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GLP-1アナログと甲状腺癌リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
GLP-1アナログと甲状腺癌リスク.jpg
British Medical Journal誌に2024年4月10日付で掲載された、
糖尿病や肥満の治療薬と甲状腺癌との関連についての論文です。

GLP-1アナログは、
人間の消化管から分泌されるホルモンである、
GLP-1と同じ作用を持つ薬剤で、
その膵臓を刺激してインスリン分泌を促し、
血糖を降下させる作用から、
糖尿病の治療薬として開発されて使用され、
その臨床データで体重減少効果が認められたことより、
最近では肥満症の治療薬としても注目されている薬剤です。

もともとは注射の製剤しかなかったのですが、
最近になって内服薬も開発され、
その使用のハードルはグッと下がりました。

最近ではまた、
GLP-1アナログを他のインクレチンなどのホルモンと配合して、
よりその効果を高めたような薬剤も、
次々と開発されています。
その中には既に日本でも発売されているものもありますし、
まだ未発売のものもあります。

このように非常に評価の高いGLP-1アナログですが、
副作用や使用に伴う有害事象も幾つか報告されています。
有名なものは消化器症状や膵疾患ですが、
それほど一般には知られていないものの、
指摘される有害事象の1つが、
甲状腺癌リスクの増加です。

これは開発の当初から、
動物実験において、
甲状腺のカルシトニン産生細胞(c細胞)の発癌のリスクを、
GLP-1アナログが高めるというデータがあったために、
注目された知見です。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMp1001578?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200www.ncbi.nlm.nih.gov

またフランスの臨床データをまとめた論文では、
GLP-1アナログを1から3年使用することで、
甲状腺癌のリスクが1.58倍、
C細胞由来の癌である甲状腺髄様癌のリスクが1.78倍、
それぞれ有意に増加していると報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36356111/

今回の研究はデンマーク、ノルウェー、スウェーデンにおいて、
GLP-1アナログを使用した145410名の患者を、
平均で3.9年観察し、
その間に診断された甲状腺癌の罹患率を、
DPP4阻害剤やSGLT2阻害剤という、
別のタイプの糖尿病治療薬を使用した患者と比較しているものです。

その結果、トータルな甲状腺癌の発症リスクも、
甲状腺髄様癌に限った発症リスクも、
GLP-1使用群と他剤使用群との間で、
有意な違いは認められませんでした。

今回の研究は対象者は大規模であるものの、
観察期間は比較的短く、
その間に発症した癌の患者数はそれほど多くはないので、
GLP-1アナログの甲状腺癌についての安全性が、
完全に実証されたという訳ではありませんが、
そのリスク増加はあるとしても極僅かなもので、
その使用を一律に控えるという必要はないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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