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高血圧治療に対するRNA干渉薬の有効性(第1相臨床試験結果) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アンジテンシノーゲン合成阻害剤の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年7月20日付で掲載された、
新しいメカニズムによる高血圧治療薬の臨床試験結果についての論文です。

高血圧症の治療は、
通常毎日飲み薬の降圧剤を、
内服してもらうという形で行われます。

患者さんは受診もしくはオンラインで医師の診察を受け、
診察室で血圧を測定します。
また今多くの患者さんは自宅で血圧を測定し、
その記録を医師が確認して処方の調整を行います。
そして、高血圧治療の目的は、
高血圧による動脈硬化の進行などの予防にありますから、
そのチェックのための検査を、
定期的に行うことになる訳です。

しかし、
全ての患者さんが良好な血圧コントロールに至る訳ではありません。

複数の薬剤を充分量使用しても、
目標の血圧に達しない治療抵抗性の高血圧の患者さんがいます。
ただ、実際にはそうした患者さんはそれほど多いということではなく、
多くのコントロール不良の患者さんは、
定期的な受診をされていなかったり、
治療を中断していたり、
薬を指示通りに飲んでいなかったりすることが多いのです。

こうした患者さんに対して、
もっと有効な治療法はないのでしょうか?

その1つの答えと考えられるのが、
新しいメカニズムの降圧治療薬です。

それをRNA干渉薬と呼びます。

これは遺伝子の配列の一部を模倣した物質で、
特定のmRNAに相補的に結合して、
そのRNAが働かないようにしてしまう作用を持っています。
通常特定の蛋白質をコードしている遺伝子のmRNAに結合して、
その蛋白質のみが合成出来ないようにしてしまうのです。

これまでに遺伝性の病気の治療などに新薬が開発され、
一定の有効性が確認されて使用されています。
そして、今回高血圧症の治療薬として開発されたのが、
ジレベシラン(Zilebesiran)という薬剤です。

この薬は血圧の維持に重要な働きをしている、
アンジオテンシノーゲンという蛋白質をコードしている、
mRNAに結合してその働きを阻害します。
その結果として、
アンジオテンシノーゲンの産生が強く抑制されるのです。

この治療薬の特徴は、
1回の皮下注射の投与で、
半年程度はその効果が安定して持続する、
という点にあります。

仮にこの薬で高血圧が安定してコントロールされるのであれば、
患者さんは半年間は薬を飲む必要がなくなる、
ということになるのです。

今回の初期の臨床試験においては、
高血圧患者107名に対して、
低用量から高用量まで、
薬剤の量を変えて1回の皮下注射で投与を施行。
その後の血圧の推移を24週に渡り観察しています。

その結果、1回200㎎以上の使用量において、
収縮期血圧は10mmHgを超えて、
拡張期血圧は5mmHgを超えて低下が認められ、
その効果は24週に渡り安定して持続していました。
その間の有害事象は接種部位の痛みや発赤などの反応が主で、
危惧される腎機能低下や高カリウム血症、
重症の低血圧などの発症は、
認められませんでした。

今回のデータはまだ初期段階のもので、
今後予期せぬ有害事象などが認められる可能性もありますが、
半年に一回の治療で高血圧がコントロール可能であれば、
多くの患者さんにとってメリットのあることは確かで、
こうした薬の常で薬剤費は相当の高額になる可能性がありますが、
今後高血圧治療の有力な選択肢となることは、
間違いがないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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