっくりと観ることが出来ました。

これ、3幕劇なのですが、
2幕で一旦時制が戻るんですね。
3幕劇というより、能の構成に近くて、
前場と後場があって、
その間に間狂言が挟まれている感じなのです。
多分能は意識はされているんですね。
何故時制が戻るのかと2幕を観ている時は不思議に感じるのですが、
それが3幕で鮮やかに意味を持つことが分かるのです。
極めて巧緻な構成だと思います。

瀬戸山さんの演出が良いですよね。
最初に折り紙のような舞台が開くところ、
アングラ的でワクワクしますよね。
あんなことやらなくてもいいのですが、
敢えてやるところに小劇場の心意気みたいなものを感じます。
鈴の音のような音に意味を持たせたり、
舞台の凹凸がまた極めて巧みに活かされていました。

キャストは皆好演でしたが、
特に坂東龍汰さんの熱演が印象的で、
正名僕臓さんと相島一之さんのベテランが、
要所を綺麗に閉める、
とても良い仕事をしていたと思います。

総じて如何にも小劇場演劇らしい、
仕掛けと企みに満ちながら、
深いメッセージ性も秘めた力作で、
是非是非劇場で体感して頂きたいと思います。

ただ、仕掛けのある作品で、
最初から結構緊張と集中を強いる感じがあるので、
寝不足だと佳境に入る前に寝落ちする可能性もあります。
せっかくの力作がそれではとても残念なので、
是非万全の体調で観劇して頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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便座の蓋を閉めて水を流すことの感染予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トイレの蓋と感染リスク.jpg
American Journal of Infection Control誌に、
2024年2月付で掲載された、
洋式便器の蓋を閉めて水を流すことの、
感染予防効果についての論文です。

最近不特定多数の方が利用する個室トイレには、
「便器の蓋を閉めてから水を流して下さい」
というような掲示がしばしば掲げられています。

これは特に便中の感染性の病原体が、
便器の蓋を開けたままで水を流すことにより、
便座やその周辺に飛散して、
それがトイレを介した感染リスクに繋がるという指摘があるからです。

たとえば、クロストリジウム菌という、
院内感染などを引き起こす細菌について検証した研究では、
便座の蓋を開いた場合と比較して、
蓋を閉じて水を流すことにより、
周辺への細菌を含む飛沫の拡散が、
ゼロにはならないもののかなり抑制された、
という結果が報告されています。
https://www.journalofhospitalinfection.com/article/S0195-6701%2811%2900339-2/fulltext

ただし、これは細菌の場合の話で、
よりその大きさが小さく、
新型コロナやインフルエンザ、ウイルス性腸炎などの原因となる、
ウイルス感染についても成り立つことであるかどうかについては、
まだ明確なデータがありませんでした。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
実験に使用する無害なウイルスを使用して、
それを排便時と同じように便器に巻き、
便座の蓋を開けた場合と閉めた場合とで、
トイレの水を流して、
周囲へのウイルスの飛散の有無を比較検証しています。

その結果、周辺でのウイルスの飛散量には、
便座の蓋を開けておいても閉めて水を流しても、
明確な差は認められませんでした。

つまり、トイレの蓋を閉めて水を流すことは、
細菌感染の予防には繋がっても、
ウイルス感染の予防には繋がらない、
という結果です。

それでは、どのようにすればウイルス感染の予防が可能なのでしょうか?

研究では1つの試みとして、
事前に便器を塩化水素系の消毒薬で洗浄を行ったところ、
ウイルスの周囲への飛散は90%以上抑制されました。

つまり、便器からのウイルス感染の予防には、
定期的に便器を除菌することが、
蓋の開け閉めよりも重要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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非アルコール性脂肪性肝疾患の生命予後と糖尿病との関連(韓国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
非アルコール性脂肪性肝疾患の生命予後.jpg
British Medical Journal誌に、
2014年2月13日付で掲載された、
非アルコール性脂肪性肝疾患の生命予後についての論文です。

肝臓に脂肪(中性脂肪)が過剰に溜まった状態を、
脂肪肝と呼んでいます。

肝臓は元々、身体の余分な脂肪を、
中性脂肪という形にして貯めこむ倉庫のような場所ですが、
その倉庫が脂肪で満杯となって膨れ上がったような状態が脂肪肝です。

その過剰な脂肪が炎症を起こし、
肝臓の細胞を破壊してしまうような事態に陥った状態を、
脂肪肝炎と呼んでいます。

肝臓の細胞が炎症を起こして破壊されると、
細胞の中にあった酵素が血液中に漏れ出て来ます。
この酵素の代表がALT(GPT)なので、
一般に肝機能の指標とされているALTが上昇することは、
肝炎の重要な指標となっているのです。

お酒を過剰に飲むことによって起こるアルコール性肝障害では、
高率にアルコール性の脂肪肝炎が起こります。
しかし、最近殆ど飲酒をしない人でも、
脂肪肝や脂肪肝炎になることが注目され、
それを非アルコール性脂肪性肝疾患と、
非アルコール性脂肪肝炎と呼んでいます。

この非アルコール性脂肪性肝疾患は、
メタボリックシンドロームと関連が深く、
いずれも内臓脂肪の蓄積の1つの現れと、
考えることが出来ます。

メタボと関連の深い生活習慣病としては、
他に2型糖尿病があり、
いずれも動脈硬化を進行させ、
心臓病や脳卒中などのリスクを高めることが知られています。

しかし、
2型糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患が合併した場合の、
動脈硬化性疾患のリスクや生命予後については、
精度の高い疫学データは不足しているのが実際です。

そこで今回の研究では韓国において、
20歳以上で1日アルコール30グラム以上の飲酒習慣のない、
7796793名の一般住民を対象とした健康調査のデータを活用して、
脂肪肝の簡易的指標である、
脂肪肝指数(Fatty Liver Index)により、
非アルコール性脂肪性肝疾患なし(脂肪肝指数30未満)、
非アルコール性脂肪性肝疾患の疑い(脂肪肝指数30以上60未満)、
非アルコール性脂肪性肝疾患(脂肪肝指数60以上)に分け、
動脈硬化性疾患のリスクと生命予後を、
2型糖尿病のあるなしで検証しています。
観察期間の中間値は8.13年です。

その結果、
対象者のうちの6.49%が2型糖尿病と診断され、
糖尿病のない人での非アルコール性脂肪性肝疾患の比率は、
10.02%であったのに対して、
糖尿病の患者さんでは、
その26.73%に非アルコール性脂肪性肝疾患が認められました。

2型糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患のどちらもない人では、
心血管疾患のリスクは年間1000人当たり2.26件でしたが、
非アルコール性脂肪性肝疾患の疑い群では3.83件、
非アルコール性脂肪性肝疾患群では3.77件と、
そのリスクの増加が認められました。

2型糖尿病の患者さんでは、
心血管疾患のリスクは年間1000人当たり8.28件と、
糖尿病のない場合と比較して著明な増加を認めていて、
ここで非アルコール性脂肪性肝疾患の疑い群では9.19件、
非アルコール性脂肪性肝疾患群では8.34件と、
明確な増加とまでは言えない気がしますが、
よりリスクの高まる傾向を認めました。

総死亡のリスクについては、
糖尿病も非アルコール性脂肪性肝疾患のない群では、
年間1000人当たり3.03件でしたが、
非アルコール性脂肪性肝疾患疑い群では3.90件、
非アルコール性脂肪性肝疾患群では3.63件と、
これも微妙な感じはしますが、
リスクが増加する傾向は認めていました。

非アルコール性脂肪性肝疾患群のない2型糖尿病群では、
総死亡のリスクは年間1000人当たり11.64件と、
明確な増加を示していましたが、
そこに非アルコール性脂肪性肝疾患が加わっても、
明確な死亡リスクの増加は認められませんでした。

このように心血管疾患のリスクも総死亡のリスクも、
矢張り2型糖尿病において著明の増加していて、
2型糖尿病が生命予後に大きな影響を与える因子であることは、
間違いがありません。
非アルコール性脂肪性肝疾患は、
単独でも糖尿病ほどではありませんが、
心血管疾患リスクや総死亡のリスクを、
押し上げる因子にはなっていて、
疑いのレベルでも明確なリスク増加が認められる、
という点は重要な知見であると思います。
糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患が併存すると、
そのリスクはより増加する傾向を示していますが、
糖尿病の影響の方がより顕著であるためか、
併存の場合のリスク増加は、
それほど明確なものとまでは言えませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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心房性心臓病患者に対する抗凝固剤の脳卒中予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
心房性疾患に対する抗凝固療法の有効性.jpg
JAMA誌に2024年2月4日付で掲載された、
心房細動のない心房性心臓病に対する、
抗凝固剤使用の有効性についての論文です。

心房細動という不整脈は、
心臓の心房という部分が不規則に収縮する病気で、
通常は一時的に出現してまた元に戻ることを繰り返し、
それから不整脈のみが継続する、
慢性心房細動と呼ばれる状態に移行します。

そしてこの不整脈は、
時々発作を起こす状態であっても、
心房に血栓が出来て、
それが脳の血管に詰まる、
脳卒中(脳塞栓症)を起こすリスクが高まることが知られています。
たとえば動脈硬化が進行していることの想定される高齢者では、
たった一度の発作性心房細動を起こしただけで、
その後の脳卒中のリスクが約2倍増加した、
という報告もあります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4766055/

そのため、
この不整脈が確認された場合には、
不整脈自体を治療する試みと共に、
抗凝固剤と呼ばれる、
血栓が出来難くなる薬剤を、
継続的に使用することで、
脳卒中のリスクを抑制する治療が行われます。

ただ、実際には心房細動が確認されなくても、
左心房に負荷が掛かっているだけで、
脳卒中のリスクが増加するという報告があります。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4766055/

そのため心電図などの所見から、
左心房に負荷が掛かっている状態のことを、
心房性心臓病(Atrial Caidiopathy)と呼んで、
それ自体を治療しようという考え方があります。

もしこれが事実であるとすれば、
まだ心房細動を発症しない状態であっても、
左心房への負荷がある状態であれば、
脳卒中の予防のための治療が必要だ、
ということになります。

しかし、実際には心房細動のない心房性心臓病の患者さんに、
抗凝固療法を施行した場合の有効性は、
明らかではありません。

そこで今回の研究では、
アメリカとカナダの複数施設において、
年齢は45歳以上で潜在性の虚血性梗塞の既往があり、
心房細動は確認されないものの、
左心房に負荷の所見のある、
トータル1015名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は1日81㎎の低用量アスピリンを使用し、
もう一方は抗凝固剤であるアピキサバンを使用して、
その後の脳卒中予防効果を、
平均で1.8年の観察期間で検証しています。

左房負荷の指標は、
心電図における左房負荷の指標である、
左房の機能を反映するP波の後半部分の所見
(PTFV1>5000μV)と、
心負荷の所見であるNT-proBNPの軽度上昇(>250pg/mL)、
エコーで計測した心房の大きさ(ADI3.0 cm/㎡以上)との3つの指標から、
少なくとも1つ以上を満たす状態、
として定義されています。

その結果、
アスピリンと比較してアピキサバンの使用は、
明確な脳卒中予防効果を示せませんでした。
また、重篤な出血系の合併症のリスクにおいても、
両群では有意な差はありませんでした。

このように心房細動以外の、
左房負荷に関わる脳卒中リスクの増加を予防する目的で、
アスピリンの代わりにアピキサバンを使用しても、
現状で明確な予防効果を示すことは出来ませんでした。

心房細動に至っていない左房負荷の脳卒中リスクに対して、
どのような対策を高じるべきかについては、
まだ明確な結論は得られていないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ボーはおそれている」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ボーは怖れている.jpg
鬼才アリ・アスター監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

アリ・アスター監督は、
「ヘレディタリー継承」が、
ポランスキー監督の某作を見事に換骨奪胎した大傑作で、
次の「ミッドサマー」も「ウィッカーマン」を、
極彩色でリニューアルした、
大ほら吹きのようなカルトでした。

それで次はどうするつもりだろうと、
待ちわびていたのですが、
今回はボーという、
ホアキン・フェニックスさん演じる謎の中年男が、
母親を求めて奇怪な旅を続ける様を、
アメリカ映画の全ての要素を詰め込んで、
それをグロテスクに解体したような異様な肌触りで、
3時間に渡り綴られた大作でした。

感想は…
うーん…
大好きなんだけど、
出来としてはモヤモヤする、
という感じがありました。

今回はそう「地獄の黙示録」みたいな感じですね。
圧倒的な迫力の地獄巡りが、
挿話を連ねたような様式で、
次々と終わることなく続いて行くのですが、
最後までその本質みたいなものには、
触れないままに終わったしまった、
というような感じがある映画でした。

個人的にはとても面白くて全く退屈は感じなかったんですね。
3時間も長いという感じはしなくて、
むしろもっと長くてもいいと思ったくらい。
逆に言うと、この程度で終わったしまったら、
ちょっと残念だな、
という感じが最後まで残ってしまいました。

まずボーという人がどういう人なのか、
良く分からないんですよね。
生活の輪郭が全く分からなくて、
働いているのかいないのかも分からないし、
貧乏なのか裕福なのかも分からないですよね。
最後になって、こういうことでした、
みたいなネタばらしが一応あるのですが、
それを聞いても、やはり良く分からないんですね。
通常の映画にあるような、
「この人はこういう人です」みたいな説明が、
この映画には一切ないからなんですね。

普通はこういう主人公の設定の良く分からない話というのは、
最後になると、ネタバレがあって、
それが分かるように出来ているんですが、
この映画はネタバレはあっても、
それがまたあまり辻褄があっていない感じなので、
腑に落ちた、というようなカタルシスがないのです。

屋根裏に秘密があって、
最後に上って行くのですが、
そこにある秘密というのが、
これもとても納得のゆくものじゃないんですね。
この辺りも「地獄の黙示録」に良く似ていて、
物凄く勿体ぶった前振りをしているのに、
「えっ、これで終わりなの?」
という感じがあるのです。

多くのアリ・アスター監督のファンにとって、
おそらく今回の映画は、
納得のゆくものではなかったと思うんですね。
次作は同じホアキン・フェニックスさんの主演で、
ウェスタンだそうですから、
「またどうなのかなあ」という危惧はあるのですが、
それでも熱烈なファンの1人としては、
その公開を心待ちにしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「夜明けのすべて」(三宅唱監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
夜明けのすべて.jpg
瀬尾まい子さんのベストセラーを、
「ケイコ 目を澄ませば」の斬新な映像表現が印象的だった、
気鋭の三宅唱監督が映画化しました。
原作のPMSとパニック障害の主人公2人を、
人気者で演技派でもある、
上白石萌音さんと松村北斗さんが演じています。

これは映画を観てとても感銘を受けたので、
原作を後から読んだのですが、
映画は原作をかなり大きく改変していて、
読後の印象は映画と別物と言って良いほど違っていたので、
映画の評価もちょっと悩ましいものになってしまいました。

原作を読んでお好きな方が、
この映画をご覧になると、
多分かなりショックを受けるのではないかと思います。
なので、ご覧になる時には、
別物と割り切って鑑賞するのが吉です。
逆に先に映画をご覧になって感動された方は、
是非原作をお読み下さい。
映画の方が良いな、と思われる方もいると思いますし、
その反対の方もいると思います。

映画単体として考えると、
三宅唱監督らしいドキュメンタリー的な映像表現が、
非常に完成度高く駆使されていて、
随所にハッとさせる場面もあり、
特に観客の生理を計算し尽くしたような、
編集が素晴らしいと思います。

ホリプロが主体の映画なので、
分かり易さを重視しながら、
監督の個性はしっかり出されている、
という点にも感心しました。

主役2人の演技がまた素晴らしく、
特に松村北斗さんは、
最初の如何にも関わると面倒そうな雰囲気から、
ラストの笑顔までの振幅の大きさが見事で、
これまでの代表作と言って良い仕上がりでした。

ただ、前述のように原作とはほぼ別物で、
それもかなり根幹の部分を変えてしまっているので、
その点について以下少し比較してみます。

ネタバレになりますので、
これから原作を読まれる予定の方や、
映画を鑑賞予定の方はご注意下さい。

よろしいでしょうか?

では続けます。

映画を観ると、
「ははあ、これは恋愛感情なしの男女の交流を描いた映画なのね」
というように思うのですね。
そうした台詞もありますし、
普通は最後は一緒になるか、
ならなくてもちょっといい雰囲気にはなるか、
一度別れても最後には再会するのか、
そのどれかになると思うでしょ。
でもそうならないんですね。
上白石さんのお母さんがパーキンソン病で介護が必要となり、
実家に戻ってしまう一方、
松村さんの方は最初は馬鹿にしていた中小工場に残ることになり、
特別な感慨もなく、2人は別々の道を歩んで、
それで終わってしまうのです。
ある意味斬新な終わり方で、
現実なんて多分そんなものでしょうし、
悪い気分にはならないんですね。

でも、原作を読むと全然違っていて、
そちらは最後、
2人は中小工場でそのまま働き続け、
何となくいい感じになって終わるんですね。
とても普通の終わり方です。
映画の上白石さんの役の母親も、
原作ではぴんぴんしていて、
別に介護が必要にもならないのですね。

そもそも2人の勤めている会社も、
ネジなどを作って売っている中小企業で、
プラネタリウムなどとは何の関係もないんですね。
クライマックスは上白石さんの役の女性が盲腸で入院して、
一念発起した松村さん役の男性が、
初めて頑張って病院まで遠出する、
というエピソードになっています。
まあ、ベタな感じではあるのですが、
それを映画はバッサリ切って、
プラネタリウムの話を創出しているのです。
そこで朗読される題名に結び付く感動的なメッセージも、
勿論原作にはありません。

他にも改変箇所は山のようにあって、
パニック障害の男性が、
薬を飲みながら軽トラを運転している、
という原作の設定などは、
怒られてしまうのが必定ですから、
変えて仕方がないのですが、
ほぼほぼ全ての設定を変えまくっていて、
残っているのは、
松村さんの髪を上白石さんが切る場面と、
上白石さんのイライラを、
行動療法的なアプローチで、
松村さんが解消して上げるという場面ですね。
この2つは映画でも非常に印象的ですが、
この場面の鮮烈さは、
原作の良さなのです。
端的に言えば、この2つの場面を残して、
他の全ては総とっかえしたのが、
映画版の「夜明けのすべて」です。

これは原作もいいし、映画もいいんですね。
でもその良さはかなり異なるフェーズのものなので、
これは是非両者を味わうのが吉だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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GLP-1アナログ各種の個別比較(2024年ネットワークメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
GLP-1アナログの個別比較データ.jpg
British Medical Journal誌に、
2024年1月29日付で掲載された、
糖尿病の治療薬を直接比較した論文です。

GLP-1アナログは、
人間の消化管から分泌されるホルモンである、
GLP-1と同じ作用を持つ薬剤で、
その膵臓を刺激してインスリン分泌を促し、
血糖を降下させる作用から、
糖尿病の治療薬として開発されて使用され、
その臨床データで体重減少効果が認められたことより、
最近では肥満症の治療薬としても注目されている薬剤です。

もともとは注射の製剤しかなかったのですが、
最近になって内服薬も開発され、
その使用のハードルはグッと下がりました。

最近ではまた、
GLP-1アナログを他のインクレチンなどのホルモンと配合して、
よりその効果を高めたような薬剤も、
次々と開発されています。
その中には既に日本でも発売されているものもありますし、
まだ未発売のものもあります。

そのうちGLP-1を別のインクレチンであるGIPと配合した薬剤が、
チルゼパチド(マンジャロ)で、
GLP-1アナログの代表的な薬剤であるセマグルチド(オゼンピック)を、
膵臓から分泌されるホルモンであるアミリンの作動薬と、
配合した薬がカグリセマです。

GLP-1アナログが2型糖尿病の治療薬として、
有用な薬であることは間違いがありませんが、
複数あるGLP-1アナログおよびその関連薬の中で、
どの薬剤が最も有効性が高いのか、
というような点を直接比較したデータは、
殆ど存在していません。

今回の研究はネットワークメタ解析という手法により、
個別のGLP-1アナログ及びその配合剤の臨床データを、
比較検証しているものです。

これまでの76の介入試験のデータに含まれる、
15種類のGLP-1アナログとその配合剤を使用した、
トータル39246名の臨床データをまとめて解析し比較したところ、
全てのGLP-1アナログが空腹時血糖と、
糖尿病コントロールの指標であるHbA1cの低下作用を示しました。

15種類の中で、
最もHbA1cと空腹時血糖の低下作用が強力であったのは、
GIP/GLP1アナログのチルゼパチドで、
HbA1cは平均で2.1%(95%CI-2.47から-1.74)の低下を示していました。

GLP-1アナログはまた、
いずれも体重の減少効果が認められ、
最も体重減少作用が強かったのは、
GLP-1とアミリンアナログの合剤でカグリセマで、
平均で14.03キロ(95%CI -17.05から11.00)の体重減少が認められています。
それに次ぐ体重減少効果が認められたのはチルゼパチドで、
平均8.47キロ(95%CI-9.68から-7.26)の体重減少が認められています。

コレステロールの低下効果については、
セマグルチドが有効性が最も高く、
使用の有害事象としては、腹痛や吐き気などの消化器症状が多く、
特に高用量での頻度が高くなっていました。

このように、
GLP-1アナログは血糖コントロール改善と、
体重減少についての有効性が確認されていて、
特に合剤においてその効果が高いことが確認されました。
一方で吐き気などの消化器症状で、
継続が困難となった事例も多く、
今後効果と有害事象とのバランスなどの観点から、
その個別の使用の選択肢が、
整理されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SGLT2阻害剤で飲酒検査が偽陽性になる? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤による尿中アルコール検査の偽陽性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年2月8日付で掲載されたレターですが、
糖尿病の経口治療薬で、
尿の飲酒検査の偽陽性が検出された、
という興味深い報告です。

アメリカで60代の男性が、
10か月以上お酒を1滴も飲んでいないのに、
行政の検査で尿にアルコールのエタノールの反応が陽性となり、
主治医に連絡があった、という事例がありました。

その男性は糖尿病の治療で、
SGLT2阻害薬を使用していました。

この薬は尿へのブドウ糖の排泄を促進することにより、
糖尿病の病状をトータルに改善する作用を持つ、
経口糖尿病治療薬です。

医療機関で迅速検査を施行したところ、
尿糖は検出されたものの、
尿中のエタノールやその代謝産物を含め陰性の結果でした。

何故このようなことが起こったのでしょうか?

上記レターの著者の分析では、
尿検体に含まれていたブドウ糖が、
細菌の酵素によって発酵し、
エタノールが発生したことが要因ではないかと考えられました。

行政の検査では検体を採取してから、
実際に検査をするまでにかなり時間が経っていて、
その間の検体の管理も悪かったことから、
そうした事態が発生したと推測しています。

それとは別個の事例ですが、
2019年に日本で報告された症例報告では、
57歳のタクシー運転手が、
呼気のアルコール検査で陽性となり、
飲酒運転を疑われたものの、
実際には飲酒はしておらず、
糖尿病で服用していたSGLT2阻害剤の影響ではないか、
と分析されています。

これはSGLT2阻害剤の服用により、
呼気のアセトンが増加するのですが、
アセトンがエタノールと同じ温度帯で燃焼するため、
半導体センサーのアルコール検知器では、
偽陽性となってしまったのではないか、
という説明になっています。

要するに呼気でも尿でも、
アルコールの簡易検出法は、
SGLT2阻害剤の使用時には、
偽陽性となる可能性があり、
その点は充分に理解した上で、
こうした機器による飲酒検査は施行される必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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