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「君たちはどう生きるか」(宮崎駿監督新作) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
君たちはどう生きるか.jpg
宮崎駿監督の新作が7月14日公開されました。
余分な情報がないうちに観たかったので、
その初日に足を運びました。

徹底した秘密主義で製作され、
奇妙な鳥の絵と題名以外、
公開まで全ての情報が公開されない、
という稀有の公開方法で、
こうした映画は滅多にないので、
ご興味のある方は、
是非是非予備知識なく映画館に足を運んで頂くのが吉です。

ただ、多くの方が内容には失望されたと思いますし、
なかなか褒めることが難しいタイプの作品であることは確かです。

一番似ていると思ったのは、
最近の村上春樹さんの小説で、
次に似ていると思ったのは、
黒澤明監督の晩年の映画です。

要するに高齢者の特質が強く出ているタイプの創作です。

この幻想と現実と過去の記憶とが不分明に混ざり合う感じ、
そこに統一感を持たせられない感じ、
これが多分の老人の頭の中なのですね。
僕もほぼ老人なので大きなことは言えませんし、
僕の頭の中もそうなりつつあるのは実感しているのですが、
自分が自分であることの実感のようなものは、
徐々に後退していって、
感情の繊細な動きのようなものも、
枯渇してゆくのですね。

老人の感情というのは平淡で、
高齢者は怒りっぽく、
激高するようなところがしばしばあるのですが、
あれはおそらく「感情」ではないのですね。
意味もなく感情の連鎖とも関連のない「怒り」が、
急にマグマのように沸いて出るだけのものなのです。

この作品を観る人は、
主人公の心理の平淡さのようなものに、
当惑とイライラを覚えると思うのですが、
多分監督自身は主人公の心と一体化して、
その熱情のようなものを情熱的に描いているつもりなのですね。
でもそれがそうはならず、
何かボンヤリして単調なものになってしまうのが、
老人の哀しさというものなのだと思うのです。

ただ、そうした退屈さは承知の上で、
技巧的には青鷺の動きの1つ1つにしても、
油彩画のような背景の表現にしても、
まさに天才の筆致が息づいていることは強く感じます。
その意味で監督の集大成という表現は、
映像表現に限って見れば嘘ではありません。

それでいて残念ながら、
致命的に面白くない、というのは、
黒澤監督の晩年の映画や、
村上春樹さんの最近の小説と同じように、
それはもう仕方のないことなのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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