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老年期難治性うつ病の治療の選択肢 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
老年期うつ病の治療オプション.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年3月3日ウェブ掲載された、
高齢者の難治性うつ病の治療の選択肢についての論文です。

高齢者(今回の場合は60歳以上)は、
うつ病の好発年齢層ですが、
若年のうつ病と比較して、
抗うつ剤の有効性が低く、
効果の確認されている抗うつ剤2種類を充分量で試しても、
改善の見られない「治療抵抗性うつ病」が、
多いことが指摘されています。

その場合の薬物治療の選択肢として、
別個の作用を持つ薬剤を上乗せで使用するという考え方と、
薬を切り替えるという考え方があります。

これまでに日本未発売のブプロピオンという、
SNRIというタイプの抗うつ剤の上乗せもしくは変更と、
抗精神病薬のアリピプラゾールの上乗せにより、
難治性のうつ病の症状改善が報告されています。
ただ、こうした治療同士の比較や他の処方との直接比較のデータは、
殆ど存在していないのが実際です。

今回の検証はアメリカにおいて、
60歳以上の治療抵抗性うつ病の患者、
トータル619名をまず3つの群にくじ引きで分け、
アリピプラゾールとブプロピオンの上乗せ、
そしてブプロピオンへの変更に割り付けて、
10週間の治療を継続します。
そこで更に改善が認められなかった場合には、
ステップ2としてくじ引きで2群に分け、
気分安定剤のリチウム製剤の上乗せと、
ノリトリプチリンへの切り替えに割り付けて、
更に10週間の治療を継続します。

その結果、
通常の抗うつ剤の治療に抗精神病薬のアリピプラゾールを上乗せする治療が、
ブプロピオンへの変更より有意に症状の改善率が高く、
アリピプラゾールの上乗せとブプロピオンの上乗せには、
有効性の差はありませんでした。
ただ、アリピプラゾールの上乗せと比較して、
ブプロピオンの上乗せ治療では、
患者の転倒リスクはより高くなっていました。
またこの治療が無効であった場合には、
リチウム製剤の上乗せとノリトリプチリンへの変更に、
ほぼ同等の有効性が確認されました。

こうした点から考えて、
2種類の抗うつ剤治療が無効の高齢者のうつ病に対しては、
まずアリピプラゾールを上乗せで治療することが、
その有効性の面でも安全性の面でも、
最もバランスの取れた治療の選択肢であることが確認されました。

こうした検証はかなり困難なものなので、
今回の臨床試験の意義は大きく、
今後の臨床の指針となり得るものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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