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習慣性扁桃炎に対する扁桃摘出術の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
扁桃摘出術の有効性.jpg
Lancet誌に2023年5月17日ウェブ掲載された、
習慣性扁桃炎に対する口蓋扁桃摘出術の有効性についての論文です。

咽喉の奥にある扁桃腺が腫れて、
強い痛みと高熱が出るのが扁桃炎です。

ウイルスが原因であれば、
1週間以内くらいの経過で自然に、
溶連菌などの細菌が原因であれば、
有効な抗菌剤を使用することにより数日で、
急性の症状は改善することが殆どですが、
厄介なのは繰り返す場合があることで、
1か月に1回のような高頻度で、
高熱が出るような状態が繰り返されると、
学校や仕事にも行けなくなりますし、
日常生活にも大きな制限が生じます。

そうした場合に検討されるのが、
扁桃腺(口蓋扁桃)を切除する、
口蓋扁桃摘出術という手術をすることです。

扁桃腺を取ってしまえば、
少なくともその部分が腫れて痛むことはなくなります。
ただ、それでは咽喉が腫れて熱を出すことが、
一切なくなるのかと言えば、
そうではなく、
扁桃腺は口蓋扁桃だけではないので、
他の部分が腫れて熱を出すことはあり得ます。

また、扁桃腺は身体にウイルスなど、
外敵が侵入した際にそれを防御する働きを持っているので、
その働きが低下するという可能性も、
完全に否定は出来ません。

これまでの臨床の経験的な蓄積から、
3歳以上の年齢においては、
多くの場合口蓋扁桃を切除しても、
その後の健康状態には大きな問題は生じることはなく、
扁桃腺が腫れて熱を出すようなことの起こる頻度も、
減少することがほぼ分かっているので、
通常日本においては、
年に3から4回以上扁桃炎で熱を出すような場合には、
扁桃摘出術が勧められることが多いと思います。

しかし、
実際には精度の高い臨床試験において、
習慣性扁桃炎に対する扁桃摘出術の有効性が、
明確に示されているということはなく、
海外においても経験的に手術が決められているのが現状です。

そこで今回の臨床研究ではイギリスの複数施設において、
年齢が16歳以上で習慣性扁桃炎と診断された453名の患者を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は直ちに口蓋扁桃摘出術を施行し、
もう一方は急性扁桃炎時には抗菌剤を使用するなどして保存的に対応し、
その経過を2年間観察しています。

この試験における習慣性扁桃炎は、
1年間に7回以上の扁桃炎由来と思われる症状、
もしくは2年間に年間5回以上、
もしくは3年間に年間3回以上、
となっています。
これは通常の国内の基準より厳しいものだと思います。

検証の結果、
振り分け後2年間の咽頭痛出現日数は、
観察群では中央値で30日であったのに対して、
扁桃摘出術群では23日で、
関連する因子を補正した結果として、
扁桃摘出術により、
2年間の咽頭痛出現日数は、
47%(95%CI:0.43から0.65)有意に低下していました。

扁桃摘出術を施行した事例の39%で、
何らかの合併症が発症していて、
最も多かったのは患部などからの出血でした。
死亡事例は認められていません。

このように、
習慣性扁桃炎に対する口蓋扁桃摘出術には、
一定の症状改善効果が期待出来ます。
ただ、完全に症状がなくなるという訳ではなく、
頻度が半分程度に減るだけだという点については、
現状周知されていない側面もあると思います。

今後こうしたデータの蓄積により、
現状より科学的な扁桃析出術の適応が、
定められることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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