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慢性疼痛におけるオピオイドの減量とそのリスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オピオイドの減量とそのリスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年2月7日ウェブ掲載された、
近年その使用が増加している、
慢性の痛みに対するオピオイドの使用量を、
減量した時の影響についての論文です。

オピオイドというのは、
オピオイド受容体に結合して、
強い鎮痛効果を示す一連の薬剤の総称で、
その代表は麻薬でもあるモルヒネですが、
医療用としては多くの薬剤が鎮痛目的で使用され、
以前はその用途は癌の痛みに限られていましたが、
オピオイドとしての作用が比較的弱い薬剤は、
癌の痛み以外にも使用されるようになっています。

トラマドール(トラムセットなど)は、
その代表的な薬剤です。

その副作用や有害事象としては、
便秘、吐き気、呼吸抑制、副腎機能低下などがあり、
長期の連用によりモルヒネほどではないものの、
常用性や依存が形成されることも問題です。
1年以上の長期使用により、
死亡リスクが増加したとする報告もあります。

そのため、現行の慢性疼痛のガイドラインの多くでは、
「漫然と長期使用すること」はせず、
概ね3から6か月の使用に留めることが妥当と、
記載をされています。

しかし、実際には1年を超えてオピオイドは長期使用されるケースも多く、
その安全性についてはまだ結論が出ていません。

問題は特に1年以上持続的に使用しているケースにおいて、
その減量と離脱をどう行うべきか、
ということです。

CDCの提言では、
短い期間の使用であれば、
1週間に10%くらいずつ減量して中止することが、
1年以上の長期使用の場合には、
より慎重に月に10%というペースで、
慎重に減量して中止することが推奨されています。

しかし、一般臨床の外来において、
痛みのコントロールのために使用されているオピオイドを、
慎重に減量して離脱することは、
それほど簡単なことではないように思います。

実際にそうしたオピオイドの減量が、
患者さんの予後にどのような影響を与えるのでしょうか?

今回の研究はアメリカにおいて、
医療保険のデータを後から解析する手法で、
この問題の検証を行っています。

18歳以上でモルヒネ換算で1日50㎎以上のオピオイド
(トラマドールで概ね250㎎以上)
を1年以上に渡り慢性疼痛に対して使用していた、
113604名の患者データを解析したところ、
オピオイドの減量を外来で施行すると、
施行しない場合と比較して、
病院を救急受診するリスクが1.19倍(95%CI:1.16から1.21)、
入院のリスクが1.16倍(95%CI:1.12から1.20)、
それぞれ有意に増加していました。
その一方でオピオイドを処方している医療機関への受診は、
5%(95%CI:0.97から0.99)有意に減少していました。

高血圧や糖尿病で治療をしていた患者では、
その治療薬の服薬も守られないことが多くなり、
それに伴い血圧や血糖のコントロールが悪化する傾向も、
認められました。

オピオイドの減量は正しいことである筈なのに、
何故患者さんの状態は悪化し、
救急受診や入院が増えてしまうのでしょうか?

医師は良いことと思って、
「そろそろ薬を減量して止める準備をしましょう」
と言うのですが、
患者の側では、
良い薬だと思って続けていたのに、
止めないといけないのは何故なのか、
という不信感が募ったり、
逆に、そんなに悪い薬なら、何故すぐに止めてはいけないのか、
という気持ちになったりもします。

こうした疑問についてしっかり説明することなく、
見切り発車的に減量を始めてしまうと、
それが上手くいけば良いのですが、
減量により離脱症状で体調不良になったり、
減量したことにより疼痛が悪化することも、
当然あり得ることなので、
そうした時に、
医師患者関係が崩れていると、
患者は医師に体調不良を相談することなく、
自分なりの対応をしてしまったり、
体調不良が悪化して、
病院を救急受診してしまうことにもなるのです。

また、糖尿病や高血圧など、
身体の基礎疾患で通院している患者でも、
医師患者関係が崩れてしまうことで、
基礎疾患の治療にも支障が生じる結果となってしまうのです。

長期継続しているオピオイドを、
適切に減量して中止することは、
患者さんのために重要なことですが、
しっかりと事前の理解をしてもらい、
患者さんの同意を確認することと、
体調不良に結びつく可能性があることを想定して、
その時の対処を確認しておくことが重要であることを、
今回の結果は示しているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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