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仕事中の座位時間と健康リスク(台湾の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
座位時間と心血管疾患リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年1月19日付で掲載された、
仕事中の座位時間と健康リスクについての論文です。

1日のうち座っている時間が長いと、
動脈硬化関連の病気や糖尿病などのリスクを高め、
生命予後にも大きな影響を与えることは、
最近健康管理において注目されている知見の1つです。

その代表的な初期の知見の1つは、
オーストラリアで22万人以上の一般住民を対象としたものですが、
1日のうち11時間を超えて座っていると、
4時間未満しか座っていない場合と比較して、
総死亡のリスクが40%増加した、
という結果になっています。
このデータのポイントは、
1日の運動時間とは無関係にそうした関連が認められた、
ということで、
座っている時間が長いこと自体が、
それ以外の生活パターンとは独立して、
健康リスクになっているという点が重要なのです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22450936/

問題は仕事をしている世代では、
仕事の内容によって座っている時間がほぼ固定されてしまう、
という事実にあります。

たとえば、電話対応が主体の仕事では、
7時間以上座りっぱなし、というようなケースもあり得ますし、
仕事によってはより長い時間、
座っていることを強いられる、
というような状況もありそうです。
私は外来を主体の診療を仕事としているので、
結果としてかなりの時間は座ったままで仕事をしています。

仮に座っているだけで健康リスクとなるのであれば、
そうした仕事に従事していて病気になれば、
それは労災ということにもなりかねません。

企業の経営者は、
労働者を長く座らせない義務がある、
ということも言えなくはないと考えると、
この問題が社会に与える影響は実は非常に大きい、
と考えることが出来ます。

ただ、ここで注意が必要なことは、
座位時間と健康リスクを検証した多くの研究において、
仕事中の座位時間と、
仕事以外の座位時間には区別がないということです。

そこで今回の研究は台湾において、
大規模な疫学調査のデータを活用し、
仕事中の座位時間と健康リスクとの関連を解析しています。

対象は平均年齢39.3歳の481688名で、
平均の観察期間は12.85年です。
性別などの因子を補正した結果として、
殆どの時間座って仕事をしている人は、
殆ど座って仕事をすることがない人と比較して、
総死亡のリスクが1.16倍(95%CI:1.11から1.20)、
心血管疾患による死亡のリスクが1.34倍(95%CI:1.22から1.46)、
それぞれ有意に増加していました。
一方で座る時間とそれ以外の時間を繰り返して仕事をしている人では、
総死亡リスクの有意な増加は認められませんでした。
また仕事中の座位時間が長く、運動習慣もない人が、
1日15から30分の運動習慣を身に着けると、
座位時間は変化していなくても、
総死亡リスクの増加は認められないことも確認されました。

このように、今回のデータからは、
仕事中の座時時間の長さは健康リスクに繋がり、
ずっと座りっぱなしではない仕事環境に移行することにより、
その改善が可能であることが示唆されました。

こうした知見は研究によってかなり差があり、
1つの結果のみで「座りっぱなしの仕事は駄目」、
と決めつけることは危険ですが、
今後座位時間が長いことを強いるような業務が、
制限される可能性もあり、
かなり社会に与えるインパクトの大きな知見であることは間違いがないので、
今後の推移を慎重にフォローしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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