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別冊「根本宗子」第7号「墓場、女子高生」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は三宅医師が、
午後は中村医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
墓場、女子高生.jpg
根本宗子さんは、
今最も精力的に活躍している演劇人の1人ですが、
今回(と言っても先月ですが)は、
珍しく自作ではなく、
自身が役者として出演したこともある、
福原充則さんの、
「墓場、女子高生」を上演しました。

この作品は、
自殺した女子高生が、
同級生の黒ミサのような儀式で蘇生するのですが、
死の原因さえ分からないままに、
結局またすぐ自殺してしまう、
という皮肉でブラックなお芝居で、
いかにも小劇場的な大人数のキャストの、
ドタバタ的演技が、
作品の完成度を下げているという欠点はありながらも、
奇妙な味で得難い魅力のある作品です。

作者自身による演出の舞台は一度観ていますが、
リアルな墓場のセットで展開される、
結構泥臭い舞台でした。

それを今回の上演では、
かなりスタイリッシュで抽象的なセットを組み、
女子高生のアンサンブルには、
同性の演出家らしい繊細な工夫があって、
それでいて作品の勘所はしっかりと伝えているので、
主役の女子高生を根本さん自身が演じるのは、
「それはちょっと…」という感じはあるのですが、
まずは根本さんの演出力を、
見せつける、という感じのお芝居ではあったと感じました。

この戯曲の入門編としては、
ちょっと問題がありますが、
応用編としてはなかなかの水準であったと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原かろお送りしました。
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「ドクター・ホフマンのサナトリウム」(ケラ新作) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドクター・ホフマンのサナトリウム.jpg
神奈川芸術劇場のプロデュース公演として、
ケラさんの新作が上演されています。

これはカフカが療養生活をして亡くなったオーストリア(多分)で、
カフカの未発表の最後の長編が記されたノートが発見され、
そのノートを巡るドタバタと、
その作品自体の物語が並行して描かれて、
現代の2人の男がカフカの時代に迷い込むことによって、
2つの時代が繋がります。

カフカ自身も登場し、
最後の長編の内容が自伝的なものでもあるので、
カフカの人生自体もそこに重ねあわされるという重層的な趣向です。

15分の休憩を挟んで3時間半と、
例によって長大なお芝居ですが、
今回はお話自体は基本的に分かり易くシンプルで、
幻想的で凝りに凝ったビジュアルと、
語り手的役割の渡辺いっけいさんと大倉孝二さんの、
軽快な掛け合いの魅力も相まって、
それほど時間を感じることなく楽しく観ることが出来ました。

振付の小野寺修二さんは、
僕はあまり好みではないのですが、
今回はオープニングなど、
かなり意識的に寺山修司の世界を再現していて、
懐かしくもありましたし、
その最新の舞台技術の粋を集めて、
現代の天井桟敷を再現した完成度の高さには、
素直に拍手を送りたい気分になりました。
寺山芝居のファンの方は必見です。

ただ、緊張感が濃密で純度の高いのは最初だけで、
次第に雰囲気はまったりした感じのものになります。
後半は同じことをやっていても、
明らかに緊張感はなく、
結局何がやりたかったのかしら、
とちょっと疑問に感じる点はありました。

また、意外にお話はあまりカフカ的ではありません。

たとえば、
この作品のカフカを、
チェーホフやトルストイに置き換えても、
そのまま成立してしまいそうな感じがあります。

以前ケラさんには「世田谷カフカ」という作品があり、
カフカの「失踪者」や「城」を素材にアレンジした、
カフカダイジェスト的なお芝居でしたが、
こちらの方がよりカフカ的なお芝居になっていました。

それが意図的なものだったのかどうかは分かりませんが、
ケラさんの作品の中でも今回はあまりシュールではなく、
重層的な構造の中に、
死と生の問題を深く読み解こうとするような、
真面目なお芝居になっていたように思います。

そんな訳で「カフカの発見されなかった長編」というには、
ちょっと方向性が違っていたかな、というようには思いますが、
ともかくその技術的な完成度は素晴らしく、
矢張りケラさんの今の舞台は、
現在日本の演劇作品の1つの頂点と言って、
過言ではないもののように思います。

個人的にはちょっと物足りない、
でも凄い芝居です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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前川知大「終わりのない」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
終わりのない.jpg
ホームグラウンドのイキウメとは別に、
多彩なゲストと世田谷パブリックシアターを舞台に、
古典の再構築のような試みをしている、
前川知大さんの新作公演に足を運びました。

今回もイキウメのメンバーに加えて、
いつもの仲村トオルさん、
テレビで活躍されている山田裕喜さんや奈緒さんをゲストに、
魅力的なキャストでの公演です。

今回の作品はホメロスの「オデュッセイア」が原作ですが、
それを山田裕喜さん演じる18歳の青年の、
若くして挫折し、人生の目的を失った心の放浪に重ね合わせ、
主人公の意識が未来人の意識と交流することにより、
時空を超えた意識の旅として表現しています。

かなり哲学的で観念的な話ですが、
今回は主人公の人物像と、
その両親の人物像がしっかりと描かれていて、
未来で出会う人物にも、
森下創さん演じる老人と、
浜田信也さん演じる集合知のコンピューターに、
しっかりした肉付けがされているので、
人間ドラマとしても成立していて、
ドラマに膨らみがあります。

「2001年宇宙の旅」のような感触もありますし、
人間の意識が時空を超えて繋がるという趣向の、
演劇的な展開のさせ方は、
遊眠社時代の野田秀樹さんの作劇も彷彿とさせます。

内容的には、
結論の部分はそれほど目新しい感じではないのですが、
そこに至るロジックは何処かの哲学書の引用ではなく、
量子論などをベースにして多重世界を絵解きする、
純粋に前川さんのオリジナルの思考実験なので、
「孤独が人間の個性である」とか、
「喪失した無意識がひらめきの源泉である」とか、
随所にハッとするようなディテールがあって、
なかなか楽しめます。

キャストは山田裕喜さんの熱演と、
それを支えた仲村トオルさんや浜田信也さんのベテラン勢とバランスが良く、
シンプルなセットも、
巧みな音響や照明の効果で、
時空の変化を綺麗に表現していました。

そんな訳で、
今回は明らかな大成功で、
これまでの前川さんの劇作の中でも、
代表作の1つと言って良い、
充実度の高い舞台に仕上がっていたと思います。

お薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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川村毅「ノート」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ノート.jpg
吉祥寺シアターに、
川村毅さんの新作「ノート」を観劇に出掛けました。

川村さんは今年で劇作40周年で還暦だそうです。
僕は正直それほどのファンではありませんが、
第三エロチカには何度か足を運びました。
アングラの薫陶は確かに受けながら、
当時としては近未来を舞台にするなど、
SF的でスケールの大きな舞台設定が魅力でした。

その後紆余曲折はありながら、
演劇を現役で作り続けている、
その創作力とエネルギーには感心させられます。

最近では唐組と東京乾電池のコラボ公演に書き下ろした芝居が、
とても洒脱で味わいの深い作品で印象に残っています。

今回の新作はオーム真理教事件に真っ向から取り組んだ群像劇で、
記憶を失ったかつての幹部の1人が、
かつての教団幹部や関わり合いになった人々とのディスカッションの中で、
その記憶を思い出して行くという仕掛けにより、
あの事件を忘却してしまった多くの観客に対して、
主人公を媒介にその記憶に向き合ってもらうことを意図した、
骨太のお芝居です。

台詞の熱量においては、
久しぶりに第三エロチカ時代を彷彿とさせるものがあり、
論旨も明快でまずは水準を超える台詞劇になっていました。
基本的に動きのないセットですが、
プロジェクションマッピングで、
床や壁に抽象的な模様のようなものを映し、
その動きで時代の雰囲気のような部分を、
表現するという趣向も成功していたと思います。

ただ、真面目に取り組まれている分、
面白みに乏しい感じ、
全てが規格内に収まっているような感じはあります。
役者さんもある種の役割として存在している感じで、
人間ドラマとしての要素は希薄です。

もう少し血と肉のある個人の葛藤やドラマが、
事件の背後に浮かび上がって来ると、
より切実な作品になるように感じました。

これまでにも再演やリクリエーションにより、
作品に磨きを掛けることの多かった川村さんですから、
この作品についてもこれで完成形ではなく、
これからより深化した作品に、
進んでゆくことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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別役実「この道はいつか来た道」(2019年鵜山仁演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも中村医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
この道はいつか来た道.jpg
舞台芸術学院創立70周年記念公演として、
1995年に木山事務所で初演された別役実さんの旧作、
「この道はいつか来た道」が、
金内喜久夫さんと平岩紙さんというキャストで上演されました。

僕は平岩紙さんの舞台での演技が大好きで、
別役実さんの舞台もとてもとても好きなので、
これはもう絶対見逃せないと思って出掛けました。

この作品は僕は初見ですが、
何度か別キャストでの上演が行われています。

作品が書かれた1995年には、
別役さんの劇作はもう1つの完成をみていて、
どちらかと言えば力を抜いた、
少人数で時間も短い、
人生スケッチ風のお芝居が多かった時期です。

この「この道はいつか来た道」も、
夫婦と思われる高齢の男女のみの2人芝居で、
舞台には電信柱とポリバケツだけがあり、
上演時間は50分ほどの短さで、
ラストは静かに雪が降って来て終わります。

内容自体も命の短い男と女が、
何度も人工的な出会いと別れを繰り返すというもので、
作品の仕掛けも結構明瞭に説明されますし、
別役さんの作品としては、
かなり平明で分かり易く、
意地悪さがあまりありません。
それがこの作品の魅力でもあり、
別役さんの作品群の中では、
物足りなさを感じるところでもあります。

今回の上演は、
何度かこの作品を演じている重鎮の金内喜久夫さんと、
年齢的には金内さんの半分以下の平岩紙さんのコンビで、
年齢差にはちょっと違和感があるのですが、
2人とも抜群の芸達者なので、
観ているうちにはそうした不自然さは、
あまり感じなくなります。

演出もこれ以上はないくらいのシンプルなもので、
まずは十全に別役作品の世界に、
浸り込むことの出来る舞台でした。

金内喜久夫さんが良かったですね。
ご高齢ですし、台詞が大丈夫なのかしら、
などと余計な心配もしていたのですが、
それは全くの杞憂でした。
金内さんはかつての「薮原検校」の語り手の芝居が、
名演として心に焼き付いていますが、
今回もなかなかの出来映えでした。

一方の平岩紙さんは、
個人的には当代の演技派舞台女優の代表の1人と思っていて、
彼女が出演しているだけで、
舞台に足を運ぼうという気分になる数少ない1人です。

今回もラストの前の艶然とした表情など、
彼女ならではの演技を見せてくれました。

ただ、別役さんの台詞はまだ平岩さんの中で、
こなれているとは言い切れず、
やや生硬いという感じはありました。
また、この芝居はあまり役の振幅が大きくないので、
平岩さんの力量が、
十全に発揮されているというようには思えませんでした。

そんな訳で少し不満もあったのですが、
久しぶりの別役芝居を、
最高のキャストで観ることが出来たのは幸せでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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唐十郎「ビニールの城」(唐組第64回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ビニールの城.jpg
唐組の第64回公演として、
第七病棟が1985年に上演し、
アングラ演劇の最高傑作とまで言われた「ビニールの城」が、
紅テントでは初めて上演されました。

初演の1985年は僕は大学生で、
状況劇場の「ジャガーの眼」の初演と、
秋の新人公演「少女都市からの呼び声」は観たのですが、
「ビニールの城」はどうした訳が観に行きませんでした。
後の大評判を聴いて、本当に何故観なかったのかと、
とてもとても後悔しました。
生涯最大の後悔の1つと言っても過言ではありません。

コクーンで最近上演されたものは見ましたが、
これは見るのが辛くなるような、
落胆しか感じないというお芝居でした。

今回の唐組版は、
とてもとても素晴らしい上演でした。

唐組で久保井研さんと唐先生の共同演出になってから、
その演出の緻密な素晴らしさにおいては、
最高傑作と言って過言ではありません。

以前と比べると全体に全てが小振りで、
スケール感がないことはやや物足りないのですが、
その分細かい部分まで非常に緻密に出来ていて、
仕掛けを含めた舞台セットに音効、照明、
台詞の繊細なニュアンスから、
主人公2人の切ない叙情の表現、
脇役の異形の造形の楽しさまで、
全てが高いレベルで完成されています。

役者も久しぶりに唐組の舞台に戻って来た稲荷卓央さんが、
かつて以上にエネルギッシュで情熱的な芝居を見せ、
ヒロインの藤井由紀さんは、
少しビジュアルを緑魔子さんに寄せた、
これまでとは少し違う役作りで、
その叙情性が胸を撃ちました。

脇も人形役の久保井研さんの凄みや、
岡田悟一さんと全原徳和さんのコンビの異様さなど、
唐先生の怪物的脇役の魅力を、
心ゆくまで楽しむことが出来ました。

ラストもはっとするような美しさで、
もう少し周辺の特殊効果も欲しいな、
というようには思うのですが、
これまでの唐組のラストとは、
一線を画するような美学を感じました。

総じてこの作品が名作であることを、
改めて感得した気分になる素晴らしい上演で、
唐組のリバイバル上演の頂点と言って良い、
素晴らしい舞台でした。

必見です!

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ドーフマン「死と乙女」(2019年小川絵梨子演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
死と乙女.jpg
1991年にチリの劇作家アリエル・ドーフマンが執筆し、
ポランスキー監督による映画化もされ、
世界的に上演が盛んに行われている「死と乙女」が、
先日まで東京のシアタートラムで上演されました。
本日は大阪公演の予定です。
その東京の舞台に先日足を運びました。

この作品はこれまでにも何度か国内で上演されていますが、
実際に観るのは初めてです。
映画版は観ていますが、
意外に地味で動きのない物語で、
ラストもよく意味が分からず、
ポランスキー監督は大好きで、
ポランスキー監督は何かやってくれるだろう、
というような勝手な期待で鑑賞したので、
「えっ!もうこれで終わりなの?」と、
かなり失望して映画館を後にしたことを覚えています。

今回は宮沢りえ、段田安則、堤真一という、
当代これ以上はあり得ないというような豪華キャストで、
演出は翻訳劇の名手である小川絵梨子さんですから、
かなり期待を持っての観劇になりました。

この作品は1時間35分ほどの短い芝居で、
その殆どは狭い家の中の一夜の出来事です。
ある架空の南米の国で、独裁政権が倒れて民主化するのですが、
新しい政権で重要なポストを得た、
堤真一演じる男性の妻(宮沢りえ)は、
かつて反政府運動に関わっていて、
性的な拷問を受け、そのことを夫にも話せずにいます。
ある夜に偶然に段田安則演じる医師が、
その家を訪れるのですが、
その声を聴いた妻は、
それがかつて自分を拷問した男のものであったと確信します。
そして、家で寝入った男を縛り上げると、
かつての罪を告白させようとします。
そこで3人の男女の関係は緊張の極を迎えることになるのです。

大変現代的で巧みに構成された物語だと思います。

環境の変化によって善悪が逆転し、
決して悪人でも善人でもない多くの人達が、
その変化により翻弄されるというのは、
どんな世界でもあり得る話ですし、
性的に陵辱された女性が、
そのトラウマをどのようにして克服するべきかというのも、
極めて現代的なテーマです。
ヒロインの女性は、
かつての敵と夫という2人の男を相手にして、
その悪と対峙するのですが、
夫も男であることには違いがなく、
決してそこにも明確な敵味方の区別はないのです。
そして、表面的な物語の裏には、
ある種倒錯的な性と暴力と快楽の問題が潜んでいます。

この複雑で現代的な物語を、
3人のみのキャストの1時間半ほどのドラマに、
結晶体のように凝集させたという点に、
この作品の見事さがあります。
その点ではさすがの名作ですし、
世界中の演出家がこぞって上演し、
映画化もされたのも分かります。

ただ、上演した作品が面白いかと言うと、
それはまた別の話です。

映画も詰まらなかったですし、
今回の上演も正直あまり面白くはありませんでした。

台詞自体は結構過激で緊迫感もあるのですが、
舞台としてはあまり動きがありません。
ラストはヒロインが医師を殺す寸前で暗転し、
原作の記載ではそこで鏡が下りて来て、
舞台上に観客の姿が映し出される、
という趣向になっていて、
その後に場面は数ヶ月後に跳ぶのですが、
そこでも医師が死んだかどうかは、
明らかにはされません。
モヤモヤしたまま終わってしまいます。

宮沢りえさんは頑張っていたと思うのです。
ただ、この芝居はもっと肉感的で、
暴力的な感じ、裏に潜む性的な感じが、
観客に生々しく感じられないといけないと思うのです。
かつてヒロインは壮絶な拷問を受けた訳で、
それが妄想として再現されるというのが、
この作品の肝ですから、
観客に戦慄を感じさせるような必要性があるのです。

そういう芝居というのは、
今の日本の商業演劇では無理ですよね。
それは堤さん段田さんの男優陣も同じであったように思います。

小川さんの演出はいつも通りにセンスのあるものでしたが、
この肉感的な芝居に対しては、
ちょっと力不足という感じがありました。
ラストに宮沢りえと段田安則が目を合わせるところに、
心の深淵を感じさせるような狙いがあったと思うのですが、
それが説得力を持つには、
それまでの嵐の夜の2人の対峙の中に、
もっと強烈で性的なニュアンスが、
必要であったように思いました。
ラストの鏡はやっていませんでしたが、
これはやらなくて正解と感じました。

そんな訳で一観客としては、
あまり面白い芝居ではありませんでしたが、
この作品が名作であることは、
改めて認識させてくれる上演ではありました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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劇団「地蔵中毒」第十一回公演「ずんだ or not ずんだ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
地蔵中毒.jpg
無教訓意味なし演劇と題した公演を、
最近精力的に上演して人気急上昇中の劇団「地蔵中毒」の、
高田馬場での公演に足を運びました。

この劇団は観るのは初めてです。

これは想像していたより、
かっちりとした出来のお芝居で、
括りで言えばナンセンス・コメディという感じのものです。

一番個人的に似ていると思うのは、
ブルー&スカイさんのお芝居で、
以前の「演劇弁当猫ニャー」というのは、
こんな感じのお芝居でした。

友達であったり、
子弟であったり、家族であったりの、
数人の組み合わせで演じる、
シチュエーションコント的なものが並列で展開されて、
それが次第に絡み合って、
日本を揺るがすような大騒動に発展する、
というようなお話です。

全員出演の大騒ぎがあってから、
最後は女優さんの独白で締め括られるなど、
起承転結は小劇場的にはしっかり出来ていて、
役者さんも小劇場的にはなかなか達者な人が多く、
とても安定感があります。

ただ、上演時間は2時間15分くらいと、
こうした作品としてはかなり長尺で、
正直後半はかなりしんどく感じる部分もありました。
意外にストーリーがカッチリと出来ていて、
それを説明した上で、
そこにギャグが乗っかる、という感じになるので、
ミュージカルが歌の分長くなるのと一緒で、
ギャグの分長くなってしまうのです。

役者さんも作者も真面目な感じが伝わるので、
こんなに真面目でなくてもいいのに、
というようには少し思ってしまいました。

この集団がどのように進んでゆくのかは分かりませんが、
勢いのあることは間違いがなく、
今後のお芝居にも期待したいと思いました。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごしください。

石原がお送りしました。
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阿佐ヶ谷スパイダース「桜姫」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
桜姫.jpg
阿佐ヶ谷スパイダースが歌舞伎の「桜姫東文章」を元にしたお芝居を、
吉祥寺シアターで上演しています。

元々シアターコクーン向けに書かれて未上演となった台本を、
今回使用して初めての公演とのことです。

これは南北の「桜姫東文章」とほぼ同じ筋立てを、
時代を第二次大戦後すぐくらいに移して、
生演奏を入れた音楽劇にしています。
芝居小屋かレビューっぽい雰囲気もありますし、
かつての黒テントのレビュー形式のお芝居に、
とてもよく似たスタイルです。

歌舞伎の原作はヒロインが仇討をしてめでたし、
という感じになりますが、
この作品ではその部分はもっと身もふたもない感じになり、
ヒロインは無雑作に殺されて、
戦地を潜り抜けた殺人マシーンのような虚無的な権助が、
キャストを皆殺しにして終わります。

ただ、どうなのだろう。
それほどショッキングでもないですし、
即物的に人が死んだり不幸になるのも、
悪くはないのですが、
それだけを延々と見せられても、
いささかゲンナリするような気分が否めません。

黒テントのまだ精力的に活動していた頃のお芝居などを、
観たことのない方には、
今回のような演出や古典の再構築は新鮮に見えるかも知れませんが、
僕などはさんざんにその洗礼は受けているので、
あまり新味は感じませんでしたし、
かと言って懐かしさも感じませんでした。

それでも、
内省的な作家の自分探しのような舞台よりは、
長塚さんの本領に近いお芝居というようには感じました。

もっとやるなら過激にやって欲しいな。

何か欲求不満気味の観劇でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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長塚圭史「アジアの女」(2019年吉田鋼太郎演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アジアの女.jpg
2006年に新国立劇場の演劇公演として初演された、
「アジアの女」というお芝居が、
シアターコクーンで吉田鋼太郎さんの演出の元に、
装いも新たに再演されています。

これは東京で大震災が起こって東京が隔離され、
そこに取り残された兄妹と、
そこに関わる作家を中心とした物語です。

立ち入り禁止区域の廃屋に住み続ける兄妹であるとか、
そこに入り込んだボランティアや、
住みついた外国人とのトラブルなど、
今観るとどう考えても東日本大震災後のドラマなのですが、
実際にはずっと以前に書かれたものです。

僕は初演版も観ていますが、
初演観劇当時は大袈裟で曖昧な設定に、
釈然としない気分になったのが実際でした。

ただ、今改めて再見してみると、
当時の長塚さんの先見性というか予見性のようなものに、
「冴えていたのね」と素直に感心しました。

この作品は欧米の台詞劇に近いスタイルを狙ったもので、
初演の作家役は岩松了さんでしたから、
岩松さんの劇作のスタイルに、
長塚さんが挑戦した、というニュアンスもありました。
食い詰めた若者の殺し合いのような、
暴力性やすさんだ情感が長塚さんの初期のスタイルでしたが、
この作品では暴力は舞台の外でしか起こらないので、
長塚さんの過激な芝居を見慣れていた当時は、
物足りない気分になったことも事実です。
ただ、その後の長塚さんの劇作は、
どちらかと言えば過激を封印した作家の自分探しのドラマに、
傾斜していったように思います。

これは言ってみれば、
フィクションに何が出来るかに葛藤し苦悩する、
長塚さんの自分探しのドラマの原点のような意味合いの作品なのです。

初演は新国立劇場の小劇場で、
登場人物も5人と少人数ですから、
元々小劇場向けに書かれたお芝居です。

それを今回は中劇場でもやや大きい部類のシアターコクーンで、
石原さとみさんがヒロインを演じ、
吉田鋼太郎さんが主演を勤めて演出にも当たるという、
豪華版の再演を行なっています。

吉田鋼太郎さんの演出は果たして…
と思って観ていると、
いきなりバーバーの「弦楽のためのアダージョ」が流れて、
崩れかけた家々の大セットに、
多方向から万華鏡のような照明が当たり、
真っ赤な衣装のヒロインが、
強烈な白いスポットに照らし出されて、
芽の出る筈のないコンクリの地面に、
種を播き水を撒いているので、
「これ、蜷川幸雄じゃん」と、
驚き半分、納得半分という気持ちになりました。

その後もラストの外開きを含めて、
まごうことなき蜷川演出で、
多分スタッフも同じなのだと思いますし、
懐かしい蜷川芝居が展開されたのです。

こうなると、吉田鋼太郎さんは今回の企画の中で、
どの程度の役割を果たしていたのかしら、
というのは疑問に感じるところです。
主役で普段より演技にも力が入っている感じでしたから、
演出に傾注したというようにも思えませんし、
「これは蜷川芝居でやりますね」
という企画意図に乗っかって、
お任せでこんな感じになったのではないかな、
というように推察はされますが、
それが事実であるかどうかは分かりません。

トータルな舞台の感想としては、
初演より色々な意味でスケールアップしていて、
キャストも数段豪華で見応えがありました。

石原さとみさんは声が悪いのが、
舞台ではやや難点ですが、
さすがに華がありますし、
役柄にも合っていました。
その兄を演じた山内圭哉さんはおそらく今回のMVPで、
心優しいろくでなしのアルコール中毒者を、
リアルかつ繊細に演じていました。
良かったですよね。
特に後半石原さとみさんとの2人の場面は、
「ガラスの動物園」を彷彿させるような、
繊細な名場面になっていました。
才能のない作家を演じた吉田鋼太郎さんも、
最近は明らかに置いているような、
手抜きのお芝居が多かったのですが、
今回はなかなか力が入っていました。

正直コクーンの芝居としては矢張り地味な点は否めないのですが、
スターと演技派の競演は見応えがあり、
蜷川風演出もそうしたものと割り切れば、
楽しむことが出来ました。

初演よりこの作品の真価が感じられる舞台でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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