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大動脈弁狭窄症に対する超音波治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療ですが、
午後は石原が公務のため、
石田医師の診療となります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大動脈弁狭窄症の超音波治療.jpg
Lancet誌に2023年11月13日付で掲載された、
大動脈弁狭窄症に対する非侵襲的超音波治療法の有効性についての論文です。

大動脈弁狭窄症は、
心臓から全身に血液を送り出す、
大動脈の入り口にある弁が石灰化などを来して硬くなり、
弁の広がりが悪くなって、
血液を効率的に送り出すことが出来なくなる病気です。

生まれつきの異常によって起こることもありますが、
その多くは加齢や動脈硬化の進行に伴って起こるのです。

初期は無症状で経過しますが、
一旦胸の痛みや息切れなどの症状が出現するとその進行は早く、
数年で命に関わる事態になることも稀ではありません。

大動脈弁狭窄症の治療は、
手術で機能しなくなった弁を、
人工弁や生体弁に取り換えるという外科治療が行われ、
最近ではカテーテル治療により、
人工弁を挿入するような方法も開発され施行されています。

ただ、大動脈弁狭窄症の患者さんには、
高齢で内臓の機能も高度に低下していたり、
他にも病気を併発しているような人が多く、
比較的侵襲の少ないカテーテル治療でも、
その適応にならない場合が少なくありません。

それでは、こうした治療の困難な高齢の患者さんでも、
適応可能な治療法はないのでしょうか?

その1つとして注目されているのが、
今回の非侵襲的超音波療法です。

超音波は尿路結石の破砕などにも使用されていますから、
大動脈弁の石灰化の除去には、
一定の効果が期待出来そうです。
実際にそうした試みはこれまでにもあるようですが、
そうした治療単独で手術などの治療に代わり得る、
というほどの効果は確認されていませんでした。

今回のフランスのメーカーが開発したCardiowaveというシステムは、
身体の外から強力な超音波を大動脈弁に照射することにより、
「硬い弁の組織を柔らかくする」と説明されています。
https://cardiawave.com/our-device-valvosoft/

今回発表されたデータでは、
フランス、オランダ、セルビアの3か所の専門病院において、
重度で有症状の大動脈弁狭窄の患者さん40名に対して、
この超音波治療が施行されています。
その結果平均の弁口面積は治療前から10%増加し、
平均圧格差は平均41.9mmHgから38.8mmHgへと、
7%有意に低下していました。

正直単独で大動脈弁狭窄症の治療の選択肢となり得る、
というほどの結果ではないように思えますが、
他の治療の施行が困難な患者さんに対しては、
一定の有効性が期待される治療として、
その選択肢の1つとはなり得る可能性があり、
今後のより詳細な検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オンラインと対面の顔認識の差 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ウェブ会議と対面の脳機能.jpg
Imaging Neuroscience誌に2023年10月25日付で掲載された、
対面とモニターを通した場合の、
顔の認識の違いについての論文です。

新型コロナの流行以降、
対面での会議や話し合いは減り、
複数人が仕事などで一堂に会するような時には、
ズームに代表されるようなウェブ会議が主体となりました。

これはそれ以前から、
ウェブ会議の方が効率的という意見はあったものの、
「実際にその場で話さないと微妙なニュアンスは伝わらない」
というような意見も根強くあって、
なかなか導入が難しかったものが、
コロナ禍で一気に進んだ、という側面があります。

2023年5月になって、
ほぼコロナ以前の生活が戻って来たのですが、
対面の会議を減らすという考え方自体は、
オフィスの縮小などの方針とも相俟って、
もう多くの企業などの規定方針となっているようです。

対面の会議では、
直接相手の顔を見てコミュニケーションを取ることが可能ですが、
ウェブの会議ではPCなどのモニターを介して、
相手の顔を見ることになります。

それでは、実際の相手の顔を認識することと、
モニターに映った相手の顔を認識することとの間には、
脳の働きとして何か違いがあるのでしょうか?

今回の研究では28名のボランティアを対象として、
お互いに対面でコミュニケーションを取った場合と、
モニターを介してオンライン会議のようにコミュニケーションを取った場合とで、
脳の反応にどのような違いがあるのかを、
主に機能的近赤外分光法という、
非侵襲的に脳の血流を評価する検査を用いて、
比較検証しています。

その結果、
モニターを介した場合と比較して対面では、
社会性に関わる領域の神経活動が活性化し、
コミュニケーションも協調的に行われることが確認されました。

相手とのコミュニケーションを取る時、
相手の顔を脳は認識して、
その表情などを脳内で再現して模倣することで、
相手を理解しようとするのですが、
そうした活動は対面では活発である一方、
モニターを介した交流では、
そうした部分がやや抑制されてしまうようです。

私は古い人間なので、
こうした知見を読むと、
「やはり人間は直接会って話をした方が、理解が深まるのだな」
などと思うのですが、
科学の進歩は目覚ましいものなので、
そうした脳の認識を取り入れた、
新たなオンラインのコミュニケーションの方法が、
今後は開発されてゆくような気もします。

いずれにしても個人同士の理解と協調、
その先にある寛容さこそが、
今の社会に最も欠けているものであり、
それを十全に発揮出来るようなコミュニケーション手法の開発が、
今最も望まれているものなので、
今回のような研究がそうした進歩に繋がることを、
これはもう切に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス後遺症に対するワクチン接種の有効性(スウェーデンの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19後遺症に対するワクチン接種の有効性.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年11月21日付で掲載された、
新型コロナ後遺症に対するワクチンの予防効果を検証した、
スウェーデンの疫学データについての論文です。

COVID-19後遺症については、
これまでも何度も記事にしています。

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、
体調不良が長期間持続することは以前より指摘されていて、
その呼び名も定義も、
必ずしも統一されていませんが、
概ね感染に罹患後3か月以上持続する症状で、
それにより日常生活や仕事などの社会生活に、
一定の制限が必要となったり困難が生じる場合に、
COVID-19後遺症や新型コロナ後遺症、
COVID-19罹患後症候群やロングCOVID、
などの名称が使用されています。
ちなみに今回の論文では「post-covid-19 condition」
という用語が使用されています。
これは新型コロナ発症後3か月以上何等かの体調不良が持続し、
個々の症状自体も2か月以上持続している、
というのがその定義であるようです。

その症状も数多く報告されていますが、
報告の多いものでは大きく3つに分かれるというのが、
今の一般的な考え方です。
その3つというのは、
①咳や痰がらみ、息切れなどの呼吸器症状
②感情の変化や身体の痛みなどを伴う、全身の倦怠感
③物忘れや集中力低下などの認知機能障害
の3種類です。
他に味覚嗅覚障害がありますが、
これは持続することはあるものの、
他のCOVID-19後遺症とは別に考えることが通常です。

その原因には不明の点も多く、
その治療法も現時点で確立されたものはありません。

ワクチン接種をすることで、
感染の重症化予防効果と共に、
後遺症の予防効果もあるとするデータが、
これまでに幾つか報告されていますが、
主に臨床試験のデータなどを解析したもので、
実際に一般の多数の住民を対象としたものは、
あまり公表されていませんでした。

今回の研究は国民総背番号制を敷いているスウェーデンのもので、
ワクチン接種歴があって新型コロナに罹患した、
トータル299692名の一般住民を、
290030名のワクチン接種歴のない感染者と比較して、
その後のCOVID-19後遺症の発症リスクを比較しています。

その結果、
ワクチン接種歴のある感染者の0.4%に当たる1201名と、
ワクチン接種歴のない感染者の1.4%に当たる4118名が、
COVID-19後遺症を発症していて、
1回以上のワクチン接種は、
後遺症のリスクを58%(95%CI:0.38から0.46)有意に低下させていました。

これをワクチン接種回数毎に解析すると、
1回のみの予防効果は21%、
2回接種の予防効果は59%、
3回接種以上の予防効果は73%と計算されました。

このように、
今回の大規模な疫学データにおいて、
ワクチン接種はその回数が多いほど、
新型コロナ罹患後の後遺症の発症を抑制していて、
その全てが予防可能ということでは勿論ありませんが、
ワクチンが後遺症の予防に一定の有効性のあることは、
おそらく間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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北野武監督「首」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日ですが、
午前中は区民健診の当番日なので、
健診の診療は行う予定です。

日曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
首.jpg
一時はお蔵入りの可能性もあった、
北野武監督の新作時代劇「首」が、
今ロードショー公開されています。

これはもうとても楽しみで、
公開初日に映画館に出掛けました。

ザックリの感想としては、
思っていたよりも数段良かったです。

これね、黒澤明監督なら「影武者」、
大島渚監督なら「御法度」みたいな作品ですね。
どちらもその監督ならではの個性の横溢したカルトで、
ただ、その監督の代表作という訳ではなくて、
「老いたり」という感じもあるんだけど、
それでも監督でないと絶対に撮れない、
という感じの絵があって、
捨てがたい魅力のある映画です。

「影武者」も物凄い悪口を、
公開の時は言われたんですね。
悪口を言うことが、知識人のたしなみ、というような感じ。
でも、監督の本当のファンなら、
そう悪く言えるような作品ではないですよ。
完成度は確かに低くて、
その点で幾らでも悪くは言えるのですが、
間違いなくカルトの魅力に溢れていました。

「御法度」も同じで、
大島監督老いたり、という感じは勿論あるのですが、
ラストの尋常ならざる感じは、
大島監督作品の中でも白眉の1つと、
そう感じさせるものがありました。

今回の映画は、
予告だけ見ると、
「ああ、戦国時代で『アウトレイジ』をやるだけのことね」
みたいに思いますよね。

でもそうではないんですね。
「座頭市」で、
ちょっとシュールでスタイリッシュな時代劇をやったのですが、
あまり成功ではなかったですよね。
多分ちょっと気負い過ぎたのではないかと思うのですね。
それで今回はもっと肩の力を抜いた感じで、
監督が面白いと思う時代劇の要素を、
ともかく全部叩き込んだような1本になっているんですね。
「アウトレイジ」もあるけれど、それは部分的なもので、
「影武者」と「乱」の黒澤後期時代劇の世界もあるし、
泥の中の殺陣は「七人の侍」のオマージュですね。
「ガルシアの首」のペキンパーも出て来るし、
大島渚監督の切腹描写と男色描写もあるでしょ。
途中で忍びの里の異界が出現すると、
かつての東映時代劇を、
深作監督が再構築した忍者映画みたいなタッチもあるし、
石井輝男監督の残酷時代劇みたいな部分もありますよね。
また石井岳龍さんの大傑作「パンク侍、斬られて候」を、
彷彿とさせる破天荒さもありました。

間違いなく北野映画で一番の大作だと思いますが、
合戦描写もきちんとやっていて、
掛けたお金が無駄になっていないですよね。
特に大抵ナレーションでしか説明されない山崎の戦いが、
しっかりと描写されていたのは感心しました。
その一方で監督悪ノリの不真面目なアドリブ合戦もあって、
それがキチンと作品の流れを邪魔していないのが、
さすがと思います。

かなり出鱈目で、完成度の高い映画ではないのです。
でも、間違いなくカルトとして残る1本だと思います。
VFXの質も高くて、
題名の通り、ワンカットで人間の首が、
ビュンビュンと飛ぶのですが、
不謹慎ですがワクワクするような魅力がありました。

キャストは皆好演ですが、
特に準主役で狂言回し的な役柄を演じた木村祐一さんが、
元忍びで語り芸の新境地を開いた芸人という役柄を、
巧みに描いて作品に1本の筋を通しているのが、
見応えがありました。

そんな訳で北野映画のファンは勿論必見ですが、
かつての娯楽映画の好きな方には、
シネフィルとしての北野監督が、
そうした映画愛をおもちゃ箱的に表現した、
稚気溢れるカルト映画として、
あまり過度な期待はせずに足を運んで頂きたいと思います。

僕は大好きですが、
この映画を絶賛する人も、
罵倒する人も、
おそらく何等かのバイアスからの感想と思って、
それに惑わされずにご覧頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ドミノ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドミノ.jpg
ロバート・ロドリゲス監督の新作SFアクション映画が、
ベン・アフレックの主演で今公開されています。

仮想現実を操る男との対決とか、
予想外のどんでん返しの連続、
みたいな煽りがあったので、
そうした仕掛けのあるお話は大好きなので、
それでも、まあそれほどの期待はせずに出掛けました。

結果は、
控え目な予想を更に裏切る、
相当ショボい映画で、
要するに低予算のB級映画なんですね。

「インセプション」や「ドクターストレンジ」みたいな、
空間が無限ループみたいに歪む映像が予告編にあったのですが、
実際には殆どそんな場面はなくて、
予告編に使われたものでほぼ全て、
という感じでした。
それもきちんとCG使っている感じではなくて、
映像パネルの前で演技して胡麻化した、
という感じのビジュアルでした。

内容も何を今更、というような、
相当お寒い感じで、
まあ「メメント」と「マトリックス」をミックスしたような話なのですが、
「メメント」のような知的スリルは微塵もなく、
「マトリックス」の100分の1以下くらいのスケール感でした。

1時間33分という上演時間は手頃で、
ちょっと時間が空いた時に観られるのは良いのですが、
その短さは納得という内容の貧弱さで、
配信でこれはもう充分かな、
そもそも映画館で公開するつもりで製作したのかしら、
と疑問に思うような作品でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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メトホルミンの中止と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医活動で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メトホルミンと認知症.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年10月25日付で掲載された、
糖尿病治療薬の認知症予防効果についての論文です。

高齢者の糖尿病は認知症のリスクであることが知られています。

血糖値の上昇やインスリン抵抗性による高インスリン血症は、
血管の炎症や動脈硬化の進行を促進する原因となり、
脳血管の老化が認知症に繋がることは理に適っています。

メトホルミンは2型糖尿病の治療薬として、
広く使用されている薬剤で、
その使用により合併症の予防効果や、
生命予後の改善効果が認められています。

また臨床試験の解析により、
メトホルミンの使用によって認知機能が改善し、
認知症のリスクが低下したとする報告があります。
https://content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad180263

ただ、こうしたデータは、
血糖コントロールが認知症予防に繋がったのか、
それともメトホルミン自体に認知症予防効果があるのか、
という点については明確にすることが出来ません。

そこで今回の研究では、
アメリカの大規模な民間医療保険のデータを活用して、
腎機能低下以外の何等かの理由で、
メトホルミンの使用を中止した患者さん、
トータル12220名の臨床データを、
メトホルミンの使用を継続している患者さんと比較して、
認知症の予防効果を検証しています。

その結果、
メトホルミンの中断は、
その後の認知症発症リスクを、
1.21倍(95%CI:1.12から1.30)有意に増加させていました。
そしてこの認知症リスクの増加は、
血糖コントロールの変動とは独立した現象として認められました。

つまり間接的なデータではありますが、
メトホルミンの使用自体が、
認知症の予防に繋がっている可能性を示唆するデータです。

今後もっと厳密な介入試験などによって、
メトホルミンの認知症予防効果の実態が、
明確になることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「季節のない街」あれこれ [身辺雑記]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
季節のない街.jpg
山本周五郎氏の連絡短編の傑作「季節のない街」が、
現代版の配信ドラマとして、
ディズニープラスで配信されています。
宮藤官九郎さんの脚本と演出です。

この原作は黒澤明監督が、
「どですかでん」として映画化していて、
今回のクドカンのドラマ版も、
映画版をかなり意識している部分があります。

原作は架空の街に住む個性的な住民の生活スケッチを、
ある時はほのぼのと、
ある時は冷酷無比な残酷さで、
人生そのものを切り取るように描いた作品ですが、
個人的には「親おもい」と「がんもどき」が全編の白眉で、
クドカンの今回のドラマはその両方を映像化していますが、
「どですかでん」は「がんもどき」は描いていますが、
「親おもい」はカットしています。
一方で「どですかでん」で印象的な「枯れた木」は、
クドカンのドラマからは除外されています。

「どですかでん」は黒澤監督としては失敗作で、
原作の陰々滅滅とした部分だけが強調され、
わざわざ有名な喜劇人を複数起用しているにも関わらず、
軽快さや笑いの要素は殆どありません。
結果として監督の遺作となった「まあだだよ」に、
かなり似通った感じの雰囲気で、
稚拙な現代絵画のような色彩と美術も、
人間ドラマのリアルさを、
台無しにしているような感じがします。

クドカンの作劇は、
かつての「池袋ウエストゲートパーク」と同じように、
元の短編のテーマを、
主要なキャストに割り振り、
その内容を再現しながら、
人間ドラマとしては原作には描かれていない、
その続きを創作する、
という手法を取っています。

原作の「親おもい」と「がんもどき」は、
矢張り非常に重きが置かれていて、
「親おもい」は仲野太賀さんの物語として、
「がんもどき」は渡辺大知さんの物語として、
再構築された上で、
いずれもその後の経過までがドラマ化されています。
それが単なる蛇足にはなっていないのが、
クドカンのドラマの魅力です。

ただ、全体のドラマの構成としては、
仮設住宅からの立ち退き問題がクローズアップされると、
そのギリギリでのひと暴れがあり、
結局何も変わらないまま終わってしまうというのは、
如何にも予定調和的で、
安易に流れた感じは否めません。
ラストにはもう一工夫欲しかったな、
というのが正直な感想でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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早期アルツハイマー病治療薬ガンテネルマブの有効性(第3相臨床試験結果) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は休診となりますのでご注意下さい。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ガンテネルマブの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年11月16日付で掲載された、
早期アルツハイマー病の治療薬の、
臨床試験結果をまとめた論文です。

アルツハイマー型認知症の新薬としては、
エーザイとバイオジェン社が開発したレカネマブという新薬が、
こうした薬剤として初めてアメリカのFDAで承認され、
大きな話題となりました。

その理由は臨床試験において、
早期アルツハイマー病の進行予防効果が、
一定レベル確認されたからです。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2212948

また、ドナネマブという、
脳のアミロイドプラークのみに発現している、
不溶性のβアミロイド蛋白に対するIgG抗体の新薬もあり、
こちらもレカネマブとはターゲットの蛋白質が若干異なりますが、
ほぼ同等の薬で、
その臨床試験結果も最近公表され、
レカネマブとほぼ同等の認知症進行予防効果が確認されています。
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2807533

今回ご紹介するガンテネルマブは、
矢張りβアミロイド蛋白に対するIgG抗体で、
凝集した異常蛋白に対して高い結合性を示している点が特徴の、
ロシュ社の製品です。

今回の第3相臨床試験は、
軽度の認知機能低下を伴う軽度のアルツハイマー型認知症の患者、
985名と980名と対象とした、
2つの臨床試験結果をまとめて解析していますが、
治療開始116週の時点で、
PET検査で計測されたアミロイドβの沈着は、
投与群で抑制されていたものの、
偽薬群との間で認知機能の低下には有意な差はなく、
レカネマブやドナネマブで見られた、
認知症進行予防効果は確認されませんでした。

その差が何処にあるのかは今後検証が必要ですが、
こうした薬剤の効果はまだ不確実な部分が大きく、
その有効性と安全性については、
慎重に見極める必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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セマグルチドの心血管疾患予防効果(非糖尿病での検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
セマグルチドの心血管疾患改善効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年11月11月付で掲載された、
糖尿病治療薬で肥満症の治療薬としても注目されている、
セマグルチドという薬剤の、
糖尿病のない肥満の患者さんに対する、
心血管疾患予防効果についての論文です。

セマグルチドは、
GLP-1受容体作動薬と呼ばれる糖尿病の治療薬ですが、
その臨床試験において体重減少効果が認められ、
現在では肥満症の治療薬として、
欧米では広く使用され、
日本でも最近になってその肥満症への適応が認められました。

セマグルチドを、
肥満を伴う2型糖尿病の患者さんに使用すると、
血糖値や体重の改善作用のみならず、
心血管疾患のリスクを低下させ、
患者さんの生命予後にも良い影響を与えることが確認されています。

しかし、これは2型糖尿病の患者さんに限った知見です。

それでは、
糖尿病ではない肥満症の患者さんにセマグルチドを使用した場合、
心血管予防効果はどの程度あるのでしょうか?

今回の研究では世界41か国の専門医療機関において、
年齢が45歳以上でBMIが27以上の過体重か肥満があり、
糖尿病の合併はなく、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の既往のある、
17604名の患者を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は1週間に1回セマグルチド2.4㎎を皮下注射し、
もう一方は偽の注射を施行して、
平均39.8か月の経過観察を施行しています。

その結果、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中の発症を併せたリスクは、
偽注射群と比較してセマグルチド群で、
20%(95%CI:0.72から0.90)有意に低下していました。

これまでのメタ解析のデータでは、
2型糖尿病で心血管疾患を合併している患者さんに対する、
GLP-1受容体作動薬の使用は、
心血管疾患のリスクを14%有意に低下させると報告されています。
https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(21)00203-5/fulltext

つまり、糖尿病のない肥満の患者さんに使用した場合にも、
糖尿病の患者さんと同様の予防効果が確認された、
ということになります。

GLP-1受容体拮抗薬は肥満症の患者さんに対しても、
トータルにその予後を改善する可能性が高い薬であることが、
明らかになりつつあるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2型糖尿病における時間制限食の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
時間制限食とカロリー制限との比較.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年10月27日付で掲載された、
2型糖尿病の患者さんにおける食事制限の方法についての論文です。

過食や運動不足がその経過に大きく影響する、
2型糖尿病においては、
適切な食事療法がそのコントロールに重要と考えられています。

私が大学や医局で学んだ食事療法は、
全体のカロリーを制限しつつ、栄養素を過不足なく摂り、
毎日3食をきちんと食べるという方法です。

そうした食事療法の有効性は確認されていますが、
実際には個々の患者さんがそれを実践することは、
それほど容易いことではありません。

食事内容や量などを詳細に毎日記録し、
それを元に指導を重ねる必要があるからです。

近年特にカロリー制限は指導せず、
食事時間を昼間の6から10時間くらいのみに制限することにより、
1日の摂取カロリーは200から500カロリー抑制され、
体重減少効果のあることが報告され、
注目を集めています。

これは元々民間のダイエット法から、
始まった試みだと思いますが、
食事の時間を制限するだけで、
特に食事内容には制限を加えないので、
非常に続けやすいという利点があります。

これまでに成人糖尿病患者を対象として、
時間制限食の有効性を検証した臨床研究は2つあり、
この方法によって体重は1から4%、
HbA1cが1.5%低下したという結果が得られています。
ただ、研究はいずれも3から12週間という比較的短期間のもので、
通常の食事指導とは比較されていない、
という限界が指摘されています。
https://link.springer.com/article/10.1007/s00125-022-05752-z
https://nutritionandmetabolism.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12986-021-00613-9

そこで今回の研究では、
アメリカの単独施設において、
年齢が18から80歳で糖尿病があり、
BMIが30から50という肥満の患者、
トータル75名をくじ引きで3つの群に分けると、
それまでの生活をそのまま続けるコントロール群、
食事量をカロリーで25%制限するカロリー制限指導群、
カロリー制限はせず食事時間を午後0時から午後8時の、
8時間に制限する時間制限食群の3群に分けて、
その経過を半年間観察しています。

その結果、6か月後における摂取カロリーは、
時間制限食では平均313キロカロリー低下し、
カロリー制限指導群では197キロカロリー低下していましたが、
コントロール群では16キロカロリーの低下に留まっていました。

6か月後における体重は、
時間制限食では-3.56キログラム(95%CI:-5.92から-1.20)、
コントロール群と比較して有意に低下が認められましたが、
カロリー制限指導群では有意な低下は確認されませんでした。

HbA1cの低下は、
時間制限食では-0.91%(95%CI:-1.61から-0.20)、
カロリー制限指導群では-0.94%(95%CI:-1.59から-0.30)と、
コントロール群と比較して、
どちらも有意に低下していました。

今回の検証では、
カロリー制限よりもむしろ時間制限のみの方が、
体重減少効果は高く、
血糖コントロールの改善効果も同等に認められました。
これはカロリー制限の指導を行っても、
実際には患者さんはそれほど指導を継続的に守ることは出来ず、
むしろ食事の時間のみを制限した方が、
結果としてカロリー制限に繋がっている、
という点が影響しているものと考えられます。

今後介入試験など、より厳密な方法による検証を行うことで、
糖尿病の一般臨床における食事指導はどうあるべきなのか、
その具体的な改善に繋がることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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