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小泉明郎「縛られたプロメテウス」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
プロメテウス.jpg
あいちトリエンナーレ2019で創作され、
「VR演劇史の幕開けを告げる衝撃作」と銘打たれた作品が、
シアターコモンズトウキョウ2020の参加作品として、
東京で初公開されました。

VRで…演劇?
とちょっと興味が沸いたので、
急遽チケットを入手して出掛けてみました。

結果としては発想や構成は、
なかなか面白く刺激的なのですが、
VR自体は最先端という感じのものではなく、
またかなりアートに振っている作品で、
演劇としての面白みは個人的にはあまり感じませんでした。

ただ、これは個々の人の演劇観に左右される事項なので、
「これぞ未来の演劇だ」とお感じになる方もいると思います。

これは60分ほどの作品で、
前半と後半の30分ずつに分かれています。

十数人の観客が暗いホールに入ると、
立ち位置を決めてからVRの機器を装着します。
それで前半はそこで画像を見て、
それから別の部屋に移動します。
そこでは座って今度はモニターを前にヘッドホンで音を聴く、
という趣向になっています。

この構成がなかなか上手いんですね。
30分毎に半分ずつ人を入れるという形で、
人員をスムースに捌く効果もありますし、
この前半と後半が連動する形になっているのですね。
面白くクレヴァ―な発想だと思います。

ただ、結局前半と同じことを、
見方を変えてもう一度繰り返すので、
後半はどうしても退屈にはなるのですね。
僕が観た時にも、
隣で半分寝ている方もいました。

後VRの画像がね、
白黒なんですよね。
出て来るのもモノリスみたいな直方体だったり、
白い線だったりして、
あまりワクワクするような映像ではなかったのが、
期待していただけに少し残念でした。
初期のCGみたいな映像なんですよね。
これじゃ詰まらないと感じました。

もっとカラーで現実にはないようなものが、
リアルに出現して欲しかったですね。
残念!

総じてちょっと理屈先行なんですね。
藝術というか、アートの関連の方は割とそうですね。
それを「演劇」と言われると個人的には抵抗があって、
僕の思う演劇というのは、
もっといかがわしさや疚しさがあって、
それは結局人間の肉体の持つ、
いかがわしさや疚しさのようなものだと思うのですね。
そういう要素は今回の作品には存在していなくて、
だから後半は理屈で理解しろという感じなので、
退屈に感じてしまうのだと思います。

そんな訳で、
演劇を期待したのでやや落胆してしまったのですが、
1つのパフォーマンスとして、
なかなか考えさせる優れた作品であることは確かで、
今後もこうした試みが行われることを期待したいと思いますし、
演劇人がもっとこうした技術を活用して、
演劇と真に融合した作品が生まれることもまた期待をしたいと思います。

演劇の記事が最近少ないのですが、
それなりに観てはいます。
ただ、面白いと思える芝居がなく、
「詰まらなかった」みたいな感想を書くことは、
あまり建設的ではないので書いていません。
特に小劇場は、
批判的に書くと気にされて、
お気を悪くされるような方が多いので、
余計に筆が進みません。
後数本はコロナの影響で中止になりました。

演劇は社会の役に立つから中止にするな、
みたいな意見を言う演劇人の方がいるでしょ。

僕は嫌いなんですよね、そうした言い方。

何の役にも立たないから、
無意味だから、
そこが演劇の魅力ではないかしら。
「意味も価値もないものがあってもいいでしょ。
それを楽しんだっていいでしょ」
というのが、
こうした娯楽の本質ではないかしら。

少なくとも僕はそうしたものが芝居だからこそ、
魅力を感じるのです。

小劇場が中止になったら、
やってる人が破産しちゃうから、
中止にするな、みたいに言うでしょ。
それはそれで深刻な問題だし、
正当な主張であると思いますが、
大きな声で言うようなことじゃないよね。
もっとこっそり申し訳なさそうに言うのが、
それが節度というものじゃないかしら。

そんな風に思います。

密室劇は感染の温床になる、
ということは事実だと思うのです。
だったら、野外劇をやればいいでしょ。
この時期だけ規制緩和して、
みんなで野外劇をすればいいのじゃないのかな。
家にいる観客がネットで繋がって、
そこにフィクションが生まれるような、
そうした演劇もありだよね。
演劇界の重鎮の人も、
そうしたアジテーションをこそするべきではないのかな。
311の計画停電の時も思ったのですが、
こうした危機的な時期だからこそ、
やれるような藝術、やれるような演劇というものが、
あるのじゃないかな。
それを探すことこそが、
演劇人なのじゃないかしら。
演劇にとって劇場は必須のものじゃないでしょ。
寺山修司や唐先生はそうした主張で一世を風靡したんでしょ。
劇場で出来なかったら他でやればいいじゃん。

「コロナがあったって、
ない時と同じように芝居をやらせろ!
1か月以上も練習したんだぞ!」というのは、
ちょっと違うのじゃないかな、
と思ってしまうのです。
芝居は「状況」が作るものだからです。
新型コロナのパンデミックになっていて、
そこでコロナの前に作ったお芝居を、
そのまま演じることが演劇のあるべき姿なのかしら。
それは違うのじゃないかな。
数日で演目を変えて、
状況に合った芝居を創造することも、
それはそれで小劇場ならではの魅力ではないかしら。
小劇場でしか出来ないことではないかしら。

こうしたことが出来る集団に対して、
誰も「演劇など要らない」などとは言わないと思います。

今小劇場に行くでしょ。
入口で「消毒にご協力をお願いします」と言われて、
すし詰めの狭い座席に隣の人と密着して腰を下ろして、
「携帯など音の出るもののスイッチを切って下さい」
というようなお願いと共に、
「コロナ対策で咳エチケットやマスクにご協力下さい」
と言われて、
隣の咳にもビクビクして、
それで正面の舞台で行われる芝居に目を移しますよね。
舞台で行われているこの束の間の虚構と、
この客席のいつもと違う状況や、
その劇場を取り囲む世界の禍禍しさとを比較する時、
果たして劇的なのはどちらでしょうか?

言うまでもないですよね。
劇的なのはこの世界の方で、
舞台ではないのです。

であるとすれば、
予定された芝居を状況と無関係に演じることは、
あるべき姿ではないのではないかしら。
演劇人の皆さんが真に恐れるべきなのは、
予定された上演を中止に追い込まれることではなく、
フィクションの世界より現実の重みが途方もなく大きい、
この不均衡の存在ではないかしら。
そして真に演劇人が考えるべきなのは、
この現実と虚構の刃でどう立ち向かうのか、
ということではないかしら。

そんな風に思います。

すいません余計な繰り言でした。

また面白いお芝居があるといいな。
感染防御には気を配りつつ、
劇場に足を運び続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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川村毅「クリシェ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。
ただ、老人ホームの診療と訪問診療には出掛ける予定です。

ふーっ…

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
クリシェ.jpg
第三エロチカ時代から、
映画的でスケールの大きなアングラ芝居を、
その都度形は変えながらも一貫して作り続けて来た川村毅さんが、
その劇作40周年と還暦を記念した公演の一環として、
旧作のアングラ芝居「クリシェ」を、
装いも新たに再演しました。

川村毅さんのお芝居は、
正直それほど熱心なファンという訳ではありません。

深浦加奈子さんや有園芳記さんが在籍していた頃の舞台は、
多分「ボディ・ウォーズ」1本しか観ていません。
その後「ジョーの物語」など何本か観ましたが、
映画の台本のようなお話が、
活字として読んでいる分には面白いのですが、
実際の舞台になると、
映画のような舞台面にはならないので、
どうも物足りなく感じてしまうのです。

ただ、最近の劇作は少し力が抜けた感じで、
特に唐組と乾電池のコラボ公演に書き下ろした、
「嗤うカナブン」という舞台は抜群に面白くて、
川村さんを見直した気分になりました。
(失礼な表現をお許し下さい。)

今回の作品は、
徹底して悪趣味と様式美に振った、
今時珍しい残酷見世物的アングラ芝居で、
「何がジェーンに起こったか」と「サンセット大通り」という、
ハリウッドカルトの名作を下敷きに、
老いたかつての名女優の姉妹を、
川村毅さん自身と花組芝居の加納幸和さんが外連味たっぷりに、
アングラ女形として演じ、
他にも奇怪な人形など、
ギミック満載の楽しい舞台に仕上がっています。

内容はオリジナルのストーリーを超えるものはないので、
最後の殺人人形の登場が少し盛り上がる程度で、
正直もう一押し欲しかったな、
という印象はあります。

会場となったあうるすぽっとは、
こうした濃密なお芝居を上演するにはいささか大きく、
装飾もかなり無機的な感じで、
これももう少し小空間で、
雰囲気のある小屋で観たかったな、
という思いはありました。

今回は何と言っても、
主役の1人を演じた川村さん自身の演技が素晴らしくて、
不気味な女装でダミ声を張り上げ大暴れする姿は、
これはもう生ける「日本のアングラ」そのものの姿として、
それは強く心に焼き付くことになったのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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北村想「風博士」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日までクリニックは年末年始の休診です。
明日はいつも通りの診療になります。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
風博士.jpg
北村想さんが過去の文豪の作品に想を取り、
実力派のキャストに寺十吾さんの名演出で人気のシリーズの、
今回は6作目になります。

今回は坂口安吾の「風博士」が題材となっています。
と言っても、
原作とはほぼ関連はなく、
戦争中の中国大陸の何処かを舞台として、
戦争など何処吹く風と、
飄々と生きる中井貴一さん演じる主人公と、
彼を巡る人間模様を描きます。

何処かユーモラスでのんびりとした、
牧歌的な時間が流れ、
後半はサバイバル的に大陸を逃げ延びることになるのですが、
それでもそう深刻な空気は流れません。

ただ、ラストに至って、
達観したような雰囲気の中に、
拭いきれぬ絶望のようなものも漂っていて、
ちょっと底の知れないような味わいもあるのです。

今回の作品はかつての劇団時代の北村作品や、
代表作とされる「寿歌」などを彷彿とさせるような、
行き当たりばったりでいい加減で、
牧歌的でちょっと切ない独特の世界に、
回帰したような作品です。
ロードムービー的味わいは「寿歌」に似ています。

その意味でとても懐かしく鑑賞しました。

キャストは中井貴一さんを始めとして、
吉田羊さん、段田安則さん、趣里さん、林遣都さんと、
1本に出演するのはもったいないくらいの豪華な顔ぶれですが、
中では趣里さんの役柄がかつての北村作品の、
特徴的なスタイルを良く表現していて、
感心しましたし、懐かしくも感じました。

僕は昔はあまり北村さんの良い観客ではなく、
その適当ともとれるような作品作りに、
あまり感心しなかったのですが、
今になってみると矢張り唯一無二の世界で、
それがこのシリーズでは、
心に少し空き部屋がないと、
理解が難しいような大人の芝居として成立していて、
今ではとても楽しみです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い年始をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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2019年の演劇を振り返る [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

お正月、皆さん如何お過ごしでしょうか?

今日は昨年の演劇を振り返ります。

昨年は以下の公演に足を運びました。

1.コンプソンズ「ぶっ飛ぶ夢をしばらく見ない」
2.シベリア少女鉄道「いつかそのアレをキメるタイム」
3.夜会
4.ブス会「エーデルワイス」
5.岩井秀人「世界は一人」
6.歌舞伎座三月大歌舞伎(夜の部)
7.六本木歌舞伎
8.ベッド&メイキングス「こそぎ落としの明け暮れ」
9.蓬莱竜太「母と惑星について、および自転する女たちの記録」
10.根本宗子「クラッシャー女中」
11.蓬莱竜太「まほろば」
12.MCR「死んだら流石に愛しく思え」
13.少年王者館「1001」
14. 文楽「妹背山婦女庭訓」(通し上演)
15.イキウメ「獣の柱」
16.ゴキブリコンビナート「膿を感じる時」
17.KAKUTA「らぶゆ」
18.唐組「ジャガーの眼」
19.青木豪「黒白珠」
20.ケラ「キネマと恋人」
21.モダンスイマーズ「ビューティフルワールド」
22. 歌舞伎座六月大歌舞伎(夜の部 三谷歌舞伎)
23. 歌舞伎座七月大歌舞伎(夜の部)
24.「ドライビング・ミス・デイジー」
25.松尾スズキ「命ギガ長ス」
26.赤堀雅秋「美しく青く」
27.シベリア少女鉄道「ココニイルアンドレスポンス」
28.岩松了「二度目の夏」
29.王様と私(渡辺謙凱旋公演)
30.本谷有希子「本当の旅」
31.アガリスクエンターティメント「発表せよ!大本営!」
32.平田オリザ「転校生」(演出本広克行 女子校版)
33. 歌舞伎座八月納涼歌舞伎第三部
34.劇団☆新感線「けむりの軍団」
35.谷賢一「2011年:語られたがる言葉たち」(福島三部作第三部)
36.根本宗子「プレイハウス」
37.サムゴーギャットモンテイプ「NAGISA巨乳ハンター広島死闘編」
38.三谷幸喜「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」
39.渡辺えり「私の恋人」
40.鵺的「悪魔を汚せ」
41.長塚圭史「アジアの女」(吉田鋼太郎演出版)
42.阿佐ヶ谷スパイダース「桜姫」
43.劇団「地蔵中毒」「すんだor not ずんだ」
44.「死と乙女」(小川絵梨子演出版)
45.別役実「この道はいつか来た道」(鵜山仁演出版)
46.別冊「根本宗子」第7号「墓場、女子高生」
47.唐組「ビニールの城」
48.川村毅「ノート」
49.前川知大「終わりのない」
50.ケラ「ドクター・ホフマンのサナトリウム」
51.M&Oplaysプロデュース「鎌塚氏。舞い散る」
52.劇団朱雀復活公演
53.NODA・MAP「Q」
54.松尾スズキ「キレイ」
55.月刊「根本宗子」第17号「今、出来る、精一杯。」
56.北村想「風博士」
57. 荒れ野
58.赤堀雅秋「神の子」
59. 良い子はみんなご褒美がもらえる(後から追加。実際には12の後)
以上の59本です。

色々あって昨年より本数はかなり減りました。
選択もどうしても保守的になり、
もっと面白い小劇場があるだろうになあ、
と思いながらもこうしたラインナップになりました。

今年の私的なベスト5はこちらです。
基本的に初演を対象としていますが、
再演でも大きく演出が変わっていたり、
前回の上演から時間が経っているものは含んでいます。

①モダンスイマーズ「ビューティフルワールド」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2019-06-16-1
今年は蓬莱竜太さんの作品を3本観ましたが、
この新作が抜群でした。
引きこもりの中年男を一種のトリックスターにして、
保守的な普通の家族のゆがみを抉りだすという仕掛けが鮮やかで、
戯画的な登場人物をリアルに肉付けした役者陣も光っていました。
比較的食わず嫌いだったのですが、
今年から好きな劇作家に加わりました。

②谷賢一「2011語られたがる言葉たち」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2019-08-24
福島原発事故を取り上げた演劇作品は複数ありますが、
その距離感の取り方と言い、バランス感覚と言い、
緻密な取材に裏打ちされた情報量と言い、
そして何より福島県に暮らす住民達の造形において、
僕の知る限りはこの作品がこれまでのベストだと思います。
3部作として原発の誘致、原発を巡る地元政治、
原発事故後復興期の住民の声という、
異なった視点や時代を取り上げながら、
それが1つの家族の歴史でもあるという構成が卓越していて、
とても感銘を受けました。
第二部は観ていないので、
それが残念でなりません。再演熱望!

③松尾スズキ「命、ギガ長ス」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2019-07-20
松尾スズキさんの久しぶりの新作で、
それもスズナリで安藤玉惠さんとの2人芝居です。
とても楽しみにして出掛けましたし、
非常に贅沢な公演であったことは確かです。
ただ、松尾さんはとても温和になったのね、
というのは強く感じました。
小道具や舞台のセンスなど、
その洗練度は抜群でした。

④唐組「ビニールの城」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2019-10-22
唐組は昨年は1995年に初演された唐先生の作品2本の再演でした。
特に初演が伝説的な「ビニールの城」の舞台が素晴らしくて、
個人的には久保井研さんのこれまでの仕事のうちで、
最高傑作ではないかしら、というように思っています。
稲荷卓央さんの久しぶりの舞台も素晴らしかったですね。
これはまた是非再演して欲しい名品です。
4位にしたのは厳密に言えば再演であるからで、
これが初演であればぶっちぎりの1位です。

⑤ケラ「ドクターホフマンのサナトリウム」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2019-11-09-1
ケラさんの昨年唯一の新作は、
カフカの未発見の4番目の長編を巡る物語。
ケラさんの系譜の中では、
偽翻訳劇とでも言うべきジャンルの作品です。
これは洗練された演出と舞台の特殊効果が素晴らしくて、
天井桟敷の舞台を観ているような感じもありました。
ただ、内容は意外にカフカ色が薄くて、
やや肩透かしの感じもありましたね。

今年何本くらいの舞台に出逢えるでしょうか?
一期一会の思いで作品に対したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良いお正月をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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赤堀雅秋「神の子」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は大みそかでクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
神の子.jpg
今年も大活躍の赤堀雅秋さんですが、
年の瀬に下北沢の本多劇場で、
大森南朋さんを主役とした新作を上演しています。

赤堀さんの劇作は、
2017年の「鳥の名前」と「流山ブルーバード」が素晴らしくて、
それからは欠かさず足を運ぶようにしています。

食い詰めの中年男達が、
どうしようもない蟻地獄のような世界で、
虚無的な闘いを繰り広げるようなドラマから、
最近は岩松了さんを思わせるような、
何気ない日常会話の往来の中に、
密やかな情念を成長させ、
それが事件を起こすというような、
奥行のある作劇に変化を見せています。

今回は大森南朋さん、田中哲司さん、でんでんさんという、
工事現場の誘導員の仕事をしながら、
パチンコと仕事とスナックを往来するだけの、
無為な人生を過ごしている3人の中年男が、
長澤まさみさん演じる謎の女性に関わり、
ボランティアの清掃活動を行うことから、
人生の何かを変えようとする姿を描きます。

現実の事件を彷彿とさせるような、
無差別殺人実行を口走る、
赤堀さん演じる、
危険な中年男なども登場しますが、
結果として事件が起こるというようなことはなく、
田中哲司さんの人生にのみ変化が起こりますが、
他の2人の人生はそのままに、
ひょっとして長澤さんの存在自体、
大森さんの妄想だったの?
という気配を漂わせつつ物語は終わります。

語り口は平明で笑いもある台詞も軽快に流れ、
底流にある雰囲気は現代を反映してかなり重いのですが、
比較的リラックスして観ることが出来ます。

そこにもう少し、
観客の心に食い入るような部分や、
予想外の人物の行動や展開などが、
あれば良いというようには思うのですが、
今回の作品はやや消化不良のまま、
予定調和的に流れてしまった、
という印象です。

長澤さんの役柄も掘り下げのないままに、
ただ謎めいているだけで終わってしまいますし、
途中で歌を歌ったり、
バレエを踊ったりするのも、
あまり考えた上での構成とは思えず、
細部を詰めないまま、
見切り発車した、
という印象を持ちました。

そんな訳で今回は完成度が低く、
今ひとつではあったのですが、
こうしたこともあるのでしょうから、
また次作に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い大晦日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース「荒れ野」(2019年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは年末年始の休診となります。
年始は1月6日(月)からの予定です。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
荒れ野.jpg
2017年に初演され、
その年一番と言って良い感銘を受けた傑作舞台「荒れ野」が、
同一キャストで今回再演されました。

初演があまりに素晴らしかったので、
再演で却ってガッカリしたらいやだな、
と思って、
行くかどうか迷っていたのですが、
桑原さんの原作による映画「ひとよ」も良かったので、
矢張り見なければと思い急遽駆けつけることにしました。

とてもとても良かったです。

初演は今回より小さな空間で、
舞台を取り込こむように客席があったのですが、
今回は会場はスズナリで、
舞台と客席は向かい合うという、
オーソドックスなセットになっています。

これがまず良かったと思います。
初演は壁やガラス戸が取り払われたセットで、
臨場感はある一方、
ガラス戸で2つの空間を仕切るという意味合いが、
分かりにくくなってしまったきらいがありました。

今回の方が正解だったと思います。

細部は結構忘れていたのですが、
それでも最初の「あなたならどうする」の歌から、
作品世界に一気に引き込まれ、
最後まで間然とするところのない構成に酔いしれました。

改めて思いますが、
これだけの芝居はざらにありません。

昔銀座の並木座で、
黒澤明監督の作品の特集上映に足を運び、
「生きる」を観たのですが、
通常はいびきをかいている高齢者が殆どの客席が、
その時だけは皆身を乗り出すようにして、
映画を観ていたことがありました。

なるほど、名作というのはこういうことかと、
得心がいったような思いにとらわれたことを、
今でもはっきり覚えています。

今回の舞台も僕が鑑賞した時には、
僕より年長の観客が大部分でしたが、
通常ならいびきの大行進になるところが、
ほぼ全員の観客が矢張り食い入るように、
舞台を見つめていました。

これぞ名作なのです。

キャストは手練れで素晴らしく、
特に小林勝也さんの飄々たる存在感には、
今回も圧倒されました。
小林さんの唯一無二の演技を観るだけでも、
この作品を観る意味はあると感じました。
ただ、一部のキャストの芝居には、
若干の「やり過ぎ感」は今回感じました。
受ける部分をもっと大袈裟にやろう、
というような意識が垣間見えて、
初演時よりややオーバーアクトになっていたのです。
その辺りに同一キャストによる再演の、
負の部分を少し感じました。
この芝居はともかく戯曲が素晴らしいので、
演技は台詞に奉仕するという意識で、
抑制的であるべきなのです。
その点でも小林さんの芝居はさすがでした。

もう上演は終わってしまいとても残念ですが、
またの再会を期待したいと思います。
この芝居はまたキャストが変わると、
別の魅力が浮上するようにも思います。
作品の底流にあるエロチックな部分が、
この上演ではかなり抑えられているのですが、
それがより明確化したような上演も、
それはそれでありかな、
というようにも思えるからです。

いずれにしても、
年末に最高の芝居に出逢えてまずは幸せでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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月刊「根本宗子」第17号「今、出来る、精一杯。」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。

今日はこちら。
今、出来る、精一杯..jpg
根本宗子さんが自身の10周年の記念公演として、
2013年に初演され、2015年に再演された、
根本さんの劇作の代表作の1つ「今、出来る、精一杯。」を、
装いも新たに音楽劇としてリニューアルし、
おそらく根本さんが公演を行なった中で、
最も大きな劇場である、
新国立劇場中劇場で上演しました。

もう公演は終わっていますが、
その上演に先日足を運びました。

「今、出来る、精一杯。」は、
ちょっと三浦大輔さんの影響は感じるものの、
根本さんの個性が良く表れた魅力的な作品で、
特に後半の言葉と展開には迫力があり、
小劇場の傑作と呼ぶに恥じない劇作です。

僕は2013年の初演は観ていませんが、
2015年の再演には足を運び、
ささやかな女の幸せを、
偏執狂的にかつ科学実験のように冷徹に、
追求し続けるような姿勢に感嘆し、
車いすに乗った根本さんの独白から、
ラストに至る展開には身震いをするような感銘を受けました。

僕が観た根本さんの劇作の中では、
最高傑作と言って過言ではありません。

ただ、今回の企画はどうでしょうか?

ミュージシャンの清流人さんとタッグを組んで、
随所に歌が挿入されて音楽劇に構成しているのですが、
原作の台詞はほぼほぼそのまま使われているのに、
それに更に歌を追加しているので、
もともと2時間強の作品が、
休憩を入れて3時間近い長尺に引き伸ばされてしまっています。

本来は音楽劇というのは、
ストレートプレイに歌を足したようなものではなく、
歌がドラマと有機的に結び付いた、
別種の表現形式である筈です。
そのために、良く出来た音楽劇やミュージカルは、
同じ内容のストレートプレイより、
むしろ圧縮され短くなるのです。
「レ・ミゼラブル」をストレートプレイでやれば、
ミュージカル版の倍の時間は掛かる筈です。
それを歌の活力で圧縮して構成しているのが、
名作ミュージカルと言われるゆえんなのです。

一方で今回の作品は、
完成された戯曲に更に歌を追加しているので、
歌の部分が確実に間延びしてしまっています。

これではいけないと思います。

この作品はスーパーの店員控室とアパートの一室が舞台の、
非常に凝集されたミニマルなお芝居です。。
それを大きな回り舞台のセットを作って、
新国立劇場の大舞台で上演するというのは、
かなり無理があるのではないでしょうか?

そのために、
凝集された結晶体のような名作が、
空虚で間延びした作品に変貌してしまったような気がします。

多分根本さんも、
元々は新国立劇場の公演には、
別のお芝居を掛けるつもりではなかったのではないと思います。

「今、出来る、精一杯。」は名作で、
再演の意義もある作品ですが、
それはもっと小さな空間で演じられるべきで、
こんな大きな劇場で、
間延びした音楽劇として上演されることは、
この作品を原作者自ら、
破壊してしまうような行為のように僕には思えました。

そんな訳で今回はかなりガッカリであったのですが、
根本さんは現代を代表する劇作家の1人であることは間違いがなく、
来年以降の活動を期待して待ちたいと思います。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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松尾スズキ「キレイ」(2019年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
キレイ.jpg
今回3回目の再演となる、
松尾スズキさんの「キレイ」を観て来ました。

これはねえ、
とてもとても大好きな作品で、
僕は「愛の罰」の初演以降は、
松尾さんの作品はほぼ全て観ていますが、
一番好きなのは「キレイ」で、
そこは動きません。

この作品には松尾さんの全てが凝集されています。
ヴォネガットを思わせるようなSFロマネスクと、
愛すべき畸形やメンヘラのキャラ達の造形、
地下室に封印された過去の少女の自分を探しに行くという、
陶然とするような誌的な表現、
そして全ての幻想を打ち砕くような、
冷徹なリアリズムと残酷さ。

その上に伊藤ヨタロウさんの楽曲が奇跡的に素晴らしく、
ラストが崩壊してしまう松尾さんの戯曲の中では、
着地も美しく決まっていました。
少女は地下室を出て、
空を仰ぐと宇宙の果てに馬鹿が花を咲かせています。

素晴らしい!

この作品にはまた因縁があって、
初演は実は1幕しか実際には観ていません。
幕間で電話が入り、
訪問していた患者さんが急変して、
そこに急行したのです。
最初の再演の時には、
2幕の途中で呼び出しが掛かり、
ジュッテンの目が開く場面で、
老人ホームに出動となりました。
後半はWowowの中継とDVDで補完しました。
ようやく2014年の再再演は最後まで観ることが出来ました。
そして今回、ということになります。

主人公のケガレ役は、
初演は奥菜恵さんで、
再演は酒井若菜さんの筈がドタキャンして鈴木蘭々さんになる、
という今考えてもガッカリの状況でした。
個人的な事情があったようで、
馬鹿にすんなよ、という感じです。
再再演は多部未華子さん、
実力派で期待したのですが、
歌はダメでちょっと期待外れでした。
そして今回は歌には定評のある生田絵梨花さんでした。

正直演技は今一つでしたね。
オープニングのテーマ曲は、
さすがにしっかり歌えていました。

歌で一番好きなのはテーマ曲と並んで、
1幕にあるマキシとカスミのデュエットですね。
これは名曲で素晴らしいですよね。
ただね、難曲なので歌が上手い人に歌って欲しいんですよね。
今回の近藤公園さんと鈴木杏さんのコンビは、
申し訳ないのですが一番ダメでした。

今回は松尾さんが役者として登場しません。

うーん。
やっぱり出て欲しいですよね。
滅多に帰ってこないお父さんは、
松尾さんがやらないと面白くありません。
また目を瞑ったままのお兄ちゃんは、
クドカンの初演以外は詰まらないですね。
誰かもっと違う人にやって欲しいな。
目が開くところ、
素晴らしい素敵な場面なのに、
あまり盛り上がらないのが残念です。

今回はね、
オーケストラピットに音楽家を入れて、
普通に正統的ミュージカルの仕立てでした。

それでも成立する作品であることは確かですが、
もっと音楽にも猥雑な感じ、
適当でおおざっぱで暴力的な感じが欲しいですよね。
初演はもっとミニマルなバンド演奏の感じで、
それが作品に合っていたんです。
その一方で今回の、
幕の終わりで仰々しく音楽が高鳴るような感じは、
この作品の世界観には少し合わないような、
何かよそ行きの印象は持ちました。

これはこれでいいんですけど、
本当に舞台面が「キレイ」になって、
音楽も「キレイ」になって、
役者さんもすっきりした感じの人ばかりになって、
キレイとケガレの両面という作品の世界観が、
初演と比べてかなり薄れた感じになったことは、
少し残念には感じました。

それでも、
過去に観た全てのお芝居の中でも、
間違いなく10本のうちには入れるな、
というくらい好きな作品なので、
また再演があれば観に行くと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「Q:A Night At The Kabuki」(NODA・MAP第23回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト作業の予定です。
終わるといいな…

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
Q.jpg
野田秀樹さんの新作が、
今池袋の東京芸術劇場プレイハウスで上演されています。

これはクイーンの「オペラ座の夜」をモチーフにしたもので、
その楽曲がそのまま使われ、
内容は野田版の「ロミオとジュリエット」で、
年齢の違う2人のロミオとジュリエットを、
上川隆也さんと志尊淳さん、
松たか子さんと広瀬すずさんが演じるという豪華版です。

一体どんな舞台になるのかしら、
と思って出かけると、
いきなりお話は「俊寛」から始まり、
源平盛衰記のような設定のもとに、
ロミオとジュリエットの物語が、
ほぼ原典通りに展開されます。
後半は何故かシベリア抑留物語になります。

これはねえ、今一つという感じでしたね。

キャストは豪華ですし舞台面は美しく、
衣装も綺麗で布などを使った演出も、
さすがに洗練されています。

ただ、途中15分の休憩を入れて3時間というのは、
野田秀樹さんの作品としては如何にも長いですよね。
その長さの主な原因はクイーンの楽曲にあって、
クイーンの曲を基本的にそのまま流していて、
その部分はあまり何もしないんですよね。
従って、クイーンの曲の分上演時間が長くなってしまった感じ。

これじゃ、正直あまりやる意味がなかったのではないかしら。
むしろ、ミュージカル仕立てにして、
せっかく松たか子さんも出ているのですから、
歌い上げて欲しかったと思うのですが、
これは多分クイーン側の許可が下りなかったのかな、
とは推察します。

内容もね、ロミオとジュリエットが2人ずついる意味が、
あまりあるように思えませんでした。
オープニングを見ると、
中年のおじさんおばさんが、
思いの遂げられなかったかつての恋を再構成して、
自分達の手でハッピーエンドに改変したい、
という「君の名は」的なお話に思えるのですが、
ほぼ原典通りの展開になって、
過去改変の面白みは皆無な感じですし、
後半は今度は若い2人はあまり登場せず、
死んだことにされた大人の2人の恋の顛末、
という感じになるので、
中途半端に物語が分割されてしまった、
という感じしかないのです。

2つの鏡の表裏のような世界を往還したり、
過去と未来を相対化したり、
少女の自由な無謀さが世界をかき乱したりするのは、
これまでに何度も表現された野田さんの得意の世界ですが、
今回はどうもあまり冴えたところがなく、
ギャグや言葉遊びも面白いものがありませんし、
展開にハッとするようなところもありません。

キャストでは広瀬すずさんは、
なかなかフレッシュで動きが美しく、
声も綺麗で良かったと思います。
昔の宮沢りえさんにそっくりでした。
野田さんも多分意識して寄せている感じがしましたね。
松たか子さんは今最も脂の乗っている女優さんだと思いますが、
今回くらいの出番ではもったいないと思いました。
矢張りジュリエットを2人に分けたのが、
とても残念で失敗だったと思います。

そんな訳でとても豪華な紙芝居を見せられているような、
やや平板で平面的な舞台でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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劇団朱雀 復活公演(2019年) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
午前中は健診の休日当番なので予約のみ診療しています。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
劇団朱雀.jpg
早乙女太一さんが座長の大衆演劇、
劇団朱雀が5年ぶりに復活公演を行っています。

これは3部構成で、
1部がクラシックな舞踊ショー、
2部がお芝居、3部が現代的な舞踊ショー、
という内容が3時間で構成され、
途中で物販手売りなどのお楽しみもあります。

お芝居は3本が用意されていて、
日替わりという趣向ですが、
僕の観た日は座長の構成演出による「森の石松」でした、

早乙女太一さんは、
劇団☆新感線の舞台などでの、
切れ味の鋭い殺陣がとても印象的でしたが、
今回はラストに三国志風の殺陣が、
弟の友貴さんとあるのですが、
アクロバティックで切れ味抜群で、
文句なく素晴らしい殺陣でした。

その切れ味とスピード感という点では、
今回の舞台では太一さんより友貴さんの方が上でした。

お芝居は森の石松の壮絶な最期を、
講談風に古風に展開したもので、
この暗く救いの欠片もないような話を、
太一さん自身が構成しているという点に、
どうしてなのかしら、とちょっと不思議にも感じましたが、
意図的に泥臭く構成された殺陣と、
こちらも古風で泥臭い人情劇が絡み合い、
如何にも大衆演劇という世界を、
ゆるぎなく展開していて好感が持てました。

今回は1回のみの復活となるのか、
継続的なものになるのかは分かりませんが、
また機会があれば、
その惚れ惚れするような殺陣を観に、
劇場に足を運びたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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