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夜型朝型のクロノタイプと生命予後(フィンランドの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
保育園の健診などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
夜型人間は短命?.jpg
Chronobiology International誌に、
2023年6月15日付で掲載された、
夜型朝型のクロノタイプと生命予後との関連についての論文です。

クロノタイプというのは、
1日のうちでどの時間帯が最も活動的か、
ということで日内リズムを分類するもので、
動物ではフクロウなどは夜に主に活動しますから、
種自体が夜型と言うことが出来ますが、
人間の場合には朝早起きで朝から活動的な人がいる一方で、
朝は起きても生気は乏しく、
夕方くらいから徐々に元気が出て来て、
夜が一番活動的という人もいます。
つまり、同じ種の中でもクロノタイプは様々、
という特徴があるのです。

一般に朝型は健康的で夜型は不健康というイメージがあります。

これは満更根拠のないものではなく、
これまでの多くの疫学データにおいて、
睡眠リズム障害や心血管疾患、肥満などの多くの病気が、
朝型より夜型のクロノタイプで多いと報告されています。

また総死亡のリスクについても、
有名なUKバイオバンクの大規模データを活用した、
6.5年の経過観察において、
夜型で若干のリスク増加が報告されています。

ただ、社会的に夜活動するタイプの人は、
喫煙者が多かったり、飲酒量が多く、動物性脂肪の摂取も多いなど、
病気に結び付く悪い生活習慣も多い傾向があり、
そうした生活習慣が影響している可能性も否定出来ません。

今回の研究はフィンランドにおいて、
双子の健康調査のデータを二次利用することにより、
夜型と朝型のクロノタイプの違いが、
長期の生命予後に与える影響を比較検証しています。

対象者は23854名で、
追跡期間は37年という大規模なものです。
アンケートにより分類したクロノタイプは、
朝型29.5%、どちらかと言えば朝型27.7%、
夜型9.9%、どちらかと言えば夜型が33.0%でした。
その結果朝型と比較して夜型では、
総死亡のリスクが9%(95%CI:1.01から1.18)有意に増加していました。
しかし、死亡リスクと関連する因子を検証したところ、
アルコールと喫煙の影響を除外すると、
そのリスク増加は明確なものではなくなっていました。

このように、
夜型で死亡リスクが高い傾向があるのは、
喫煙や飲酒の習慣の影響が大きく、
クロノタイプに独立してリスクがある、
という訳ではなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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脳梗塞発症早期の抗凝固剤使用のタイミングについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
脳梗塞後の抗凝固療法開始のタイミング.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年6月29日付で掲載された、
脳梗塞発症早期における抗凝固剤開始のタイミングについての論文です。

心房細動という不整脈においては、
心臓内に血栓が形成されて、
それが脳の血管を詰まらせる、
脳梗塞(脳塞栓症)のリスクが高いことが知られています。

そのため、
ワルファリンもしくは、
直接作用型経口抗凝固剤と呼ばれる、
ワルファリンに替わって近年使用されることの多い抗凝固剤が、
脳梗塞予防のために使用されます。

一旦脳梗塞を起こした患者さんの再発予防のケースでは、
脳梗塞の急性期に再発のリスクが高いことが知られているので、
その意味では出来る限り早期に、
抗凝固剤を使用開始することが効果的です。

ただ、脳梗塞を起こして間もない時期というのは、
脳や血管の状態も不安定で、
血管周囲の出血も起こり易い時期でもあります。
仮に抗凝固剤を使用中に出血が起これば、
凝固が抑制されて出血が広がり、
深刻な事態になることも想定されます。

このため、脳梗塞発症後、
直ちに抗凝固剤を使用開始することはせず、
少し病状が安定化してから使用するべきではないか、
という考え方もあります。
そのため欧米のガイドラインの一部では、
症状が一時的で改善する一過性脳虚血発作の場合は発症1日後、
軽症の脳梗塞では発症3日後、
中等症の脳梗塞では発症6日後、
優勝の脳梗塞では発症12日後、
を目安にして抗凝固剤を開始する、
「1‐3‐6‐12日ルール」が推奨されています。

一方で2022年のStroke誌に発表された、
日本の研究グループによる臨床試験では、
一過性脳虚血発作では発症1日以内、
軽症脳梗塞では発症2日以内、
中等症脳梗塞では発症3日以内、
重症脳梗塞でも発症4日以内、
を目安に抗凝固剤開始するという、
「1‐2‐3‐4日ルール」を適応して臨床試験を施行、
より遅れて抗凝固剤を開始した場合との比較で、
有効性、安全性とも明確な差を認めなかった、
という結果が報告されています。
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STROKEAHA.121.036695

今回の臨床試験は世界15か国の103の専門施設において、
心房細動があって虚血性梗塞を起こした2013名の患者を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は軽症から中等症の梗塞では発症48時間以内、
重症の梗塞では発症6もしくは7日以降に抗凝固剤を開始する早期使用群と、
もう一方は軽症の梗塞では発症3もしくは4日、
中等症の梗塞では発症6もしくは7日、
重症の梗塞では発症13もしくは14日に、
抗凝固剤の投与を開始する後期使用群に分けて、
その30日以内の予後、及び90日以内の予後の比較を施行しています。

その結果早期使用群と後期使用群との間で、
今回も有意な有効性や安全性の差を認めませんでした。

今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

早期の使用でも出血などの合併症が、
遅らせて開始した場合と変わらないとすれば、
遅らせる必要性は低い、
という言い方は出来ます。
しかし、一方で今回の結果では、
早期に抗凝固剤を使用した方が、
明確に再発などの予防に繋がった、
という結果も得られていません。
どちらかと言えば同等の予後改善効果、
という結果です。
予後に変わりがないのだとすれば、
わざわざ早期に始める意味は何処にあるのか、
という疑問も生じることになるのです。

従って、問題はより抗凝固剤の使用に、
合併症のリスクが高いと想定される対象には、
どのような対応をしたら良いのか、
そうした事例では使用を遅らせた方が、
予後の改善に繋がるのではないか、
というような疑問の解明にあり、
今後はそうした検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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筋肉内脂肪の増加と認知症との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
筋肉内脂肪の増加と認知症リスク.jpg
Journal of the American Geriatrics Society誌に、
2023年6月7日付で掲載された、
筋肉内の脂肪の増加と認知症との関連を検証した論文です。

認知症のリスクとしては、
生活習慣病など様々な指摘がありますが、
内臓脂肪の増加や筋肉量の低下も、
そのリスクであることが知られています。

加齢に伴い体力が低下すると、
筋肉量が減少して脂肪変性が起こり、
筋肉内の脂肪量が増加します。
この筋肉内の脂肪の増加は、
筋肉でのインスリン抵抗性を高め、
糖尿病などのリスクになると指摘されています。

加齢に伴う体重減少によって、
内臓脂肪は全体的には減少しますが、
筋肉内の脂肪は増加していて、
それが高齢者の健康に関連している可能性があるのです。

それでは、
筋肉内の脂肪増加と認知症のリスクとの間には、
どのような関連があるのでしょうか?

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
70から79歳の3075名の男女を、
平均で9.0±1.8年経過観察した疫学研究のデータを活用して、
5年をおいて計測した筋肉内脂肪量のデータと、
認知症発症との関連を検証しています。

その結果、
大腿の筋肉内脂肪量の指標であるIMATは、
全体で平均39.0%増加しており、
その間の認知機能の指標である3MSテストの数値の低下との間に、
一定の関連が認められました。
具体的な数値としては、
大腿のIMATが4.85㎠低下すると、
3MSテストが3.6点低下するという相関が認められました。
この相関は他の認知症の関連因子とは無関係に認められました。

これはまだそうした現象を確認しただけのデータですが、
今後そのメカニズムが実証されれば、
筋肉内脂肪量増加は、
認知症の重要な危険因子となるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
コメントでご指摘を受け、
表現の誤りを修正しました。
(2023年7月4日20時29分修正)

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医療研究機関でのハラスメントの実態 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
医学研究室のハラスメント.jpg
JAMA誌に2023年6月6日付で掲載された、
医療研究機関におけるハラスメントについての論文です。

今は様々な行為がハラスメントと呼ばれる時代です。

多様性に配慮し、
一方的な人間関係での権力の行使を認めない、
というような点では、
勿論時代の進歩ではあるのですが、
あまりに急激な変化に、
ついていけないところがあるのも事実です。

医療現場や科学研究の世界も、
以前は上司が絶対のヒエラルキーの世界で、
パワハラやモラハラは日常茶飯事でした。
それは今でもそう大きくは変わっていない、
という意見もあります。

特に欧米の高名な研究機関では、
世界中から研究者が集まりますから、
人種や性的マイノリティに対する差別などが、
問題となった歴史もあります。

その現状はどうなのでしょうか?

今回の研究はアメリカ国立衛生研究所から助成を受けた研究員、
トータル830名にハラスメントについての聞き取りを行って、
その結果をまとめたものです。

研究者の性別は男性422人、女性385人、男女以外2名、
性別を特定しなかった研究者が21名です。
人種は572人が白人種、169人がアジア人種、
66人がそれ以外と解答し、解答しなかった対象者もいました。
シスジェンダーでヘテロセクシャル(男女どちらかの性別を持ち、別の性別の相手が性的対象)
が774名で、31名はそれ以外の性同一性もしくは性的対象を持つ、
LGBTQ+でした。

性差別的言動(ジェンダーハラスメント)を受けたと解答したのは、
男性の44.9%と女性の71.9%で、
明確に女性でのジェンダーハラスメントの比率は高いものになっていました。

職場環境に対して男性より女性の方が、
ネガティブな感情を抱いており、
ネットでのハラスメントは、
LGBTQ+においてそれ以外より、
多い傾向が認められました。

このように、現在の専門の研究機関においても、
少なからずのハラスメントが認められ、
特に女性や性的マイノリティの方において、
その影響が高いことが確認されました。

今後こうした検証は、
より多方面で行われる必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オセルタミビル(タミフル)のインフルエンザ入院予防効果(2023年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
タミフルの入院予防効果.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年6月12日ウェブ掲載された、
インフルエンザ治療薬の入院予防効果についての論文です。

インフルエンザには、
現在複数の治療薬が日本では使用可能ですが、
世界的にその有効性が確認されているのは、
オセルタミビル(タミフル)のみです。

現状多くのガイドラインにおいて、
肺炎などで重症化したインフルエンザや、
基礎疾患があって重症化の可能性が高い場合には、
症状出現後48時間以内に、
オセルタミビルの治療を開始することが推奨されています。

しかし、その根拠はそれほど確かなものではありません。

これまでに無作為介入試験のような、
精度の高い臨床試験において、
オセルタミビルの使用が生命予後に与える影響が、
確認されたことはありません。

ただ、集中治療室に運ばれるような重症の患者さんを、
くじ引きで治療と未治療に分けるというような方法は、
実際には倫理的に困難です。

そこで事例を集めて比較するような臨床研究になるのですが、
現状それほど精度の高いデータが多くはなく、
その結果もまちまちであるのが実態です。
また、インフルエンザには複数のタイプがありますが、
多くのこの分野のデータは、
2009年に発生したインフルエンザA/H1N1pdm09を対象としていて、
それ以外のタイプに対する有効性のデータは、
極めて限られています。

今回の研究は、これまでの主だった精度の高い臨床データをまとめて解析する、
システマティックレビューとメタ解析という手法を用いて、
タミフルの現時点での入院予防効果、
すなわち入院を指標とした重症化予防効果を検証しているものです。

これまでの15の臨床研究に含まれる、
トータル6295名の患者データをまとめて解析したところ、
外来患者に早期にタミフルを使用しても、
その後明確な入院予防効果は確認されませんでした。

つまり、タミフルによるインフルエンザの重症化予防効果は、
実証はされなかったという結果です。

ただ、以前にもご紹介したように、
ウイルス株を限定した重症化予防効果や、
肺炎や集中治療室への入室の有無など、
別個の指標を活用した臨床試験においては、
一定の重症化予防効果や予後改善効果が確認された、
というような報告もあります。

そうした点を検証した上で、
タミフル使用の科学的な適応が、
今後はより明確となることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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シベリア少女鉄道「当然の結末」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
当然の結末.jpg
通常の演劇の枠組みを超えた世界を表現し続けている、
シベリア少女鉄道の新作公演が、
本日まで六本木の俳優座劇場で上演されています。

以下具体的なネタバレはありませんが、
若干内容が推測されるような記載はありますので、
本日鑑賞予定の方は鑑賞後にお読みください。

大好きで毎回楽しみなシベ少ですが、
最近はとみに演劇としてのレベルが上がっていて、
今回もほぼほぼ普通の演劇と、
同じクオリティの世界の中で、
普通の演劇ではまずお目に掛かれない展開が、
怒涛のように訪れます。

その意味ではとても楽しく鑑賞しました。

ただ、最近の作品は演劇の枠組みを、
それほど逸脱することなく、
やや予定調和的になっている点は少し不満もあります。

今回も、要するに「ショーマストゴーオン」テーマで、
演劇公演に予期せぬ危機が到来するものの、
それを掻い潜って上演を成功させるまでを、
1つの芝居として上演するというジャンルです。
今回の作品も基本的にはそのバリエーションで、
その上演の「危機」が通常はあまりない突飛なもので、
その後の展開も通常の演劇の枠を超えていることは間違いがないのですが、
結果としてジャンルの壁を超えることはない、
という点に物足りなさを感じるのです。

以前のシベ少の作品は、
演劇としてのレベルで言うと、
役者は素人レベルでとても見ていられない、
という感じがあり、
セットや映像も、
今とは比べ物にならないくらいチープだったのですが、
それでいてオチの破壊力は壮絶で、
観客を全くの異世界に連れて行く、
という感じがありました。

その意味で前衛で、
寺山修司の演劇に近いような味わいもあったのです。

ただ、たとえば1時間半の舞台で、
オチは後半せいぜい30分ですから、
前半の1時間の何の面白みもない素人芝居を、
ひたすら耐えないといけないという欠点もまたあったのです。

最近の作品は前半からプロのお芝居として観ることが出来る、
という点では格段の進歩があるのですが、
その反面、オチの破壊力はかなり落ち、
予定調和的になった感は否めません。

どちらが良いかは難しいところですが、
本当に欲深い願いであることは承知の上で、
また壮絶な破壊力のあるオチを、
今のプロのスタッフ、キャストの布陣の中で、
見せて欲しいと願って止みません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「せかいのおきく」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
せかいのおきく.jpg
阪本順治監督の新作映画で、
モノクロのパートカラー1時間半弱の小品ですが、
戦前の長屋もの人情ドラマを思わせるストーリーに、
色々と工夫の凝らされた愛すべき作品でした。

構成は昔の人情ドラマのパターンをしっかりと守っていて、
細かく章立てが成され、
そこに無声映画のような説明の字幕が付きます。
基本モノクロ映画なのですが、
章の終わりは一部のみカラーとなっています。
これも一時期は流行した手法ですね。

内容は黒木華さん演じるヒロインの、
途中で首を切られて声が出ない境遇になりながら、
希望を見出して生きてゆく姿を描きます。

ただ、この映画の最大の特徴は、
江戸時代のトイレ事情と、
汲み取りの仕事をメインに描いていることで、
色々な意味でスレスレの際どい素材ですが、
モノクロにすることでそのハードルをクリアしているのが、
なかなかクレヴァーだと思います。

正直低予算の小品映画なので、
単独の劇場公開作品としては、
やや物足りない感じはあるのですが、
坂本監督ならではの優しい目線に満ちた作品で、
どぎつく長尺の映画の多い昨今では、
一服の清涼剤のような趣がありました。
確かに昔の映画には、
こうした作品も多かったのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナ後遺症に対するメトホルミンの予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
特殊健診などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メトホルミンの新型コロナ後遺症予防効果.jpg
Lancet Infectious Diseases誌に2023年6月8日ウェブ掲載された、
新型コロナ後遺症に複数の薬剤を使用し、
その予防効果を検証した論文です。

これは以前査読前の論文としてご紹介したものですが、
今回査読を受けた上で一流誌に掲載されましたので、
改めてご紹介をしたいと思います。

新型コロナウイルス感染症の罹患時には、
その急性症状が回復した後に、
数か月から経過によっては数年に渡り持続する、
倦怠感や息苦しさ、眩暈や精神症状など、
幅広い症状が見られることが知られています。

この現象には多くの呼び方がありますが、
厚労省は「新型コロナウイルス感染症罹患後症状(いわゆる後遺症)」
という言い方を採用しています。

そのメカニズムにはまだ不明な点が多く、
現時点で有効な予防法や治療法は確立していません。

今回の研究はアメリカの複数施設において、
これまでに新型コロナに対して、
一定の有効性が示唆される報告が存在している、
メトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミンの3種類の薬剤を、
疾患の急性期に使用し、
その後の新型コロナ後遺症に対する影響を、
偽薬の使用と比較検証しています。

対象は年齢が30から85歳で過体重か肥満があり、
新型コロナを発症してから1週間未満の1431名で、
そのうちの1126名が長期の観察の対象となっています。
そして、長期観察の結果そのうちの8.3%が後遺症と診断されています。

イベルメクチンとフルボキサミンの急性期の使用は、
その後の後遺症のリスクに有意な影響を与えませんでしたが、
急性期にメトホルミンを継続した群では、
新型コロナ後遺症のリスクは、
41%(95%CI:0.39から0.89)有意に低下していました。
特にメトホルミンが症状出現後3日以内に開始された事例に限ると、
そのリスク低下はより大きく、
63%(95%CI:0.15から0.95)に達していました。

メトホルミンの投与は、
初日500㎎、2から5日目は1日1000㎎、
6日から14日は1日1500㎎となっています。
これは日本の臨床でも充分対応可能な用量です。

今回の臨床データは、
通常臨床で使用されている一般的な薬剤の使用により、
これだけの後遺症予防効果が得られたとする結果は非常に興味深く、
今後の検証を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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テストステロン補充療法の心血管疾患リスクについて(2023年介入試験結果) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
テストステロン補充療法と心血管疾患リスク.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年6月16日ウェブ掲載された、
男性ホルモン治療と心血管疾患リスクについての論文です。

男性ホルモンであるテストステロンは、
男性の性機能や筋肉などの体力の維持に必要なホルモンで、
その高度の欠乏による性腺機能低下症では、
性欲低下や筋萎縮、骨粗鬆症などが起こり、
生活の質の低下に至ります。

ただ、男性ホルモンと心血管疾患との関連については、
相反する知見があり一定した結論に至っていません。
男性ホルモンは内臓脂肪を減少させてインスリン抵抗性を改善しますから、
その意味では心血管疾患のリスクの低下に結び付きそうです。
その一方で男性ホルモンによる治療を行なうと、
血液の比重は増加し、
善玉コレステロールと呼ばれることのある、
HDLコレステロールは低下し、
心血管疾患のリスクも増加したとする、
臨床データも報告されています。

男性ホルモンの使用は、
男性更年期と呼ばれるような、
比較的軽度の男性ホルモンの低下においても、
最近は行なわれることが多く、
その有効性が指摘されることがある一方で、
心血管疾患のリスクが危惧されることもあります。

以前ご紹介したことがある2022年のLancet誌のメタ解析の論文では、
これまでの35の精度の高い臨床試験に含まれる、
5601名のデータをまとめて解析した結果として、
平均で9.5ヶ月の観察期間における心血管疾患のリスクには、
男性ホルモン治療群と偽薬群との間で、
有意な差は認められませんでした。

ただ、この問題の結論を出すには、
平均で1年未満という観察期間は、
あまりに短いと思われます。

今回の研究はアメリカの複数施設において、
年齢が45から80歳の男性で心血管疾患のリスクを持ち、
性腺機能低下症の症状があって、
血液中のテストステロンが300ng/dL未満である、
トータル5246名の患者を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はテストステロン含有のゲル製剤を使用し、
もう一方は偽のゲルを同じように使用して、
心血管疾患の予後を比較しているものです。

治療期間の平均は21.7±14.1か月で、
観察期間の平均は33.0±12.1か月。
対象者においても観察期間においても、
単独の臨床研究としては最も大規模なものだと思います。

その結果、
観察期間中の心血管疾患の発症リスクには、
両群で明確な差は認められませんでした。

今回の研究では、
テストステロン濃度が350から750ng/dLとなるように、
ゲルの量は調整されていて、
そうした適切な配慮のもとに治療を施行すれば、
心血管疾患のリスクの高い対象者に対しても、
テストステロンの外用治療は安全に継続可能という結果です。

今後こうした検証を元にして、
男性の性腺機能低下症に対する、
適切な治療指針が定められることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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心筋梗塞の予後に与えるLDLコレステロールの影響(LDLパラドックスについて) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
LDLコレステロールと心筋梗塞の予後.jpg
Journal of Internal Medicine誌に、
2023年5月31日ウェブ掲載された、
「LDL-Cパラドックス」についての論文です。

悪玉コレステロールと通称されている、
LDLコレステロールが血液中で高値であると、
動脈硬化が進行し、
心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患のリスクが高まることは、
多くの精度の高い疫学研究で確認されている事実で、
心筋梗塞を起こした患者さんに対して、
コレステロール降下療法を適切に施行すると、
その再発リスクが低下することも、
また多くの精度の高い臨床試験で確認されています。

ここまでは問題ありません。

しかし、これまでの複数の観察研究のデータでは、
急性心筋梗塞などの急性冠症候群を発症した患者さんにおいて、
LDLコレステロールが低いほど、
その後の死亡リスクが高く合併症も多いという知見が得られています。

つまり、
LDLコレステロールが低いことは良いことの筈なのに、
むしろ予後が悪いというデータになっているのです。

これを「LDL-C(LDLコレステロール)パラドックス」
と呼ぶことがあります。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
初発の心筋梗塞で入院した18歳以上の患者のうち、
コレステロール降下療法を施行していなかった、
トータル63168名の予後を、
血液中のLDLコレステロール値毎に比較検証しています。

患者の年齢の中央値は66歳で、
LDLコレステロール濃度の中央値は116mg/dLでした
LDLが低いほど患者の年齢は高く、合併疾患も多い傾向が見られました。
中間値で4.5年の観察期間中に、
10236名が死亡し、4973名は心筋梗塞を再発していました。

ここでLDLが約140mg/dL以上と最も高い群は、
約93mg/dL以下と最も低い群と比較して、
死亡リスクが25%(95%CI:0.71から0.80)有意に低下していました。

また、肺炎や大腿骨頸部骨折、COPD、新規の癌で入院するリスクも、
LDLが高いほど低くなっていました。

一方で心筋梗塞の再発のリスクは、
LDLが高い群は低い群と比較して、
1.16倍(95%CI:1.07から1.26)と有意に増加していました。

このように、今回の大規模な疫学データにおいても、
急性心筋梗塞後のコレステロール降下療法未施行の患者では、
LDLコレステロールが低いほど、
その予後が悪いという結果が得られました。

ただ、実際にはLDLコレステロールの低い患者は、
栄養状態が悪い可能性が高く、
心臓以外の疾患を併発していえることで、
その生命予後が悪化しているという可能性が示唆されました。
つまり、LDLコレステロールが低い状態で心筋梗塞を発症した患者は、
コレステロール以外の原因で病気が発症した可能性が高く、
そのため原因とコレステロールとは無関係で、
その低値は全身状態の悪化を表現しているのではないか、
という仮説です。

従って、コレステロールが高値で心筋梗塞を発症したような患者においては、
コレステロールの管理が重要ですが、
コレステロールが低値で発症したような患者では、
別のアプローチが必要と考えられるのです。

LDL-Cパラドックスは、
どうやらパラドックスと捉える必要はなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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