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重病から回復後の自動車運転再開について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
重病罹患後の運転再開のリスク.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年3月27日ウェブ掲載されたレターですが、
重病から回復後の車の運転再開のリスクについての内容です。

敗血症など命に関わる病気で入院すると、
一時的にはせん妄状態などの意識障害を来すことがあり、
回復して退院となっても、
体力の低下などと共に、
認知機能の低下や精神的な不安定などの、
後遺症を残すことが多いことが知られています。

入院する前の元気な時に車の運転をしていた人は、
退院後も自分の判断で、
運転を再開することが通常と思われますが、
実際には認知機能の低下などがあって、
運転にリスクがある状態である可能性も否定出来ません。

それでは実際に、
こうした大病の後で、
どのくらいの患者さんが運転を再開し、
認知機能の低下はどの程度認められるのでしょうか?

今回の研究ではアメリカにおいて、
集中治療室で4日以上の治療を受け、
その間にせん妄状態を発症したか、
敗血症や呼吸不全に罹患した、
196名の患者を回復期のクリニックで観察し、
自動車の運転の再開の有無と、
認知機能低下の有無を検証しています。

その結果、
入院前にそのうちの126名は自動車を運転していて、
退院後1か月以内に運転を再開していたのは、
そのうちの13%に当たる16人でした。
そして、その半数に当たる8人は、
軽度認知機能障害の指標である、
MoCAスコアが認知機能低下を疑う26点未満となっていました。

このように、
重病で治療を受けた患者さんの多くは、
退院後すぐには運転を再開していませんが、
一部の患者さんは再開しており、
そのうちの半数では、
運転にリスクがある認知機能の低下が疑われる状態でした。

近年日本でも認知機能の低下している高齢者の、
自動車運転のリスクが問題となっていますが、
認知機能低下が指摘されていない人でも、
重病で入院した後のような状況では、
運転にはリスクがある可能性があり、
今後はたとえば入院中にせん妄状態が確認されたケースでは、
退院後に運転の安全性をチェックするなどの、
対策が必要となるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アスピリンの卵巣癌予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アスピリンの卵巣がん予防効果.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年2月24日ウェブ掲載された、
アスピリンによる癌予防についての論文です。

低用量(1日80から100mg)のアスピリンには、
抗血小板作用があり。
心血管疾患の再発予防や、
消化器系の癌(腺癌)や卵巣癌など、
一部の癌の進行予防効果が確認されています。
その一方で出血系の合併症のリスクは高めるので、
その使用をどのような患者さんに行うことが良いのか、
まだ議論が分かれています。
心筋梗塞などの再発予防効果についてはほぼ実証されていますが、
健康な高齢者に使用すると、
むしろ生命予後に悪影響を与えたとするデータもあり、
その使用は慎重に行うべきとする意見もあります。

アスピリンによる予防効果が確認されている癌の1つが卵巣癌です。

卵巣癌は予後の悪い癌の1つとして知られていますが、
あまり有効な予防法が確立していません。

2022年のJournal of Clinical Oncology誌に発表された論文では、
これまでの17の臨床データをまとめて解析した結果として、
毎日もしくはほぼ毎日アスピリンを服用していると、
卵巣癌の発症リスクが13%有意に減少したと報告されています。

ただ、前述のようにアスピリンの継続使用にはリスクもあり、
どのような対象にアスピリンを使用することが、
卵巣癌の予防として有効性が高いのかが、
未解決の問題として残っています。

今回の研究はアメリカとイギリス、オーストラリアで施行された、
卵巣癌の臨床研究のデータをまとめて解析したもので、
アスピリンの使用が卵巣癌の発症リスクに与える影響を、
既知の癌に関わる遺伝子変異の有無で比較検証しています。

トータルで4476例の粘液非産生性卵巣癌患者を対象として、
6659例のコントロール群と比較し、
14年以上の観察を施行したところ、
アスピリンの継続的使用は、
卵巣癌のリスクを13%(95%CI:0.76から0.99)有意に低下させていました。
そして、このリスク低下は、
既知の遺伝子変異の影響を受けることはありませんでした。

つまり、アスピリンの卵巣癌予防効果は、
生まれつきの癌のなり易さとは無関係に認められる、
という結果です。

仮に関連があるとすれば、
特に有効性の高い対象に絞って、
アスピリンを使用するという選択肢が生まれるのですが、
今回の検証ではそうした可能性は否定的であるようです。

卵巣癌の予防のためのアスピリンの内服については、
一定の有効性があることは間違いがないのですが、
その適応をどのような患者さんにするべきかについては、
まだ未解決の問題であると考えた方が良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナ後遺症に対するメトホルミンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メトホルミンのコロナ後遺症への有効性.jpg
SSRN.というサイトに掲載された、
まだ査読を介していない論文ですが、
新型コロナ後遺症に複数の薬剤を使用し、
その予防効果を検証した内容です。

まだ査読前の論文である点に注意が必要ですが、
非常に興味深い内容なのでご紹介させて頂きます。

新型コロナウイルス感染症の罹患時には、
その急性症状が回復した後に、
数か月から経過によっては数年に渡り持続する、
倦怠感や息苦しさ、眩暈や精神症状など、
幅広い症状が見られることが知られています。

この現象には多くの呼び方がありますが、
厚労省は「新型コロナウイルス感染症罹患後症状(いわゆる後遺症)」
という言い方を採用しています。

そのメカニズムにはまだ不明な点が多く、
現時点で有効な予防法や治療法は確立していません。

前回の記事では抗ウイルス剤の急性期の使用で、
その後の後遺症リスクを低減出来るという可能性が示されていました。

今回の研究はアメリカの複数施設において、
これまでに新型コロナに対して、
一定の有効性が示唆される報告が存在している、
メトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミンの3種類の薬剤を、
疾患の急性期に使用し、
その後の新型コロナ後遺症に対する影響を、
偽薬の使用と比較検証しています。

対象は年齢が30から85歳で過体重か肥満があり、
新型コロナを発症してから1週間未満の1323名で、
そのうちの1125名が長期の観察の対象となっています。
そして、長期観察の結果そのうちの8.4%が後遺症と診断されています。

イベルメクチンとフルボキサミンの急性期の使用は、
その後の後遺症のリスクに有意な影響を与えませんでしたが、
急性期にメトホルミンを1日1500㎎で14日継続した群では、
新型コロナ後遺症のリスクは、
42%(95%CI:0.38から0.88)有意に低下していました。
特にメトホルミンが症状出現後4日以内に開始された事例に限ると、
そのリスク低下はより大きく、
63%(95%CI:0.15から0.95)に達していました。

これは査読前のデータのため、
その判断はまだ留保する必要がありますが、
通常臨床で使用されている一般的な薬剤の使用により、
これだけの後遺症予防効果が得られたとする結果は非常に興味深く、
今後の検証を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ニルマトレルビルの新型コロナ後遺症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ニルマトレルビルのコロナ後遺症への有効性.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年3月23日ウェブ掲載された、
新型コロナ後遺症への抗ウイルス剤の予防効果を検証した論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患時には、
その急性症状が回復した後に、
数か月から経過によっては数年に渡り持続する、
倦怠感や息苦しさ、眩暈や精神症状など、
幅広い症状が見られることが知られています。

この現象には多くの呼び方がありますが、
厚労省は「新型コロナウイルス感染症罹患後症状(いわゆる後遺症)」
という言い方を採用しています。

そのメカニズムにはまだ不明な点が多く、
現時点で有効な予防法や治療法は確立していません。

パキロビット(ニルマトレルビルとリトナビルの合剤)は、
日本でも緊急使用の対象として使用されている、
新型コロナウイルス感染症の経口治療薬で、
重症化リスクのある軽症から中等症の新型コロナ患者が、
症状出現後5日以内に内服することにより、
その重症化を予防するという効果の薬です。

それでは、パキロビットを使用することにより、
通常より早期にウイルスの増殖や組織の炎症が改善することにより、
新型コロナの後遺症も抑制されるのでしょうか?

今回の研究はアメリカの退役軍人の医療保険のデータを活用して、
新型コロナウイルス感染症罹患時のパキロビットの使用が、
その後の新型コロナ後遺症に与える影響を検証しているものです。

対象は新型コロナウイルスの検査陽性で、
1つ以上の重症化リスクを有する281793名で、
そのうちの35717名がパキロビットを急性期に使用していました。
そして未使用の場合と比較してパキロビットの使用は、
その後の新型コロナ後遺症のリスクを、
26%(95%CI:0.72から0.77)有意に低下させていました。

このデータのみをもって、
急性期のパキロビットの使用が、
新型コロナ後遺症を予防しているとは言えませんが、
その可能性が示唆されるデータであることは事実で、
今後より精度の高い検証によって、
その真偽が確認されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーの急性の健康影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーの短期効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年3月23日ウェブ掲載された、
コーヒーの急性の健康効果についての論文です。

コーヒーを1日3から4杯程度まで飲むという習慣が、
糖尿病や心血管疾患、肝臓病などのリスクを低下させ、
総死亡のリスクも最大で2から3割程度低下させるという知見は、
これまでの多くの疫学データで実証されている事実です。

ただ、これはそうした習慣が影響しているということで、
コーヒーを飲んだ場合の急性の効果を確認している、
という訳ではありません。

コーヒーには交感神経を刺激する作用のあるカフェインが含まれていて、
それが心臓に負荷を掛けて、
不整脈などが増えるのではないか、
という指摘があります。

ただ、脈拍や不整脈などが増えたとする研究結果は、
主に大量のカフェインを摂取した実験によるもので、
実際に嗜好品として飲む程度の使用により、
どの程度の影響があるかについてのデータは限られています。

今回の研究はアメリカにおいて、
18歳以上の健康な100名の一般住民に、
カフェイン入りのコーヒーを自由に飲んでもらった場合と、
カフェインを含む飲み物を原則中止してもらった場合を、
それぞれ14日ずつ施行して、
その間の不整脈の状態は睡眠時間、歩数などの健康情報を連続的に計測して、
その違いを比較しているものです。

その結果、
ノンカフェインの飲み物を飲んでいても、
カフェインの入ったコーヒーを飲んでいても、
上室性期外収縮という不整脈の頻度には、
有意な差は認められませんでした。
一方で心室性期外収縮のリスクは、
ノンカフェインと比較してカフェイン入りのコーヒーでは、
1.51倍(95%CI:1.18から1.94)と有意に高く、
1日の歩数は平均で1058歩多く、
睡眠時間は平均で36分短くなっていました。

つまり、カフェイン入りのコーヒーを飲むことにより、
心室性の不整脈はやや増加し、
日中の活動性はやや増加、夜の睡眠時間はやや短くなる、
という傾向が認められました。
ただ、これはいずれも極僅かな変化で、
特に心臓に持病などがない人であれば、
カフェイン入りのコーヒーは、
特に健康上の問題なく飲むことは可能であると、
そう考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「エゴイスト」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
エゴイスト.jpg
ドキュメンタリー映画出身の松永大司監督が、
高山真さんの自伝的な小説を元に、
特異な執着と愛の形を描いた、
感性豊かな刺激的劇映画を撮りました。

これはちょっと河瀨直美監督に近いタッチで特異な演出です。
引きの絵は殆どなくて、
最初から最後まで極端な人間のアップだけが、
やや偏執狂的に連続します。
人間以外には世界に何の興味もない、と言わんばかり。
そこに登場するのが、
鈴木亮平さんと宮沢氷魚さんのゲイのカップルの、
圧倒的な肉体です。
そこに不思議な存在感をもって、
宮沢さんの母親役の阿川佐和子さんが絡みます。

ほぼ3人だけの濃厚なドラマが、
眩暈を覚えるような没入感をもって展開されます。
こちらも相当な覚悟を持って臨まないと、
その世界に溺れて呼吸困難に陥るような気すらします。

これはかなり好き嫌いの分かれるジャンル映画で、
好きな方にとっては一生の宝物になりますし、
嫌いな方にとっては、
違和感と不快感しか感じないかも知れません。

僕は物凄く好きではないのですが、
そこそこ没入して観ることは出来ました。

主役の鈴木亮平さんがともかく圧倒的です。
彼のこれまでのキャリアの中で、
代表作と言って何処からも文句は出ないレベル。
ちょっとオーバーアクトに感じる部分もなくはないのですが、
トータルにキャラとして完成されているので、
鈴木亮平という存在を離れて、
1つの完璧で魅力的で複雑なキャラクターが、
見事にスクリーンの中で息づいているという感じです。

凄いですよ。

相手役の宮沢氷魚さんは、
言ってみれば引きの演技で損な役回りなのですが、
この役をこれだけの純度でこなせる役者さんは、
今他に誰もいないと思います。

宮沢さんと言うと、
舞台の「ピサロ」で演じた、
復活を信じて命を絶つインカ王がとても印象に残っていて、
今回も結果的にはそれに似た役回り。
こうした純粋で儚い悲壮な存在が、
これほど似合う人もいないと思います。

このお話は結局、
鈴木亮平さん演じるゲイの主人公が、
初めて同性としての宮沢さんを愛するのですが、
それは病気で14歳の時に死んだ自分の母親への思いを、
宮沢さんの母親へ向けることが目的、
という部分があったのですね。
恋人の母親を奪うことのための愛、
というのがエゴイストの愛、ということなのです。
間接的に主人公は恋人を追い込んで殺してしまうので、
結果として、
相手の母親をある意味乗っ取ってしまうことになる訳です。

そう書くとかなり壮絶な話なのですが、
実際には映画では相手の母親との積極的な交流は、
恋人が死んだ後で始まる、
という流れになっていて、
結果として母親を乗っ取った、ということになっても、
それは意図的なものではない、
という言い訳が用意されています。

原作では主人公は映画ほど裕福には描かれていませんし、
恋人の母親が自分の母親と同じように病気で余命が短いことは、
恋人が死ぬ前から分かっている設定となっているので、
その辺のニュアンスは、
映画ではかなり変わっているのです。

そんな訳で原作と映画は別物と考えた方が良いのですが、
映画は極力説明を絞っているので、
たとえば最初の方に登場する「豚1号」の意味などは、
原作を読まないと全く分からない台詞になっています。

非常に個性的で強い意思に彩られた映画で、
全ての方に向いた作品ではありませんが、
観る方によっては忘れがたい1本となる可能性はあり、
何より鈴木亮平さんの見事な演技だけでも、
一見の価値は充分にあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「フェイブルマンズ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
フェイブルマンズ.jpg
2022年製作のスピルバーグの自伝的な新作が、
今ロードショー公開されています。

これはありがちな、
功成り名遂げた人の自己満足的な自伝なのかしら、
というような印象であったので、
どうしようかなあ、と思っていたのですが、
もうすぐに終わってしまいそうな感じであったので、
迷った上で観ることにしました。
もう殆どの映画館で、
1日1回くらいしか上映していません。

でも、これはなかなか良かったですよ。

スピルバーグの映画は、
監督作は多分4分の3くらい観ていると思いますが、
今のところ一番好きな映画です。

これね、若きスピルバーグの映画との出会いを描いたように言われ、
確かにそうした作品ではあるのですが、
それ以上に彼の母親を描いた映画なんですね。
藝術家肌で、ある種の狂気を秘めていて、
それを爆発させて家を出てしまうのですが、
その存在が少年スピルバーグに与えた強烈な影響を、
非常に生々しく赤裸々に描いているのです。

また演じたミシェル・ウィリアムスが、
見事な演技でその強烈な個性を、
画面に立ち上がらせています。

それでいてこの映画を観ると、
これまでスピルバーグが監督した作品の全てが、
どのように生まれたのかが分かるように出来ているんですね。
全ての映画のエッセンスが詰め込まれていて、
その「種」のようなものが描かれているのですが、
ああそうか、この感情がこうした映画を生み出したのね、
ということがリアルに分かります。

描写や演出も決して枯れた感じではなくて、
スピルバーグの演出技巧の粋のようなものが贅沢に詰まっています。
たとえば、お母さんの伯父さんが出て来て、
藝術家の宿命のようなものを語るのですが、
演じたジャド・ハーシュも見事な芝居でしたが、
あれはスピルバーグの演出が凄いんですよね。
強烈に印象に残る場面になっています。

ともかく、スピルバーグの全てが詰まった1作で、
僕はこれまでに観たスピルバーグの作品の中で、
最も面白く、最も感動し、最もその技巧に感心した1本です。

これ、アカデミー作品賞の候補になったでしょ。
どう考えたって「エブエブ」より優れた映画ですよね。
少なくとも、アカデミー賞により相応しい作品でしょ。
でも、どんなに出来が今一つでも、
アジア人のキャストを集めた、
今風のごった煮映画の方に賞を獲らせるんですね。
勿論今更スピルバーグでもないのでしょうが、
どう考えても質が高い作品があるのに、
それには賞を獲らせないというのは、
何か釈然としないものを感じてしまいます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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重症市中肺炎におけるステロイド治療の生命予後への影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
重症市中肺炎におけるステロイド治療の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年3月21日掲載された、
重症市中肺炎に対する、
ステロイド治療の有効性についての論文です。

肺炎は特に高齢者では、
死亡の原因としても大きな比率を占め、
新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどのウイルス感染症罹患時にも、
ウイルス肺炎もしくは細菌性肺炎の合併として、
その予後に大きな影響を与えます。

肺炎においては、
全身的な炎症の増悪が、
その予後に大きく関わっています。
そのため、強い抗炎症作用と免疫調整作用を持つ、
ステロイド(糖質コルチコイド)が、
重症の事例においてはしばしば使用されています。

その使用により、
一定の予後改善効果が得られたとする報告が多いのですが、
死亡リスクについては、
多くの臨床データで明確な差が見られていません。

そこで今回の研究では、
フランスの複数施設において、
集中治療室管理となった重症肺炎の患者、
トータル800名を、
患者にも治療者にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
抗菌剤や呼吸のサポートなどの通常の治療に加えて、
一方は糖質コルチコイドのハイドロコルチゾンを、
1日200㎎で4日もしくは8日経静脈投与して、
その後8から14日を掛けて漸減中止し、
もう一方は同じように偽薬を使用、
試験開始後28日の時点での死亡率を比較しています。

その結果、
ステロイド使用群400名中、
6.2%に当たる25名が死亡したのに対して、
偽薬使用群の395名中11.9%に当たる47名が死亡していて、
絶対リスクで5.6%(95%CI:-9.6から-1.7)、
ステロイドの使用は有意に死亡リスクを低下させていました。

このように、
比較的重症の肺炎事例に限った今回の研究では、
ステロイドの使用により、
患者の生命予後は明確に改善していて、
今後重症感染症におけるステロイド治療の位置づけは、
より高いものになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ベンゾジアゼピンの減量中止に伴う症状の特徴について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ベンゾジアゼピンの減量中止時のリスク.jpg
Therapeutic Advance in Psychopharmacology誌に、
2023年2月6日掲載された、
ベンゾジアゼピン減量中止時に、
発症する症状についての論文です。

ベンゾジアゼピンは、
商品名では抗不安薬のセルシン、
デパス、ソラナックス、ワイパックス、レキソタン、
睡眠導入剤の、
ハルシオン、レンドルミン、サイレース、
ユーロジンなどがこれに当たり、
その即効性と確実な効果から、
非常に幅広く使用されている薬剤です。

その効果はGABAという、
鎮静系の神経伝達物質の受容体に似た、
ベンゾジアゼピンの受容体に、
薬剤が結合することによってもたらされ、
不安障害の症状を軽減する作用と、
眠りに入るまでの時間を短縮する作用については、
精度の高い臨床試験により、
その効果が確認されています。

その発売以前に、
同様の目的に使用されていた薬剤と比較すると、
ベンゾジアゼピンは副作用も少なく、
使い易い薬であったため、
またたく間に世界中に広がりました。

特にストレスの強い先進国において、
ベンゾジアゼピンの使用頻度は高まりました。

ところが…

ベンゾジアゼピンの問題点が、
近年クローズアップされるようになりました。

このタイプの薬には常用性と依存性があり、
特に長く使用していると止めることが困難で、
次第にその使用量は増えがちになりますし、
急に薬を中断すると、
強い離脱症状が起こることがあります。

一方でこの薬の持つ鎮静作用は、
高齢者においては、
認知機能や運動機能の低下をもたらし、
認知症のリスクを高めたり、
生命予後を悪化させたり、
特に転倒や骨折のリスクを増加させる、
という複数の疫学データが存在しています。

そのため、一時は広く使用されたベンゾジアゼピンですが、
最近では継続的な使用は極力避け、
数か月程度の一時的な使用に限ると共に、
長期連用している患者さんにおいては、
慎重に減量して離脱を図ることが推奨されています。

しかし、ベンゾジアゼピンの特殊性として、
薬を減量、離脱した時に、
一時的に生じる離脱症状に加えて、
長期化した離脱症状とでも言うべき、
数年以上持続する体調不良が存在する、
という指摘があります。

これはアシュトンらにより、
1990年代初頭に報告された現象で、
その後も同様の指摘はあるものの、
そのメカニズムを含めて、
その実態は未だに不明の点が多いのが実際です。

今回の研究はアメリカにおいて、
インターネットで収集された1207名のベンゾジアゼピン利用者の、
薬剤減量もしくは中止に伴う症状の経過を検証しているものです。

その結果、
離脱症状として報告頻度の高かった、
全身の震え、幻覚、痙攣などの症状は、
数日間から数週間の持続期間で消退していました。

一方で、緊張や不安、恐怖感、睡眠障害、
意欲低下、集中力低下などの症状は、時に記憶障害を伴い、
数か月から数年と長期残存していました。

つまり、ベンゾジアゼピンの減量中止時の離脱症状には、
短期的なものと長期的なものの2種類があり、
各々別の性質を持っている可能性が高いと考えられました。

ベンゾジアゼピンの離脱症状にはまだ不明の点が多いのですが、
今後こうした検証が積み重ねられることにより、
より安全にベンゾジアゼピンからの離脱が図れるような、
治療法の確立に繋がることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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スタチン使用患者の心血管疾患リスク予測 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スタチン治療時の将来リスク予測.jpg
Lancet誌に2023年3月6日ウェブ掲載された、
スタチン治療中の患者における、
心血管疾患のリスク予測因子についての論文です。

心筋梗塞や脳卒中は、
いずれも動脈硬化の進行に伴って発症しますが、
高コレステロール血症と炎症反応の上昇は、
いずれもそのリスクを反映すると考えられています。

スタチンという薬は、
コレステロール合成酵素の阻害剤で、
血液中のコレステロールを強力に低下させる作用を持った薬ですが、
それ以外に抗炎症作用も併せ持ち、
そのために動脈硬化性疾患の予防薬として、
その有効性が評価されています。

ただ、スタチンを充分量使用して治療を行っても、
脳卒中や心筋梗塞のリスクは一定レベルは残存しており、
そのためにどのような治療を追加すべきかが、
臨床的には非常に重要な未解決の問題となっています。

今回の検証はスタチンを使用した、
これまでの複数の臨床データをまとめて解析することにより、
スタチン治療患者における、
残存心血管疾患リスクの分析を行っています。

これまでの複数の臨床試験に含まれる、
トータル31245名のデータをまとめて解析したところ、
スタチンを充分量使用している患者においても、
高感度CRPという指標で計測された炎症所見は、
その後の心血管疾患リスクと有意な関連を持っていました。

その一方でLDLコレステロールの検査値と、
その後の心血管疾患リスクとの間には、
明確な関連は認められませんでした。

つまり、スタチンを充分量使用している患者においては、
それ以上コレステロールを低下させても、
心血管疾患の残存リスクの低下には結びつかず、
スタチン以外の治療により、
炎症反応の低下に結び付くような治療を追加することが、
心血管疾患の更なる抑制のためには、
重要であると考えられたのです。

こうした知見が、
今後の有効な予防法の確立に、
結び付くことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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