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徐脈性不整脈の罹患率と予後(埋め込み式レコーダーによる検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は研修会で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
徐脈性不整脈の予後.jpg
JAMA Cardiology誌に、
2023年2月15日ウェブ掲載された、
徐脈性不整脈の予後を解析した論文です。

正常な心拍のリズムが乱れる不整脈には、
脈拍数が増加して動悸などの症状が出現する、
頻脈性の不整脈と、
逆に脈拍数が低下して、
眩暈や失神などの症状が出現する、
徐脈性の不整脈があります。

1分間に50から80くらいが安静時の正常な脈拍数で、
運動などをしていないのに100を超えるのは頻脈、
50を切るのは徐脈とされています。

ただ、たとえば激しい持続的な運動をしている人では、
安静時の脈拍数が30から40代と低い場合もあり、
それは決して異常ではありません。

一般に30を切るような高度の徐脈や、
脈拍の間隔が3.5秒を超える場合、
高度の房室ブロックという所見を伴う時には、
治療を要する徐脈性不整脈と診断されます。
その場合の治療は通常心臓ペースメーカーの埋め込みです。

コンパクトな機械を皮膚の下に埋め込み、
電極で心臓を刺激することにより、
生命に危険が及ぶような徐脈を予防するのです。

これまで徐脈性不整脈の診断は、
眩暈や失神などの症状が見られた時に、
1日心電図などを施行することが殆どでしたが、
近年簡単に1日の脈拍数を計測することが、
ウェアラブル端末などでも可能となったので、
今後そうした情報から、
無症状の徐脈性不整脈が、
診断されるケースが増えることが想定されます。

しかし、無症状で見つかる徐脈性不整脈には、
どの程度の危険性があるのでしょうか?

今回の研究はデンマークにおいて、
発作性心房細動の検出目的で、
皮下に埋め込み型の、
脈拍を持続的に検出するレコーダーを使用した、
臨床試験の被験者データを二次活用することにより、
一般の高齢者における徐脈性不整脈の頻度と、
その予後との関連を検証しています。

対象は高血圧や糖尿病など不整脈のリスクのある、
70歳以上の6004名で、
そのうちの4503名がコントロール群、
1501名がレコーダー埋め込み群です。
観察期間の中間値は65か月という長期間の臨床研究です。

その結果、
徐脈性不整脈はコントロール群では3.8%に当たる172名で診断されたのに対して、
レコーダー埋め込み群では20.8%に当たる312名で診断されました。
このうち無症状であったのは、
コントロール群の23.8%、レコーダー埋め込み群の79.8%でした。

心臓ペースメーカーは、
コントロール群の132名と、
レコーダー埋め込み群の67名に施行されました。
レコーダーの埋め込みにより、
心臓ペースメーカー治療施行のリスクは、
1.53倍(95%CI:1.14から2.06)高くなったと計算されます。

そして、観察期間中の心臓突然死は
コントロール群の1.1%、レコーダー埋め込み群の1.2%に認められ、
そのリスクには両群で差はありませんでした。

このように、
生活習慣病などを持つ70歳以上の年齢層では、
およそ2割で徐脈性不整脈が発症しています。
ただ、その多くは無症状で、
心臓突然死などに結び付く事例はそのうちの極少数です。
仮に毎日全ての脈拍をモニターして、
不整脈を検出して治療を行っても、
心臓突然死を予防することは困難です。
現状施行されている心臓ペースメーカーの埋め込みは、
結果的には不必要に行われている可能性があり、
今後の検証が必要と考えられます。

脈拍を持続的にモニターして診断と治療を行えば、
不整脈による死亡はなくなるように、
イメージとしては思いますが、
現実はそれほど簡単なものではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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