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オメガ3系脂肪酸と心房細動リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オメガ3系脂肪酸と心房細動リスク.jpg
Journal of the American College of Cardiology誌に、
2023年7月25日付で掲載された、
青身魚の脂の成分と不整脈のリスクについての論文です。

EPAやDHAという、
オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、
心血管疾患の予防効果のある成分として有名で、
こうした成分を食事で多く摂った方が、
心血管疾患になりにくい、
という点はほぼ間違いのない事実です。

ただ、このEPAやDHAをサプリメントや薬として服用することで、
明確な健康上の効果を示すのか、
という点については、
まだ明確な結論に至っていません。

オメガ3系脂肪酸の健康効果自体についても、
心血管疾患のトータルなリスクの低下については、
ほぼほぼ確実と言って良い知見ですが、
たとえば不整脈のリスクを個別に見た場合には、
明確とは言えないものも多くあります。

2021年のCirculation誌に掲載されたメタ解析の論文では、
オメガ3系脂肪酸の、
高用量のサプリメントとしての使用により、
心房細動の発症リスクの増加が認められて、
かなりのインパクトを持って受け止められました。
https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/CIRCULATIONAHA.121.055654

オメガ3系脂肪酸を多く摂ることで、
本当に心房細動のリスクになるのでしょうか?

今回の研究では、
これまでの17の疫学データに含まれる、
トータル54799名の臨床データをまとめて解析することで、
血液中のEPA、DHAなどのオメガ3系脂肪酸の濃度と、
心房細動の発症リスクとの関連を比較検証しています。

中間値で13.3年の観察の結果として、
血液のオメガ3系脂肪酸濃度の上昇と、
心房細動リスクの増加との間には、
明確な関連は認められませんでした。
そして、一部のオメガ3系脂肪酸濃度が高いことは、
心房細動リスクの有意な低下と結びついていました。

このように、
今回の検証では、
オメガ3系脂肪酸を食事から多く摂ることは、
心房細動のリスクをむしろ抑制する可能性が認められました。

今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

2021年のメタ解析は、
オメガ3系脂肪酸をサプリメントとして使用した場合のデータで、
その場合は現状明確な有効性が確認されておらず、
心房細動の不整脈については、
むしろリスクの増加に繋がる可能性もあるのですが、
通常の食事で摂る場合には、
意識的に充分な量を摂ることで、
心房細動のリスクには繋がらず、
むしろリスク低下に繋がる可能性もあるのです。

これは他の微量元素などでも指摘される事項ですが、
食事から過不足なく摂ることと、
サプリメントとして補充することとは、
別物として考える必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「イノセンツ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
産業医の研修会などの予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
イノセンツ.jpg
公開されることは珍しい、
ノルウェー製のサイキックホラーで、
大友克洋さんの名作「童夢」にインスパイアされた作品です。

観てみると、
「悪役」の造形には違いがあるものの、
全体のコンセプトやラストなどは、
ほぼほぼ「童夢」と同一の部分があります。

団地に住む子供同士のサイキックバトルで、
大人は子供の超能力で操られるのが主な役割という感じで、
あまり重要な役割を果たしていません。

子供の個々の個性や人物描写、
破滅に至る段取りがなかなか巧みに出来ていて、
スリリングで見ごたえがあります。

ハリウッド製や韓国製、邦画とは明らかに肌合いが違い、
倫理観にも違いが感じられます。
日本で作るのは絶対無理、という感じの作品です。

緊張感の出し方や全体のトーンは、
クローネンバーグの傑作サイキックバトル映画、
「スキャナーズ」を彷彿とさせます。

しかし、「スキャナーズ」的な対決を期待してしまうと、
全ては抑制的で、
超能力と言っても、
水面の波紋や砂の動きなどで表現されるだけなので、
ちょっと物足りない感じは正直あります。

個人的には前半にかなり期待をしてしまったので、
後半は「これで終わり…?」という、
虚脱感を味わいました。

それでも、北欧映画の雰囲気はなかなか新鮮で、
子役の演技も見事なものなので、
あまり過度の期待を持たずに観るのであれば吉だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「Pearl パール」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
パール.jpg
新しい感覚で過去のホラーをリクリエートした、
シリーズの第2弾として、
1918年を舞台とした「パール」が公開されています。

前作の「X」は「悪魔のいけにえ」のトリビュートだったのですが、
今回は1960年代から70年代の、
H.Gルイスやアンディ・ミリガンなどによる、
悪趣味な残酷シーンを見せ場とするスプラッター映画が、
そのベースになっているように思います。

その元祖とされるH.G.ルイスの「血の祝祭日」の製作が1963年。

今観てもかなり異様な凄味のある映画ですが、
当時としては尋常ではないくらい突飛な映画ではありました。
ただ、勿論悪趣味の極みのような作品で、
まともに評価される性質のものではありません。

ただ、意外にその設定などの部分は、
サイコスリラー的な深みもあって、
人間ドラマとして無視出来ない切実さもあったのです。

今回の映画はスペイン風邪が流行した1918年に舞台を取り、
強権的な母親と障害のある父親の介護で疲弊した少女が、
シリアルキラーに変貌する姿を描き、
即物的な残酷描写はルイスやミリガンに倣いつつ、
「オズの魔法使い」などのミュージカル映画の要素も取り込んで、
60年代スプラッターをリクリエーションしています。

悪趣味のツボは抑えつつ、
なかなか工夫された作品だと思います。
主役のミア・ゴスはもう、
新世代のホラークイーンの貫禄充分で、
過不足のない怪演を見せてくれます。
基本ラインはかつてのスプラッターですが、
ゴスの長回しで内面描写を入れたり、
アートっぽい趣向も取り入れて作品の底上げをしています。

ただ、鑑賞後の感想としては、
正直もう少し突き抜けたところ、
観客の予想を超えるような展開や場面が、
あっても良いのに、というようには感じました。

全体に予定調和的な物足りなさがあって、
「血の祝祭日」を最初に観た時のようなショックは、
この映画からは感じられません。
「オズの魔法使い」のトリビュートにしても、
たとえば松尾スズキさんの「マシーン日記」で、
最後にヒロインが見ていたドロシーになるという夢が、
非常に残酷な形で適う、という趣向があるのですが、
ああした、一見凡庸なモチーフが予想外のショックに繋がる、
というような仕掛けが欲しいですよね。
この作品にはそうしたところは全くなくて、
「ただ好きなものを並べてみただけ」という感じに見えるのが、
正直残念に感じました。

それから、1918年という設定なのに、
街の映画館で掛かっている映画がトーキーなんですね。
これは時代的にあり得ない、という気がするのですが、
あり得たのでしょうか?
その点は疑問でした。

そんな訳でやや趣向倒れに感じた作品でしたが、
非常に意欲的であることは確かなので、
次回作には是非期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オミクロン株対応ワクチン追加接種の有効性(北欧の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナワクチン4回目接種の有効性.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年7月25日ウェブ掲載された、
新型コロナワクチンの追加接種の有効性についての論文です。

新型コロナワクチンのうち、
特にファイザー・ビオンテック社とモデルナ社の、
mRNAワクチンについては、
そのパンデミック初期に時期における、
初回接種の高い感染予防効果が確認されています。

その後ブースター接種として追加接種が、
3回目、4回目として施行され、
オミクロン株の流行に伴っては、
オミクロン株に抗原を変更した、
BA.4-5対応とBA.1対応の2種のワクチンが、
新たに開発され追加接種として施行されています。

追加接種のワクチンについては、
感染予防効果はそれほど高くはないものの、
重症化予防や生命予後の改善効果は確認されています。
そのため、高齢者など、
重症化のリスクの高い対象に絞って、
追加接種を施行することが、
世界的に一般的方針となっていて、
日本では今6回目接種が施行されていますが、
概ねその方針に則ったものとなっています。

追加接種、特に4回目以降の接種については、
否定的な意見もあります。
世界の人口の多くが、
既に感染を受けるかワクチンを接種して、
一定の免疫を獲得していると想定され、
それに伴って特にオミクロン株の感染以降は、
症状も概ね軽症化しています。
高齢者でもそれほど重症化リスクが高くないとすれば、
あまりワクチンを追加で接種することの必要性は、
高くないようにも思われるからです。
またオミクロン株対応のワクチンは、
以前のものより理屈の上では有効性が高いと思われますが、
実際の効果が臨床的に確認されている、
という訳ではありません。

今回の疫学データは、
北欧のデンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの4か国で、
3回目のmRNAワクチン接種後に、
3か月以上の間隔を空けて、
BA.4-5由来のオミクロン株抗原を含む2価mRNAワクチンを接種した、
年齢が50歳以上の1634199名と、
BA.1のオミクロン株由来抗原を含む2価ワクチンを接種した、
同じく年齢が50歳以上の1042124名を対象としたものです。

ワクチンを3回のみ接種した場合と比較して、
BA.4-5対応2価ワクチンの4回目接種は、
その後3か月の新型コロナによる入院のリスクを、
67.8%(95%CI:63.1から72.5)、
死亡のリスクを、
69.8%(95%CI:52.8から86.8)、
それぞれ有意に低下させていました。

同様にBA-1.対応2価ワクチンの4回目接種は、
3回接種のみの場合と比較して、
新型コロナによる入院のリスクを65.8%(95%CI:59.1から72.4)、
死亡のリスクを70.0%(95%CI:50.3から89.7)、
こちらも有意に低下させていました。

オミクロン株対応ワクチン2種の重症化予防効果には、
明確な差は認められず、
オミクロン株対応ワクチンを4回目接種に用いた場合を、
従来のワクチンを4回目接種に用いた場合と比較しても、
その重症化予防効果に、
有意な差は認められませんでした。

このように、
高齢者にターゲットを絞って4回目接種を施行すると、
3回目接種のみと比較して、
一定の重症化予防効果が確認されました。
その効果は半年程度は、
徐々に低下しつつも持続することが確認されています。

オミクロン対応ワクチンを使用しても、
その有効性は臨床的には、
それまでのワクチンの追加接種と差がありませんでした。
また、現行のオミクロン株の流行に対しては、
その重症化率は低いため、
トータルな重症化予防効果のインパクトは、
かなり小さなものとなることは間違いがありません。

こうしたデータを元にして、
今後のワクチン接種の方針が定められると思いますが、
定期接種の必要性については、
流行しているウイルスの性質と、
個々の重症化リスクの高さとを、
総合的に考えないと、
判断するのは難しい事項であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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急性副鼻腔炎に対する抗菌剤治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
蓄膿への抗菌剤使用.jpg
JAMA誌に2023年7月25日ウェブ掲載された、
小児の急性副鼻腔炎に対する、
抗菌剤治療の有効性についての論文です。

小児の感染症のうち、
抗菌剤による治療が行われている疾患は、
溶連菌による急性扁桃炎と尿路感染症、
そして急性副鼻腔炎や細菌性肺炎などがその代表です。

急性副鼻腔炎、所謂「蓄膿」は、
確かに肺炎球菌などの細菌感染が原因となることもありますが、
ウイルス感染が原因となっていることも多く、
その場合には抗菌剤の使用は意味がありません。
有効性のない抗菌剤の使用は、
耐性菌を誘導することや有害事象の存在などにより、
むしろ有害であると言うのが今の考え方ですから、
抗菌剤治療が有効な副鼻腔炎と、
効果のあまり期待出来ない副鼻腔炎とを、
臨床的に判別することが重要となります。

現状の考え方としては、
副鼻腔からの分泌液や鼻汁の細菌培養を施行して、
肺炎球菌などが検出されれば抗菌剤を使用する、
という方法と、
もっと簡便に膿性と思われるような鼻汁が認められれば、
細菌感染の可能性が高いとして、
抗菌剤を使用するという方法とがあります。

それでは、実際にどちらかの方法で抗菌剤の適応を決め、
施行することにどの程度の妥当性があるのでしょうか?

今回の臨床研究ではアメリカの複数施設において、
年齢が2から11歳で臨床的に急性副鼻腔炎と診断された、
トータル515名の小児患者に鼻汁の細菌培養検査を施行。
肺炎球菌,インフルエンザ桿菌、モラクセラ・カタラーリスの、
3種類の細菌が検出されたかどうかと、
黄色もしくは緑色の鼻汁が認められた場合に、
抗菌剤を使用する場合と偽薬を使用する場合に割り付けて、
その後の症状改善効果を比較検証しています。
抗菌剤はペニシリン系の薬剤が10日間使用されています。

その結果、
細菌培養が陽性であった場合に抗菌剤を使用することは、
偽薬の使用と比較して、
症状を有意に改善していましたが、
黄色もしくは緑色の鼻汁を指標として抗菌剤を使用しても、
偽薬と比較して有意な改善は認められませんでした。
ただ、細菌培養陽性で抗菌剤を使用しても、
症状の改善効果は軽微なものに留まっていました。

このように、
小児の急性副鼻腔炎で抗菌剤を使用する場合には、
臨床的な鼻汁の所見は当てにならず、
必ず細菌培養を施行して適切な抗菌剤を使用することが、
抗菌剤の適正使用に繋がると考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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非アルコール性脂肪肝炎に対するFGF21製剤の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
FGF21の脂肪肝への有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年6月24日ウェブ掲載された、
肝臓病に対する新薬の有効性についての論文です。

非アルコール性脂肪肝炎というのは、
アルコール性の肝障害と非常に似通った病態が、
お酒を飲まない人にも生じるというもので、
従来の脂肪肝という概念とは異なり、
進行性で肝硬変に移行することも稀ではないのが特徴です。

その病態は内臓肥満やメタボと関連が深く、
高血圧や糖尿病、高脂血症などと高率に合併し、
インスリンの効きが悪くなってインスリンの濃度が高くなる、
インスリン抵抗性がその土台にあると考えられています。

非アルコール性脂肪肝炎というのは、
メタボの内臓に与える影響の1つの現れで、
単独でも肝硬変などの命に関わる病気に繋がる一方、
他の動脈硬化性疾患や糖尿病など、
メタボに関連する病気とも、
密接に結びついているのです。

さて、現時点で減量や運動療法などの生活改善以外に、
特効薬のような治療薬のない非アルコール性脂肪肝炎ですが、
ビタミンEやインスリン抵抗性改善剤であるピグリタゾンなどが、
一定の有効性があるという報告があります。
ただ、その効果は限定的で、
たとえばアメリカのFDAが、
現時点でその有効性を認めている治療薬はありません。

今回その臨床試験結果が報告されている新薬は、
有効性の高い可能性のある薬剤として、
非常に注目をされているものです。

それはどのような薬なのでしょうか?

今回使用されているペゴザフェルミン(Pegozafermin)は、
FGF21という身体から分泌されているホルモンと、
ほぼ同じ作用を持つ物質です。

FGF21というのは、
成長因子の一種で、
肝臓の細胞などから分泌され、
白色脂肪組織を褐色化したり、
肝臓における中性脂肪の蓄積を抑制したり、
筋肉のインスリン感受性を改善するなど、
所謂メタボの状態を改善する多彩な作用を持っています。
こうしたFGF21の性質からは、
この物質を薬として使用することで、
非アルコール性脂肪肝炎の患者さんの、
抜本的な治療に結び付く可能性があるのです。

ただ楽観視も出来ません。

以前ブログでも紹介していますが、
同じFGFのFGF19を元にした薬剤が、
同様に非アルコール性脂肪肝炎の治療薬として開発され、
第2相の初期試験では有効とされてLancet誌に論文も出たのですが、
その後第2相のⅡb試験で有効性が確認されず、
結果として発売には至らなかったという事例があるからです。

今回のⅡb臨床試験においては。
アメリカの複数の専門施設で、
21から75歳で生検で非アルコール性脂肪肝炎と診断された、
トータル222名の患者をくじ引きで複数の群に分けると、
本人にも主治医にも分からないように、
FGF-21製剤の複数の用量の使用群と、偽薬使用群と割り付け、
24週の時点での脂肪肝炎の改善を比較しています。

その結果、
24週の時点で肝臓の線維化を伴わない、
脂肪肝炎の所見の消失は、
偽薬では2%であったのに対して、
この薬剤を1週間に15㎎の皮下注射での使用により、
脂肪肝炎の消失率は37%に認められ、
1週間に30㎎の使用でも23%に認められました。
有害事象は吐き気や下痢が主で概ね軽症でした。

このように今回の検証では、
脂肪肝炎に対するFGF-21の一定の有効性が確認されました。
治療も1週間に一度の皮下注射で済むとすれば、
継続効果も高いと考えられます。
ただ、FGF-19の経過でも分かるように、
まだ不明の点が多いことも確かで、
あまり一喜一憂はせずに、
今後の進捗を冷静に見守りたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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禁煙治療薬シチシンとバレニクリンの有効性比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
シチシンとバレニクリリンの比較.jpg
JAMA誌に2023年7月6日付で掲載された、
新規の禁煙治療薬の有効性を検証した論文です。

禁煙治療にはバレニクリン(チャンピックス)という飲み薬が、
世界的に広く使用されています。

この薬剤は脳でニコチン様の作用をすることにより、
禁煙を補助する薬です。
この薬は現状認可されている禁煙治療薬の中では、
最もその有効性が高いことが、
複数の臨床データにより確認されています。
その一方でイライラや不眠などの精神作用や、
めまいや吐き気、眠気などの有害事象が報告されています。
またその成分に発癌作用のある物質が混入していたという指摘から、
日本では長期間その使用が中止されています。

それでは、もっと安全性が高く、
有効性が同等な治療薬はないのでしょうか?

その候補として注目されているのが、
シチシン(cytisine)という薬です。

シチシンは植物由来のアルカロイドで、
化学的に合成された物質ではありません。
バレニクリンと同様に、
脳でニコチン様作用を持つことが確認されています。

これまでに偽薬やニコチンパッチと比較した臨床試験が施行され、
ニコチンパッチや偽薬よりも、
禁煙成功率が高いことが確認されています。

それでは、バレニクリンと比較して、
シチシンは同等の有効性があるのでしょうか?

今回の臨床試験はオーストラリアにおいて、
禁煙希望の喫煙者トータル1452名をくじ引きで2つの群に分けると、
本人にも試験実施者にも分からないように、
一方はバレニクリンを12週まで使用し、
もう一方はシチシンを25日間使用して、
その後の禁煙成功率を比較検証しています。

その結果、治療開始6か月の時点での禁煙成功率は、
バレニクリン群が13.3%であったの対して、
シチシン群は11.7%で、
この差は試験の設定上有意なもので、
シチシンの有効性はバレニクリンと同等とはなりませんでした。

このように、
現状のシチシンの禁煙補助効果は、
ニコチンパッチよりは高いものの、
バレニクリンと比較すると少し見劣りがする、
という結果になっていて、
今後その安全性を含めた評価として、
禁煙治療のガイドラインが整備されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ミッションインポッシブル.jpg
トム・クルーズの人気シリーズの最新作が、
今ロードショー公開されています。
今回は前後編の前編の公開ですが、
それでも2時間半を超える長尺です。

これはかなり面白かったですよ。

まあ、おバカにも分かるように作られた、
典型的なおバカ映画の超大作なのですが、
良い意味でのその能天気さ、おバカ加減がとても良い感じで、
殆どルパン三世のアニメを実写化したような世界観なのですが、
全体を統一した作品として見せるのではなく、
充実したアクションの見せ場を、
串団子のように次々と繰り出して、
その途中にはちょっとした休憩を挟む、
というような作りです。
それが観客の生理にも合っていて、なかなかいいんですよね。
2時間半を超えるとさすがに長い、と感じることが多いのですが、
今回はあまりそうした印象は持ちませんでした。

最初からスリリングなシーンをてんこ盛りで繰り出して、
まず空港の複雑な逃走劇に爆弾解除が絡むでしょ、
クロスワードのような複雑な構成が凄いですよね。
それから一呼吸おいて、
今度はローマのカーチェイスでしょ。
それからベニスに場所を変えて、
キャラが総登場して格闘の連鎖劇、
更にオリエント急行とアルプスを配して、
列車の密室と天空からの滑空が絡むという、
ダイナミズムも見ごたえがありました。

マクガフィンは、
合わさると十字架になる2本の鍵と、
世界を支配出来るAIのコードでしょ。
まあ極めて通俗的でおバカ対応ですよね。
「トップガン・マーヴェリック」のヒットが分かっているので、
もう若くないトムが、
敵にデジタルは支配されてしまっているので、
アナログで戦うという趣向で、
中高年の心も掴んでいます。
さすがですね。

別に新味はないのですがキャストも魅力的ですし、
映像のクオリティも高いので、
ちょっと贅沢な気分に浸ることが出来ます。
この点は最近同じ層をターゲットにしたと思われる、
「インディジョーンズ」より、
数段ワクワクする出来栄えになっていました。

唯一大好きなレベッカ・ファーガソン姉さんが、
あまり活躍しなかったのが残念でした。

この夏おそらく一番何も考えずに楽しめる娯楽作で、
夏休み映画としては、
ほぼ完璧と言っても言い過ぎではないのではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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デヴィッド・ヘア「ストレイト・ライン・クレイジー」(2023年燐光群上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は院長の石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ストレイト・ライン・クレイジー.jpg
イギリスの社会派演劇の大家デヴィット・ヘアが、
2022年に初演した新作「ストレイト・ライン・クレイジー」が、
今下北沢のスズナリで上演されています。
劇団の創立40周年記念公演です。

これはアメリカで公共事業を推し進め、
多くの高速道路を建設した、
ニューヨークの行政官ロバート・モーゼスを、
主人公とした作品です。
前半と後半の2つのパートに分かれ、
前半では1920年代に最初のハイウェイの建設を、
裕福な地主達の反発と戦って成し遂げる様を描き、
後半は1950年代に今度はマンハッタンを分断する高速道路を計画して、
住民運動の反対などに遭い、
失敗する姿を描きます。

これは物凄く面白かったですよ。

戯曲が何と言っても素晴らしいですよね。
アメリカの社会意識の変遷と、
所謂リベラルと中産階級の勝利を描いているのですが、
単純にそれだけの作品ではなくて、
当然その後の反動やトランプの出現なども踏まえた上で、
正義も敵も時代によって変わってゆく、
という人間と時間と社会の不思議さの奥へ切り込んでいます。

構成も素晴らしいですし、
人物描写が魅力的で深いのですね。
主人公はまあ現在の評価においては、
「悪党」なんですね。
でも、過去には「偉人」としての評価もあったのです。
その正反対の評価を矛盾なく、
1人の人間の造形の中に浮かび上がらせていて、
結果として人間というものの魅力と不思議とに帰着しています。
これぞ芝居というものですよね。
素晴らしいと思います。

坂手洋二さんの演出が、
また翻訳劇の何たるかを知り尽くした的確なもので、
この異国の戯曲を見事に日本人の観客が理解出来るように、
演劇的に翻訳している作業に感銘を受けました。

奥行のあるシンプルなセット、
舞台装置はほぼなく、
机などの具体物を少し置くだけなのですが、
それが却って観客の想像力を刺激して、
その素晴らしい台詞劇の魅力に浸ることを手助けしています。
オープニングとラスト以外、
殆ど照明の変化もなく、音効もありません。

キャストも戯曲の勘所をしっかり理解した芝居で好ましく、
特に大西孝洋さんのモーゼスと、
森尾舞さんのフィヌーラの熱演は心に残りました。

唯一黒人の若い女性が登場するのですが、
ほぼほぼ普通の衣装とメイクで演技をして、
台詞のみで「黒人」ということが分かるというのが、
正直苦しいな、と感じました。
これは少し前であれば、ドーランで顔を黒く塗ったと思うのですが、
今はそうした演出が適切ではない、とされているので、
この役のみアフリカ系の人種の役者さんが演じるのも、
翻訳劇としては難しいですし、
どうしてもこうしたことになってしまいます。
今後は人種がテーマとなるような演劇については、
翻訳劇の上演は難しいのかも知れません。

正直もっとお金を掛けた舞台としても、
こうした台詞劇を観てみたいな、という思いもあるのですが、
今回の上演は小劇場の気概を感じる素晴らしいもので、
さすが燐光群という思いで劇場を後にすることが出来ました。

もし、良質の芝居を今観たい、というお気持ちの方がいれば、
これはもう是非にとお勧めしたいと思います。

台詞劇の傑作です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高血圧治療に対するRNA干渉薬の有効性(第1相臨床試験結果) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アンジテンシノーゲン合成阻害剤の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年7月20日付で掲載された、
新しいメカニズムによる高血圧治療薬の臨床試験結果についての論文です。

高血圧症の治療は、
通常毎日飲み薬の降圧剤を、
内服してもらうという形で行われます。

患者さんは受診もしくはオンラインで医師の診察を受け、
診察室で血圧を測定します。
また今多くの患者さんは自宅で血圧を測定し、
その記録を医師が確認して処方の調整を行います。
そして、高血圧治療の目的は、
高血圧による動脈硬化の進行などの予防にありますから、
そのチェックのための検査を、
定期的に行うことになる訳です。

しかし、
全ての患者さんが良好な血圧コントロールに至る訳ではありません。

複数の薬剤を充分量使用しても、
目標の血圧に達しない治療抵抗性の高血圧の患者さんがいます。
ただ、実際にはそうした患者さんはそれほど多いということではなく、
多くのコントロール不良の患者さんは、
定期的な受診をされていなかったり、
治療を中断していたり、
薬を指示通りに飲んでいなかったりすることが多いのです。

こうした患者さんに対して、
もっと有効な治療法はないのでしょうか?

その1つの答えと考えられるのが、
新しいメカニズムの降圧治療薬です。

それをRNA干渉薬と呼びます。

これは遺伝子の配列の一部を模倣した物質で、
特定のmRNAに相補的に結合して、
そのRNAが働かないようにしてしまう作用を持っています。
通常特定の蛋白質をコードしている遺伝子のmRNAに結合して、
その蛋白質のみが合成出来ないようにしてしまうのです。

これまでに遺伝性の病気の治療などに新薬が開発され、
一定の有効性が確認されて使用されています。
そして、今回高血圧症の治療薬として開発されたのが、
ジレベシラン(Zilebesiran)という薬剤です。

この薬は血圧の維持に重要な働きをしている、
アンジオテンシノーゲンという蛋白質をコードしている、
mRNAに結合してその働きを阻害します。
その結果として、
アンジオテンシノーゲンの産生が強く抑制されるのです。

この治療薬の特徴は、
1回の皮下注射の投与で、
半年程度はその効果が安定して持続する、
という点にあります。

仮にこの薬で高血圧が安定してコントロールされるのであれば、
患者さんは半年間は薬を飲む必要がなくなる、
ということになるのです。

今回の初期の臨床試験においては、
高血圧患者107名に対して、
低用量から高用量まで、
薬剤の量を変えて1回の皮下注射で投与を施行。
その後の血圧の推移を24週に渡り観察しています。

その結果、1回200㎎以上の使用量において、
収縮期血圧は10mmHgを超えて、
拡張期血圧は5mmHgを超えて低下が認められ、
その効果は24週に渡り安定して持続していました。
その間の有害事象は接種部位の痛みや発赤などの反応が主で、
危惧される腎機能低下や高カリウム血症、
重症の低血圧などの発症は、
認められませんでした。

今回のデータはまだ初期段階のもので、
今後予期せぬ有害事象などが認められる可能性もありますが、
半年に一回の治療で高血圧がコントロール可能であれば、
多くの患者さんにとってメリットのあることは確かで、
こうした薬の常で薬剤費は相当の高額になる可能性がありますが、
今後高血圧治療の有力な選択肢となることは、
間違いがないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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