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横溝正史「獄門島」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも中村医師が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
獄門島.jpg
横溝正史の代表作「獄門島」です。

日本の本格ミステリー史上に残る名作ですが、
作品のポイントとなる部分に、
放送などには適さないとされる表現がある関係で、
これまで何度も映画やドラマ化はされながら、
オリジナルに忠実に映像化されたことが殆どない、
という曰く付きの作品でもあります。

この作品との出会いは小学校の低学年の頃で、
何年生くらいだったのかしら、
ちょっと覚えていないのですが、
それほど上の学年ではなかったことは確かです。
母親に夜色々な小説の読み聞かせをしてもらったのですが、
そのラインナップがかなりマニアックで、
最初は子供向けの読み物から始まって、
そのうちに横溝正史のミステリーや、
「西遊記」の原典からの完訳全巻などになりました。
勿論全部オリジナルで子供向けのリライトではありません。

横溝正史の長編ミステリーなら1週間くらい、
「西遊記」は多分1か月以上かかったと思います。

横溝正史ものはその時に、
「獄門島」、「八つ墓村」、「女王蜂」、「犬神家の一族」を、
読み聞かせてもらいました。

子供の頃にそれも耳から読んでいるので、
とてもとても強い印象がありましたし、
今でもこの4つの作品については、
そのイメージをありありと思い描くことが出来ます。

矢張り当時は「八つ墓村」が印象強烈でした。
ただ、今思うとあれは江戸川乱歩の、
「孤島の鬼」辺りの影響が強いですよね。
もともと横溝正史は編集者で、
乱歩に影響されて作品を書き始めて、
戦前のものは乱歩のパクリみたいなものが多かったんですよね、
それが戦後になって名探偵金田一耕助を登場させると、
その作風はカーをお手本にした、
本格ミステリーに変化したのです。
ただ、戦後の作品にも乱歩趣味のものがあり、
「八つ墓村」はその代表と言って良いのだと思います。

「獄門島」はそれに比べると印象は薄かったのですが、
他の作品にはない風格というか、
唯一無二という感じがあって、
子供心にもワクワクしました。

カーの幾つかの作品をお手本にしているのですが、
その変え方というか、アレンジの仕方も絶妙ですし、
犯人の造形も非常に印象的に描かれています。

綾辻行人さん以降の新本格のミステリーの系譜も、
矢張りこの作品なしでは生まれえなかった、
と言っていいような感じがありますね。

ミステリーとしての完成度についてはどうなのかな、
何度も読み返しているんですが、
最初の殺人は素晴らしいですよね。
2番目の殺人もとても魅力的なのですが、
少し意味不明という感じもあります。
トリックはとてもとても素敵なのですが、
そんなことしてもなあ、
という感じがあるのですね。
3番目の殺人は明らかに弱いですね。
また、殺人の動機がね、
とても有名なミステリーを下敷きにしている、
というのは分かるのです。
ただ、矢張りすっきりはしていないですね。
色々と補足や言い訳がついてしまっているので、
素直に腑に落ちない、という感じがあるのです。

その意味でミステリーの骨格としては、
「本陣殺人事件」の方が上とは思います。
今読むとラストが読めてしまう、というところはあるのですが、
動機も含めてとても完成度は高いですよね。
ただ、ちょっと短いですし、
乱歩タッチが抜けていないような仰々しさがあるので、
作品の風格と言う面では、
「獄門島」の方がはるかに上です。

そんな傑作ミステリーですが、
映像化ではあまり良い結果になっていません。

原作刊行から間もない1949年に、
松田定次監督により映画化されていますが、
これは片岡千恵蔵の多羅尾坂内シリーズの系譜にあるもので、
原作の設定は借りながら、犯人などは全く別になっている怪奇スリラーです。
このシリーズは横溝作品をかたっぱしから映画化しているのですが、
そのほぼ全てで犯人は原作と違っています。
これはまあ、1つの見識で、
ミステリーファンとしてはむしろ好ましく感じます。

その後角川書店が仕掛けた、
横溝作品リバイバルというのが1970代にあって、
角川映画の「犬神家の一族」が大ヒットしたので、
同じ市川崑監督が1977年に映画化しました。

「犬神家の一族」は僕も大好きですが、
横溝ミステリーがほぼ原作通りに映画化された、
史上初めてのケースと言って良い画期的映画でした。
ただ、一番良いところで佐清の仮面が透けて見えるところがあるでしょ。
あれはかなり痛恨のミスカットですね。
誰か気が付かなかったのかしら。

それで1977年の映画「獄門島」はとても期待して、
封切りに渋谷の映画館で観たのですが、
おやおや、という感じで正直ガッカリしました。

これね、犯人を変えているんですよね。
それは予告でもそう謳っていましたし、
松田定次方式と考えれば良いと思うのですが、
実際にはほとんど同じストーリーであるのに、
その一部だけを強引に変えて、
「犯人を変えた」と言っているんですね。
これじゃただ原作を詰まらなくしただけでしょ。
駄目だこりゃ、という感じでした。

これね、3つの殺人に3つのトリック、
というのがいいんですよ。
それを崩しちゃ駄目なのに、
映像化すると絶対変えちゃうんですよね。
確かに原作も3つ目のトリックが弱いので、
気持ちは分かるのですが、
でも変えちゃ駄目なんだよ。

ただ、原作そのままの部分は、
なかなかいいんですよね。
大原麗子さんも抜群にいいし。
原作の戦後の無常観のようなものも、
良く出ていたと思います。
それでこの映画は結構何度も観ています。
テレビでちょうどいいという感じ。
ただ、原作を変えた部分はまどろっこしくて、
イライラしてしまいます。

同年に古谷一行が主役のテレビシリーズで、
「獄門島」が放映されましたが、
これは原作の設定が大きく変わっていて、
放映に適さないとされる用語や設定が、
バッサリなくなっていました。
これなら、やらない方がましじゃん。
とても残念です。

その後何度かテレビドラマになりましたが、
例によって設定はガタガタに変えられていたので、
遺族の方もこれなら映像化にOKを出さない方がいいのに、
と無念の思いがありました。
2016年にBSで制作されたものは、
かなり原作に近く、用語もそのままであったようですが、
これは観ていません。

「獄門島」は今読んでも、
新鮮な驚きと戦後の喪失感のようなものを感じられる、
日本屈指の名作ミステリーだと思いますが、
テレビの情報などがあると、
予備知識があって楽しめない方が多いと思うので、
その点は非常に残念です。
ウィキペディアにも、
ネタバレとかの記載なく、
ストーリーが最後まで書かれていますし、
今の情報過多は本当に嫌になります。

私見ですが、
戦中戦後くらいの設定のドラマは、
もう絶対にその時の感触では再現できないので、
しばらく作るのは止めてもらった方が良いように思います。
これがもう100年くらいすれば、
ファンタジーとして成立するので良いのですが、
今は作るだけ嘘の上塗りになるだけなので、
昔の作品を見る機会を増やして頂いた方が、
よほど建設的であるように思います。

今日はすいません。
そんな感じでつれづれなるままに雑感でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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セオドア・ロスコー「死の相続」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも代診となります。

土曜日は趣味の話題です。

今日はこちら。
死の相続.jpg
パルプ作家で日本では長く無名であった、
アメリカのセオドア・ロスコーの、
日本唯一の翻訳長編ミステリーです。

これはかなり前に買ったのですが、
長く積読としていました。
今回「屍人荘の殺人」を読み、
そう言えば…と思って読んでみたものです。

これはなかなか面白かったです。

1935年という本格ミステリーの黄金時代に発表されたものですが、
ハイチを舞台として、
農園を経営する資産家が奇怪な遺言状を残して変死し、
そこにアメリカ人の若いカップルが巻き込まれて、
24時間の血で血を洗う惨劇が展開されます。

そこに更に政府転覆を狙う暴動が起こり、
超自然的現象まで起こって、
事件は混沌とした様相を呈します。

この、とても解決しないように思える、
大風呂敷を広げ過ぎたように思える事件が、
ラストには見事に解決するのです。

そのさすがの手際には感心します。

複数の不可能犯罪と密室トリックが含まれていて、
そのトリック自体はやや他愛のないものなのですが、
事件の最も大きな真相と、
トリックが有機的に結び付いているというところに、
この作品の優れた点があります。

正直「屍人荘の殺人」の10倍くらい面白い作品でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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今村昌弘「魔眼の匣の殺人」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は中村医師が、
午後2時以降は石原が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
魔眼の匣.jpg
今村昌弘さんの新作ミステリー「魔眼の匣の殺人」を読みました。

ミステリ―は中学から高校の頃が、
一番のめり込んでいた感じで、
早川ミステリの絶版本を求めて、
神保町を何度も彷徨いました。

大学になって新本格と言われる、
外連味のある本格ミステリーが、
猿之助の復活歌舞伎のように復興し、
それが「金田一少年の事件簿」以降、
漫画の世界に広がることで、
その裾野は一気に拡大して今に至っています。

江戸川乱歩の「続幻影城」を読んで、
カーのミステリーの絶版を悲しみ、
早川ミステリ文庫の発刊にワクワクし、
雑誌の「幻影城」で泡坂妻夫さんの短編に驚き、
「匣の中の失楽」の連載を高校1年の孤独な春に、
読みふけったことも今では遠い思い出です。

さて、今村さんのデビュー作の「屍人荘の殺人」は、
2017年のミステリー界の話題をさらったヒット作で、
あるホラーなどにお馴染みの設定と、
クイーン流の犯人絞り込みのロジックの謎解きを、
組み合わせたミステリーです。
雰囲気は新本格などの館ものですが、
ミステリーのロジックとリアルでない設定を同居させた発想は、
アシモフのSFミステリーと同じです。
アシモフの「鋼鉄都市」では、
プログラム上人間を殺せない筈のロボットが、
人間を殺したとしか思えない状況が、
ミステリーとして設定されていたのですが、
それを別のテーマでミステリー化しているのです。

ただ、個人的にはあまり面白く感じませんでした。
もう脳が老化しているので、
犯人絞り込みのロジックの部分が、
ごちゃごちゃとして面倒にしか思えません。
また、超自然的な設定の方が、
館の中のチマチマした殺人より、
間違いなく大きいので、
大きな事件は解決しないのに、
チマチマした殺人のみ解決するというのでは、
本末転倒で安易であるように感じたのです。

今回はその続編ですが、
前作の設定は踏襲しつつ、
今度は「予言」をテーマにしています。

通常のミステリーでは、
予言というのは基本的にトリックなのですが、
今回はトリックとは思えない予言がバンバン出現し、
ははあ、要するにこれもミステリーと超自然のミックスなのね、
ということが分かります。

今回はラストに、
如何にもミステリー的な捻りがあるので、
前作よりミステリーとしての満足感が高いものになっています。
小さなトリックを積み上げる感じは、
クレイトン・ロースンみたいでしたね。

ただ、矢張り大枠にある謎は、
リアルにせよ超自然的にせよ解決はされないので、
モヤモヤする感じが残ることは同じです。

あと、昔流行った、
大きな木の棒が忽然と現れるという、
マジックネタを利用したトリックがあるのですが、
これはさすがにしょぼくてガッカリしました。
多分マジック好きでない方は、
本文を読まれてもなんのことか分からないと思うのですが、
実際にそうしたネタがあるのです。
ただ、これは出現であって消失の仕掛ではないので、
本文を読む限り成立しないと思いました。

こういうのは僕は嫌いです。

そんな訳で今回もあまり乗らなかったのですが、
一部は脳の老化のせいかなあ、と思うところもあるので、
久しぶりに本家のクイーンでも、
じっくり読んでみようかな、
などと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アンソニー・ホロヴィッツ「カササギ殺人事件」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は中村医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カササギ殺人事件.jpg
2017年に原書が発売され、
2018年9月に翻訳版が出版されて、
本格翻訳ミステリーとして、
その年随一の評価を得た作品です。

翻訳物の長いミステリというのは、
一気に読まないと面白くないので、
なかなか時間が取れなかったのですが、
この連休に合わせて読了しました。

まあまあかな。

これは入れ子構造になった作品で、
主人公の女性編集者が、
1955年を舞台にした偽古典のようなミステリー小説の発表前の原稿を、
読み始める前からスタートして、
その後にその架空のミステリー小説が丸ごとあり、
その更に後に編集者とミステリー作家を巡る物語に移行して、
リアルと虚構の謎が交錯するという物語になっています。

こうした作品は日本人作家が比較的得意で、
メタミステリなどとも呼ばれ、
「ドグラマグラ」や「虚無への供物」から、
最近の三津田信三さんの諸作まで、
多くの作例があります。

ただ、幻想的で面白い反面、
結局現実と虚構両方の謎がすべて解き明かされる、
ということは稀で、
何処かに常に齟齬はあり、
謎の一部はそのままにされることが通常です。

一方でこの作品は、
それほどお話しとしてとんでもなくなることはなく、
奇想天外でも幻想的でもないので、
その点はやや物足りないのですが、
現実と虚構の2つの謎が完全に解決され、
その両者ともまずまず納得のゆく出来栄えで、
読後にもやもやした感じがないのが一番の特徴です。

虚構のミステリー小説として提示される作品は、
クリスティーとの類似が指摘され、
作者自身もモチーフにしているようなのですが、
どちらかと言えばパトリシア・モイーズや、
ルース・レンデルの本格趣味の傾向の作品に似ています。

まあまあ良くできていますが、
それほどビックリするようなものではないし、
描写もまどろっこしくて繰り返しが多いですよね。
それはリアルの部分の事件にも言えて、
長い手紙や小説の一部を、
長々と引用する部分があるのですが、
結果としてあまり必要性がない感じなので、
結構読んでいてストレスは感じました。

クリスティーを超えた、というような誉め言葉もあるのですが、
果たして何処がどう超えているのでしょうか?

クリスティーはもっと簡潔で凝縮力があり、
幻想味も外連味もありますよね。
この劇中作がクリスティーを超えているとは、
僕にはとても思えませんでした。

総じてとても面白く読みましたが、
正直多くの方が絶賛するほどではないかな、
というのが個人的な印象で、
少なくとも「今世紀最高」とか、
「50年後に残る」というのは、
大袈裟な意見のようにしか感じませんでした。

ミステリー好きにはそこそこお薦めですが、
これなら古典をそのまま読んだ方がいいかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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東野圭吾「沈黙のパレード」(ネタバレ注意) [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後2時以降は石原が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
沈黙のパレード.jpg
東野圭吾さんのガリレオシリーズの新作長編で、
書き下ろしで昨年刊行されると、
主なミステリーのベストテンで、
1位を獲得するなど抜群の評価を得ている作品です。

ガリレオのシリーズは東野さんの作品の中では、
新本格に近いミステリーのスタイルで、
元々森博嗣さんの作品をパクったような感じがあり、
当初は違和感を感じたのですが、
シリーズ初の長編である「容疑者Xの献身」が直木賞を取り、
その後は独立した特徴も生まれて、
東野さんの本格ミステリー畑の作品としては、
代表的なシリーズとなっています。
その作品のほぼ全てが、
福山雅治さんの主演で映像化されていて、
福山さんが断らなければ、
この新作も同じように映画化される可能性が高いと思います。

短編や中編には、
オヤオヤと感じるようなものも多いのですが、
これまでに刊行された長編は、
「容疑者Xの献身」「聖女の救済」「真夏の方程式」と、
いずれも力の入った優れたミステリーになっていて、
東野さんの多くの作品の中でも読み応えがありますし、
東野さん自身も力を入れて書いていることが分かります。

今回の作品も、如何にもガリレオシリーズという感じで、
舞台を用意して主人公の名探偵をその場に居合わせ、
その目の前で不可解な事件を起こすという構成は、
クリスティーやカーの黄金時代の本格ミステリーの構成そのものです。

クリスティーやカー、
スラデックなどの古典ミステリーのトリックを、
一部明かしているようなところがあるので、
「オリエント急行殺人事件」や「ユダの窓」、
「見えないグリーン」については、
是非原典を読んでから、
この作品を読まれることをお薦めします。

つまり、割合とミステリーマニア向けに、
書いているようなところのある作品なのです。

またガリレオシリーズの旧作や新参者シリーズの作品も、
先に読んでおいた方が良いと思います。
東野さんは結構過去作のトリックや設定を、
流用して再構成することが多いからです。

以下勿論ネタバレはしませんが、
内容を類推出来るような表現がありますので、
先入観なくこの作品をお読みになりたい方は、
本作読了後に以下はお読み下さい。

よろしいでしょうか。

それでは続けます。

リーダビリティもクオリティも高いので、
読んでガッカリするような作品ではありません。

ただ、個人的には過去作の焼き直し的な趣向が多く、
目新しさはないな、というのが正直なところです。
全体の構成は「真夏の方程式」に非常に良く似ていて、
主人公の関わり方もそっくりなのですが、
比較すると「真夏の方程式」の方が、
その切なさや余韻の面で、
優れていたように思います。
最後のひねりは、
ちょっとわざとらしすぎるという気がします。
それに最終的な解決は、
ほぼ想像に近い推測で、
何ら根拠はありませんよね。

犯人でありながら司法で裁かれない人物の設定には、
「検察側の罪人」の影響が、
かなりあるのではないかと感じました。

事件自体も全員のアリバイが、
それほどしっかり確認されるという感じではないので、
事件自体のワクワク感も乏しいように思いました。
パレードの活用のされ方も、
意外に詰まらないですよね。
もう一工夫欲しかったと思います。
計画犯罪が途中でアクシデントがあることで、
より不可解な事件になるというのは、
クイーンのスタイルで、
日本では有栖川有栖さんなどが得意とするところですが、
こういうのは東野さんはあまり上手ではないと思います。

ある人物の設定などは、
切なくて東野さん好みなのですが、
これもある旧作の焼き直しで、
旧作の方がインパクトは大きかったと思いますし、
過去作を読んでいると、
何となく構造は分かってしまって、
それほど驚けないのもつらいところです。

そんな訳で東野さんの本格ミステリーとしては、
高いレベルの水準作という感じで、
あまり飛び抜けた印象や、
独自性は感じにくいように思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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東野圭吾「人魚の眠る家」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
人魚の眠る家.jpg
東野圭吾さんはまだ地味なミステリー作家であった時代の、
「鳥人計画」や「ブルータスの心臓」、
屈折した青春ミステリーの「魔球」などが好きで、
この辺りはまだブレイクする前に、
まとめ読みをしています。

その後はしばらくご無沙汰だったのですが、
「秘密」にビックリしてとてもとても感動して、
読み終えた時の二子玉川のケンタッキーの店内の雰囲気や、
曇天の夕暮れの空の色、寒さの感触まで今もリアルに覚えています。

それからの活躍は皆さんご存じの通りで、
あまりに多作過ぎるので、
作品の出来不出来が激しくて、
オヤオヤという感じのものも多いのですが、
語り口は極めて巧みでスイスイ抵抗なく読めてしまうので、
ちょっと時間が空いて読書という時には、
安心して手が伸ばせるので読んでしまいます。

個人的には「秘密」が抜群で、
次に「手紙」が凄いと思いますが、
前述の初期作も良いと思いますし、
最近では映画化もされた(最近はほとんどされていますが)
「祈りの幕が下りる時」が、
清張さんの「砂の器」を換骨奪胎して、
ミステリーと人間ドラマの案配が巧みな快作でした。
森博嗣さんのパクリとして始まったガリレオシリーズも、
長編はどれも粒揃いで読み応えがあります。

東野さんは端的に言えば「理系脳の悪意の人」で、
相当歪んだ倫理観をお持ちだと思います。
(悪口ではありません)
初期作ではそれが生々しい感じで出ていて、
そのために読者を選ぶ感じがあったのですが、
「秘密」はその屈折した人間観の奥底にある、
秘められた無垢な情念のようなものが、
初めて露になった観じがあって、
それ以降は理知と感情との相克が、
物語の骨格を作るようになりました。
初期は単純な勧善懲悪的なストーリーは、
決して書かなかったのですが、
ベストセラー作家となって以降は、
そうした穏当な作品がむしろ多くなって行きます。
ただ、そうなっても人間や社会を見据える視線は、
独特で屈折したダークな面を保っています。

この「人魚の眠る家」は映画化に併せて読んだのですが、
まだ時間がなくて映画は観ていません。
多分見ないままに終わる可能性が高そうです。

この作品は前半はなかなか読み応えがありました。

脳死と臓器移植の問題を扱っているのですが、
東野さんの見方は例によってかなりシニカルで、
その情緒を廃した怜悧な感じが作者ならではという感じがします。
2つの異なった考え方の対立を、
論理で徹底して詰める辺りが凄いですね。
途中にひねりを入れて、
アイラ・レヴィンの「死の接吻」を思わせる、
予想の付かない展開にもワクワクします。

この辺りワンテーマを掘り下げるという点では、
「手紙」を彷彿とさせますし、
横隔膜ペーシングや筋肉への電気刺激など、
今ある技術を利用して、
現実より少し進んだ絵を描いてみせるという、
SFにはならない科学応用というのも、
「鳥人計画」辺りに近いスタンスです。

ただ、クライマックスからラストに掛けては、
子供をだしにしたお涙頂戴的な感じになり、
ラストは如何にも予定調和的なもので、
夢と子供で決着させるという安易さには、
ちょっと落胆する感じがありました。
昔のもっと悪意に満ちた東野さんであれば、
母親の行為はもっととんでもない方向に、
シフトしたのではないかと思いますし、
万人向けで現実の医療にも寛容なラストなど、
決して選択はしなかったのではないか、
というように思いました。

映画は観ていませんが、
この原作通りにするのだとすると、
おそらく尻すぼみの印象になるように推測され、
何となく足が向かないというのが正直なところです。

映画が観られましたら、また感想は書きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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岩木一麻「がん消滅の罠 完全寛解の謎」(ネタバレ注意) [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
がん消滅の罠.jpg
医療系の研究者の前歴のある著者による医療ミステリーで、
第15回の「このミステリーがすごい!」大賞受賞作です。

「余命半年の宣告を受けたがん患者が、生命保険の生前給付金を受け取ると、その直後、病巣がきれいに消え去ってしまうー」
という現象が繰り返し起こるという、
人間消失ならぬ、がん消失という怪事件を推理する、
という話です。

選考委員が「まったく見当のつかない真相」
「史上最高の医療本格ミステリー」
などと真顔で公言しているので、
一体この謎がどのように解かれるのだろうと、
どうせ大したことではないのではないか、
と少しは思いながらも、
凡人の性で何となく気になってしまいます。

これはまあ、2つの謎があるのです。
いずれもがんが消えたり、するのですが、
設定は少し違います。

1つは肺腺癌が全身に転移していて、
それ自体は専門の医療機関で確認されているのです。
余命半年という宣告で保険金が下りるのですが、
標準治療の抗がん剤を使用して、
余命の少しの延長しか期待は出来ない筈なのに、
数か月でがんは全て縮小して消えてしまいます。

これが1つ。

もう1つは何か謎の病院があって、
特別な免疫治療をしているらしいのです。
ある人が人間ドックで初期の肺がんが見つかり、
それが早期なので切除すると、
しばらくして全身の転移が見つかり、
それがその病院の画期的な治療で、
みるみる縮小して消えてしまったり、
治療をやめると悪化したりするというのです。

これがもう1つの謎です。

本を読む前にそれだけの情報で、
どのようなトリックなのか考えてみました。
別に僕でなくても医学をちょっとかじった人なら、
誰でもそう考えると思うのですが、
本物の癌が急に消える訳はないと思うのです。
それがあれば純然たるSFで、
医学ミステリーという枠からは大きくはみ出してしまいます。
そうなると、
消えたのは「〇〇」ではない、
ということになり、
要するにこうしてこうしたのではないかしら、
と何となく答えは1つしかないという気がします。

でも、それだけのことでは、
さすがに素人でもすぐ分かってしまうのではないかしら、
そんなものを「空前のトリック」などと言うのかしら、
と疑問に思って、
悔しい気はしたのですが、
真面目に買って本を読んでみました。

読むと結局はほぼ想像の通りでした。

このように理屈で1方向で考えると、
すぐに1つの可能性しか残らなくなってしまうのは、
所謂「不可能犯罪」のトリックとしては上出来とは言えないと思います。

しかし、一方で多くの人は、
医療というものに一種の呪術性のようなものを期待し、
「私があなたの癌を100%治します」
などと言われれば、
明らかなインチキでも思考停止して信じてしまうようなところがあるので、
そこを上手く突いているという点は、
読者に受けるところがあるようにも思います。

同じような奇跡は実際にはゴロゴロ転がっていて、
有名芸能人の進行癌の報道などに対しては、
絶対に治る筈がないのに、
「奇跡を信じます」と言わないと非難を浴び、
真顔で皆が非論理的で非科学的な奇跡を、
信じて疑わないようなところがあるからです。

従って、そうした先入観や思い込みを、
一種のミスディレクションとして活用していると考えると、
満更低レベルのトリックとも言い切れません。

この作品はトリックはそんな感じのものなのですが、
小説としてはなかなか良く出来ていて、
かなり加筆されて手が入っていると思うのですが、
ミステリー的な小ネタの使い方が上手く、
全体に何かもやもやした不気味な感じというか、
グロテスクな感じがすることも悪くありません。

以下少しネタバレを含む感想です。
必ず本編読了後にお読みください。

必ずよろしくお願いします。

これはフーマンチューもののバリエーションのような作品で、
狂気に満ちた癌研究の第一人者の研究者が、
自分の知識を悪用して、
日本の重要人物に癌を作ってそれをコントロールすることにより、
彼らを強迫して理想の政治を実現しようとする、
というような話です。

本人の癌細胞に自死(アポトーシス)を誘導するような仕掛けをして、
それを大きくしたり小さくしたりする、
というような趣向です。
ただ、末期癌の恐怖を味合わせてから、
それを縮小させるようなことをするのですが、
それは成立しないという気がしました。

癌でもう悪液質のような状態が生じているとすると、
そこで慌てて癌細胞に自死の指令を出しても、
身体全体としてはもう手遅れの可能性が高いように思うからです。

自死させるような遺伝子に組み込んだ仕掛けとは何?、
というのが1つのポイントですが、
そこは昆虫から抽出した毒素みたいなことで、
適当に胡麻化している、という印象です。

それとは別に、
最初に免疫抑制剤をアレルギーの薬と嘘を吐いて飲ませておいて、
他人由来の癌を植え込み、
癌を消したい時にはその免疫抑制剤を中止すると、
拒絶反応で癌が消滅する、
という方法も使われています。
ただ、これも大分無理があって、
他人の癌細胞が生着するような強力な免疫抑制をしておいて、
それが他の医療機関でバレないというのも不自然ですし、
本人はそれを全く知らないのですから、
感染症などで体調を悪くする可能性も高そうです。
また肺癌の細胞をただ注射しただけなのに、
それが原発性の肺癌が全身に転移したのと同じに見えるような広がりで、
うまい具合に生着するというのも随分と不自然に思います。

著者は動物実験の知識はあるので、
癌の動物実験をそのまま人間に適応している訳です。
それはそれでグロテスクな趣きがあるので、
趣向としては成功していると言って良いのですが、
人間の患者さんの実際は、
多分あまりご存じがないのだと思うので、
「とんでもトリック」という感じのものになっています。

ただ、この作品はそのトリック以外の部分に、
そのミステリ―としての妙味があって、
最初は如何にも探偵役に見えた変人研究者が、
事件の根幹に関わっていたり、
勧善懲悪にはならずに、
ラストは次のステップに入るというような捻りも良いのです。

人物もあまり細かく書き込まないことがむしろ成功していて、
ステレオタイプな人物しか出て来ないのに、
何か生々しい感じを出しているのも面白いと思います。

このくらいなら…
という思いもありましたし、
くやしい感じも強くしたので、
眠っていた意欲に、
少し火が点いた感じもしたのです。

ちょっと頑張ります。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

エリン「特別料理」とミステリー短編の世界 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
石田医師は休診のため、
午前午後とも石原が診療を担当します。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
特別料理.jpg
スタンリイ・エリンはアメリカのミステリー作家で、
もう故人ですが、
特に1950年代に発表した珠玉のような短編が、
今でもミステリー短編の1つのお手本として、
その輝きを放っています。

この「特別料理」はエリンの最初の短編集で、
タイトルロールである処女作の「特別料理」から
これも世評の高い、
マジックを扱った「決断の時」までの、
10編の短編が収録されています。

これは矢張り圧巻の短編集で、
僕は昔「特別料理」と「パーティーの夜」など数篇を読んで、
あまり感心しなかったので、
しっかり全部読んでいなかったのですが、
比較的最近通読して、
あまりに面白いのでびっくりしました。

エリンは「奇妙な味」の短編と言われています。
これはオーソドックスなミステリーではなく、
「よくこんな風変わりで変な話を思いついたな」
と感心するような傾向のものを指していて、
エリンと同じく短編の名手とされたロアルド・ダールは、
確かにエロチックだったりグロテスクであったりと、
「奇想」の名に恥じないものなのですが、
エリンの場合はちょっと違います。
基本的にはミステリーの骨法を大事に守っていて、
勿論本格ミステリーではないのですが、
予想外の展開を極めて緻密に練り上げていて、
ミステリーならではの愉楽に誘うのです。
この作品集はほぼ全てが傑作といって過言ではありません。

セレブに密かに愛されるレストランの特別料理の謎を、
直接的な描写を徹底して抑制することにより描いた「特別料理」や、
有名俳優が自堕落なパーティー繰り広げる描写のうちに、
異様な世界への扉が開く「パーティーの夜」などは、
世評の通りの逸品なのですが、
僕が特に好きなのは、
異様な犯罪計画とその皮肉極まりない顛末を描いて、
一分の隙もない「アプルピー氏の乱れなき世界」や、
当時流行の心理スリラーを、
徹底した心理描写のみで工芸品のように磨き上げた「好敵手」
の辺りです。

こういうレベルのものが1つでも書ければ、
本当に素晴らしいですね。

エリンの短編集は3冊あり、
一応全部読んでみました。

2冊目がこちら。
九時から五時までの男.jpg
こちらは1冊目と比べると、
その出来にはちょっとばらつきがあります。
1冊目にはない、社会批評的な作品が幾つかあり、
それが今読むとややピンと来ないことも、
その1つの原因かも知れません。
この中では「不当な疑惑」は、
所謂「一事不再理」を扱った短編ですが、
限定された長さの中に知的な興奮が溢れ、
ラストの突き放した味わいの鮮やかさはさすがエリン、
という逸品です。

そして、最後の短編集がこちら。
最後の一瓶.jpg
これはもうかなり玉石混交です。
ただ、表題にもなった「最後の一壜」は、
初期作に勝るとも劣らない傑作です。

短編ミステリーに関しては、
ほぼ間違いなく1950年代が黄金時代で、
「奇妙な味」の全てのパターンが出尽くしているので、
その後今に至るまでの作品は、
ある種の蛇足のように思えてしまうのです。

「特別料理」は是非…

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

ルメートル「その女アレックス」とフランス・ミステリーの世界 [ミステリー]

あけましておめでとうございます。
北品川藤クリニックの石原です。

今年もよろしくお願いします。

例年通りで今日から3日まで奈良に出掛ける予定です。

あまりお正月向きの話題ではないのですが、
今日はこちら。
その女アレックス.jpg
一昨年に最も注目を集めた翻訳ミステリー、
ピエール・ルメートルの「その女アレックス」を、
遅ればせながら読みました。

ルメートルはフランスのミステリー作家で、
これまでに3つの長編ミステリーと、
1つの普通小説が翻訳されています。

長編ミステリーを発表順で言うと、
「悲しみのイレーヌ」、
「死のドレスを花婿に」、
そしてこの「その女アレックス」ということになります。

このうち、
「悲しみのイレーヌ」の続編が「その女アレックス」で、
この2作はシリーズものですが、
「死のドレスを花婿に」は独立したノンシリーズです。

僕は年代順に3作品を読みましたが、
矢張り「その女アレックス」が抜群で、
この作品は警察小説やサスペンスの色々な要素を、
うまく1つにまとめていて、
一見水と油のような要素が、
巧みに結び付いて、
それが意外性となって読む者を魅了するのです。

特にラストの趣向は、
シリーズ物の警察小説の定番のものなのですが、
前半を読んでいる限り、
とてもこんな趣向に結び付くとは思えないので、
ある種のカタルシスがあるのです。

ただ、正直それ以外の2作品は、
標準的なフランス産ミステリーという感じで、
意外性も不発に終わっていると思いますし、
悪趣味で悪乗りの割に、
辻褄が合わないところが多いので、
あまり感心はしませんでした。

週間文春のミステリーのベスト10では、
「その女アレックス」に続いて、
今年は「悲しみのイレーヌ」がベスト1に輝いているのですが、
これは明らかに前年の作品に引きずられた結果で、
アンケート集計形式のベスト10の、
悪いところが出ていると思います。
とても、1位になるような作品ではないからです。

フランスのミステリーは、
かなり昔から欧米のミステリーに、
影響されているようなところがあるのですが、
それでも独特の屈折した感じや、
倒錯的なエロスの描写、
意外にトリッキーな部分などがあって、
僕は昔から大好きな世界です。

黄金時代のトリッキーなステーマンもいいですし、
ダークなノワールのシムノン、
絶望感満載のサスペンスのアルレーやモンテイエ、
トリックや叙述ミステリーとサスペンスを融合させた、
ボアロー&ナルスジャックやジャプリゾ、
コミカルな技巧派エクスブライヤ、
カーを敬愛する新本格派のアルテなど、
多士済々なのです。

そのフランスミステリーの名人の列に加わるには、
まだ何となく未知数の感じもあるのですが、
今後も翻訳紹介の継続をお願いしたいと思います。

これから読まれる方には、
どちらかと言えば「その女アレックス」のみを、
最初から読まれることをお勧めします。

それではそろそろ出掛けます。

今年が皆さんにとって良い年でありますように。

石原がお送りしました。

秋吉理香子「聖母」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
毎年一回の恒例で、
今日明日と福井に行きます。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
聖母.jpg
比較的新進のミステリー作家の、
秋吉理香子さんの新作です。

帯には「ラスト20ページ、世界は一変する。」
と叙述トリックとどんでん返しが大好きな僕には、
とても魅力的なコピーが踊っていて、
絶賛の声には「イニシエーション・ラブ」に並ぶ衝撃、
などと書かれているので、
どうせがっかりの尻すぼみなのではないかしら、
とは思ったものの、
騙されて読んでしまいました。

週刊ポスト誌に作者のインタビュー記事が載せられていて、
従来のミステリーのどんでん返しには不満があり、
あまりこれまでの作品を参考にはせずに、
独自のストーリーを目指した、
というような趣旨のことが書かれていたので、
より興味を持ったのです。

と言うのも、
叙述ミステリーというものにも、
幾つかのパターンがあって、
ほぼ全て書き尽くされている感があり、
これまでにない発想の叙述ミステリーというようなものには、
滅多に出くわすことはないからです。

叙述ミステリーというのは、
作品の記述そのものにトリックがあり、
読者の先入観を最後にひっくり返して、
予想外の世界に読者を誘うミステリーの1ジャンルで、
バシッと決まった時の破壊力と衝撃は抜群です。

ただ、そのパターンは大雑把に言えば、
人物をずらすか時間をずらすかのどちらかなので、
それが分かってしまうと、
なかなか新鮮な驚きには出会えなくなってしまうのです。

実際に読んでみると、
そう悪くはなかったのですが、
これまでにある2つのパターンを組み合わせた、
一種のバリエーションで、
あまり目新しい感じではなかったので、
少しガッカリしました。

特に小ネタの1つは、
あまりにありきたりなものなので、
これはやらない方が良かったのでは、
と思いました。

最後の大ネタがばれにくくなるように、
小ネタでカモフラージュしているのですが、
最初からその部分は見え見えなので、
どうも逆効果であったような気がします。

この作品はこの作者の長編3作目で、
これまでの2作品もどんでん返しのあるラストで仰天のミステリー、
ということだったので、
意外に前の作品の方が面白いのかも知れない、
と思って、そちらも読んでみました。

処女作は女子高の文芸サークルの闇鍋パーティで、
不在のヒロインについての短編小説を、
皆が披露してゆくうちに…
という話で、
アイリッシュの「晩餐後の物語」と、
バークリーの「毒入りチョコレート事件」をミックスしたような作品でした。
ラストもありきたりでビックリするようなものではなく、
展開もモタモタしていて退屈でした。
これはまずお薦め出来ません。

2作目は崖から落ちた高校生の、
魂が入れ替わって自分を突き落とした犯人探しをする、
というオヤオヤな感じの青春ミステリーで、
いずれも映画を元にしたと思しき、
2つのひねりがあって、
処女作よりは仕掛けは練れていました。
ただ、超自然現象を重ねるのは、
構成として如何なものかと思いましたし、
すぐに映画を連想してしまうので、
新味はありませんでした。

と言う訳で、
これまでの3作品の中では、
この「聖母」が一番のお薦めで、
帯の煽り文句は過大表現だと思いますが、
まずまず破綻なく書けていて、
一読の値打ちはあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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