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赤堀雅秋プロデュース「ボイラーマン」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ボイラーマン.jpg
最近活躍が目覚ましい赤堀雅秋さんの新作が、
本日まで下北沢の本多劇場で上演されています。

赤堀さんの実際に観た作品の中では、
「鳥の名前」と「流山ブルーバード」が好きです。
ちょっとオールビーを彷彿とさせるような、
少しブラックで暴力的な家庭劇がなかなかの完成度で、
ちょっと頭のネジが少し外れているような、
異様なキャラクターが魅力です。

ただ、それとは別に、
かなり前衛的でシュールで、
時事ネタや社会性のあるような作品も描いていて、
そちらは正直苦手ジャンルです。

今回の作品はその中間という感じで、
路地裏で何人かの人物が交錯する一夜の出来事を描いていて、
人間ドラマではあるのですが、
それほどの物語的な展開などはなく、
個々のキャラはやや象徴的に、
日本の色々な年齢階層などを代表する立場を、
示しているような感じもあります。

ただ、以前の社会派ものは、
かなりぶっ飛んだ展開のものが多くて、
ちょっと付いて行きかねる部分があったのですが、
今回の作品はあまり非現実的な設定などは登場せず、
色々な含みは残しながら、
敢くまで「路地裏の一夜の物語」として、
完結しているところが良かったと思います。

特に村岡希美さん演じる女性が、
如何にも今風のストレスから、
周囲にまき散らしたゴミを、
何となく集った他の人物達が、
誰からともなく分別し集めるという場面は、
要するに今の日本人の美徳のように語られることのある、
スタジアムなどでのゴミ集めに至る心理を、
見事に再現している感じがあって、
それを持ち上げるでもなく、かと言って揶揄するでもなく、
奇妙なユーモアを持って描いている点が、
とても秀逸で赤堀さんの円熟を見る感じがありました。

また、でんでんさん演じる、
高度成長の業を背負って年老いたような男が、
見ず知らずの安達祐実さん演じる女性に、
「お金を貸してくれ」と言い、
そこからの展開の膨らみの見事さも、
日本人の心理の中にある、
「善行」というものの実体を、
こちらも持ち上げるでもなく揶揄するでもなく、
絶妙な立ち位置で表現していました。

そうした人物達の跳梁する中で、
ボイラー関係の仕事をしていると言いながら、
その背景は不明のままに、
道に迷って彷徨う田中哲司さん演じる主人公は、
おそらく目標を見失って彷徨う、
私たち自身のことなのかも知れません。

キャストはいずれも好演でしたが、
上から目線の失礼をお許し頂ければ、
田中哲司さんは実に上手くなったなあ、
という気がしますし、
今回特筆すべきはでんでんさんの怪演で、
その見事な怪物ぶりは必見と言って良いものでした。

総じて全ての場面が良いということはなく、
完成度はトータルにはあまり高くはないのですが、
前述したような幾つかの場面は非常に秀逸で、
キャストの円熟した演技も見ごたえは抜群なので、
演劇ファンにはかなり豪華なディナーと言っても、
過言ではない佳作であったと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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