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唐十郎「鐵假面」(劇団唐ゼミ☆第31回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
鉄仮面.jpg
唐ゼミの久しぶりの野外公演として、
唐先生が1972年に上演した代表作の1つ「鐵假面」が、
上演されました。

この作品は勿論実際の状況劇場の舞台は観ていませんが、
戯曲は大学時代に何度も何度も読んで、
リライトして映像作品の台本を書き、
一時は真面目に撮影を考えて準備をしていたので、
かなり思い入れのある作品です。

中野敦之さんは唐先生の芝居を、
一番熟知している演出家の1人だと思います。
特に原作の戯曲を殆ど一語一句変えることなく上演してくれるので、
とても刺激的で個人的にはとても信頼をしています。

今回もこの作品に2つの結末があることを初めて知りました。
おそらく初演で上演された結末は、
唐先生演じる味代が殺されるというものですが、
今回の上演では最初に刊行された戯曲の通り、
スイ子さんが刺されるという結末が採用されています。

唐ゼミは以前にも「鐵假面」を上演していますが、
その時には観ていませんでした。
従って、中野版「鐵假面」を観るのは今回が初めてです。

感想としては、
原作をとても大切に上演しているという感じで、
その点はとても良かったのですが、
役者の力量にかなり凹凸があって、
唐先生の台詞を、
想定された生き生きとした台詞回しと迫力とで、
伝えてくれた役者さんは少数であったのが、
少し残念ではありました。

また、これは意図的なものだと思うのですが、
場面の切り替わるタイミングで、
ちょっとリアクションするような間を取ってから、
音効が入って切り替わると言う感じになっていて、
それがどうもテンポを悪くしているように感じました。

唐先生の作品は、
かなり強引に現実と幻想が切り替わったり、
笑いの場面とシリアスな場面が切り替わるのですが、
それをかなり過剰に思える音効のカットインと、
照明の大胆な切り替えで可能にしているんですね。
あのテンポ感は独特のもので、
僕も大学時代に唐先生のお芝居を上演したことが、
何度かあるのですが、
普通のお芝居のように、そのままの流れで台詞を言うと、
唐突な展開でブツ切れのような感じになり、
とても成立しないんですね。

勿論「鐵假面」の初演の時に、
既にそうした演出であったかどうかは、
分かり様はないのですが、
今普通に聞くことの出来る音源で最も古い、
「唐版風の又三郎」の初演の録音を聞くと、
既にそうした演出がされていることが分かります。

今回の上演ではおそらく敢えて、
そうした音効の入れ方やテンポ感を、
採用しない演出がされているのですが、
結果としては難しいな、というように感じました。
唐先生特有の台詞をまくしたてることろがあるでしょ。
そこがどうしても浮いた感じになってしまうんですね。
後半の裁判のところで、
ヒロインが劇中歌を2曲歌って、
その間に台詞が挟まるところがあるんですね。
これはもう唐芝居の抜群の聴き所なのですが、
それを普通のお芝居でやってしまっているので、
何か弾まなくなっているんですね。
また特にこの「鐵假面」は、
即興劇的な展開、
街中の公衆便所に、色々な人がやって来る、
という趣向が取られているので、
その自由度の魅力よりも、
全体の取っ散らかった散漫な感じが、
強調されてしまったような気がしました。

すいません。
少し意見するような感じになってしまったのですが、
久しぶりの唐ゼミの舞台は矢張り楽しく、
これからもその上演に期待をしたいと思います。

頑張って下さい!!

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「オッペンハイマー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
オッペンハイマー.jpg
クリストファー・ノーラン監督の新作で、
原爆の開発計画を主導した理論物理学者のオッペンハイマーの、
数奇な人生を描いたドラマです。

その内容から、
一度は配給会社が手を引いて公開がなくなり、
配給会社が代わって漸く公開となりました。
米アカデミー賞作品賞など7部門の受賞に輝きました。

これはなかなか良かったですよ。

これまで観たノーラン監督の作品の中では、
個人的には「インターステラー」と「メメント」に次いで、
好きな1本です。

ただ、確かに日本公開に躊躇したのも分かる感じがするのは、
本当にアメリカがあまり意味もなく無雑作に日本に原爆を落とした、
ということの分かるようなエピソードが、
かなり直接的にかつ即物的に描かれているので、
見て辛い気分になる方や、
憤りを感じる方もいると思います。

その点は注意の上鑑賞する必要のある映画です。

ただ、アメリカ視点の物語としては、
原爆の開発のいきさつや、その後の世界に与えた影響、
科学者と社会や政治との関係などが、
過不足なくリアルに描かれていて見応えがあり、
何よりオッペンハイマーという、
偉大でも卑小でもない稀有な1人の人間が、
キリアン・マーフィーの肉体をもって、
鮮やかに画面に刻まれていました。

これは絶対アイマックスで観るべき映画で、
音効の迫力が素晴らしいんですね。
原爆実験のカウントダウンの盛り上がりから爆音の迫力、
また原爆投下が成功して、
喜ぶ人達の踏み鳴らす靴音の轟音など、
音の迫力が映画の見せ場の大きな部分を担っているからです。

あまりネタばれは良くないのですが、
アインシュタインがキーパーソンとして登場して、
ほぼ本物、というビジュアルも凄いですし、
物凄く絶妙な役割を果たしていて、
ラストを鮮やかに締め括る辺りに最も感銘を受けました。

色々な感想の方があると思いますが、
原爆開発を扱った映画の中では、
間違いなくトップに位置する意欲的な大作で、
ノーラン監督が外連味は封印しながら、
その映像技巧を駆使して描いた3時間は、
必見の映像体験と言って間違いはないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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糖尿病性末梢神経障害とビタミンD欠乏との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ビタミンDと糖尿病性末しょう神経障害.jpg
Diabetic Research and Clinical Practice誌に、
2024年2月15日ウェブ掲載された、
糖尿病の合併症とビタミンD欠乏との関連についての論文です。

糖尿病性末梢神経障害は、
所謂糖尿病の3大合併症の1つで、
手足の先端のしびれや痛みが特徴的な初期症状で、
進行すると痛覚の鈍麻から、
下肢の壊死や切断の原因ともなります。

そのメカニズムにはまだ、不明の点が多いのが実際です。

近年糖尿病性神経障害とビタミンDの欠乏との間に、
関連があるとする報告があり、注目を集めています。

ビタミンDは健康な骨の維持に必須のビタミンですが、
それ以外に免疫系や炎症の制御など、
多岐に渡る作用が確認されていて、
その中には神経調節因子の誘導など、
神経障害を予防するような働きもあると報告されています。
この観点からは、
糖尿病で頻度が多いとされているビタミンDの欠乏が、
神経障害の一因となっている可能性が示唆されるのです。

今回の研究は中国において、
年齢が60歳以上で2型糖尿病に罹患している、
トータル257名の患者の、
ビタミンD欠乏を反映する血液中の25(OH)D3濃度を測定し、
糖尿病性末梢神経障害とビタミンD欠乏との関連を検証しています。
25(OH)D3濃度が20ng/ml未満をビタミンD欠乏と定義し、
末梢神経障害は、
大きな神経線維の異常を筋電図において、
小さな神経線維の異常を皮膚伝導率で測定し、
分けての評価を行っています。

その結果、
末梢神経障害のある患者はない患者と比較して、
血液のビタミンD濃度が有意に低下していて、
他の関連因子を補正した結果として、
ビタミンD欠乏は糖尿病性末梢神経障害のリスクを、
2.488倍(95%CI:1.274から4.858)有意に増加させていました。
神経線維の比較では、
特に大きな神経線維の障害と、
ビタミンD欠乏との間に関連が認められました。

このように、
今回の検証においても、
ビタミンD欠乏と糖尿病性末梢神経障害との間には、
一定の関連が認められました。

今後はビタミンDの補充が、
そのリスクの低減に結び付くのかなど、
より実際的な検証の進捗に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アレルギー性鼻炎と慢性副鼻腔炎の鑑別法とその意義 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎の鑑別.jpg
Otolaryngology Head & Neck Surgery誌に、
2024年1月31日付で掲載された、
アレルギー性鼻炎と慢性腹腔炎の鑑別についての論文です。

アレルギー性鼻炎は花粉症のように、
特定の抗原タンパク質に反応して、
鼻の粘膜がアレルギー性の炎症を起こし、
鼻水や鼻閉などの症状が持続する病気です。
鼻水や鼻詰まりが同じように生じる病気として、
慢性副鼻腔炎(いわゆる蓄膿)があり、
こちらは鼻の奥に繋がっている、
副鼻腔という空洞に、
持続的な細菌などの炎症が起こる病気です。

アレルギー性鼻炎と慢性副鼻腔炎は、
症状のみから鑑別することは難しい側面があり、
通常耳鼻科で経鼻内視鏡検査で確認したり、
レントゲンやCT、MRIなどの検査で、
副鼻腔への膿汁の貯留を、
検出することで診断されます。

この2つの病気には、
抗アレルギー剤やステロイド剤の点鼻薬など、
共通する治療薬もありますが、
アレルギー性鼻炎は専ら抗ヒスタミン剤で、
鼻水を止めて様子を見ることが多く、
慢性副鼻腔炎は少量の抗菌剤を継続したり、
膿汁の排泄を促す薬を使用したり、
重症の事例では手術療法も検討される、
という違いがあります。

実際に単なるアレルギー性鼻炎との判断で、
市販の抗ヒスタミン剤を長期間服用していて良くならず、
病状の悪化した慢性副鼻腔炎の合併例が、
少なからずあることが報告されています。

今回の研究では、
自覚的に「鼻のアレルギー」の症状のある219名の一般住民を対象として、
経鼻内視鏡などの精査を行ってその診断を確定し、
慢性副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎の頻度を検証すると共に、
通常慢性副鼻腔炎の症状確認に施行されている、
22項目の質問からなるSNOT-22という自覚症状調査票の項目と、
その診断への有用性を確認しています。

その結果、
鼻アレルギー症状を申告した219名のうち、
91.3%に当たる200名はアレルギー性鼻炎と診断されましたが、
45.2%に当たる99名は慢性副鼻腔炎とも診断されました。

つまり、アレルギー性鼻炎と診断される患者さんの約半数は、
慢性副鼻腔炎を併発している可能性がある、
という結果です。

ここで症状質問票との対比で検討すると、
鼻をかむ回数が多い、粘着な鼻水が出る、
鼻が詰まる、という症状が比較的重く、
軽度の味覚嗅覚障害を伴うような場合に、
慢性副鼻腔炎併発のリスクが高いという結果が得られました。

このように慢性のアレルギー性鼻炎と、
自己判断している患者さんのうち、
半数近くは慢性副鼻腔炎を併発している可能性があり、
特にその症状から疑われる場合や、
抗ヒスタミン剤の使用により改善が見られない場合には、
その可能性を積極的に疑って、
診断を受ける必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マグネシウム欠乏とメタボリックシンドロームとの関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
マグネシウム欠乏とメタボリスク.jpg
the Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism誌に、
2024年2月14日付で掲載された、
マグネシウム欠乏とメタボリックシンドロームとの、
関連についての論文です。

マグネシウムというのは、
多くの酵素の働きのために必要なミネラルで、
そのためその不足は、
身体の代謝系に大きな影響を与え、
メタボリックシンドロームのリスクになると考えられています。
低マグネシウム血症は、
糖尿病や脳卒中、心血管疾患などのリスクを上げ、
その予後にも悪影響を与えるとの報告もあります。

ただ、マグネシウムは腎臓で80%以上が再吸収されるため、
血液のマグネシウムの測定は、
必ずしも身体のマグネシウムの動態を、
反映していない、という指摘もあります。

そこで今回の研究では、
マグネシウム欠乏指数という新たな指標を活用し、
アメリカで施行された健康と栄養についての疫学データに含まれる、
トータル15565名の一般住民を対象として、
マグネシウムの欠乏状態と、
メタボのリスクとの関連を比較検証しています。

メタボリックシンドロームは、
検査データなどは日本のメタボとほぼ同一ですが、
腹囲の基準は男性が102センチ以上、
女性が88センチ以上となっています。

マグネシウム欠乏指数というのは、
利尿剤の使用の有無、プロトンポンプ阻害剤の使用の有無、
推測の腎機能の指標、
過度の飲酒の有無をポイント化して、
0から6点で指標としたもので、
点数が高いほど、
マグネシウム欠乏のリスクが高い状態を意味しています。

その結果、
関連する他のメタボのリスクを補正して算出しても、
マグネシウム欠乏指数が1上がる毎に、
メタボのリスクは31%(95%CI:1.17から1.45)、
有意に増加していました。

これは敢くまで間接的なリスク指標であることを、
理解して考える必要がありますが、
年齢や使用している薬によってリスクが増加する、
マグネシウムの欠乏が、
メタボのリスクに関わっているという指摘は興味深く、
今後より多角的な検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「マッチング」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
マッチング.jpg
内田英治監督のオリジナル脚本による、
ホラー風味のサスペンス映画で、
こうしたものは嫌いではないので観てみました。

内田監督は三池崇史監督と同じ系統のように理解していて、
大変意欲的な企画も多いのですが、
やや粗製乱造的な面があって、
抜群な作品がある一方で、
一体どんなつもりでこんな作品を作ったのかしら、
というような目を覆うような作品も沢山作っています。
(敢くまで個人的な感想です)

今回はどうなのかしら、
という感じでやや恐る恐る鑑賞しましたが、
まあまあ力が入っている部類と思いました。
マッチング・アプリを素材としたスリラーで、
身近な恐怖感がありますし、
オリジナルとしてはかなり頑張って考えたな、
という感じがあります。
ただ、明らかに設定のミスというか、
ある人物が逮捕された筈なのに、
その後すぐに別の人物を誘拐するという、
おかしなところがあって、
ノベライズの本も立ち読みしたのですが、
矢張り同じ記載になっていて、
特別な説明はありませんでした。

こういうものは、
きちんとオリジナルで辻褄を合わせるのは、
難しい作業であるようです。

あと、ラストのどんでん返しが、
単なるオチとなっていて、
その前の設定をただ引っくり返しただけとなっていたのが、
ちょっと残念でした。
どんでん返しというのは、
それによって物語の構図が一気に反転する、
というようでなければ意味がないので、
こんな捻りであれば、
捻らない方が良かったと感じました。

総じて普通の方にとっては、
配信で充分という感じの映画で、
内田監督のファンと、
オリジナルのミステリーの構成に興味のある方のみに、
お薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「DOGMAN ドッグマン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ドッグマン.jpg
リュック・ベッソン監督の新作アクション映画が、
今ロードショー公開されています。

リュック・ベッソン監督は、
「グランブルー」と「ニキータ」を、
建て替え前のパルコpart3の特集上映で観て、
両作ともそのラストの、
ハリウッド製にはあまりない、
切ない抒情のようなものに魅せられ、
「レオン」、「フィフス・エレメント」、
「ジャンヌダルク」は封切りで観ました。
「レオン」以降は正直オヤオヤという感じがあって、
その後の水増し感のあるアクション映画には、
あまり興味が沸きませんでした。

今回の作品は、アメコミのダークヒーローものを、
ベッソン監督なりに咀嚼した感じのもので、
「ニキータ」の頃のような凄味はないのですが、
最近の作品の中ではかなり力が入っていて、
そのラストの余韻を含めて、
アメリカ製とは違う魅力が充分に感じられる仕上がりでした。

これ、今の世の中なので、
相当苦労した設定になっているんですね。
主人公は狂信的な家族に、
徹底した虐待を受け、
父親の銃撃によって指を失い、
下半身不随になっています。
女装趣味で犬とコミュニケーションの取れる能力があり、
沢山の保護された犬と暮らしていて、
その犬達が主人公を助けて、
ある時は敵と戦い、
またある時は主人公の犯罪行為の手伝いをするのです。

まあ、相当捻った設定ですよね。
今ではこのくらいのことをしないと、
多方面から指摘を受けてしまうのかも知れません。

パターンは「レオン」に近いのですが、
この作品ではアクションやサスペンスよりも、
主人公の生い立ちや心理の動きと、
面談を担当することになった精神科医の女性との交流とに、
力点が置かれているので、
展開の意外性などは語り口で除去されていて、
「レオン」のようなスリルを期待すると、
肩透かしに遭ってしまいます。

ここは昔のベッソン監督の迫力を期待するのではなく、
円熟したある種の境地を、
じっくりと味わうのが吉だと思います。

ベッソン監督のファンであれば、
一見の価値はある作品だと思います。
過度な期待は持たずに、映画館に足をお運び下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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歩行時の息切れの原因は?(スウェーデンの疫学研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医活動などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
息切れの原因は?.jpg
Respiratory Research誌に、
2024年3月16日付で掲載された、
中年期の年齢層の息切れの原因を調べた論文です。

歩くと息が切れる、
他の人と同じように歩こうとすると苦しくなる、
というような症状は、
中年以降の年齢では10から25%に見られる、
というほど頻度の高い症状です。

ただ、その原因は様々で、
肺気腫や喘息のような呼吸器疾患の場合もありますし、
心臓が原因のこともあります。
また調べても原因が分からないこともあります。

それでは実際に「歩行時の息切れ」が見られた時、
その個々の原因は、
どのくらいの頻度で見られるものなのでしょうか?

今回の研究はスウェーデンにおいて、
心肺疾患についての疫学研究のデータを活用して、
歩行時の息切れの原因検索を施行しているものです。

対象は年齢が50から64歳の25948名で、
同年代の人と同じような速度で歩こうとすると、
息切れが生じる、というような症状もしくは、
より重い息切れの症状があったのは、
そのうちの3.7%でした。
検査により判明した病名との関連を検討すると、
息切れに最も関連していたのは、
過体重及び肥満が全体の63%(59.6から66.0)、
ストレスが60%(31.6から76.8)、
呼吸器疾患が29%(20.1から37.1)、
抑うつ状態が22%(17.1から26.6)、
心臓病が9.5%(6.3から12.7)でした。
(PAF95%CI)

このように、
歩行時の息切れ症状は、
肥満や過体重を伴う場合には、
それによって生じている可能性が高く、
通常病気として想定される、
呼吸器疾患や心臓疾患の関与は、
それほど大きなものではありませんでした。

勿論鑑別診断としては、
呼吸機能や心機能などの検索は行われるべきですが、
息切れの多くは、
むしろ肥満やストレスが関連しているという、
今回の調査結果は非常に興味深く、
今後日本でも同様の検証が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ED治療薬の認知症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
バイアグラと認知症.jpg
Neurology誌に2024年2月7日付で掲載された、
男性の勃起障害の治療薬の、
認知症予防効果についての論文です。

シルデナフィル(バイアグラ)などのED治療薬は、
フォスフォジエステラーゼ5(Phosphodiesterase Type5)
という酵素を阻害する作用を持つ、
フォスフォジエステラーゼ5阻害剤です。
以下これをPDE-5阻害剤と略します。

このPDE-5という酵素はサイクリックGMPという、
血管拡張物質を分解する働きを持っているので、
酵素の阻害により、
陰茎の血管拡張が持続し、
それが勃起機能の改善に繋がっているのです。

ただ、この酵素は陰茎以外にも身体の多くの血管に存在しているので、
陰茎以外の組織にも一定の効果を示すと考えられています。
また動物実験においてはこの酵素の阻害剤は、
血管拡張作用と共に、
血管内皮細胞の機能自体を改善する効果も、
確認されています。

そのためPDE-5阻害剤は男性機能のみならず、
心臓疾患や糖尿病など、
他の多くの病気の治療薬や予防薬としても、
その有効性が研究されています。

その1つが認知症です。

PDE-5阻害剤には認知症の原因の1つである、
タウ蛋白のリン酸化を抑制する作用が、
実験的研究では報告されていて、
この事実はPDE-5が認知症予防に繋がる、
という可能性を示唆するものです。

その実際の有効性はどの程度のものなのでしょうか?

今回の研究はイギリスにおいて、
勃起不全と診断された、
登録の時点で認知症のない、
40歳以上の男性269725名を対象として、
中央値で5.1年という経過観察を施行。
バイアグラなどの使用と、
アルツハイマー病の発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、
PDE-5阻害剤使用群でのアルツハイマー病発症リスクは、
年間1万人当たり8.1件であったのに対して、
未使用群での発症リスクは、
年間1万人当たり9.7件で、
関連する因子を補正した結果として、
PDE-5阻害剤の使用はその後のアルツハイマー病の発症リスクを、
18%(95%CI:0.72から0.93)有意に低下させていました。

こうしたデータは他にも報告されていて、
ほぼ同等の結果が得られていることから考えて、
こうした現象のあること自体は、
ほぼ事実と考えて良さそうです。

今後は実際にこの薬を、
認知症予防に使用することは可能であるのか、
可能であるとすれば、
どのような対象者にどのように使用するべきなのか、
そうした実際的な検証が不可欠であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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赤堀雅秋プロデュース「ボイラーマン」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ボイラーマン.jpg
最近活躍が目覚ましい赤堀雅秋さんの新作が、
本日まで下北沢の本多劇場で上演されています。

赤堀さんの実際に観た作品の中では、
「鳥の名前」と「流山ブルーバード」が好きです。
ちょっとオールビーを彷彿とさせるような、
少しブラックで暴力的な家庭劇がなかなかの完成度で、
ちょっと頭のネジが少し外れているような、
異様なキャラクターが魅力です。

ただ、それとは別に、
かなり前衛的でシュールで、
時事ネタや社会性のあるような作品も描いていて、
そちらは正直苦手ジャンルです。

今回の作品はその中間という感じで、
路地裏で何人かの人物が交錯する一夜の出来事を描いていて、
人間ドラマではあるのですが、
それほどの物語的な展開などはなく、
個々のキャラはやや象徴的に、
日本の色々な年齢階層などを代表する立場を、
示しているような感じもあります。

ただ、以前の社会派ものは、
かなりぶっ飛んだ展開のものが多くて、
ちょっと付いて行きかねる部分があったのですが、
今回の作品はあまり非現実的な設定などは登場せず、
色々な含みは残しながら、
敢くまで「路地裏の一夜の物語」として、
完結しているところが良かったと思います。

特に村岡希美さん演じる女性が、
如何にも今風のストレスから、
周囲にまき散らしたゴミを、
何となく集った他の人物達が、
誰からともなく分別し集めるという場面は、
要するに今の日本人の美徳のように語られることのある、
スタジアムなどでのゴミ集めに至る心理を、
見事に再現している感じがあって、
それを持ち上げるでもなく、かと言って揶揄するでもなく、
奇妙なユーモアを持って描いている点が、
とても秀逸で赤堀さんの円熟を見る感じがありました。

また、でんでんさん演じる、
高度成長の業を背負って年老いたような男が、
見ず知らずの安達祐実さん演じる女性に、
「お金を貸してくれ」と言い、
そこからの展開の膨らみの見事さも、
日本人の心理の中にある、
「善行」というものの実体を、
こちらも持ち上げるでもなく揶揄するでもなく、
絶妙な立ち位置で表現していました。

そうした人物達の跳梁する中で、
ボイラー関係の仕事をしていると言いながら、
その背景は不明のままに、
道に迷って彷徨う田中哲司さん演じる主人公は、
おそらく目標を見失って彷徨う、
私たち自身のことなのかも知れません。

キャストはいずれも好演でしたが、
上から目線の失礼をお許し頂ければ、
田中哲司さんは実に上手くなったなあ、
という気がしますし、
今回特筆すべきはでんでんさんの怪演で、
その見事な怪物ぶりは必見と言って良いものでした。

総じて全ての場面が良いということはなく、
完成度はトータルにはあまり高くはないのですが、
前述したような幾つかの場面は非常に秀逸で、
キャストの円熟した演技も見ごたえは抜群なので、
演劇ファンにはかなり豪華なディナーと言っても、
過言ではない佳作であったと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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