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休肝日には根拠があるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からレセプト作業などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
休肝日の理論.jpg
2007年のAmerican Journal of Epidemiology誌に掲載された、
お酒の飲み方と死亡リスクとの関係についての、
日本人の大規模な疫学調査による論文です。

タバコは明確に健康に悪いという意見に、
反対する人は今はあまりいません。

ただ、同じ嗜好品であるアルコールについては、
適度な飲酒であれば健康に良い、
と言う説もあり、
昔から「百薬の長」と呼ばれることもあって、
必ずしもアルコール自体が健康に悪い、
という結論にはなっていません。

アルコールは適度な範囲であれば、
死亡リスクを下げる、という報告も複数あります。

しかし、報告にもよりますが、
概ね1週間に300グラムを越えるアルコール(エタノール)を摂取すると、
総死亡リスクが増加することは、
国内外を問わず、
ほぼ一致している結論です。

この量は1日で平均すると、
42グラム余になり、
これは日本酒で2合くらい、
ビールの中瓶2本くらいに相当します。

さて、ここで1つの疑問は、
7日間毎日日本酒を2合飲み続けるのと、
週に2日間は4合飲み、
2日間は3合飲み、
残りの3日は一切飲まない場合とを比較した時に、
差があるのかどうか、
という点にあります。

所謂「休肝日」を作るのと、
そうしないのとで、
果たして違いがあるのだろうか、
ということです。

「休肝日」については、
色々と議論のあるところです。

上記の論文ではLiver Holidays と訳されていますが、
日本の社会では休肝日を取ることで、
肝臓への悪影響が予防出来る、
という古くからの考え方がある、
というようなニュアンスの記載になっていて、
半ば地域の風習や迷信のような扱いです。

つまり、欧米にはあまりそうした常識はないのです。

「休肝日」という奇妙な造語は、
おそらくは行政絡みで広まった言葉ではないかと思います。

今回の文献はその真偽を検証したもので、
JPHCと名付けられた、
厚生労働省研究班「多目的コホート研究」の、
データを活用したものです。

これは全国の88000人余の中高年の男女を、
10年余追跡調査したものです。

アルコールの摂取量と休肝日を作っているかどうか、
その違いとその後の病気や死亡のリスクとを検証しています。

その結果…

男女とも、アルコールの摂取量が週に300グラムを越えると、
その後の総死亡のリスクは有意に増加します。
このアルコール摂取量と、
週に何回アルコールを飲んでいるか、
という回数のデータとを併せて解析すると、
女性では常用者の数が少なく、
解析の対象としては不充分との判断になりました。

男性においては、
同じ週300グラム以上の摂取においても、
その飲酒回数が週に4日未満では総死亡のリスクは増えず、
週に5~7日の飲酒においてのみ、
そのリスクの上昇が認められました。

つまり、
男性に限定しての話ですが、
休肝日の効果が、一定レベル確認された、
という結果でした。

このデータを元にして、
現行の「週に2日は休肝日を作りましょう」
という厚労省の方針は作られているのですが、
休肝日嫌いの専門家もいて、
別に論文を書くという訳ではなく、
テレビや一般向けの書籍などで、
「休肝日は役に立たない」という意見を、
最近しきりに発言しています。

ただ、休肝日の捉え方は、
そうした批判をする先生と、
休肝日を推進する先生とでニュアンスが違います。

休肝日を否定する意見には、
概ね2つの論点があります。
1つは生理学的に言って、
2日程度アルコールを抜いたところで、
肝臓のダメージが回復することはないし、
アルコールの毒性は早期に抜けるので、
別に2日抜くことの意味はない、
というもので、
もう1つは休肝日を作ると、
アルコール好きな人は、
その前後でアルコール量が増えるので、
意味がない、というものです。

ただ、休肝日には、
元々生理学的な根拠はなく、
一種の社会習慣のようなものであったのを、
疫学データで確認した、
という性質のものですし、
定義として同じアルコール量であることが条件なので、
「それではアルコール量が増えて云々」と言うのは、
言いがかりに近い意見です。

トータルなアルコール量を減らすのと、
量は変えないで1日の休みを作るのとを比較すれば、
当然量を減らした方が、
健康上のメリットはあるのです。
しかし、1日、特に2日抜くことの意味は、
アルコール依存への気付きという、
心理的なメリットもあり、
更には今回ご紹介したデータのように、
男性限定でかつ非常に多量の飲酒では、
そうした傾向は消えているのですが、
同じ飲酒量でも2日の休肝日を設けると、
それだけ死亡リスクの低下に繋がる、
という報告もあるので、
アルコールを週に300グラム以上継続している方への指導としては、
どちらかに偏ることなく、
その方の状態を見ながら、
休肝日を作るか、そうではなく量の減少を優先するのか、
臨機応変に考えるのが妥当なように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

モカ

いつも興味深い文献紹介ありがとうございます。

私もお酒大好きなので興味深く拝見しました。
多量のアルコール節酒は肝臓や膵臓などの内臓の他、脳にもダメージが少なくないと聞きます。

今のところ大丈夫なのですが、依存症にならないかが心配なので定期的にお酒の無い日を作っています。

飲まないと翌朝は調子がいいです。
by モカ (2013-10-08 14:11) 

fujiki

モカさんへ
コメントありがとうございます。
休肝日には、そうした体調の良さを、
確認するような効果は確かにありますよね。
それはアルコールはこれこれの時間で分解されるので…
というような理屈とは、
また別箇のもののように思います。
by fujiki (2013-10-09 08:07) 

北岡

いつも、勉強させていただいています。ありがとうございます。
アルコールに関して(私は下戸です)、ビールや日本酒の量はやはりアルコール度数にも関係するのでしょうか?
知り合いの看護師(晩酌がかかせない方)にこの話しをすると、アルコールの%は関係するのか?と。つまり、%が低いものを飲めば量をふやしても良いのか?という思惑があるようで。。
お忙しいところ、こんな他愛もない質問で、すみません。お時間が許せるならば、お答えよろしくお願い致します。
by 北岡 (2013-11-26 22:36) 

fujiki

北岡さんへ
これはエタノール量の換算ですので、
%は関係があります。
濃度が多い方が、
アルコール量も多くなるからです。
by fujiki (2013-11-30 08:24) 

北岡

いとも、すみません。知り合いにも話しをしておきます。
お忙しいなか、ありがとうございました。
by 北岡 (2013-12-01 09:58) 

モカ

石原先生こんにちは。

やはりこの文献が気になったので、原著を読んでみました。
休肝日はあったほうがよいようですね。

週300グラム以上でも、3日休肝日を設けるとむしろ週300グラム未満のグループよりも総死亡率は下がっている印象があるのですが、これは何故なのでしょうか。

お酒は楽しく美味しく飲みたいです。

http://mocamoca.com/harablog/archives/2014/02/post_3068.html
by モカ (2014-02-21 11:31) 

rento

はじめまして。
休肝日についての学術的なブログ、勉強になりました。
私もお酒が好きなので、なるべく休肝日は取ろうとはしています。
総酒量が問題ですね。
by rento (2015-06-22 05:37) 

fujiki

rentoさんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2015-06-22 06:14) 

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