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血小板減少症患者への予防的血小板輸血の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
IVH時の血小板輸血の効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年5月25日ウェブ掲載された、
出血のリスクのある手技の際に、
血小板輸血をすることの可否についての論文です。

中心静脈カテーテルというのは、
身体の内側にある太い静脈にカテーテルを挿入して、
点滴を施行したり、薬剤を血管内の直接注入するための手技です。

使用する血管は、
鎖骨下静脈、内頸静脈、大腿静脈など様々ですが、
いずれにしても身体の表面から針を刺して、
カテーテルを挿入するという方法は同じです。

それほど危険性の高い手技という訳ではありませんが、
基本的にブラインドで針を刺すので、
出血などの合併症のリスクは常に存在しています。

太い静脈の周囲には、
必ず動脈が走行しているので、
誤って動脈が針で傷ついてしまうと、
大きな血種が出来るようなこともあり得ます。

特に問題となるのは、
その患者さんに出血のリスクがあったり、
一度出血した際に、
止血に時間の掛かるような病気を持っている場合です。

その代表が血液を凝固させるために必要な、
血小板が高度に減少しているような患者さんです。

通常15万/μl以上はある血小板が、
10万を切ると明確に低値となり、
特に5万を下回ると出血のリスクが高まるとされています。

こうした血小板減少症の患者さんに、
中心静脈カテーテルを挿入する必要が生じた場合、
どのようにして出血のリスクを回避すれば良いのでしょうか?

1つの考え方は、
カテーテルの挿入時に超音波で血管の位置を確認したり、
充分な経験を有する医師が施行するなどして、
誤って動脈を損傷するような合併症を、
抑止するという方法です。

そして、もう1つの考え方は、
術前に血小板を輸血して、
一時的に血小板を増加させ、
出血した際の重症化のリスクを抑制しよう、
という方法です。

安全のためには血小板輸血が有効と考えられますが、
その一方で適切に手技を行えば、
血小板が高度に低下した患者でも、
出血のリスクは低く、
輸血の必要はない、というような臨床データも存在しています。
また血小板輸血も輸血ではあるので、
輸血に伴う有害事象や合併症も存在しています。

この問題は現時点で解決しているとは言えないのです。

そこで今回の研究では、
オランダの複数の専門施設において、
血小板数が1万から5万/μlという、
高度の血小板減少症のある患者が、
中心静脈カテーテルの留置が必要となった際に、
くじ引きで2つに振り分けると、
一方は1単位の血小板輸血を予防的に施行し、
もう一方は輸血は施行せずに、
カテーテルの挿入を行っています。
カテーテルの挿入に際しては、
超音波で血管の位置を確認するなど、
慎重な対応を行っています。

対象は338例の患者に施行された373件のカテーテル留置で、
結果としてカテーテル挿入に伴う出血系の合併症は、
血小板輸血群では4.8%に認められたのに対して、
輸血未施行群においては11.9%に認められ、
輸血をしないと輸血をする場合と比較して、
出血系合併症が2.45倍(95%CI:1.27から4.70)有意に増加した、
という結果でした。
この場合の出血系合併症というのは、
圧迫止血に20分以上を要したものや、
輸血や処置を要したものの合算ですが、
これをより重症度の高い出血である、
輸血や処置を要したり、血圧低下などを伴うものに限定すると、
輸血施行群では2.1%、輸血未施行群では4.9%に認められ、
輸血をしないと輸血をする場合と比較して、
重度の出血系合併症が2.43倍(95%CI:0.75から7.93)、
こちらは有意ではないものの増加する傾向を示していました。
重篤な有害事象は13件認められましたが、
いずれも出血系の合併症でした。

このように、
慎重に手技を施行していても、
ある程度の頻度で出血系の合併症は発症しており、
それを抑制する上で、
予防的な血小板輸血には一定の有効性が確認されました。

今後こうしたデータを元にして、
出血のリスクに応じた対応が、
ガイドラインとしても整理されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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