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GLP-1アナログのパーキンソン病進行予防 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
終日事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
パーキンソン病へのGLP-1アナログの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年4月4日付で掲載された、
2型糖尿病や肥満症の治療薬を、
パーキンソン病の進行予防に使用するという試みの、
第2相臨床試験結果をまとめた論文です。

パーキンソン病というのは、
脳の特定の部位のドーパミン分泌細胞が減少することにより、
手の震えや歩行障害などの特徴的な症状が見られる神経難病で、
認知症や睡眠障害、自律神経障害とも関連が深く、
様々な治療薬や治療法が開発されていますが、
完治に至るような確実な治療は未だ実現していません。

通常不足したドーパミンを補充するような治療が、
まず試みられますが、
初期には著効しても、
進行するとその効果は不安定となり、
特有の薬による有害事象も増えることが知られています。

そのため、
ドーパミン製剤に併用して、
その治療効果を高め、
何より神経細胞の障害を予防して、
病気の進行を遅らせるような治療薬の開発が、
期待をされています。

その1つの候補として最近注目をされているのが、
GLP-1アナログです。

GLP-1アナログは2型糖尿病の治療薬で、
その体重減少効果から肥満症の治療薬としても、
現在注目されている薬剤です。

GLP-1アナログで治療を受けている患者さんは、
他の糖尿病治療薬を使用している患者さんと比較して、
パーキンソン病のリスクが50%以上低下した、
とする報告があります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7794498/

また動物実験においては、
パーキンソン病の原因に関連する神経細胞の変性が、
GLP-1受容体の刺激により予防された、
とする実験結果も報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29892066/

こうした知見からは、
GLP-1アナログの使用により、
パーキンソン病の進行が予防可能なのではないか、
という可能性が示唆されます。

そこでエキセナチドという初期のGLP-1アナログを、
パーキンソン病の患者さんに使用した臨床試験が施行され、
一定の症状改善の有効性が示唆される結果が報告されました。

今回の研究は現在も使用されている、
リキシセナチド(リキスミア)というGLP-1アナログ製剤を使用して、
初期のアルツハイマー病の患者さんに対する、
進行予防効果を検証したものです。

パーキンソン病と診断されて3年未満の、
通常のドーパミン製剤などにより病状の安定している患者、
トータル156名を本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はGLP-1アナログのリキシセナチドを、
1日20μg皮下注射し、
もう一方は偽薬を同じように注射して、
それぞれ12か月間の投与を継続。
14か月までの経過観察を施行しています。

その結果、12か月の時点で歩行障害などの運動障害は、
偽薬群では進行していましたが、
リキシセナチド群では、
ほぼ試験開始時と同等レベルに維持されていて、
初期パーキンソン病の運動障害に対する、
一定の進行予防効果が確認されました。

リキシセナチドによる有害事象は吐気などの消化器症状が主なもので、
重篤な有害事象で薬剤の使用との関連が高いものは認められませんでした。

これまでのパーキンソン病の薬物治療は、
ドーパミンの補充がその主体で、
薬を止めれば症状はすぐに元に戻りますし、
治療を継続することにより、
徐々に薬の効果が減弱したり、
症状が不安定になったりするという問題がありました。
またパーキンソン病自体の進行を止めるようなものではありません。
遺伝子治療や外科的治療なども試みられてはいますが、
個々に問題はあり、
多くの患者さんに適応可能なものではありません。

その中でこのGLP-1アナログは、
GLP‐1受容体を介する神経細胞の保護作用と再生促進作用を、
そのメカニズムに持ち、
元々が糖尿病や肥満症の治療薬なので、
強い副作用や有害事象がなく、
少なくとも1年くらいの使用においては、
使用により病状が不安定になる、
ということもなさそうで、
これまでにない利点を多く持っている可能性があります。

ただ、今回の結果はパーキンソン病統一スケールの、
一部の運動機能の判定に絞って、
若干の有効性が認められる、
というレベルのものです。

従って、それほど著明な効果と言えるほどではなく、
今回の結果は臨床での効果判定としては、
まだ不充分なもののように思います。

それでも、これまでにないメカニズムの治療薬として、
安全性も比較的確立しているという点には魅力があり、
パーキンソン病の改善に繋がる薬物療法の選択肢の1つとして、
今後の更なる検証の結果に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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